「ウクライナ軍団」創設失敗 ― 2024年10月05日 20:05
【概要】
ポーランドとウクライナの間で昨年結ばれた安全保障協定の一環として、ポーランドが計画していた「ウクライナ軍団」の創設が失敗に終わったことが報告されている。ポーランドの国防大臣、ウワディスワフ・コシニャク=カミシュが先週その事実を認めた。彼によれば、当初のウクライナ側の予測では数千人規模の兵士が集まるとされていたが、実際にはその人数に遠く及ばない結果となった。
ウクライナ国防省のデータによると、ポーランドに滞在する徴兵適齢期のウクライナ人は約30万人と推定される中、ルブリンに設置された新しい採用事務所のウェブサイトを通じて138件の応募があった他、領事館を通じて58件の応募があったのみである。これは、ポーランドの外務大臣ラデク・シコルスキが当初予想していた「数千人」という数字にはほど遠いものであった。
この記事では、この結果から以下の3点を指摘している。
1.徴兵適齢期のウクライナ人が戦闘を避けていること
ポーランドにいる徴兵適齢期のウクライナ人は、戦闘を避けるために自国を離れたと考えられる。彼らは戦場の現実を目の当たりにし、生存の可能性が低いことを理解している。そのため、他の徴兵適齢期のウクライナ人が国内で強制的に徴兵されている現状があるにもかかわらず、自ら戦いに参加しようとはしない。
2.ウクライナ政府の対応の遅れ
ウクライナ政府は、この現実を受け入れており、十分なリソースを投入して募集活動を行なわなかった。本来であれば、腐敗の温床となり得るプロジェクトでもあったにもかかわらず、政府はそれにさえほとんど関心を持たなかったとしている。これは、失敗が予見され、無駄なリソースの投入が明らかになることを避けたかった可能性があると示唆されている。
3.ポーランドが強制徴兵を行わなかったこと
ポーランドはウクライナ人を強制的に徴兵することも、彼らを送還してウクライナでの強制徴兵を行わせることもしなかった。このような措置は、ポーランド経済に悪影響を与え、景気後退を引き起こす可能性があると考えられたためである。ウクライナ人労働者は「代替移民」として経済的に重要な存在であり、彼らを失うことは経済的損失につながるという見解が示されている。
これにより、「ウクライナ軍団」の計画は失敗する運命にあったことが明確になった。ポーランドが強制的に徴兵する以外に成功する方法はなかったものの、法律的および経済的な制約があり、それは不可能だったと結論付けられている。
最終的に、この状況は、西側諸国がウクライナへの支援を継続するかどうかに疑問を投げかけるものとなっている。ウクライナ自身の徴兵適齢期の市民が戦う意思を持たない場合、西側の支援を縮小するという選択肢が現実的になるかもしれないと示唆されている。ウクライナが紛争で最大限の目標を達成することは不可能であり、妥協が唯一の解決策であることが次第に明らかになってきているという見解が強調されている。
【詳細】
ポーランドがウクライナとの安全保障協定の一環として「ウクライナ軍団」を結成しようとしたものの、その試みが失敗に終わった理由について詳述されている。以下では、より詳しく説明する。
背景と「ウクライナ軍団」構想の概要
ポーランドとウクライナは、昨年夏に安全保障協定を結び、その一環として「ウクライナ軍団」というウクライナ人志願兵で構成された部隊を創設する計画を立てた。この部隊は、ウクライナ人が自国の防衛に参加することを促進し、ウクライナの戦力強化に寄与することを目的としていた。
ポーランドの国防大臣ウワディスワフ・コシニャク=カミシュによると、当初のウクライナ側からの見込みでは、この軍団は数千人規模の部隊になるはずであった。しかし、実際にはほとんど志願者が集まらず、この計画は失敗に終わったと彼は認めている。
失敗の要因
この「ウクライナ軍団」の失敗について以下の3つの要因を指摘している。
1. 戦闘を避けるウクライナ人
最も強調する要因は、ポーランドにいる徴兵適齢期のウクライナ人が戦闘を避けているという現実である。ウクライナの戦争における最前線の厳しさを見聞きしている彼らは、帰国して戦闘に参加することに対して強い抵抗感を抱いている。彼らは、自国に戻れば強制的に徴兵され、極めて低い生存確率の中で戦わなければならないという事実を理解している。そのため、ウクライナ人がポーランドに滞在し続けている理由の一つは、戦争を避けたいという意図に基づいていると考えられる。
ウクライナ国防省のデータによれば、ポーランドには約30万人の徴兵適齢期のウクライナ人が滞在していると推定されているが、「ウクライナ軍団」に応募したのは138人、さらに領事館を通じて58人に過ぎない。これは、当初の数千人規模の見込みとは大きな乖離があり、彼らがいかに戦闘に参加する意思を持っていないかを示している。
2. ウクライナ政府の対応
次に、ウクライナ政府自体もこの現実に気づいており、あまり積極的な募集活動を行わなかったと記事は指摘している。通常、このような軍事プロジェクトは汚職の温床になりやすく、官僚や政治家が自らの利益を追求するために利用する可能性があるが、今回はそのような腐敗的な活動もほとんど見られなかった。ウクライナ政府は、このプロジェクトが失敗する可能性が高いことを認識しており、大きなリソースを投入しなかったと考えられる。
ウクライナ政府がこのプロジェクトに対して消極的だった背景には、万が一失敗した場合にリソースの無駄遣いが明らかになり、国際的に批判される可能性があるという懸念があったと推測されている。したがって、政府としてもこのプロジェクトを大々的に推進するリスクを避けたのではないかとされている。
3. ポーランドの経済的・法律的制約
最後に、ポーランドが徴兵適齢期のウクライナ人を強制的に徴兵したり、ウクライナに送り返して強制的に徴兵させたりすることができなかったことも、計画が失敗した一因として挙げられている。ポーランドでは、ウクライナ人の労働力が経済を支える「代替移民」として重要視されており、彼らを強制的に送り返すことは経済に悪影響を与えると考えられている。
もしポーランドが強制的な徴兵を実施していた場合、国内経済が悪化し、景気後退に陥る可能性があったと指摘している。ポーランド政府としても、このようなリスクを冒すことはできず、その結果、強制的な手段による徴兵は行われなかったという見方が示されている。
結果と影響
こうして、「ウクライナ軍団」は結成されることなく、計画は事実上失敗に終わった。この失敗は、西側諸国がウクライナに対する支援をどのように継続するべきかを再考するきっかけになる可能性がある。徴兵適齢期のウクライナ人が自国の防衛に参加する意思を持たない中で、国際社会がどこまでウクライナを支援し続けるべきかという疑問が浮かび上がってくる。
ウクライナは戦争で最大の目標を達成することは難しく、最終的には妥協が避けられないとされている。この現実が次第に明らかになるにつれ、西側諸国の支援規模が縮小される可能性もあるという見通しが示されている。
結論
ポーランドが計画した「ウクライナ軍団」の失敗は、ウクライナ人の戦争参加への消極性、ウクライナ政府の対応の遅れ、そしてポーランドの経済的・法律的制約という複数の要因が重なった結果であった。この失敗は、ウクライナの戦争継続における困難さと、それに対する西側諸国の支援のあり方について、新たな議論を引き起こす要因となる可能性がある。
【要点】
・背景
ポーランドとウクライナは昨年、安全保障協定を結び、「ウクライナ軍団」というウクライナ人志願兵による部隊を創設する計画を立てた。
・計画の失敗
ポーランドの国防大臣ウワディスワフ・コシニャク=カミシュは、この軍団が失敗に終わったことを認め、数千人規模の兵士が集まるというウクライナ側の予測に反して、応募者が非常に少なかったと報告した。
・徴兵適齢期のウクライナ人が戦闘を避ける
ポーランドに滞在する30万人の徴兵適齢期ウクライナ人のうち、実際に応募したのはウェブサイトで138人、領事館で58人のみ。彼らはウクライナの戦況を把握しており、命を危険にさらしたくないために戦闘を避けていると考えられる。
・ウクライナ政府の対応の遅れ
ウクライナ政府はこの現実を理解しており、積極的な募集活動を行わなかった。失敗が予見されるプロジェクトにリソースを投じるリスクを避けたため、腐敗による利益追求すら行われなかった可能性がある。
・ポーランドの経済的・法律的制約
ポーランドはウクライナ人を強制的に徴兵したり、送り返して強制的に徴兵させたりすることができなかった。ウクライナ人労働者がポーランド経済にとって重要な「代替移民」として位置付けられており、彼らを失うことは経済に悪影響を与えると考えられたためである。
・結果と影響
「ウクライナ軍団」の失敗により、ウクライナの戦争継続に対する西側諸国の支援が今後どのように変わるかについての疑問が生じる。徴兵適齢期のウクライナ人が自国の防衛に参加しない中で、支援の縮小が現実的になる可能性がある。
結論
複数の要因が重なり、「ウクライナ軍団」の計画は失敗した。この失敗は、ウクライナの戦争目標達成の困難さを浮き彫りにし、西側諸国の支援のあり方について新たな議論を引き起こす可能性がある。
【引用・参照・底本】
Poland’s “Ukrainian Legion” Flopped Andrew Korybko's Newsletter 2024.10.05
https://korybko.substack.com/p/polands-ukrainian-legion-flopped?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=149837122&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ポーランドとウクライナの間で昨年結ばれた安全保障協定の一環として、ポーランドが計画していた「ウクライナ軍団」の創設が失敗に終わったことが報告されている。ポーランドの国防大臣、ウワディスワフ・コシニャク=カミシュが先週その事実を認めた。彼によれば、当初のウクライナ側の予測では数千人規模の兵士が集まるとされていたが、実際にはその人数に遠く及ばない結果となった。
ウクライナ国防省のデータによると、ポーランドに滞在する徴兵適齢期のウクライナ人は約30万人と推定される中、ルブリンに設置された新しい採用事務所のウェブサイトを通じて138件の応募があった他、領事館を通じて58件の応募があったのみである。これは、ポーランドの外務大臣ラデク・シコルスキが当初予想していた「数千人」という数字にはほど遠いものであった。
この記事では、この結果から以下の3点を指摘している。
1.徴兵適齢期のウクライナ人が戦闘を避けていること
ポーランドにいる徴兵適齢期のウクライナ人は、戦闘を避けるために自国を離れたと考えられる。彼らは戦場の現実を目の当たりにし、生存の可能性が低いことを理解している。そのため、他の徴兵適齢期のウクライナ人が国内で強制的に徴兵されている現状があるにもかかわらず、自ら戦いに参加しようとはしない。
2.ウクライナ政府の対応の遅れ
ウクライナ政府は、この現実を受け入れており、十分なリソースを投入して募集活動を行なわなかった。本来であれば、腐敗の温床となり得るプロジェクトでもあったにもかかわらず、政府はそれにさえほとんど関心を持たなかったとしている。これは、失敗が予見され、無駄なリソースの投入が明らかになることを避けたかった可能性があると示唆されている。
3.ポーランドが強制徴兵を行わなかったこと
ポーランドはウクライナ人を強制的に徴兵することも、彼らを送還してウクライナでの強制徴兵を行わせることもしなかった。このような措置は、ポーランド経済に悪影響を与え、景気後退を引き起こす可能性があると考えられたためである。ウクライナ人労働者は「代替移民」として経済的に重要な存在であり、彼らを失うことは経済的損失につながるという見解が示されている。
これにより、「ウクライナ軍団」の計画は失敗する運命にあったことが明確になった。ポーランドが強制的に徴兵する以外に成功する方法はなかったものの、法律的および経済的な制約があり、それは不可能だったと結論付けられている。
最終的に、この状況は、西側諸国がウクライナへの支援を継続するかどうかに疑問を投げかけるものとなっている。ウクライナ自身の徴兵適齢期の市民が戦う意思を持たない場合、西側の支援を縮小するという選択肢が現実的になるかもしれないと示唆されている。ウクライナが紛争で最大限の目標を達成することは不可能であり、妥協が唯一の解決策であることが次第に明らかになってきているという見解が強調されている。
【詳細】
ポーランドがウクライナとの安全保障協定の一環として「ウクライナ軍団」を結成しようとしたものの、その試みが失敗に終わった理由について詳述されている。以下では、より詳しく説明する。
背景と「ウクライナ軍団」構想の概要
ポーランドとウクライナは、昨年夏に安全保障協定を結び、その一環として「ウクライナ軍団」というウクライナ人志願兵で構成された部隊を創設する計画を立てた。この部隊は、ウクライナ人が自国の防衛に参加することを促進し、ウクライナの戦力強化に寄与することを目的としていた。
ポーランドの国防大臣ウワディスワフ・コシニャク=カミシュによると、当初のウクライナ側からの見込みでは、この軍団は数千人規模の部隊になるはずであった。しかし、実際にはほとんど志願者が集まらず、この計画は失敗に終わったと彼は認めている。
失敗の要因
この「ウクライナ軍団」の失敗について以下の3つの要因を指摘している。
1. 戦闘を避けるウクライナ人
最も強調する要因は、ポーランドにいる徴兵適齢期のウクライナ人が戦闘を避けているという現実である。ウクライナの戦争における最前線の厳しさを見聞きしている彼らは、帰国して戦闘に参加することに対して強い抵抗感を抱いている。彼らは、自国に戻れば強制的に徴兵され、極めて低い生存確率の中で戦わなければならないという事実を理解している。そのため、ウクライナ人がポーランドに滞在し続けている理由の一つは、戦争を避けたいという意図に基づいていると考えられる。
ウクライナ国防省のデータによれば、ポーランドには約30万人の徴兵適齢期のウクライナ人が滞在していると推定されているが、「ウクライナ軍団」に応募したのは138人、さらに領事館を通じて58人に過ぎない。これは、当初の数千人規模の見込みとは大きな乖離があり、彼らがいかに戦闘に参加する意思を持っていないかを示している。
2. ウクライナ政府の対応
次に、ウクライナ政府自体もこの現実に気づいており、あまり積極的な募集活動を行わなかったと記事は指摘している。通常、このような軍事プロジェクトは汚職の温床になりやすく、官僚や政治家が自らの利益を追求するために利用する可能性があるが、今回はそのような腐敗的な活動もほとんど見られなかった。ウクライナ政府は、このプロジェクトが失敗する可能性が高いことを認識しており、大きなリソースを投入しなかったと考えられる。
ウクライナ政府がこのプロジェクトに対して消極的だった背景には、万が一失敗した場合にリソースの無駄遣いが明らかになり、国際的に批判される可能性があるという懸念があったと推測されている。したがって、政府としてもこのプロジェクトを大々的に推進するリスクを避けたのではないかとされている。
3. ポーランドの経済的・法律的制約
最後に、ポーランドが徴兵適齢期のウクライナ人を強制的に徴兵したり、ウクライナに送り返して強制的に徴兵させたりすることができなかったことも、計画が失敗した一因として挙げられている。ポーランドでは、ウクライナ人の労働力が経済を支える「代替移民」として重要視されており、彼らを強制的に送り返すことは経済に悪影響を与えると考えられている。
もしポーランドが強制的な徴兵を実施していた場合、国内経済が悪化し、景気後退に陥る可能性があったと指摘している。ポーランド政府としても、このようなリスクを冒すことはできず、その結果、強制的な手段による徴兵は行われなかったという見方が示されている。
結果と影響
こうして、「ウクライナ軍団」は結成されることなく、計画は事実上失敗に終わった。この失敗は、西側諸国がウクライナに対する支援をどのように継続するべきかを再考するきっかけになる可能性がある。徴兵適齢期のウクライナ人が自国の防衛に参加する意思を持たない中で、国際社会がどこまでウクライナを支援し続けるべきかという疑問が浮かび上がってくる。
ウクライナは戦争で最大の目標を達成することは難しく、最終的には妥協が避けられないとされている。この現実が次第に明らかになるにつれ、西側諸国の支援規模が縮小される可能性もあるという見通しが示されている。
結論
ポーランドが計画した「ウクライナ軍団」の失敗は、ウクライナ人の戦争参加への消極性、ウクライナ政府の対応の遅れ、そしてポーランドの経済的・法律的制約という複数の要因が重なった結果であった。この失敗は、ウクライナの戦争継続における困難さと、それに対する西側諸国の支援のあり方について、新たな議論を引き起こす要因となる可能性がある。
【要点】
・背景
ポーランドとウクライナは昨年、安全保障協定を結び、「ウクライナ軍団」というウクライナ人志願兵による部隊を創設する計画を立てた。
・計画の失敗
ポーランドの国防大臣ウワディスワフ・コシニャク=カミシュは、この軍団が失敗に終わったことを認め、数千人規模の兵士が集まるというウクライナ側の予測に反して、応募者が非常に少なかったと報告した。
・徴兵適齢期のウクライナ人が戦闘を避ける
ポーランドに滞在する30万人の徴兵適齢期ウクライナ人のうち、実際に応募したのはウェブサイトで138人、領事館で58人のみ。彼らはウクライナの戦況を把握しており、命を危険にさらしたくないために戦闘を避けていると考えられる。
・ウクライナ政府の対応の遅れ
ウクライナ政府はこの現実を理解しており、積極的な募集活動を行わなかった。失敗が予見されるプロジェクトにリソースを投じるリスクを避けたため、腐敗による利益追求すら行われなかった可能性がある。
・ポーランドの経済的・法律的制約
ポーランドはウクライナ人を強制的に徴兵したり、送り返して強制的に徴兵させたりすることができなかった。ウクライナ人労働者がポーランド経済にとって重要な「代替移民」として位置付けられており、彼らを失うことは経済に悪影響を与えると考えられたためである。
・結果と影響
「ウクライナ軍団」の失敗により、ウクライナの戦争継続に対する西側諸国の支援が今後どのように変わるかについての疑問が生じる。徴兵適齢期のウクライナ人が自国の防衛に参加しない中で、支援の縮小が現実的になる可能性がある。
結論
複数の要因が重なり、「ウクライナ軍団」の計画は失敗した。この失敗は、ウクライナの戦争目標達成の困難さを浮き彫りにし、西側諸国の支援のあり方について新たな議論を引き起こす可能性がある。
【引用・参照・底本】
Poland’s “Ukrainian Legion” Flopped Andrew Korybko's Newsletter 2024.10.05
https://korybko.substack.com/p/polands-ukrainian-legion-flopped?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=149837122&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email