モルドバ:歴史的な国民投票2024年10月20日 11:16

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【概要】

 モルドバでは、今週末に歴史的な国民投票が行われ、国のEU加盟への道筋が決定される予定である。この投票では、憲法を改正し、EU加盟を国の戦略的目標として明記するかどうかが問われる。モルドバのマイア・サンドゥ大統領は、再選が有力視されており、将来的なEU加盟を確実にするため、憲法改正を推進している。

 モルドバは、2023年6月にEUとの加盟交渉を開始したが、サンドゥ大統領は、今後の政権がEU加盟への努力を後退させないよう、憲法にこの目標を盛り込みたいと考えている。彼女は、この投票がモルドバにとって重要な選択の機会であると述べ、EU加盟が同国を「脆弱な民主主義から強く近代的で持続可能なヨーロッパの国家」へと変えると強調した。

 しかし、ロシアはこの投票に強く反発しており、モルドバ政府はロシアやロシア支持勢力による選挙への干渉を非難している。モルドバ警察は、130,000人の有権者が総額1,500万ドルの賄賂を受け取り、EU加盟に反対票を投じるように促されたと発表した。また、ロシアで抗議行動や内乱に参加するための訓練を受ける人々の存在も指摘されており、ロシアがモルドバの内政に介入しようとしているとの懸念が高まっている。これに対し、ロシアは一貫してこれらの干渉の疑惑を否定している。

 モルドバの西側同盟国、特にアメリカ、イギリス、カナダは、ロシアによる干渉のリスクに対して警戒を呼びかけており、EUも干渉の疑いのある関係者に対して制裁を課している。EUの外交トップであるジョセップ・ボレル氏も、ロシアがモルドバを不安定化させようとしていると警告した。

 一方で、モルドバ国内ではEU加盟に賛成する声が多いものの、最新の世論調査によれば、投票結果は僅差になる可能性がある。2022年末の調査では、63%のモルドバ国民がEU加盟を支持していたが、2023年7月の調査では、憲法改正に賛成する有権者は53%に留まっている。

 この国民投票は、モルドバの未来を大きく左右するものとなり、成功すればEUへの加盟に向けた道が進む一方、失敗すればモルドバがEUとロシアの間で孤立する危険性がある。
 
【詳細】
 
 モルドバでは、歴史的な国民投票が行われ、国民はEU加盟を憲法に明記するかどうかを決定する。この投票はモルドバの将来にとって非常に重要なものとされており、その背景には国内外の複雑な政治的状況が関与している。ここでは、その詳細をさらに詳しく説明する。

 1. モルドバの地理的・歴史的背景

 モルドバは東ヨーロッパに位置し、EU加盟国であるルーマニアと、ロシアの影響を強く受けているウクライナに挟まれた小国である。歴史的には、モルドバは旧ソビエト連邦の一部であり、ソ連崩壊後もロシアとの強い結びつきが残っている。一方で、EUとの経済的・政治的結びつきを強めたいという意欲も高まっており、国民の間でもロシア寄りの立場と西側寄りの立場で意見が分かれている。

 2. 国民投票の目的と背景

 今回の国民投票では、「モルドバ憲法を改正し、EU加盟を国家の戦略的目標として明記するかどうか」が問われる。現在、マイア・サンドゥ大統領率いる親欧米派の政府がEU加盟に向けた取り組みを進めているが、憲法に明記することで、将来的な政権交代や外圧に左右されずにEU加盟を進めることが目的である。

 この投票は、ロシアによるウクライナ侵攻がもたらす安全保障上の懸念からも重要視されている。モルドバは直接の戦火を逃れているものの、ロシアの脅威を強く感じており、EUへの加盟を強化することでロシアの影響を排除し、欧州との連携を強めたい意図がある。

 3. ロシアの干渉と内部対立

 モルドバ政府は、ロシアがこの国民投票に介入し、EU加盟への道を阻もうとしていると強く非難している。モルドバ警察は、130,000人の有権者が賄賂を受け取り、EU加盟に反対票を投じるように誘導されたと報告しており、総額1,500万ドルが使われたとされている。さらに、ロシアで訓練を受けた人々がモルドバに戻り、抗議行動や内乱を引き起こそうとしているという情報もある。このような干渉は、モルドバの内政を不安定化させる意図があると見られている。

 これに対し、ロシアは一貫してこれらの指摘を否定しており、ロシアのクレムリン報道官であるドミトリー・ペスコフ氏も、「モルドバの選挙プロセスに干渉しているとの非難を強く否定する」と述べている。しかし、西側諸国、特にアメリカ、イギリス、カナダは、ロシアがモルドバの選挙や民主主義を弱体化させるために犯罪組織を使っていると警告している。

 4. ガガウズ自治領とトランスニストリアの問題

 モルドバ国内の分裂も、国民投票において大きな問題となっている。特に、ロシア寄りのガガウズ自治領や、モルドバから事実上独立しているトランスニストリア(沿ドニエストル共和国)がある。これらの地域は、ロシアの支援を受けており、EU加盟に強く反対している。

 最近、EUはガガウズ自治領のエヴゲニア・グトゥル知事を含む地元のロシア支持派に制裁を課し、これらの勢力が分離主義を助長していると非難した。さらに、ロシアが支援する団体「エヴラジア」も、モルドバ国内でロシアの利益を推進しようとしているとして非難されている。

 トランスニストリア問題も国民投票の結果に大きな影響を与える可能性がある。この地域は1990年にモルドバから事実上独立し、現在もロシアの軍事的支援を受けている。もしモルドバがEU加盟を進めれば、トランスニストリアとの対立がさらに激化する可能性がある。

 5. EUと国際社会の支援

 モルドバのEU加盟への道を支援するために、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長がモルドバを訪問し、国民投票に参加するよう呼びかけるとともに、モルドバに対して20億ドルの経済支援を約束した。これは、モルドバがEU加盟に向けた改革を進めるための資金として提供される予定である。

 また、EUの外交トップであるジョセップ・ボレル氏も、モルドバに対するロシアの干渉の危険性を警告し、モルドバがウクライナ戦争の影響を受けつつ、ロシアからの圧力に直面していることを強調した。

 6. 国民投票の展望と潜在的な結果

 現在の世論調査によれば、国民の過半数がEU加盟に賛成しているものの、投票結果は僅差になる可能性がある。2022年末の調査では、63%がEU加盟を支持していたが、2023年7月にはその支持率が53%に下がっている。これにより、国民投票が成立するためには、最低でも33%以上の有権者が投票に参加し、かつ賛成多数を獲得する必要がある。

 この投票が成功すれば、モルドバはEU加盟に向けて大きな一歩を踏み出すが、失敗した場合、モルドバはEUとロシアの間で孤立し、将来的な政治的・経済的な不安定が予想される。特に、親ロシア派の政党や分離主義勢力は、国民投票が失敗すれば、モルドバがEUに歓迎されていないと主張し、ロシア寄りの政策を進める可能性が高まる。

 7. まとめ

 今回のモルドバの国民投票は、国の将来を決定する重要な分岐点となっている。EU加盟への道を憲法に明記するかどうかが問われるこの投票は、ロシアの干渉や国内の分裂という複雑な背景を抱えている。投票結果は僅差で決まる可能性が高く、成功すればEUとの関係強化が進む一方、失敗すればモルドバが地政学的に孤立する危険性がある。

【要点】

 ・モルドバでEU加盟を憲法に明記するかどうかを問う国民投票が行われる。
 ・マイア・サンドゥ大統領率いる親欧米派の政府が、EU加盟の道を進めるため、憲法改正を目指している。
 ・ロシアはモルドバ国内の選挙プロセスに干渉し、EU加盟への妨害を図っているとモルドバ当局が非難。
 ・130,000人の有権者が賄賂を受け取り、EU加盟に反対票を投じるよう誘導されたと報告されている。
 ・モルドバ国内には、ロシア寄りのガガウズ自治領やトランスニストリアといった分離主義勢力が存在し、EU加盟に反対している。
 ・EUは、ガガウズ自治領のエヴゲニア・グトゥル知事を含む親ロシア派に制裁を課した。
 ・欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、モルドバに対して20億ドルの経済支援を約束。
 ・世論調査では、EU加盟支持率が低下しており、投票結果は僅差になる可能性が高い。
 ・投票が成立するには、33%以上の有権者の投票参加と、賛成多数が必要。
国民投票が成功すればEU加盟に向けた改革が進むが、失敗すればモルドバがEUとロシアの間で孤立する可能性がある。

【参考】

 ☞ モルドバは、東ヨーロッパに位置し、ルーマニアとウクライナに挟まれた内陸国である。モルドバの歴史は、地域の地理的な要因から、複雑で多くの異なる勢力によって支配されてきた。以下に、モルドバの歴史を主要な時代ごとに箇条書きで説明する。

 1. 古代と中世

 ・紀元前4世紀:現在のモルドバの地域には、スキタイ人やダキア人といった古代部族が住んでいた。
 ・106年:ローマ帝国がダキアを征服。この地域はローマ帝国の影響を受けるようになる。
 ・中世:13世紀までにモルドバはモンゴル帝国の影響下に入り、モンゴルの支配が強まる。

 2. モルダヴィア公国の時代

 ・14世紀:モルドバ地域はモルダヴィア公国として独立し、ハンガリー王国やオスマン帝国との関係を維持しながら自立した統治を行う。
 ・15世紀後半:ステファン大公(シュテファン・チェル・マーレ)の時代にモルダヴィア公国は最盛期を迎える。彼はオスマン帝国との戦いで名を知られるが、最終的にはオスマン帝国の影響下に入る。

 3. オスマン帝国とロシア帝国の支配

 ・16世紀から19世紀初頭:モルダヴィア公国はオスマン帝国の属国として存続するが、独自の行政権を保つ。
 ・1812年:ロシア帝国がブカレスト条約でモルダヴィア公国の東部(ベッサラビア)をオスマン帝国から奪取。これにより、モルドバの一部はロシア帝国に編入される。

 4. 20世紀初頭の混乱

 ・1918年:第一次世界大戦後、ベッサラビアはルーマニアに統合される。一方で、ロシア革命の影響でソビエト連邦が誕生し、モルドバの東部がソ連に編入される。
 ・1940年:ナチス・ドイツとソ連の間で結ばれたモロトフ=リッベントロップ協定に基づき、ソ連がベッサラビアを再占領し、モルドバ・ソビエト社会主義共和国が成立。
 ・1941年-1944年:第二次世界大戦中、ナチス・ドイツとルーマニアがモルドバを占領するが、1944年にソ連が再び支配を回復。

 5. ソビエト連邦時代

 ・1944年-1991年:モルドバはソ連の一部として存在し、集団農業や重工業化が進む。モルドバ人の民族意識が徐々に高まるが、ソ連政府による抑圧も続く。
 ・1980年代:ソ連のペレストロイカとグラスノスチの影響で、モルドバでも改革運動が高まり、独立への機運が強まる。

 6. 独立とその後

 ・1991年:ソビエト連邦の崩壊に伴い、モルドバは独立を宣言。モルドバ共和国が成立。
 ・1990年:親ロシア派のトランスニストリアがモルドバからの独立を宣言し、モルドバとトランスニストリアの間で武力衝突が起こる。現在もトランスニストリアは事実上の独立状態にあるが、国際的には承認されていない。
 ・2000年代以降:モルドバはEU加盟を目指す西側志向の政策と、ロシアとの関係を維持しようとする親ロシア派の対立が続く。経済的な困難や政治的不安定が課題となっている。

 7. 現在

 ・2020年代:マイア・サンドゥ大統領がEU加盟を目指し、親欧米的な政策を推進しているが、ロシアの影響力やトランスニストリア問題が引き続き障害となっている。
 ・モルドバの歴史は、地域の複雑な地政学的状況や外部勢力の影響を強く受けてきました。現在もEU加盟に向けた動きとロシアとの緊張関係が続いている。

 ☞ ペレストロイカとグラスノスチは、ソビエト連邦のミハイル・ゴルバチョフ書記長によって1980年代後半に導入された一連の改革政策で、ソ連の政治、経済、社会に大きな変革をもたらした。

 1. ペレストロイカ(Перестройка, Perestroika)

 ・意味:「再構築」や「改革」を意味するロシア語。
 ・内容:ペレストロイカは、ソ連の経済を中心にした大規模な改革を指す。ソ連経済は1980年代までに停滞し、中央計画経済の非効率性が明らかになっていたため、ゴルバチョフは市場経済の要素を取り入れた改革を試みた。
 
  ⇨ 経済の自由化:民間企業の設立を一部許可し、企業に一定の自主性を与えることで経済の活性化を図った。
  ⇨ 農業や工業の生産性向上:効率性を改善し、生産性を上げるための改革が行われた。
  ⇨ 外資導入:外国との経済関係を強化し、外資を誘致することが許されるようになった。

 ・目的:ソ連の経済停滞を打破し、生産性を向上させ、国際的な競争力を高めること。

 2. グラスノスチ(Гласность, Glasnost)

 ・意味:「公開性」や「透明性」を意味するロシア語。
 ・内容:グラスノスチは、政治と社会における言論の自由や情報の公開を推進する政策である。それまでソ連は厳しい言論統制が敷かれていたが、グラスノスチによりメディアの自由度が大幅に向上し、政府の活動についても批判的な意見が許されるようになった。
  言⇨ 論の自由:メディアや市民が、政府や政策に対して批判的な意見を表明することが認められるようになった。
  ⇨ 歴史の再評価:ソ連時代の抑圧的な歴史やスターリン主義の過ちが公開され、過去の政策に対する再評価が行われた。
  ⇨ 政府の透明性:政策決定のプロセスを市民に公開し、政府の活動に対する透明性を高めた。

 ペレストロイカとグラスノスチの影響

 これらの改革は、ソ連国内の社会や政治、経済に大きな変化をもたらしたが、最終的にはソ連の崩壊につながる要因ともなった。ペレストロイカの経済改革は即効性を発揮せず、逆に経済混乱を招いた。グラスノスチは、市民が政治体制の欠点や不満を公に批判する機会を増やし、ソ連体制への信頼低下を引き起こした。

 結果として、これらの政策は1989年の東欧革命や1991年のソビエト連邦崩壊に大きな影響を与えたと考えられている。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

Moldova's EU referendum beset by alleged Russian meddling DW 2024.10.20
https://www.dw.com/en/moldovas-eu-referendum-beset-by-alleged-russian-meddling/a-70527782?maca=en-newsletter_en_bulletin-2097-xml-newsletter&at_medium=Newsletter&at_campaign=EN%20-%20Daily%20Bulletin&at_dw_language=en&at_number=20241019&r=6736615554633286&lid=3155486&pm_ln=270744

【桃源閑話】アレナ・F・ドゥハン報告書(2022.07.15)2024年10月20日 19:44

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【桃源閑話】アレナ・F・ドゥハン報告書(2022.07.15)

【概要】

 国連人権理事会の第51回セッションに提出された報告書で、特別報告者であるアレナ・F・ドゥハンが、単独制裁が人権に与える負の影響についてまとめたものである。

 概要

 報告書では、特別報告者が「二次制裁」の概要と評価を行っている。二次制裁は、特定の国や個人に対して初めての制裁が科される際に、他国に対しても制裁を課すものであり、その目的は初期制裁を強化することにある。特別報告者は、二次制裁や国内の執行措置、その他の要因が相まって、単独制裁の過剰遵守が広がっている状況を指摘している。この過剰遵守は、初期制裁の直接の対象ではない個人や全体の人々にも影響を及ぼし、その結果として人権が深刻に侵害されている。

 報告書は、これらの慣行の性質、法的妥当性、影響を受けるさまざまな権利についても考察し、発生する人権侵害を軽減するための提言を行っている。

 I.はじめに

 報告書は、国連人権理事会の決議27/21および45/5、及び総会決議74/154に基づき提出されたもので、単独の強制的措置が人権享有に及ぼす負の影響に関する情報収集、トレンド、発展、課題の分析が求められている。特別報告者は、単独制裁が国際法において法的に疑わしいにもかかわらず増加していることを指摘し、二次制裁の導入と民事および刑事罰の適用が進んでいることを強調している。

 これにより、単独制裁が課されている国やセクター、エンティティに対する合法なやり取りでさえも、実施者が違反のリスクを恐れているために抑制される結果を招いている。これは、第三国における過剰遵守も含めて、単独制裁の影響を拡大させている。

 II.特別報告者の活動

 特別報告者は、単独制裁が人権に与える影響や、国連における人権に関する状況を広めるために、メディアインタビューやテーマ別会議、ウェビナーに参加してきた。特に、ジンバブエ(2021年10月)とイラン(2022年5月)への訪問を通じて、単独制裁の影響を評価し、政府関係者や市民社会のグループとの会合を行った。

 また、特別報告者は、単独制裁が人権に与える影響に関する研究プラットフォームを開発し、さまざまな関係者とコミュニケーションを取り、過剰遵守や人道支援へのアクセスに関する問題に取り組んでいる。

 報告書は、二次制裁や過剰遵守が引き起こす人権侵害の深刻さを浮き彫りにし、これに対する具体的な対応策を提言することで、単独制裁がもたらす人権への悪影響を軽減する重要性を強調している。

 III. セカンダリー制裁と単独制裁への過剰適合

 A. 定義と一般的な説明

 1.セカンダリー制裁の概要

 ・一国の単独制裁を補強する手段として広がっている。
 ・対象国や特定の経済セクター、外国企業、個人に対して適用される。
 ・制裁対象との協力や関与を理由に、他国の企業や個人も制裁の対象となる。

 2.影響

 ・セカンダリー制裁を受けた企業は、制裁国でのビジネスを禁じられることがある。
 ・制裁国の金融市場や通貨での取引が制限されることもある。
 ・セカンダリー制裁により、医薬品や医療機器の供給に支障が出ることがある。

 3.法的懸念

 ・セカンダリー制裁の国際法上の合法性は疑問視される。
 ・他国の主権を侵害する可能性があり、国際貿易法とも対立する。

 4.人権への影響

 ・セカンダリー制裁の対象者は、法的手続きを受けずに権利が侵害される。
 ・制裁の影響で医療や健康の権利が損なわれることがある。

 5.過剰適合の現象

 ・過剰適合は、制裁以上の制限を自己規制として実施することを指す。
 ・企業や金融機関がリスク回避のために、合法的な取引を控える傾向がある。

 B. 過剰適合のタイプ

 1.全ての取引停止

 ・制裁対象国や個人とのすべての取引を停止する事例が多い。
 ・例として、スウェーデンの企業がイランへの医療用品の輸出を停止したことが挙げられる。
 
 2.金融セクターの過剰適合

 ・銀行は、承認された取引を拒否することや、過剰な書類要求を行うことがある。
 ・セカンダリー制裁を恐れるため、銀行が非対象者の口座を閉鎖することもある。

 3.企業による過剰適合

 ・企業が合法的な取引を避けることが増加。
 ・人道的な免除がある場合でも、過剰適合が影響を及ぼす。

 4.国際機関への影響

 ・国家や国際機関も過剰適合を行い、必要なサービスや商品が提供されない場合がある。

 このように、セカンダリー制裁や過剰適合は国際的なビジネスや人権に深刻な影響を与えることが示されている。

 C.域外管轄権と執⾏

 国連特別報告者は、米国による一方的な制裁の域外管轄権とその執行に関して懸念を表明している。特に、米国が自国内だけでなく国外でも制裁を執行する際の法的原則が明確ではない点に問題があると指摘している。学者の一人は、米国の制裁法における最近の事例で、従来の管轄権の原則を超えて拡大解釈する傾向が見られることを懸念している。

 米国が制裁違反に対して法的権限を主張する根拠として、次の二つの状況が挙げられている。

 1.米国内の仲介者が関与する場合

 ・米国の制裁対象となった相手国と外国との取引が、米国に物理的に存在する仲介者(例えば、米国内の銀行)を介して行われる場合。

 2.米国の金融システムが関与する場合

 ・制裁対象となった相手国と外国との取引が、米国が管理するシステムやプロセス(例えば、米ドル建ての取引が米国の金融システムで決済される場合)を介して行われる場合。

 一部の国もまた、域外での制裁執行を可能にしている例がある。例えば、1940年代に始まったアラブ連盟のイスラエルに対するボイコットでは、第三国の企業がイスラエルとの取引を行う場合に、その企業をブラックリストに載せることが許されている。このボイコットも米国は制裁とみなしているが、現在のところ、域外での制裁執行を積極的に行っているのは米国のみである。

 米国による制裁の罰則を恐れることが、外国企業が過剰に制裁に従う大きな要因となっている。2018年に米国がイランに対する制裁を再度発動した際、フランスの議員は、米国に経済的・商業的利益を持つ全てのヨーロッパの企業が、制裁対象でない商品を取り扱っている企業も含め、イランから撤退したと述べている。

 以下に、特別報告者が指摘する過剰遵守の理由とその結果について、説明する。

 D. 過剰遵守の理由

 1.デリスキングポリシーの影響

 ・デリスキングポリシーは、特に金融セクターにおいて、単独制裁に対する過剰遵守を引き起こす。
 ・企業は、制裁だけでなく、マネーロンダリングやテロ資金供与防止のためのその他の規制にも遵守する必要がある。
 ・リスクを正確に評価するためのデューデリジェンスは労力がかかり、高コストである。
 ・不十分なリスク管理に対する法的・ビジネス上の罰則が厳しいため、過剰に慎重になりがち。

 2.複雑で不明確な制裁制度

 ・制裁制度の複雑さや不明確さが過剰遵守を促進する要因。
 ・制裁が迅速に作成されることで、詳細な規定が欠如することがある。
 ・制裁の変更頻度も過剰遵守を促進する。

 3.管轄外の執行

 ・アメリカ合衆国による管轄外の制裁執行や厳しい罰則、執行措置に対する恐怖が過剰遵守を助長する。
 ・罰則には、重要な市場や金融システムからの排除が含まれる。

 4.デューデリジェンスのコスト

 ・企業は人権デューデリジェンスを実施する責任があるが、そのコストが高くつく場合がある。
 ・違反した場合のコストが高いため、企業は過剰遵守を選ぶ傾向がある。

 5.制裁の厳しさの違い

 ・同じ国や主体に対する異なる制裁制度の違いが過剰遵守を生む。

 E. 過剰遵守の人権への影響

 1.権利への影響範囲

 ・過剰遵守は、全ての種類の単独制裁において発生し、時には包括的制裁と同等の影響を及ぼす。
 ・対象国の人々の人権が深刻に侵害される。

 2.具体的なケース

 ・シリアでは、国に対する制裁が個人や企業への制裁と同様の影響を及ぼす。
 ・ザンビアでは、過剰遵守が健康、食料、水、教育、雇用のアクセスを損ない、開発の権利を阻害している。

 3.NGOの活動への影響

 過剰遵守が人道援助に携わるNGOの活動を妨げ、支援物資の供給が困難になっている。
 ・例として、イランにおける洪水後の援助が銀行サービスの拒否により妨げられた。

 4.国家の国際的義務への影響

 ・国家は国際的な人権保護義務や国内法義務を果たすことが困難になる。
 ・特に、外国の銀行が年金の送金を拒否することで、ベラルーシの国民の権利が侵害されている。

 5.国際組織の活動への影響

 ・国連の人道的、開発的な活動が銀行の過剰遵守によって妨げられている。
 ・国連のスタッフへの支払いが滞るケースもある。

 F. 過剰遵守の範囲

 1.過剰遵守の測定の難しさ

 ・企業ごとにポリシーや実践が異なり、一般的には秘密にされることが多いため、過剰遵守の測定が難しい。

 2.グローバルな現象

 ・過剰遵守は全世界的な現象であり、特に金融セクターで顕著である。

 3.人権への影響

 ・過剰遵守が人権に与える悪影響は、単独制裁そのものの影響を上回る可能性がある。

 4.具体的な影響の事例

 ・イランの研究者や科学者が国際的な競技や会議から排除され、技術や知識の移転が妨げられている。
 ・学術出版社が二次制裁を恐れ、イランの研究を公表することを拒む事例も存在する。

 以下は、過剰遵守に対する対策に関する内容を説明したものである。

 IV. 過剰遵守への対策

 A. 制裁国による行動

 1.国際法の義務

 ・国家は国内の人権保護に加え、国際経済社会文化権規約に基づき、自国の企業が国外で人権侵害を引き起こさないようにする義務がある。
 ・国際慣習法は、国家が自国の領土を他国に対する損害を引き起こすために使用することを禁止している。

 2.企業への指針

 ・一部の国々は、自国の企業がビジネスと人権に関する指導原則に従うことを求める取り組みを進めているが、現状では不十分で効果的でないと認識されている。

 3.スウェーデンの提案:

 ・スウェーデンでは、公共管理庁が2018年に企業に対する人権デューデリジェンスを法的義務とする立法を提案したが、進展は非常に限られている。

 4.EUの指令提案

 ・2022年初頭、EU委員会は企業の人権デューデリジェンスに関する国ごとの規則を設けることを求める指令を提案したが、過剰遵守に関連する人権問題には対応していない。

 5.人道的免除に対する取り組み

 ・一部の制裁国は、人道的免除に関する商品の過剰遵守を最小限に抑える努力を行っているが、その効果はほぼ存在しない。

 6.過剰遵守の要因

 ・制裁制度の複雑さ、規定のあいまいさ、厳しい執行措置、二次制裁の脅威が過剰遵守の主要因として機能している。

 7.米国の意図

 ・米国が制裁を意図的に不明確にして、影響を強化しているとの疑惑も存在する。

 B. 第三国の行動

 1.他国制裁への不従属:

 ・一部の国では、国内の管轄権を持つ個人や企業が他国の一方的制裁に従うことを禁止している。

 2.近年の法律

 ・米国の制裁の域外執行に対抗するため、EUやロシア、中国は法的措置を講じている。

 3.EUのブロッキング法

 ・EUのブロッキング法は効果がないとされており、2021年には改正計画が発表された。

 4.過剰遵守への対応の不備

 ・これらの法律は他国の制裁への従属に関するものであり、過剰遵守に対する適切な対策がなされているか疑問が残る。

 V. 結論と提言

 A. 結論

 1.二次制裁の役割

 ・二次制裁は、一方的なプライマリ制裁を執行するために使用され、国外の対象に対しても適用される。

 2.国際法との矛盾

 ・二次制裁は国際法に基づいて合法とは見なされておらず、その多くは合法性が疑わしい。

 3.過剰遵守の原因

 ・二次制裁の脅威は、企業や個人がプライマリ制裁に過剰遵守する要因となっている。

 4.人権への影響

 ・過剰遵守は、医療品や食料の供給を妨げ、非対象者の権利を脅かす。

 5.影響の広がり

 ・過剰遵守は、制裁の影響をさらに拡大し、銀行などの特定のセクターでは普遍的な現象となっている。

 6.企業の行動

 ・銀行は、承認された取引の拒否や、難しい書類を求めることなどを行い、過剰遵守の例となっている。

 7.国際義務の不履行

 ・過剰遵守は、国家が年金支払いを行えなくなるなどの問題を引き起こす。

 8.人権への影響の拡大

 ・過剰遵守は、制裁が発効していない期間にも発生し、制裁の目的を達成する助けにはならない。

 9.企業の人権デューデリジェンス

 ・国家が企業に人権デューデリジェンスを義務づける動きがあるが、過剰遵守の拡大に追いついていない。

 10.制裁に対する企業の見解

 ・企業は、制裁の不明瞭さや複雑さが過剰遵守を引き起こしている要因であると認識し、政府との対話を行う必要がある。

 B. 提言

 1.国家の行動

 ・制裁国は、過剰遵守を排除または最小化するために適切な手段を講じるべきである。

 2.企業の義務化

 ・国家は企業に対して人権デューデリジェンスを義務化し、制裁遵守や過剰遵守による負の影響に対処すべきである。

 3.国内法の見直し

 ・国家は、企業が過剰遵守に至るような国内法を見直すべきである。

 4.企業との対話

 ・制裁国は企業と対話を行い、過剰遵守を引き起こす現行の制裁制度や執行プロセスを特定し、改善を図るべきである。

 5.二次制裁の禁止

 ・制裁国は、二次制裁や民事・刑事処罰の脅威を避けるべきである。

 6.国際法の遵守

 ・制裁国は、国際法に準拠した執行プロセスを行う必要がある。

 7.相対的資源の考慮

 ・国家は、過剰遵守を助長しないよう、個人や企業の相対的な資源を考慮に入れた制裁執行を行うべきである。

 8.企業の人権考慮

 ・企業は人権を包括的に考え、制裁遵守が人権に与える影響を調査し、改善策を講じるべきである。

 9.銀行の取り組み

 銀行は、過剰遵守や二次制裁に関する指針を策定するために、特別報告者や国際機関と協力すべきである。

【詳細】

 アレナ・F・ドゥハン特別報告者による報告書の詳細な説明である。

 報告書の目的と背景

 I.報告書の提出背景

 本報告書は、国連人権理事会の決議27/21および45/5、および総会決議74/154に基づき作成された。これらの決議では、単独制裁が人権享有に及ぼす負の影響に関する情報収集、分析、提言を求めている。特に、単独制裁の影響を受ける国や地域において人権状況が悪化していることが指摘されている。

 2.単独制裁と二次制裁の定義

 ・単独制裁: 一つの国が他国に対して独自に課す制裁措置。国際法の観点からその法的根拠が疑問視される場合が多い。
 ・二次制裁: 初めの制裁対象でない国や企業に対して、制裁を課すこと。これは、初めの制裁を回避または回避しようとする行動を取る者に対して制裁を科すもので、特にその影響が広がりやすい。

 二次制裁と過剰遵守のメカニズム

 1.過剰遵守の概念

 二次制裁や国内の執行措置が実施されると、企業や個人は法的リスクを回避するために、許可された取引さえも避ける傾向にある。この現象を「過剰遵守」と呼び、結果として制裁対象国との必要な交流が阻害される。

 2.影響の拡大

 二次制裁による過剰遵守は、制裁を受けていない国や人々にまで影響が及ぶ。特に、第三国での企業活動が抑制され、経済的な影響や人道的な支援が行き届かない事態を引き起こすことがある。

 3.人権への影響

 ・二次制裁の実施と過剰遵守により、初めの制裁の対象でない個人やコミュニティの人権が侵害されることがある。具体的には、医療や教育、食料などの基本的な人権の享有が妨げられる場合が多い。

 法的および倫理的考察

 1.法的な疑問

 特別報告者は、二次制裁およびそれに関連する民事・刑事罰の合法性に疑問を呈している。国際法上、主権国家間の取引を不当に妨害するものであり、違法性が指摘されている。

 2.人権に対する倫理的配慮

 特に脆弱な状況に置かれている人々に対する人権侵害は、倫理的な観点からも問題視される。報告書では、これらの人々が経済的、社会的、文化的権利を享受するための支援が必要であると強調されている。

 II.特別報告者の活動と提言

 1.国際的な啓発活動

 特別報告者は、メディアインタビューや国際会議への参加を通じて、単独制裁の負の影響について広く知らせる努力をしている。具体的には、政府関係者や市民社会との対話を通じて問題提起を行っている。

 2.国別訪問

 ジンバブエとイランへの訪問では、現地での人権状況を詳細に調査し、関係者と意見交換を行った。訪問後には、得られた知見を基にした提言を行う予定である。

 3.研究プラットフォームの設立

 単独制裁の影響に関する研究を促進するため、電子リポジトリを設立し、関連する研究成果や報告を集める取り組みを行っている。

 4.具体的な提言

 ・過剰遵守の抑制: 適切なガイドラインや規則を設定し、企業や団体が過剰遵守を避けられるようにする。
 ・人道的支援のアクセス確保: 人道的目的のための取引が妨げられないよう、法的保護を強化する。
 ・国際協力の促進: 国際社会が連携して、単独制裁の人権への影響を評価し、改善策を講じる必要がある。
 
 特別報告者は、単独制裁とその拡大による人権への悪影響に対処するために、国際的な協力と具体的な行動が必要であると強調している。この報告書は、制裁政策の見直しや新たな基準の設定を促す重要な資料となっている。

 以下に、二次制裁と過剰遵守について、より詳しく説明する。

 III. 二次制裁の定義と一般的な説明

 A. 二次制裁とは何か

 二次制裁は、特定の国家や個人、企業が主に制裁対象となっている場合に、その対象と関係を持つ第三者に対しても制裁を課す手法である。このような制裁は、制裁対象と取引したり協力したりすることを理由に適用されることが多い。これにより、制裁対象の国や企業はさらに国際的な取引において孤立し、経済的な影響を受ける。

 二次制裁の影響

 二次制裁は、制裁を課した国の金融市場へのアクセスを制限したり、その国の通貨を使用した取引を禁止したりすることによって、第三国企業や個人に大きな影響を与える。また、制裁対象国の人々の人権にも深刻な影響を与える。例えば、キューバやイラン、シリアなどの国では、COVID-19パンデミックの際に医薬品や医療機器の供給が遅れたり、製造業者が出荷を躊躇する原因となった。

 過剰遵守(Overcompliance)とは

 過剰遵守の概念

 過剰遵守は、制裁の範囲を超えた自発的な制限を指す。これは、リスク回避の一環として、企業や個人が制裁対象国との取引を避けたり、法律上許可されている活動すら行わないことが含まれる。たとえば、企業が制裁に関連する法的リスクを避けるために、制裁対象国との取引を全て停止することがある。

 過剰遵守の影響

 過剰遵守は、制裁の直接的な対象でない人々や企業にまで影響を及ぼし、全体的な人権の侵害を拡大させる。特に、食糧、医療、基本的なサービスの供給が妨げられ、非制裁対象の個人も人権が侵害される場合がある。過剰遵守によって、医薬品や必需品の輸送が妨げられるケースも多く、必要な援助が届かない事態が発生する。

 B.過剰遵守の具体的な事例

 1.企業の行動

 ・例: スウェーデンの医療製品メーカーであるMölnlyckeは、アメリカの制裁が再発効した後、イランへの全ての輸出を停止した。これにより、特に重度の皮膚病を患う子供たちに必要なバンデージが供給されず、彼らの健康権が侵害された。

 2.金融機関の過剰遵守

 ・例: アメリカの制裁により、ベネズエラへの送金を行う銀行が、正当な取引であっても資金の移動を拒否することが多くなった。これにより、必要な医療品や食料品が届かないという事態が生じている。

 3.国際機関の制約

 ・例: 国際的な人道支援が必要な状況でも、銀行が取引を拒否するために、援助物資が必要な国に届けられないことがある。特に、タリバンに関連する制裁に関しては、人道的援助が許可されているにもかかわらず、銀行が過剰なリスク回避を行うため、援助が行き届かない。

 C.域外管轄権と執⾏

 特別報告者は、米国による制裁の域外管轄権とその執行について、いくつかの具体的な懸念を詳しく述べている。まず、米国が国内法を国外に適用し、制裁違反に対する罰則を世界中で執行する際に、その法的根拠が不明確である点に焦点が当てられている。特に、米国が制裁対象となった外国の取引に関連する場合、従来の国際法上の管轄権の枠を超えて適用範囲を拡大しているとされる。ある学者の指摘によれば、米国の制裁法には「伝統的な管轄権の原則を拡大解釈している」という傾向があり、これが国際的な懸念を引き起こしている。

 次に、米国が域外で制裁を執行するための法的権限の基礎として挙げられる二つの接点について、詳細に説明している。

 1.米国内の仲介者の関与

 米国は、自国内の企業や金融機関が関与する取引を通じて制裁を執行する権限を主張している。例えば、制裁対象国との外国取引が、米国内に存在する仲介機関(特に、取引が米国内の銀行などを通じて行われる場合)を経由する場合、米国はその取引を規制する権限があると考えている。これにより、外国の取引が制裁対象国の場合、米国内のインフラを介した場合には、米国の法律が適用され、制裁違反と見なされる可能性がある。

 2.米国の金融システムの利用

 米国の制裁は、特に米ドル建ての取引や、米国の金融システムを介して行われる取引に強く依存している。例えば、外国の取引が米ドルで決済される場合、米国の金融機関を通じて取引が行われるため、これも米国の管轄権に含まれるとされる。この結果、外国企業が米ドルを使用して制裁対象国と取引を行う場合、たとえ取引が自国で合法であっても、米国の制裁の影響を受けることがある。

 特別報告者は、他国が域外での制裁を実行している例として、アラブ連盟によるイスラエルに対するボイコットを挙げている。このボイコットは、1940年代に開始され、第三国企業がイスラエルと取引を行った場合に、その企業をブラックリストに載せることができるという内容である。しかし、米国とは異なり、他国はこのような域外制裁の執行に対してそれほど積極的ではなく、米国のみが現在、域外制裁の執行を強力に推進しているという点が強調されている。

 また、米国の制裁に対する罰則の恐怖が、他国の企業による「過剰な順守(overcompliance)」を促進しているとも述べられている。これは、制裁に直接影響されない場合でも、米国に経済的な関係を持つ企業が、制裁対象国との取引を控えるようになっている状況を指している。たとえば、2018年に米国がイランに対する制裁を復活させた際、ヨーロッパの多くの企業が、米国との商業関係を維持するために、制裁対象外の製品を取り扱う取引であってもイラン市場から撤退した。これにより、米国の制裁が外国の企業に対しても多大な影響力を持つことが明らかになっている。

 これらの状況から、特別報告者は、米国の制裁における域外管轄権の不明瞭な法的基盤が、国際的な法的安定性や透明性を損なう可能性があると懸念している。また、米国の制裁に対する過剰な順守が、他国の企業や経済に与える影響にも言及し、これが国際的な商取引や経済関係に悪影響を及ぼす可能性について警鐘を鳴らしている。

 二次制裁や過剰遵守は、制裁を課す国の目的に反し、制裁の影響を受けることのない個人や企業にまで影響を及ぼす。これにより、国際法と人権に対する新たな脅威が生まれている。制裁がもたらす人権への影響を軽減するためには、透明性のあるガイダンスが必要であり、制裁の対象外の人々や国に対しても配慮が必要である。
 
 D. 過剰遵守の理由

 ・デリスキング政策: 特別報告者は、金融セクターにおける一方的制裁に対する過剰遵守の主要な原因として、デリスキング政策があると指摘している。これらの政策は、制裁以外の多くの規制義務にも対応するように設計されており、金融リスクの最小化、マネーロンダリングやテロ資金供与などの金融犯罪に関連する取引を避けること、または株主からのデリスキング圧力を考慮することを含む。これにより、企業は過剰に慎重になり、複数の規制に対して過剰遵守をする傾向が強まる。

 ・遵守のコスト: デリスキングポリシーに従うための適切なデューデリジェンスを行うには、時間や費用がかかり、専門的な調査能力が必要であるため、多くの機関がその実施を困難と感じる。その結果、法律やビジネスの罰則を避けるために、企業は過剰に慎重になる。

 ・複雑さと不明瞭さ: 制裁制度の複雑さやその規定の不明瞭さも過剰遵守を促進する要因として指摘されている。特に、地政学的な出来事に迅速に対応する形で制裁が設けられると、制裁内容が十分に詳細に書かれていない場合が多い。

 ・規制の変動性: 制裁が頻繁に変更されることも、過剰遵守を促進する。たとえば、2020年のマリに対するECOWASの制裁は、クーデター直後に決定され、その後短期間で緩和されるなど、規制の不安定さが企業に混乱をもたらす。

 ・制裁対象の変化: 制裁の対象が新たにリストに追加されたり、解除されたりすることで、遵守の必要性が変化し、企業はその変化に対応する必要が生じる。

 ・解釈の不明瞭さ: 欧州連合の制裁に関する弁護士事務所の調査によると、制裁は多くの広範かつ未定義の概念を使用しており、その解釈に関する公式なガイダンスが乏しい。このため、企業は過剰に慎重な対応をせざるを得ない。

 ・域外適用: 特にアメリカによる制裁の域外適用や厳しい罰則、執行の脅威が過剰遵守を助長する要因となっている。企業は、制裁を違反した場合の厳しい罰則(例えば、重要市場からの排除や金融システムへのアクセスの喪失)を恐れ、過剰遵守を選択することが多い。

 ・デューデリジェンスのコスト: 企業は人権デューデリジェンスを実施する責任があり、これには一方的制裁の遵守に必要なコストが含まれる。制裁を違反した際のコストが高いため、多くの企業は過剰遵守を選ぶ傾向がある。

 ・制裁の厳しさの違い: 同じ国や個人に対する一方的制裁の違いも、過剰遵守を生む要因となる。たとえば、英国、米国、EUのロシアに対する制裁では、英国が二次取引を違反と見なさない一方、米国ではそう見なす場合がある。

 E. 過剰遵守の人権への影響

 ・影響を受ける権利: 過剰遵守はすべての種類の一方的制裁に関連しており、その結果が対象とされる国や個人の権利に深刻な影響を及ぼす。特に、過剰遵守が包括的制裁に近い影響を与え、大規模な人権侵害を引き起こすことがある。

 ・シリアの状況: シリアにおいて、政府を対象とする制裁と個人や企業を対象とする制裁があり、過剰遵守が双方の影響を同等にするケースがある。アメリカのシーザー法の影響で、特定のサービスを供給することが制限されるなどの影響が指摘されている。

 ・ジンバブエの影響: 特別報告者はジンバブエ訪問中に、過剰遵守が住民の健康、食料、安全な飲料水、教育、雇用へのアクセスを害し、持続可能な開発目標達成を妨げているとの情報を得ている。

 ・学問の自由への影響: 国際的な学術出版社の過剰遵守が、制裁国からの論文の投稿を拒否することによって表現の自由や教育、科学の進歩に影響を及ぼしている。

 ・人道援助への影響: 人道援助を行うNGOが制裁の影響で困難に直面し、特に食品や医薬品、ワクチンなどが届かない事例が多発している。

 ・イランのNGOの事例: イランのNGOが銀行サービスの拒否により、救援物資の提供が阻害されているという報告がある。これは、制裁が原因であり、特に人道的な緊急事態への対応に困難をもたらしている。

 ・寄付のアクセス: NGOは制裁の影響で寄付金にアクセスできない場合が多く、また寄付者も二次制裁を恐れて資金を送ることをためらう。

 ・シリアの人道状況: シリアでは、人道的な免除があっても、過剰遵守が日常生活に深刻な影響を及ぼしており、十分な支援が行われていないとの声が上がっている。

 F. 過剰遵守の範囲

 ・過剰遵守の測定の困難性: 過剰遵守は企業ごとに異なり、機密性のために測定が難しいが、グローバルに広がっている現象であり、その規模は非常に大きい。

 ・人権への影響: 過剰遵守の人権への影響は、一方的制裁自体の影響よりも広範囲で深刻な可能性がある。

 ・イランの研究活動への影響: 過剰遵守は教育や表現の自由、科学の進歩に悪影響を与え、イランの研究者が国際的な会議や競技会に参加できなくなっている。

 このように、過剰遵守は制裁の影響を超えて、広範な人権の侵害を引き起こす要因となっている。

 次は、国連の特別報告者が作成したもので、特に過剰コンプライアンスに関する国家の行動を中心に論じている。過剰コンプライアンスは、企業や国が制裁を遵守しようとするあまり、本来の対象でない個人や団体にまで影響を及ぼすことを指す。このセクションは、制裁を行う国家と、第三国による行動、そして結論と推奨事項に分かれている。

 IV. 過剰コンプライアンスへの対策

 A. 制裁を課す国家の行動

 1.国際的な義務の認識

 特別報告者は、国家が自国の人権を守るだけでなく、経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約(ICESCR)に従い、自国の企業が海外で人権侵害を引き起こさないようにする義務があると指摘している。この義務は、領域や管轄権に制限されるものではない。

 2.企業の人権デューデリジェンス

 スウェーデンの事例を挙げ、スウェーデン政府が企業の人権デューデリジェンスを法的義務にする提案をしたことに言及しているが、進展は乏しいとされている。特に、多くの企業がこのプロジェクトを支持しているにもかかわらず、実際の行動には乏しさが見られる。

 3.EUの指令案

 2022年に欧州委員会が提案した指令案は、加盟国に対して企業の人権デューデリジェンスを義務付ける内容であるが、制裁の遵守から生じる人権問題に対する対策は含まれていないと述べている。

 4.人道的例外の利用促進

 制裁国が人道的例外に関するガイダンスを発表し、過剰コンプライアンスを最小限に抑える努力がある一方で、効果はほとんどないと指摘している。特に米国とEUはCOVID-19危機の際に人道的例外を奨励しましたが、実際には制裁が必要な物資の供給を妨げている。

 5.過剰コンプライアンスの要因

 制裁制度の複雑さや不明瞭さ、厳しい執行措置、二次制裁の脅威などが、過剰コンプライアンスを引き起こす要因として挙げられている。

 6.過剰コンプライアンスを促すかどうか

 過剰コンプライアンスが制裁の目的を支える可能性があるため、制裁国がこの問題に対してより積極的に行動しない可能性がある。特に、米国が意図的に制裁を不明瞭にしてその影響を高めているとの疑念も示されている。

 B. 第三国の行動

 1.外国制裁への抵抗

 一部の国々は、自国内の個人や団体が他国の制裁に従うことを禁止しています。これには、1969年に米国が制定した「輸出管理法」が含まれ、他国のボイコットに参加することを禁止しました。

 2.外国制裁に対するブロッキング法

 EUやロシア、中国などが外国の制裁に対抗するためのブロッキング法を施行しているが、これらの法律は過剰コンプライアンスに対する対策としては不十分であるとの指摘がある。

 V. 結論と推奨事項

 A. 結論

 1.二次制裁の拡大

 二次制裁は、第一次制裁の対象とされる外国の個人や団体との取引に対して適用され、国際法では合法と認められていない。これが拡大することにより、より多くの企業が過剰コンプライアンスに走る懸念がある。

 2.法的根拠の不明確さ

 二次制裁や民事・刑事罰の恐れが、企業の過剰コンプライアンスを助長しているとされている。制裁の複雑さや不明瞭さ、頻繁な変更が企業の行動に影響を与えている。

 3.人権への影響
 
 過剰コンプライアンスは、食料や医薬品などの購入や供給を阻害し、結果として多くの人権が侵害される可能性がある。非対象の個人が財産へのアクセスや経済的義務を果たせなくなることもある。

 4.国際的な義務の認識の遅れ

 一部の国は企業に対して人権デューデリジェンスを義務付けようとしているが、過剰コンプライアンスが広がっている中で進展は遅れている。

 B. 推奨事項

 1.過剰コンプライアンスの最小化

 各国は、法律や規制、金融インセンティブを通じて過剰コンプライアンスを最小限に抑える努力をするべきである。

 2.人権デューデリジェンスの義務化

 企業が人権デューデリジェンスを行うことを法的に義務付けることを推奨している。

 3.企業への影響を考慮

 国家は、企業が過剰コンプライアンスを行わざるを得ない理由を特定し、それを改善するための相談を行うべきである。

 4.二次制裁の脅威の排除

 制裁国は、二次制裁や刑事罰の脅威を排除すべきである。

 5.人権に基づく制裁の見直し

 制裁の執行プロセスが国際法に従ったものであることを確認し、特に人権に与える影響に注意を払う必要がある。

この報告書全体は、制裁がどのように人権に影響を及ぼすか、また過剰コンプライアンスのリスクについて詳しく考察している。そして、過剰コンプライアンスを最小限に抑えるための具体的な提言を行っている。

【要点】

 報告書の目的と背景

 ・提出背景: 人権理事会の決議27/21、45/5、総会決議74/154に基づく。
 ・単独制裁: 一国が他国に独自に課す制裁。国際法上の法的根拠が疑問視される。
 ・二次制裁: 初めの制裁の対象でない国や企業に対して課される制裁。

 二次制裁と過剰遵守のメカニズム

 ・過剰遵守: 企業や個人が法的リスクを避けるために許可された取引を避ける傾向。
 ・影響の拡大: 過剰遵守により、制裁対象国以外の人々にも影響が及ぶ。
 ・人権への影響: 初めの制裁の対象でない個人やコミュニティの権利が侵害される。

 法的および倫理的考察

・法的疑問: 二次制裁や関連する罰則の合法性に疑問。
 ・倫理的配慮: 脆弱な状況に置かれている人々の人権侵害に対する懸念。

 特別報告者の活動と提言

 ・国際的な啓発活動: メディアインタビューや国際会議への参加を通じて広報。
 ・国別訪問: ジンバブエとイランでの人権状況調査。
 ・研究プラットフォーム: 単独制裁の影響に関する研究成果を集める電子リポジトリの設立。
 ・具体的提言

  ⇨ 過剰遵守の抑制策の設定。
  ⇨ 人道的支援へのアクセス確保。
  ⇨ 国際的な協力促進。

 ・必要な行動: 単独制裁による人権への悪影響に対処するための国際的協力と具体的行動の重要性を強調。

 二次制裁と過剰遵守について箇条書きで説明する。

 二次制裁

 ・定義: 特定の国家や個人に対して主に課される制裁が、第三者にも適用されること。
 ・目的: 制裁対象国や企業の国際的孤立を強化し、経済的圧力を高める。
 ・影響

  ⇨ 制裁対象国の金融市場へのアクセス制限。
  ⇨ 通貨使用に関する取引禁止。
  ⇨ 医薬品や医療機器の供給遅延や制限。

 過剰遵守(Overcompliance)

 ・定義: 制裁の範囲を超えて、自発的に制限を課す行為。
 ・背景: リスク回避のために、企業や個人が制裁対象国との取引を完全に避けること。
 ・影響

  ⇨ 非制裁対象者の人権が侵害される可能性。
  ⇨ 食糧や医療の供給が妨げられる。
  ⇨ 国際機関の人道支援活動が制約を受ける。

 具体的な事例

 1.企業の行動

 ・スウェーデンのMölnlyckeがイランへの医療品輸出を停止し、患者に影響。

 2.金融機関の過剰遵守

 ・アメリカの制裁によるベネズエラへの送金拒否が、必要な物資の届かない原因に。

 3.国際機関の制

 ・銀行が人道的援助を正当な理由で拒否し、援助物資が届かない問題。
 
 * 二次制裁と過剰遵守は制裁の目的に反し、人権や国際法に対する新たな脅威を生む。
 * 透明性のあるガイダンスと配慮が必要。

 域外管轄権と執⾏

 ・特別報告者は、米国による域外制裁の法的基盤が不明確である点を懸念。
 ・米国は、従来の国際法の枠を超えた制裁執行を行い、管轄権の拡大を図っている。
 ・米国が域外制裁を行う2つの主な根拠

  ⇨ 米国内仲介者の関与:米国内の銀行などが外国取引に関わる場合、その取引を制裁対象とみなす。
  ⇨ 米国金融システムの利用:米ドルでの取引や、米国の金融機関を通じた取引も制裁対象となる。
 ・他国による域外制裁の例として、アラブ連盟のイスラエルに対するボイコットが挙げられるが、米国のみが域外制裁の執行を積極的に行っている。
 ・米国の制裁による罰則への恐怖が、他国企業の「過剰な順守」を促進し、制裁対象外の取引でも影響を受けるケースが増えている。
 ・米国の制裁は、国際的な法的安定性や透明性を損なう懸念があると指摘されている。
 
 過剰遵守の理由

 ・デリスキング政策

  ⇨ 一方的制裁に対応するため、金融リスクを最小限に抑える必要から過剰遵守が生じる。

 ・遵守のコスト

  ⇨ 適切なデューデリジェンスに多くの時間と費用がかかり、実施が困難。

 ・複雑さと不明瞭さ

  ⇨ 制裁制度の複雑さや不明瞭な規定が、企業の慎重な対応を促進。

 ・規制の変動性

  ⇨ 制裁が頻繁に変更され、企業が対応に困難を感じる。

 ・制裁対象の変化

  ⇨ 制裁対象の追加や解除による遵守の必要性の変化。

 ・解釈の不明瞭さ

  ⇨ 制裁に関する公式ガイダンスが不足し、企業が過剰に慎重になる。

 ・域外適用

  ⇨ アメリカの厳しい制裁が過剰遵守を助長。

 ・デューデリジェンスのコスト

  ⇨ 人権デューデリジェンスのコストが過剰遵守を促す要因に。

 ・制裁の厳しさの違い

  ⇨ 同じ対象に対する制裁の異なる解釈が過剰遵守を生む。

 過剰遵守の人権への影響

 ・影響を受ける権利

  ⇨ 過剰遵守が人権に深刻な影響を及ぼす。

 ・シリアの状況

  ⇨ 制裁が政府と個人を対象にしており、過剰遵守が双方に影響を与える。

 ・ジンバブエの影響

  ⇨ 過剰遵守が住民の健康や教育、雇用へのアクセスを妨げている。

 ・学問の自由への影響

  ⇨ 学術出版社の過剰遵守が論文投稿を拒否する事例が増加。

 ・人道援助への影響

  ⇨ NGOが制裁の影響で食品や医薬品の提供に困難を抱える。

 ・イランのNGOの事例

  ⇨ 銀行サービスの拒否が救援物資の提供を阻害。

 ・寄付のアクセス

  ⇨ NGOが寄付金にアクセスできず、寄付者も二次制裁を恐れる。

 ・シリアの人道状況

  ⇨ 人道的免除があっても過剰遵守が支援を妨げている。

 過剰遵守の範囲

 ・測定の困難性

  ⇨ 過剰遵守は企業によって異なり、測定が難しいが、グローバルに広がっている。

 ・人権への影響

  ⇨ 過剰遵守の影響は一方的制裁自体の影響よりも深刻な可能性がある。

 ・イランの研究活動への影響

  ⇨ 過剰遵守が教育や表現の自由に悪影響を与える。

以下に、国連特別報告者の文書における過剰コンプライアンスに関する内容を箇条書きでまとめる。

 過剰コンプライアンスへの対策

 制裁を課す国家の行動

 1.国際的義務の認識

 ・国家は国際規約(ICESCR)に従い、自国の企業が海外で人権侵害を引き起こさないよう義務がある。

 2.企業の人権デューデリジェンス

 ・スウェーデン政府が企業の人権デューデリジェンスを法的義務化する提案をしたが、進展は乏しい。

 3.EUの指令案

 ・2022年に提案された指令案は企業の人権デューデリジェンスを義務付けるが、制裁に関連する人権問題への対策は不十分。

 4.人道的例外の利用促進

 ・制裁国は人道的例外に関するガイダンスを発表しているが、過剰コンプライアンスを抑える効果は薄い。

 5.過剰コンプライアンスの要因

 ・制裁制度の複雑さ、厳しい執行措置、二次制裁の脅威が過剰コンプライアンスを引き起こす要因。

 6.過剰コンプライアンスを促すかどうか

 ・制裁国が過剰コンプライアンスを意図的に助長する場合もあり、特に米国がその影響を高めているとの疑念。

 第三国の行動

 1.外国制裁への抵抗

 ・一部の国が自国内の個人や団体の外国制裁への従事を禁止。

 2.外国制裁に対するブロッキング法

 ・EUやロシア、中国が施行しているが、過剰コンプライアンスへの対策としては不十分。

 結論と推奨事項

 結論

 1.二次制裁の拡大

 ・二次制裁が拡大し、企業の過剰コンプライアンスを助長する懸念。

 2.法的根拠の不明確さ

 ・二次制裁や罰の恐れが企業の行動に影響。

 3.人権への影響

 ・過剰コンプライアンスが食料や医薬品の供給を阻害し、広範な人権侵害のリスクを引き起こす。

 4.国際的な義務の認識の遅れ

 ・人権デューデリジェンスの義務化が遅れている。

 推奨事項

 1.過剰コンプライアンスの最小化

 ・法律や金融インセンティブを通じて過剰コンプライアンスを抑える。

 2.人権デューデリジェンスの義務化

 ・企業に人権デューデリジェンスを法的義務とすることを推奨。

 3.企業への影響を考慮

 ・国家が企業が過剰コンプライアンスを行う理由を特定し、改善のための相談を行う。

 4.二次制裁の脅威の排除

 ・制裁国は二次制裁や刑事罰の脅威を排除すべき。

 5.人権に基づく制裁の見直し

 ・制裁の執行が国際法に従ったものであることを確認し、人権への影響に注意を払う。

【註】

 ➢ 翻訳文に疑義が生じた場合には、原文を参照して下さい。此れは飽く迄も一参考纏め訳です。 

【註はブログ作成者が付記】

【閑話 完】

【引用・参照・底本】

Secondary sanctions, civil and criminal penalties for circumvention of sanctions regimes and overcompliance with sanctions - Report of the Rapporteur on the negative impact of unilateral coercive measures on the enjoyment of human rights (A/HRC/51/33)
https://reliefweb.int/attachments/546e88cb-218f-407e-99ed-eea441eefb0e/Secondary%20sanctions%2C%20civil%20and%20criminal%20penalties%20for%20circumvention%20of%20sanctions%20regimes%20and%20overcompliance%20with%20sanctions.pdf

西側メディアの信頼性の失墜2024年10月20日 20:25

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【概要】

 ガーアーニー司令官に関する最近の出来事は、イラン・イスラム革命防衛隊のゴッツ部隊司令官である彼が健在であることを証明した。西側メディアは彼の負傷や死亡、拘束を報じたが、これらの報道はすべて誤りであることが確認されている。

 報道の背景には、イスラエルとの関連や、彼の活動を追跡する試みが影響していると考えられている。特に2023年10月7日以降、西側メディアはハマス、パレスチナ、レバノン、イランに関する誤った情報を広めており、これにはイスラエル人乳児の斬首や病院の爆撃といった虚偽の主張が含まれていた。その中でガーアーニー司令官が負傷または死亡したとされる報道もあったが、彼は2024年10月15日に行われた式典に姿を現し、これらの虚偽報道を打ち消した。

 イランの英字新聞「テヘラン・タイムズ」は、西側メディアが「シオニスト政権イスラエル贔屓」の立場を強め、客観的な報道姿勢を失っていると批判している。特に、イスラエルの非人道的行為に対するメディアの支持や、報道の歪曲が指摘されており、これが今回のガーアーニー氏に関する誤報にも影響していると見られている。

 また、専門家のセイエドレザー・サドル・アル・ホセイニー氏は、西側メディアが諜報機関と協力してガーアーニー司令官の情報を収集しようとしていると指摘し、これがメディアの信用を失墜させる原因となっていると警告している。

 結果として、ガーアーニー司令官の健在が確認され、西側メディアの報道は誤りであったことが証明された。
 
【詳細】
 
 イラン・イスラム革命防衛隊ゴッツ部隊の司令官であるイスマーイール・ガーアーニー司令官に関する一連の出来事は、西側メディアの報道の虚偽性を明らかにした。ガーアーニー司令官は、イランの特殊部隊「ゴッツ部隊」を率いる人物であり、前任の司令官であったガーセム・ソレイマーニーが2020年に米軍の無人機攻撃で殺害された後、その後任に就任した。ガーアーニー司令官は、特に公の場にあまり姿を見せない人物として知られており、このことが彼の動静に関する憶測を呼びやすくしている。

 西側メディアの虚偽報道

 2024年9月、レバノン首都ベイルート南部でイスラエル軍が行った空爆により、ヒズボッラーのナスロッラー事務局長が殉教し、同時にイラン革命防衛隊の高官の1人であるニールフォルーシャーン氏も犠牲となった。この出来事の直後、西側メディアは、ガーアーニー司令官も同じ攻撃で殺害された、または負傷したとの報道を行い、さらに一部のメディアでは彼がテヘランに緊急帰国したと伝えた。

 しかし、こうした報道は、後にイラン側から完全に否定された。ゴッツ部隊の高官は、ガーアーニー司令官の負傷や殉教の報道が事実無根であることを公に表明し、これにより西側メディアの信憑性が大きく疑われることとなった。それにもかかわらず、西側メディアは引き続き虚偽の情報を拡散し続け、今度はガーアーニー氏がイスラエルに対する情報漏洩の責任を問われ、尋問を受けているという新たなストーリーが展開された。これに伴い、彼が尋問中に心臓発作を起こしたといった報道まで行われた。

 事実の確認

 2024年10月15日、ガーアーニー司令官は、イラン国内で行われた革命防衛隊の故ニールフォルーシャーン司令官の葬儀に出席し、公にその姿を見せた。この式典では、ガーアーニー司令官は同僚や他のイラン政府高官と共に祈りを捧げ、健康な様子で周囲と交流していたことが確認された。これにより、彼の死亡や拘束、負傷に関する報道は完全に否定され、西側メディアによる一連の報道が虚偽であったことが証明された。

 イラン国内の反応

 イランの主要メディアである「テヘラン・タイムズ」は、西側メディアの報道に対し強い批判を展開した。特に、これらの報道がイスラエル贔屓の立場から捏造されていると指摘している。記事の中で、「中立性と誠実さはジャーナリズムの基盤であるべきだが、西側メディアはその基盤を無視し、シオニスト政権であるイスラエルを支持するために事実を歪めている」としている。

 さらに、同紙は西側メディアが過去1年間で特に明らかにしてきた、虚偽報道の頻度とその内容の悪質さを批判した。例として、ハマスによるイスラエル人乳児の斬首や病院への爆撃、パレスチナ住民を盾に使うといった虚偽情報が拡散されたことを挙げている。これらの報道は、いずれも証拠に乏しいか、完全に捏造されたものであり、特にガーアーニー氏に関する報道は、その虚偽性が顕著であるとされた。

 専門家の分析

 西アジア地域を専門に研究するセイエドレザー・サドル・アル・ホセイニー氏は、今回のガーアーニー氏に関する虚偽報道について、西側メディアがイスラエルおよびアメリカの諜報機関と連携して、ゴッツ部隊司令官の活動を追跡しようとしていた可能性があると指摘している。ゴッツ部隊はイランの国外作戦を担当しており、その活動の情報は極めて機密性が高いことから、情報収集が非常に難しいとされている。ホセイニー氏は、メディアと諜報機関がこのように緊密に協力することで、メディア自身の信用が大きく損なわれることを警告している。

 西側メディアの信頼性の失墜

 この一連の誤報により、西側メディアの信頼性は大きく損なわれている。かつて信頼されていたロイターやニューヨーク・タイムズといった報道機関も、最近では事実の歪曲や虚偽報道に対する疑念が高まっており、以前ほどの信用を保つことができていない。この結果として、読者の多くはこれらのメディアから離れ、他の情報源を求めるようになっている。

 結論

 ガーアーニー司令官に関する西側メディアの報道は完全に誤っており、彼が10月15日に公に姿を見せたことで、これらの報道が虚偽であったことが明らかになった。西側メディアは、イスラエルに有利な立場から報道を行い、事実を歪める傾向が強まっていることが批判されている。

【要点】

 ・イラン革命防衛隊ゴッツ部隊のガーアーニー司令官に関する西側メディアの報道は虚偽であることが確認された。
 ・西側メディアは、2024年9月のイスラエル軍の空爆でガーアーニー司令官が殺害された、または負傷したと報じたが、イラン側はこれを否定。
 ・一部メディアは、ガーアーニー司令官が情報漏洩に関与し尋問を受けたとし、心臓発作を起こしたと報道。
 ・2024年10月15日、ガーアーニー司令官がイラン国内で行われた故ニールフォルーシャーン司令官の葬儀に出席し、健康な姿が確認された。
 ・イランの「テヘラン・タイムズ」は、西側メディアがイスラエル贔屓の立場で報道していると批判。
 ・ハマスやパレスチナに関する虚偽報道がインターネットで拡散されているが、ガーアーニー氏の報道はそれらよりもひどいとされる。
 ・西アジアの専門家は、メディアがイスラエルやアメリカの諜報機関と協力し、ガーアーニー司令官の追跡を試みている可能性があると指摘。
 ・西側メディアの信頼性が大きく失墜し、読者は他の情報源を求めるようになっている。

【引用・参照・底本】

ガーアーニー司令官は存命;西側の報道は虚偽 ParsToday 2024.10.20
https://parstoday.ir/ja/news/iran-i125968

イスラエル:6つの失敗戦略2024年10月20日 20:58

Ainovaで作成
【概要】

 イスラエルがこれまでに選択した6つの失敗戦略は、以下の通り。

 戦略1:勝者の偽装

 イスラエルは、西側メディアの支援を受けて戦争を自らの有利に進めようとした。戦場での勝利をメディアで大々的に宣伝し、自身を「被害者」と偽装しつつ、勝者としての立場を強調した。しかし、残虐行為の拡大により、国際世論はイスラエルに対する批判に転じ、支持を失う結果となった。

 戦略2:抵抗組織の指導者の抹殺

 イスラエルは、抵抗組織の指導者を暗殺することで組織の弱体化を図ったが、ハマスなどの抵抗勢力は組織的に再編成され、新たな指導者が台頭した。この戦略は、抵抗運動の精神性や価値観を過小評価していたために失敗したとされている。

 戦略3:占領地周辺での緩衝地帯の設置

 イスラエルは占領地周辺に緩衝地帯を設け、抵抗勢力と物理的に距離を置こうとしたが、この戦略は抵抗勢力の影響力を過小評価し、実質的な効果をもたらさなかったと評価されている。

 戦略4:戦費共有を目的とした地域・世界への危機分散

 イスラエルは戦争の費用を他国と分担させるべく、危機を地域や世界に分散させようとしたが、この戦略は地域諸国がイスラエルを脅威として認識し、反イスラエルの立場を強める結果を招いだ。

 戦略5:市民への抵抗組織への対抗の奨励、二重基準の形成

 イスラエルは、市民に対して抵抗組織に反対するよう促したが、この戦略は逆に地域の市民がイスラエルに対する反感を強める結果となり、アラブ諸国において反イスラエルの動きが加速した。

 戦略6:戦争を継続・拡大すること

 イスラエルは、戦争の拡大を図ったが、空軍に依存した戦術的作戦は限界に達し、地上戦への懸念が強まっている。多くの戦線での戦いにより、イスラエルは政治的・軍事的に疲弊しつつある。

 これらの戦略は、イスラエルの戦略的失敗を浮き彫りにし、国際的な支持を失う要因となっている。
 
【詳細】
 
 イスラエルが選択した6つの戦略的失敗について、さらに詳細に説明する。

 戦略1:勝者の偽装

 イスラエルは、西側メディア帝国の支援を受けて自らを勝者として偽装し、国際社会の支持を集めようとした。特に、メディアを通じて「自国が被害者である」というプロパガンダを展開し、道徳的な正当性をアピールした。このような戦略は、戦場での実際の成果よりも世論操作に重点を置いたものであり、現代においてはメディアを活用して影響力を持つことが重要視されている。しかし、イスラエルの行動が激しさを増し、民間人への被害が拡大したことで、メディア上の「勝者」としての立場が揺らいだ。結果的に、支持していた西側メディアもその声を抑えるようになり、国際世論は次第にイスラエルに対して批判的な姿勢を取るようになった。

 戦略2:抵抗組織の指導者の抹殺

 イスラエルは、ハマスやその他の抵抗組織の指導者を暗殺することで、組織全体を崩壊させることを狙った。この戦略は、指導者を排除することで抵抗勢力のリーダーシップを奪い、組織を弱体化させるというものであった。しかし、ハマスなどの抵抗勢力は強い組織的・精神的な結束を持ち、個々の指導者の暗殺では組織全体の機能を完全に破壊することができなかった。むしろ、指導者が抹殺される度に新たなリーダーが台頭し、抵抗運動は継続していった。このため、指導者暗殺による組織崩壊という戦略は失敗に終わり、逆に組織の再編成と強化を招いたのである。

 戦略3:占領地周辺での緩衝地帯の設置

 イスラエルは、ガザや西岸地区などの占領地周辺に緩衝地帯を設置し、物理的に抵抗勢力との距離を取ることで安全を確保しようとした。しかし、この戦略は地理的な距離を設けても抵抗組織の活動を封じ込めることができないという現実を見誤っていた。占領地は元々パレスチナ人の土地であり、緩衝地帯の設置はその地域に対するさらなる侵害と見なされ、抵抗勢力の反発を強める結果となった。また、緩衝地帯は抵抗勢力の物理的な動きを一時的に制限できたとしても、彼らの支援者や補給ルートを完全に断つことはできず、実質的な効果は限定的であった。

 戦略4:戦費共有を目的とした地域・世界への危機分散

 イスラエルは、戦争の費用を自国だけで負担するのではなく、地域や世界に危機を分散させることで他国にもその負担を共有させる戦略を取ろうとした。具体的には、戦争による混乱や危機を周辺諸国に広げることで、国際社会に対応を迫り、イスラエルが直面する負担を軽減することを狙った。しかし、この戦略は長期的に見て逆効果となった。地域の安定を脅かすことで、周辺諸国がイスラエルを脅威として見なすようになり、結果的にイスラエルに対する国際的な圧力が増大した。また、地域諸国はイスラエルの行動がもたらす混乱に対して警戒を強め、反イスラエルの連携が強まる結果となったのである。

 戦略5:市民への抵抗組織への対抗の奨励、二重基準の形成

 イスラエルは、市民を利用して抵抗組織に対抗させるという戦略を取った。イスラエルは、抵抗組織が地域の平和と安定を脅かす存在であると市民に対して吹き込み、民衆の間で抵抗組織に対する反感を煽ろうとした。しかし、実際には市民の多くがイスラエル政権そのものを「問題の元凶」と見なしており、イスラエルのプロパガンダは逆効果を招いた。地域全体で反イスラエル感情が高まり、イスラエルに対する抗議運動や抵抗活動がさらに活発化した。また、この戦略は二重基準の形成を助長し、国際社会からの批判を招く結果にもなった。

 戦略6:戦争を継続・拡大すること

 イスラエルは、戦争を継続し、さらに拡大することで自らの目標を達成しようとした。しかし、戦争の継続は国際的な批判を招き、イスラエル国内でも政治的・軍事的な疲弊が進んだ。また、空軍を中心とした戦術的な作戦は効果が限定的であり、イスラエルが真に恐れている地上戦に突入する可能性が高まりつつある。地上戦は、より大きな犠牲を伴い、イスラエルの軍事力にさらなる負担をかけることが予想されている。さらに、広範囲にわたる抵抗勢力との戦いにより、イスラエルは戦線の拡大によって戦略的に行き詰まりつつある。

 これら6つの戦略的失敗は、イスラエルの軍事的・政治的立場を弱体化させ、国際的な支持を失う要因となった。

【要点】

 ・勝者の偽装: メディアを通じて自国を「勝者」と見せかけ、国際世論を操作しようとしたが、民間人被害の拡大で支持を失った。

 ・抵抗組織指導者の抹殺: ハマスの指導者を暗殺し組織を弱体化させようとしたが、新たなリーダーが台頭し、組織の結束は保たれた。

 ・占領地周辺での緩衝地帯設置: 緩衝地帯を設置し安全を確保しようとしたが、抵抗勢力の活動を封じ込めることができず、反発を招いた。

 ・地域・世界への危機分散: 周辺国に危機を分散し、戦争の負担を共有させようとしたが、逆に国際的な圧力が増加し、反イスラエル連携が強まった。

 ・市民による抵抗組織への対抗の奨励: 市民を利用して抵抗組織に反対させようとしたが、市民はイスラエルを問題視し、反発を強めた。

 ・戦争の継続・拡大: 戦争を継続・拡大することで目標達成を狙ったが、国際的な批判が増し、地上戦突入のリスクが高まった。

【引用・参照・底本】

イスラエルがこれまでに選択した6つの失敗戦略 ParsToday 2024.10.20
https://parstoday.ir/ja/news/west_asia-i125974