BRICSと米国と中国の競争 ― 2025年01月31日 20:23
【概要】
BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は、2009年にロシアで開催されたサミットを契機に設立され、国際的な影響力を持つ重要な集まりとなった。最初は5カ国で構成されていたが、現在では5カ国の新規メンバーと8つのパートナー国が加わり、さらに多くの国が参加を検討している。この成長により、BRICSが米国やEUなどの伝統的な大国に挑戦する可能性について議論されている。
一方で、BRICSがどれほど団結しているのかについても疑問が投げかけられている。その多様性が団結の障害となる可能性があるからである。BRICSには、イランとサウジアラビアのように中東で地域的な競争を繰り広げる国々、エジプトとエチオピアがナイル川の支配を巡って異なる対立を抱える国々、さらには中国とインドの間に存在する対立など、さまざまな国が含まれている。しかし、BRICSの強さは、このような多様な国々を統合する能力にあると考えられている。増大する国際的な分極化の中で、緩やかな国際組織を構築することが、国際政治をナビゲートする鍵となる可能性がある。
BRICSの成長は、米国と中国の競争という文脈で考察する必要がある。世界最大の2大経済国である米国と中国の競争は今後さらに激化し、現代のグローバルな秩序を形成していくと見られている。中国は2024年に1兆ドルという過去最大の貿易黒字を記録し、5%の経済成長を達成した。この事実は、中国の発展モデルが米国主導の新自由主義的政策に代わる選択肢を提供しているとの認識を強化している。
BRICSを構成する国々の多くは中国との経済的な結びつきが強く、特に貿易関係において重要な役割を果たしている。中国は、BRICS内の2/3のGDPおよび貿易を占め、主要な貿易相手国として存在感を示している。中国はまた、BRICS諸国に対して多大な投資を行っており、ロシアは中国の直接投資の最大の受け入れ国となっている。さらに、BRICSの多くのメンバーは、一帯一路(Belt and Road Initiative)と密接に関わっており、特にエジプト、エチオピア、南アフリカ、サウジアラビア、イランなどがその計画の一部となっている。
BRICSは表向きには多国間主義や公正なグローバル発展を強調しているが、実際には中国の影響力を強化するための手段として機能している。中国は、BRICSを特別な貿易プラットフォームとして利用し、経済的およびイデオロギー的な影響力を広げるために、ブロックをうまく活用している。
BRICSが米国主導のグローバル秩序の代替を目指す中で、その多様性は大きな課題でもある。BRICSは、NATOのような統一された軍事同盟や、ASEANやUSMCAのような自由貿易圏に発展することは難しいとされている。BRICSの多様性は、その特徴を作り出す一方で、その成長を妨げる要因にもなりうる。
中国はBRICSを、米国との対立を避けながらより多くの国々を引き寄せるために利用している。対立を避けつつ、BRICSを緩やかなブロックとして維持することで、より民主的なグローバルガバナンスを推進しようとしている。現在のところ、この戦略は成功しているようである。
【詳細】
BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は、2009年にロシアで開催されたサミットを契機に設立され、初めは5カ国から成る組織であった。設立当初から、このグループは経済的に新興国が集まる集合体として、国際政治や経済における影響力を持ち始めた。BRICSは、主に発展途上国やグローバル・サウスに位置する国々の連携を示すものとして認識されている。現在では、BRICSはその規模を拡大し、5カ国の新メンバーと8つのパートナー国を迎え入れており、さらに多くの国が参加を予定している。この拡大は、BRICSが国際舞台で重要な役割を果たすようになる一因となっている。
BRICSの成長とその背景
BRICSの成長を振り返ると、その成り立ちには大きな意味がある。最初は経済成長が急速な新興国同士の経済協力を進めるために設立されたが、現在では政治的影響力の拡大を意図する一大組織に成長している。BRICSの拡大に伴い、元々のメンバー国はもちろん、新たに参加した国々も、米国やEUに対して対抗するための新しい国際秩序を作り出す可能性があると期待されている。しかし、その成長に対しても疑念が生じているのが現実である。特に、BRICS内のメンバー間で利害が一致しない点や、結束力が欠如していることが問題視されることがある。
例えば、BRICSに新たに参加したイランとサウジアラビアは、中東で長年にわたって対立している地域大国である。エジプトとエチオピアもナイル川を巡って異なる見解を持ち、政治的な摩擦が存在する。さらに、中国とインドの間では長年の領土問題が続いており、これらの国々が一つのグループにまとまることに懸念を抱く者も多い。しかし、BRICSの特徴的な強みは、こうした対立を乗り越えて多国籍なグループを維持している点にあり、国際政治における分極化が進む中で、緩やかな組織を構築することが新たな国際秩序を作る鍵となるとされている。
中国の主導権とBRICSの経済的影響
BRICSの成長は、中国の経済的な影響力の拡大と密接に関連している。中国はBRICSにおける実質的なリーダーであり、経済面での主導権を握っている。BRICSのGDPの約2/3は中国が占めており、BRICS内での貿易も中国が中心である。例えば、ブラジル、ロシア、インド、南アフリカといったBRICSの主要メンバーは、中国との貿易に大きく依存しており、これらの国々にとって中国は最も重要な貿易相手国である。
中国の経済的な支配力は、BRICSの枠を超えて広がっており、同国は一帯一路(Belt and Road Initiative)を通じて、途上国に多大な影響を与えている。BRICS加盟国の多くも、一帯一路のプロジェクトに積極的に参加しており、これらの国々は中国からの経済的支援を受けている。例えば、ロシアはBRICS内で最大の中国への外国直接投資を受けている国であり、その累積投資額は100億ドルを超えている。
BRICSの多様性とその課題
BRICSはその構成国の多様性が最大の特徴であり、それがその強さでもあると同時に、成長の障害ともなり得る。BRICSは経済的な協力だけでなく、政治的な影響力を持つためには、メンバー間の意見の一致が必要である。しかし、実際にはBRICS内で意見が大きく異なることがしばしばであり、これはグループの成長に対する障害となることがある。例えば、ロシアは対西側の対立姿勢を強調しているが、インドやブラジルはより穏健なアプローチを取ることが多い。このような多様なアプローチがBRICSの内部での摩擦を引き起こし、統一した立場をとることが難しくしている。
また、BRICSが米国主導のグローバル秩序に対抗する代替案を提示することは容易ではない。NATOやASEANのように統一された軍事同盟や自由貿易圏に発展することは、BRICSの多様性ゆえに実現が難しいと見られている。特に、BRICSは共通の軍事的または経済的枠組みを持っていないため、西側の勢力と対峙するために一致した行動を取ることは難しい。
中国の戦略とBRICSの未来
中国は、BRICSを単なる経済的な連携の枠を超えて、国際的な影響力を強化するための戦略的な道具として利用している。中国はBRICSを通じて、発展途上国のリーダーシップを取り、より多くの国々を引きつけることを目指している。そのため、BRICSはあくまで緩やかなブロックとして維持されることが予想され、対立的な立場を取らず、むしろ多国間主義と自由貿易を強調することで、国際的な地位を強化しようとしている。
このような戦略は、BRICSが今後も拡大し続けるために重要な要素となると見られており、特に中国が主導する一帯一路の枠組みを活用することで、BRICSの政治的・経済的影響力は一層強化される可能性がある。中国のリーダーシップとその多国間主義のアプローチが、BRICSの未来を左右する重要な要素となるであろう。
【要点】
1.BRICSの成り立ちと背景
・2009年にロシアで開催されたサミットを契機に設立
・発展途上国や新興国の連携を強化するために設立
・当初はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国から成る
・経済的成長を背景に、国際政治における影響力を拡大
2.BRICSの拡大と成長
・現在は5カ国から新メンバーやパートナー国を迎え、さらに参加国が増加予定
・新たに参加したイラン、サウジアラビア、エジプト、エチオピアなどがメンバーに
・これにより、BRICSは国際舞台での影響力を強化しつつある
3.中国の主導権
・BRICS内で中国が経済的に主導的な役割を果たしている
・BRICSのGDPの約2/3は中国が占め、貿易も中国が中心
・一帯一路(Belt and Road Initiative)を通じてBRICS加盟国に経済的支援を提供
4.BRICSの多様性と課題
・メンバー国の利害が一致しないことが多い
・ロシアとインド・ブラジルの政治的立場の違いが摩擦を生むことがある
・統一した軍事的・経済的枠組みを作ることが難しい
5.BRICSの未来と中国の戦略
・中国はBRICSを国際的影響力を強化するためのツールとして利用
・BRICSは緩やかな連携を維持し、対立的な立場を取らず多国間主義を強調
・一帯一路を活用してBRICSの影響力をさらに拡大する可能性が高い
【引用・参照・底本】
China-led BRICS growth raises questions about shifting world order ASIATIMES 2025.01.30
https://asiatimes.com/2025/01/china-led-brics-growth-raises-questions-about-shifting-world-order/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=e812021892-DAILY_30_01_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-e812021892-16242795&mc_cid=e812021892&mc_eid=69a7d1ef3c
BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は、2009年にロシアで開催されたサミットを契機に設立され、国際的な影響力を持つ重要な集まりとなった。最初は5カ国で構成されていたが、現在では5カ国の新規メンバーと8つのパートナー国が加わり、さらに多くの国が参加を検討している。この成長により、BRICSが米国やEUなどの伝統的な大国に挑戦する可能性について議論されている。
一方で、BRICSがどれほど団結しているのかについても疑問が投げかけられている。その多様性が団結の障害となる可能性があるからである。BRICSには、イランとサウジアラビアのように中東で地域的な競争を繰り広げる国々、エジプトとエチオピアがナイル川の支配を巡って異なる対立を抱える国々、さらには中国とインドの間に存在する対立など、さまざまな国が含まれている。しかし、BRICSの強さは、このような多様な国々を統合する能力にあると考えられている。増大する国際的な分極化の中で、緩やかな国際組織を構築することが、国際政治をナビゲートする鍵となる可能性がある。
BRICSの成長は、米国と中国の競争という文脈で考察する必要がある。世界最大の2大経済国である米国と中国の競争は今後さらに激化し、現代のグローバルな秩序を形成していくと見られている。中国は2024年に1兆ドルという過去最大の貿易黒字を記録し、5%の経済成長を達成した。この事実は、中国の発展モデルが米国主導の新自由主義的政策に代わる選択肢を提供しているとの認識を強化している。
BRICSを構成する国々の多くは中国との経済的な結びつきが強く、特に貿易関係において重要な役割を果たしている。中国は、BRICS内の2/3のGDPおよび貿易を占め、主要な貿易相手国として存在感を示している。中国はまた、BRICS諸国に対して多大な投資を行っており、ロシアは中国の直接投資の最大の受け入れ国となっている。さらに、BRICSの多くのメンバーは、一帯一路(Belt and Road Initiative)と密接に関わっており、特にエジプト、エチオピア、南アフリカ、サウジアラビア、イランなどがその計画の一部となっている。
BRICSは表向きには多国間主義や公正なグローバル発展を強調しているが、実際には中国の影響力を強化するための手段として機能している。中国は、BRICSを特別な貿易プラットフォームとして利用し、経済的およびイデオロギー的な影響力を広げるために、ブロックをうまく活用している。
BRICSが米国主導のグローバル秩序の代替を目指す中で、その多様性は大きな課題でもある。BRICSは、NATOのような統一された軍事同盟や、ASEANやUSMCAのような自由貿易圏に発展することは難しいとされている。BRICSの多様性は、その特徴を作り出す一方で、その成長を妨げる要因にもなりうる。
中国はBRICSを、米国との対立を避けながらより多くの国々を引き寄せるために利用している。対立を避けつつ、BRICSを緩やかなブロックとして維持することで、より民主的なグローバルガバナンスを推進しようとしている。現在のところ、この戦略は成功しているようである。
【詳細】
BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は、2009年にロシアで開催されたサミットを契機に設立され、初めは5カ国から成る組織であった。設立当初から、このグループは経済的に新興国が集まる集合体として、国際政治や経済における影響力を持ち始めた。BRICSは、主に発展途上国やグローバル・サウスに位置する国々の連携を示すものとして認識されている。現在では、BRICSはその規模を拡大し、5カ国の新メンバーと8つのパートナー国を迎え入れており、さらに多くの国が参加を予定している。この拡大は、BRICSが国際舞台で重要な役割を果たすようになる一因となっている。
BRICSの成長とその背景
BRICSの成長を振り返ると、その成り立ちには大きな意味がある。最初は経済成長が急速な新興国同士の経済協力を進めるために設立されたが、現在では政治的影響力の拡大を意図する一大組織に成長している。BRICSの拡大に伴い、元々のメンバー国はもちろん、新たに参加した国々も、米国やEUに対して対抗するための新しい国際秩序を作り出す可能性があると期待されている。しかし、その成長に対しても疑念が生じているのが現実である。特に、BRICS内のメンバー間で利害が一致しない点や、結束力が欠如していることが問題視されることがある。
例えば、BRICSに新たに参加したイランとサウジアラビアは、中東で長年にわたって対立している地域大国である。エジプトとエチオピアもナイル川を巡って異なる見解を持ち、政治的な摩擦が存在する。さらに、中国とインドの間では長年の領土問題が続いており、これらの国々が一つのグループにまとまることに懸念を抱く者も多い。しかし、BRICSの特徴的な強みは、こうした対立を乗り越えて多国籍なグループを維持している点にあり、国際政治における分極化が進む中で、緩やかな組織を構築することが新たな国際秩序を作る鍵となるとされている。
中国の主導権とBRICSの経済的影響
BRICSの成長は、中国の経済的な影響力の拡大と密接に関連している。中国はBRICSにおける実質的なリーダーであり、経済面での主導権を握っている。BRICSのGDPの約2/3は中国が占めており、BRICS内での貿易も中国が中心である。例えば、ブラジル、ロシア、インド、南アフリカといったBRICSの主要メンバーは、中国との貿易に大きく依存しており、これらの国々にとって中国は最も重要な貿易相手国である。
中国の経済的な支配力は、BRICSの枠を超えて広がっており、同国は一帯一路(Belt and Road Initiative)を通じて、途上国に多大な影響を与えている。BRICS加盟国の多くも、一帯一路のプロジェクトに積極的に参加しており、これらの国々は中国からの経済的支援を受けている。例えば、ロシアはBRICS内で最大の中国への外国直接投資を受けている国であり、その累積投資額は100億ドルを超えている。
BRICSの多様性とその課題
BRICSはその構成国の多様性が最大の特徴であり、それがその強さでもあると同時に、成長の障害ともなり得る。BRICSは経済的な協力だけでなく、政治的な影響力を持つためには、メンバー間の意見の一致が必要である。しかし、実際にはBRICS内で意見が大きく異なることがしばしばであり、これはグループの成長に対する障害となることがある。例えば、ロシアは対西側の対立姿勢を強調しているが、インドやブラジルはより穏健なアプローチを取ることが多い。このような多様なアプローチがBRICSの内部での摩擦を引き起こし、統一した立場をとることが難しくしている。
また、BRICSが米国主導のグローバル秩序に対抗する代替案を提示することは容易ではない。NATOやASEANのように統一された軍事同盟や自由貿易圏に発展することは、BRICSの多様性ゆえに実現が難しいと見られている。特に、BRICSは共通の軍事的または経済的枠組みを持っていないため、西側の勢力と対峙するために一致した行動を取ることは難しい。
中国の戦略とBRICSの未来
中国は、BRICSを単なる経済的な連携の枠を超えて、国際的な影響力を強化するための戦略的な道具として利用している。中国はBRICSを通じて、発展途上国のリーダーシップを取り、より多くの国々を引きつけることを目指している。そのため、BRICSはあくまで緩やかなブロックとして維持されることが予想され、対立的な立場を取らず、むしろ多国間主義と自由貿易を強調することで、国際的な地位を強化しようとしている。
このような戦略は、BRICSが今後も拡大し続けるために重要な要素となると見られており、特に中国が主導する一帯一路の枠組みを活用することで、BRICSの政治的・経済的影響力は一層強化される可能性がある。中国のリーダーシップとその多国間主義のアプローチが、BRICSの未来を左右する重要な要素となるであろう。
【要点】
1.BRICSの成り立ちと背景
・2009年にロシアで開催されたサミットを契機に設立
・発展途上国や新興国の連携を強化するために設立
・当初はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国から成る
・経済的成長を背景に、国際政治における影響力を拡大
2.BRICSの拡大と成長
・現在は5カ国から新メンバーやパートナー国を迎え、さらに参加国が増加予定
・新たに参加したイラン、サウジアラビア、エジプト、エチオピアなどがメンバーに
・これにより、BRICSは国際舞台での影響力を強化しつつある
3.中国の主導権
・BRICS内で中国が経済的に主導的な役割を果たしている
・BRICSのGDPの約2/3は中国が占め、貿易も中国が中心
・一帯一路(Belt and Road Initiative)を通じてBRICS加盟国に経済的支援を提供
4.BRICSの多様性と課題
・メンバー国の利害が一致しないことが多い
・ロシアとインド・ブラジルの政治的立場の違いが摩擦を生むことがある
・統一した軍事的・経済的枠組みを作ることが難しい
5.BRICSの未来と中国の戦略
・中国はBRICSを国際的影響力を強化するためのツールとして利用
・BRICSは緩やかな連携を維持し、対立的な立場を取らず多国間主義を強調
・一帯一路を活用してBRICSの影響力をさらに拡大する可能性が高い
【引用・参照・底本】
China-led BRICS growth raises questions about shifting world order ASIATIMES 2025.01.30
https://asiatimes.com/2025/01/china-led-brics-growth-raises-questions-about-shifting-world-order/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=e812021892-DAILY_30_01_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-e812021892-16242795&mc_cid=e812021892&mc_eid=69a7d1ef3c