緊急事態が発生した場合2025年06月13日 19:36

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【概要】

 2025年、日本の憲法改正に関する議論が活発化している。その中心の一つは、大規模な災害、戦争、テロなどの緊急事態が発生した場合に、政府と国会の権限を規定する緊急事態条項である。現在、日本国憲法には緊急事態に関する規定が存在しない。

 2025年6月12日、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、および無所属議員の会派「有志の会」は、衆院憲法審査会において、緊急事態における国会議員の任期延長に関する草案を共同で提出することに合意した。これは、大規模災害などで選挙の実施が困難な状況になった場合、国会議員の任期を6か月延長することを可能とするものである。

 この議題が国会で議論されるのは今回が初めてではない。2023年と2024年にも議論が行われた。これらの議論は主に議員任期延長の利点と欠点に焦点を当てており、憲法改正そのものについてはほとんど議論されなかった。昨年、中谷防衛相は、大規模な自然災害や感染症の蔓延により広大な地域で70日以上選挙の実施が困難な場合、国会議員の任期を6か月延長し、最大1年まで再延長できるとする素案を提示した。この際、自民党は憲法改正のための条文化の策定開始を提案したが、立憲民主党は、憲法改正を行わずとも当該措置を検討することは可能であるとの立場を表明した。

 日本弁護士連合会(日弁連)は、憲法に緊急事態に関する条項を盛り込むことに強く反対している。日弁連は、過去に緊急事態条項が人権侵害に利用された事例があったことを指摘する。議員任期延長は戦前、戦争体制整備のために濫用されたという。また、日本には既に警察法や有事法制が存在するため、この問題に関して憲法改正を行う必要はないと主張している。日弁連は、緊急時には郵便投票など、足を運ばなくても投票できる法制度に改め、緊急時でも選挙を実施できるようにすべきであるとしている。

 ロシア科学アカデミー中国・現代アジア研究所、日本研究センターの上級研究員であるオレグ・カザコフ氏は、憲法に何らかの変更を加える場合、その根拠を真剣に議論しなければならないとする日本人の姿勢はもっともであると指摘する。

 カザコフ氏は、憲法のような「神聖な文書」の変更は社会にストレスや対立を引き起こす一方で、日本の政治家が緊急事態条項を加えようとする意図も理解できると述べる。その理由として、日本周辺の地域情勢が緊迫しており、何らかの緊急事態が発生する可能性があることを挙げている。

 カザコフ氏によると、日本では非日常的な状況における内閣と国会の権限と責任に関する法的文書が存在しないため、いざという時に効果的な対応ができないという。

 カザコフ氏は、2011年3月の福島第一原子力発電所の事故では、誰もこうした事態を予測しておらず、当初は混乱が見られたと述べる。災害大国である日本にとって、緊急事態にどう対応するかという問題は、論理的で現実的な問題である。法律には、地震、疫病、テロなど、あらゆる非常事態に対する対応手順が規定されているべきであるとしている。一方で、あらゆる非常事態は国民の権利を制限するリスクを伴い、最悪の場合、政治体制の交代につながる可能性もあるという。そのため、国会はこのテーマの議論を続け、何らかの妥協点を探り、最終的には、今すぐではないものの、この条項を憲法に盛り込むことになるだろうと述べる。その理由として、これが国民の安全保障に関わる問題であること、そして、これが人々が慣れなければならない新しい現実であることを挙げている。

【詳細】 

 2025年の日本の憲法改正をめぐる議論は、特に緊急事態条項の導入に焦点を当てて活発化している。この条項は、大規模な災害、戦争、テロといった非常事態に際して、政府と国会の権限を明確にすることを目的としている。現状の日本国憲法には、緊急事態に関する明文の規定が存在しない点が、議論の背景にある。

 具体的には、2025年6月12日には、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、そして無所属議員からなる「有志の会」が、衆議院憲法審査会において、緊急事態における国会議員の任期延長に関する草案を共同で提出することに合意した。この草案は、大規模災害などで選挙の実施が困難になった場合、国会議員の任期を6か月延長することを可能にする内容である。

 この任期延長に関する議論は、2023年と2024年にも行われてきた。これらの先行する議論では、議員任期延長の利点と欠点が主に焦点となり、憲法改正そのものについての深い議論は少なかった。例えば、2024年には中谷防衛相(当時)が、大規模自然災害や感染症の蔓延により広範囲で70日以上選挙が困難な場合、国会議員の任期を6か月延長し、最大1年まで再延長できるとする素案を提示した。この際、自民党は憲法改正のための条文化の策定開始を提案したが、立憲民主党は、憲法改正によらずとも、現行法制下で同様の措置を検討可能であるとの見解を示し、対立が見られた。

 緊急事態条項の導入に対する懸念も根強い。日本弁護士連合会(日弁連)は、憲法への緊急事態条項の盛り込みに強く反対している。日弁連は、過去に緊急事態条項が悪用され、人権が侵害された事例があったことを指摘する。特に、戦前の日本において、国会議員の任期延長が戦争遂行のための体制整備に濫用された歴史を挙げ、その危険性を訴える。また、日本には既に「警察法」や「有事法制」といった緊急事態に対応するための法制度が存在するため、憲法改正の必要はないと主張している。日弁連は、緊急時であっても、郵便投票など、足を運ばずに投票できる法制度への変更によって選挙を実施することが可能であるとの立場を示す。

 この議論に対し、ロシア科学アカデミー中国・現代アジア研究所の日本研究センター上級研究員であるオレグ・カザコフ氏は、憲法という「神聖な文書」の変更には真剣な議論が不可欠であるとする日本人の姿勢はもっともであると評価する。一方で、日本の政治家が緊急事態条項の導入を求める意図も理解できると述べる。その背景には、日本周辺の地域情勢が緊迫しており、何らかの緊急事態が発生する可能性が存在するという認識がある。

 カザコフ氏の指摘では、日本では非日常的な状況における内閣と国会の権限と責任に関する法的規定が不十分であり、それが有事の際に効果的な対応を阻害する可能性があるという。具体例として、2011年3月の福島第一原子力発電所事故を挙げ、誰も予測しなかった事態であったため、当初は混乱が見られたことを指摘する。災害大国である日本にとって、緊急事態への対応策は論理的かつ現実的な課題であり、地震、疫病、テロなど、あらゆる非常事態に対する対応手順を法律で規定すべきであると述べる。しかし、同時に、あらゆる非常事態への対応は国民の権利を制限するリスクを伴い、最悪の場合には政治体制の交代につながる可能性もあることを強調する。そのため、国会は議論を継続し、何らかの妥協点を見出す必要があるとし、最終的には、すぐにではないにしても、この条項が憲法に盛り込まれる可能性が高いと見ている。これは、国民の安全保障に関わる問題であり、人々が慣れていかなければならない「新しい現実」であるとの認識を示している。

【要点】 

 日本の憲法改正を巡る議論は、緊急事態条項の導入を中心に活発化している。主な論点は以下の通りである。

 緊急事態条項導入の背景と目的

 ・現行憲法に規定なし: 現在の日本国憲法には、大規模災害、戦争、テロなどの緊急事態における政府や国会の権限に関する明確な規定がない。

 ・権限の明確化: 緊急事態発生時に、政府と国会の権限を明確にすることで、迅速かつ効果的な対応を目指す。

 国会議員の任期延長に関する議論

 ・共同草案提出: 2025年6月12日、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、有志の会が、衆院憲法審査会に国会議員の任期を6か月延長できるとする草案を共同提出した。

 ・選挙困難時への対応: これは、大規模災害などで選挙実施が困難な場合に、議員の任期を延長することを目的としている。

 ・過去の議論: 2023年と2024年にも同様の議論があり、中谷防衛相(当時)は最大1年までの再延長案を提示したが、憲法改正の必要性については意見が分かれた。
日本弁護士連合会(日弁連)の反対意見

 ・人権侵害の懸念: 日弁連は、過去に緊急事態条項が悪用され、人権が侵害された事例があったことを指摘し、導入に強く反対している。特に、戦前の任期延長が戦争体制整備に濫用された歴史を挙げる。
既存法制の活用: 日本には既に警察法や有事法制があり、憲法改正の必要はないと主張。
 
 ・代替策の提案: 緊急時でも選挙ができるよう、郵便投票など、足を運ばずに投票できる法制度への変更を提唱している。
ロシア科学アカデミー研究員の視点

 ・憲法改正の慎重論: オレグ・カザコフ氏(ロシア科学アカデミー中国・現代アジア研究所上級研究員)は、憲法変更は社会にストレスや対立を引き起こすため、真剣な議論が必要だとしている。

 ・日本の政治家の意図への理解: 一方で、緊迫する日本周辺の地域情勢を背景に、緊急事態条項を加えようとする日本の政治家の意図も理解できると述べる。

 ・法的規定の不足: 2011年の福島第一原発事故を例に挙げ、非日常的状況における内閣と国会の権限・責任に関する法的規定が不十分であると指摘。

 ・国民の安全保障: 最終的には、国民の安全保障に関わる問題であるため、議論は継続され、将来的にはこの条項が憲法に盛り込まれる可能性が高いと見ている。
 
【桃源寸評】🌍

 国家緊急権不要論の根拠

 すでに日本には以下の法制度や組織が存在する。

 ・国民保護法制: 有事や大規模災害時に国民の生命・身体・財産を保護するための枠組みが整備されている。

 ・有事法制下の各法律: 武力攻撃事態などに対応するための具体的な法規が存在する。

 ・自衛隊: 国防を担う組織として、災害派遣など緊急時にも対応できる能力を持っている。

 これらの存在を考えると、国家が緊急事態に対応する能力をすでに持っていると解釈できる。

 東日本大震災と国家緊急事態

 2011年の東日本大震災における原発事故は、まさに国家緊急事態に匹敵する状況であった。国民保護法制においても原発が攻撃対象となる想定があるにもかかわらず、政府が緊急事態条項を発動しなかった、あるいは対処法が分からずに混乱した。

 この経験から、「緊急事態条項があっても、結局は政府が無能をさらけ出すだけであり、全く不要である」という結論に至る。国民も、緊急事態条項の有無にかかわらず、むしろ台風一過のように、その状況に自ら適応していくのではないかというご意見は、政府の対応能力への不信感と、国民の自立性を強調するものである。

 議論の核心

 この視点からは、単に憲法に緊急事態条項を追加するだけでは、真の緊急事態対応能力の向上にはつながらず、むしろ既存の制度を有効に活用できなかった問題や、政府の危機管理能力そのものに焦点を当てるべきだという主張が読み取れないか。国民の権利が一時停止される可能性を伴う緊急事態条項の導入には、そのようなリスクを冒すだけの具体的な効果が見込めないという強い懸念があると言える。

 国家緊急権導入への批判的論述

 緊急事態条項、すなわち国家緊急権の憲法導入は不要であり、むしろ有害であるという批判的論述を詳細に展開する。

 1. 既存法制による対応能力の指摘と憲法改正の不要性

 まず、日本はすでに国民保護法制、有事法制下の各法律、そして自衛隊といった、緊急事態に対応するための強固な法的枠組みと実力組織を有している。これらの既存の法制度は、災害、武力攻撃、テロといった様々な緊急事態において、国家が国民の生命、身体、財産を保護し、社会秩序を維持するための権限と手順を詳細に定めているはずである。

 これらの既存の枠組みを常識的に判断すれば、国家はすでに緊急事態に対処するための十分な権限と手段を保有していると言える。したがって、憲法という国の最高法規に、敢えて「国家緊急権」という新たな、そして極めて広範な権限を明記する必要性は、ほとんど見出せない。

 2. 東日本大震災の教訓と政府の対応能力への疑問

 2011年の東日本大震災とそれに伴う福島第一原発事故は、国家緊急事態への対応能力を問う具体的な事例として挙げられる。原発事故は、国民保護法制下で「原発が狙われた場合の想定」と同等、あるいはそれ以上の深刻な事態であったにもかかわらず、当時の政府は「緊急事態条項を発動しなかった」というよりも、「なすすべが分からず、対処不可能だった」と評価できる。

 この事実が示すのは、単に憲法に緊急事態条項が存在しないこと自体が問題なのではなく、むしろ政府の危機管理能力、情報収集・分析能力、そして既存の法制度を適切に運用する能力そのものに欠陥があったということである。いかに強力な法条項を設けたとしても、それを運用する側に能力と判断力がなければ、その条項は「右往左往し、無能をさらけ出す」結果にしかならない。この経験は、憲法改正による国家緊急権の導入が、実効性のある解決策とはならないことを明確に示唆している。

 3. 国家緊急権導入の潜在的危険性

 国家緊急権は、その性質上、憲法で保障された国民の諸々の権利(人権9を一時停止、あるいは大幅に制限する可能性を内包している。過去の歴史において、こうした緊急権が時の政府によって濫用され、民主主義の停止や人権侵害に繋がった事例は枚挙にいとまがない。

 日本弁護士連合会が指摘するように、戦前の国会議員の任期延長が戦争体制整備のために濫用された経緯は、「緊急性」を名目とした権力濫用の危険性を物語っている。たとえ「大規模災害などで選挙実施が困難な場合」といった限定的な任期延長であったとしても、一旦その道を開けば、将来的にその解釈が拡大され、政府に都合の良い形で運用されるリスクは排除できない。

 4. 国民の自律性と対応能力

 「国民も一糸乱れずというより、台風一過の如くである」という表現は、国家緊急権の必要性に対する懐疑的な視点を示している。これは、国民が政府の指示をただ待つだけでなく、自ら状況を判断し、適応し、協力し合うことで困難を乗り越えてきたという現実を反映していると解釈できる。

 大規模災害時における地域社会の自助・共助の精神は、政府の能力を超えた場面でこそ発揮されてきた。このような国民の自律性と対応能力を過小評価し、上からの権限付与のみに頼ろうとする発想は、現状の日本の実情にそぐわない可能性がある。むしろ、既存の法制度の下で国民がより主体的に行動できるような枠組みを強化する方が、実効性が高いと言えるだろう。

 以上の点から、緊急事態条項(国家緊急権)の憲法導入は、「既に国家が権限を有している」という現実を見過ごし、「政府の無能を隠蔽するだけ」に終わり、「国民の権利を脅かす潜在的危険性」をはらむものであり、断固として不要であると結論付けられる
。本当に必要なのは、憲法改正ではなく、既存の法制度の適切な運用と、政府の危機管理能力の抜本的な向上であると言えるだろう。

 まとめ

 緊急事態条項、つまり、国家緊急権を意味し、憲法で保障された諸々の国民の権利が一時停止されるようなことを意味するのであれば、今さら何だ、と言いたい。理由は既に国民保護法制、有事法制下の各法律、自衛隊の存在等々全て憲法を常識程度で判断すれば、憲法を蹂躙する法律がズラリなのだ。国家が既に其れを所有している。

 本来なら、東日本大震災による原発事故など、当然国家緊急事態の勃発なのだ。なぜなら、保護法制下で原発が狙われた場合の想定がある。其れと同じ状況が発生しているのである。が、政府は発動しなかったというより、なすすべがわからなかったので、対処不可能だったのだ。よって、緊急事態条項などがあっても右往左往で、無能をさらけ出すだけである。全く不要であり、恐らく国民も一糸乱れずというより、台風一過の如くである。

 国会議員の任期を6か月延長など、噴飯ものである。何が彼らに可能だというのか。国会議員も緊急事態下にあるのだ。其れが真の緊急事態なのだ。

 平常時にとことん本質を問い詰めておくことだ。

 平時も有事も不明な輩よ。

【寸評 完】🌺

【引用・参照・底本】

【視点】緊急事態条項を憲法に加える議論が活発化 利点と欠点は? HANKYOREH 2025.06.12
https://x.com/i/web/status/1932196127857906117

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