イランのザンゲズル回廊への反対2024年09月10日 21:04

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【概要】

 イランのザンゲズル回廊への反対姿勢について、以下の説明がされている。

 1.イランの反対理由

 イランは、アゼルバイジャンが提案するザンゲズル回廊が地域の国境を再編するとの見解を示している。しかし、この回廊は、2020年11月のロシア仲介の停戦合意に基づく経済プロジェクトであり、領土的な変更を伴うものではなく、イランの主権に直接的な脅威を与えるものではない。それにもかかわらず、イランは代替案として北部を通る自国のルートを提案している可能性がある。

 2.競争的な背景

 イランは、アゼルバイジャンとの関係を悪化させることなく、アルメニアへの影響力を強化するために、回廊計画への反対を強めている可能性がある。これにより、西側諸国との競争が激化し、ロシアにとってはアルメニアの西側への傾倒を遅らせる効果も期待されが、イランとアゼルバイジャンの関係がさらに複雑化するリスクがある。

 3.イランとロシアの関係

 イランは、ロシアからの見返りとしてザンゲズル回廊の支持を控えることを期待していた可能性があるが、その期待は裏切られた。ロシアは引き続きこのプロジェクトを支持しており、イランはロシア大使を召喚し不満を表明している。

 4.パイプライン計画への影響

 ロシアは南に向けたエネルギー輸送ルートを強化する計画を進めており、アゼルバイジャンがその重要な役割を担うことが期待されている。しかし、この計画が実現するためには、アゼルバイジャンとイランの間での安全保障上の対立が解消される必要がある。ザンゲズル回廊を巡る緊張が、このプロジェクトに影響を及ぼす可能性がある。

 5.トルコとの関係

 トルコもこの回廊計画に強い関心を持っており、特に中央アジアとの貿易促進を期待している。したがって、イランの反対姿勢はトルコとの関係を悪化させる可能性があり、最悪の場合、トルコがイランを抑えるために西側諸国との関係を再強化する事態が生じるかもしれない。

 この対立は長引く可能性があり、イランがロシアをアゼルバイジャン側に付いたと見なしているため、今後もこの問題が進展する見込みは低い。

【詳細】

 イランのザンゲズル回廊への反対姿勢を詳しく説明すると、以下の点が重要である。

 1. イランの懸念と主張

 イランは、ザンゲズル回廊が地域の国境を変更し、イランの国益を損なう可能性があると懸念している。特に、回廊がイランとアルメニアの直接的な陸路接続を失わせ、イランが地域での影響力を減少させる可能性があるとみている。しかし、実際にはザンゲズル回廊は2020年11月のロシア仲介の停戦協定の一部であり、経済的なプロジェクトとして位置付けられている。この回廊を守るのはロシアのFSB国境警備隊であり、領土変更やイランの安全保障を直接脅かすものではないとされている。イランは、回廊がイランの北部を通る代替ルートを提供する可能性を残したいとも考えていると推測されている。

 2. 地域における競争とアルメニアへの影響
 
 イランの反対には、アルメニアとの関係強化という意図がある可能性がある。特に、アゼルバイジャンとの対立を利用し、アルメニアが西側諸国(特にEUやアメリカ)へ接近する傾向を緩和することを狙っていると考えられる。アルメニアは過去数年で西側諸国との関係を強化し、特に停戦以降その動きは加速しているため、イランはこの傾向を逆転させたい意図があるかもしれない。このような背景から、イランは自国を西側諸国よりも信頼できるパートナーとして位置付けようとしている可能性がある。

 3. イランとロシアの関係悪化の可能性

 イランは、ロシアとの軍事技術協力の見返りとして、ロシアがザンゲズル回廊への支持を控えるのではないかと期待していた可能性がある。イランはロシアに対してドローンやミサイルの供給を行っており、それを通じてロシアがイランの立場に配慮することを期待していたかもしれない。しかし、実際にはロシアはこの回廊を引き続き支持しており、イランの期待は裏切られた。ロシア大使が召喚されたことからもわかるように、この問題はイランにとって重要であり、イランとロシアの関係に新たな緊張をもたらす可能性がある。

 4. ロシアの南向けパイプライン計画への影響

 ロシアはエネルギー輸送の面で新たな戦略を検討しており、中国向けの東方ルートに加えて、南方へのエネルギー輸送を強化しようとしている。この計画では、アゼルバイジャン、イラン、インドが重要な役割を果たすことが期待されている。しかし、アゼルバイジャンとイランの間で安全保障上の対立が存在する限り、ロシアのパイプライン計画が実現するのは難しいかもしれない。アゼルバイジャンは、イランがザンゲズル回廊への反対を撤回することを条件に、このプロジェクトを支援する可能性がある。一方で、イランはザンゲズル回廊の廃止を求めることで、南向けエネルギー輸送計画への支持を交渉材料にするかもしれない。このように、ザンゲズル回廊を巡る対立がエネルギー輸送にまで影響を及ぼす可能性がある。

 5. トルコとの関係への影響

 トルコはザンゲズル回廊に対して強い支持を示しており、このプロジェクトが中央アジアや中国との貿易を促進することを期待している。現在、トルコの貿易ルートはバクー・トビリシ・カルス鉄道に依存しているため、ザンゲズル回廊が完成すればより効率的なルートが確立されると考えている。そのため、イランの反対はトルコとの関係を悪化させる可能性が高い。トルコとイランの関係は歴史的に複雑であり、協力と対立が交錯してきたが、この問題によってさらに緊張が高まる可能性がある。最悪の場合、トルコはイランを経済的に孤立させるために西側諸国との関係を再強化する可能性も考えられる。

 総括
 
 イランのザンゲズル回廊への反対姿勢は、単なる経済プロジェクトに対する懸念を超え、地域の安全保障や国際関係に深い影響を与えている。ロシア、アゼルバイジャン、アルメニア、トルコとの関係において、イランの立場は今後も微妙なバランスを保つ必要があり、ザンゲズル回廊を巡る対立がさらなる地域的緊張を引き起こす可能性がある。また、この対立がエネルギー輸送や地域の安全保障に与える影響は無視できないものとなっており、解決には時間がかかる。
 
【要点】

 イランのザンゲズル回廊への反対姿勢について、以下の通り箇条書きで説明する。

 1.イランの懸念

 ・ザンゲズル回廊が地域の国境を変更し、イランの国益を損なうと主張しているが、実際は経済プロジェクトで領土的な変更はない。
 ・イランは回廊の代替ルートとして、北部を通る自国経由のルートを望んでいる可能性がある。

 2.アルメニアへの影響

 ・イランは、アルメニアが西側諸国(特にEUやアメリカ)に接近する傾向を抑え、アルメニアとの関係を強化しようとしている。
 ・ザンゲズル回廊への反対は、アルメニアを信頼できるパートナーとして引き寄せるための手段となっている。

 3.ロシアとの関係

 ・イランは、ロシアがイランの軍事技術協力(ミサイルやドローンの供給)の見返りとして、ザンゲズル回廊への支持を控えることを期待していたが、実現しなかった。
 ・ロシア大使を召喚して不満を表明するなど、イランとロシアの関係に緊張が生じている。

 4.ロシアのパイプライン計画への影響

 ・ロシアはエネルギー輸送の南方ルート(アゼルバイジャン、イラン、インド)を強化しようとしているが、ザンゲズル回廊を巡るイランとアゼルバイジャンの対立がこの計画に影響を与える可能性がある。
 ・アゼルバイジャンはイランがザンゲズル回廊への反対を撤回することを条件にパイプライン計画を支持する可能性がある。

 5.トルコとの関係

 ・トルコはザンゲズル回廊を通じて中央アジアや中国との貿易を拡大することを期待しており、イランの反対に強い不満を抱いている。
 ・イランとトルコの関係が悪化し、最悪の場合、トルコが西側諸国と協力してイランを経済的に孤立させる可能性がある。

 総括

 ・イランのザンゲズル回廊への反対は、単なる経済プロジェクトに対する懸念を超え、地域の安全保障や国際関係に深刻な影響を与えている。
 ・解決には時間がかかり、地域の緊張がさらに高まる可能性がある。

【参考】

 ☞ ザンゲズル回廊は、アゼルバイジャンとその飛び地であるナヒチェヴァン自治共和国を繋ぐ経済回廊である。この回廊は、2020年11月のナゴルノ・カラバフ紛争後に締結されたロシア仲介の停戦合意に基づいて提案されたもので、アゼルバイジャン、アルメニア、そしてロシアが協定に署名した。

この回廊の主な目的は、アゼルバイジャン本土とナヒチェヴァンを直接結び、さらにはトルコとの貿易ルートを強化することである。ザンゲズル回廊が完成すれば、アゼルバイジャンはアルメニアを経由して直接ナヒチェヴァンおよびトルコと繋がることができ、地域全体の経済活動が活発化すると期待されている。

 しかし、このプロジェクトに対してイランは強く反対している。イランは、ザンゲズル回廊がアルメニアとの国境を分断し、イランの地域的影響力や経済的利害を損なう可能性があると懸念している。特に、アルメニアとイランを繋ぐ唯一の陸路が影響を受けることが主な懸念事項である。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

Elaborating On Iran’s Continued Opposition To The Zangezur Corridor Andrew Korybko's Newsletter 2024.09.110
https://korybko.substack.com/p/elaborating-on-irans-continued-opposition?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=148714038&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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