北朝鮮のスマートフォン市場 ― 2024年10月01日 21:51
【概要】
北朝鮮のスマートフォン市場は、国境制限の解除に伴い拡大している。2024年の報告書「北朝鮮のスマートフォン2024」によると、過去2年間で市場に出回るスマートフォンの種類が倍増し、少なくとも10社が消費者の注目を集めるために競争している。これらの企業は、異なる価格帯の複数のモデルを提供することで、消費者に選択肢を増やしている。
新たに販売されているスマートフォンは、ミッドレンジの国際的なモデルと同等の性能を持ちながら、使用可能な機能は制限されている。すべての北朝鮮のスマートフォンには、使用方法を監視・制限するソフトウェアがインストールされており、インターネットへのアクセスや国際的な通話、SMSの送受信はできない。しかし、約2400万人の人口を抱える北朝鮮では、携帯電話契約数は650万から700万件に達しており、固定電話(120万件)を大きく上回っている。
スマートフォンの人気は、情報を得たり、天気予報や制限されたメディア、ゲームにアクセスしたりする手段として重要である。近年、デジタル決済アプリも導入されており、国民の監視が強化される懸念がある中でも受け入れられている。
新たな動向として、北朝鮮のスマートフォンブランドが、異なる仕様を持つ複数のバージョンを提供するようになってきた。例えば、新しいHwawonスマートフォンは、500ドルと750ドルのモデルがあり、Jindallae 6は3つのモデル(6、6-1、6A)が存在する。
国境再開と市場の変化
北朝鮮のスマートフォンはすべて中国製で、2020年初頭に国境が封鎖された際には市場が大きく影響を受けた。しかし、2023年に国境が再開され、Pyongyangでの軽工業発展博覧会で新しいブランドやモデルが登場した。この博覧会では、従来のモデルよりも新しく、4G対応のスマートフォンも展示された。
4Gネットワークの導入
北朝鮮は2008年末から3Gネットワークを使用していたが、2023年に4Gネットワークが導入された。このアップグレードは、国境閉鎖によって数年間遅れていたと考えられている。新しいネットワークは、より速いデータ接続を提供し、新しいスマートフォンの需要をさらに高めることが期待されている。
セキュリティと制限
北朝鮮のスマートフォンは、ローカライズされたAndroidオペレーティングシステムが搭載されているが、世界の一般的なバージョンよりも使用制限が厳しい。ユーザーは承認されたネットワークにのみ接続でき、未承認のアプリのインストールは制限されている。また、違法メディアや外部情報にアクセスすることも禁止されている。
市場の見通し
多様なスマートフォンの登場と4Gネットワークの開始は、北朝鮮が国民に携帯電話の利用を許可することに利益を見出していることを示している。今後数年間でスマートフォン市場はさらに拡大すると予測されるが、国外の情報からは切り離されたままの「閉じられた環境」での発展にとどまるだろう。
【詳細】
北朝鮮のスマートフォン市場は、国境制限の緩和により急速に拡大している。2024年9月24日の報告によれば、過去2年間で国内のスマートフォンの種類が倍増し、少なくとも10社が市場で競争している。以下に、各要素を詳しく説明する。
1. スマートフォンの多様化
新たに販売されるスマートフォンのモデル数は55に達し、その中にはミッドレンジの性能を持つ機種が多く含まれている。これらのスマートフォンは、以下のような特徴を持っている。
・多機能カメラ:高解像度のマルチメガピクセルカメラを搭載しており、写真撮影の機能が強化されている。
・価格帯の多様化:企業は、異なる価格帯で複数のモデルを提供する戦略を採用しており、例えば、Hwawonのスマートフォンは500ドルと750ドルのモデルが存在する。750ドルのモデルは大画面で、より高機能である。
・製品戦略:スマートフォンのブランドは、AppleやSamsungの戦略に倣い、消費者に多様な選択肢を提供している。
2. 制限された機能
新しいスマートフォンは外見や性能は国際的な市場のミッドレンジ機種に似ているが、機能面では大きな制限がある。
・ソフトウェアの制約:すべてのスマートフォンには、使用を監視・制限する特別なソフトウェアがインストールされている。これにより、外部の情報やメディアへのアクセスが制限され、国家が許可したコンテンツのみを利用できるようになっている。
・ネットワーク制限:北朝鮮のネットワークでは、インターネットへのアクセスが完全に遮断されており、国際的な通話やメッセージの送受信もできない。これにより、情報の自由な流通が阻害されている。
3. 市場の背景と動向
2020年に国境が閉じられた際、北朝鮮のスマートフォン市場は大きな打撃を受けた。この制限により、新しいモデルの登場が数年間報じられることはなかった。しかし、2023年に国境が再開され、新たなブランドやモデルが市場に登場した。これには以下のような側面がある。
・新ブランドの台頭:Pothonggang New Technology Development CenterやPuksae Electronic Trading Co.など、これまで知られていなかった企業が新しいモデルを発表した。
・技術の進歩:展示されたスマートフォンには、これまで見られなかった4G対応機種が含まれ、技術的な進歩が示されている。
4. 4Gネットワークの導入
北朝鮮は2008年から3Gネットワークを利用していたが、速度が遅く、十分なデータ通信ができなかった。そのため、特定の地域では公衆Wi-Fiネットワークが導入されていた。2023年には4Gネットワークが導入され、以下の利点が考えられる。
・速度の向上:4Gネットワークはより速いデータ接続を提供し、スマートフォンの需要をさらに喚起することが期待されている。
・新たなサービスの可能性:より高速な通信により、今後は新しいアプリケーションやサービスの開発も期待される。
5. セキュリティと監視体制
北朝鮮のスマートフォンは、主に中国製のハードウェアに依存しているが、ソフトウェアは国内で独自に開発されている。これには以下のような特徴がある。
・ローカライズされたAndroid OS:北朝鮮独自の制限を多く受けたバージョンが搭載されており、未承認のアプリのインストールや外国メディアの視聴が禁止されている。
・政府による監視:ユーザーの行動はすべて監視されており、国家の許可を受けた情報のみが利用可能である。
6. 市場の展望
多様なスマートフォンのラインナップや4Gネットワークの導入は、北朝鮮が国民に携帯電話を利用させることに対して利益を見出していることを示している。今後もスマートフォン市場は拡大すると予測されるが、すべての機能は国家の厳格な管理下に置かれた「閉じられた環境」に限定されるだろう。この状況は、外部からの情報流入を防ぐ一方で、国内の情報交換手段を強化している。
【要点】
北朝鮮のスマートフォン市場の現状について箇条書きで説明する。
スマートフォン市場の拡大
・モデル数の増加:過去2年間でスマートフォンの種類が倍増し、現在55種類が市場に出回っている。
・競争の激化:少なくとも10社が市場で競争している。
スマートフォンの特徴
・性能:ミッドレンジのスマートフォンが多く、マルチメガピクセルカメラを搭載。
・価格帯:複数のモデルが異なる価格帯で提供されており、例えばHwawonのスマートフォンは500ドルと750ドルのモデルが存在。
・企業の戦略:AppleやSamsungのように、消費者に多様な選択肢を提供する傾向が見られる。
制限された機能
・監視ソフトウェア:全てのスマートフォンには使用を監視・制限する特別なソフトウェアがインストールされている。
・ネットワーク制約:インターネットへのアクセスが完全に遮断され、国際的な通話やSMSの送受信もできない。
国境再開と市場の変化
・国境閉鎖の影響:2020年の国境閉鎖により市場が大きく打撃を受け、新モデルの登場が報じられなかった。
・新ブランドの登場:2023年に国境が再開され、Pothonggang New Technology Development Centerなどの新ブランドが市場に参入。
・4G対応機種の発表:新しいスマートフォンには4G対応モデルが含まれ、技術の進歩が見られる。
4Gネットワークの導入
・ネットワークの改善:2008年からの3Gネットワークに代わり、2023年に4Gネットワークが導入。
・データ速度の向上:4Gはより速いデータ接続を提供し、新たなサービスやアプリの需要を喚起する期待がある。
セキュリティと監視体制
・ローカライズされたOS:北朝鮮独自の制限を受けたAndroid OSが搭載され、未承認のアプリのインストールが禁止されている。
・政府の監視:ユーザーの行動はすべて監視され、国家が許可した情報のみが利用可能。
市場の展望
・拡大が見込まれる:スマートフォン市場は今後も拡大すると予測されるが、すべての機能は国家の管理下にある。
・情報の閉鎖:外部情報の流入を防ぎつつ、国内の情報交換手段を強化する状況が続いている。
【引用・参照・底本】
North Korea’s Smartphone Market Expands as Border Restrictions End 38NORTH 2024.09.24
https://www.38north.org/2024/09/north-koreas-smartphone-market-expands-as-border-restrictions-end/n_all&utm_term=ESPZZ004OX&utm_content=20241001
北朝鮮のスマートフォン市場は、国境制限の解除に伴い拡大している。2024年の報告書「北朝鮮のスマートフォン2024」によると、過去2年間で市場に出回るスマートフォンの種類が倍増し、少なくとも10社が消費者の注目を集めるために競争している。これらの企業は、異なる価格帯の複数のモデルを提供することで、消費者に選択肢を増やしている。
新たに販売されているスマートフォンは、ミッドレンジの国際的なモデルと同等の性能を持ちながら、使用可能な機能は制限されている。すべての北朝鮮のスマートフォンには、使用方法を監視・制限するソフトウェアがインストールされており、インターネットへのアクセスや国際的な通話、SMSの送受信はできない。しかし、約2400万人の人口を抱える北朝鮮では、携帯電話契約数は650万から700万件に達しており、固定電話(120万件)を大きく上回っている。
スマートフォンの人気は、情報を得たり、天気予報や制限されたメディア、ゲームにアクセスしたりする手段として重要である。近年、デジタル決済アプリも導入されており、国民の監視が強化される懸念がある中でも受け入れられている。
新たな動向として、北朝鮮のスマートフォンブランドが、異なる仕様を持つ複数のバージョンを提供するようになってきた。例えば、新しいHwawonスマートフォンは、500ドルと750ドルのモデルがあり、Jindallae 6は3つのモデル(6、6-1、6A)が存在する。
国境再開と市場の変化
北朝鮮のスマートフォンはすべて中国製で、2020年初頭に国境が封鎖された際には市場が大きく影響を受けた。しかし、2023年に国境が再開され、Pyongyangでの軽工業発展博覧会で新しいブランドやモデルが登場した。この博覧会では、従来のモデルよりも新しく、4G対応のスマートフォンも展示された。
4Gネットワークの導入
北朝鮮は2008年末から3Gネットワークを使用していたが、2023年に4Gネットワークが導入された。このアップグレードは、国境閉鎖によって数年間遅れていたと考えられている。新しいネットワークは、より速いデータ接続を提供し、新しいスマートフォンの需要をさらに高めることが期待されている。
セキュリティと制限
北朝鮮のスマートフォンは、ローカライズされたAndroidオペレーティングシステムが搭載されているが、世界の一般的なバージョンよりも使用制限が厳しい。ユーザーは承認されたネットワークにのみ接続でき、未承認のアプリのインストールは制限されている。また、違法メディアや外部情報にアクセスすることも禁止されている。
市場の見通し
多様なスマートフォンの登場と4Gネットワークの開始は、北朝鮮が国民に携帯電話の利用を許可することに利益を見出していることを示している。今後数年間でスマートフォン市場はさらに拡大すると予測されるが、国外の情報からは切り離されたままの「閉じられた環境」での発展にとどまるだろう。
【詳細】
北朝鮮のスマートフォン市場は、国境制限の緩和により急速に拡大している。2024年9月24日の報告によれば、過去2年間で国内のスマートフォンの種類が倍増し、少なくとも10社が市場で競争している。以下に、各要素を詳しく説明する。
1. スマートフォンの多様化
新たに販売されるスマートフォンのモデル数は55に達し、その中にはミッドレンジの性能を持つ機種が多く含まれている。これらのスマートフォンは、以下のような特徴を持っている。
・多機能カメラ:高解像度のマルチメガピクセルカメラを搭載しており、写真撮影の機能が強化されている。
・価格帯の多様化:企業は、異なる価格帯で複数のモデルを提供する戦略を採用しており、例えば、Hwawonのスマートフォンは500ドルと750ドルのモデルが存在する。750ドルのモデルは大画面で、より高機能である。
・製品戦略:スマートフォンのブランドは、AppleやSamsungの戦略に倣い、消費者に多様な選択肢を提供している。
2. 制限された機能
新しいスマートフォンは外見や性能は国際的な市場のミッドレンジ機種に似ているが、機能面では大きな制限がある。
・ソフトウェアの制約:すべてのスマートフォンには、使用を監視・制限する特別なソフトウェアがインストールされている。これにより、外部の情報やメディアへのアクセスが制限され、国家が許可したコンテンツのみを利用できるようになっている。
・ネットワーク制限:北朝鮮のネットワークでは、インターネットへのアクセスが完全に遮断されており、国際的な通話やメッセージの送受信もできない。これにより、情報の自由な流通が阻害されている。
3. 市場の背景と動向
2020年に国境が閉じられた際、北朝鮮のスマートフォン市場は大きな打撃を受けた。この制限により、新しいモデルの登場が数年間報じられることはなかった。しかし、2023年に国境が再開され、新たなブランドやモデルが市場に登場した。これには以下のような側面がある。
・新ブランドの台頭:Pothonggang New Technology Development CenterやPuksae Electronic Trading Co.など、これまで知られていなかった企業が新しいモデルを発表した。
・技術の進歩:展示されたスマートフォンには、これまで見られなかった4G対応機種が含まれ、技術的な進歩が示されている。
4. 4Gネットワークの導入
北朝鮮は2008年から3Gネットワークを利用していたが、速度が遅く、十分なデータ通信ができなかった。そのため、特定の地域では公衆Wi-Fiネットワークが導入されていた。2023年には4Gネットワークが導入され、以下の利点が考えられる。
・速度の向上:4Gネットワークはより速いデータ接続を提供し、スマートフォンの需要をさらに喚起することが期待されている。
・新たなサービスの可能性:より高速な通信により、今後は新しいアプリケーションやサービスの開発も期待される。
5. セキュリティと監視体制
北朝鮮のスマートフォンは、主に中国製のハードウェアに依存しているが、ソフトウェアは国内で独自に開発されている。これには以下のような特徴がある。
・ローカライズされたAndroid OS:北朝鮮独自の制限を多く受けたバージョンが搭載されており、未承認のアプリのインストールや外国メディアの視聴が禁止されている。
・政府による監視:ユーザーの行動はすべて監視されており、国家の許可を受けた情報のみが利用可能である。
6. 市場の展望
多様なスマートフォンのラインナップや4Gネットワークの導入は、北朝鮮が国民に携帯電話を利用させることに対して利益を見出していることを示している。今後もスマートフォン市場は拡大すると予測されるが、すべての機能は国家の厳格な管理下に置かれた「閉じられた環境」に限定されるだろう。この状況は、外部からの情報流入を防ぐ一方で、国内の情報交換手段を強化している。
【要点】
北朝鮮のスマートフォン市場の現状について箇条書きで説明する。
スマートフォン市場の拡大
・モデル数の増加:過去2年間でスマートフォンの種類が倍増し、現在55種類が市場に出回っている。
・競争の激化:少なくとも10社が市場で競争している。
スマートフォンの特徴
・性能:ミッドレンジのスマートフォンが多く、マルチメガピクセルカメラを搭載。
・価格帯:複数のモデルが異なる価格帯で提供されており、例えばHwawonのスマートフォンは500ドルと750ドルのモデルが存在。
・企業の戦略:AppleやSamsungのように、消費者に多様な選択肢を提供する傾向が見られる。
制限された機能
・監視ソフトウェア:全てのスマートフォンには使用を監視・制限する特別なソフトウェアがインストールされている。
・ネットワーク制約:インターネットへのアクセスが完全に遮断され、国際的な通話やSMSの送受信もできない。
国境再開と市場の変化
・国境閉鎖の影響:2020年の国境閉鎖により市場が大きく打撃を受け、新モデルの登場が報じられなかった。
・新ブランドの登場:2023年に国境が再開され、Pothonggang New Technology Development Centerなどの新ブランドが市場に参入。
・4G対応機種の発表:新しいスマートフォンには4G対応モデルが含まれ、技術の進歩が見られる。
4Gネットワークの導入
・ネットワークの改善:2008年からの3Gネットワークに代わり、2023年に4Gネットワークが導入。
・データ速度の向上:4Gはより速いデータ接続を提供し、新たなサービスやアプリの需要を喚起する期待がある。
セキュリティと監視体制
・ローカライズされたOS:北朝鮮独自の制限を受けたAndroid OSが搭載され、未承認のアプリのインストールが禁止されている。
・政府の監視:ユーザーの行動はすべて監視され、国家が許可した情報のみが利用可能。
市場の展望
・拡大が見込まれる:スマートフォン市場は今後も拡大すると予測されるが、すべての機能は国家の管理下にある。
・情報の閉鎖:外部情報の流入を防ぎつつ、国内の情報交換手段を強化する状況が続いている。
【引用・参照・底本】
North Korea’s Smartphone Market Expands as Border Restrictions End 38NORTH 2024.09.24
https://www.38north.org/2024/09/north-koreas-smartphone-market-expands-as-border-restrictions-end/n_all&utm_term=ESPZZ004OX&utm_content=20241001