ロシア:ウクライナ経由最古の欧州向けガス輸送ルートを停止2025年01月02日 15:44

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【概要】

 ロシアは2025年1月1日、ウクライナを経由する最古の欧州向けガス輸送ルートを停止した。これは、両国間でガス輸送契約の延長が行われなかったためである。モスクワが2022年にウクライナへの全面侵攻を開始したことで、欧州はロシアのガス依存からの脱却を加速させ、この動きはウクライナによって歓迎されている。

 ウクライナのエネルギー大臣であるヘルマン・ガルシュチェンコ氏は、「ロシアのガス輸送を停止したことは歴史的な出来事である。ロシアは市場を失い、経済的損失を被ることになる。欧州はすでにロシアのガスを放棄する決定を下している」と声明で述べた。

 ロシアのガスプロムは、ウクライナを通じたガス輸送が2025年1月1日午前8時(モスクワ時間)から停止されたと発表した。また、ウクライナ側が契約更新を明確に拒否したため、ガスプロムは技術的・法的にガス供給を継続することができなくなったと説明している。

 この停止により、ウクライナは年間約8億ドルのトランジット収入を失い、ガスプロムも約50億ドルのガス販売収入を失うことになる。一方、欧州は代替供給源を確保しており、スロバキアやオーストリアなどの残存購入国もすでに準備を整えている。特に影響を受ける国の一つであるモルドバは、ガス使用量を3分の1削減する措置を導入する必要があるとしている。

 ロシアは現在、トルクストリームパイプラインを通じてガスを輸出しており、これにはトルコ国内市場向けのラインとハンガリーやセルビアなどの中央ヨーロッパ市場向けのラインが含まれる。

 欧州は2022年以降、ロシアのエネルギー依存を減らすために代替供給源を模索しており、ロシア・旧ソ連が半世紀かけて築いた欧州ガス市場の主要なシェア(ピーク時で35%)は、戦争によってほぼ失われた。

 さらに、ベラルーシ経由のヤマル・ヨーロッパパイプラインやバルト海経由のノルドストリームルートも停止している。特にノルドストリームは2022年に爆破された。ロシアが2018年に欧州に供給したガスは合計で2,010億立方メートルに達していたが、2023年にはウクライナ経由で約150億立方メートルにまで減少していた。
 
【詳細】

 ロシアがウクライナを経由した欧州向けガス輸送を停止した背景とその影響について、更に詳しく説明する。

 背景

 2025年1月1日、ロシアとウクライナの間で結ばれていたガス輸送契約が期限切れを迎えた。この契約は2019年末に締結され、5年間にわたり継続していたものである。しかし、ロシアとウクライナの間で新たな契約延長の合意に至らなかったことから、輸送は停止された。ウクライナ政府は契約更新を拒否しており、その理由として国家安全保障上の利益を挙げている。

 ロシアの天然ガス輸送は旧ソビエト連邦時代に建設されたパイプラインを利用して行われてきた。このルートは、ロシアの天然ガスをウクライナ経由でスロバキア、オーストリア、ドイツなどの欧州諸国に供給する重要な役割を果たしていた。2014年のクリミア併合以来、ロシアとウクライナの関係は悪化しており、2022年のロシアによるウクライナ侵攻は両国間の緊張を一層深めた。この紛争を受けて、欧州諸国はロシアへのエネルギー依存を低減する方向に舵を切った。

 停止の影響

 1. ウクライナへの影響

 ウクライナは、ロシアの天然ガス輸送から年間約8億ドルのトランジット収入を得ていた。この収入源が失われることで、ウクライナ経済に大きな打撃を与えると見られている。ただし、ウクライナはこの決定を「歴史的」と評価し、ロシアの市場喪失と経済的損失を強調している。ウクライナ政府は、今回の停止が国家安全保障を重視した結果であると強調しており、戦争が継続する中でロシアとのエネルギー関係を維持することは適切ではないとの判断を下した。

 2. ロシアへの影響

 ロシアの国営エネルギー企業ガスプロムは、今回の停止により年間約50億ドルの収入を失うと推定されている。かつてロシアは、欧州ガス市場で約35%のシェアを占めていたが、戦争による制裁や欧州の方針転換により、この市場をほぼ完全に失った。また、ヤマル・ヨーロッパパイプライン(ベラルーシ経由)やノルドストリーム(バルト海経由)といった他の主要ルートも停止しており、ロシアのエネルギー輸出能力は大幅に低下している。

 3. 欧州諸国への影響

 欧州連合(EU)は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシアのエネルギー依存を減らすための努力を強化してきた。多くの国が代替供給源を確保しており、スロバキアやオーストリアなどの国々も準備を進めてきた。その結果、ロシアのガス輸送停止が欧州全体に与える影響は限定的であるとされる。ただし、モルドバのような一部の国では、ガス消費を3分の1削減する措置を講じる必要があるなど、特に深刻な影響を受けている。

 4. その他の輸送ルート

 ロシアは現在、トルコを経由する「トルクストリーム」パイプラインを利用してガスを輸出している。このルートは2つのラインからなり、一つはトルコ国内市場向け、もう一つはハンガリーやセルビアなどの中央ヨーロッパ市場向けである。しかし、これらの輸送量はウクライナ経由の輸送量と比較すると限られており、ロシアのガス輸出全体の縮小を補うには至らない。

 総括

 ロシアによるウクライナ経由のガス輸送停止は、エネルギー市場における歴史的な転換点である。この決定は、ロシア、ウクライナ、欧州の三者にそれぞれ異なる影響を及ぼしており、今後のエネルギー地図に大きな変化をもたらすことが予想される。ロシアにとっては主要な収入源の喪失を意味し、ウクライナにとっては安全保障上の必要性からの決断であった。一方、欧州はエネルギー多様化を進める中で、ロシアとの関係をさらに切り離す方向に進んでいる。
  
【要点】 
 
 ロシアによるウクライナ経由のガス輸送停止の詳細

 背景

 ・2025年1月1日、ロシアとウクライナ間のガス輸送契約が期限切れ。
 ・新たな契約延長は、ウクライナ側の拒否により実現せず。
 ・パイプラインは旧ソ連時代に建設され、欧州への主要な輸送ルートであった。
 ・2014年のクリミア併合と2022年のロシアの侵攻が両国関係を悪化させた。

 影響

 1. ウクライナへの影響

 ・年間約8億ドルのトランジット収入が消失。
 ・国家安全保障を理由に契約更新を拒否。
 ・ロシアの市場喪失を歓迎する声明を発表。

 2. ロシアへの影響

 ・年間約50億ドルの収入減少が見込まれる。
 ・欧州市場でのシェアが戦争と制裁の影響で35%からほぼゼロに低下。
 ・他の輸送ルート(ヤマル・ヨーロッパ、ノルドストリーム)も停止状態。

 3. 欧州諸国への影響

 ・代替供給源確保が進み、影響は限定的。
 ・モルドバはガス消費を3分の1削減する措置を導入。
 ・ロシア依存の低減が加速。

 4. その他の輸送ルート

 ・トルクストリームを利用し、トルコや中央ヨーロッパ向けに輸出を継続。
 ・しかし、輸送量はウクライナ経由に比べて小規模。

 歴史的意義

 ・ロシアと欧州のエネルギー関係が大きく変化。
 ・ロシアにとっては主要収入源の喪失、欧州はエネルギー供給の多様化を推進。
 ・ウクライナは戦争継続下でロシアとの経済関係を断絶する姿勢を示す。

【参考】

 ☞ 欧州がロシア以外から確保している代替供給源は以下の通りである。

 液化天然ガス(LNG)の輸入拡大
 
 1.アメリカ

 ・世界最大のLNG輸出国であり、ヨーロッパ向けの供給を増加。
 ・フリーポートやサビーン・パスなどの輸出ターミナルを通じて輸送。

 2.カタール

 ・世界有数のLNG生産国として、欧州向けの契約を強化。
 ・長期契約に基づく供給を増加。

 3.オーストラリア

 ・LNG輸出国としての役割を果たし、一部が欧州市場に流入。
 
 4.アフリカ諸国(アルジェリア、エジプト、ナイジェリア)

 ・北アフリカのパイプラインおよびLNG輸出を利用。
 ・特にアルジェリアは地中海を通じてイタリアなどに供給。

 パイプラインガス供給の多角化

 1.ノルウェー

 ・ヨーロッパ内最大の天然ガス供給国としての役割を強化。
 ・ノースシーロートによる直接供給。

 2.アゼルバイジャン

 ・南部ガス回廊(タナップ・TAPパイプライン)を通じて供給。
 ・欧州への輸出量を拡大。

 3.北アフリカ

 ・アルジェリアからのガスパイプラインをイタリアやスペインに接続。

 再生可能エネルギーの利用拡大

 1.風力・太陽光エネルギー

 ・再生可能エネルギーの導入を加速させ、天然ガス依存を軽減。

 2.水素エネルギー

 ・グリーン水素やブルー水素の開発と輸入に注力。
 ・ドイツやオランダなどが主導。

 備蓄の増強と節電政策

 1.戦略的備蓄の活用

 ・地下貯蔵施設のガス充填率を高めて冬の需要に備える。

 2.エネルギー消費削減

 ・省エネ施策の実施と家庭・産業用ガス使用の抑制。

 以上の措置により、欧州はロシア以外の供給源を確保し、エネルギー安全保障を強化している。

 ☞ ロシアは欧州市場を失ったことで、新たな市場開拓に注力している。以下にロシアが目指す主要な市場を挙げる。

 1. アジア市場の拡大

 中国

 ・パワー・オブ・シベリア・パイプライン

  ⇨ 2019年から稼働しているパイプラインで、中国へのガス供給を増加。
  ⇨ 2030年までに年間供給量を380億立方メートル(bcm)に拡大する計画。

 ・パワー・オブ・シベリア2(モンゴル経由)

  ⇨ 新規パイプラインの建設計画が進行中。
  ⇨ ヨーロッパ向けに供給していたガスを中国向けに転用する見込み。

 インド

 ・エネルギー需要の急増が見込まれており、LNG輸出の潜在的な顧客として注目。
 ・直接パイプラインは未整備だが、LNG契約の可能性を模索。

 2. 中東およびトルコ市場

 トルクストリームパイプライン

 ・トルコ

  ⇨ トルコ国内市場向け供給を維持し、トルコを経由してバルカン諸国(ハンガリー、セルビア)にも供給。

 その他中東諸国

 ・ガス輸出に関する協力を強化し、地域内のエネルギー需要に対応。

 3. アフリカ市場

 ・アフリカ諸国の工業化に伴うエネルギー需要の増加をターゲット。
 ・Lukoilなどのロシア企業が現地での探鉱・採掘事業を拡大中。

 4. LNG輸出の増強

 ・アジア太平洋地域(日本、韓国、東南アジア諸国)

  ⇨ LNG需要の高い地域への輸出を強化。
  ⇨ サハリンLNGプロジェクトや北極圏LNGプロジェクトを利用。

 ・南米市場

  ⇨ チリやブラジルなどエネルギー需要の高い国々への輸出を目指す。

 5. 国内需要の増強

 ・国内インフラの改善を通じて、ガス消費量を増やす試み。
 ・未整備地域へのパイプライン延長プロジェクトを推進。

 課題

 ・地政学的制約:制裁や外交関係の悪化により新市場開拓が困難。
 ・インフラ整備の遅れ:新たなパイプラインやLNG輸出施設の建設に時間とコストが必要。
 ・価格競争:カタールやアメリカなどの競合国と競争しなければならない。

 ロシアはアジア市場を中心に新たな顧客を獲得することを目指しているが、供給インフラや制裁による制約が短期的な課題となる。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

Russia halts gas exports to Europe via Ukraine, Kyiv hails ‘historic event’FRANCE24 2025.01.01
https://www.france24.com/en/europe/20250101-russia-halts-gas-exports-to-europe-via-ukraine-kyiv-hails-historic-event?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-info-en&utm_email_send_date=%2020250101&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D

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