後先見ずのトランプ ― 2024年12月02日 17:42
【概要】
アンドリュー・コリブコ氏の記事では、トランプ元大統領がBRICS諸国に対して課した脅威と、BRICS諸国によるドル依存の削減(いわゆる「脱ドル化」)に関する誤解について論じられている。トランプ氏は、BRICSが新通貨を創設したり、ドルの代替通貨を支援したりする場合、これらの国々に対して100%の関税を課すと警告している。しかし、この脅威が誤解に基づくものであると主張している。
ロシアのプーチン大統領は、ドルを嫌悪しているわけではなく、むしろ利便性のためにドルを再び使用したいと述べている。しかし、アメリカがロシアに対して一方的に課した制裁により、ドル決済が不可能になったため、ロシアは必要に迫られて他の金融手段を開発することとなった。プーチン氏自身が9月の東方経済フォーラムやBRICS記者との会談、さらにBRICS首脳会議後の記者会見で述べた内容によると、ロシアは意図的に脱ドル化を進めているわけではなく、アメリカの制裁措置がロシアをそのような状況に追い込んだという立場である。
さらに、プーチン氏はアメリカがドルに依存する現状を維持することなく、むしろその基盤を破壊していると批判している。彼は、ドルの使用が減少していることを認めつつも、それが徐々に進行しているだけであり、すぐにドルの支配が崩れるわけではないと述べている。
BRICSが新しい通貨を導入する計画も、加盟国の通貨がドルを置き換える可能性も現時点ではないと指摘している。ただし、BRICS諸国が国内通貨をより頻繁に使用しているのは事実であり、それはロシアへの制裁回避が主な動機となっている。特に中国やインドがロシアの割安なエネルギーを輸入する際にドル以外の決済手段を利用していることが、脱ドル化の動きを促進している。
トランプ氏の政策について、記事では以下のように提案している。もしトランプ氏がロシアへの主要な制裁を解除すれば、中国やインドは元のドル中心の貿易に戻る可能性がある。この過程では、例えばスイスの破産手続きで売却される可能性のあるノルドストリーム・プロジェクトを米国企業が購入し、それをきっかけにドイツを含む欧州諸国へのロシア産エネルギー輸入を再開することが挙げられる。この場合、ドルやSWIFTを利用した取引が復活する可能性がある。
ただし、制裁解除はアメリカ国内外での政治的圧力に直面する可能性があり、特にロシアがウクライナ紛争で重大な譲歩を行うことは期待しにくい。プーチン氏もすべてのウクライナ領土から撤退するような要求には応じない見込みである。
最終的に、脱ドル化の進展がアメリカの覇権に潜在的な脅威をもたらすが、現時点ではドルの支配を脅かす段階には達していないと結論づけている。それでも、トランプ氏が制裁を段階的に解除することで、この動きを鈍化させる可能性があるとも述べている。
【詳細】
トランプ元大統領がBRICS諸国に対して抱いている誤解と、それに基づく政策的脅威についてさらに掘り下げて論じている。以下、主なポイントを詳述する。
背景
BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は新興経済国の連合であり、アメリカ主導の国際経済システムへの対抗策を模索していると広く見られている。特に、ドル依存からの脱却、いわゆる「脱ドル化」がその中心的テーマの一つとして注目されている。これに対し、トランプ氏はBRICSが新たな通貨を創設する、あるいはドルの代替通貨を支援する動きを見せた場合、それらの国々に対し100%の関税を課すという措置を講じると発表した。
しかし、記事が指摘する通り、実際にはBRICS諸国間で新通貨の具体的な計画は存在せず、脱ドル化はもっぱら必要に迫られて行われているものである。これは特にロシアが西側諸国の制裁によりドル決済を利用できなくなったことが主因であり、意図的な戦略というよりも、制裁への対応策にすぎない。
プーチン大統領の立場
ロシアのプーチン大統領は、ドルを廃する政策を公式には追求していないと明言している。彼の主張を以下のように整理できる。
ドル決済の必要性
プーチン氏は、ロシアがドルを使えなくなったのはアメリカ側の制裁によるものであり、ロシア自体がドルを拒絶したわけではないと述べている。ドル決済は利便性が高く、国際貿易において効率的であるため、可能であれば再び使用したいとの意向を示している。
制裁の影響
アメリカがドルの使用を制限したことにより、ロシアだけでなく世界中の国々が「ドルの信頼性」に疑問を抱き始めた。これにより、ドルの使用が徐々に減少しているが、その影響は長期的であり、短期間での大きな変化は期待できない。
アメリカの誤算
プーチン氏は、アメリカが制裁を通じてドルの基盤を自ら破壊していると批判している。ドルはアメリカの国力の一つの象徴であるが、過剰な政治的利用により、他国がドルの代替手段を模索する結果を招いている。
BRICSの実際の状況
BRICSが新通貨を発行する予定も、現行のドル体制を脅かす計画もないと説明している。以下の点が重要である。
1.国家通貨の使用増加
BRICS諸国はドルの代替として、各国の通貨を利用する取引を増加させている。これは特に、ロシアから輸入されるエネルギーや農産品の決済において顕著である。しかし、これらの動きはあくまで制裁を回避するための「一時的措置」であり、ドルの完全な代替を目指しているわけではない。
2.技術的・経済的制約
新たな通貨を創設することは、巨大な技術的および経済的負担を伴う。また、BRICS各国はそれぞれ経済的な利害が異なり、新通貨に対する合意を形成するのは困難である。
トランプ氏の脅威の評価
トランプ氏の100%関税の脅威について、以下のように評価している。
1.誤解に基づく政策
トランプ氏は、BRICSがドルを排除し、新通貨を導入する計画を進めていると誤解している。実際には、これらの動きは存在せず、BRICS諸国がドルを利用できなくなった結果として生じた「消極的な脱ドル化」に過ぎない。
2.逆効果の可能性
仮にトランプ氏がBRICS諸国に高関税を課せば、これらの国々が一層ドルからの脱却を進め、アメリカ経済に逆風を招く可能性がある。
解決策
脱ドル化の動きを鈍化させるためにはアメリカ自身の政策変更が必要であると述べている。具体的には以下が提案されている。
1.制裁の段階的解除
アメリカがロシアに対する制裁を徐々に解除すれば、BRICS諸国は再びドルを利用した取引に戻る可能性がある。特に、中国やインドがロシアのエネルギーをドルで購入することが復活すれば、脱ドル化の流れを抑制できる。
2.信頼回復の難しさ
ただし、一度損なわれたドルへの信頼は完全には回復しない。制裁の濫用により、世界の国々がドル依存を見直す動きは続くだろう。
3.段階的な戦略調整
制裁解除に際しては、ロシアがウクライナ問題で譲歩することが条件となる可能性がある。これにより、アメリカの対外的な威信を保ちながら、ドル体制の維持を図る余地が生まれる。
結論
BRICS諸国による新通貨の導入やドルの置き換えは、現時点では実現性が低い。しかし、制裁により脱ドル化の動きが加速しているのも事実である。アメリカがこの流れを抑制するには、自国の政策、特に制裁の見直しを検討する必要があると記事は結論付けている。トランプ氏の関税脅威は、こうした現実を誤解したものであり、逆効果を招く恐れがあると警告している。
【要点】
1.トランプ氏の主張
・BRICS諸国がドルの代替通貨を創設または支援する場合、100%関税を課すと脅威。
・BRICSがドルを排除し、新通貨導入を計画していると誤解。
2.BRICSの実態
・新通貨創設やドルの完全置き換えの具体的な計画は存在しない。
・国家通貨の利用拡大は、制裁回避のための消極的対応。
・技術的・経済的制約や加盟国間の利害の違いから、新通貨は現実的でない。
3.プーチン大統領の見解
・ロシアはドルを拒否していないが、制裁によりドル決済が不可能になった。
・ドル決済は利便性が高いため、可能なら再利用を希望。
・アメリカの制裁がドルへの信頼を損ない、世界的な脱ドル化の動きを加速させている。
4.脱ドル化の現状
・中国とインドはロシアからのエネルギー輸入に国家通貨を使用。
・脱ドル化は制裁の影響で加速しているが、短期的にドルの支配を脅かす状況ではない。
5.トランプ氏の政策の問題点
・BRICSの動向を誤解しており、100%関税は逆効果を招く可能性。
・高関税によりBRICS諸国がさらにドル依存を回避する恐れがある。
6.解決策の提案
・制裁を段階的に解除することでBRICS諸国を再びドル決済に戻す。
・特に中国とインドがロシア産エネルギーをドルで購入する状況を復活させるべき。
・制裁解除にはロシアの譲歩(例：ウクライナ問題の解決)が必要となる可能性。
7.結論
・脱ドル化の動きは長期的な課題だが、現在のドル支配を直ちに脅かすものではない。
・アメリカは制裁濫用の見直しと信頼回復を通じて、脱ドル化の流れを鈍化させる必要がある。
・トランプ氏の関税脅威は、現実を誤解した政策であり、再検討が求められる。
【引用・参照・底本】
Trump’s Threats Against BRICS Are Based On False Premises Andrew Korybko's Newsletter 2024.12.02
https://korybko.substack.com/p/trumps-threats-against-brics-are?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=152432353&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
アンドリュー・コリブコ氏の記事では、トランプ元大統領がBRICS諸国に対して課した脅威と、BRICS諸国によるドル依存の削減(いわゆる「脱ドル化」)に関する誤解について論じられている。トランプ氏は、BRICSが新通貨を創設したり、ドルの代替通貨を支援したりする場合、これらの国々に対して100%の関税を課すと警告している。しかし、この脅威が誤解に基づくものであると主張している。
ロシアのプーチン大統領は、ドルを嫌悪しているわけではなく、むしろ利便性のためにドルを再び使用したいと述べている。しかし、アメリカがロシアに対して一方的に課した制裁により、ドル決済が不可能になったため、ロシアは必要に迫られて他の金融手段を開発することとなった。プーチン氏自身が9月の東方経済フォーラムやBRICS記者との会談、さらにBRICS首脳会議後の記者会見で述べた内容によると、ロシアは意図的に脱ドル化を進めているわけではなく、アメリカの制裁措置がロシアをそのような状況に追い込んだという立場である。
さらに、プーチン氏はアメリカがドルに依存する現状を維持することなく、むしろその基盤を破壊していると批判している。彼は、ドルの使用が減少していることを認めつつも、それが徐々に進行しているだけであり、すぐにドルの支配が崩れるわけではないと述べている。
BRICSが新しい通貨を導入する計画も、加盟国の通貨がドルを置き換える可能性も現時点ではないと指摘している。ただし、BRICS諸国が国内通貨をより頻繁に使用しているのは事実であり、それはロシアへの制裁回避が主な動機となっている。特に中国やインドがロシアの割安なエネルギーを輸入する際にドル以外の決済手段を利用していることが、脱ドル化の動きを促進している。
トランプ氏の政策について、記事では以下のように提案している。もしトランプ氏がロシアへの主要な制裁を解除すれば、中国やインドは元のドル中心の貿易に戻る可能性がある。この過程では、例えばスイスの破産手続きで売却される可能性のあるノルドストリーム・プロジェクトを米国企業が購入し、それをきっかけにドイツを含む欧州諸国へのロシア産エネルギー輸入を再開することが挙げられる。この場合、ドルやSWIFTを利用した取引が復活する可能性がある。
ただし、制裁解除はアメリカ国内外での政治的圧力に直面する可能性があり、特にロシアがウクライナ紛争で重大な譲歩を行うことは期待しにくい。プーチン氏もすべてのウクライナ領土から撤退するような要求には応じない見込みである。
最終的に、脱ドル化の進展がアメリカの覇権に潜在的な脅威をもたらすが、現時点ではドルの支配を脅かす段階には達していないと結論づけている。それでも、トランプ氏が制裁を段階的に解除することで、この動きを鈍化させる可能性があるとも述べている。
【詳細】
トランプ元大統領がBRICS諸国に対して抱いている誤解と、それに基づく政策的脅威についてさらに掘り下げて論じている。以下、主なポイントを詳述する。
背景
BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は新興経済国の連合であり、アメリカ主導の国際経済システムへの対抗策を模索していると広く見られている。特に、ドル依存からの脱却、いわゆる「脱ドル化」がその中心的テーマの一つとして注目されている。これに対し、トランプ氏はBRICSが新たな通貨を創設する、あるいはドルの代替通貨を支援する動きを見せた場合、それらの国々に対し100%の関税を課すという措置を講じると発表した。
しかし、記事が指摘する通り、実際にはBRICS諸国間で新通貨の具体的な計画は存在せず、脱ドル化はもっぱら必要に迫られて行われているものである。これは特にロシアが西側諸国の制裁によりドル決済を利用できなくなったことが主因であり、意図的な戦略というよりも、制裁への対応策にすぎない。
プーチン大統領の立場
ロシアのプーチン大統領は、ドルを廃する政策を公式には追求していないと明言している。彼の主張を以下のように整理できる。
ドル決済の必要性
プーチン氏は、ロシアがドルを使えなくなったのはアメリカ側の制裁によるものであり、ロシア自体がドルを拒絶したわけではないと述べている。ドル決済は利便性が高く、国際貿易において効率的であるため、可能であれば再び使用したいとの意向を示している。
制裁の影響
アメリカがドルの使用を制限したことにより、ロシアだけでなく世界中の国々が「ドルの信頼性」に疑問を抱き始めた。これにより、ドルの使用が徐々に減少しているが、その影響は長期的であり、短期間での大きな変化は期待できない。
アメリカの誤算
プーチン氏は、アメリカが制裁を通じてドルの基盤を自ら破壊していると批判している。ドルはアメリカの国力の一つの象徴であるが、過剰な政治的利用により、他国がドルの代替手段を模索する結果を招いている。
BRICSの実際の状況
BRICSが新通貨を発行する予定も、現行のドル体制を脅かす計画もないと説明している。以下の点が重要である。
1.国家通貨の使用増加
BRICS諸国はドルの代替として、各国の通貨を利用する取引を増加させている。これは特に、ロシアから輸入されるエネルギーや農産品の決済において顕著である。しかし、これらの動きはあくまで制裁を回避するための「一時的措置」であり、ドルの完全な代替を目指しているわけではない。
2.技術的・経済的制約
新たな通貨を創設することは、巨大な技術的および経済的負担を伴う。また、BRICS各国はそれぞれ経済的な利害が異なり、新通貨に対する合意を形成するのは困難である。
トランプ氏の脅威の評価
トランプ氏の100%関税の脅威について、以下のように評価している。
1.誤解に基づく政策
トランプ氏は、BRICSがドルを排除し、新通貨を導入する計画を進めていると誤解している。実際には、これらの動きは存在せず、BRICS諸国がドルを利用できなくなった結果として生じた「消極的な脱ドル化」に過ぎない。
2.逆効果の可能性
仮にトランプ氏がBRICS諸国に高関税を課せば、これらの国々が一層ドルからの脱却を進め、アメリカ経済に逆風を招く可能性がある。
解決策
脱ドル化の動きを鈍化させるためにはアメリカ自身の政策変更が必要であると述べている。具体的には以下が提案されている。
1.制裁の段階的解除
アメリカがロシアに対する制裁を徐々に解除すれば、BRICS諸国は再びドルを利用した取引に戻る可能性がある。特に、中国やインドがロシアのエネルギーをドルで購入することが復活すれば、脱ドル化の流れを抑制できる。
2.信頼回復の難しさ
ただし、一度損なわれたドルへの信頼は完全には回復しない。制裁の濫用により、世界の国々がドル依存を見直す動きは続くだろう。
3.段階的な戦略調整
制裁解除に際しては、ロシアがウクライナ問題で譲歩することが条件となる可能性がある。これにより、アメリカの対外的な威信を保ちながら、ドル体制の維持を図る余地が生まれる。
結論
BRICS諸国による新通貨の導入やドルの置き換えは、現時点では実現性が低い。しかし、制裁により脱ドル化の動きが加速しているのも事実である。アメリカがこの流れを抑制するには、自国の政策、特に制裁の見直しを検討する必要があると記事は結論付けている。トランプ氏の関税脅威は、こうした現実を誤解したものであり、逆効果を招く恐れがあると警告している。
【要点】
1.トランプ氏の主張
・BRICS諸国がドルの代替通貨を創設または支援する場合、100%関税を課すと脅威。
・BRICSがドルを排除し、新通貨導入を計画していると誤解。
2.BRICSの実態
・新通貨創設やドルの完全置き換えの具体的な計画は存在しない。
・国家通貨の利用拡大は、制裁回避のための消極的対応。
・技術的・経済的制約や加盟国間の利害の違いから、新通貨は現実的でない。
3.プーチン大統領の見解
・ロシアはドルを拒否していないが、制裁によりドル決済が不可能になった。
・ドル決済は利便性が高いため、可能なら再利用を希望。
・アメリカの制裁がドルへの信頼を損ない、世界的な脱ドル化の動きを加速させている。
4.脱ドル化の現状
・中国とインドはロシアからのエネルギー輸入に国家通貨を使用。
・脱ドル化は制裁の影響で加速しているが、短期的にドルの支配を脅かす状況ではない。
5.トランプ氏の政策の問題点
・BRICSの動向を誤解しており、100%関税は逆効果を招く可能性。
・高関税によりBRICS諸国がさらにドル依存を回避する恐れがある。
6.解決策の提案
・制裁を段階的に解除することでBRICS諸国を再びドル決済に戻す。
・特に中国とインドがロシア産エネルギーをドルで購入する状況を復活させるべき。
・制裁解除にはロシアの譲歩(例：ウクライナ問題の解決)が必要となる可能性。
7.結論
・脱ドル化の動きは長期的な課題だが、現在のドル支配を直ちに脅かすものではない。
・アメリカは制裁濫用の見直しと信頼回復を通じて、脱ドル化の流れを鈍化させる必要がある。
・トランプ氏の関税脅威は、現実を誤解した政策であり、再検討が求められる。
【引用・参照・底本】
Trump’s Threats Against BRICS Are Based On False Premises Andrew Korybko's Newsletter 2024.12.02
https://korybko.substack.com/p/trumps-threats-against-brics-are?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=152432353&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
