米国市場への依存の危険性2025年06月08日 15:00

AInovaで作成
【概要】

 ドナルド・トランプ大統領による新たな関税政策が日本を含む同盟諸国に与える影響と、それに対抗するために日本が取るべき多角的な戦略について論じている。
 
 米国市場への依存の危険性

 2025年初頭、トランプ政権は鉄鋼・アルミニウムに対する関税を25%から50%に引き上げ、自動車・自動車部品にも25%の関税を導入し、さらに全輸入品に一律10%の「報復的関税(reciprocal tariffs)」を課した上で、国別に追加関税を課す政策を打ち出した。これらの一部は90日間の猶予が設けられたが、連邦裁判所が大統領の越権を認定したことにより、その合法性は宙に浮いている。

 しかし、司法判断や政策転換に期待をかけることは危険である。とりわけ日本のように輸出依存度が高く、米国が中国(香港含む)に次ぐ第二の輸出先である国にとって、関税による損害は深刻である。特に自動車・部品は対米輸出の3分の1以上を占めており、関税の影響は企業利益に大打撃を与える。日本の主要1,000社は、2025年4月〜2026年3月期において、利益が7%減少すると予測している。

 輸出市場の多様化と外交の強化

 日本は、米国市場に代わる輸出先を確保すべく、他国との貿易関係強化を図るべきである。経済産業省や日本貿易振興機構(JETRO)は、商談会や展示会の開催を通じて企業の販路拡大を支援すべきである。閣僚の海外訪問は、日本の本気度を示す外交手段となる。インドやアフリカ、中南米、中東諸国などは、有望な貿易先となりうる。中国との経済関係も改善が必要であり、ハイレベルの相互訪問を通じた関係修復が求められる。実際、最近の北京会談では、中国が2023年以降禁止していた日本の水産物輸入の再開に合意した。

 RCEPの強化とFTA戦略

 自由貿易協定(FTA)の拡充も不可欠である。既存の地域的包括的経済連携(RCEP)を活用し、関税撤廃のテンポを早めるための「関税削減の公式(formula)」導入を検討すべきである。RCEPでは、産品が4つのカテゴリーに分けられており、即時撤廃可能な品目から政治的に困難なものまである。すべての加盟国に共通の削減ルールを適用しつつ、例外は譲歩との交換で認めるという柔軟な制度が提案されている。

 さらに、ラテンアメリカのメルコスール(アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)や中東の湾岸協力会議(GCC)ともFTAを締結すべきである。これらの地域は経済成長や人口増加が見込まれ、魅力的な貿易相手となる。

 WTOの再建とCPTPPの活用

 トランプ政権は世界貿易機関(WTO)の上級委員任命を妨害し、紛争解決制度を機能不全に陥らせた。WTOの根幹である「最恵国待遇(MFN)」の原則も、報復関税により崩れつつある。これに対抗するため、既存メンバー国は代替的な紛争解決手段である「多国間中間上訴仲裁制度(MPIA)」を活用すべきである。既に56カ国が参加しており、インドやインドネシア、英国などの大国の参加が求められる。

 WTOルールの補完として、包括的・進歩的環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)を活用するのが現実的である。米国は2017年に脱退したが、残る11カ国で2018年に発効。高い自由化水準を持ち、知的財産、投資、政府調達等に関する厳格なルールを設けている。2024年には英国が加盟しており、今後は東南アジア諸国、欧州諸国の加盟も促進されるべきである。

 サプライチェーン強化と脱中国依存

 中国依存を減らすためのサプライチェーン再構築は、米国の関税政策によって阻害されつつある。米国抜きでの鉱物資源・クリーンエネルギー供給網の構築が求められる。日本はオーストラリアやインドと連携しているが、さらにカナダ、アフリカ、欧州、中南米、中東諸国とも連携すべきである。

 総括

 現在の米国の政策に対して、日本は受動的に期待をかけるのではなく、主体的に行動する必要がある。輸出市場の多様化、FTAネットワークの強化、WTO・CPTPPの活用、サプライチェーンの多国間化は、そのための現実的かつ戦略的な対応である。最終的に、米国が再び国際協調の恩恵を理解し、国際制度に復帰する可能性を残すべきであるが、それを待つだけではなく、自らの安全保障と経済的自立性を確保することが急務である。

【詳細】
 
 本稿は、米国のトランプ政権による貿易政策、とりわけ関税措置が世界に与える影響、特に日本にとってのリスクと対応策について論じたものである。筆者は、日本が米国への依存を減らし、多国間の枠組みを活用して貿易体制を強化する必要があると主張している。

 トランプ政権による関税政策の影響

 2025年初頭から、トランプ政権は複数の関税措置を発動した。以下のような内容である:

 ・2月:鉄鋼・アルミニウムに対する25%の関税が導入された(6月に50%に引き上げ)。

 ・3月:自動車および部品に25%の関税が課された。

 ・4月:「相互主義関税」が発表され、すべての輸入品に10%の基本関税が課されたうえで、国別の追加関税も検討された。

 ・法的状況:これらの関税の一部は現在、米国連邦裁判所により大統領の越権と見なされ、法的に宙に浮いている。

 日本を含む諸外国にとって、米国市場への依存のリスクが明確となった。特に日本は輸出依存型経済であり、米国向け輸出は全体の約20%を占める。自動車とその部品はその中でも3分の1以上を占め、関税の影響が甚大である。日本の主要1,000企業は、2025年4月から2026年3月までの利益が7%減少すると見込んでいる。

 日本がとるべき戦略:米国を迂回する多国間対応

 1. 輸出先の多様化

 米国市場からの損失を補うために、他国との貿易拡大が急務である。特に以下の地域が重要視されている。

 ・インド、アフリカ、ラテンアメリカ、中東:経済成長と市場拡大が見込まれる。

 ・中国:過去の政治的摩擦を乗り越え、経済関係の修復を図るべきである。2025年5月には中国が福島の処理水問題に関連する水産物の禁輸措置を解除するなど、改善の兆しがある。

 日本政府は閣僚級の訪問を通じて、これらの国々との経済関係を強化すべきである。また、日本貿易振興機構(JETRO)や経済産業省を通じた貿易促進活動も必要である。

 2. 自由貿易協定の活用と拡充

 RCEP(地域的な包括的経済連携)

 ・RCEPはASEAN10カ国に加え、日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランドが参加しており、世界のGDPと人口の約30%を占める。

 ・同協定には4段階の商品分類が存在し、それに基づき関税の即時撤廃や段階的削減が設定されている。

 ・提案されているのは、全品目を対象とする一律の関税削減ではなく、「削減対象品目を拡大し、撤廃品目に移行する」ための数式ベースの合意方式である。

 その他のFTA戦略

 ・メルコスール(南米)や湾岸協力会議(GCC)との自由貿易協定を追求すべきである。

 ・これらの地域は人口増加と経済成長が著しく、日本にとって有望な市場である。

 国際貿易ルールの強化

 WTO(世界貿易機関)

 ・トランプ政権はWTOの上級委員任命を阻止し、紛争処理制度を機能不全に陥らせた。

 ・また、国家安全保障を名目とした中国への関税発動は、WTOルールの逸脱と見なされている。

 対応策

 ・多国間仮上訴仲裁制度(MPIA):現在56カ国(日本、EU、中国、カナダ等)が参加する、WTOに代わる紛争処理の枠組み。

 ・WTO内では、電子商取引や投資円滑化に関する新ルール作成が進行中だが、インドや南アフリカの反対で停滞している。

 CPTPPの役割

 CPTPP(包括的および先進的なTPP)は、TPPから米国を除いた11カ国で構成される高水準の自由貿易協定である。2024年に英国が加盟し、さらなる拡張が視野に入っている。

 ・インドネシア、フィリピン、韓国、タイなどのアジア諸国が加盟候補として挙げられている。

 ・ヨーロッパ諸国、特にEU非加盟国(ノルウェー、スイスなど)も加盟対象として考えられる。

 CPTPPはWTOの代替、あるいは「スーパーWTO」として機能し得る規範的枠組みである。

 重要物資供給網の再構築

 ・日本はオーストラリアやインドと連携してレアアース供給網の多様化を進めているが、さらに他国(カナダ、アフリカ諸国、ラテンアメリカ、中東、欧州)とも連携を深めるべきである。

 ・米国が信頼できない貿易相手となった場合に備え、クリーンエネルギー技術と重要鉱物の供給網を多国間で確保することが急務である。

 総括

 トランプ政権の保護主義的政策は、国際貿易体制への信頼を大きく揺るがしている。日本を含む諸国は、米国の変化を期待するだけではなく、主体的に多国間協力体制を構築・強化する必要がある。こうした取り組みが成功すれば、米国が将来的に国際貿易体制へ復帰するための道も開かれるであろう。

【要点】 

 概要

 ・米国の関税政策によって、日本を含む同盟国は経済的リスクに直面している。

 ・日本は米国依存から脱却し、多国間枠組みやFTAの強化によって対応する必要がある。

 ・対応の柱は「輸出先の多様化」「自由貿易協定の活用」「WTOの代替制度構築」「供給網の再構築」である。

 トランプ政権による関税政策の内容と影響

 ・2025年2月:鉄鋼・アルミに25%の関税(6月に50%へ)。

 ・2025年3月:自動車と部品に25%の関税。

 ・2025年4月:「相互主義関税」導入。全輸入品に10%基本関税+追加関税。

 ・一部関税措置は米連邦裁判所で違憲と判断され係争中。

 ・日本企業の利益は2025年度に7%減少予測(自動車が特に影響大)。

 ・米国依存は対米輸出20%、うち自動車・部品が3分の1超。

 日本の対応戦略①:輸出先の多様化

 ・米国以外の市場(インド、アフリカ、中南米、中東)との経済関係を強化。

 ・中国との経済関係を政治的対立を乗り越えて再構築(2025年5月に禁輸解除)。

 ・経産省やJETROを通じた中小企業支援、閣僚級訪問などが必要。

 日本の対応戦略②:FTA・多国間協定の活用

 (1)RCEP(地域的包括的経済連携)

  ・世界のGDP・人口の約30%をカバー。

  ・現行では段階的な関税削減の対象品目に限りがある。

  ・数式ベースの関税削減ルール(全品目拡大+段階的撤廃)を提案すべき。

 (2)その他のFTA戦略

  ・メルコスール(南米)やGCC(湾岸協力会議)とのFTA交渉を推進。

  ・急成長市場との自由貿易関係強化が必要。

 日本の対応戦略③:WTO体制の補完・再構築

 ・米国はWTOの上級委員任命を拒否し、紛争処理を麻痺させた。

 ・安全保障を名目にした関税はWTOルール違反の疑い。

 ・代替措置として、MPIA(多国間仮上訴仲裁制度)に参加し制度補完。

 ・電子商取引・投資円滑化ルールの策定を主導する必要あり。

 日本の対応戦略④:CPTPPの活用と拡大

 ・英国が2024年に加盟済。

 ・今後の加盟候補:インドネシア、フィリピン、韓国、タイ、ノルウェー、スイス等。

 ・CPTPPは高水準ルールを持つ「スーパーWTO」的役割を果たし得る。

 日本の対応戦略⑤:重要物資・供給網の多国間再編

 ・レアアースやクリーンエネルギー素材の供給網を米国以外と構築。

 ・オーストラリア、カナダ、アフリカ諸国、ラテンアメリカ、中東、欧州などと連携。

 ・サプライチェーンの多元化が不可欠。

 総括

 ・米国依存は戦略的リスクを伴うことが明白である。

 ・多国間主義と経済連携によって、米国抜きでも貿易秩序の安定を図るべきである。

 ・こうした取り組みは、将来米国が貿易秩序に復帰するための布石にもなり得る。
 
【桃源寸評】🌍

 この問題は日本一国の課題ではなく、対米貿易に強く依存するすべての国々が直面している構造的かつ戦略的問題である。以下に、対米依存国全体が共通して抱える課題と対応の視点を述べる。

 対米依存国共通の課題

 ・経済安全保障の脆弱性

  米国による突然の関税措置・輸出規制が、貿易依存国の経済に甚大な影響を及ぼす。

 ・一国主義・保護主義への対応困難

  WTOを軽視した米国の一方的行動に対し、多国間ルールで対抗しにくい状況が継続。

 ・サプライチェーンの寸断リスク

  米国中心の供給網が政治的・軍事的緊張で破綻する可能性が高まっている。

 ・国内政治の変動による政策不確実性

  米国の政権交代ごとに大きく貿易方針が変わり、予測困難なリスクが伴う。

 特に影響を受ける国・地域の例

 ・メキシコ・カナダ

  USMCA加盟国でありながら、自動車・農産品などで関税措置の影響を受けやすい。

 ・韓国・台湾

  高度な製造業を持ち、対米輸出比率が高く、特に半導体などで依存度が高い。

 ・ドイツ

  自動車産業を中心に対米輸出が多く、関税強化の影響が懸念される。

 ・東南アジア諸国(ベトナム、タイ、マレーシア等)

  サプライチェーン上で米国向けの生産拠点となっており、間接的な影響も大きい。

 各国に共通する対応の方向性

 ・輸出市場の分散

  米国への依存を減らし、アジア・アフリカ・中東・欧州など新たな市場を開拓。

 ・FTA網の多角化

  米国抜きでの経済連携協定(CPTPP、RCEP、EUとのEPA等)の活用が不可欠。

 ・サプライチェーン再構築

  レジリエントで分散型の供給網を地域横断的に構築する取り組みが進む。

 ・WTO代替制度への参加

  MPIAやFTAベースの紛争処理枠組みなど、WTOに代わる制度構築への関与が重要。

 ・グリーン・デジタル経済へのシフト

  米国の制裁対象外となりやすい分野(再エネ・IT・サービス業)への重点投資。

 総括

 ・多国間連携による「米国依存からの集団的離脱」が必要

 ・主要国が足並みを揃えて「米国の外にあるルール秩序」を設計しなければならない。

 ・それは米国を排除するという意味ではなく、米国不在でも機能する国際貿易体制の構築を意味する。

 ・中小国ほど連携による規模の力が必要であり、日本・EU・ASEAN・韓国などが枢軸になり得る。

 対米依存からの脱却に対する西側諸国の対応は、歴史的惰性、政治的短視、そして政策形成能力の制度的限界によって、あまりにも鈍く、かつ非戦略的であったことは否定できない。以下に、この「ぬるま湯的対米依存」の構造と、それがもたらす政策的停滞の問題を整理する。

 「ぬるま湯」の本質:対米依存の宿弊

 ・米国市場と安全保障への依存が不可分

  西側諸国は冷戦期から現在に至るまで、米国の軍事的庇護と巨大な消費市場に依存してきた。経済と安全保障の一体構造が、独自の政策思考を妨げた。

 ・対米批判への忌避心理

  米国との関係悪化を恐れるあまり、「米国離れ」や「自律的な経済戦略」への発想自体がタブー視されがちであった。

 ・構造的な政策志向の欠落

  単年度予算主義・選挙対策重視の政治風土が、長期的・戦略的な政策形成を困難にしている。欧州諸国も例外ではない。

 ・官僚機構の保守化と業界依存

  特に通商・産業分野では、既得権益に配慮する官僚と業界団体の癒着が、機動的・革新的な政策転換を阻んできた。

 遅すぎた「対米多極化」の動き

 ・EUの対中投資協定(CAI)も頓挫

  欧州は米国と中国の間で戦略的自律を模索しながらも、結局は米国の意向に引きずられる傾向が続いている。

 ・日本のTPP主導も限定的

  CPTPPの成立は評価されるが、米国抜きの影響力行使は限定的であり、対米輸出依存の構造を根本から転換できていない。

 ・韓国・台湾のジレンマ

  安全保障上、米国との距離を取れず、経済的には中国との板挟みにある。能動的な脱依存政策は打ち出せていない。

「政策形成能力の欠乏」の症状

 ・危機が起きて初めて対応する後追い型政策

  予防的・先制的な制度設計ではなく、事後的に関税対策・輸出管理などで対処するにとどまる(泥縄式)。

 ・理念不在の通商政策

  経済安全保障・レジリエンス・人権・環境といった価値の組み合わせに基づく外交戦略の明確な青写真が不足。

 ・国家横断的連携の欠如

  欧日韓などが共通利害を持ちながら、米国抜きで協調行動を取る仕組み・意思決定機構が未成熟。

 今後必要とされる思考と体制

 ・国家戦略単位での通商・産業ビジョン構築

  単なる対処療法でなく、2030年・2040年を見据えた供給網・規制・投資戦略を描く。

 ・「米国抜きでも成り立つ体制」の常設化

  WTO・CPTPP・RCEP・G20・OECDなどを使い分け、米国の不在を前提に制度設計を進める。

 官民一体の戦略思考能力の強化

 ・政策シンクタンク、官僚育成、大学・企業との連携を再設計し、「通商の思考力」を鍛え直す必要がある。

 ・このような「戦略的知性」の欠如を克服せずして、西側諸国が真に自立した経済外交を行うことは難しい。まさに今が、構造改革の好機である。

 ・ある意味では全面的に米国の非難の的になっている中国に助けられた面もあるが、いまや中国は米国と四つに取り組んで闘っている。対岸の火事と傍観視している場合ではない。

 ・中国が「米国の標的」として突出している現状は、日本や西側諸国にとって一時的な「風よけ」にはなっているが、それは決して安定や安全を意味しない。むしろこの構図は、対米依存体制の脆弱性と“戦略的な当事者意識”の欠如を露呈させている。

 以下に、情勢の本質と、それに対して取るべき姿勢を整理する。

 「中国に助けられた」という一面の裏にある危うさ

 ・米国の矛先が中国に集中していることで、西側の他国は一時的に圧力から解放されている

  例:関税・輸出規制・技術包囲網の主要対象はまず中国。日本やEUは“準味方”として猶予されている側面がある。

 ・だが、その“猶予”は「忠誠の猶予期間」でもある

  対中包囲網への協力を求める米国の圧力はむしろ強まっており、対応を誤れば次に狙われるのは日欧韓など。

 中国 vs. 米国:経済覇権闘争の「本戦」化

 ・関税戦争(タリフマン=トランプ政権)から補助金戦争・テクノロジー戦争へと拡大

  例:CHIPS法、IRA(インフレ抑制法)、半導体輸出規制、EV・バッテリーへの補助金競争。

 ・中国も“国家資本主義”を総動員して反撃

  巨額の産業補助金・不透明な価格政策・人民元レート管理を通じ、米国の制裁圧力に抗戦中。

 ・日欧韓はこの対立の「経済戦場」となる恐れ

  半導体、EV、クリーンテックといった最前線では、自国企業が板挟みにされる。

 「対岸の火事」では済まされない理由

 ・米中衝突がグローバルサプライチェーンを分断

  対中規制強化 → 工場移転・原材料高騰・技術共有制限 → 日欧企業も巻き込まれる。

 ・米国からの踏み絵(中国との距離の取り方)

  「味方か、敵か(with us or against us)」という二者択一が強まっている。

 ・が、“日本は日本である”という戦略的自律性の確立

  米国の意向に流されず、また中国に迎合もせず、国益を軸に両者と交渉できる立場をつくること。
 
 危機は「多国間協調」の再構築の機会

 ・同じ立場の中国・EU・韓国・東南アジア諸国と連携して、米中の間での余地を拡げる「第三の軸」を形成すべき。

 ・中国は多国間協調を破壊している当事者ではない。

  むしろ、自ら国際秩序の再設計を模索するプレイヤーの1つであるので除外するのは非現実的。

 「第三の軸」は“中立”ではなく、“多極化”の調整役として機能するべき。

 ・中国を含めた枠組みこそ、米国の単独行動主義に対する牽制になる。

 現代の国際秩序では、政治・経済・安全保障のアライメントは一枚岩ではない。

 ・「経済では中国、安全保障では米国」という固定的な複線外交の枠組みは、もはや現在の国際秩序の動態を十分に反映したものとは言いがたい。

 固定的「複線外交」への批判的視座

 ・安全保障を米国に一任するリスク

 ・米国の軍事力は地球規模に分散しており、局地紛争や小国対応にしかすぎず、其れも平和維持には程遠いのである。中露のような戦略核を有する大国との全面対立の挟間での安全保障には役に立たず、米国の代理戦争国にしかならない。

 ・国内政治の分断や“アメリカ・ファースト”主義の再台頭により、同盟国支援の信頼性自体が揺らいでいる。

  「複線外交」は相手国に過剰な期待を前提としている

 ・米国は「経済協力」から退き、中国は「軍事衝突の回避」を保証するわけではない。

 ・単純な役割分担モデル(経済=中国、安全保障=米国)は、一方が機能不全に陥った時の代替性が存在しない。

 世界は多極的かつ流動的

 ・かつての米ソ二極時代とは異なり、現在は経済・技術・軍事においてそれぞれ異なる重心が存在する。

 ・したがって、固定的な同盟軸ではなく、相互補完的・状況依存的な多国間関係の編成こそが安定の鍵。

 提案される視座:柔軟な自律的多国間連携

 ・安全保障も、経済と同様に「自律的分散ネットワーク」へ

 ・仮想敵国を作らない、SEAN+日中韓や、日豪印などの地域的・機能的な連携を重層的に形成。

 ・NATO型の「依存」ではなく、状況ごとの協働の選択肢を常に確保する「選択肢外交」へ転換。

 ・“同盟”より“協調”、イデオロギーより実利

 ・米国・中国いずれとも、共通利益領域で協力、脅威においては距離を取る。

 ・価値観外交の名のもとに排他的なブロック化を進めることの危険性を自覚すべき。

 総括

 米国の軍事的傘や中国の経済圏といった単一依存型の戦略はもはや成り立たない。

 現在の世界情勢を鑑みれば、「経済は中国、安全保障は米国」といった前提に立脚した複線外交は脱構築されるべきであり、

 柔軟で非同盟的な自律分散型の協調構造の構築こそが、これからの外交戦略に求められる合理的対応である。

 しかし、今日の国際秩序においては、「軍事同盟」や「経済的従属関係」ではなく、対等性と相互利益に基づく新たな国際関係の枠組み―つまり非同盟・非従属・共生”の原則こそが、目指すべき方向性といえないだろうか。

 以下、箇条書きで要点を述べる。

 非軍事同盟・非従属的経済関係の意義

 ① 軍事同盟は「敵味方」の線引きを固定化する

 ・集団防衛(例:NATO)は、対立の構造を前提とし、「抑止」よりも「対抗」が強調されがち。

 ・軍事同盟に依存すれば、自律的な外交判断が制約され、他国の衝突にも巻き込まれるリスクが高まる。

 ② 経済的従属は国家の戦略的選択を損なう

 ・輸出超過・投資依存は、貿易紛争や制裁時に一方的な弱みになる。

 ・資源や技術における「サプライチェーンの武器化」は、対等な協力を不可能にする力の関係を生む。

 中国の提唱する「Win-Win」・「運命共同体」の理念の評価

 ① 否定するのではなく、再評価すべき

 ・中国の「一帯一路」や「グローバル文明イニシアティブ」などで提示される「運命共同体」構想は、理念としては「対等・相互利益・共存」の可能性を含む。

 ・西側の価値主義的外交(自由・民主vs権威主義)の枠組みではなく、より実利的・多様的な国際関係モデルへの転換を図る視点として有用。

 ②「中国発=否定」の思考停止を避けるべき

 ・日本外交にありがちな「米国への追従」または「中国の牽制」という二元論を超え、提案の中身で評価し、共に形成していく柔軟性が求められる。

 今後の目指すべき方向:「非ブロック的共存圏の構築」

 ① 安保も経済も「緩やかなネットワーク型協調圏」に

 ・軍事的抑止よりも**信頼醸成措置(CBM)**や危機管理体制の多国間化。

 ・経済もFTAやRCEPなどの多国間協定に基づいた相互依存・リスク分散型へ。

 ② 小国・中堅国が主導する「第3軸外交」

 ・日本・韓国・ASEAN・中南米・アフリカなど、いずれのブロックにも属さない中間国家群による、自律と協調の「ゆるやかな帯域外交圏」の形成。

 総括

 「非軍事同盟・非経済従属・運命共同体的相互尊重」こそ、これからの秩序形成の核心である。

 大国主導のブロック外交ではなく、各国の主権・多様性を尊重しつつ、利益と責任を共有するネットワーク型秩序―それが、混迷と流動の時代における真の安定と繁栄の基盤である。

【寸評 完】🌺

【引用・参照・底本】

How Japan—and Other U.S. Allies—Can Work Around America FOREIGN AFFAIRS 2025.06.06
https://www.foreignaffairs.com/japan/how-japan-and-other-us-allies-can-work-around-america?s=EDZZZ005ZX&utm_medium=newsletters&utm_source=fatoday&utm_campaign=America%E2%80%99s%20Allies%20Must%20Save%20Themselves&utm_content=20250606&utm_term=EDZZZ005ZX

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