障害者の雇用状況2025年07月23日 21:06

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【概要】

 2025年7月22日、北京市で開催された国務院新聞弁公室の記者会見において、中国残疾人連合会(中国障害者連合会)の主席であるCheng Kai氏は、「第14次五カ年計画(2021〜2025年)」期間中における障害者支援事業の成果について発表した。

 Cheng氏によれば、全国の障害者の雇用者数は9.01百万人に達し、同期間中に都市部および農村部で新たに就業した障害者の累計は231万人に上ったという。

 また、中国では障害者の就業を促進するための「3カ年行動計画(2022〜2024年)」が実施され、その結果、新たに164.8万人の障害者の雇用が創出された。この計画に続き、2025年から2027年を対象とした新たな3カ年行動計画が策定され、先週、副主席のLi Dongmei 氏により発表された。

 障害者の雇用形態は多様化しており、インターネットプラットフォームなど新たな形態での就業が増加している。また、障害を持つ熟練技術者の中には、国内外の職業技能競技会において優れた成績を収めた者もいる。

 障害者を含む世帯の年間純収入は着実に増加しており、2020年から2023年までの平均年間成長率は6.9%で、中国のGDP成長率とほぼ同水準である。さらに、障害者に対する職業訓練は217万人を超えている。

 中国の貧困脱却キャンペーンにおいては、国家貧困データベースに登録されていた700万人以上の障害者が貧困から脱却し、新たな生活と挑戦に向けた出発点となった。

 一方で、Cheng氏は、障害者が依然として農村部において貧困に戻る、あるいは新たに貧困状態に陥るリスクが最も高い集団であることを認めた。2023年末時点で、中国の貧困予防システムにより追跡されていた障害者は99.1万人で、全体の監視対象の12.1%を占め、前年よりも増加した。

 障害者の多くは雇用機会が限られており、主に低技能または臨時雇用に従事している。身体的に負担の大きい作業には従事できる選択肢が少なく、多くは近隣での短期的な仕事に収入を頼っている状況である。

 このような中、中国政府は障害者に対するピンポイントの支援体制を強化している。対象となる障害者は、多層的な社会支援制度や共産党幹部によるペア支援プログラムに体系的に組み込まれている。

 さらに、障害者の教育制度も改善されており、義務教育を受けている障害児の割合は97%に達している。現在の統計では、中等職業教育に進学した障害学生は7万5800人、普通高校に通う障害学生は5万9800人、さらに毎年3万人を超える障害者が高等教育機関に入学している。

【詳細】 

 1. 障害者の雇用状況

 第14次五カ年計画(2021年〜2025年)期間中、中国国内における障害者の就業者数は累計で901万人に達した。このうち、都市および農村部において新たに雇用された障害者の数は231万人であると、中国残疾人連合会の主席であるCheng Kai(てい・がい)氏が記者会見で述べた。

 加えて、中国政府は障害者の就業促進を目的として、「障害者就業促進三年行動計画(2022〜2024年)」を実施しており、この計画の実行により164万8,000人の障害者が新たに就職した。この計画は2024年で終了するが、続く新たな取り組みとして、「2025年〜2027年」の新たな三年行動計画が立ち上げられることが、同連合会副主席の**Li Dongmei (り・とうばい)**氏により先週発表された。

 2. 新たな就業形態・職業技能

 Cheng氏によれば、障害者の雇用形態は従来の単純労働にとどまらず、インターネットプラットフォーム等を活用した新しい就業形態に拡大している。たとえば、電子商取引やオンラインサービスにおける就業が進展しており、地理的・身体的制約を受けにくい就労手段として注目されている。

 また、障害を持ちながらも高度な技能を有する者の中には、国内外の職業技能競技大会において優秀な成績を収めた者も多数存在するという。

 3. 所得と職業訓練

 障害者を含む家庭の年間純収入は、2020年から2023年までの間に年平均6.9%の増加を記録しており、この伸び率は同時期の中国のGDP成長率と同程度である。このことは、障害者の生活水準の向上と経済活動への積極的参加を示すものである。

 また、障害者向け職業訓練の実施件数は延べ217万人を超えており、これは障害者の職能向上と就業機会拡大に寄与している。

 4. 貧困脱却とリスク

 中国の全国的な貧困脱却キャンペーンの中で、国家貧困データベースに登録されていた障害者700万人以上が貧困状態からの脱却を果たした。これにより、彼らの生活は新たな段階に入り、自立と社会参加への道が開かれた。

 しかしながら、Cheng氏は同時に、障害者は依然として最も貧困に陥るリスクの高い集団であると指摘した。特に農村部においては、再貧困化または新規貧困化の危険性が高いとされる。

 実際、2023年末の統計によれば、中国の貧困予防システムにより監視対象とされた障害者は99万1,000人に上り、これは全体のモニタリング対象の**12.1%**を占める。前年と比較して増加傾向にあり、今後の課題として位置づけられている。

 5. 就労機会の制約と生活実態

 障害者の多くは、身体的制約や環境要因により、就労機会が限られている。特に、利用可能な職種の多くは低技能または臨時雇用に分類されるもので、長期的な安定性に欠ける傾向がある。

 また、肉体的負荷の高い作業には従事できる選択肢が少ないため、障害者の多くは近隣での短期的な仕事(いわゆる「ちょっとした仕事」)に依存して収入を得ているという実態がある。

 6. 政策的支援と社会保障

 中国政府は障害者に対する多層的な社会支援制度を構築しており、支援対象の障害者は、共産党幹部とのペア支援プログラムを含む様々な社会的セーフティネットに組み込まれている。これにより、障害者の生活保障と再貧困化の防止が図られている。

 7. 教育の現状

 教育面においても改善が進んでおり、障害児の義務教育就学率は97%に達している。また、中等職業教育には7万5,800人の障害者が在籍しており、普通高校には5万9,800人、さらに年間3万人超の障害者が高等教育機関(大学等)へと進学しているとのことである。
 
【要点】

 1. 障害者の雇用状況

 ・全国の障害者就業者数は 9.01百万人 に達した(2021〜2025年)。

 ・都市・農村部での新規雇用障害者は累計 231万人。

 ・「障害者就業促進三年行動計画(2022〜2024年)」により 164.8万人の新規雇用を創出。

 ・2025〜2027年の新三年行動計画が発表された(副主席・Li Dongmei 氏)。

 2.雇用形態と職業技能

 ・障害者は従来の就業形態に加え、インターネットプラットフォーム等による新たな雇用形態に進出。

 ・電子商取引・配信・オンラインサービス等が例示されている。

 ・技能競技大会において優秀な成績を収める障害者も存在。

 3.所得と職業訓練

 ・障害者家庭の年間純収入は、2020〜2023年の平均成長率6.9%で推移。

 ・この成長率は、中国のGDP成長とおおむね一致。

 ・職業訓練の受講者数は累計 217万人超。

 4.貧困脱却と再貧困リスク

 ・貧困脱却キャンペーンにより、700万人以上の障害者が貧困から脱却。

 ・2023年末時点で、貧困予防システムにより追跡されている障害者は 99.1万人。

 ・これは貧困リスク人口全体の 12.1% に相当。

 ・障害者は特に農村部で再び貧困に陥るリスクが高いとされる。

 5.就労制限と生活実態

 ・障害者は身体的制約や環境的制限により、就労選択肢が限定的。

 ・多くは低技能・臨時的な仕事に依存。

 ・肉体的に負担の大きい仕事は難しい。

 ・多くの障害者は**近隣での短期労働(臨時仕事)**で収入を補っている。

 6.政策的支援と社会保障

 ・中国は障害者向けの多層的社会支援制度を整備。

 ・該当者は共産党幹部によるペア支援プログラムに組み込まれるなど、体系的な支援を受けている。

 7.教育制度の整備

 ・義務教育を受けている障害児の割合は97%に到達。

 ・中等職業教育に進学した障害学生:75,800人。

 ・普通高校に通う障害学生:59,800人。

 ・高等教育機関に入学する障害学生は年間30,000人超。

【桃源寸評】🌍

 I.日本の情況

 1.日本の障害者雇用(最新データ)

 ・2025年時点で、日本の民間企業における障害者雇用数は677,461人に達し、前年から35,283人増加、21年連続で過去最高を更新している。

 ・民間企業における障害者実雇用率は2.41%となり、前年の2.33%から0.08ポイント上昇し過去最高を記録した

 ・ただし、法定雇用率(2.5%/2025年時点)を達成している民間企業は46.0%にとどまり、前年(50.1%)から4.1ポイント減少している

 2.障害の種類別の雇用動向

 ・身体障害者:約368,949人(前年比+2.4%)

 ・知的障害者:約157,795人(前年比+4.0%)

 ・精神障害者:約150,717人(前年比+15.7%)と、精神障害者の雇用増加が顕著である

 3.企業規模別の達成状況

 ・常用労働者数40名〜43.5名未満の企業では、雇用者数4,962人、実雇用率2.10%、法定率達成企業33.3% → 全体を押し下げる要因になっている

 ・一方、規模の大きい企業(1,000人以上)は実雇用率2.64%、法定率達成企業は54.7%と比較的高水準

 
 4. 実雇用率達成・不達成の背景と制度的枠組み

 ・日本では「障害者雇用促進法」により、従業員40人以上の企業に法定雇用率(2024年3月までは2.3%、4月以降は2.5%)が課せられ、2026年には2.7%に引き上げ予定である。

 ・法定雇用率未達成企業には、1人不足につき月額最大5万円(企業規模により異なる)の納付金制度が適用される一方、達成・超過した企業には報奨金や調整金が支給される

 ・企業は法的義務やESGの観点から、障害者雇用を一定水準で維持する傾向にあり、不況期でも雇用の減少が抑えられる構造となっている

 5.実態調査による最新の分析結果

 ・2023年度の実態調査では、従業員5人以上の事業所に雇用されている障害者は推計で110.7万人。うち、身体障害者が約526,000人、知的障害者が275,000人、精神障害者が215,000人、発達障害者が91,000人と全種別で増加している

 ・平均勤続年数も、身体障害者は12年2カ月、知的障害者は9年1カ月、精神障害者は5年3カ月、発達障害者は5年1カ月と、いずれも前回調査を上回る長期定着が進んでいる

 6.比較ポイント:中国との違い・共通点(参考)

 ・日本の障害者雇用数は約67.7万人、実雇用率は2.41%である一方、中国の発表では雇用者は約901万人と桁違いに多く、人口規模と雇用体系の違いが背景にある。

 ・中国ではプラットフォーム型就業や技能競技での活躍などの多様な取り組みも進んでおり、日本でも今後、就業形態の多様化がより重視される可能性がある。

 ・日本は法定雇用率制度の枠組みによるペナルティと報奨制度が明確で、継続的な雇用増につながっている点が特徴。

 ・一方、日本でも多くの企業が枠を満たすことを目的とした形式的な雇用にとどまっており、「働く質」や「インクルージョン推進」の面で課題があるとの指摘がある

出典:厚生労働省・ パーソルダイバース株式会社―障害者雇用を成功させる。そして、その先へ・内閣府ホームページ・フィナンシャル・タイムズ・ツナグ働き方研究所・CkSk
BizMOWA等

 II.プラットフォーム型

 「プラットフォーム型雇用(プラットフォーム型就業)」とは、インターネットやアプリを介して働き手と仕事を結びつける労働形態を指し、近年、障害者の就労手段として注目されている。以下に、特に障害者に関連する視点で日中両国の現状を整理する。

 1.プラットフォーム型就業とは

 ・例:ウーバーイーツ、BASEやメルカリでのネット販売、クラウドワークス等でのデジタル業務、SNS運営、動画編集・配信など。

 ・雇用契約を伴わず、フリーランス・業務委託に近い関係が多い。

 ・労働時間や場所を自ら選べる柔軟性があり、身体的制約や通勤困難のある障害者にとって有利な場合がある。

 ・一方で、社会保障の未整備や収入の不安定性、自己管理負担の大きさといった課題も内包する。

 2.中国の状況(報道ベース)

 ・2025年7月の中国残疾人連合会の記者会見で、障害者が新しい雇用形態(例:プラットフォーム型就業)に多く参入していることが強調された。

 ・インターネットプラットフォーム上での就労(例:ネット販売、配信、オンライン業務等)が増加傾向にある。

 ・明確な統計は示されていないが、「都市部での新規雇用の拡大要因の一つ」と位置づけられている。

 ・国家による育成・支援プログラムもあり、「在宅起業」「遠隔雇用」「競技技能のデジタル展開」などが含まれる。

 3.日本の状況

 (1) 注目される領域

 ・クラウドソーシング(CrowdWorks・Lancers)

 ・ECサイト運営(BASE・STORES・Amazon等)

 ・動画配信・編集(YouTube・TikTok・編集代行)

 ・デジタル作品の販売(BOOTH・SUZURI・noteなど)

(2)支援事例

 ・就労継続支援B型事業所等でネット販売や動画制作を職業訓練に導入する例が増加。

 ・在宅ワーク特化型の就労移行支援事業所(例:atGPジョブトレ IT・在宅コース、LITALICOワークス)なども展開。

 ・厚労省や地方自治体はテレワーク型就労支援のモデル事業を多数展開中(例:在宅ワーク就業支援事業等)。

(3)制度上の課題:

 ・雇用契約がないため、労働法の保護外(労災・最低賃金・社会保険等が適用されない)。

 ・支援機関や福祉制度と連携した収入認定・評価の難しさ。

 ・スキル習得・自己管理能力・収益安定化の支援体制が未整備。
 
 4.まとめ

 プラットフォーム型就業は、障害者の「働き方の柔軟性」を拡げる可能性を持つ有力な手段であるが、社会的なセーフティネットや教育・支援体制の整備が不十分である点は、日中共通の課題である。

 日本では制度との接続が遅れている一方、中国では国家戦略としての活用が進んでいるが、実質的な雇用の安定性や労働条件の保証は不透明である。今後の比較検討の重要な視点となる。

【寸評 完】🌺

【引用・参照・底本】

Number of employees with disabilities in China reaches 9.01m: China Disabled Persons' Federation GT 2025.07.22
https://www.globaltimes.cn/page/202507/1338954.shtml

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