ロシア・インドの軍事協力の深化2024年12月11日 17:40

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【概要】

 ロシアとインドの防衛関係は、時代の変化に伴い進化を続けている。記事では、両国の軍事技術的協力が変化しているものの、それが戦略的パートナーシップを損なうものではなく、外国の影響、特にアメリカや中国の影響によるものでもないことを強調している。この変化は、多極化する国際情勢に適応する自然な発展である。

 2024年12月にインドのラージナート・シン国防相がロシアを訪問したことは、両国の長年にわたる戦略的関係が進化していることを示している。2024年3月に指摘されたように、両国の関係は従来の軍事中心の枠組みを超え、インドがロシアとの貿易赤字を是正するために輸出を拡大しようとする方向に移行している。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の最新の国際兵器移転に関する報告書でも、インドが以前よりロシアからの武器輸入を減少させていることが述べられている。

 それにもかかわらず、ロシアはインドの「Make In India」政策を支援し、軍事装備の国内生産において主要なパートナーとなる見込みである。ロシア製カラシニコフAK-203ライフルやブラモス超音速巡航ミサイルのインド国内生産と輸出可能性は、こうした協力の具体例である。一方で、ロシアは一部の装備を自国で生産し続けており、例えば多用途ステルス誘導ミサイルフリゲート艦の7隻目をインドに引き渡すためにシン国防相が訪問した。このシリーズの8隻目は2025年にロシアで完成予定であり、9隻目と10隻目はインドで建造される計画である。現在、両国間では200以上の防衛プロジェクトが進行中である。

 さらに、インドによるロシア製品の購入は増加傾向にあり、ロシアの高官によれば、過去6か月間でインドがロシア製武器と装備の輸出に占める割合は15%増加した。この数字は、ロシアがインドに提供する予定のVoronezhシリーズ長距離レーダーシステムの契約が締結されれば、さらに増加する見込みである。このシステムは約40億ドルと見積もられ、弾道ミサイルや航空機を最大8,000キロメートルの距離で追跡可能であり、インドの軍事力を一層強化する。

 また、ロシアはインドにS-400防空システムの最後の2バッテリーを2025年中に納入する予定であり、これによってインドは中国やパキスタンなど隣国からの脅威に対応できる世界水準の防空システムを構築することになる。インドは2024年10月のカザンで開催されたBRICSサミット直前に中国との問題を一時的に解決したものの、国家安全保障の責務を軽視することなく、あらゆる可能性に備える姿勢を維持している。

 ロシアの中国およびパキスタンとの戦略的関係は、インドとの関係を犠牲にするものではない。これらの国々は、ロシアがインドを支援する一方で、自国とも関係を深めることを認めている。ロシアの意図は、インドの抑止力を強化することであり、中国やパキスタンに対する攻撃を促すものではない。

 これらの事実は、ロシアがインドの安全を確保し、中国やパキスタンとの関係を維持しながらも、これらの関係がインドとの戦略的関係を損なわないことを示している。また、ロシア、インド、中国、パキスタンが共通の利益として多極化の促進を目指している一方で、それぞれが異なる立場や関係を持っているという現代の国際関係の複雑さを浮き彫りにしている。

 最後に、両国の防衛関係の進化について、西側メディアがラージナート・シン国防相の訪問に先立って報じた「インドがロシア製武器から離れる」という主張は、SIPRIの報告書を遅れて文脈を無視して取り上げたものにすぎない。この変化は、戦略的パートナーシップを損なうものではなく、自然な発展であり、多極化の流れに沿ったものである。

【詳細】

 ロシアとインドの防衛関係について、さらなる詳細を以下に説明する。

 背景と歴史的文脈

 ロシアとインドの防衛協力は、冷戦期にソ連とインドの戦略的パートナーシップとして始まった。特に、インドが1960年代から軍事装備をソ連から輸入するようになって以来、この関係は深化した。ソ連崩壊後も、ロシアはインドにとって最大の武器供給国としての地位を維持してきた。両国の防衛関係は、単なる供給者と購入者の関係を超え、共同開発や技術移転を含む包括的な協力体制に進化している。

 最近の進化の背景

 近年、インドは国防装備の輸入依存を減らし、自国での生産を強化する「Make In India」政策を推進している。この政策のもとで、ロシアは重要なパートナーとみなされており、武器の共同生産や技術移転が加速している。例えば、AK-203ライフルやブラモス超音速巡航ミサイルのインド国内生産は、こうした政策の一環である。また、これらの製品は輸出可能な設計となっており、インドの軍事産業の国際的な地位向上に寄与している。

 具体的なプロジェクトと進展

 1.多用途フリゲート艦の建造

 ロシアがインド向けに建造した多用途ステルス誘導ミサイルフリゲート艦の7隻目が最近引き渡され、8隻目は2025年に完成予定である。これに続いて、9隻目と10隻目はインド国内で建造される予定であり、インドの造船技術向上にもつながる。このプロジェクトは両国の技術共有を象徴するものである。

 2.Voronezh長距離レーダーシステム

 ロシアは、最大8,000キロメートルの範囲で弾道ミサイルや航空機を追跡可能なVoronezhシリーズ長距離レーダーシステムをインドに提供する契約を進めている。このシステムは約40億ドルの価値があり、インドの防空能力を大幅に強化する。特に、このレーダーシステムはS-400防空システムと組み合わせることで、インドの空域防衛能力を飛躍的に向上させる。

 3.S-400防空システムの配備

 インドは2018年にS-400防空システムを5基購入する契約を締結し、そのうち3基がすでに納入されている。残りの2基は2025年中に引き渡される予定である。これにより、インドは中国やパキスタンからの空中脅威に対する防衛を一層強化することが可能になる。

 4.共同開発プロジェクトの進行状況
両国は200以上の防衛プロジェクトを進行中であり、これには高性能戦闘機や新型潜水艦の共同開発も含まれる。これらのプロジェクトは、インドの軍事産業基盤を強化し、同国の防衛自主性を高めるものとして位置づけられている。

 戦略的文脈

 インドがロシアとの防衛協力を深化させる一方で、中国およびパキスタンとの緊張が継続している。インドの防衛政策は、これらの隣国からの潜在的脅威に備えることを目的としている。例えば、S-400やVoronezhシステムは、インドの西部(パキスタン方面)と東部(中国方面)の両方に配備される見込みである。

 一方で、ロシアは中国およびパキスタンとも戦略的関係を維持している。このことは、ロシアが多極的な世界秩序の構築を目指し、各国とバランスの取れた関係を追求していることを示している。ロシアはインドに武器を供給する一方で、中国やパキスタンへの安全保障上の脅威を増大させる意図はなく、むしろ地域の抑止力を高めるために協力している。

 西側メディアの見解と誤解

 一部の西側メディアは、インドがロシア製兵器から距離を置き、アメリカや他国製の兵器にシフトしているとの見解を示している。しかし、これはSIPRIの報告を文脈を無視して取り上げたものであり、実態とは異なる。インドがロシア製兵器の輸入を減少させている理由は、自国での生産能力を向上させる政策に基づいている。この変化は、ロシアとインドの戦略的パートナーシップの弱体化ではなく、新しい形態への進化を示している。

 結論

 ロシアとインドの防衛関係は、単なる兵器の輸出入の枠を超え、共同開発や技術移転を伴う包括的な協力体制へと進化している。この変化は、多極化する国際秩序の中で、両国が自国の安全保障と経済的利益を追求する自然な過程である。この関係の進化は、インドの防衛自主性の強化とロシアの国際的影響力の維持に寄与し、両国の戦略的利益を調和させるものである。

【要点】 

 ロシアとインドの防衛協力に関する要点

 1.歴史的背景

 ・冷戦期からソ連との戦略的パートナーシップが始まり、ロシアが最大の武器供給国として継続的に関与。
 ・ソ連崩壊後も共同開発や技術移転を含む協力体制に発展。

 2.近年の「Make In India」政策

 ・インドは武器の輸入依存を減らし、国内生産を推進。
 ・ロシアはAK-203ライフルやブラモス巡航ミサイルの共同生産を支援。

 3.具体的なプロジェクト

 ・フリゲート艦建造:7隻目を納入済み、9・10隻目はインド国内で建造予定。
 ・Voronezhレーダー:約40億ドルの長距離防空レーダーを提供中。
 ・S-400防空システム:5基中3基を納入済み、残り2基は2025年配備予定。
 ・共同開発:戦闘機・潜水艦など200以上のプロジェクトを進行中。

 4.戦略的意義

 ・中国・パキスタンへの抑止力強化が目的。
 ・両国の協力は地域の安全保障とバランス維持に寄与。

 5.西側メディアの見解と実態

 ・西側メディアはインドの武器調達がロシアから離れていると主張。
 ・実態はインドの国内生産強化を反映したものであり、協力は継続中。

 6.意義と結論

 ・両国の関係は進化しており、インドの防衛自主性向上とロシアの影響力維持に貢献。
 ・防衛協力は地域の安定と多極化する世界秩序の中で重要な役割を果たしている。

【引用・参照・底本】

Russian-Indian Defense Ties Are Evolving With The Times Andrew Korybko's Newsletter 2024.12.10
https://korybko.substack.com/p/russian-indian-defense-ties-are-evolving?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=152882066&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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