中国:イスラエルの合理的な安全保障上の懸念に言及2024年10月12日 17:53

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【概要】

 中国がイスラエルの「合理的な安全保障上の懸念」に言及した理由は、現在の地域的な軍事外交情勢がイスラエル側に有利に転じたため、影響力を維持するために政策を再調整する必要があると判断したからである。中国外務省の報道官、毛寧は2024年10月に行われた記者会見で、パレスチナ人の「正当な民族的権利」と同時に、イスラエルの「合理的な安全保障上の懸念」にも配慮する必要があると述べた。この発言は、中国の以前の立場からの変化として認識されており、記者が確認を求めたのもそのためである。

 これまで中国は、イスラエルのガザに対する軍事作戦に対し厳しい批判を展開してきたが、その一方で、行動に移すことはなく、制裁などは行っていなかった。この姿勢は、中国が柔軟に方針を変える余地を残しており、状況に応じて調整可能であることを示している。現在、イスラエルが過去1か月間に行ったヒズボラに対する壊滅的な攻撃や、ヒズボラの副指導者がガザ作戦の停止を条件としない停戦を初めて支持したこと、さらにはイランとの秘密の米・アラブ協議が報じられる中で、軍事外交情勢が変化した。

 中国と同様に、ロシアもイスラエルに対して厳しい批判を行ってきたが、制裁や「非友好的な国」との指定は行っていなかった。両国とも以前からイスラエルの安全保障の重要性について言及していたが、厳しい批判に隠れていたため、今回改めてその点を強調する必要性が出てきた。特に、イスラエル側がより有利な立場になりつつあるため、将来の和平交渉において中国やロシアが招かれない可能性を避けるためにも、イスラエルの安全保障に配慮する姿勢を示すことが重要となっている。

 また、イスラエルが抵抗勢力(ヒズボラや他の組織)と個別に交渉を行う可能性や、米国やアラブ諸国を介した調停に頼る可能性もある。いずれにせよ、中国が今後地域の平和交渉や戦後の地域的な未来において有利な立場を確保するためには、イスラエルの立場を尊重する姿勢を示すことが戦略的に重要であると考えられている。
 
【詳細】

 中国がイスラエルの「合理的な安全保障上の懸念」に言及した背景には、現状の軍事・外交情勢が大きく変化しつつある点が重要である。特に、中国はこれまでパレスチナ問題においてイスラエルに対して厳しい批判を行ってきたものの、実際の行動には移さず、柔軟に政策を調整できる余地を残していた。この中国の姿勢は、状況が変われば方針を転換できるということを示している。今回の発言は、まさにその方針の調整を示すものであり、特にイスラエルとの関係において、将来的な影響力を確保するための戦略的な動きだと解釈できる。

 まず、中国がイスラエルに対して以前より厳しい姿勢を取っていた理由は、パレスチナ問題での立場を強調し、イスラム諸国や中東地域の多数を占めるムスリム人口に支持を得るためであった。これにより、中国は地域的な影響力を強化しようとしていたのである。しかし、イスラエルがヒズボラに対して行った攻撃が効果を上げ、ヒズボラの副指導者がガザ作戦停止を条件としない停戦を支持したこと、さらにはアメリカとアラブ諸国がイランとの間で秘密裏に地域的な停戦協議を行っているという報道が出たことにより、情勢がイスラエルに有利に変わりつつある。この変化が、中国の政策調整を促した主要な要因である。

 中国はこれまで、イスラエルに対して厳しい発言をしつつも、制裁などの具体的な行動を取ってこなかった。これは、状況が変化した場合に柔軟に対応する余地を残しておくためである。同じように、ロシアもイスラエルに対して批判的な発言をしながらも、制裁を課したり、イスラエルを「非友好的な国」として指定したりはしていない。両国とも、イスラエルの安全保障に配慮する姿勢を示しつつも、批判的なトーンを保ってきた。つまり、両国ともイスラエルとの関係を完全に断つわけではなく、地域情勢の変化に応じて柔軟に方針を調整する余地を持っていたのである。

 軍事的・外交的な状況がイスラエルに有利に転じた今、中国とロシアはこれまでの厳しい批判から、よりバランスの取れた姿勢にシフトしている。イスラエルが現時点で戦場や外交のテーブルにおいて優位に立っているため、将来の和平交渉において中国やロシアが参加するためには、イスラエルの安全保障上の懸念に配慮する姿勢を示すことが不可欠である。もし中国やロシアが依然としてイスラエルを強く批判し続けた場合、イスラエル側がそれを理由に両国を和平交渉の場から排除する可能性がある。そのため、両国はイスラエルの合理的な安全保障上の懸念を認めることで、将来的な交渉参加の可能性を確保しようとしていると考えられる。

 さらに、イスラエルがヒズボラや他の抵抗勢力と個別に交渉を行う可能性や、アメリカやアラブ諸国が調停を行う可能性もある。このような形で多国間の交渉が行われる場合、中国やロシアが交渉の場から排除されるリスクが高まる。したがって、両国がイスラエルの安全保障上の懸念に配慮する姿勢を強調することで、少なくともイスラエル側からの排除を避け、地域的な影響力を維持しようとしていると見られる.

結論として、中国がイスラエルの「合理的な安全保障上の懸念」に言及したのは、現地の軍事外交情勢がイスラエルに有利に変わりつつあり、将来的な和平交渉や地域の再構築において影響力を確保するために、バランスの取れた外交姿勢を取る必要があると判断したからです。
 
【要点】

 ・中国はこれまでイスラエルを厳しく批判し、パレスチナ問題でムスリム諸国の支持を得ていた。
 ・イスラエルがヒズボラに対して大規模な攻撃を成功させ、ヒズボラ側も停戦を支持するなど、地域の軍事・外交情勢がイスラエルに有利に変化した。
 ・アメリカとアラブ諸国がイランと地域的な停戦協議を進めていることも、イスラエル側の優位性を強める要因となっている。
 ・中国とロシアは、イスラエルを批判しつつも具体的な制裁などを行わず、方針の調整余地を残していた。
 ・イスラエルの優位性が高まった現在、中国やロシアは厳しい批判からバランスの取れた姿勢にシフトし、イスラエルの安全保障上の懸念に配慮し始めた。
 ・これにより、将来的な和平交渉で中国やロシアが参加する可能性を確保し、イスラエル側から交渉の場から排除されるリスクを避けようとしている。
 ・イスラエルが抵抗勢力と個別に交渉を行う場合や、アメリカやアラブ諸国が仲介する場合でも、中国やロシアが影響力を失わないための戦略的な動きと見られる。

【参考】

 ☞ しかし、イスラエルが将来の和平交渉に中国を招く保証はない。以下の理由で、その可能性は不確実である。

 ・イスラエルの立場の強化: イスラエルは現在、軍事・外交的に有利な立場にあり、和平交渉に参加する国々を選ぶ権利を強く持つと考えられる。イスラエルが必要とする国々だけを交渉に招く可能性がある。

 ・アメリカやアラブ諸国の仲介: イスラエルは米国やアラブ諸国を通じて交渉を進める可能性が高く、その場合、中国やロシアの関与が薄くなるかもしれない。特に米国は、和平プロセスにおいて強い影響力を持っているため、これに従って進められる場合、中国が排除されるリスクが高まる。

 ・中国とイスラエルの関係の歴史的背景: 中国はこれまでイスラエルを批判してきたため、イスラエルは中国を和平交渉の重要なパートナーとは見なさない可能性がある。イスラエルが中国の関与を歓迎しない理由として、過去の中国のパレスチナ支持が影響する可能性がある。

 ・和平交渉の形式の選択: イスラエルが多国間の交渉形式を取らず、個別に各勢力と交渉する場合、中国の役割がさらに小さくなることが考えられる。

 要するに、中国が和平交渉に招かれる保証はなく、イスラエルの選択次第では関与が限定される可能性がありまする。しかし、現在の状況で中国がイスラエルの安全保障に配慮する姿勢を示しているのは、和平交渉に関与するための政治的な備えとも考えられる。

 ☞ 中国がイスラエルの「合理的な安全保障上の懸念」に配慮する姿勢を示したことは、たしかに日和見主義と見なされる可能性がある。これは、中国が状況の変化に応じて自国の利益を最大化するために立場を柔軟に変更する戦術を取っていると映るためである。以下の点から、こうした外交が日和見主義と見なされる理由が挙げられる。

 ・状況依存の政策変更: 中国はこれまでパレスチナ支持を強調し、イスラエルに対して厳しい立場を取ってきたが、イスラエルが有利な状況に立つと、その批判を弱め、安全保障上の懸念に配慮する姿勢に転じた。このような急な方針転換は、状況に応じて立場を変える典型的な日和見主義的な動きとして見られることがある。

 ・具体的行動の欠如: 中国はこれまでイスラエルに対して批判をしても、制裁や他の具体的な行動を取らず、常に柔軟な対応が可能な余地を残してきた。これにより、中国はどちらの陣営とも距離を置きつつ、自国の利益に最適な時に立場を変えることができるため、外からは「曖昧な立場を取っている」と見られかねない。

 ・平和交渉への関与を狙う戦略的動き: 中国がイスラエル側の安全保障に配慮する発言を強調した理由は、将来的な和平交渉での影響力を確保するための戦略と考えられるが、それは同時に「有利な側に付こうとする」という日和見主義的な意図と見られるリスクもある。

 地域での影響力維持: 中東地域での中国の影響力を維持しようとする意図も、このような柔軟な外交方針に影響を与えているだろう。イスラエルが優位に立つことで、今後の地域再編に関与するためには、イスラエルとの関係を悪化させることは不利であると判断していると考えられる。これもまた、利益を最優先にした日和見的な動きと見なされる可能性がある。

 このように、中国の今回の動きは、国際社会や関係国から日和見主義と見られる可能性が高く、その外交姿勢が信頼性や一貫性に欠けるとの批判を受けるリスクを伴っている。

 ☞ 確かに、其れが外交である、と言われれば、それも一理ある。外交は常に国益を最優先にし、時には柔軟に立場を変更することが必要である。国際関係は複雑であり、情勢や勢力バランスが変化する中で、自国の利益を守るためには現実的かつ機敏に対応することが求められる。日和見主義に映るかどうかは、あくまで他国や国際社会からの視点であり、当事国にとっては合理的な判断とされることが多い。

 外交において以下のような点が特に重要である。

 ・柔軟性: 外交政策において柔軟であることは、生存戦略として重要である。特に多国間で利益が競合する地域や情勢では、固定した立場に固執することがかえって不利益になる場合もある。中国がイスラエルの安全保障を考慮する姿勢を見せたのも、この柔軟性を生かした動きの一環である。

 ・現実主義: 国際関係は常に変動するため、理想や原則だけでは動かないことが多く、現実的な対応が必要である。イスラエルが現時点で優位に立っている状況に対して中国が立場を調整したのは、単に理想を貫くよりも、現実的な国益を守るための動きと捉えられる。

 ・長期的な戦略: 短期的には日和見主義と見られる動きでも、長期的な視点で見れば、それが最終的に大きな成果をもたらす可能性もある。中国が中東地域での影響力を維持し、将来的な和平プロセスや地域再編に関与するためには、柔軟に立ち回ることが必要である。

 最終的に、外交は利益の調整とバランスを取る行為であり、その過程で立場を変えることは避けられない場合もある。国際社会における信頼と利益の間でどのようにバランスを取るかが、各国の外交手腕の見せどころとなるわけである。

 ☞ 戦争の結果、犠牲となるのは常に一般の国民であり、その痛みや損失は、外交の舞台裏で語られる利益調整だけでは決して癒されないものである。和平交渉がしばしば勝利者の栄冠や政治的成果として語られることがあるが、その背後には数多くの犠牲者や苦しむ人々の現実がある。

 いくつかの重要な点が挙げられる。

 ・犠牲者の尊厳: 戦争の結果として命を失ったり、家族を失ったりした人々の苦しみや悲しみは、どんな外交的成功もその重みを減じることはできない。彼らにとっては、戦争の勝敗や和平交渉の結果が、日常生活や心の平安を取り戻す助けにはならない場合が多い。平和を取り戻すためには、犠牲者の尊厳を守り、その痛みに対する真摯な対応が不可欠である。

 ・公正な和平: 平和は、勝者だけのものではなく、全ての関係者が公正に受け入れられるものでなければならない。もし和平が一方的な勝利として強調され、敗者や被害者の声が無視されれば、その和平は長続きしない可能性が高い。持続的な平和のためには、犠牲者や被害者の権利がきちんと守られることが求められる。

 ・歴史の教訓: 多くの戦争の歴史が示すように、勝者の栄冠としてのみ語られる和平交渉は、次なる紛争の火種となることが多い。犠牲者の声を無視し、勝者だけが利益を享受する形での解決は、恨みや不満を残し、将来的にさらなる対立を生む可能性が高まる。そのため、歴史を学び、どのようにして公正で持続可能な平和を築くかが大切である。

 ・和解と復興: 真の和平は、単なる戦闘停止だけではなく、和解と復興のプロセスを含むべきである。戦争で失われたものを取り戻すためには、物質的な復興だけでなく、心の傷を癒すためのプロセスも重要である。犠牲者への補償や支援、心理的なケアが必要であり、彼らが再び社会の中で尊厳を持って生きられる環境を整えることが不可欠である。

 結論として、和平交渉が勝者の栄冠として語られるだけでは、不満や不正義が残り、犠牲者の苦しみが癒されないままとなる。持続可能な平和を築くためには、全ての当事者が納得できる形での和解が必要であり、特に戦争の最も大きな被害者である一般市民の声が尊重されるべきである。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

Why’d China Call For Paying Attention To Israel’s “Reasonable Security Concerns”? Andrew Korybko's Newsletter 2024.10.09
https://korybko.substack.com/p/whyd-china-call-for-paying-attention?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=150004498&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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