米・日本・比のルソン経済回廊に関する協議 ― 2024年05月24日 17:17
「マニラは選択を迫られている:地域協力か、米国主導のライバル関係か」は、フィリピンが現在置かれている戦略的・経済的岐路について論じている。ルソン島は、特に米国と日本と協議しているルソン島経済回廊など、重要なインフラ開発の機会を検討している。このイニシアチブは、ジョー・バイデン米大統領が発表したグローバル・インフラストラクチャー・投資パートナーシップ(PGII)(註)の一環である。
米国からのインフラ支援は有益かもしれないが、そのようなパートナーシップのより広範な影響について懸念を提起している。PGIIは、中国の一帯一路構想(BRI)への対抗策として位置づけられており、米国の関与は、地域の緊張を高め、特に南シナ海における中国の影響力に対抗したいという願望によって推進されていることを示唆している可能性がある。
特定された核心的な問題は、グローバルサプライチェーンにおける中国の役割を縮小するという米国の戦略に沿って、フィリピンが中国から切り離すよう圧力をかける可能性があることである。これは、中国との経済関係が強く、特にASEANの枠組みの中で地域経済統合から大きな恩恵を受けているフィリピンにとってジレンマをもたらす可能性がある。中国は長年にわたりASEANの最大の貿易相手国であり、中国・ASEAN自由貿易圏は貿易と地域経済の強靭性を大幅に高めてきた。
フィリピンは、短期的なインフラ整備の成果と、地域の安定と経済の強靭性に対する長期的なニーズとのバランスを取りながら、選択肢を慎重に検討すべきだと示唆している。特に中国や他のASEAN諸国との地域協力を継続し、経済のデカップリングや地域の不和を招きかねない米国の戦略的利益と緊密に連携するのではなく、経済成長と安定を促進することを提唱している。
フィリピンの決定は、フィリピン経済だけでなく、より広い地域の経済情勢にも大きな影響を与えるだろう。ASEAN内および中国との関係強化は、相互の発展と安定を促進し、フィリピン経済の強靭性と地域経済への統合を強化する可能性がある。
【視点】
背景と状況
フィリピンは現在、経済開発の重要な岐路に立っている。特に注目されるのは、米国および日本とのルソン経済回廊に関する協議である。これは、インド太平洋ビジネスフォーラムの傍らで行われたもので、米国のジョー・バイデン大統領が発表した「グローバルインフラストラクチャー投資パートナーシップ(PGII)」の一環である。
米国と中国の競争
PGIIは、中国の「一帯一路」構想に対抗するものとして位置づけられている。このため、米国のフィリピンへのインフラ支援は、地域における中国との緊張を高め、南シナ海の状況に介入するための口実になる可能性がある。
フィリピンの選択肢
フィリピンは以下の二つの選択肢を慎重に検討する必要がある。
地域経済統合の強化
メリット: フィリピンは、近隣諸国特に中国と協力することで経済的な恩恵を受けることができる。例えば、ASEAN(東南アジア諸国連合)との貿易や産業チェーンの発展が挙げられる。
具体例: 中国-ASEAN自由貿易地域は、貿易の活性化と地域経済の統合を強化し、地域の経済的回復力を高めた。中国は長年にわたりASEANの最大の貿易相手国であり、この関係を活かすことでフィリピンも多くの利益を得てきた。
米国主導の戦略的競争に巻き込まれる
リスク: 米国の戦略に追随することで、フィリピンは中国からの「デカップリング」(経済的分離)を強いられる可能性がある。これは、フィリピンの長期的な経済発展にとって重大なリスクとなる。
具体例: フィリピンペソは最近急落し、2022年11月以来の最低値に達した。こうした経済の脆弱性を克服するためには、フィリピンは地域経済へのより深い統合を必要としている。
結論と提言
フィリピンが米国主導の戦略に従うか、地域協力を強化するかは、国の経済的な将来に大きな影響を及ぼす。
短期的利益 vs. 長期的発展: 米国からのインフラ支援は短期的には有益かもしれないが、長期的には地域経済との統合を深める方が持続可能な発展につながる。
地域協力の重要性: ASEANとの協力を強化することで、フィリピンは経済的回復力を高め、地域の安定と平和的発展に貢献できる。
フィリピンは、短期的な利益に囚われず、長期的な発展と地域の安定を優先する慎重な選択をすることが求められている。
【要点】
1.フィリピンの現状と課題
・経済発展の岐路
フィリピンは経済成長を続けており、2023年には東南アジアで最も成長率の高い国(5.6%)。
しかし、通貨の急落(2024年4月に1ドル57.96ペソ)は経済の脆弱性を示している。
2.米国との協力
ルソン経済回廊
米国と日本がフィリピンと協議を開始。
米国の「グローバルインフラストラクチャー投資パートナーシップ(PGII)」の一環として進行中。
メリット
米国からのインフラ支援はフィリピン経済にとって有益。
短期的なインフラ整備と経済成長が期待される。
デメリット
PGIIは中国の「一帯一路」構想に対抗するためのもので、地域の緊張を高める可能性がある。
米国の戦略に従うことで、中国との経済的デカップリング(分離)が進行するリスク。
3.中国との協力
地域経済統合の強化
ASEANとの貿易や産業チェーンの発展を促進。
メリット
中国-ASEAN自由貿易地域(FTA)により、貿易と経済の回復力が強化。
中国はASEANの最大の貿易相手国であり、フィリピンもその恩恵を受けている。
持続可能な長期的発展と経済的安定が期待される。
4.選択肢と影響
短期的利益 vs. 長期的発展
米国からのインフラ支援は短期的に有益だが、長期的な発展には地域経済統合が重要。
地域協力の重要性
ASEANおよび中国との協力を強化することで、フィリピンは経済的回復力を高め、地域の安定と平和的発展に貢献できる。
5.結論と提言
慎重な選択の必要性
フィリピンは短期的な利益にとらわれず、長期的な経済発展と地域の安定を重視することが求められる。
米国主導の戦略的競争に巻き込まれず、地域協力を強化することが望ましい。
【註】
・グローバルインフラストラクチャー投資パートナーシップ(PGII)
概要
グローバルインフラストラクチャー投資パートナーシップ(PGII)は、G7が主導する、途上国への質の高いインフラ投資を促進するための新たな枠組みである。気候変動、健康、デジタル技術、ジェンダー平等といった分野を中心に、透明性と持続可能性の高いインフラプロジェクトへの投資を支援することを目的としている。
目標
PGIIは、以下の目標を掲げている。
2025年までに、途上国における6,000億ドルの新たなインフラ投資を促進すること。
気候変動対策、デジタル技術、ジェンダー平等などの分野におけるインフラ投資を増加させること。
透明性と持続可能性の高いインフラ投資を促進すること・
進捗状況
PGIIは2022年6月に立ち上げられ、その後、以下の進捗状況がある。
2022年11月、G7はPGIIの最初のプロジェクトリストを発表した。このリストには、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの途上国におけるエネルギー、交通、デジタルインフラなどのプロジェクトが含まれている。
2023年5月、G7広島サミットにおいて、参加国はPGIIへのコミットメントを再確認し、民間投資の動員を加速させるための措置を講じることを約束した。
日本の貢献
日本はPGIIの設立当初から積極的に取り組んでおり、5年間で650億ドル以上のインフラ支援と民間資金の動員を目指している。具体的には、以下のような取組を進めている。
質の高いインフラ投資に関する国際基準の策定・普及
インフラ投資プロジェクトのファイナンス支援
民間企業の海外展開支援
今後の展望
PGIIは、途上国の持続可能な開発と繁栄にとって重要な役割を果たすことが期待されている。今後、G7は、民間投資の動員や途上国との連携を強化しながら、PGIIの更なる発展に取り組んでいく予定である。
・PGIIが具体化されたプロジェクト例(2024年5月24日時点)
PGIIは2022年6月に設立されて以来、約100件のインフラプロジェクトが特定・準備段階に入っている。その中でも、以下のようなプロジェクトがすでに具体化されている。
アジア
インド: 太陽光発電プロジェクト(民間投資額:10億ドル)
ベトナム: 高速道路プロジェクト(民間投資額:5億ドル)
インドネシア: 港湾整備プロジェクト(民間投資額:3億ドル)
アフリカ
セネガル: 風力発電プロジェクト(民間投資額:2億ドル)
エジプト: 鉄道プロジェクト(民間投資額:1億ドル)
モザンビーク: 液化天然ガス(LNG)プロジェクト(民間投資額:5億ドル)
大洋州
パプアニューギニア: 水道・衛生プロジェクト(民間投資額:1億ドル)
フィジー: デジタルインフラ整備プロジェクト(民間投資額:5,000万ドル)
トンガ: 港湾整備プロジェクト(民間投資額:2,000万ドル)
上記以外にも、多くのプロジェクトが進行中である。
・Outline of Japan’s flagship projects of the G7 PGII
https://www.mofa.go.jp/files/100506933.pdf
・G7 グローバル・インフラ投資パートナーシップに関するファクトシート
https://www.mofa.go.jp/files/100506919.pdf
・G7 Partnership for Global Infrastructure and Investment
https://www.mofa.go.jp/files/100506931.pdf
(註はブログ作成者が参考の為に付記した。)
【桃源寸評】
恐らくフィリピンは〝聞く耳持たぬ〟し、また、米国の頸木から逃れられない。
また、落ちぶれたとは言え、嘗ての経済大国、日本が付いている。
まぁ、そこそこで満足なのではないか。
マニラに選択肢は無い。
引用・参照・底本
GT Voice: Manila faces choice: regional cooperation or US-led rivalry GT 2024.05.23
https://www.globaltimes.cn/page/202405/1312930.shtml
米国からのインフラ支援は有益かもしれないが、そのようなパートナーシップのより広範な影響について懸念を提起している。PGIIは、中国の一帯一路構想(BRI)への対抗策として位置づけられており、米国の関与は、地域の緊張を高め、特に南シナ海における中国の影響力に対抗したいという願望によって推進されていることを示唆している可能性がある。
特定された核心的な問題は、グローバルサプライチェーンにおける中国の役割を縮小するという米国の戦略に沿って、フィリピンが中国から切り離すよう圧力をかける可能性があることである。これは、中国との経済関係が強く、特にASEANの枠組みの中で地域経済統合から大きな恩恵を受けているフィリピンにとってジレンマをもたらす可能性がある。中国は長年にわたりASEANの最大の貿易相手国であり、中国・ASEAN自由貿易圏は貿易と地域経済の強靭性を大幅に高めてきた。
フィリピンは、短期的なインフラ整備の成果と、地域の安定と経済の強靭性に対する長期的なニーズとのバランスを取りながら、選択肢を慎重に検討すべきだと示唆している。特に中国や他のASEAN諸国との地域協力を継続し、経済のデカップリングや地域の不和を招きかねない米国の戦略的利益と緊密に連携するのではなく、経済成長と安定を促進することを提唱している。
フィリピンの決定は、フィリピン経済だけでなく、より広い地域の経済情勢にも大きな影響を与えるだろう。ASEAN内および中国との関係強化は、相互の発展と安定を促進し、フィリピン経済の強靭性と地域経済への統合を強化する可能性がある。
【視点】
背景と状況
フィリピンは現在、経済開発の重要な岐路に立っている。特に注目されるのは、米国および日本とのルソン経済回廊に関する協議である。これは、インド太平洋ビジネスフォーラムの傍らで行われたもので、米国のジョー・バイデン大統領が発表した「グローバルインフラストラクチャー投資パートナーシップ(PGII)」の一環である。
米国と中国の競争
PGIIは、中国の「一帯一路」構想に対抗するものとして位置づけられている。このため、米国のフィリピンへのインフラ支援は、地域における中国との緊張を高め、南シナ海の状況に介入するための口実になる可能性がある。
フィリピンの選択肢
フィリピンは以下の二つの選択肢を慎重に検討する必要がある。
地域経済統合の強化
メリット: フィリピンは、近隣諸国特に中国と協力することで経済的な恩恵を受けることができる。例えば、ASEAN(東南アジア諸国連合)との貿易や産業チェーンの発展が挙げられる。
具体例: 中国-ASEAN自由貿易地域は、貿易の活性化と地域経済の統合を強化し、地域の経済的回復力を高めた。中国は長年にわたりASEANの最大の貿易相手国であり、この関係を活かすことでフィリピンも多くの利益を得てきた。
米国主導の戦略的競争に巻き込まれる
リスク: 米国の戦略に追随することで、フィリピンは中国からの「デカップリング」(経済的分離)を強いられる可能性がある。これは、フィリピンの長期的な経済発展にとって重大なリスクとなる。
具体例: フィリピンペソは最近急落し、2022年11月以来の最低値に達した。こうした経済の脆弱性を克服するためには、フィリピンは地域経済へのより深い統合を必要としている。
結論と提言
フィリピンが米国主導の戦略に従うか、地域協力を強化するかは、国の経済的な将来に大きな影響を及ぼす。
短期的利益 vs. 長期的発展: 米国からのインフラ支援は短期的には有益かもしれないが、長期的には地域経済との統合を深める方が持続可能な発展につながる。
地域協力の重要性: ASEANとの協力を強化することで、フィリピンは経済的回復力を高め、地域の安定と平和的発展に貢献できる。
フィリピンは、短期的な利益に囚われず、長期的な発展と地域の安定を優先する慎重な選択をすることが求められている。
【要点】
1.フィリピンの現状と課題
・経済発展の岐路
フィリピンは経済成長を続けており、2023年には東南アジアで最も成長率の高い国(5.6%)。
しかし、通貨の急落(2024年4月に1ドル57.96ペソ)は経済の脆弱性を示している。
2.米国との協力
ルソン経済回廊
米国と日本がフィリピンと協議を開始。
米国の「グローバルインフラストラクチャー投資パートナーシップ(PGII)」の一環として進行中。
メリット
米国からのインフラ支援はフィリピン経済にとって有益。
短期的なインフラ整備と経済成長が期待される。
デメリット
PGIIは中国の「一帯一路」構想に対抗するためのもので、地域の緊張を高める可能性がある。
米国の戦略に従うことで、中国との経済的デカップリング(分離)が進行するリスク。
3.中国との協力
地域経済統合の強化
ASEANとの貿易や産業チェーンの発展を促進。
メリット
中国-ASEAN自由貿易地域(FTA)により、貿易と経済の回復力が強化。
中国はASEANの最大の貿易相手国であり、フィリピンもその恩恵を受けている。
持続可能な長期的発展と経済的安定が期待される。
4.選択肢と影響
短期的利益 vs. 長期的発展
米国からのインフラ支援は短期的に有益だが、長期的な発展には地域経済統合が重要。
地域協力の重要性
ASEANおよび中国との協力を強化することで、フィリピンは経済的回復力を高め、地域の安定と平和的発展に貢献できる。
5.結論と提言
慎重な選択の必要性
フィリピンは短期的な利益にとらわれず、長期的な経済発展と地域の安定を重視することが求められる。
米国主導の戦略的競争に巻き込まれず、地域協力を強化することが望ましい。
【註】
・グローバルインフラストラクチャー投資パートナーシップ(PGII)
概要
グローバルインフラストラクチャー投資パートナーシップ(PGII)は、G7が主導する、途上国への質の高いインフラ投資を促進するための新たな枠組みである。気候変動、健康、デジタル技術、ジェンダー平等といった分野を中心に、透明性と持続可能性の高いインフラプロジェクトへの投資を支援することを目的としている。
目標
PGIIは、以下の目標を掲げている。
2025年までに、途上国における6,000億ドルの新たなインフラ投資を促進すること。
気候変動対策、デジタル技術、ジェンダー平等などの分野におけるインフラ投資を増加させること。
透明性と持続可能性の高いインフラ投資を促進すること・
進捗状況
PGIIは2022年6月に立ち上げられ、その後、以下の進捗状況がある。
2022年11月、G7はPGIIの最初のプロジェクトリストを発表した。このリストには、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの途上国におけるエネルギー、交通、デジタルインフラなどのプロジェクトが含まれている。
2023年5月、G7広島サミットにおいて、参加国はPGIIへのコミットメントを再確認し、民間投資の動員を加速させるための措置を講じることを約束した。
日本の貢献
日本はPGIIの設立当初から積極的に取り組んでおり、5年間で650億ドル以上のインフラ支援と民間資金の動員を目指している。具体的には、以下のような取組を進めている。
質の高いインフラ投資に関する国際基準の策定・普及
インフラ投資プロジェクトのファイナンス支援
民間企業の海外展開支援
今後の展望
PGIIは、途上国の持続可能な開発と繁栄にとって重要な役割を果たすことが期待されている。今後、G7は、民間投資の動員や途上国との連携を強化しながら、PGIIの更なる発展に取り組んでいく予定である。
・PGIIが具体化されたプロジェクト例(2024年5月24日時点)
PGIIは2022年6月に設立されて以来、約100件のインフラプロジェクトが特定・準備段階に入っている。その中でも、以下のようなプロジェクトがすでに具体化されている。
アジア
インド: 太陽光発電プロジェクト(民間投資額:10億ドル)
ベトナム: 高速道路プロジェクト(民間投資額:5億ドル)
インドネシア: 港湾整備プロジェクト(民間投資額:3億ドル)
アフリカ
セネガル: 風力発電プロジェクト(民間投資額:2億ドル)
エジプト: 鉄道プロジェクト(民間投資額:1億ドル)
モザンビーク: 液化天然ガス(LNG)プロジェクト(民間投資額:5億ドル)
大洋州
パプアニューギニア: 水道・衛生プロジェクト(民間投資額:1億ドル)
フィジー: デジタルインフラ整備プロジェクト(民間投資額:5,000万ドル)
トンガ: 港湾整備プロジェクト(民間投資額:2,000万ドル)
上記以外にも、多くのプロジェクトが進行中である。
・Outline of Japan’s flagship projects of the G7 PGII
https://www.mofa.go.jp/files/100506933.pdf
・G7 グローバル・インフラ投資パートナーシップに関するファクトシート
https://www.mofa.go.jp/files/100506919.pdf
・G7 Partnership for Global Infrastructure and Investment
https://www.mofa.go.jp/files/100506931.pdf
(註はブログ作成者が参考の為に付記した。)
【桃源寸評】
恐らくフィリピンは〝聞く耳持たぬ〟し、また、米国の頸木から逃れられない。
また、落ちぶれたとは言え、嘗ての経済大国、日本が付いている。
まぁ、そこそこで満足なのではないか。
マニラに選択肢は無い。
引用・参照・底本
GT Voice: Manila faces choice: regional cooperation or US-led rivalry GT 2024.05.23
https://www.globaltimes.cn/page/202405/1312930.shtml