反政府派解散:戦闘員がシリア国防省傘下に統合2024年12月18日 13:33

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【概要】
 
 シリアの反政府勢力である「ハヤート・タハリール・アル=シャーム」(HTS)の指導者アフマド・シャラー(旧名:アブ・モハンマド・アル=ジョラニ)は、2024年12月17日、反体制派の諸派が解散し、全戦闘員がシリア国防省の下に統一されると発表した。この発表は、HTSの公式Telegramアカウントに投稿された声明で公表された。

 シャラーは、シリアの少数派であるドルーズ派との会談において、「シリアは統一されたままでなければならず、国家とすべての宗派との間に社会正義を確保するための社会契約が必要である」と述べた。また、「派閥は解散され、戦闘員は国防省に参加する準備を整え、すべての人が法律の下に置かれる」と強調した。

 HTSは、アサド政権の打倒において複雑な構成の反体制派諸派を結集させたが、これらの派閥は時に異なる敵を目標にして外国勢力から支援を受け、互いに衝突することもあった。シャラーが提案する国家軍への統合は、すべてのシリア人を包含する政府を目指す中で、国際的な正当性を得るための一環として掲げられた公約の一つである。

 一方、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イスラエルが管理するシリア領内の地域を視察し、シリア内の「安全地帯」に位置するヘルモン山頂を訪問した。この訪問は、現職のイスラエル首相によるシリア領内の視察としては異例であり、イスラエル国防軍がこの地域に展開して以来初の高官視察である。ネタニヤフ首相は、「イスラエルの安全を確保する別の体制が見つかるまで、イスラエルはシリアに留まる」と述べた。

 HTSは、かつてアル=カーイダやイスラム国と関係を持っていたが、近年では地方問題に焦点を当てたイスラム主義運動として再編を図っている。アメリカ国務省は依然としてHTSをテロ組織に指定しているが、アメリカ政府は安定した政権移行を推進する中でHTSとの直接接触を行っており、アントニー・ブリンケン国務長官は、将来のシリア政府が女性や少数派の権利を尊重し、テロ組織を容認しないことを条件に認知を検討すると述べている。

 また、以下の動向が報告されている。

 ・アメリカ支援を受けるシリア民主軍(SDF)が、トルコの攻撃を回避するためにクルド独立運動の象徴的な都市であるコバネを非武装地帯として提案した。
 ・アメリカ国務省は、トルコとSDFの間の停戦延長を発表したが、停戦は前夜に崩壊した。
 ・ハマスは、カタールの首都ドーハでの交渉が「前向きかつ真剣」であり、イスラエルが新たな条件を課さない限り停戦合意が「可能」であると述べた。
 ・イスラエルのイスラエル・カッツ国防相は、イスラエルが「完全な行動自由を持ってガザの安全統制を維持する」と発言した。
 ・ガザ保健省によると、イスラエルとガザの戦争でこれまでに45,059人が死亡し、107,041人が負傷したと報告されている。
 ・イスラエル政府は、2023年10月7日のハマスによる攻撃で1,200人以上が死亡し、そのうち300人以上が兵士であったと推定している。また、ガザ作戦開始以降、386人の兵士が死亡したとしている。
 
【詳細】
 
 シリア反政府勢力の指導者アフマド・シャラーが発表した内容は、シリア内戦の進展や反体制派の再編において重大な転換点を示している。彼が率いる「ハヤート・タハリール・アル=シャーム」(HTS)は、かつてアル=カーイダと関係を持ち、国際的にはテロ組織と見なされている。しかし近年、HTSは地方統治に焦点を当て、シリア北部イドリブを事実上支配しつつも、国際的な正当性を得るために再編を進めている。

 アフマド・シャラーの声明の詳細

 アフマド・シャラーは、ドルーズ派の宗教的および社会的リーダーとの会談で、反体制派の統一と国家軍の再編について強調した。彼は、以下の点を明確にした:

 1.反政府派の解散:HTSを含む全派閥が解散され、個々の戦闘員がシリア国防省傘下に統合される。
 2.法の下での平等:すべての戦闘員は法律に従い、国家軍の一員として行動する。
 3.社会正義の強調:国家とあらゆる宗派との間で社会正義を確保し、分裂ではなく統一を目指す。

 この発表は、シリアの戦後統治の枠組みを提示する試みと見られ、彼の目標は、反体制派を軍事的勢力から国家の一部として組み込み、シリア国内外での支持を得ることである。

 背景:HTSと反体制派の構造

 HTSは、シリア内戦の最中に形成された複数の反体制派の連合である。その構成は多様で、アサド政権を打倒するという共通目的のもとに集結したものの、以下のような課題を抱えていた。

 ・派閥間の対立:異なるイデオロギーや支持国による資金援助の違いから、派閥間で衝突が発生した。
 ・国際的支援の不安定性:一部の派閥はトルコやアメリカなどの外国勢力から支援を受けたが、その支援は必ずしも一貫していなかった。
 ・地方統治の課題:HTSが支配するイドリブ地域では、統治と治安維持が課題であり、国際社会からの支援を得るための取り組みが進められている。
 
 ネタニヤフ首相のシリア視察

 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がシリア領内の「安全地帯」を視察したことも注目される。この訪問は、イスラエル国防軍が展開するヘルモン山地域を含む戦略的エリアを視察するものであり、以下の点で重要である:

 1.安全保障の確保:ネタニヤフは、「イスラエルの安全を確保する別の体制が見つかるまで、イスラエルはこの地域に留まる」と述べた。これは、シリア情勢がイスラエルの安全保障政策に直接影響を与えていることを示している。
 2.象徴的な訪問:現職のイスラエル首相によるシリア領内訪問は異例であり、イスラエルがこの地域での影響力を維持しようとしていることを示している。

 アメリカの対応

 アメリカ政府は、シリアの政権移行を安定的に進めるために、HTSとの接触を開始している。国務長官アントニー・ブリンケンは、以下の条件を提示している。

 1.少数派と女性の権利の保護:将来のシリア政府がすべての市民の権利を保障する必要がある。
 2.テロ組織の排除:シリア国内におけるテロ組織の存在を容認しないこと。

 これらの条件が満たされた場合、アメリカは新たなシリア政府を認知する可能性があると述べている。

 その他の関連動向

 1.トルコとシリア民主軍(SDF)の停戦

 ・アメリカは、トルコとSDFの間の停戦を延長することを発表したが、停戦は崩壊しつつある。
 ・SDFは、クルド独立運動の象徴的な都市であるコバネを非武装地帯とすることを提案した。

 2.ガザの戦況

 ・ガザ保健省によると、イスラエルとガザの戦争でこれまでに45,059人が死亡し、107,041人が負傷した。
 ・一方、イスラエルではハマスによる2023年10月7日の攻撃で1,200人以上が死亡し、そのうち300人以上が兵士であったと報告されている。

 全体のまとめ

 アフマド・シャラーの発表は、シリア内戦後の国家再建における重要な一歩であり、国内統一と国際的正当性を目指す試みとして注目されている。同時に、イスラエルやアメリカの動向がシリアの未来にどのように影響を与えるかが鍵となるであろう。
  
【要点】 
 
 アフマド・シャラー(HTS指導者)の発表内容

 ・シリアの反体制派勢力(HTSを含む)を解散し、戦闘員をシリア国防省の指揮下に統合すると表明。
 ・国家と全宗派の間で社会正義を確保し、シリアの統一を維持する方針を強調。
 ・法律の下で平等を実現し、国防省の下で統一された国家軍を形成する計画を示唆。

 HTSの背景

 ・以前はアル=カーイダとのつながりを持つテロ組織として認識されていたが、現在は地方統治を重視し、国際的正当性を得るための再編を進めている。
 ・イドリブ地域を事実上支配しており、地方統治と治安維持に注力。
 ・派閥間の対立や国際的支援の不安定性などの課題を抱えてきた。

 ネタニヤフ首相のシリア視察

 ・ヘルモン山を含むシリア領内の「安全地帯」を視察し、イスラエルの安全保障政策を再確認。
 ・「イスラエルの安全を確保する別の体制が見つかるまで、イスラエルはこの地域に留まる」と明言。
 ・現職イスラエル首相によるシリア領内訪問は異例。

 アメリカの対応

 ・アメリカ政府は、HTSと直接接触を行い、シリアの政権移行を安定的に進めることを模索。

 ・アメリカの条件

 1.少数派と女性の権利を保障すること。
 2.テロ組織の存在を容認しないこと。
条件が満たされれば、アメリカは新たなシリア政府を認知する可能性を示唆。

 トルコとSDFの停戦問題

 ・トルコとアメリカ支援のシリア民主軍(SDF)間の停戦延長をアメリカが発表したが、停戦は崩壊しつつある。
 ・SDFはコバネを非武装地帯とする提案を行い、トルコの攻撃を回避しようとしている。

 ガザ情勢

 ・ガザ保健省:イスラエルの攻撃で45,059人が死亡、107,041人が負傷(民間人・戦闘員の区別なし)。
 ・ハマスによる2023年10月7日の攻撃で、イスラエル側は1,200人以上が死亡、そのうち300人以上が兵士。
 ・現在、ガザの「戦後管理」を巡る議論が進行中。

 まとめ

 ・アフマド・シャラーの発表はシリアの戦後統一と再建を目指す重要な試みである。
 ・国際的な注目が集まる中、イスラエル、アメリカ、トルコといった周辺国の対応がシリアの未来に大きな影響を与える。

【引用・参照・底本】

Syrian rebel leader says rebel factions will be dissolved The New York Times 2024.12.17
https://www.washingtonpost.com/world/2024/12/17/israel-syria-war-news-hamas-gaza-palestine/

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