ルールに基づく国際秩序:覇権国家の恣意的なルール2025年01月02日 20:06

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【概要】

 アメリカが国際法を置き換える試みとして構築した「ルールに基づく国際秩序(rules-based international order)」は、国家間の平等を原則とする国際法とは根本的に異なり、国家間の不平等を前提としている。この秩序は、国際法と国際人権法を合わせたものとされ、一見すると善意的で進歩的に見える。しかし、これにより矛盾した原則と規則が導入され、統一されたルールのない状態が生じた。その結果、「力こそが正義」という構造が形成された。

 国際法とルールに基づく国際秩序の相違点

 国際法は国家の主権平等に基づいており、すべての国家が対等であることを原則とする。一方、ルールに基づく国際秩序は、特定の国家が他国に対して優越的地位を持つという「主権的不平等」に依存する。この秩序では、個人の権利を擁護する「人間中心の安全保障」と、国家の領土保全を重視する「国家中心の安全保障」が対立する場合がある。アメリカは、これらの基準を状況に応じて使い分け、自国の利益を優先している。例えば、ウクライナやジョージアにおいては領土保全を支持し、中国やロシアでは自己決定権を支持するという矛盾が見られる。

 ヘゲモニー構築のための秩序形成

 この秩序の形成は、1999年のNATOによるユーゴスラビアへの違法な侵攻に端を発する。この際、国連の承認なしに軍事行動を正当化するため、「自由主義的価値観」が利用された。その後、2003年のイラク侵攻でも類似の手法が用いられ、国連を迂回する新たな「正当性」の基準が模索された。さらに、「民主主義の同盟」や「民主主義の協調体」などの概念が提唱され、西側諸国が独自に行動を正当化できる仕組みが作られた。

 二層構造の国際秩序

 ルールに基づく国際秩序では、「正統な国家」と「非正統な国家」という二層構造が作られた。この秩序は、ジョージ・オーウェルの『動物農場』にある「すべての動物は平等であるが、ある動物は他の動物よりも平等である」という原則に似ている。このような矛盾した基準は、コソボ、南オセチア、クリミアなどで明確に見られる。コソボでは自己決定権が優先され、南オセチアやクリミアでは領土保全が優先されるという二重基準が適用された。

 国際的合意の欠如と批判

 この秩序は、統一された規則の策定ではなく、道徳的操作や宣伝に依存する傾向が強い。たとえば、1999年のユーゴスラビア紛争では、大量虐殺の疑惑が誇張され、介入を正当化するためにプロパガンダが使用された。中国やロシアはこの秩序を「二重基準を促進するための道具」として批判しており、国際法の代わりに一方的な行動が正当化されていると主張している。

 結論

 ルールに基づく国際秩序は、具体的な規則が欠如しており、国際的な承認もなく、秩序を提供することもできていない。この秩序は、国際法に代わる持続可能な解決策ではなく、むしろ国際的安定と平和を脅かす要因となっているため、解体されるべきである。
 
【詳細】

 国際法と「ルールに基づく国際秩序」の違い

 国際法は、国家の平等主権という概念に基づいている。これは、全ての国家が平等な主権を持ち、それぞれが独立して国際社会における行動のルールを共有することを意味する。一方、「ルールに基づく国際秩序(Rules-Based International Order)」は、西側諸国、特にアメリカが主導する体制であり、国家間の不平等な主権を基盤としている。この秩序は、表向きには国際法や人権法を含むものとされるが、実際にはその基準が一貫しておらず、支配的な国が独自の基準を適用するシステムとなっている。

 人間中心の安全保障と国家中心の安全保障

 国際法の基盤である国家中心の安全保障は、国家の領土保全を優先する。しかし、「ルールに基づく国際秩序」では、人間中心の安全保障が導入されており、個人の権利や自由を優先することが可能である。この二つの原則は矛盾する場合が多く、アメリカのような覇権国家は状況に応じてどちらを優先するかを選択できる。例として、アメリカはウクライナやスペインにおいて領土保全を強調する一方で、セルビアや中国、ロシアでは民族自決を支持する。これは、アメリカが敵対する国々において内政干渉を行うための手段となっている。

 覇権的「ルールに基づく国際秩序」の構築

 「ルールに基づく国際秩序」の構築は、NATOが1999年に国連の承認なしにユーゴスラビアを攻撃したことに始まる。この行為は国際法に違反していたが、リベラルな価値観の名の下に正当化された。その後も、2003年のイラク侵攻や「民主主義の連合」を提案する動きが続き、アメリカはリベラル民主主義を基盤とする独自の権威を形成しようとした。これにより、国際的な正統性の基準が二分化され、「自由民主主義国家」と「権威主義国家」に分けられるようになった。

 二重基準の適用

 「ルールに基づく国際秩序」は、国家を「正統な国家」と「非正統な国家」に分類する二層構造を形成する。この結果、統一されたルールではなく、西側諸国が恣意的に定めたルールが適用される。例えば、コソボでは民族自決が領土保全に優先された一方で、クリミアや南オセチアでは領土保全が民族自決に優先されると主張された。このような二重基準は、統一した国際ルールを破壊し、対立を助長している。

 プロパガンダと世論操作の利用

 「ルールに基づく国際秩序」は、外交や法的手続きではなく、世論操作を通じて紛争を解決しようとする傾向が強い。例えば、1999年のユーゴスラビア空爆では、イギリスのトニー・ブレア首相が「ヒトラー式のジェノサイド」と極端な言葉でプロパガンダを展開し、介入を正当化しようとした。このような手法は、ルールがないシステムにおいて、正当性を主張するための手段となっている。

 結論

 「ルールに基づく国際秩序」は、普遍的な国際法を破壊し、代わりに覇権国家による一方的なルールを押し付ける試みである。この秩序は、共通のルールを提供せず、国際的な安定や平和の基盤とはなり得ない。そのため、真に持続可能な国際秩序を構築するためには、「ルールに基づく国際秩序」を解体し、国際法を復権させる必要がある。
  
【要点】 
 
 国際法と「ルールに基づく国際秩序」の違い

 ・国際法: 国家の平等主権を基盤とし、全ての国家に共通のルールを適用。
 ・ルールに基づく国際秩序: 西側諸国が主導し、支配的な国が独自に基準を設定する。

 人間中心の安全保障と国家中心の安全保障

 ・国家中心の安全保障: 国際法に基づき、国家の領土保全を優先。
 ・人間中心の安全保障: 個人の権利や自由を重視し、状況に応じて適用基準が変更可能。
 ・二重基準: アメリカはウクライナで領土保全を重視し、セルビアや中国では民族自決を支持。

 覇権的「ルールに基づく国際秩序」の形成
 
 ・1999年のNATOによるユーゴスラビア攻撃が発端。
 ・2003年のイラク侵攻や「民主主義の連合」提案が続き、リベラル民主主義を基盤とする秩序を構築。
 ・国家を「自由民主主義国家」と「権威主義国家」に二分。

 二重基準の具体例

 ・コソボ: 民族自決が領土保全より優先。
 ・クリミア・南オセチア: 領土保全が民族自決より優先。
 ・影響: 統一ルールの破壊と国際的対立の助長。

 プロパガンダと世論操作の利用

 ・紛争解決において外交や法的手続きより世論操作を重視。
 ・1999年のユーゴスラビア空爆では、「ヒトラー式のジェノサイド」といった極端な表現を使用。

 結論

 ・「ルールに基づく国際秩序」は覇権国家の恣意的なルールであり、普遍的な国際法を破壊する。
 ・持続可能な国際秩序には、「ルールに基づく国際秩序」の解体と国際法の復権が必要。

【引用・参照・底本】

How the US tried to replace international law with its own twisted creation RT 2024.12.31
https://www.rt.com/news/610007-us-tried-to-replace-international-law/

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