WTO改革 ― 2025年06月04日 22:14
【概要】
2025年6月3日、フランス・パリで開催された世界貿易機関(WTO)閣僚会合の傍ら、中国のWang Wentao(ワン・ウェンタオ)商務部長は、WTOのンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長と会談を行った。中国商務部が翌4日に発表した声明によれば、両者は世界貿易の厳しい現状とWTO改革に関して踏み込んだ意見交換を行った。
Wang部長は、一部加盟国による恣意的な関税措置に対し、WTOが単独的な関税措置に対する監督を強化すべきであり、中立かつ客観的な政策提言を行う必要があると強調した。また、関連国がWTOルールを順守し、二国間貿易の枠組みが他の加盟国の利益を損なうことのないよう求めた。
さらに、Wang部長は多国間貿易体制の維持に対する中国の揺るぎない支持を表明し、WTOがグローバル経済ガバナンスにおいてより大きな役割を果たすべきであると述べた。
WTO第14回閣僚会議(MC14)に向けては、農業および開発分野における成果の達成を重視すべきであると中国は主張している。
WTO改革に関しては、中国は以下の事項を支持している。
・紛争解決メカニズムの早期正常化
・より柔軟で効率的かつ責任ある合意形成プロセスの探求
・水産補助金、投資円滑化、電子商取引に関する協定の早期発効
・貿易と環境、サプライチェーンの強靭性、人工知能(AI)に関する新たな議論の開始
加えて、WTO事務局長のオコンジョ=イウェアラ氏は6月4日、自身のX(旧Twitter)アカウントにて、中国との間で「後発開発途上国(LDCs)および加盟促進プログラム」に関する了解覚書(MOU)を更新したと投稿した。
本会談は、中国が多国間主義と国際貿易ルールへの支持を継続して表明し、WTOの制度的機能の強化と改革の推進に積極的な姿勢を示すものとなった。
【詳細】
会談の概要
2025年6月3日、中国の商務部長・Wang Wentao(ワン・ウェンタオ)は、フランス・パリで開催されたWTO閣僚級会合の傍らで、WTO事務局長・ンゴジ・オコンジョ=イウェアラと会談した。この会談は、世界的に貿易摩擦や保護主義的な動きが強まる中、WTOの機能回復と制度改革を巡って、主要加盟国の間で協議が続けられているという背景を持つ。
背景と時期的文脈
近年、米国など一部先進国が国家安全保障や経済的優位性を理由に、WTOルールを無視した一方的な関税措置を相次いで導入しており、これが多国間貿易体制への深刻な挑戦となっている。こうした中、中国はWTOルールに基づく多国間主義の擁護者としての立場を強調している。
また、WTOの中核的機能の一つである「紛争解決制度(Dispute Settlement Mechanism)」は、上級委員会(Appellate Body)の機能不全が続いており、紛争処理が実質的に停止している状況である。この点も会談の重要テーマとなった。
Wang Wentao部長の主張の詳細
1. 恣意的な関税措置に対する批判と監督強化の要求
Wang部長は、「特定の加盟国が恣意的に関税を課す行為」に懸念を示し、WTOがそのような単独措置に対する監督責任を強化し、中立的かつ客観的な政策提言を行うべきであると主張した。
・意図:名指しは避けているが、主に米国の対中制裁関税などを念頭に置いていると考えられる。
・目的:WTOの権威を通じて一方的な制裁措置を抑止し、WTOのルール遵守を国際的に促す狙い。
2. 二国間協定に対する透明性と規範の遵守
Wang部長は、各国が独自に締結する二国間・地域間の貿易協定についても、WTOルールとの整合性を保ち、他の加盟国の利益を損なわないようにすべきと訴えた。
・文脈:米国などがWTOを回避する形で新たな経済圏構想(IPEF等)を推進する傾向に対抗。
・意味合い:WTOを「グローバルな共通ルール」として再認識させようとする働きかけ。
WTO改革に対する中国の立場と提案
1. 紛争解決制度の早期回復
・上級委員会が機能不全に陥っているため、紛争の最終判断ができない状況が続いている。
・中国はこの制度の「正常な機能回復」を最優先課題と位置づけ、迅速な制度改革を求めている。
2. 意思決定メカニズムの改善
・現在のWTOは全会一致主義で合意形成が進みにくい。
・中国は「より柔軟・効率的かつ責任ある合意形成方式」の導入を提案している。
⇨ 例えば、一定の加盟国多数による合意制度(プルリラテラル・アプローチ)の容認など。
3. 重要協定の早期発効
中国は以下の分野の合意内容の早期発効を支持:
・水産補助金協定:過剰漁獲・違法漁業防止のための補助金制限。
・投資円滑化協定:透明で予測可能な投資環境の構築。
・電子商取引協定:国境を越えたデジタル取引に関する国際ルールの整備。
4. 新たな議論の開始提案
中国は、以下の新興課題についてもWTO内での議論開始を提唱。
・貿易と環境
・サプライチェーンの強靭性(地政学的リスクへの対応)
・人工知能(AI)の貿易への影響
LDC支援に関するMOUの更新
WTOのオコンジョ=イウェアラ事務局長は、自身のSNS(X)で、中国との間で**「後発開発途上国(LDCs)および加盟促進支援プログラム」に関する了解覚書(MOU)**を更新したと発表した。
・意味合い:中国がWTOを通じた南南協力や開発途上国支援に引き続き積極的であることを示す。
・象徴性:WTO改革と並行して「包摂性」や「開発の公平性」も重視する立場の表明。
総合評価
本会談は、WTOの制度的機能の回復と、グローバル貿易秩序の再構築に向けて中国が積極的な役割を果たす意思を示したものである。中国は、保護主義や経済的一極主義に対抗する形で、「ルールに基づく多国間体制の擁護者」としての姿勢を強めており、WTO改革においても中心的なステークホルダーとして関与していく方針である。
また、LDC支援のMOU更新を通じて、「開発」をキーワードとした道義的責任も強調しており、単なる経済大国としてではなく「責任ある大国」としての立場を内外に印象づけた内容となっている。
【要点】
会談の基本情報
・日付・場所:2025年6月3日、フランス・パリ(WTO閣僚会合の傍らで実施)
・出席者
⇨ 中国商務部長・Wang Wentao(ワン・ウェンタオ)
⇨ WTO事務局長・ンゴジ・オコンジョ=イウェアラ
Wang Wentao部長の主張と提言
(1)一方的な関税措置への対応
・一部加盟国が恣意的に関税を課している現状に懸念を表明
・WTOに対し、単独的な関税措置に対する監督を強化し、中立・客観的な政策提言を行うよう要請
・二国間貿易協定もWTOルールに整合させるべきと強調
・他国の利益を損なう一方的な貿易行動を抑制すべきと主張
(2)WTO制度の擁護と強化
・多国間貿易体制の維持と発展に中国は引き続き尽力する方針を明言
・WTOがグローバル経済ガバナンスの中核として機能するよう強化を訴える
WTO改革に対する中国の具体的提案
(1)紛争解決制度(DSB)の正常化
・現在機能不全にある上級委員会の早期復旧を支持
・公平な貿易紛争解決を可能にする制度の回復が不可欠と強調
(2)合意形成の効率化
・全会一致主義の限界を指摘し、
⇨ 「柔軟・効率的・責任ある合意形成方式」の導入を提案
⇨ 例:プルリラテラル(多国間但し全加盟国参加不要)協定など
(3)主要分野の協定発効促進
以下の協定の早期発効を支持。
⇨ 水産補助金協定
⇨ 投資円滑化協定
⇨ 電子商取引協定
(4)新たな協議分野の提起
・WTO内で以下の分野の協議を新たに開始すべきと提案。
⇨ 貿易と環境
⇨ サプライチェーンの強靭性
⇨ 人工知能(AI)と貿易
LDC(後発開発途上国)支援に関する覚書(MOU)
・WTO事務局長オコンジョ=イウェアラ氏がX(旧Twitter)で発表
・中国とWTOが「LDCおよび加盟促進プログラム」支援の覚書を更新
・中国が開発途上国支援に引き続き積極的に関与する姿勢を明示
全体的評価と意義
・中国は「責任ある大国」として多国間主義・制度的貿易秩序の維持に積極姿勢を表明
・一方的措置に対抗し、WTOの権威と機能の回復を重視
・開発問題・デジタル経済・環境問題にも積極的に関与する意思を示した
・WTO改革において中国が中心的なステークホルダーであることをアピール
【桃源寸評】💚
現況の要約
米国は依然としてWTOの最大の経済・財政的貢献国の一つであるにもかかわらず、近年は制度的な枠組みに対して懐疑的かつ選択的な態度を取り、WTOの機能不全をもたらす一因となっている。他方で、制度改革を求める圧力の中で、米国の存在は依然としてWTO改革のカギを握る存在でもある。
批判的視点:米国の問題的態度と行動
1. 紛争解決制度(DSB)上級委員の任命拒否
・米国は2019年以降、WTOの上級委員(Appellate Body)の任命を一貫して拒否し続け、制度の機能不全(de facto麻痺)を招いている。
・表向きの理由は「上級委員の越権的解釈・手続きの透明性欠如」だが、実質的には米国が自国に不利な判決を回避したいという意図が背景にある。
・この行動はWTOの法的秩序とルールベースの貿易体制を深刻に損なっており、「ルールの守護者」を自任していた米国の信頼性を低下させている。
2. WTOルールを無視した一方的な貿易措置
・特にトランプ政権下(2017–2021)では、「国家安全保障」を口実に中国・EU・カナダなどに高関税を課し、WTOに通知や協議もせず一方的・恣意的な措置を繰り返した。
・バイデン政権下でもそれらの多くが継続または固定化されており、国際貿易ルールよりも国内政治と産業保護を優先する傾向が続いている。
3. 多国間主義よりプルリラテラリズム(選別的多国間主義)を優先
・米国はWTOでの合意形成を忌避し、IPEF(インド太平洋経済枠組)など、自国が主導しやすい場に重きを置いている。
・WTOの「全加盟国コンセンサス」モデルより、より柔軟な「志を同じくする国」同士の枠組みに軸足を移しつつある。
建設的視点:改革に向けた米国の潜在的貢献と役割
1. 制度改革の推進力としての影響力
・米国の問題提起の中には、手続きの透明性向上、時間の短縮、越権的判断の抑制といった妥当な懸念も含まれており、WTO改革の重要な論点を提供している。
・他国も米国の要求の一部には同意しており、制度改善に向けた出発点として活用可能である。
2. 新分野(デジタル貿易、AI、環境)の議論推進役
・米国は、電子商取引・AI・環境と貿易の関係といったWTOの新たな交渉分野において、技術・サービス・基準のリーダーとして主導的立場をとり得る。
・こうした分野では中国や他の新興国との建設的競争を通じて、国際ルール形成を主導しうる。
3. LDC(後発開発途上国)支援や包摂性向上の推進
・米国はWTOにおけるLDC支援や女性の経済参加促進など、包摂的な成長に関する議題にも一定の支援を行っており、こうした分野での協調は可能である。
提言:WTOにおける米国の関与再構築のために
1.上級委員会の改革的再建を主導すべき
・手続きと権限の見直しを前提としつつ、紛争解決制度の正常化に向けて米国が妥協と提案を提示すべきである。
2.一方的措置ではなく制度内手続きを活用すべき
・安全保障を理由とした関税もWTOルールとの整合性を確保する形で扱うべきであり、透明性のある対話を重視すべきである。
3.制度改革と新分野交渉の「二正面作戦」
・制度的改革(DSBなど)と、新たな交渉アジェンダ(デジタル・AI・環境)を同時並行で推進し、国際的信頼を再構築すべきである。
総括
米国は、WTOにとって最も影響力がありながら、最も制度に批判的かつ選択的な関与をしている矛盾した存在である。
その一方で、米国が関与しなければWTOの制度改革や新ルール形成は前進し得ないという現実もある。
したがって、「制度批判」から「制度変革の主体」への転換を促すことが、WTOと国際社会にとって建設的な道である。米国の建設的関与の回復こそ、WTO再生の鍵を握る。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Chinese Commerce Minister meets WTO Director-General, urging WTO to strengthen oversight of unilateral tariffs arbitrarily imposed by certain member GT 2025.06.04
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335369.shtml
2025年6月3日、フランス・パリで開催された世界貿易機関(WTO)閣僚会合の傍ら、中国のWang Wentao(ワン・ウェンタオ)商務部長は、WTOのンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長と会談を行った。中国商務部が翌4日に発表した声明によれば、両者は世界貿易の厳しい現状とWTO改革に関して踏み込んだ意見交換を行った。
Wang部長は、一部加盟国による恣意的な関税措置に対し、WTOが単独的な関税措置に対する監督を強化すべきであり、中立かつ客観的な政策提言を行う必要があると強調した。また、関連国がWTOルールを順守し、二国間貿易の枠組みが他の加盟国の利益を損なうことのないよう求めた。
さらに、Wang部長は多国間貿易体制の維持に対する中国の揺るぎない支持を表明し、WTOがグローバル経済ガバナンスにおいてより大きな役割を果たすべきであると述べた。
WTO第14回閣僚会議(MC14)に向けては、農業および開発分野における成果の達成を重視すべきであると中国は主張している。
WTO改革に関しては、中国は以下の事項を支持している。
・紛争解決メカニズムの早期正常化
・より柔軟で効率的かつ責任ある合意形成プロセスの探求
・水産補助金、投資円滑化、電子商取引に関する協定の早期発効
・貿易と環境、サプライチェーンの強靭性、人工知能(AI)に関する新たな議論の開始
加えて、WTO事務局長のオコンジョ=イウェアラ氏は6月4日、自身のX(旧Twitter)アカウントにて、中国との間で「後発開発途上国(LDCs)および加盟促進プログラム」に関する了解覚書(MOU)を更新したと投稿した。
本会談は、中国が多国間主義と国際貿易ルールへの支持を継続して表明し、WTOの制度的機能の強化と改革の推進に積極的な姿勢を示すものとなった。
【詳細】
会談の概要
2025年6月3日、中国の商務部長・Wang Wentao(ワン・ウェンタオ)は、フランス・パリで開催されたWTO閣僚級会合の傍らで、WTO事務局長・ンゴジ・オコンジョ=イウェアラと会談した。この会談は、世界的に貿易摩擦や保護主義的な動きが強まる中、WTOの機能回復と制度改革を巡って、主要加盟国の間で協議が続けられているという背景を持つ。
背景と時期的文脈
近年、米国など一部先進国が国家安全保障や経済的優位性を理由に、WTOルールを無視した一方的な関税措置を相次いで導入しており、これが多国間貿易体制への深刻な挑戦となっている。こうした中、中国はWTOルールに基づく多国間主義の擁護者としての立場を強調している。
また、WTOの中核的機能の一つである「紛争解決制度(Dispute Settlement Mechanism)」は、上級委員会(Appellate Body)の機能不全が続いており、紛争処理が実質的に停止している状況である。この点も会談の重要テーマとなった。
Wang Wentao部長の主張の詳細
1. 恣意的な関税措置に対する批判と監督強化の要求
Wang部長は、「特定の加盟国が恣意的に関税を課す行為」に懸念を示し、WTOがそのような単独措置に対する監督責任を強化し、中立的かつ客観的な政策提言を行うべきであると主張した。
・意図:名指しは避けているが、主に米国の対中制裁関税などを念頭に置いていると考えられる。
・目的:WTOの権威を通じて一方的な制裁措置を抑止し、WTOのルール遵守を国際的に促す狙い。
2. 二国間協定に対する透明性と規範の遵守
Wang部長は、各国が独自に締結する二国間・地域間の貿易協定についても、WTOルールとの整合性を保ち、他の加盟国の利益を損なわないようにすべきと訴えた。
・文脈:米国などがWTOを回避する形で新たな経済圏構想(IPEF等)を推進する傾向に対抗。
・意味合い:WTOを「グローバルな共通ルール」として再認識させようとする働きかけ。
WTO改革に対する中国の立場と提案
1. 紛争解決制度の早期回復
・上級委員会が機能不全に陥っているため、紛争の最終判断ができない状況が続いている。
・中国はこの制度の「正常な機能回復」を最優先課題と位置づけ、迅速な制度改革を求めている。
2. 意思決定メカニズムの改善
・現在のWTOは全会一致主義で合意形成が進みにくい。
・中国は「より柔軟・効率的かつ責任ある合意形成方式」の導入を提案している。
⇨ 例えば、一定の加盟国多数による合意制度(プルリラテラル・アプローチ)の容認など。
3. 重要協定の早期発効
中国は以下の分野の合意内容の早期発効を支持:
・水産補助金協定:過剰漁獲・違法漁業防止のための補助金制限。
・投資円滑化協定:透明で予測可能な投資環境の構築。
・電子商取引協定:国境を越えたデジタル取引に関する国際ルールの整備。
4. 新たな議論の開始提案
中国は、以下の新興課題についてもWTO内での議論開始を提唱。
・貿易と環境
・サプライチェーンの強靭性(地政学的リスクへの対応)
・人工知能(AI)の貿易への影響
LDC支援に関するMOUの更新
WTOのオコンジョ=イウェアラ事務局長は、自身のSNS(X)で、中国との間で**「後発開発途上国(LDCs)および加盟促進支援プログラム」に関する了解覚書(MOU)**を更新したと発表した。
・意味合い:中国がWTOを通じた南南協力や開発途上国支援に引き続き積極的であることを示す。
・象徴性:WTO改革と並行して「包摂性」や「開発の公平性」も重視する立場の表明。
総合評価
本会談は、WTOの制度的機能の回復と、グローバル貿易秩序の再構築に向けて中国が積極的な役割を果たす意思を示したものである。中国は、保護主義や経済的一極主義に対抗する形で、「ルールに基づく多国間体制の擁護者」としての姿勢を強めており、WTO改革においても中心的なステークホルダーとして関与していく方針である。
また、LDC支援のMOU更新を通じて、「開発」をキーワードとした道義的責任も強調しており、単なる経済大国としてではなく「責任ある大国」としての立場を内外に印象づけた内容となっている。
【要点】
会談の基本情報
・日付・場所:2025年6月3日、フランス・パリ(WTO閣僚会合の傍らで実施)
・出席者
⇨ 中国商務部長・Wang Wentao(ワン・ウェンタオ)
⇨ WTO事務局長・ンゴジ・オコンジョ=イウェアラ
Wang Wentao部長の主張と提言
(1)一方的な関税措置への対応
・一部加盟国が恣意的に関税を課している現状に懸念を表明
・WTOに対し、単独的な関税措置に対する監督を強化し、中立・客観的な政策提言を行うよう要請
・二国間貿易協定もWTOルールに整合させるべきと強調
・他国の利益を損なう一方的な貿易行動を抑制すべきと主張
(2)WTO制度の擁護と強化
・多国間貿易体制の維持と発展に中国は引き続き尽力する方針を明言
・WTOがグローバル経済ガバナンスの中核として機能するよう強化を訴える
WTO改革に対する中国の具体的提案
(1)紛争解決制度(DSB)の正常化
・現在機能不全にある上級委員会の早期復旧を支持
・公平な貿易紛争解決を可能にする制度の回復が不可欠と強調
(2)合意形成の効率化
・全会一致主義の限界を指摘し、
⇨ 「柔軟・効率的・責任ある合意形成方式」の導入を提案
⇨ 例:プルリラテラル(多国間但し全加盟国参加不要)協定など
(3)主要分野の協定発効促進
以下の協定の早期発効を支持。
⇨ 水産補助金協定
⇨ 投資円滑化協定
⇨ 電子商取引協定
(4)新たな協議分野の提起
・WTO内で以下の分野の協議を新たに開始すべきと提案。
⇨ 貿易と環境
⇨ サプライチェーンの強靭性
⇨ 人工知能(AI)と貿易
LDC(後発開発途上国)支援に関する覚書(MOU)
・WTO事務局長オコンジョ=イウェアラ氏がX(旧Twitter)で発表
・中国とWTOが「LDCおよび加盟促進プログラム」支援の覚書を更新
・中国が開発途上国支援に引き続き積極的に関与する姿勢を明示
全体的評価と意義
・中国は「責任ある大国」として多国間主義・制度的貿易秩序の維持に積極姿勢を表明
・一方的措置に対抗し、WTOの権威と機能の回復を重視
・開発問題・デジタル経済・環境問題にも積極的に関与する意思を示した
・WTO改革において中国が中心的なステークホルダーであることをアピール
【桃源寸評】💚
現況の要約
米国は依然としてWTOの最大の経済・財政的貢献国の一つであるにもかかわらず、近年は制度的な枠組みに対して懐疑的かつ選択的な態度を取り、WTOの機能不全をもたらす一因となっている。他方で、制度改革を求める圧力の中で、米国の存在は依然としてWTO改革のカギを握る存在でもある。
批判的視点:米国の問題的態度と行動
1. 紛争解決制度(DSB)上級委員の任命拒否
・米国は2019年以降、WTOの上級委員(Appellate Body)の任命を一貫して拒否し続け、制度の機能不全(de facto麻痺)を招いている。
・表向きの理由は「上級委員の越権的解釈・手続きの透明性欠如」だが、実質的には米国が自国に不利な判決を回避したいという意図が背景にある。
・この行動はWTOの法的秩序とルールベースの貿易体制を深刻に損なっており、「ルールの守護者」を自任していた米国の信頼性を低下させている。
2. WTOルールを無視した一方的な貿易措置
・特にトランプ政権下(2017–2021)では、「国家安全保障」を口実に中国・EU・カナダなどに高関税を課し、WTOに通知や協議もせず一方的・恣意的な措置を繰り返した。
・バイデン政権下でもそれらの多くが継続または固定化されており、国際貿易ルールよりも国内政治と産業保護を優先する傾向が続いている。
3. 多国間主義よりプルリラテラリズム(選別的多国間主義)を優先
・米国はWTOでの合意形成を忌避し、IPEF(インド太平洋経済枠組)など、自国が主導しやすい場に重きを置いている。
・WTOの「全加盟国コンセンサス」モデルより、より柔軟な「志を同じくする国」同士の枠組みに軸足を移しつつある。
建設的視点:改革に向けた米国の潜在的貢献と役割
1. 制度改革の推進力としての影響力
・米国の問題提起の中には、手続きの透明性向上、時間の短縮、越権的判断の抑制といった妥当な懸念も含まれており、WTO改革の重要な論点を提供している。
・他国も米国の要求の一部には同意しており、制度改善に向けた出発点として活用可能である。
2. 新分野(デジタル貿易、AI、環境)の議論推進役
・米国は、電子商取引・AI・環境と貿易の関係といったWTOの新たな交渉分野において、技術・サービス・基準のリーダーとして主導的立場をとり得る。
・こうした分野では中国や他の新興国との建設的競争を通じて、国際ルール形成を主導しうる。
3. LDC(後発開発途上国)支援や包摂性向上の推進
・米国はWTOにおけるLDC支援や女性の経済参加促進など、包摂的な成長に関する議題にも一定の支援を行っており、こうした分野での協調は可能である。
提言:WTOにおける米国の関与再構築のために
1.上級委員会の改革的再建を主導すべき
・手続きと権限の見直しを前提としつつ、紛争解決制度の正常化に向けて米国が妥協と提案を提示すべきである。
2.一方的措置ではなく制度内手続きを活用すべき
・安全保障を理由とした関税もWTOルールとの整合性を確保する形で扱うべきであり、透明性のある対話を重視すべきである。
3.制度改革と新分野交渉の「二正面作戦」
・制度的改革(DSBなど)と、新たな交渉アジェンダ(デジタル・AI・環境)を同時並行で推進し、国際的信頼を再構築すべきである。
総括
米国は、WTOにとって最も影響力がありながら、最も制度に批判的かつ選択的な関与をしている矛盾した存在である。
その一方で、米国が関与しなければWTOの制度改革や新ルール形成は前進し得ないという現実もある。
したがって、「制度批判」から「制度変革の主体」への転換を促すことが、WTOと国際社会にとって建設的な道である。米国の建設的関与の回復こそ、WTO再生の鍵を握る。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Chinese Commerce Minister meets WTO Director-General, urging WTO to strengthen oversight of unilateral tariffs arbitrarily imposed by certain member GT 2025.06.04
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335369.shtml
李在明新大統領 ― 2025年06月04日 23:14
【概要】
大統領就任と選挙結果
李在明氏は2025年6月4日水曜日に韓国の新大統領として宣誓した。同氏は韓国の多数派を占めるリベラル系政党である共に民主党に所属し、水曜日に国家選挙管理委員会の開票結果により大統領に選出された。
国家選挙管理委員会のデータによると、深夜の時点で開票率94.4%において、李氏は48.8%の票を獲得し、主要な対立候補である保守系の国民の力党のKim Moon-soo(キム・ムンス)氏は42.0%の票を獲得した。報道機関によると、残りの未開票票がすべて金氏に投じられたとしても、李氏が大統領補欠選挙で勝利することが確定した。
JTBCおよびKBS、MBC、SBSの地上波3社を含むローカル放送局は、李氏が韓国の第21代大統領に確実に選出されると以前から予測していた。李氏は午前6時21分に大統領に就任した。これは、国家選挙管理委員会が全体会議で彼の勝利を承認したことによる。
大統領就任の背景と課題
今回の選挙は、戒厳令を布告しようとして失脚した尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の後任を選ぶための即日選挙であったため、李氏は移行期間なしで直ちに大統領に就任した。
李氏は水曜日、国会で勝利演説を行い、歴史的な選挙勝利を受けて、民主主義の回復、経済の再生、公共の安全確保、朝鮮半島の平和追求を誓った。また、国家の団結と政治的対立の終結を求め、権威主義を拒否し、経済停滞に立ち向かい、北朝鮮との対話を再開することを誓った。
ロイター通信によると、李氏は、戒厳令の試みによって深く傷ついた国の修復から、主要な貿易相手国であり安全保障同盟国である米国による予測不可能な保護主義的な動きへの対処まで、過去30年間の韓国の指導者にとって最も困難な課題に直面する可能性がある。
李在明氏の政治的背景と外交政策
京畿道知事や城南市長を務めた61歳の李氏は、長年にわたり政治において非常に分裂的な人物であったと報じられている。幼少期に工場労働者として働いた経験を持ち、貧困から成功を収めた感動的な物語で知られる李氏は、同国の保守的な体制に対する痛烈な批判と、外交政策においてより自己主張の強い韓国を構築するとの呼びかけによって有名になった。このレトリックにより、彼は国の根深い経済的不平等と腐敗を改革し、解決できる人物というイメージを持たれている。
李氏は、尹前大統領の価値観に基づく外交から韓国の外交政策を転換することを公に提唱しており、その代わりに中国とロシアとの関係を再調整することを求めている。これは、両国との深い経済的相互依存と地理的近接性を強調している。
韓国メディアによると、李氏は、韓国と米国との同盟を戦略的な礎石とし、ワシントンおよび東京との3国間の安全保障協力の重要性を認識しながらも、これまで一貫して、北京やモスクワとの関係を犠牲にするような二者択一の選択に押し込められることを拒否している。
【詳細】
李在明(イ・ジェミョン)氏の韓国大統領就任について、さらに詳細な情報を以下にまとめる。
大統領就任の詳細
李在明氏は2025年6月4日午前6時21分に大統領に就任した。これは、前大統領の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が戒厳令を布告しようとして失脚したことにより、火曜日に急遽行われた補欠選挙の結果を受けたものである。通常の大統領選挙とは異なり、移行期間が設けられず、即座に職務に就いた。
李氏の勝利は、開票率94.4%の時点で、対立候補のKim Moon-soo(キム・ムンス)氏に48.8%対42.0%という差をつけ、確定した。これにより、彼は韓国の第21代大統領となった。
大統領としての公約と課題
大統領就任演説で、李氏は以下の主要な公約を掲げた。
・民主主義の回復: 前大統領の失脚が「民主主義の危機」と見なされる中で、民主主義の基盤を再構築することを約束した。
・経済の再生: 経済停滞への「正面からの戦い」を宣言し、景気後退の脅威に対処するための緊急対策本部の設置を表明した。これには、経済活動を刺激するための積極的な政府支出も含まれる。
・公共の安全確保: 市民の安全を最優先事項と位置づけた。
・朝鮮半島の平和追求: 北朝鮮との対話チャンネルを開き、対話と協力による朝鮮半島の平和確立を目指すとした。ただし、北朝鮮の核の脅威と軍事侵略には、確固たる米韓同盟に基づく「強力な抑止力」で対処するとも述べた。一方で、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記との早期の首脳会談は「非常に困難」であると認識しており、過去の文在寅(ムン・ジェイン)前大統領のような北朝鮮への民族主義的な熱意は持たないとされている。
・国家の団結と政治的対立の終結: 国内の政治的二極化を解消し、国民の融和を呼びかけた。
・権威主義の拒否: 権威主義的な政治手法を排することを明言した。
・経済的不平等の是正: 所得格差の是正を公約し、特にソウル首都圏と地方の発展格差の是正に取り組む姿勢を示した。彼の過去の政策には、限定的なベーシックインカムのような政策も含まれる。
李氏は、米国との関係において、従来の保守派の立場と大きく異ならない「実用的な外交」を追求すると表明している。米韓同盟は「戦略的な礎石」として再確認し、米国と日本との三国間安全保障協力の重要性も認識している。しかし、中国やロシアとの関係を犠牲にするような二者択一的な選択には反対の姿勢を示している。これは、米国の保護主義的な動き(特に鉄鋼・アルミニウム製品への高関税)や、在韓米軍駐留費の負担増要求など、米国との間に生じる可能性のある摩擦に直面する中で、多角的な外交を模索する姿勢と見られる。
李在明氏の経歴
李在明氏は1963年12月8日に慶尚北道安東(アンドン)市で生まれた。幼少期は貧困の中で育ち、ゴム工場などで少年労働者として働いた経験がある。この時の労働災害で左腕に永久的な障害を負い、身体障害者として登録されている。その後、奨学金を得て中央大学校法学部に入学し、卒業後は人権派弁護士として活動した。特に、産業災害の被害者や都市再開発による立ち退き住民の権利擁護に尽力した。
政治キャリアの始まりは2006年の城南(ソンナム)市長選挙への出馬であったが、この時は落選した。2008年には国会議員選挙にも出馬したが、これも失敗に終わった。しかし、2010年に2度目の挑戦で城南市長に当選し、政治家としての道を切り開いた。城南市長としては2018年まで務めた。
2018年には、ソウルを囲む最も人口の多い広域自治体である京畿道(キョンギド)の知事に当選し、2021年までその職にあった。城南市長時代も京畿道知事時代も、普遍的ベーシックインカムなどの「ポピュリズム的」な経済政策を展開し、有権者以外の注目も集めた。
2022年の大統領選挙では、共に民主党の候補として出馬したが、尹錫悦氏に0.73%という韓国史上最も僅差で敗れた。しかし、その後の総選挙では共に民主党を大勝に導き、国会で多数議席を確保した。
李氏は、数々の政治的・個人的スキャンダルに直面しながらも、その政治的な回復力から「フェニックス」と呼ばれることもある。大統領就任後も、2022年の大統領選に関する選挙法違反の罪や、城南市長時代の収賄容疑など、少なくとも5つの法的案件が6月中に裁判所で審理される予定である。
京畿道と城南市について
・京畿道(キョンギド): 韓国の北西部に位置する道(広域自治体)で、首都ソウル特別市を囲んでいる。韓国で最も人口が多い地域であり、その名前は「首都を取り巻く土地」を意味する。道庁所在地は水原(スウォン)市。ソウルや仁川国際空港へのアクセスが良く、経済的にも重要な地域である。
・城南市(ソンナムシ): 京畿道に属する市で、ソウル特別市の南東に位置する衛星都市。韓国で初めて計画的に開発された都市であり、1970年代から80年代にかけて工業化を目的として、電子、繊維、石油化学などの施設が集積された。現在ではソウル首都圏のベッドタウンとしての性格が強く、人口約100万人の大都市である。多くのIT企業やゲーム会社が本社を置いていることでも知られる。
【要点】
李在明氏、韓国大統領に就任
・就任日: 2025年6月4日水曜日、韓国の第21代大統領に就任した。1
・選挙結果
➢共に民主党の候補として出馬し、**48.8%**の得票率で当選した。
➢主要な対立候補である国民の力党のKim Moon-soo氏は42.0%の得票率だった。
➢開票率94.4%の時点で勝利が確定した。
・即時就任
➢尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の失脚に伴う補欠選挙であったため、移行期間なしで直ちに大統領職に就いた。
➢尹前大統領は戒厳令を布告しようとして弾劾された。
大統領としての公約と課題
・主要公約
➢民主主義の回復: 前政権の混乱を受け、民主主義の立て直しを最優先とした。
➢経済再生: 経済停滞への対策を強化し、活性化を目指す。
➢公共の安全確保: 国民の安全を最重要視する。
➢朝鮮半島の平和: 北朝鮮との対話再開を模索し、朝鮮半島の平和構築を追求する。
➢国民の団結: 国内の政治的分裂を克服し、国民の融和を呼びかける。
➢権威主義の拒否: 権威主義的な政治手法を排除する。
➢経済格差是正: 所得や地域間の不平等の解消に取り組む。
・直面する課題
➢前大統領の弾劾で傷ついた国民感情の癒し。
➢米国の保護主義的な貿易政策への対応。
➢自身の過去の疑惑に関する複数の法的案件(選挙法違反や収賄容疑など)が、就任後も裁判所で審理される。
李在明氏の経歴
・出自: 貧しい家庭に生まれ、少年期には工場労働者として働いた経験を持つ。
・学歴・職歴: 奨学金で大学に進学し、人権派弁護士として活動した。
・政治家としてのキャリア:
➢城南(ソンナム)市長、京畿道(キョンギド)知事を歴任した。
➢2022年の大統領選挙では尹錫悦氏に僅差で敗れたが、その後も共に民主党のリーダーとして活動し、今回の補欠選挙で当選を果たした。
・政治スタイル:
➢既存の保守体制への批判や、より自己主張の強い外交を求める姿勢で知られる。
➢「ベーシックインカム」など、革新的な経済政策を提唱してきた。
➢「フェニックス」と呼ばれるほどの政治的な回復力を持つ。
【桃源寸評】💚
権威主義の拒否とは
李在明氏が掲げる「権威主義の拒否」とは、主に以下のような意味合いを含んでいると考えられる。
・独断的な政治運営の排除: 前任の尹錫悦大統領が戒厳令を布告しようとしたことなど、大統領が自らの権力を濫用し、国民の意見や議会の決定を無視して一方的に政策を進める手法を否定する姿勢である。これは、国民や議会の声に耳を傾け、より民主的で開かれた意思決定プロセスを重視することを意味する。
・国民の権利と自由の尊重: 権威主義的な政治は、個人の自由や言論の自由を制限しがちです。李氏は、国民の基本的な権利や自由を尊重し、政府がこれらを不当に侵害しないことを約束していると考えられる。
・透明性と説明責任の強化: 権威主義的な政治は、情報公開が不十分であったり、政治プロセスの透明性が欠けていたりすることがある。李氏は、政府運営の透明性を高め、国民に対する説明責任を果たすことを目指していると推測される。
特に、前大統領の突然の失脚が「権威主義的な行動」と見なされた背景があるため、李氏はこの点を明確に否定し、民主主義の原則に基づいた政治運営を行うことを強調していると言える。
北朝鮮に対する政策について
李氏は勝利演説で「朝鮮半島の平和追求」を公約しており、具体的には「北朝鮮との対話再開を模索し、対話と協力による朝鮮半島の平和構築を追求する」と述べている。
一方で、北朝鮮の核の脅威や軍事侵略に対しては、「確固たる米韓同盟に基づく強力な抑止力で対処する」とも表明している。
このことから、李氏の北朝鮮政策は以下の二つの側面を持つと考えられる。
・対話と協力の重視: 前政権に比べて、北朝鮮との対話チャンネルの再開を積極的に目指す姿勢である。これは、朝鮮半島の緊張緩和と平和構築には、軍事的圧力だけでなく、対話が不可欠であるという考えに基づいている。
・強力な抑止力の維持: 対話路線を追求しつつも、北朝鮮の核・ミサイル開発による脅威に対しては、米韓同盟を基盤とした強固な防衛体制を維持し、有事の際の抑止力を確保する方針である。
ただし、彼は金正恩総書記との早期の首脳会談は「非常に困難」であると認識しており、文在寅前大統領のような「民族主義的な熱意」は持たないともされている。これは、無条件での対話ではなく、現実的なアプローチを重視していることを示唆している。
「虻蜂取らず」の懸念について
李在明氏の「対話と抑止力の両立」という北朝鮮政策が「虻蜂取らず」になる可能性を指摘できる。
・北朝鮮の核保有理由: 北朝鮮は、自国の体制保証と安全保障のために核兵器を手放さないという強い信念を持っている。これは、過去のイラクやリビアの事例などを見ても、核兵器が自国の存立に不可欠であると彼らが考えているからである。このような認識を持つ相手に対して、対話と抑止力という二つの異なるアプローチを同時に追求することは、非常に困難なバランスが求められる。
・米国の傘下にあるソウル: 韓国は米韓同盟の下で、米国の核の傘によって安全保障を担保されている。この状況下で、韓国が独自に北朝鮮との関係改善を進めようとすると、時に米国の意向と衝突する可能性がある。米国は北朝鮮の非核化を最優先課題としているため、韓国が対話路線を強めれば、同盟関係に摩擦が生じることも考えられる。
これらの状況を考えると、李氏が掲げる「対話と協力」と「強力な抑止力」という二つの目標が、互いに矛盾し、どちらも成果を得られない「虻蜂取らず」の状態に陥る可能性は否定できない。
新大統領への期待が持てない理由
・現実との乖離: 北朝鮮の核問題は非常に根深く、核放棄のハードルは極めて高い。ソウルが米国の安全保障に依存している現実がある中で、対話だけで事態が好転するという楽観的な見方は難しい。
・過去の経験: これまでの韓国歴代政権も、北朝鮮との対話や協力、そして抑止力強化など、様々なアプローチを試みてきたが、根本的な解決には至っていない。この歴史を踏まえると、李氏の政策も結局は同じ道を辿るのではないかという懐疑的な見方が出てくるのは自然なことである。
・不透明な具体策: 現時点での李氏の政策表明は、理想的な目標を掲げている一方で、それを具体的にどのように実現するのか、特に北朝鮮が非核化に応じない場合の次の一手について、明確なロードマップが示されていない。
李大明氏がこの「虻蜂取らず」の懸念を払拭し、実効性のある政策を打ち出せるかどうかは、今後の彼の具体的な行動と、変化する国際情勢への対応にかかっている。
米韓関係の現状と北朝鮮問題への影響
現在の朝鮮半島情勢が米韓関係を基軸としている以上、米国が朝鮮半島から完全に撤退し、米韓相互防衛条約などの安保関連の枠組みが解消されない限り、北朝鮮の非核化や朝鮮半島の根本的な平和構築は極めて困難であり、李在明新大統領が「どうあがいても無理」である。
現在の朝鮮半島における安全保障の根幹は、依然として米韓同盟にある。
・米国の軍事プレゼンス: 韓国には在韓米軍が駐留し、米国の核の傘が提供されている。これは、北朝鮮だけでなく、地域全体の安全保障バランスに大きな影響を与えている。
・北朝鮮の核開発の動機: 北朝鮮が核兵器開発を続ける最大の理由の一つは、この米国の軍事プレゼンス、特に米韓同盟による「体制転換」のリスクを回避するためだと考えられている。彼らにとって、核兵器は「抑止力」であり、生存のための究極の保証なのである。
・非核化交渉の壁: 米国は北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」を要求しているが、北朝鮮は体制保証と経済制裁の解除が先行しない限り、核放棄に応じない姿勢を崩していない。この両者の溝は深く、米韓同盟の枠組みが維持される限り、北朝鮮が核を手放すインセンティブは非常に小さいと言わざるを得ない。
李在明大統領の課題
・李在明大統領が掲げる「対話と抑止力の両立」という政策は、この強固な米韓関係という枠組みの中で、非常に限定的な範囲でしか展開できない現実がある。
・同盟重視の限界: 李大統領が米韓同盟を「戦略的な礎石」と位置づけている以上、米国の非核化優先の原則から大きく逸脱した対北朝鮮政策を取ることは難しい。対話を進めようとしても、米国との足並みが揃わなければ、実効性のある成果を出すのは困難である。
・「虻蜂取らず」の現実: 米国の強力な抑止力に依存しつつ、同時に北朝鮮との関係改善を図るというアプローチは、北朝鮮にとっては「米国からの脅威」が取り除かれない限り、本質的な対話に応じる動機付けにはならない可能性がある。結果として、対話も進まず、非核化も達成できないという「虻蜂取らず」の状態に陥る危険性は依然として高いと言える。
結局のところ、北朝鮮の核問題は、単なる南北関係の問題ではなく、朝鮮半島を巡る米中ロを含む大国間の地政学的対立、そして北朝鮮自身の「体制保証」という根源的な問題が絡み合っている。米韓関係という盤石な安全保障体制が続く限り、韓国独自でこの状況を打破することは、至難の業である。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Lee Jae-myung sworn in as South Korea's 21st president GT 2025.06.04
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335379.shtml
大統領就任と選挙結果
李在明氏は2025年6月4日水曜日に韓国の新大統領として宣誓した。同氏は韓国の多数派を占めるリベラル系政党である共に民主党に所属し、水曜日に国家選挙管理委員会の開票結果により大統領に選出された。
国家選挙管理委員会のデータによると、深夜の時点で開票率94.4%において、李氏は48.8%の票を獲得し、主要な対立候補である保守系の国民の力党のKim Moon-soo(キム・ムンス)氏は42.0%の票を獲得した。報道機関によると、残りの未開票票がすべて金氏に投じられたとしても、李氏が大統領補欠選挙で勝利することが確定した。
JTBCおよびKBS、MBC、SBSの地上波3社を含むローカル放送局は、李氏が韓国の第21代大統領に確実に選出されると以前から予測していた。李氏は午前6時21分に大統領に就任した。これは、国家選挙管理委員会が全体会議で彼の勝利を承認したことによる。
大統領就任の背景と課題
今回の選挙は、戒厳令を布告しようとして失脚した尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の後任を選ぶための即日選挙であったため、李氏は移行期間なしで直ちに大統領に就任した。
李氏は水曜日、国会で勝利演説を行い、歴史的な選挙勝利を受けて、民主主義の回復、経済の再生、公共の安全確保、朝鮮半島の平和追求を誓った。また、国家の団結と政治的対立の終結を求め、権威主義を拒否し、経済停滞に立ち向かい、北朝鮮との対話を再開することを誓った。
ロイター通信によると、李氏は、戒厳令の試みによって深く傷ついた国の修復から、主要な貿易相手国であり安全保障同盟国である米国による予測不可能な保護主義的な動きへの対処まで、過去30年間の韓国の指導者にとって最も困難な課題に直面する可能性がある。
李在明氏の政治的背景と外交政策
京畿道知事や城南市長を務めた61歳の李氏は、長年にわたり政治において非常に分裂的な人物であったと報じられている。幼少期に工場労働者として働いた経験を持ち、貧困から成功を収めた感動的な物語で知られる李氏は、同国の保守的な体制に対する痛烈な批判と、外交政策においてより自己主張の強い韓国を構築するとの呼びかけによって有名になった。このレトリックにより、彼は国の根深い経済的不平等と腐敗を改革し、解決できる人物というイメージを持たれている。
李氏は、尹前大統領の価値観に基づく外交から韓国の外交政策を転換することを公に提唱しており、その代わりに中国とロシアとの関係を再調整することを求めている。これは、両国との深い経済的相互依存と地理的近接性を強調している。
韓国メディアによると、李氏は、韓国と米国との同盟を戦略的な礎石とし、ワシントンおよび東京との3国間の安全保障協力の重要性を認識しながらも、これまで一貫して、北京やモスクワとの関係を犠牲にするような二者択一の選択に押し込められることを拒否している。
【詳細】
李在明(イ・ジェミョン)氏の韓国大統領就任について、さらに詳細な情報を以下にまとめる。
大統領就任の詳細
李在明氏は2025年6月4日午前6時21分に大統領に就任した。これは、前大統領の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が戒厳令を布告しようとして失脚したことにより、火曜日に急遽行われた補欠選挙の結果を受けたものである。通常の大統領選挙とは異なり、移行期間が設けられず、即座に職務に就いた。
李氏の勝利は、開票率94.4%の時点で、対立候補のKim Moon-soo(キム・ムンス)氏に48.8%対42.0%という差をつけ、確定した。これにより、彼は韓国の第21代大統領となった。
大統領としての公約と課題
大統領就任演説で、李氏は以下の主要な公約を掲げた。
・民主主義の回復: 前大統領の失脚が「民主主義の危機」と見なされる中で、民主主義の基盤を再構築することを約束した。
・経済の再生: 経済停滞への「正面からの戦い」を宣言し、景気後退の脅威に対処するための緊急対策本部の設置を表明した。これには、経済活動を刺激するための積極的な政府支出も含まれる。
・公共の安全確保: 市民の安全を最優先事項と位置づけた。
・朝鮮半島の平和追求: 北朝鮮との対話チャンネルを開き、対話と協力による朝鮮半島の平和確立を目指すとした。ただし、北朝鮮の核の脅威と軍事侵略には、確固たる米韓同盟に基づく「強力な抑止力」で対処するとも述べた。一方で、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記との早期の首脳会談は「非常に困難」であると認識しており、過去の文在寅(ムン・ジェイン)前大統領のような北朝鮮への民族主義的な熱意は持たないとされている。
・国家の団結と政治的対立の終結: 国内の政治的二極化を解消し、国民の融和を呼びかけた。
・権威主義の拒否: 権威主義的な政治手法を排することを明言した。
・経済的不平等の是正: 所得格差の是正を公約し、特にソウル首都圏と地方の発展格差の是正に取り組む姿勢を示した。彼の過去の政策には、限定的なベーシックインカムのような政策も含まれる。
李氏は、米国との関係において、従来の保守派の立場と大きく異ならない「実用的な外交」を追求すると表明している。米韓同盟は「戦略的な礎石」として再確認し、米国と日本との三国間安全保障協力の重要性も認識している。しかし、中国やロシアとの関係を犠牲にするような二者択一的な選択には反対の姿勢を示している。これは、米国の保護主義的な動き(特に鉄鋼・アルミニウム製品への高関税)や、在韓米軍駐留費の負担増要求など、米国との間に生じる可能性のある摩擦に直面する中で、多角的な外交を模索する姿勢と見られる。
李在明氏の経歴
李在明氏は1963年12月8日に慶尚北道安東(アンドン)市で生まれた。幼少期は貧困の中で育ち、ゴム工場などで少年労働者として働いた経験がある。この時の労働災害で左腕に永久的な障害を負い、身体障害者として登録されている。その後、奨学金を得て中央大学校法学部に入学し、卒業後は人権派弁護士として活動した。特に、産業災害の被害者や都市再開発による立ち退き住民の権利擁護に尽力した。
政治キャリアの始まりは2006年の城南(ソンナム)市長選挙への出馬であったが、この時は落選した。2008年には国会議員選挙にも出馬したが、これも失敗に終わった。しかし、2010年に2度目の挑戦で城南市長に当選し、政治家としての道を切り開いた。城南市長としては2018年まで務めた。
2018年には、ソウルを囲む最も人口の多い広域自治体である京畿道(キョンギド)の知事に当選し、2021年までその職にあった。城南市長時代も京畿道知事時代も、普遍的ベーシックインカムなどの「ポピュリズム的」な経済政策を展開し、有権者以外の注目も集めた。
2022年の大統領選挙では、共に民主党の候補として出馬したが、尹錫悦氏に0.73%という韓国史上最も僅差で敗れた。しかし、その後の総選挙では共に民主党を大勝に導き、国会で多数議席を確保した。
李氏は、数々の政治的・個人的スキャンダルに直面しながらも、その政治的な回復力から「フェニックス」と呼ばれることもある。大統領就任後も、2022年の大統領選に関する選挙法違反の罪や、城南市長時代の収賄容疑など、少なくとも5つの法的案件が6月中に裁判所で審理される予定である。
京畿道と城南市について
・京畿道(キョンギド): 韓国の北西部に位置する道(広域自治体)で、首都ソウル特別市を囲んでいる。韓国で最も人口が多い地域であり、その名前は「首都を取り巻く土地」を意味する。道庁所在地は水原(スウォン)市。ソウルや仁川国際空港へのアクセスが良く、経済的にも重要な地域である。
・城南市(ソンナムシ): 京畿道に属する市で、ソウル特別市の南東に位置する衛星都市。韓国で初めて計画的に開発された都市であり、1970年代から80年代にかけて工業化を目的として、電子、繊維、石油化学などの施設が集積された。現在ではソウル首都圏のベッドタウンとしての性格が強く、人口約100万人の大都市である。多くのIT企業やゲーム会社が本社を置いていることでも知られる。
【要点】
李在明氏、韓国大統領に就任
・就任日: 2025年6月4日水曜日、韓国の第21代大統領に就任した。1
・選挙結果
➢共に民主党の候補として出馬し、**48.8%**の得票率で当選した。
➢主要な対立候補である国民の力党のKim Moon-soo氏は42.0%の得票率だった。
➢開票率94.4%の時点で勝利が確定した。
・即時就任
➢尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領の失脚に伴う補欠選挙であったため、移行期間なしで直ちに大統領職に就いた。
➢尹前大統領は戒厳令を布告しようとして弾劾された。
大統領としての公約と課題
・主要公約
➢民主主義の回復: 前政権の混乱を受け、民主主義の立て直しを最優先とした。
➢経済再生: 経済停滞への対策を強化し、活性化を目指す。
➢公共の安全確保: 国民の安全を最重要視する。
➢朝鮮半島の平和: 北朝鮮との対話再開を模索し、朝鮮半島の平和構築を追求する。
➢国民の団結: 国内の政治的分裂を克服し、国民の融和を呼びかける。
➢権威主義の拒否: 権威主義的な政治手法を排除する。
➢経済格差是正: 所得や地域間の不平等の解消に取り組む。
・直面する課題
➢前大統領の弾劾で傷ついた国民感情の癒し。
➢米国の保護主義的な貿易政策への対応。
➢自身の過去の疑惑に関する複数の法的案件(選挙法違反や収賄容疑など)が、就任後も裁判所で審理される。
李在明氏の経歴
・出自: 貧しい家庭に生まれ、少年期には工場労働者として働いた経験を持つ。
・学歴・職歴: 奨学金で大学に進学し、人権派弁護士として活動した。
・政治家としてのキャリア:
➢城南(ソンナム)市長、京畿道(キョンギド)知事を歴任した。
➢2022年の大統領選挙では尹錫悦氏に僅差で敗れたが、その後も共に民主党のリーダーとして活動し、今回の補欠選挙で当選を果たした。
・政治スタイル:
➢既存の保守体制への批判や、より自己主張の強い外交を求める姿勢で知られる。
➢「ベーシックインカム」など、革新的な経済政策を提唱してきた。
➢「フェニックス」と呼ばれるほどの政治的な回復力を持つ。
【桃源寸評】💚
権威主義の拒否とは
李在明氏が掲げる「権威主義の拒否」とは、主に以下のような意味合いを含んでいると考えられる。
・独断的な政治運営の排除: 前任の尹錫悦大統領が戒厳令を布告しようとしたことなど、大統領が自らの権力を濫用し、国民の意見や議会の決定を無視して一方的に政策を進める手法を否定する姿勢である。これは、国民や議会の声に耳を傾け、より民主的で開かれた意思決定プロセスを重視することを意味する。
・国民の権利と自由の尊重: 権威主義的な政治は、個人の自由や言論の自由を制限しがちです。李氏は、国民の基本的な権利や自由を尊重し、政府がこれらを不当に侵害しないことを約束していると考えられる。
・透明性と説明責任の強化: 権威主義的な政治は、情報公開が不十分であったり、政治プロセスの透明性が欠けていたりすることがある。李氏は、政府運営の透明性を高め、国民に対する説明責任を果たすことを目指していると推測される。
特に、前大統領の突然の失脚が「権威主義的な行動」と見なされた背景があるため、李氏はこの点を明確に否定し、民主主義の原則に基づいた政治運営を行うことを強調していると言える。
北朝鮮に対する政策について
李氏は勝利演説で「朝鮮半島の平和追求」を公約しており、具体的には「北朝鮮との対話再開を模索し、対話と協力による朝鮮半島の平和構築を追求する」と述べている。
一方で、北朝鮮の核の脅威や軍事侵略に対しては、「確固たる米韓同盟に基づく強力な抑止力で対処する」とも表明している。
このことから、李氏の北朝鮮政策は以下の二つの側面を持つと考えられる。
・対話と協力の重視: 前政権に比べて、北朝鮮との対話チャンネルの再開を積極的に目指す姿勢である。これは、朝鮮半島の緊張緩和と平和構築には、軍事的圧力だけでなく、対話が不可欠であるという考えに基づいている。
・強力な抑止力の維持: 対話路線を追求しつつも、北朝鮮の核・ミサイル開発による脅威に対しては、米韓同盟を基盤とした強固な防衛体制を維持し、有事の際の抑止力を確保する方針である。
ただし、彼は金正恩総書記との早期の首脳会談は「非常に困難」であると認識しており、文在寅前大統領のような「民族主義的な熱意」は持たないともされている。これは、無条件での対話ではなく、現実的なアプローチを重視していることを示唆している。
「虻蜂取らず」の懸念について
李在明氏の「対話と抑止力の両立」という北朝鮮政策が「虻蜂取らず」になる可能性を指摘できる。
・北朝鮮の核保有理由: 北朝鮮は、自国の体制保証と安全保障のために核兵器を手放さないという強い信念を持っている。これは、過去のイラクやリビアの事例などを見ても、核兵器が自国の存立に不可欠であると彼らが考えているからである。このような認識を持つ相手に対して、対話と抑止力という二つの異なるアプローチを同時に追求することは、非常に困難なバランスが求められる。
・米国の傘下にあるソウル: 韓国は米韓同盟の下で、米国の核の傘によって安全保障を担保されている。この状況下で、韓国が独自に北朝鮮との関係改善を進めようとすると、時に米国の意向と衝突する可能性がある。米国は北朝鮮の非核化を最優先課題としているため、韓国が対話路線を強めれば、同盟関係に摩擦が生じることも考えられる。
これらの状況を考えると、李氏が掲げる「対話と協力」と「強力な抑止力」という二つの目標が、互いに矛盾し、どちらも成果を得られない「虻蜂取らず」の状態に陥る可能性は否定できない。
新大統領への期待が持てない理由
・現実との乖離: 北朝鮮の核問題は非常に根深く、核放棄のハードルは極めて高い。ソウルが米国の安全保障に依存している現実がある中で、対話だけで事態が好転するという楽観的な見方は難しい。
・過去の経験: これまでの韓国歴代政権も、北朝鮮との対話や協力、そして抑止力強化など、様々なアプローチを試みてきたが、根本的な解決には至っていない。この歴史を踏まえると、李氏の政策も結局は同じ道を辿るのではないかという懐疑的な見方が出てくるのは自然なことである。
・不透明な具体策: 現時点での李氏の政策表明は、理想的な目標を掲げている一方で、それを具体的にどのように実現するのか、特に北朝鮮が非核化に応じない場合の次の一手について、明確なロードマップが示されていない。
李大明氏がこの「虻蜂取らず」の懸念を払拭し、実効性のある政策を打ち出せるかどうかは、今後の彼の具体的な行動と、変化する国際情勢への対応にかかっている。
米韓関係の現状と北朝鮮問題への影響
現在の朝鮮半島情勢が米韓関係を基軸としている以上、米国が朝鮮半島から完全に撤退し、米韓相互防衛条約などの安保関連の枠組みが解消されない限り、北朝鮮の非核化や朝鮮半島の根本的な平和構築は極めて困難であり、李在明新大統領が「どうあがいても無理」である。
現在の朝鮮半島における安全保障の根幹は、依然として米韓同盟にある。
・米国の軍事プレゼンス: 韓国には在韓米軍が駐留し、米国の核の傘が提供されている。これは、北朝鮮だけでなく、地域全体の安全保障バランスに大きな影響を与えている。
・北朝鮮の核開発の動機: 北朝鮮が核兵器開発を続ける最大の理由の一つは、この米国の軍事プレゼンス、特に米韓同盟による「体制転換」のリスクを回避するためだと考えられている。彼らにとって、核兵器は「抑止力」であり、生存のための究極の保証なのである。
・非核化交渉の壁: 米国は北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」を要求しているが、北朝鮮は体制保証と経済制裁の解除が先行しない限り、核放棄に応じない姿勢を崩していない。この両者の溝は深く、米韓同盟の枠組みが維持される限り、北朝鮮が核を手放すインセンティブは非常に小さいと言わざるを得ない。
李在明大統領の課題
・李在明大統領が掲げる「対話と抑止力の両立」という政策は、この強固な米韓関係という枠組みの中で、非常に限定的な範囲でしか展開できない現実がある。
・同盟重視の限界: 李大統領が米韓同盟を「戦略的な礎石」と位置づけている以上、米国の非核化優先の原則から大きく逸脱した対北朝鮮政策を取ることは難しい。対話を進めようとしても、米国との足並みが揃わなければ、実効性のある成果を出すのは困難である。
・「虻蜂取らず」の現実: 米国の強力な抑止力に依存しつつ、同時に北朝鮮との関係改善を図るというアプローチは、北朝鮮にとっては「米国からの脅威」が取り除かれない限り、本質的な対話に応じる動機付けにはならない可能性がある。結果として、対話も進まず、非核化も達成できないという「虻蜂取らず」の状態に陥る危険性は依然として高いと言える。
結局のところ、北朝鮮の核問題は、単なる南北関係の問題ではなく、朝鮮半島を巡る米中ロを含む大国間の地政学的対立、そして北朝鮮自身の「体制保証」という根源的な問題が絡み合っている。米韓関係という盤石な安全保障体制が続く限り、韓国独自でこの状況を打破することは、至難の業である。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Lee Jae-myung sworn in as South Korea's 21st president GT 2025.06.04
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335379.shtml
習近平国家主席:北京でルカシェンコ大統領と会談 ― 2025年06月04日 23:31
【概要】
2025年6月4日、中国の首都・北京において、中国の習近平国家主席は、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領と会談を行った。
習主席は、ルカシェンコ氏のベラルーシ大統領再選を改めて祝福した上で、中国とベラルーシは互いに誠意と信頼をもって接する真の友人であり、良きパートナーであると述べた。
習主席は、中国とベラルーシが長年にわたる伝統的友好関係、強固な政治的相互信頼、そしてあらゆる分野における協力の拡大という特徴を共有していると指摘した上で、中国は常に戦略的かつ長期的視点から中ベ関係を位置づけ、発展させてきたと語った。
さらに、中国はベラルーシと協力し、両国関係の着実な発展と互恵的な協力を推進していく意向であるとした。
習主席はまた、国連や上海協力機構(SCO)といった多国間枠組みにおける両国の協調と連携を一層強化し、覇権主義やいじめ行為に共同で反対し、国際的な公正と正義を守っていく必要性を強調した。
これに対し、今回が15回目の訪中となるルカシェンコ大統領は、これまでのすべての訪問において中国から誠実な友情を実感してきたと述べた。
ルカシェンコ大統領は、中国による長年にわたる強力な支援と援助に感謝を表明し、ベラルーシは中国に対して高い信頼を有しており、今後も積極的に協力を推進していく考えを示した。
また、中国が多国間主義を擁護し、一方的行動や制裁、圧力に反対する姿勢を貫いていることは世界の模範であると述べ、中国に対する敬意を示すとともに、中国と共に国際的な公正と正義を守っていく意思を表明した。
【詳細】
2025年6月4日、中国・北京において、中国国家主席である習近平氏は、ベラルーシ共和国の大統領アレクサンドル・ルカシェンコ氏と会談を行った。両首脳の会談は、外交関係の深化及び戦略的パートナーシップの確認を目的とするものであり、国際的な多国間枠組みにおける協力強化などが主要議題とされた。
冒頭、習近平主席は、ルカシェンコ大統領の再選に対し再度祝意を表した。中国側の立場として、ベラルーシを「真の友人」「良きパートナー」と位置づけ、両国間の関係は「誠意」と「信頼」に基づいていることを強調した。
習主席は、中国とベラルーシの間には、以下の3点において顕著な特徴があると述べた。
1.伝統的な友好関係
両国は長年にわたり、安定的な外交関係を維持しており、相互尊重に基づく伝統的友好を築いてきた。
2.強固な政治的相互信頼
両政府間では高いレベルの政治的信頼が構築されており、両国首脳の間でも定期的な対話が行われている。
3.各分野における協力の拡大
経済、貿易、インフラ、科学技術、人文交流など、幅広い分野において協力が進展している。
これを踏まえ、中国は中ベ関係を「戦略的」かつ「長期的視点」で捉えており、関係の安定的発展と互恵的な協力を引き続き推進していく意向を表明した。
加えて、習主席は多国間外交の文脈にも言及し、国連や上海協力機構(SCO)といった国際・地域組織においても、両国が連携を一層強化する必要性を強調した。具体的には、「覇権主義」「いじめ的行動(bullying)」に対して共同で反対し、「国際的な公平性と正義の擁護」を目指すことが提起された。
一方、ルカシェンコ大統領は、自身にとって今回が15回目の訪中となることを明らかにした上で、これまでの訪問すべてにおいて中国からの「真摯な友情」を感じ取ってきたと述べた。これにより、両国間の人的・情緒的なつながりの深さも示された形である。
またルカシェンコ大統領は、中国が長期にわたりベラルーシを支援してきたことに対して謝意を示し、ベラルーシとしては中国に対して「高度な信頼」を有していると述べた。そして今後も中国との協力関係を積極的に進める意思を明言した。
さらにルカシェンコ氏は、中国の国際姿勢についても言及し、中国が「多国間主義を擁護」し、「一方的行動や制裁、圧力に反対する」立場を貫いていることに対し、強い評価と敬意を表明した。これは、国際社会における中国の姿勢が、ベラルーシにとって模範的であるとの認識に基づくものである。
最後に、ルカシェンコ大統領は、中国と共に「国際的な公平性と正義を守る」ため、今後も協調していく決意を改めて表明した。
本会談は、両国の外交関係を再確認し、共通の国際的立場を強調する内容となっており、特に多国間協調と相互信頼に焦点が当てられた形である。
【要点】
会談の基本情報
・日時:2025年6月4日(水)
・場所:中華人民共和国・北京市
・出席者
中国国家主席・習近平
ベラルーシ共和国大統領・アレクサンドル・ルカシェンコ
・訪中の背景:ルカシェンコ大統領による15回目の訪中
習近平主席の発言・主張
・ルカシェンコ大統領の大統領再選を祝福。
・中国とベラルーシは「真の友人」「良きパートナー」であると表明。
・両国関係は以下の3点に基づいて構築されていると強調:
⇨ 伝統的友好関係
⇨ 強固な政治的相互信頼
⇨ 各分野での協力の拡大
・中国は、ベラルーシとの関係を戦略的かつ長期的視点から重視。
・今後も両国関係の着実な発展と互恵的協力を推進する意向を表明。
・国際舞台においても両国の協力強化を提案:
⇨ 国連や上海協力機構(SCO)などの多国間枠組みでの連携強化。
⇨ 「覇権主義」「いじめ行為(bullying)」への共同対抗。
⇨ 「国際的公平と正義」の擁護。
ルカシェンコ大統領の発言・主張
・今回が自身にとって15回目の訪中であり、誠実な友情を毎回感じていると表明。
・中国からの長期的な支援と援助に対し、感謝を述べる。
・ベラルーシは中国に対して高度な信頼を有しており、今後も協力を積極的に推進する意志を示す。
・国際問題に関する評価
⇨ 中国は「多国間主義を支持」し、「一方的行動・制裁・圧力」に反対する立場を堅持。
⇨ その姿勢は「世界の模範」であると評価。
・中国と共に「国際的公平と正義の擁護」を進めていく姿勢を表明。
会談の意義
・両国の伝統的友好関係の再確認。
・政治・経済・外交・多国間協力における包括的パートナーシップの強化。
・国際秩序における共通の立場(反覇権・反制裁・公正擁護)を再確認。
・中国とベラルーシ間の協力関係は、今後も戦略的・継続的に発展していく方針が確認された。
【引用・参照・底本】
Xi meets Belarusian president GT 2025.06.04
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335387.shtml
2025年6月4日、中国の首都・北京において、中国の習近平国家主席は、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領と会談を行った。
習主席は、ルカシェンコ氏のベラルーシ大統領再選を改めて祝福した上で、中国とベラルーシは互いに誠意と信頼をもって接する真の友人であり、良きパートナーであると述べた。
習主席は、中国とベラルーシが長年にわたる伝統的友好関係、強固な政治的相互信頼、そしてあらゆる分野における協力の拡大という特徴を共有していると指摘した上で、中国は常に戦略的かつ長期的視点から中ベ関係を位置づけ、発展させてきたと語った。
さらに、中国はベラルーシと協力し、両国関係の着実な発展と互恵的な協力を推進していく意向であるとした。
習主席はまた、国連や上海協力機構(SCO)といった多国間枠組みにおける両国の協調と連携を一層強化し、覇権主義やいじめ行為に共同で反対し、国際的な公正と正義を守っていく必要性を強調した。
これに対し、今回が15回目の訪中となるルカシェンコ大統領は、これまでのすべての訪問において中国から誠実な友情を実感してきたと述べた。
ルカシェンコ大統領は、中国による長年にわたる強力な支援と援助に感謝を表明し、ベラルーシは中国に対して高い信頼を有しており、今後も積極的に協力を推進していく考えを示した。
また、中国が多国間主義を擁護し、一方的行動や制裁、圧力に反対する姿勢を貫いていることは世界の模範であると述べ、中国に対する敬意を示すとともに、中国と共に国際的な公正と正義を守っていく意思を表明した。
【詳細】
2025年6月4日、中国・北京において、中国国家主席である習近平氏は、ベラルーシ共和国の大統領アレクサンドル・ルカシェンコ氏と会談を行った。両首脳の会談は、外交関係の深化及び戦略的パートナーシップの確認を目的とするものであり、国際的な多国間枠組みにおける協力強化などが主要議題とされた。
冒頭、習近平主席は、ルカシェンコ大統領の再選に対し再度祝意を表した。中国側の立場として、ベラルーシを「真の友人」「良きパートナー」と位置づけ、両国間の関係は「誠意」と「信頼」に基づいていることを強調した。
習主席は、中国とベラルーシの間には、以下の3点において顕著な特徴があると述べた。
1.伝統的な友好関係
両国は長年にわたり、安定的な外交関係を維持しており、相互尊重に基づく伝統的友好を築いてきた。
2.強固な政治的相互信頼
両政府間では高いレベルの政治的信頼が構築されており、両国首脳の間でも定期的な対話が行われている。
3.各分野における協力の拡大
経済、貿易、インフラ、科学技術、人文交流など、幅広い分野において協力が進展している。
これを踏まえ、中国は中ベ関係を「戦略的」かつ「長期的視点」で捉えており、関係の安定的発展と互恵的な協力を引き続き推進していく意向を表明した。
加えて、習主席は多国間外交の文脈にも言及し、国連や上海協力機構(SCO)といった国際・地域組織においても、両国が連携を一層強化する必要性を強調した。具体的には、「覇権主義」「いじめ的行動(bullying)」に対して共同で反対し、「国際的な公平性と正義の擁護」を目指すことが提起された。
一方、ルカシェンコ大統領は、自身にとって今回が15回目の訪中となることを明らかにした上で、これまでの訪問すべてにおいて中国からの「真摯な友情」を感じ取ってきたと述べた。これにより、両国間の人的・情緒的なつながりの深さも示された形である。
またルカシェンコ大統領は、中国が長期にわたりベラルーシを支援してきたことに対して謝意を示し、ベラルーシとしては中国に対して「高度な信頼」を有していると述べた。そして今後も中国との協力関係を積極的に進める意思を明言した。
さらにルカシェンコ氏は、中国の国際姿勢についても言及し、中国が「多国間主義を擁護」し、「一方的行動や制裁、圧力に反対する」立場を貫いていることに対し、強い評価と敬意を表明した。これは、国際社会における中国の姿勢が、ベラルーシにとって模範的であるとの認識に基づくものである。
最後に、ルカシェンコ大統領は、中国と共に「国際的な公平性と正義を守る」ため、今後も協調していく決意を改めて表明した。
本会談は、両国の外交関係を再確認し、共通の国際的立場を強調する内容となっており、特に多国間協調と相互信頼に焦点が当てられた形である。
【要点】
会談の基本情報
・日時:2025年6月4日(水)
・場所:中華人民共和国・北京市
・出席者
中国国家主席・習近平
ベラルーシ共和国大統領・アレクサンドル・ルカシェンコ
・訪中の背景:ルカシェンコ大統領による15回目の訪中
習近平主席の発言・主張
・ルカシェンコ大統領の大統領再選を祝福。
・中国とベラルーシは「真の友人」「良きパートナー」であると表明。
・両国関係は以下の3点に基づいて構築されていると強調:
⇨ 伝統的友好関係
⇨ 強固な政治的相互信頼
⇨ 各分野での協力の拡大
・中国は、ベラルーシとの関係を戦略的かつ長期的視点から重視。
・今後も両国関係の着実な発展と互恵的協力を推進する意向を表明。
・国際舞台においても両国の協力強化を提案:
⇨ 国連や上海協力機構(SCO)などの多国間枠組みでの連携強化。
⇨ 「覇権主義」「いじめ行為(bullying)」への共同対抗。
⇨ 「国際的公平と正義」の擁護。
ルカシェンコ大統領の発言・主張
・今回が自身にとって15回目の訪中であり、誠実な友情を毎回感じていると表明。
・中国からの長期的な支援と援助に対し、感謝を述べる。
・ベラルーシは中国に対して高度な信頼を有しており、今後も協力を積極的に推進する意志を示す。
・国際問題に関する評価
⇨ 中国は「多国間主義を支持」し、「一方的行動・制裁・圧力」に反対する立場を堅持。
⇨ その姿勢は「世界の模範」であると評価。
・中国と共に「国際的公平と正義の擁護」を進めていく姿勢を表明。
会談の意義
・両国の伝統的友好関係の再確認。
・政治・経済・外交・多国間協力における包括的パートナーシップの強化。
・国際秩序における共通の立場(反覇権・反制裁・公正擁護)を再確認。
・中国とベラルーシ間の協力関係は、今後も戦略的・継続的に発展していく方針が確認された。
【引用・参照・底本】
Xi meets Belarusian president GT 2025.06.04
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335387.shtml