イスラエル空軍:イラン国内の核施設およびミサイル関連施設攻撃2025年06月13日 09:54

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【概要】

 イスラエル空軍は木曜日、イラン国内の核施設およびミサイル関連施設に対して数十回の攻撃を行った。

 重要な点は、イスラエルが最大かつ最も武装した敵対国であるイランを、米国の支援なしに直接攻撃したことである。米国はこの作戦への関与を即座に否定した。

 トランプ大統領は木曜日、イスラエルによるイラン核施設への攻撃に公然と反対し、核合意の可能性が依然としてあるとの考えを示した。しかしその数時間後、イスラエルは核施設のほか、軍司令部、軍指揮官、イラン高官らを標的とする攻撃を開始したとイスラエル当局が発表した。

 国務長官マルコ・ルビオは声明で、「今夜、イスラエルはイランに対して一方的な行動を取った。我々はイランへの攻撃には関与しておらず、最優先事項は地域内の米軍の保護である」と述べた。また、「イスラエルは自国防衛のために必要な行動だと我々に伝えた」と続けた。さらに、「トランプ大統領と政権は、米軍を守るために必要な全ての措置を講じ、地域のパートナーと緊密に連携している。明確に言う。イランは米国の利益や人員を標的にすべきではない」と強調した。

 木曜日の夜、イスラエル各地でサイレンが鳴り響いた。イスラエルのイスラエル・カッツ国防相は国内全域に特別非常事態を宣言した。「イスラエルによるイランへの先制攻撃を受け、イスラエル国家および民間人に対するミサイルやドローンによる攻撃が直ちに予想される」とカッツは述べた。イスラエル国防軍(IDF)の報道官は、金曜日の朝から「必要不可欠な活動のみ」を行うように指示し、教育活動、集会、職場は原則禁止とし、例外は必要不可欠な事業のみとした。イスラエルは領空を閉鎖し、イランもテヘラン国際空港からのフライトを停止した。

 今回のイスラエルの攻撃は、イスラエルとイラン双方に重大な危険をもたらす新たな軍事衝突を引き起こした。IDF高官は、イランの核および弾道ミサイル能力を破壊する作戦には数日を要する見込みであり、イランによるミサイルやドローンでの報復攻撃を予想していると述べた。IDF高官によれば、最近数週間でイランが核爆弾開発を急いでいる兆候を掴んでおり、時間が経つにつれてイランの進展を把握することが難しくなると判断したという。「我々は今、戦略的な機会の窓にあり、もはや後戻りできない地点に近づいているため、行動するしかなかった」と説明した。イランは核兵器を追求しているとの疑惑を否定しており、米国や他の同盟国もイランが核爆弾を急速に開発しているとの警告は発していない。

 水面下では、米国は木曜日、いくつかの同盟国に対し、イスラエルの攻撃が差し迫っていることを非公開で通知し、自国は関与していないことを明確に伝えたと事情に詳しい人物が語った。トランプ政権はイスラエルに対し、核施設攻撃には参加しないと伝えたとAxiosが報じた。ただし、米国はこれまでにもイランからの攻撃に対してイスラエルを支援しており、今回も支援する可能性が高い。作戦が公になった前、米国のマイク・ハッカビー駐イスラエル大使はエルサレムの大使館にいることをツイートし、「今夜ここにとどまる」と述べ、「エルサレムの平和を祈ろう」と付け加えた。

 イスラエルの攻撃の全容はまだ明らかになっていない。イスラエルは数週間にわたり核施設を破壊する作戦を準備してきたが、これまで米国にはトランプ政権の核協議の行方を見守る意向を伝えていた。日曜日に予定されていた米国とイランの6回目の協議は、実施される可能性が極めて低い。

 イランは核施設が攻撃された場合、地域の米国拠点を攻撃すると以前から警告している。米国は現在、イラク、バーレーン、クウェートから外交官および軍人家族を退避させており、危険を避けるための措置を取っている。また、湾岸地域の複数の拠点で防空態勢を強化している。

【詳細】 

 1.攻撃の概要

 2025年6月12日(木)、イスラエル空軍はイラン国内において大規模な軍事作戦を実施した。攻撃対象はイランの核関連施設および弾道ミサイル関連施設に加え、軍の司令部、軍の高官、イラン政府関係者とされる。攻撃の規模は「数十回の空爆」と報じられており、非常に大規模かつ計画的な作戦であることが示唆されている。

 2.米国の立場

 米国は、今回の作戦についてイスラエルから事前に通告を受けたが、関与しない方針を明確にした。トランプ大統領は攻撃当日、公の場でイスラエルの核施設攻撃に反対を表明し、まだ核合意の可能性が残っているとの考えを示した。一方、国務長官マルコ・ルビオは声明を発表し、「イスラエルの行動には一切関与していない」と強調したうえで、米軍の安全を最優先すると述べた。

 裏付けとして、米国は複数の同盟国に対して、イスラエルによる攻撃が間近であることを非公式に通知していたが、自国は作戦に加わらない旨も伝えていたという。また、米国のマイク・ハッカビー駐イスラエル大使はエルサレムの大使館に滞在し続ける意向を示し、「エルサレムの平和のために祈る」とSNSで発信している。

 3.イスラエルの国内対応

 イスラエル国内では攻撃後、全国的に警報が鳴り響き、イスラエル・カッツ国防相が国内全域に「特別非常事態」を宣言した。この宣言により、翌朝からは「必要不可欠な活動のみ」が許可され、教育活動、集会、一般企業の営業は全面禁止され、例外は医療・インフラなどの必要不可欠な事業のみとされた。また、イスラエルは領空を閉鎖し、イラン側もテヘラン国際空港からの全便を停止した。

 4.イスラエルの戦略的判断

 イスラエル国防軍(IDF)の高官は、今回の作戦は「数日間に及ぶ可能性がある」と説明している。目的はイランの核開発能力と弾道ミサイル能力を徹底的に破壊することであり、これによりイランの報復は避けられないと認識している。IDF高官は、最近の諜報活動でイランが核兵器を取得する速度を加速させている兆候を掴んだとしており、「もはや監視可能な時間が限られている」との危機感を表明している。そのうえで、「今が戦略的に攻撃可能な機会の窓であり、これを逃せば手遅れになる」と述べた。

 これに対し、イランは核兵器を開発している事実を否定しており、米国および他の西側同盟国も「イランが急速に核兵器を完成させる」という警告は正式には出していない。

 5.地域情勢と今後の見通し

 今回の攻撃により、イスラエルとイラン間で新たな軍事衝突が勃発した形となった。IDFはイランからの報復として、イスラエル国内へのミサイル攻撃およびドローン攻撃が直ちに行われる可能性が高いと見ている。一方、イランは以前から「核施設が攻撃された場合には地域の米国拠点を標的とする」と警告しており、これに備えて米国はイラク、バーレーン、クウェートに駐在する外交官や軍人家族を避難させている。また、湾岸地域の複数拠点では防空システムを増強している。

 さらに、米国とイラン間で予定されていた6回目の核協議(予定は日曜日)は、事実上の中止が確実視されている。今後の外交交渉は全面的に停滞する見通しであり、軍事的緊張が一層高まる可能性がある。

 6.結論

 イスラエルは、米国の明確な不参加と反対にもかかわらず、自国の安全保障上の理由からイランに対して大規模な先制攻撃を行った。これにより地域の安全保障環境は大きく変化し、報復の連鎖や米国への攻撃リスクが現実化する恐れが極めて高い状況である。

【要点】 

 攻撃の概要

 ・2025年6月12日(木)、イスラエル空軍がイラン国内で大規模な空爆を実施した。

 ・攻撃対象は、イランの核施設、弾道ミサイル関連施設、軍司令部、軍高官、政府関係者である。

 ・攻撃回数は「数十回」とされ、計画性と規模の大きさが際立つ。

 米国の立場と対応

 ・トランプ大統領は攻撃当日に核施設攻撃への反対を表明し、核合意の可能性を依然模索していると述べた。

 ・米国務長官マルコ・ルビオは「イスラエルの行動には一切関与していない」と公式声明を出した。

 ・米国は同盟国に対し、イスラエルの攻撃が差し迫っていることを非公式に通知したが、関与しない方針を強調した。

 ・駐イスラエル米国大使マイク・ハッカビーはエルサレム大使館にとどまり続ける意向を示した。

 イスラエル国内の状況

 ・攻撃後、イスラエル全土で警報が鳴り響いた。

 ・イスラエル・カッツ国防相が国内全域に特別非常事態を宣言した。

 ・翌朝から「必要不可欠な活動のみ」が許可され、学校、集会、職場は原則禁止、必須事業のみ例外とされた。

 ・イスラエルは領空を閉鎖し、イランもテヘラン国際空港からのフライトを停止した。

 攻撃の背景と戦略的判断

 ・イスラエル国防軍(IDF)は、イランの核開発と弾道ミサイル能力を破壊することが作戦の目的であると説明した。

 ・作戦は数日間に及ぶ見込みである。

 ・IDF高官は、最近イランが核爆弾取得を急いでいる兆候を把握したと述べた。

 ・「戦略的な機会の窓」が開いており、これを逃すと手遅れになると判断したとされる。

 ・イランは核兵器開発を否定しており、米国や他の西側同盟国も公式には「イランが核爆弾に近づいている」とは警告していない。

 地域情勢と今後の見通し

 ・イスラエルはイランからの報復として、ミサイル攻撃やドローン攻撃が直ちに行われる可能性が高いと見ている。

 ・イランは以前から、核施設が攻撃された場合、地域の米国拠点を攻撃すると警告している。

 ・米国はイラク、バーレーン、クウェートから外交官や軍人家族を退避させている。

 ・湾岸地域の複数拠点で防空システムを増強している。

 ・米国とイランの6回目の核協議は、事実上中止が確実視されている。

 全体の影響
 
 ・イスラエルとイラン間の新たな軍事衝突が発生した形である。

 ・地域の安全保障環境が不安定化し、米国への攻撃リスクも高まっている。

 ・報復とさらなる軍事行動の連鎖が懸念される状況である。
 
【桃源寸評】🌍

 イスラエルと米国の「酷似する性格」と、その背景を歴史的脈絡を踏まえつつ、今回のイラン核施設攻撃を含めて論述する。。

 はじめに

 イスラエルと米国は、表面的には異なる規模と歴史を有する国家であるが、その国際行動や自己正当化の論理、さらには他国に対して示す傲慢さにおいて、実に似通っている。この性格的相似は、両国が繰り返し自国の「安全保障」や「自由」を名目に国際秩序を恣意的に撹乱してきた事実から裏付けられる。今回のイスラエルによるイラン核施設への空爆は、その典型的な発露である。

 1.自己正当化と予防攻撃の常態化

 米国は第二次世界大戦以降、度重なる先制攻撃、政権転覆、占領政策を世界中で繰り返してきた。冷戦期には「共産主義封じ込め」を理由に、冷戦後は「テロとの戦い」を掲げて軍事行動を正当化した。ベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争はいずれも、自国の安全を脅かすとの論理に基づくが、結果は膨大な民間人犠牲と地域の混乱であった。

 イスラエルも同様である。建国以来、自国の生存権とユダヤ人の保護を最優先の絶対価値とし、それを口実に近隣アラブ諸国、パレスチナ自治区に対して過剰な軍事力を行使してきた。今回のイラン攻撃も、諜報に基づく一方的な「核保有疑惑」を理由にし、自国以外の法的手続きを踏まえずに直接他国の主権を踏みにじっている。これはイラク戦争における「大量破壊兵器疑惑」と酷似している。

 2.過剰な軍事依存と強迫的安全保障観

 両国は核兵器、最先端兵器、ドローン、サイバー兵器など最新の軍事技術を安全保障の名の下に際限なく開発・使用することを当然とする。イスラエルは周辺諸国に比べ圧倒的な軍事力を誇りながら、常に「存亡の危機」を演出することに長けている。米国も世界最大の軍事予算を維持し、覇権維持に必要不可欠とする。

 この偏執的な「安全保障依存症」は、自国を絶対善とみなし、他国を潜在的脅威として扱う態度を正当化する。また、両国は敵を作り出すことで自らの行動を正当化する循環を断てずにいる。今回のイスラエルのイラン核施設攻撃も、まさに敵を絶えず再生産する構造の一例である。

 3.国際法軽視と選択的道徳

 両国は国際法を自国に都合の良い時だけ援用し、都合が悪くなれば無視する傾向を有する。米国は国際刑事裁判所を認めず、イスラエルは国連決議を度々無視し、パレスチナ問題においても国際社会の非難を意に介さない。

 今回のイラン攻撃も、明白にイランの主権を侵害し、戦争行為に他ならないが、イスラエルは「自衛」を掲げ、国際社会には一方的な事後通告にとどめた。米国も「関与していない」と言い張るが、長年にわたる武器供与と情報共有が土台にあることは否定し得ない。

 4.歴史的背景

 米国は建国自体が先住民征服と奴隷制度を基盤にしており、その膨張主義は今日の世界覇権に繋がる。イスラエルも欧米列強の中東分割とユダヤ人国家樹立構想が出発点であり、パレスチナ人の土地収奪と民族対立を孕んだまま存続してきた。この植民地主義的出自と排他主義が、現在の強迫的自衛意識と攻撃的外交の根源である。両国はこの歴史的原罪を直視せず、むしろ正当化の物語に変換してきた点で共通している。

 5.世界からの嫌悪と摩擦

 以上の性質ゆえに、両国は世界各地で「信頼できない」「身勝手」「危険」とみなされることが多い。友好国ですら、常に同調を強いられることにうんざりしている。イスラエルの今回の単独攻撃は、米国ですら表向きは支持を避けざるを得ないほど、国際社会の忍耐が限界に近いことを示している。

 結論

 イスラエルと米国は共に、自己の絶対的安全保障を口実に国際法秩序を自らの都合で破壊する常習国家である。今回のイラン攻撃は、その共通の性格を如実に示す最新の実例であるにすぎない。かつて米国がイラクに押し付けた「大量破壊兵器疑惑」と同じ構図が、イスラエルの手でイランに繰り返されているのである。

 両国が自らの力を信じる限り、この自意識過剰と力の濫用は終わらない。結果として、敵は絶えず増殖し、憎悪の連鎖は次世代に引き継がれる。これが両国の最大の病理であり、世界にとっての災厄である。

 第二次世界大戦後の米国が一度も正式な宣戦布告をせずに実質的戦争行為を繰り返してきた事実を踏まえ、それと極めて類似したイスラエルの軍事行動の性質を整理し、今回のイラン攻撃に関連し論じる。

 1.第二次世界大戦後の米国の戦争行為と宣戦布告の空洞化

 米国は憲法上、議会の宣戦布告が正式な戦争の前提であるにもかかわらず、第二次世界大戦以降、宣戦布告を伴わない「警察行動」「軍事作戦」「人道介入」「対テロ戦争」などの名目で実質的な大規模戦争を幾度も実施してきた。

 代表例として、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争が挙げられるが、いずれも議会による形式的な戦争宣言はなく、行政府が緊急権限を拡大解釈することで実現したものである。

 このやり方は、国内法や国際法の枠組みを都合よく骨抜きにしつつ、戦争を「日常業務」の延長として遂行可能にしたという点で、米国の覇権維持の道具となった。

 2.イスラエルの「非宣言型」戦争と先制攻撃常態化

 イスラエルもまた、公式に戦争宣言をすることはほとんどなく、代わりに「防衛行動」や「先制自衛」という建前で作戦を繰り返してきた。

 例として、パレスチナ自治区、レバノン、シリア、イラク、そして今回のイラン攻撃に至るまで、いずれも宣戦布告を経ずに隣国の領空・領土を侵害している。

 この非公式戦争の連続は、イスラエルにとって「平時と戦時の境界を曖昧化する手法」であり、米国の行動パターンと酷似している。

 3.「自衛権」の濫用

 米国はテロとの戦いを無期限の「自衛権行使」と位置付け、世界各地に無人機を飛ばし標的殺害を行っている。
イスラエルも「存在の危機」を大義として、予防的に敵を叩くことを正義とする。
今回のイラン核施設攻撃も、「イランが核爆弾を開発している可能性」という断定し得ない情報を根拠に、他国の中枢インフラを破壊した。この論理は、米国がイラクに大量破壊兵器があると主張して先制攻撃した構図と同じである。

 4.宣戦布告なき攻撃の副作用

 宣戦布告という儀式を経ない戦争は、戦争状態を法的に認定できないため、戦争責任の所在を曖昧にし、戦争犯罪の訴追を難しくする副作用を伴う。

 イスラエルの場合、国際社会はパレスチナやレバノンへの攻撃を非難しても、「正式な戦争ではない」という言い逃れが可能となり、責任回避の構造が固定化する。

 同様に、今回のイラン攻撃も戦争宣言を伴わないため、イラン側の報復を「テロ」として糾弾する方便を維持できる。

 5.「同じ病理」としての両国

 米国とイスラエルは、議会制民主主義と法治国家を自認するにもかかわらず、「宣戦布告なき恒常戦争」を常態化させた国家である。

 この病理は、自らの暴力を正当化する一方で、相手の暴力を「テロ」と呼び変える二重基準を生む。

 今回、イスラエルが米国の同意なしにイラン攻撃に踏み切ったことは、一見自立した行動に見えるが、根本にある「宣戦布告を回避して自衛権を最大限拡大する」という思考様式は米国と同じである。

 歴史的に米国の支援と庇護を受け、同じ軍事的論理を共有してきたイスラエルが、この戦争の手法を独自に深化させていると言える。

 結論

 第二次世界大戦後、米国が形式的な宣戦布告を放棄し、「必要な時に必要なだけ武力を行使する」という国際秩序破壊の先鞭をつけた。

 イスラエルは、その後ろ盾の下で「小さな米国」として振る舞い、法の抜け穴を駆使して攻撃を常態化した結果、近隣諸国にとっての脅威かつ不安定要因であり続けている。

 今回のイラン攻撃は、両国に共通するこの「宣戦布告なき戦争国家」という性格を、改めて露わにしたものである。

 国際社会はこの共通病理を看過し続ける限り、同様の衝突が繰り返されることを覚悟せねばならない。

 先に述べた論旨に具体例として シナイ半島の占領と返還、および 1981年のイラク・オシラク原子炉空爆(オペラ作戦) を詳細に付加し、両国の「宣戦布告なき戦争」「予防攻撃の常態化」をさらに批判的に補足する。

1.シナイ半島の占領と返還

 イスラエルは1967年の第三次中東戦争(六日戦争)において、エジプトからシナイ半島を電撃的に占領した。この戦争はエジプトやシリアの攻撃準備を口実にした「先制攻撃」であり、公式な宣戦布告を経ていない点が重要である。

 イスラエルは占領後、シナイ半島を戦略的緩衝地帯と見なし、長期にわたり軍事支配を続け、入植地の建設を進めた。

 結果として、この地域は国際法上の「占領地」として多くの国際非難を浴びつつ、和平交渉の取引材料として活用された。最終的には1979年のエジプト・イスラエル平和条約により返還されたが、この交渉自体も、力による現状変更を既成事実化した後に外交で利益を確定させる典型例であった。

 シナイ半島は、イスラエルの「軍事力による先制支配と後の外交利用」という戦略思考の先駆的実践例であり、以降のレバノン侵攻、パレスチナ自治地域での占領政策にも連続している。

 2.1981年のオシラク原子炉攻撃(オペラ作戦)

 1981年6月7日、イスラエル空軍はイラクの首都バグダッド近郊のオシラク原子炉を奇襲爆撃し、未完成の原子炉を破壊した。この攻撃は、イラクが核兵器を開発する可能性があるという一方的な疑念に基づいて決行されたものである。

 このオシラク原子炉攻撃は、宣戦布告も国連安保理の承認もなく、国際社会の強い非難を浴びたにもかかわらず、イスラエルは「核拡散を未然に防いだ」と主張し続けた。

 重要なのは、今回のイラン核施設空爆と構図が完全に一致している点である。
イスラエルは過去にオシラク攻撃で得た「成功体験」を戦略文化として引き継ぎ、核開発疑惑のある国に対しては常に軍事攻撃を優先する態度を確立させた。

 この「先制破壊 doctrine」は、米国が2003年のイラク戦争で「先制攻撃 doctrine」を採用した背景にも影響を与えたとされ、両国の思考様式の近似性を裏付ける。

 3.これら事例が示す共通病理

 シナイ半島の先制占領も、オシラク原子炉の先制破壊も、いずれも正式な宣戦布告を経ずに相手国の中核的インフラを攻撃し、自国の「脅威除去」という論理だけで正当化してきた実例である。

 これらの実績は、イスラエルの外交・軍事方針に「予防攻撃をためらわない」という体質を定着させ、今回のイラン核施設攻撃にも直結している。

 米国もまた、冷戦後は同様の論理でユーゴスラビア空爆、アフガニスタン空爆、イラク攻撃を行った。形式的にはNATO決議や国連決議を理由とするが、根本には「他国の潜在的脅威を未然に潰す権利」を自国だけが持つという傲慢が存在する。

 結論

 シナイ半島の事例、1981年オシラク原子炉攻撃の事例を併せてみると、イスラエルは自国の安全保障を絶対視し、国際法秩序を超越する権利が自国にだけ許されると信じる行動様式を長年にわたり実践してきたことが分かる。

 この病理は米国と軌を一にしており、両国は国際社会の同意なく他国の核心インフラを破壊する「例外国家」としての地位を自ら確立してきた。

 今回のイラン核施設攻撃は、これらの先例を踏襲した最新事例に他ならない。
歴史は繰り返すのではなく、同じ構造の暴力が改良されつつ持続しているに過ぎないのである。

 これ迄の論述に続けて、1982年のレバノン侵攻と、継続するガザ紛争について補足する。いずれも「宣戦布告なき侵攻・先制攻撃・現状変更」というイスラエルの一貫した軍事的性格を示す具体例である。

 1.1982年レバノン侵攻

 イスラエルは1982年6月、当時レバノン南部に拠点を置いていたPLO(パレスチナ解放機構)を壊滅させる名目で大規模な地上侵攻を開始した。

 直接の口実は、ロンドンでのイスラエル大使館襲撃事件への報復であったが、襲撃はPLOではなく他組織の犯行と後に判明している。それにもかかわらず、イスラエルは「自衛権行使」としてベイルートまで侵攻し、PLOを国外追放に追い込んだ。

 侵攻後、南レバノンには親イスラエル派の南レバノン軍(SLA)を配置し、事実上の占領地として2000年まで駐留を続けた。この間、イスラエル軍とレバノン民兵勢力、後に台頭したヒズボラとの間で断続的な戦闘が継続した。

 この一連の侵攻と駐留も、正式な宣戦布告を経ておらず、「必要な防衛行動」の名で地域の軍事支配を恒常化した典型例である。

 また、この侵攻は多大な民間人犠牲を伴い、国際社会の激しい非難を浴びたが、イスラエルは「テロ根絶の正義」を理由に正当化を試みた。これは、米国が「対テロ戦争」で自国の介入を正当化する構造と同質である。

 2.ガザ紛争

 イスラエルとパレスチナのガザ地区の武装組織、特にハマスとの間の武力衝突は、21世紀に入ってからも断続的に発生している。

 2008年の「キャスト・レッド作戦」、2012年の「防衛の柱作戦」、2014年の「プロテクティブ・エッジ作戦」など、大規模空爆と地上作戦が繰り返されているが、いずれも宣戦布告はなされていない。

 イスラエルはロケット弾攻撃への報復という論理を掲げるが、実際にはガザ封鎖政策による住民の生活圧迫、指導層暗殺、重要インフラ破壊など、「紛争を根絶させる」というよりは「管理可能な敵」としてハマスを残しつつ、軍事優位を誇示する構造が続いている。

 結果としてガザ地区は半永久的な準封鎖状態に置かれ、住民は常に爆撃の恐怖に晒されている。この状態も、法的には戦争状態と認定されにくいため、イスラエルにとっては国際的非難を最小化しつつ一方的武力行使を可能とする手段となっている。

 追加事例が示す「無宣戦型恒常戦争」国家の証左

 レバノン侵攻もガザ紛争も、シナイ占領、オシラク原子炉攻撃と同様に、「自衛権」を拡大解釈して宣戦布告なしに他地域を攻撃・占領し、さらに現地で持続的支配または封鎖を行うという特徴を持つ。

 これは米国のベトナム戦争後の「警察行動」型戦争、あるいはテロとの戦いと構造が酷似しており、両国の軍事的体質が同じ論理に基づくものであることを補強している。

 また、この戦略は国際法を骨抜きにする前例を積み重ね、他国が同様の行動を取る際の口実ともなっている点で、世界秩序の不安定化に大きく寄与している。

 総括

 以上を総合すると、

 ・シナイ占領

 ・オシラク原子炉攻撃

 ・レバノン侵攻

 ・ガザ紛争

 そして今回のイラン核施設攻撃は、すべてイスラエルが「宣戦布告を経ずに既成事実を軍事力で作り、後で外交で調整する」という一貫した行動原理の延長線上に位置している。

 この手法は米国の「公式戦争なき戦争」と本質的に同じであり、両国が国際法の枠組みを恣意的に凌駕する例外国家として振る舞う構造は、今後も続くと考えざるを得ない。

 ベンヤミン・ネタニヤフ首相について、今回のイラン核施設攻撃を含む文脈、及びイスラエルの軍事的・政治的性格と絡めて概説する。

 1.ネタニヤフの基本的性格と政治手法

 ネタニヤフはイスラエル史上最長期の首相であり、右派政党リクードの中心人物として、強硬な安全保障路線と対イラン敵視政策を一貫して推進してきた人物である。

 彼の政治的特徴は、

 ・外敵を常に最大化して国民の危機意識を煽る

 ・安全保障を理由に強権的措置を正当化する

 ・国際世論を無視しても先制行動を断行する

 ・内政スキャンダルや政権危機の局面で対外軍事行動を利用する
に集約される。

 これは米国の歴代大統領、特にブッシュ政権やトランプ政権の「外敵設定による国内統合」と極めて近似している。

 2.イラン敵視政策の中核

 ネタニヤフは首相就任以来、イランをイスラエル最大の脅威と位置づけ、「イランの核開発は第二のホロコーストを生む」と繰り返し国際社会に訴えてきた。

 この脅威認識は、実際には米国諜報機関ですら一貫してイランの核兵器保有疑惑を明確に断定できていないにもかかわらず、ネタニヤフ政権の外交・安全保障戦略の核心であり続けている。

 その象徴が1981年のイラク原子炉攻撃の後継としての今回のイラン核施設攻撃であり、「ならず者国家が核兵器を持つ前に破壊せねばならない」という単独行動主義が再演された形である。

 3.政治的延命と軍事行動

 ネタニヤフはたびたび汚職疑惑などの司法問題に直面してきたが、そのたびに対外強硬路線を打ち出して支持基盤を固めてきた。

 今回のイラン攻撃も、国内での政権運営の行き詰まりや連立崩壊の危機を背景に、「外敵の脅威」を再提示し、政敵を黙らせる役割を果たしていると見る向きが多い。

 これは米国が大統領支持率低下時に「軍事行動」を利用する構造とほぼ同質であり、イスラエル政治においても「敵との戦争は内政の延命装置」と化している現実を如実に示している。

 総括

 ネタニヤフの存在は、イスラエルという国家の「無宣戦型先制攻撃」「軍事力による外交支配」の体質を最も体現する象徴的指導者であると同時に、その体質を肥大化させる張本人でもある。

 彼の下では、いかなる国際合意も最終的にはイスラエル単独の安全保障論理に従属させられ、必要とあらば合意を踏みにじってでも先制破壊を選ぶという行動原則が正当化される。

 したがって、今回のイラン攻撃は「イスラエルの軍事的性格そのものの表出」であると同時に、「ネタニヤフという人物の権力執着と恐怖政治の帰結」と言い切って差し支えない。

【寸評 完】🌺

【引用・参照・底本】

Israel strikes Iran's nuclear program as U.S. denies involvement AXIOS 2025.06.13
https://www.axios.com/2025/06/13/israel-strike-iran-trump-nuclear-talks?stream=world&utm_source=alert&utm_medium=email&utm_campaign=alerts_world

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