シリコンフォトニクス集積高次モード多重化チップを開発2025年03月14日 22:39

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【概要】 
 
 中国の研究チームが、超高容量のオンチップ光データ伝送を可能にするシリコンフォトニクス集積高次モード多重化チップを開発したことが、復旦大学の発表により明らかになった。この技術は、データセンターや高性能コンピューティングサーバーにおける光相互接続の新たな解決策を提供し、人工知能(AI)や大規模並列計算、モデル訓練の基盤を強化するものである。研究成果は『Nature Communications』に掲載されている。

 大規模言語AIモデルの拡張に伴い、インテリジェントコンピューティングチップ間およびノード間の通信帯域幅の確保が課題となっている。復旦大学情報科学技術学院の研究チームは、精密な設計と最適化を通じて、オンチップ光相互接続に多次元多重化技術を統合した。この技術革新により、データ伝送スループットが大幅に向上し、消費電力と伝送遅延の点で高い効率を実現している。

 この技術は拡張性と互換性に優れ、さまざまな高性能コンピューティング分野での応用が可能である。研究チームは、この技術を基盤として、シリコンフォトニクス集積高次モード多重化チップを開発した。試験の結果、このチップは38 Tbps(テラビット毎秒)のデータ転送速度をサポートすることが確認された。これは、大規模モデルの4.75兆個のパラメータを1秒で転送できる速度である。

 この技術革新により、大規模モデル訓練やコンピューティングクラスターにおける通信の効率と信頼性が大幅に向上し、AIのモデル訓練やGPU加速コンピューティングの発展を強力に支援するものである。

 現在、多くの大規模チップは電子回路を基盤としているが、フォトニクスチップの研究が進展しており、電子伝送から光伝送への移行が加速している。通信業界の専門家であるMa Jihua氏によると、光と電子の統合には依然として課題があるが、新技術によりCMOS(相補型金属酸化膜半導体)技術を用いた通信がフォトニクスベースの相互接続へと移行し、伝送遅延の低減と効率向上が可能になるという。

 また、高次モード多重化により、従来の単一モードシステムと比較して大幅に伝送効率が向上し、高速・大容量データ転送の需要の高まりに対応している。特にAI分野において、帯域幅と通信速度の向上が次世代ネットワークの発展を支える要素となる。

 さらに、Ma氏は、この技術が国内のAIモデル訓練の効率を向上させ、電力使用の最適化と商業的な実用化を促進する可能性があると指摘している。今後数年以内に応用面での大きな進展が期待されるとしている。

【詳細】 
 
 中国の研究チームが開発したシリコンフォトニクス集積高次モード多重化チップの詳細

 1. 研究の背景と目的

 近年、人工知能(AI)の大規模モデルが急速に発展し、モデルのパラメータ数が増大するにつれて、高速・大容量のデータ伝送の必要性が高まっている。特に、データセンターや高性能コンピューティング(HPC)環境では、チップ間およびノード間の通信帯域幅の制約が、システム全体のパフォーマンス向上の大きな課題となっている。

 従来の電子回路ベースの通信では、CMOS(相補型金属酸化膜半導体)技術を用いた電気配線によるデータ転送が一般的であったが、伝送速度の向上に限界があるため、次世代技術として光通信の導入が注目されている。光通信技術を活用することで、より高速かつ低消費電力でデータを送受信できる可能性がある。

 このような背景のもと、中国・復旦大学の情報科学技術学院の研究チームは、新しいシリコンフォトニクス集積高次モード多重化チップを開発し、光通信を活用した超高速データ転送の実現を目指した。

 2. 技術の概要

 研究チームは、多次元多重化技術(multi-dimensional multiplexing technology)を用いて、オンチップ光相互接続(on-chip optical interconnects)の性能を大幅に向上させた。これにより、チップ内部およびチップ間でのデータ伝送のスループットが飛躍的に向上し、従来の電子伝送方式と比較して、消費電力と伝送遅延の削減が可能になった。

 今回開発されたチップには、高次モード多重化技術(high-order mode multiplexing)が組み込まれており、単一モード光通信に比べて大幅な帯域幅拡張が可能になっている。この技術は、異なる光のモード(波長や位相の異なる光信号)を同時に伝送できるため、従来のシングルモード通信に比べて一度に伝送できるデータ量が大幅に増加するという特長を持つ。

 研究チームは、この技術を活かしたシリコンフォトニクス集積チップを開発し、試験を行った。その結果、最大38 Tbps(テラビット毎秒)のデータ転送速度が確認された。これは、AIの大規模モデルの4.75兆個のパラメータを1秒以内に転送できる計算となる。

 3. シリコンフォトニクス技術のメリットと応用分野

 (1)超高速データ転送

 従来の電子伝送方式では、信号の伝送速度が配線の電気抵抗や発熱によって制限されていた。しかし、光伝送を用いることで、信号の減衰が少なく、長距離にわたって高品質なデータ伝送が可能になる。

 (2)低消費電力

 電子チップでは、高速なデータ転送を行うために多くの電力を消費するが、光通信技術を活用することで消費電力を大幅に削減できる。特にデータセンターなどの大規模システムでは、消費電力の削減は運用コストの削減にも直結する。

 (3)低遅延・高効率な通信

 AIの大規模モデルでは、膨大なデータをリアルタイムでやり取りする必要があるため、通信の遅延が問題となる。シリコンフォトニクス技術を活用することで、光信号を用いた超低遅延のデータ伝送が可能になり、AIモデルの訓練や推論の効率が向上する。

 (4)拡張性の高さ

 この技術は、AIのトレーニングシステム、スーパーコンピュータ、データセンター、GPUアクセラレーションコンピューティングなど、さまざまな高性能計算環境での利用が想定されている。特に、次世代のAIアプリケーションや5G/6G通信インフラにおいて、高速・大容量通信の需要が高まる中で、この技術の応用が期待されている。

 4. 技術の課題と今後の展望

 今回の研究では、光通信技術を用いた高次モード多重化により、チップ間通信の性能向上が実証された。しかし、フォトニクス技術と電子技術の統合には依然として課題が残されている。

 通信業界の専門家であるMa Jihua氏によると、光と電子の統合は技術的なハードルが高く、特に現在のCMOS技術との適合性が課題となっている。従来の電子チップと光通信チップをシームレスに連携させるためには、新たな設計手法や製造プロセスの改良が必要とされる。

 また、フォトニクスチップの製造コストが現時点では比較的高いことも課題の一つである。量産技術の確立とコスト削減が進めば、より広範な応用が可能になると考えられる。

 一方で、Ma氏は「この技術が今後数年以内に商業的な応用へと発展する可能性がある」と述べており、特に中国国内のAIモデル訓練や高性能計算システムにおいて、大きな影響を与えると予測している。

 5. まとめ

 今回の研究により、シリコンフォトニクス集積高次モード多重化チップが開発され、最大38 Tbpsのデータ転送が可能であることが確認された。この技術は、AIモデル訓練や高性能コンピューティングにおける通信効率の向上を実現し、消費電力の削減や低遅延化にも貢献するものである。

 また、電子通信から光通信への移行を促進し、次世代ネットワークやAI技術の発展を支える重要な技術として期待されている。今後の課題として、光電子統合技術の確立、製造コストの削減、実用化に向けたさらなる研究開発が求められる。

 今後数年間で、商業化が進めば、AIトレーニングやデータセンターの通信インフラにおいて、大きな技術的進展がもたらされる可能性がある。

【要点】

 中国のシリコンフォトニクス集積高次モード多重化チップの概要

 1. 研究の背景

 ・AIの大規模モデルの発展により、高速・大容量データ伝送の需要が増加。
 ・従来の電子回路ベースの通信は速度や消費電力の制約がある。
 ・光通信技術の導入により、高速・低消費電力のデータ転送が可能に。

 2. 開発された技術の概要

 ・多次元多重化技術(multi-dimensional multiplexing)を活用。
 ・高次モード多重化技術(high-order mode multiplexing)により帯域幅を拡張。
 ・オンチップ光相互接続(on-chip optical interconnects)により通信の効率向上。
 ・最大38 Tbps(テラビット毎秒)のデータ転送速度 を実現。
 ・AIモデルの4.75兆個のパラメータを1秒以内に転送可能。

 3. シリコンフォトニクス技術のメリット

 ・超高速データ転送:電子配線と比較して、伝送速度を大幅に向上。
 ・低消費電力:従来の電子通信よりも電力消費を削減。
 ・低遅延:AIモデル訓練やリアルタイム処理における遅延を最小化。
 ・高い拡張性:AIトレーニング、スーパーコンピュータ、データセンターでの利用に適応。

 4. 技術の課題

 ・光電子統合のハードル:既存のCMOS技術との適合性が課題。
 ・製造コストの高さ:量産技術の確立が必要。
 ・商業化の進展:実用化に向けたさらなる研究が求められる。

 5. 今後の展望

 ・AIモデル訓練や高性能コンピューティングにおける通信技術としての発展。
 ・データセンターや次世代ネットワークへの応用拡大。
 ・量産技術が確立されれば、広範な商業利用が可能になる可能性。

【引用・参照・底本】

New ultra-high-capacity chip could boost AI model training: report GT 2025.03.13
https://www.globaltimes.cn/page/202503/1330091.shtml

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