暗殺はウクライナの作戦 ― 2024年12月18日 10:33
【概要】
ウクライナの治安機関(SBU)の関係者によると、モスクワにおいてロシアの放射線・化学・生物防護部隊の指揮官であるイーゴリ・キリロフ将軍が暗殺された。この暗殺は、ロシアによるウクライナ全面侵攻が始まった2022年以降、ロシア国内での最も大胆な攻撃の一つであるとされる。
キリロフ将軍(54歳)は、同僚とともに12月17日の朝、モスクワ市内の住宅ビルの入口近くで爆発物によって殺害された。この爆弾はスクーターに仕掛けられており、爆発の威力はTNT約1kg以上に相当するものであったとロシアの捜査委員会が発表している。
SBUの匿名の関係者によれば、この暗殺はウクライナの作戦であり、キリロフ将軍は「正当な標的」であると見なされた。ウクライナは前日、将軍が化学兵器を使用する犯罪行為に関与していると非難しており、彼が戦場で禁止されている化学物質を用いた攻撃を指揮したと主張している。
キリロフ将軍は、ロシア軍の特殊部隊を率い、核兵器や化学兵器が使用された際の防護や、焼夷兵器を用いた攻撃といった任務を担っていた。また、彼はロシアのプロパガンダ活動においても目立つ存在であり、西側諸国やウクライナを非難する声明を発表することが多かった。
今回の暗殺については、ロシア国内外で議論が巻き起こっている。ロシア議会では黙祷が捧げられ、同僚や高官が彼を「科学者でもある軍事指導者」として称えた。一方で、アメリカの高官は、このような暗殺行為がプーチン政権の反応を招き、事態をエスカレートさせる可能性があると懸念を示した。
ウクライナは、戦場での劣勢を補うために、暗殺や破壊工作を含む非対称戦術を多用しているとされる。SBUは以前にもロシアの黒海艦隊司令官の暗殺や、クリミア大橋への攻撃を実行したとされる。
このような作戦の目的について、元英国防衛駐在官であるジョン・フォアマン氏は、ウクライナが報復と抑止のメッセージを送ることを狙っていると分析している。しかし、これがロシアの戦略や戦場での状況を根本的に変えることはないと見られている。
ウクライナの主張によれば、キリロフ将軍は化学兵器の使用を含む約4800回の攻撃を指揮しており、これにより国際的な規約に違反しているとして非難されている。これに対し、ロシア側は化学兵器使用の疑惑を否定しており、国際的な機関からも十分な証拠が提示されていないとの指摘がある。
暗殺の影響については、ウクライナとロシアの双方で今後の動向が注目されている。
【詳細】
ウクライナ政府がロシア軍の放射線、化学および生物防衛部隊の責任者であったイーゴリ・キリロフ将軍をモスクワで暗殺したと発表した件について、更に詳述する。
暗殺の経緯と手法
2024年12月17日、ロシアのモスクワ市内で爆弾が仕掛けられたスクーターが爆発し、イーゴリ・キリロフ将軍とその補佐官が死亡した。この事件は朝6時12分頃、モスクワの住宅建物付近で発生した。ロシア捜査委員会によると、爆弾は約1キログラムのTNTに相当する威力を持ち、近隣の建物の窓ガラスが三階部分まで破損するほどの爆発だった。
ロシアのメディアは、将軍が移動する際の監視に使用された隠しカメラが近くのカーシェアリング車両で発見されたと報じている。さらに、爆発直前の様子を捉えた監視映像が公開されており、建物から出た人物が爆発の瞬間に巻き込まれる様子が確認されている。この爆発による将軍の死亡は、ロシア軍の中核に位置する人物が国内で暗殺されるという極めて異例の事態である。
ウクライナの関与と動機
ウクライナの国内治安機関(SBU)は、この暗殺に関与したと公式に認めており、キリロフ将軍を「正当な標的」とみなしていたと述べている。SBUは、将軍がウクライナ戦線で禁止された化学兵器を大量に使用した責任者であると主張している。SBUによれば、ロシア軍は将軍の指揮下で化学物質を含む弾薬をウクライナ軍の陣地に投下し、ウクライナ兵を塹壕から退避させるために用いたとされる。
キリロフ将軍の経歴と役割
キリロフ将軍はロシア軍の放射線、化学および生物防衛部隊(RCB防衛部隊)の長官であり、この部隊は核兵器や化学兵器が使用される状況でロシア軍を保護する役割を担うと同時に、火炎放射器やサーモバリック兵器(TOS-2ロケットランチャーなど)の開発と運用にも関与していた。
さらに、将軍はロシアのプロパガンダ活動にも積極的に参加していた人物であり、ウクライナや西側諸国を化学兵器や生物兵器の拠点と非難する主張を繰り返していた。例えば、2023年には米国が「感染した蚊を広めるドローン」を使用する計画があると主張していた。
国際的な反応
ウクライナによるこの暗殺は、米国をはじめとする西側諸国に微妙な影響を与えている。米国の高官は、このような暗殺行為がロシア大統領ウラジーミル・プーチンの厳しい報復を招く可能性があるため、状況を注視している。さらに、米国の一部高官は、キリロフ将軍が戦争における重要な司令官ではないことから、この暗殺が戦場の状況に与える影響は限定的であると述べている。
一方、ロシア国内ではキリロフ将軍の死が重大な事件として報じられており、国家院の議長であるヴィアチェスラフ・ヴォロディンは、将軍を「軍事指導者であると同時に、科学者でもあった」として追悼している。
ウクライナの特殊作戦とその背景
今回の暗殺は、ウクライナが戦場外での特殊作戦を通じてロシアへの圧力を強化する戦略の一環である。これにはクリミア大橋への攻撃や、ロシア国内および占領地域での要人暗殺が含まれる。ウクライナはこれらの行動を「報復」として正当化しており、特に化学兵器の使用など国際法違反に対する警告として位置づけている。
ウクライナのSBUは過去にもロシアの要人に対する暗殺を行った実績がある。例えば、2022年のダリア・ドゥギナ氏の殺害や、ロシア黒海艦隊の高官に対する攻撃が挙げられる。これらの作戦は、ウクライナの軍事的劣勢を補うための「非対称戦争戦略」の一部であるとされる。
今後の展開
今回の暗殺は、ロシア軍内部への心理的な打撃を与える一方で、ロシア側の報復を招く可能性が高い。専門家の間では、ロシアが同様の地位にあるウクライナ軍高官を標的とする可能性が指摘されている。また、戦場での戦況そのものに大きな影響を与える可能性は低いとされるが、両国間の緊張がさらに高まることは避けられない。
ウクライナによるこの作戦は、ロシアの軍事的・政治的エリートに対する明確な警告であると同時に、国際社会に対してロシアの行動に対抗する意思を示すものである。
【要点】
イーゴリ・キリロフ将軍暗殺の詳細
1.事件概要
・2024年12月17日、モスクワで爆弾が仕掛けられたスクーターが爆発し、イーゴリ・キリロフ将軍とその補佐官が死亡。
・爆弾の威力は約1キログラムのTNTに相当し、周囲の建物にも被害が発生。
2.暗殺の手法
・爆発現場付近に隠しカメラを設置し、ターゲットを監視。
・爆発の瞬間の映像が公開され、精密な作戦が実行されたと推測される。
3.ウクライナの関与
・ウクライナの国内治安機関(SBU)が暗殺を認め、キリロフ将軍を「正当な標的」とみなした。
・将軍がウクライナで禁止された化学兵器を使用した責任者と主張。
4.キリロフ将軍の役割
・ロシア軍放射線、化学および生物防衛部隊の長官。
・化学兵器、サーモバリック兵器の開発・運用を指揮。
・プロパガンダ活動にも関与し、西側を化学・生物兵器の脅威と非難していた。
5.国際的反応
・米国を含む西側諸国は状況を注視しつつ、報復の可能性を懸念。
・ロシア国内では事件が重大視され、政府高官が追悼の声明を発表。
6.背景と戦略
・ウクライナの特殊作戦の一環として実施され、ロシアへの圧力を強化。
・過去の事例として、クリミア大橋攻撃やロシア要人暗殺が挙げられる。
7.影響と見通し
・ロシア軍内部への心理的打撃を与え、報復の可能性が高まる。
・戦況そのものに大きな影響はないが、両国間の緊張がさらに激化する見込み。
・国際社会へのウクライナの対抗意思を示す作戦として位置づけられる。
【引用・参照・底本】
Ukraine Says It Killed General Who Led Russia’s Nuclear Defense Force The New York Times 2024.12.17
https://www.nytimes.com/2024/12/17/world/europe/russian-general-bombing-moscow.html
ウクライナの治安機関(SBU)の関係者によると、モスクワにおいてロシアの放射線・化学・生物防護部隊の指揮官であるイーゴリ・キリロフ将軍が暗殺された。この暗殺は、ロシアによるウクライナ全面侵攻が始まった2022年以降、ロシア国内での最も大胆な攻撃の一つであるとされる。
キリロフ将軍(54歳)は、同僚とともに12月17日の朝、モスクワ市内の住宅ビルの入口近くで爆発物によって殺害された。この爆弾はスクーターに仕掛けられており、爆発の威力はTNT約1kg以上に相当するものであったとロシアの捜査委員会が発表している。
SBUの匿名の関係者によれば、この暗殺はウクライナの作戦であり、キリロフ将軍は「正当な標的」であると見なされた。ウクライナは前日、将軍が化学兵器を使用する犯罪行為に関与していると非難しており、彼が戦場で禁止されている化学物質を用いた攻撃を指揮したと主張している。
キリロフ将軍は、ロシア軍の特殊部隊を率い、核兵器や化学兵器が使用された際の防護や、焼夷兵器を用いた攻撃といった任務を担っていた。また、彼はロシアのプロパガンダ活動においても目立つ存在であり、西側諸国やウクライナを非難する声明を発表することが多かった。
今回の暗殺については、ロシア国内外で議論が巻き起こっている。ロシア議会では黙祷が捧げられ、同僚や高官が彼を「科学者でもある軍事指導者」として称えた。一方で、アメリカの高官は、このような暗殺行為がプーチン政権の反応を招き、事態をエスカレートさせる可能性があると懸念を示した。
ウクライナは、戦場での劣勢を補うために、暗殺や破壊工作を含む非対称戦術を多用しているとされる。SBUは以前にもロシアの黒海艦隊司令官の暗殺や、クリミア大橋への攻撃を実行したとされる。
このような作戦の目的について、元英国防衛駐在官であるジョン・フォアマン氏は、ウクライナが報復と抑止のメッセージを送ることを狙っていると分析している。しかし、これがロシアの戦略や戦場での状況を根本的に変えることはないと見られている。
ウクライナの主張によれば、キリロフ将軍は化学兵器の使用を含む約4800回の攻撃を指揮しており、これにより国際的な規約に違反しているとして非難されている。これに対し、ロシア側は化学兵器使用の疑惑を否定しており、国際的な機関からも十分な証拠が提示されていないとの指摘がある。
暗殺の影響については、ウクライナとロシアの双方で今後の動向が注目されている。
【詳細】
ウクライナ政府がロシア軍の放射線、化学および生物防衛部隊の責任者であったイーゴリ・キリロフ将軍をモスクワで暗殺したと発表した件について、更に詳述する。
暗殺の経緯と手法
2024年12月17日、ロシアのモスクワ市内で爆弾が仕掛けられたスクーターが爆発し、イーゴリ・キリロフ将軍とその補佐官が死亡した。この事件は朝6時12分頃、モスクワの住宅建物付近で発生した。ロシア捜査委員会によると、爆弾は約1キログラムのTNTに相当する威力を持ち、近隣の建物の窓ガラスが三階部分まで破損するほどの爆発だった。
ロシアのメディアは、将軍が移動する際の監視に使用された隠しカメラが近くのカーシェアリング車両で発見されたと報じている。さらに、爆発直前の様子を捉えた監視映像が公開されており、建物から出た人物が爆発の瞬間に巻き込まれる様子が確認されている。この爆発による将軍の死亡は、ロシア軍の中核に位置する人物が国内で暗殺されるという極めて異例の事態である。
ウクライナの関与と動機
ウクライナの国内治安機関(SBU)は、この暗殺に関与したと公式に認めており、キリロフ将軍を「正当な標的」とみなしていたと述べている。SBUは、将軍がウクライナ戦線で禁止された化学兵器を大量に使用した責任者であると主張している。SBUによれば、ロシア軍は将軍の指揮下で化学物質を含む弾薬をウクライナ軍の陣地に投下し、ウクライナ兵を塹壕から退避させるために用いたとされる。
キリロフ将軍の経歴と役割
キリロフ将軍はロシア軍の放射線、化学および生物防衛部隊(RCB防衛部隊)の長官であり、この部隊は核兵器や化学兵器が使用される状況でロシア軍を保護する役割を担うと同時に、火炎放射器やサーモバリック兵器(TOS-2ロケットランチャーなど)の開発と運用にも関与していた。
さらに、将軍はロシアのプロパガンダ活動にも積極的に参加していた人物であり、ウクライナや西側諸国を化学兵器や生物兵器の拠点と非難する主張を繰り返していた。例えば、2023年には米国が「感染した蚊を広めるドローン」を使用する計画があると主張していた。
国際的な反応
ウクライナによるこの暗殺は、米国をはじめとする西側諸国に微妙な影響を与えている。米国の高官は、このような暗殺行為がロシア大統領ウラジーミル・プーチンの厳しい報復を招く可能性があるため、状況を注視している。さらに、米国の一部高官は、キリロフ将軍が戦争における重要な司令官ではないことから、この暗殺が戦場の状況に与える影響は限定的であると述べている。
一方、ロシア国内ではキリロフ将軍の死が重大な事件として報じられており、国家院の議長であるヴィアチェスラフ・ヴォロディンは、将軍を「軍事指導者であると同時に、科学者でもあった」として追悼している。
ウクライナの特殊作戦とその背景
今回の暗殺は、ウクライナが戦場外での特殊作戦を通じてロシアへの圧力を強化する戦略の一環である。これにはクリミア大橋への攻撃や、ロシア国内および占領地域での要人暗殺が含まれる。ウクライナはこれらの行動を「報復」として正当化しており、特に化学兵器の使用など国際法違反に対する警告として位置づけている。
ウクライナのSBUは過去にもロシアの要人に対する暗殺を行った実績がある。例えば、2022年のダリア・ドゥギナ氏の殺害や、ロシア黒海艦隊の高官に対する攻撃が挙げられる。これらの作戦は、ウクライナの軍事的劣勢を補うための「非対称戦争戦略」の一部であるとされる。
今後の展開
今回の暗殺は、ロシア軍内部への心理的な打撃を与える一方で、ロシア側の報復を招く可能性が高い。専門家の間では、ロシアが同様の地位にあるウクライナ軍高官を標的とする可能性が指摘されている。また、戦場での戦況そのものに大きな影響を与える可能性は低いとされるが、両国間の緊張がさらに高まることは避けられない。
ウクライナによるこの作戦は、ロシアの軍事的・政治的エリートに対する明確な警告であると同時に、国際社会に対してロシアの行動に対抗する意思を示すものである。
【要点】
イーゴリ・キリロフ将軍暗殺の詳細
1.事件概要
・2024年12月17日、モスクワで爆弾が仕掛けられたスクーターが爆発し、イーゴリ・キリロフ将軍とその補佐官が死亡。
・爆弾の威力は約1キログラムのTNTに相当し、周囲の建物にも被害が発生。
2.暗殺の手法
・爆発現場付近に隠しカメラを設置し、ターゲットを監視。
・爆発の瞬間の映像が公開され、精密な作戦が実行されたと推測される。
3.ウクライナの関与
・ウクライナの国内治安機関(SBU)が暗殺を認め、キリロフ将軍を「正当な標的」とみなした。
・将軍がウクライナで禁止された化学兵器を使用した責任者と主張。
4.キリロフ将軍の役割
・ロシア軍放射線、化学および生物防衛部隊の長官。
・化学兵器、サーモバリック兵器の開発・運用を指揮。
・プロパガンダ活動にも関与し、西側を化学・生物兵器の脅威と非難していた。
5.国際的反応
・米国を含む西側諸国は状況を注視しつつ、報復の可能性を懸念。
・ロシア国内では事件が重大視され、政府高官が追悼の声明を発表。
6.背景と戦略
・ウクライナの特殊作戦の一環として実施され、ロシアへの圧力を強化。
・過去の事例として、クリミア大橋攻撃やロシア要人暗殺が挙げられる。
7.影響と見通し
・ロシア軍内部への心理的打撃を与え、報復の可能性が高まる。
・戦況そのものに大きな影響はないが、両国間の緊張がさらに激化する見込み。
・国際社会へのウクライナの対抗意思を示す作戦として位置づけられる。
【引用・参照・底本】
Ukraine Says It Killed General Who Led Russia’s Nuclear Defense Force The New York Times 2024.12.17
https://www.nytimes.com/2024/12/17/world/europe/russian-general-bombing-moscow.html