中国:「バトルフィールドメタバース」の開発2024年09月17日 22:48

Ainovaで作成
【概要】

 中国の海軍(人民解放軍海軍、PLAN)が、米国に対抗するための訓練において「ブルーフォース」と呼ばれる仮想的な敵軍を開発していることについて説明している。この記事によれば、この「ブルーフォース」は、AIやバーチャルリアリティ、無人兵器などの最新技術を用いて、米国海軍のような現実の敵を模擬する役割を果たしており、中国の海軍力を強化するために重要な役割を果たしている。

 この訓練プログラムは、2010年代半ばから始まり、現在では無人システムや電子戦能力、仮想的な戦闘環境を活用するなど、ますます高度化している。これにより、中国は米国やその同盟国に対抗するための戦闘準備を向上させ、米国の太平洋地域における海軍の優位性に挑戦することを目指している。

 さらに、記事では、PLAが「バトルフィールドメタバース」を開発し、仮想現実やAI、量子技術を活用した未来の戦場をシミュレートし、実戦経験の不足を補おうとしていることも報告されている。このメタバースは、新しい兵器や戦術を試験する場として機能し、兵士にリアルな戦闘体験を提供する。

 一方で、PLANは高強度の戦闘シナリオを模擬したシミュレーションを行い、戦術的な課題や技術的な弱点を露呈している。加えて、記事では、中国軍の指揮体系や士官の経験不足が、これらの技術革新の効果を制限する可能性があることも指摘されている。

【詳細】

 この記事は、中国人民解放軍海軍(PLAN)が、米国やその同盟国に対抗するための訓練として「ブルーフォース」と呼ばれる仮想的な敵軍を発展させているという報告に焦点を当てている。この「ブルーフォース」は、中国がより現実的で高度な軍事訓練を行うために開発されており、特に米国海軍の戦術や装備を模倣することを目的としている。

 以下に、記事の主要な内容についてさらに詳しく説明する。

 1. ブルーフォースの発展と目的

 中国は2010年代半ばから「ブルーフォース」を開発し始め、特に仮想現実(VR)や人工知能(AI)などの最新技術を取り入れて、より現実的な戦闘訓練を行っている。この仮想的な敵軍(OPFOR: Opposition Force)は、主に米国海軍のような先進的な軍隊を模倣し、実際の戦闘シナリオをシミュレートすることを目的としている。これにより、中国海軍は実際の戦闘経験が少ないにもかかわらず、戦闘能力を高めることを目指している。

 特に、無人兵器システムや電子戦(EW)能力、シミュレーション技術を組み合わせて、戦術的に高度な訓練が行われている。例えば、人工的に作られた電磁環境下での訓練や、無人航空機や無人船を活用した戦術シミュレーションが含まれている。この技術により、PLANは米国やその同盟国の海軍に対してより現実的な対抗手段を模索し、戦闘準備を向上させている。

 2. メタバースと仮想現実の導入

 記事では、特に「バトルフィールドメタバース」の開発が取り上げられている。メタバースとは、仮想空間内でのシミュレーションを行う技術で、これにより中国は、AI、量子技術、ブレインコンピュータインターフェース(脳-コンピュータ接続技術)などの最先端技術を活用して、未来の戦争環境を再現することを目指している。このメタバースは、兵士たちに没入型でリアルな戦闘体験を提供し、実戦経験が不足している問題を補う狙いがある。

 さらに、これにより中国は新しい戦術や技術の効果を試験することができ、例えば「気象兵器」や無人の「ブルーアーミー(青軍)」と呼ばれる部隊の使用も模索されている。このような仮想的な環境下での訓練は、中国が将来的な戦争に備えるために非常に重要であり、特に新兵器や新戦術のテストが容易に行われる。

 3. ハイパーソニックミサイルのシミュレーション

 記事では、さらに中国が米国海軍の航空母艦を対象としたハイパーソニックミサイル攻撃をシミュレートした実験についても触れている。2023年5月に行われたこのシミュレーションでは、24発のハイパーソニックミサイルを3波に分けて発射し、米国のジェラルド・フォード級航空母艦とその護衛艦隊を撃沈するシナリオを再現した。このシミュレーションは、米艦隊が中国の警告を無視して、中国が保持する南シナ海の島に接近したという仮定のもとで行われた。

 このシナリオでは、ミサイルは中国本土のさまざまな地点から発射され、2,000〜4,000キロメートルの射程を持ち、非常に高い命中率を誇っていた。このような仮想訓練は、中国が米国との高強度な戦闘に備えるための重要な取り組みの一環である。

 4. 中国海軍の課題

 一方で、記事は中国海軍が直面する課題についても言及している。特に、高度なシミュレーション訓練を通じて技術的な弱点が露呈することがあるとされ、例えばレーダー探知能力の低下や防空システムの脆弱性が指摘されている。

 また、指揮構造の硬直性や士官の経験不足も大きな課題として挙げられている。中国の士官訓練や非委任士官(NCO)制度が西洋諸国の軍隊に比べて遅れており、戦術レベルでの意思決定やリーダーシップに欠ける部分があるとされている。

 5. NCO(非委任士官)の開発

 中国人民解放軍が2012年以降、非委任士官(NCO)を専門的な役割に特化させるための訓練プログラムを導入していることも報告されている。NCOは通常、戦術レベルでの重要な任務を担い、軍事作戦の遂行に不可欠な役割を果たすが、中国ではNCOが技術的な役割に限定され、指導的な役割はあまり期待されていない。これにより、中国軍のNCO制度は西洋の軍隊とは異なるアプローチを取っており、この制度が中国の戦略的目標を達成するかどうかは未知数である。

 結論として、この記事は、中国が仮想技術やAI、メタバースを駆使して軍事訓練を高度化し、米国との将来的な対立に備えていることを詳述している。しかし、技術的進歩と同時に、指揮体系や士官の訓練における課題も残っており、これらが中国海軍の実戦でのパフォーマンスにどのような影響を与えるかが注目される。

【要点】

 ・ブルーフォースの発展: 中国人民解放軍海軍(PLAN)は、米国海軍を模擬する仮想的な敵軍「ブルーフォース」を開発し、より現実的で高度な戦闘訓練を実施している。

 ・最新技術の活用: AIやバーチャルリアリティ(VR)、無人兵器システム、電子戦技術を用いて仮想的な戦闘環境を再現し、戦闘訓練を強化している。

 ・バトルフィールドメタバース: PLANは、未来の戦争環境をシミュレートする「バトルフィールドメタバース」を開発しており、AIや量子技術、ブレインコンピュータインターフェースを活用して兵士にリアルな戦闘体験を提供している。

 ・新戦術・兵器のテスト: メタバース内での訓練により、新しい戦術や兵器(例:気象兵器、無人の「ブルーアーミー」)をテストし、実戦経験の不足を補うことを目指している。

 ・ハイパーソニックミサイルシミュレーション: 中国は、2023年にハイパーソニックミサイルによる米国航空母艦撃沈のシミュレーションを実施し、その効果を確認した。

 ・技術的な課題: シミュレーション訓練で、中国海軍はレーダー探知能力や防空システムに弱点があることが明らかになっている。

 ・指揮体系の課題: 指揮構造の硬直性や士官の経験不足が、中国海軍の戦闘能力向上における課題として指摘されている。

 NCO(非委任士官)の育成: PLANは、技術的な役割に特化したNCO育成プログラムを導入しているが、指導的役割の強化には課題が残っている。 

【引用・参照・底本】

China ‘blue force’ shooting at US in a naval metaverse ASIA TIMES 2024.09.17
https://asiatimes.com/2024/09/china-blue-force-shooting-at-us-in-a-naval-metaverse/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=c3257fd082-DAILY_17_9_2024&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-c3257fd082-16242795&mc_cid=c3257fd082&mc_eid=69a7d1ef3c

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