ロシアのカスス・ベリ2024年07月01日 17:53

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【概要】
 
 アンドリュー・コリブコが、ロシアのドミトリー・メドベージェフ前大統領が、ある国の資産を差し押さえ、海外で政府高官を逮捕することは、戦争の正当化と見なされる可能性があると主張したことを論じている。コリブコは、メドベージェフは正しくもあり、間違っているとも主張する。

 資産の差し押さえと公務員の逮捕

 メドベージェフは、この2つの行動を戦争の潜在的な根拠とみなしている。
コリブコは、当局者の逮捕だけが現実的に通常の敵対行為につながる可能性があると主張する。

 資産差押えへの対応

 ロシアは、西側諸国の3000億ドルの資産凍結に対して、同様の措置で対応しなかった。
 この自粛は、国際的な信頼を維持し、風評被害を避けることを目的としていた。

 国際信頼

 ロシアによる相互の資産差し押さえは、ロシアの評判を傷つけ、他国がロシアに投資したり、ロシアと経済的に関与したりすることを思いとどまらせた可能性がある。

 西側諸国の行動は、資産差し押さえの前例を作ることで、自国の評判を傷つけた。

 国際的関与のリスク

 海外への資金の投資とICC準拠国への職員の渡航には、固有のリスクが伴う。
これらのリスクの誤算が現在の状況につながっている。

 型破りな侵略行為

 コリブコは、型破りな侵略行為は、大義名分と見なすことができるというメドベージェフに同意する。
 しかし、当局者の逮捕だけが過激派の反応を引き起こす可能性が高いと彼は断言する。

 解析

 コリブコの分析は、国際関係における経済的安全と個人的安全保障の微妙な違いを浮き彫りにしている。同氏は、より広範な経済的影響を回避するため、資産差し押さえに対してロシアが行使した戦略的抑制を強調している。また、国際金融・外交実務へのより広範な影響にも触れ、国際的関与におけるリスク管理の重要性を強調している。

【詳細】
 
 アンドリュー・コリブコは、元ロシア大統領で現在は安全保障理事会副議長であるドミトリー・メドヴェージェフが、国の資産の差し押さえや国外での公務員の逮捕が戦争の正当な理由(カスス・ベリ)となり得ると主張したことについて、彼の主張の正当性と問題点を分析している。コリブコは、メドヴェージェフの主張には一理あるが、完全には正しくないと述べている。

 1.資産の差し押さえと公務員の逮捕の違い

 ・メドヴェージェフは、両方の行為が戦争の正当な理由となり得ると主張。
 ・コリブコは、公務員の逮捕のみが現実的に戦争に繋がる可能性が高いと指摘。

 2.資産差し押さえに対するロシアの対応

 ・西側諸国による3000億ドルのロシア資産凍結に対し、ロシアは同等の報復措置を取らなかった。
 ・これは国際的な信頼を維持し、評判を損なわないための戦略的な抑制措置だっ
た。

 3.国際的な信頼

 ・ロシアが同様の資産差し押さえを行った場合、他国がロシアに対する経済的関与を避ける可能性があった。
 ・西側諸国の行動は、自国の資産凍結の前例を作り、その評判を傷つけた。

 4.国際的な関与のリスク

 ・資金を国外に投資することや、公務員がICC(国際刑事裁判所)に従う国々に旅行することにはリスクが伴う。
 ・これらのリスクの誤算が現在の状況を引き起こした。

 5.非伝統的な攻撃行為

 ・コリブコは、メドヴェージェフが主張するように、非伝統的な攻撃行為もカスス・ベリと見なされる可能性があると同意。
 ・しかし、公務員の逮捕のみが実際に軍事的な反応を引き起こす可能性が高いと主張。

 詳細な分析

 コリブコの分析は、国際関係における金融と個人の安全保障の微妙な違いを強調している。彼は、ロシアが資産差し押さえに対して戦略的に抑制措置を取ったことが、広範な経済的影響を避けるためであるとしている。また、国際的な金融および外交慣行に対する広範な影響についても触れ、国際的な関与におけるリスク管理の重要性を強調している。

 メドヴェージェフの主張のうち、公務員の逮捕が直接的に戦争を引き起こす可能性があるという点については、特に注目すべきである。逮捕行為は、国家の主権に対する直接的な侵害と見なされ、重大な外交的および軍事的反応を引き起こす可能性が高い。一方、資産の差し押さえは経済的なダメージを与えるものの、即座に軍事的な対立を引き起こすものではないとされている。

 全体として、コリブコの分析は、国際関係におけるリスクと対応の複雑さを浮き彫りにし、メドヴェージェフの主張に対するバランスの取れた視点を提供している。

【要点】

 アンドリュー・コリブコの分析の要点

 1.メドヴェージェフの主張:

 ・国の資産差し押さえと公務員の逮捕が戦争の正当な理由(カスス・ベリ:casus belli )なり得ると主張。

 2.資産の差し押さえと公務員の逮捕の違い

 ・公務員の逮捕のみが現実的に戦争に繋がる可能性が高い。
 ・資産差し押さえは経済的なダメージを与えるが、即座に軍事的対立を引き起こすものではない。

 3.ロシアの対応

 ・ロシアは3000億ドルの資産凍結に対して同等の報復措置を取らなかった。
 ・国際的な信頼を維持するための戦略的な抑制措置。

 4.国際的な信頼への影響

 ・ロシアが同様の資産差し押さえを行った場合、他国がロシアに対する経済的関与を避ける可能性があった。
 ・西側諸国の行動は、自国の資産凍結の前例を作り、その評判を傷つけた。

 5.国際的な関与のリスク

 ・資金を国外に投資することや、公務員がICC(国際刑事裁判所)に従う国々に旅行することにはリスクが伴う。
 ・これらのリスクの誤算が現在の状況を引き起こした。

 6.非伝統的な攻撃行為

 ・非伝統的な攻撃行為もカスス・ベリと見なされる可能性がある。
 ・公務員の逮捕が実際に軍事的な反応を引き起こす可能性が高い。

 7.全体的な分析:

 ・国際関係における金融と個人の安全保障の微妙な違いを強調。
 ・ロシアが資産差し押さえに対して戦略的に抑制措置を取ったことが広範な経済的影響を避けるためであると説明。
 ・メドヴェージェフの主張に対するバランスの取れた視点を提供。

【参考】

1.非伝統的な攻撃行為がカスス・ベリと見なされる理由には、いくつかの要因がある。

非伝統的な攻撃行為がカスス・ベリと見なされる理由

国家主権の侵害

・国の公務員の逮捕や資産の差し押さえは、その国の主権と尊厳を侵害する行為と見なされる。主権の侵害は、国家間の関係において非常に深刻な問題である。

安全保障への直接的な影響

・公務員の逮捕は、その国の政治的および軍事的指導者の自由を制限し、国家の運営や防衛能力に直接的な影響を与える可能性がある。

経済的打撃

・資産の差し押さえは、対象国の経済に大きな打撃を与え、その国の経済的安定性と国際的信用を損なう可能性がある。
報復のリスク:

・こうした行為は、対象国による報復措置を引き起こす可能性が高く、それが国際的な対立をエスカレートさせる要因となり得る。

国際法の観点

・国際法や国際関係において、公務員の逮捕や資産の差し押さえは、通常の外交的慣行を逸脱する行為と見なされる。これにより、対象国は国際社会での立場を守るために強硬な対応を取る可能性がある。

国家の威信

・国家の指導者や資産が外国の手に渡ることは、その国の威信と名誉に対する重大な挑戦と見なされ、国内外での立場を弱める可能性がある。

外交的手段の限界

・通常の外交的手段や交渉が無力化された場合、対象国は軍事的手段を含むより強硬な対応を選択する可能性がある。

これらの要因により、非伝統的な攻撃行為はカスス・ベリと見なされる可能性が高くなり、実際に戦争や軍事的対立を引き起こす引き金となることがある。

2.「これらのリスクの誤算が現在の状況を引き起こした」という表現は、ロシアが資産を西側諸国に置いたり、公務員が国際刑事裁判所(ICC)に従う国々に旅行することが、潜在的なリスクを過小評価した結果であることを示している。このリスクの誤算が、現在の緊張した国際関係を引き起こしたということである。以下に具体的な理由を箇条書きで説明する。

リスクの誤算が現在の状況を引き起こした理由

資産のリスク評価の誤り

・ロシアが約3000億ドルの資産を西側諸国に置いたのは、これらの資産が安全だと誤って信じていたため。西側諸国が危機時にこれらの資産を凍結または没収する可能性を過小評価していた。

国際刑事裁判所(ICC)による逮捕リスクの誤算

・シアの公務員がICCに従う国々に旅行する際、逮捕されるリスクを正しく評価していなかった。これにより、逮捕状が出されることで、外交的および軍事的な緊張が高まる結果となった。

西側諸国の反応の過小評価

・ロシアは、西側諸国が資産を凍結することで自らの評判を損なうため、実際にそのような行動を取ることはないと誤解していた。

外交的手段の限界の過小評価

・ロシアは、外交的手段や交渉で問題が解決できると誤信していたが、実際には西側諸国が厳しい措置を取ったため、これが困難になった。

国際的信頼の喪失

資産の差し押さえや公務員の逮捕が、国際的な信頼を大きく損なう結果を招く可能性を十分に理解していなかった。これが、国際社会でのロシアの立場を弱体化させた。

経済的影響の誤算

・資産凍結がロシア経済に与える影響を過小評価していた。この誤算が、国内外での経済的安定性を脅かし、さらなる緊張を引き起こした。

安全保障への影響の過小評価

・公務員の逮捕が国家の安全保障に与える直接的な影響を十分に評価していなかった。これにより、ロシアは自国の指導者や高官の安全を確保するために、より強硬な対応を取ることを余儀なくされた。

これらのリスクの誤算が積み重なり、現在の国際的な緊張状態を引き起こしたと言える。ロシアがこれらのリスクを適切に評価し、対策を講じていれば、現在の状況は避けられたかもしれない。

3.現時点では、ロシアの公務員が実際に逮捕されたという具体的な情報はない。ただし、国際刑事裁判所(ICC)は2023年にロシアの大統領ウラジーミル・プーチンを含む高官に対して逮捕状を発行した。この逮捕状は、ロシアのウクライナに対する行動に関連している。

逮捕状の背景

ICCの発行

2023年、ICCはウラジーミル・プーチン大統領とロシアの子供の権利担当官マリア・リヴォワ=ベロワに対して逮捕状を発行。
この逮捕状は、ウクライナからの子供の強制移送に関する戦争犯罪の疑いに基づいている。

実際の逮捕はなし

逮捕の未実施

これまでに、ICC加盟国によるプーチン大統領や他のロシア高官の実際の逮捕は行われていない。

逮捕状は存在するものの、実際の逮捕が行われる可能性は低いと見られている。特にプーチン大統領のような高官の場合、その逮捕は重大な外交的・軍事的緊張を引き起こす可能性がある。

メドヴェージェフの主張と現実

メドヴェージェフの懸念

メドヴェージェフは、こうした逮捕状が実際に行動に移されれば、それが戦争の正当な理由(カスス・ベリ)となる可能性があると主張。

これは、国家主権や指導者の尊厳に対する直接的な侵害と見なされるためである

コリブコの分析

現実との違い

コリブコは、資産の差し押さえと公務員の逮捕が異なる影響を持つことを指摘。
現在のところ、資産の差し押さえは実際に行われているが、公務員の逮捕はまだ実現していない。

現状では、逮捕状の存在がロシアと西側諸国との間で緊張を高めているが、実際の逮捕が行われた場合、それがどのような影響を与えるかは未知数である。しかし、メドヴェージェフの主張は、このような行動が重大な外交的および軍事的反応を引き起こす可能性があることを強調している。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

Medvedev Is Half-Right & Half-Wrong About What Could Be Considered Casus Belli Andrew Korybko's Newsletter 2024.07.01
https://korybko.substack.com/p/medvedev-is-half-right-and-half-wrong?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=146154961&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=emai

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