協力が競争を凌駕し、共通認識が相違を上回り、機会がリスクを超えるという事実2025年06月09日 21:35

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【概要】

 2025年6月9日にGlobal Timesに掲載された本社説は、中国と欧州の関係に関する最近の動向を総括し、欧州が中国を客観的かつ理性的に理解すべきであると主張している。

 まず、近時の中欧間の外交的交流の活発化に言及している。習近平国家主席はフランスのマクロン大統領、ドイツのメルツ首相と個別に会談し、He Lifeng、Liu Guozhong両副首相が相次いで欧州を訪問した。また、デンマークとオランダの外相が相次いで訪中し、王毅外相もドイツおよびポーランドの外相と会談した。さらに、中国と欧州議会は相互交流に対する制限を同時かつ全面的に解除することを決定しており、これが両者の交流拡大に向けた積極的なシグナルであるとされている。報道によれば、7月には欧州理事会議長アントニオ・コスタおよび欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエンが訪中予定である。

 中国とEUの関係がパンデミックやウクライナ危機などの困難を経て、ようやく前向きな勢いを取り戻しつつある点を評価している。一方で、関係が好転する兆しが見え始めると、それを妨げる「騒音」が必ず発生するとも指摘する。例えば、EUは中国製医療機器の公共調達市場への参入を制限する措置を講じ、中国側はこれに強く反発した。また、「中国のスパイ」事件や、Huawei関連のロビー活動に関するスキャンダル、チェコによる中国のサイバー攻撃の非難、それに追随するEUやNATOの姿勢、さらには欧州での大規模停電に際して中国製ソーラーインバーターの「サイバーリスク」を疑う声など、否定的な論調が相次いでいるとされる。

 これら一連の否定的な動きのタイミングに着目し、「何者かが中欧の接近を意図的に妨げようとしているのではないか」という疑念を呈している。あるいは、欧州側自身が中国との関係の在り方について、常に迷いや葛藤を抱えている可能性も示唆している。

 仮に外的要因によるものであれば、これらの動きの影響は一時的かつ部分的なものであり、中国とEUが対話と協力を進めるという大局的な流れを揺るがすことはないと述べている。その場合、両国政府や各界の有識者がそれらの妨害に毅然と立ち向かうべきであるとする。他方で、もし欧州側自身の内部矛盾が原因であるならば、それは双方にとって極めて不利であり、問題解決を一層困難にすると指摘する。

 さらに、欧州側が中国との関係を発展させたいと望みながらも、同時に否定的な見方や根拠のない非難を行い、ビジネスを進めたい一方で多くの障壁を設けているという矛盾を強調している。このような矛盾した姿勢は、パートナーとしての誠意や整合性を欠くだけでなく、欧州内部での政策の一貫性の欠如や利害の衝突を引き起こし、混乱を招くと論じている。

 国際社会が中国とEUの協力に対して高い期待を抱いており、両者が積極的な世界の二大勢力としてより大きな役割を果たすことが望まれていると述べている。その中で、フォン・デア・ライエン委員長が提唱した「独立した欧州」という概念に触れている。この発想は、ミュンヘン安全保障会議における米副大統領J.D.ヴァンスによる厳しい発言、トランプ前米大統領によるグリーンランドに関する強硬な発言、米国による同盟国への一方的な関税措置など、一連の出来事を経た欧州側の戦略的自律性に対する認識の進化を示すものとされている。

 「独立した欧州」とは、世界の重要な極として、自らの独立した存在と判断力を持ち、外部からの圧力に屈しない意思決定能力を有すべきであるという意味であるとし、それは中国に対する見方にも反映されるべきであると主張している。

 続いて、中国とEUの関係には根本的な利益相反や地政学的な対立が存在せず、両者は「共に成功するためのパートナー」であると定義する。外交関係樹立から50年間で、年間貿易額は24億ドルから7,858億ドルへと300倍以上に成長し、気候変動分野などでの多国間協力も実り多いものであったと述べている。こうした協力は中欧合わせて約20億人に具体的な恩恵をもたらすと同時に、世界の安定と繁栄にも大きく貢献しているとされる。

 現下の複雑な国際情勢において、中欧関係は戦略的意義と世界的影響力を一層増しているとし、両者が相互尊重、対等な対話、強みの補完、共同の成功を実現可能であることを示している。

 最後に、協力が競争を凌駕し、共通認識が相違を上回り、機会がリスクを超えるという事実は変わらないとして、欧州側が過去50年間の中欧関係の発展経験を深く再考し、戦略的自律性を堅持し、妨害を克服し続け、中国との共通発展の道において信頼できるパートナーとなることを期待すると結んでいる。

【詳細】 

 中国と欧州連合(EU)の関係改善が進展する一方で、その動きを妨げる複数の現象が並行して起きている現状を指摘し、「独立した欧州」が中国を客観的かつ理性的に理解することの必要性を訴えるものである。

 1. 中国・欧州間の活発な外交交流

 冒頭で、社説は2025年春から初夏にかけて展開された一連の外交的往来の活発さに言及している。主な例として、以下のような動きが挙げられている:

 ・習近平国家主席がフランスのエマニュエル・マクロン大統領、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相と個別に電話会談。

 ・He Lifeng副首相およびLiu Guozhong副首相が相次いで欧州を訪問。

 ・デンマークおよびオランダの外相が相次いで中国を訪問。

 ・王毅外交部長がドイツ、ポーランドの外相と電話会談。

 ・中国と欧州議会が相互の人的・制度的交流に対する制限を同時かつ全面的に解除する決定。

 さらに、欧州理事会議長アントニオ・コスタおよび欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエンが、2025年7月に中国を訪問し、中国の指導部と会談を行う予定であることも報じられている。

 このようにして、パンデミックやウクライナ戦争という長期にわたる不安定要因の中でも、中国と欧州の関係は少しずつ、だが着実に回復軌道に乗りつつあるとの認識が示されている。

 2. 関係改善への「妨害」と疑念
 
 ・しかしながら、社説はこの前向きな外交的流れと並行して、欧州側から中国に対する否定的な動きが連続して発生している点を問題視している。

 ・欧州連合が中国製の医療機器を域内の公共調達市場から排除する方針を表明。中国側はこれに「断固として反対」したとされる。

 ・Huaweiに関するロビー活動をめぐるスキャンダルや、「中国のスパイ」に関する事件が欧州で報道されている。

 ・チェコ政府が中国によるサイバー攻撃を名指しで非難し、EUおよびNATOもこれに追随。

 ・欧州での大規模停電発生後、一部では中国製ソーラーインバーターに対し「サイバーセキュリティ上の懸念」が提起された。

 ・これらの現象は、単なる偶発的な出来事とは考えにくく、ある種の「タイミングの一致」をもって「誰かが意図的に中欧関係の接近を妨げているのではないか」との疑念が示されている。

 3. 欧州側の「葛藤」あるいは「外的干渉」?

 この状況の背景として、二つの可能性を提示している。

 ・第一の可能性は、「欧州外の第三者勢力」が意図的に中国と欧州の関係改善を妨害しているという見方である。この場合、これらの妨害は一時的かつ局地的なものであり、中欧の全体的な協力関係や戦略的パートナーシップの大局を揺るがすことはないと楽観的に見る。

 ・第二の可能性は、「欧州側自身の内部における矛盾と逡巡」に起因するものである。この場合、欧州の対中政策は一貫性を欠き、内部で異なる立場がせめぎ合う結果、政策決定の混乱を招くことになる。

 ・この第二の可能性が現実のものであれば、双方にとって「極めて不利な状況」を生み出すと強く警鐘を鳴らしている。

 4. 欧州の対中姿勢における「矛盾」

 欧州側の態度に見られる一貫性の欠如と矛盾にも触れられている。

 ・対話を望みながら、一方では根拠のない非難を行う。

 ・経済協力を進めたいとしながら、一方では規制や制限を強化する。

 ・中国との友好を模索する一方で、敵対的な世論を煽る動きが続く。

 このような姿勢は、誠意あるパートナーとしての信頼性を損なうだけでなく、欧州内部の政策混乱、意思決定のばらつき、利益相反の増大を引き起こすとして批判的に論じられている。

 5. 「独立した欧州」と戦略的自律

 フォン・デア・ライエン欧州委員長が最近言及した「独立した欧州」という概念は、欧州が他国、特に米国の圧力に依存しない戦略的判断力を持つ必要性の象徴として取り上げられている。

 この発想の背景として、以下の出来事が挙げられている。

 ・ミュンヘン安全保障会議において米副大統領J.D.ヴァンスが欧州に対し厳しい姿勢を示した。

 ・米国のトランプ大統領がグリーンランドをめぐる発言を通じて欧州を軽視する姿勢を取った。

 ・米国が同盟国にもかかわらず関税を一方的に課した。

 これらは欧州にとって「痛みを伴う経験」であり、その結果として「自らの運命を自ら決定できる欧州」という考えが浮上したと社説は述べている。

 この「独立した欧州」の概念は、中国に対する認識にも反映されるべきであり、外的圧力や先入観に左右されず、自律的に対中関係を判断する必要があると説かれている。

 6. 過去50年の成果と今後の展望

 中国とEUが外交関係を樹立してから50年間にわたる成果を再確認する。

 ・年間貿易額は1975年の24億ドルから2024年には7,858億ドルにまで増加。

 ・気候変動などの地球規模課題への協力。

 ・約20億人の人々に恩恵をもたらし、世界の安定と繁栄にも寄与。

 このような長期的な協力関係の蓄積は、単なる短期的な経済利益にとどまらず、地政学的にも世界的な意義を持つとされる。

 7. 結語:協力は競争より勝る

 結びにおいて、社説は以下の基本的事実を強調している。

 ・中国とEUの関係においては、「協力が競争に勝る」。

 ・意見の相違よりも共通認識の方が多い。

 ・危機よりも機会の方が大きい。

 よって、欧州側は過去50年の関係から学び、戦略的自律性を堅持し、妨害に左右されず、中国とともに発展の道を歩み、世界の平和と安定、繁栄に寄与すべきであると締めくくられている。

【要点】 

 中国と欧州の外交交流の進展

 ・習近平国家主席がフランスのマクロン大統領およびドイツのメルツ首相とそれぞれ会談。

 ・He Lifeng副首相とLiu Guozhong副首相が相次いで欧州を訪問。

 ・デンマークとオランダの外相が中国を訪問。

 ・王毅外交部長がドイツおよびポーランドの外相と電話会談。

 ・中国と欧州議会が相互交流の制限を同時に全面解除。

 ・欧州理事会議長コスタおよび欧州委員会委員長フォン・デア・ライエンが7月に中国訪問予定。

 ・パンデミックやウクライナ危機を乗り越えた前向きな関係回復が進行中である。

 関係改善への妨害的動きの存在

 ・EUが中国製医療機器の公共調達参加に制限を設け、中国側が強く反対。

 ・Huawei関連のロビー活動疑惑および「中国スパイ」事件が報道。

 ・チェコ政府が中国によるサイバー攻撃を非難、EU・NATOも追随。

 ・欧州での大規模停電後、中国製ソーラーインバーターがサイバーリスクとして疑念の対象となる。

 妨害の背後にある二つの可能性

 ・一つは「外部勢力による干渉」であり、この場合は一時的・局所的な影響にとどまるとされる。

 ・もう一つは「欧州内部の迷走と矛盾」であり、これが深刻な結果をもたらすと警告している。

 欧州の対中姿勢に見られる矛盾

 ・対話を望む一方で、根拠なき非難を繰り返している。

 ・経済協力を求めつつも、障壁を設けている。

 ・誠意を示すべきパートナーシップの姿勢に一貫性がなく、信頼性を損ねている。

 「独立した欧州」の意義

 ・フォン・デア・ライエン委員長による「独立した欧州」構想の提示。

 ・米国の不誠実な態度(副大統領の批判、トランプ元大統領のグリーンランド発言、同盟国への関税)を契機に欧州側の自立志向が強まった。

 ・この「独立性」は対中政策においても外部圧力に左右されない判断基準を持つべきであると主張している。

 過去50年の中欧関係の成果

 ・年間貿易額は24億ドルから7,858億ドルに拡大(300倍以上)。

 ・気候変動等の分野での多国間協力。

 ・約20億人に恩恵をもたらし、世界の安定と繁栄にも寄与してきた。

 社説の結論と呼びかけ

 ・中国と欧州は根本的な利害対立や地政学的対立を持たず、協力関係を深めるパートナーである。

 ・競争よりも協力、対立よりも共通利益、リスクよりも機会の方が大きいという事実は変わらない。

 ・欧州側に対し、戦略的自律性を保持し、妨害を乗り越え、中国との持続可能な発展関係を築くことを強く求めている。

【桃源寸評】🌍

 この第二の可能性が現実のものであれば、双方にとって「極めて不利な状況」を生み出すと強く警鐘を鳴らしている。

 中欧関係の重要性と今後の可能性を強調するとともに、欧州が中国を客観的・理性的に捉える姿勢を確立することの必要性を一貫して主張している。

 欧州が「真の主権」を確立するためには、米国への恋恋たる態度を捨てねばならない

 1. 主権とは、外部の意志に左右されない自己決定権である

 ・主権とは、国または地域が外部の圧力や干渉を受けることなく、自己の意思と利益に基づいて意思決定を行う力である。軍事、経済、外交、情報政策のいずれにおいても、自立した判断と行動がなければ主権は機能しない。

 ・欧州が自らの安全保障を米国主導の軍事同盟(NATO)に依存し、対外政策でも米国の利益構造や価値判断を優先している現状は、形式的な主権があっても、実質的には他国の延長線上で動いている状態に過ぎない。

 2. 恋恋たる態度は従属の心理構造である

 ・「恋恋としている」とは、単なる同盟関係や実利的協力を超えた、感情的・文化的依存状態である。欧州にとって米国は、第二次世界大戦以降の復興の父であり、冷戦時代の庇護者であり、価値観の提供者であった。

 ・だがこのような歴史的親近感が、政治的従属の正当化装置となっている限り、欧州は米国にとって便利な「応答装置」に過ぎず、自己主権的主体として立つことはできない。

 3. 現代において「独立」は物理的距離ではなく判断の距離である

 ・かつては主権国家の独立は、国境の管理や軍隊の存在によって担保された。しかしグローバル化が進んだ現代においては、情報・金融・価値観における「判断の距離」こそが独立を担保する指標である。

 ・欧州が米国と常に歩調を合わせ、共通の「敵」や「価値」を同時に設定し、同じ方向に反応するならば、それはもはや独立主体とは言えず、同調機構に過ぎない。

 4. 欧州が直面する矛盾と限界

 ・欧州は一方で「戦略的自律」や「欧州の価値観」を掲げながら、他方で自らの軍事的・技術的・金融的安全保障を米国に依存し続けている。これは単なる二重基準ではなく、未熟な主体性の表れである。

 ・このような二面性は、外交における一貫性を欠き、域内の国家間対立を助長し、結果として欧州自身の信用を損なっている。主権を持つということは、不人気な決定を下す覚悟を持つということである。米国との関係においても、自国・自地域の利益に即した反対・距離・独自路線を打ち出す姿勢がなければ、真の主権国家とは呼べない。

 5. 欧州は「別れる勇気」を持たなければならない

 ・欧州が米国との関係を完全に断つ必要はない。だが、盲目的な親近感、歴史的な庇護への感謝、価値観の同一視という幻想から目を覚まさなければ、自律は永遠に達成されない。

 ・「恋恋たる」態度を捨てることは、単なる政治の選択ではない。精神的な断乳であり、成熟した主権者への通過儀礼である。

 ・欧州が真に独立を標榜するのであれば、まずこの「恋恋」を断ち切る覚悟から始めねばならない。

【寸評 完】🌺

【引用・参照・底本】

An 'independent Europe' should establish an objective and rational understanding of China: Global Times editorial GT 2025.06.09
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335697.shtml

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