新戦略兵器削減条約(New START)2025年01月31日 17:10

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【概要】

 アンドリュー・コリブコによる2025年1月29日の記事「相互の関心による軍備管理交渉の再開がウクライナ和平プロセスを加速させる可能性」について説明する。

 2026年初頭に新戦略兵器削減条約(New START)が更新または代替されない場合、新たな世界的軍拡競争が始まる可能性がある。クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、プーチン大統領がトランプ大統領との会談に応じる用意があることを表明し、その目的としてウクライナ紛争の終結および軍備管理交渉の再開が挙げられた。トランプ大統領は先週、ダボス会議でロシアとの交渉再開に関心を示しており、両者の発言が一致した形となる。特に軍備管理交渉の再開は重要な意味を持つ。なぜなら、New STARTは2026年2月に失効するが、交渉プロセスは2023年以降凍結されているからである。

 この問題に関する背景情報として、以下のポイントが挙げられる。

 ・2023年2月21日:「ロシアがNew START参加を一時停止したのは適切な判断である」
 ・2024年1月20日:「ロシアはウクライナ紛争が終結するまで米国との軍備管理交渉を再開しない」
 ・2024年10月18日:「バイデンがロシアとの核交渉に関心を示したのは、トランプの最近の発言を受けた対応である」

 米露関係において、戦略的安定性は核戦力およびその運搬手段のバランスに大きく依存している。米露両国は冷戦末期において、過剰な核兵器保有が危険であり、経済的負担も大きいことを認識し、部分的な削減および監視メカニズムの導入に合意した。この取り組みは、いわゆる「安全保障のジレンマ」を緩和する効果があった。「安全保障のジレンマ」とは、一方が防衛目的で行う軍備増強が、相手国にとって攻撃的な意図の表れと受け取られ、軍拡競争を引き起こす現象を指す。

 しかし、NATOの東方拡大によってこのジレンマは再び顕在化し、ウクライナ紛争を通じてより深刻な段階に達している。もしNew STARTが失効し、代替協定が締結されない場合、この状況はさらに悪化する可能性がある。

 こうした背景から、トランプ大統領は2020年大統領選挙時に掲げていたロシア・中国との非核化交渉の復活を目指しているとみられる。彼はダボスでの演説において、この交渉が2020年時点でほぼ成立しかけていたと主張した。しかし、実際には中国が交渉に消極的であり、ロシアも英国およびフランスの核戦力削減を条件としていたため、トランプの主張には誇張が含まれていると考えられる。

 それにもかかわらず、米露双方が軍備管理交渉の再開に関心を持つことは、ウクライナ和平プロセスの加速につながる可能性がある。なぜなら、ロシアはウクライナ紛争が解決するまで軍備管理交渉を再開しない方針を示しているため、米露双方が和平に向けた妥協を模索する動機が生じるからである。

 具体的な妥協案については、過去の分析記事に提示された提案が参考になるかもしれないが、両国が政治的意志を持たなければ進展は望めない。

 軍備管理交渉の再開が急務である理由は、米露の安全保障のジレンマが深刻化し、New STARTの失効が迫っていることに加え、新たな兵器システムの開発・配備が進んでいる点にある。特にロシアの極超音速兵器「Oreshniks(オレシュニクス)」のような兵器は、放射能汚染を伴わないが核兵器に匹敵する破壊力を持つとされており、これが世界的な軍拡競争を加速させる可能性がある。

 冷戦後の技術拡散の進展により、今回の軍拡競争は米露間にとどまらず、他の核保有国や一部の非核保有国(イランなど)にも波及することが予想される。このため、米露の合意を核とした多国間協定が不可欠であり、それによって他の主要な核・ミサイル保有国を交渉の枠組みに引き込み、これらの兵器の拡散を抑制する必要がある。

 具体的な対策として、国連安全保障理事会(UNSC)において、非署名国がこれらの兵器を開発・配備した場合や、署名国が合意を超えて兵器を備蓄した場合に制裁を科すことが考えられる。これは、最先端の非核兵器の拡散防止を中心とした新たな国際安全保障体制の構築を意味する。

 このような包括的な枠組みを実現するには、詳細な監視メカニズムの整備が必要であり、合意に至るまでには多くの困難が伴う。しかし、責任ある核・ミサイル保有国すべてにとって、このプロセスを成功させることは共通の利益となる。そのためには、まずウクライナ紛争を現実的な相互妥協を通じて迅速に終結させ、米露を核とする戦略的安全保障体制の再構築に向けた交渉を開始する必要がある。

【詳細】

 米露の軍備管理交渉再開がウクライナ和平プロセスを加速させる可能性について

 背景:軍備管理とウクライナ紛争の関係

 現在、ロシアと米国の軍備管理交渉は2023年から停止しており、新戦略兵器削減条約(New START)は2026年2月に失効する予定である。この条約は両国の戦略核兵器の数を制限し、相互の監視メカニズムを提供することで核軍拡競争を抑制する役割を果たしてきた。しかし、ウクライナ紛争の激化により、ロシアは2023年2月にNew STARTの履行を停止し、米国との軍備管理交渉を凍結した。

 ロシア政府の報道官ドミトリー・ペスコフは、ウラジーミル・プーチン大統領がドナルド・トランプ前大統領との会談に前向きであり、ウクライナ紛争の終結と軍備管理交渉の再開を議論する用意があると発言した。一方、トランプ氏もスイスのダボス会議でのビデオ演説において、プーチン大統領との直接交渉を通じてウクライナ戦争を終結させ、軍備管理協議を再開させる意向を表明した。

 核抑止と安全保障ジレンマ

 核軍備管理の重要性は、米露間の戦略的安定を維持し、安全保障ジレンマを抑制する点にある。安全保障ジレンマとは、一方が防衛目的で軍事力を増強しても、相手側がそれを攻撃的意図と誤認し、軍拡競争が加速する現象を指す。

 米露は冷戦末期に核兵器の過剰生産が軍事的・経済的に負担であることを認識し、1991年の第一次戦略兵器削減条約(START I)以来、段階的な削減と管理メカニズムを構築してきた。しかし、NATOの東方拡大がロシアの脅威認識を高めた結果、米露間の安全保障ジレンマが再燃し、ウクライナ紛争の激化によってさらに悪化した。

 New STARTが更新されずに失効すると、米露間の戦略的安定がさらに揺らぎ、新たな核軍拡競争が始まる可能性がある。これはウクライナ紛争の長期化とともに、世界的な安全保障環境をさらに不安定にする要因となる。

 トランプの戦略とロシアの対応

 トランプ氏は2020年の大統領選挙時に、ロシアと中国を含む新たな軍備管理協定の締結を目指していたと主張している。しかし、中国は当時の交渉に消極的であり、ロシアも英国・フランスの核兵器削減を求めていたため、実現には至らなかった。今回、トランプ氏は再び軍備管理交渉の重要性を強調し、ロシア側も交渉の可能性を示唆しているが、その実現には依然として高いハードルが存在する。

 ロシア側の立場としては、ウクライナ紛争の解決が軍備管理交渉再開の前提条件となっている。つまり、米国がウクライナ戦争の終結に向けた妥協を受け入れるならば、ロシアも軍備管理交渉に応じる可能性がある。この相互の利害関係が、和平プロセスを加速させる要因となる。

 新たな軍拡競争の脅威

 New STARTの失効は、単なる米露間の問題にとどまらず、世界的な軍拡競争の再燃を引き起こす可能性がある。特に、ロシアは超音速ミサイル「Oreshniks(オレシュニクス)」の配備を進めており、米国や他の国々も同様の兵器開発を加速させている。

 このような新兵器の登場により、核兵器を用いない高威力の戦略兵器が各国に普及し、既存の軍備管理条約では対応が困難になる。また、核保有国だけでなく、イランなどの非核保有国が新型ミサイル技術を取得することで、国際安全保障の枠組みがさらに複雑化する。

 新たな国際安全保障体制の必要性

 こうした状況を踏まえ、米露を中心とした新たな国際軍備管理体制の構築が求められる。理想的には、以下のような枠組みが考えられる。

 1.米露間の軍備管理協定を基盤とした多国間協定の形成

 ・米露の合意を起点に、中国・英国・フランス・インド・パキスタンなどの核保有国を交渉に参加させる。

 2.国連安全保障理事会(UNSC)の制裁措置の活用

 ・合意に参加しない国や、秘密裏に兵器を開発する国に対して国連制裁を発動するメカニズムを構築する。

 3.監視・検証メカニズムの強化

 ・新型ミサイルの開発・配備を監視し、軍備管理違反を防ぐ国際的な査察制度を設ける。

 現時点では、このような包括的な枠組みを実現するには多くの課題が残っている。しかし、軍備管理の再開を通じてウクライナ紛争の解決を促し、国際安全保障の新たな枠組みを構築することが、各国にとって戦略的利益に合致する。

 結論

 米露の軍備管理交渉の再開は、ウクライナ和平プロセスの加速につながる可能性がある。ロシアは交渉再開の条件としてウクライナ戦争の終結を求めており、米国がそれに応じる形で和平交渉が進めば、軍備管理の枠組みも復活する可能性がある。

 また、新型ミサイル技術の発展によって、核軍拡だけでなく、非核兵器の軍拡競争が激化するリスクが高まっており、これを抑制するためには米露を中心とした新たな国際安全保障体制の構築が必要となる。

 トランプ氏が今後どのように交渉を進めるか、またロシア側がどのような条件を提示するかが、ウクライナ和平と軍備管理の未来を左右する鍵となる。
 
【要点】

 米露の軍備管理交渉再開とウクライナ和平プロセス

 1. 背景

 ・New START(新戦略兵器削減条約)は2026年に失効予定。
 ・ロシアは2023年2月にNew STARTの履行を停止し、米露の軍備管理交渉は凍結状態。
 ・ウクライナ紛争の激化により、軍備管理の再開が困難になっている。
 ・トランプ氏とプーチン大統領は交渉再開に前向きな姿勢を示している。

 2. 核抑止と安全保障ジレンマ

 ・米露間の軍備管理は**安全保障ジレンマ(防衛強化が逆に脅威を増大させる現象)を抑制する役割を果たしてきた。
 ・NATOの東方拡大がロシアの脅威認識を高め、ウクライナ戦争の長期化につながった。
 ・New STARTが失効すれば、新たな核軍拡競争が加速する可能性が高い。

 3. トランプの戦略とロシアの対応

 ・トランプ氏は軍備管理交渉の再開を通じたウクライナ戦争の終結を主張。
 ・ロシアは軍備管理交渉の前提としてウクライナ戦争の終結を要求。
 ・米国がウクライナ和平に妥協すれば、軍備管理の交渉が進展する可能性がある。

 4. 軍拡競争の脅威

 ・New STARTが失効すると、米露間の戦略的安定が崩れ、新兵器開発が加速。
 ・ロシアは超音速ミサイル「Oreshniks」を配備、米国も次世代兵器開発を推進。
 ・中国・イランなども新型ミサイル技術を獲得し、世界的な軍拡競争が進行。

 5. 新たな国際安全保障体制の必要性

 ・米露間の軍備管理協定を基盤に多国間協定を形成(中国・英国・フランス・インド・パキスタンを含める)。
 ・国連安全保障理事会(UNSC)の制裁措置を活用し、違反国を抑制。
 ・新型ミサイルの監視・検証メカニズムを強化し、違反防止を図る。

 6. 結論

 ・米露の軍備管理交渉の再開は、ウクライナ和平プロセスの加速につながる可能性がある。
 ・ロシアはウクライナ戦争終結を交渉条件としており、米国の対応次第で和平が進む可能性。
 ・新型兵器の開発競争を抑えるため、国際的な軍備管理体制の再構築が不可欠。
トランプ氏の交渉方針とロシアの要求が今後の安全保障環境を左右する。

【引用・参照・底本】

Mutual Interest In Resuming Arms Control Talks Can Speed Up The Ukrainian Peace Process Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.29
https://korybko.substack.com/p/mutual-interest-in-resuming-arms?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=155987709&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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