ブリンケン氏のポジショントーク2025年01月09日 17:44

Microsoft Designerで作成
【概要】 
 
 アンドリュー・コリブコ氏が2025年1月8日に発表した記事「Reviewing The Russian-Ukrainian Part Of Blinken’s Latest Podcast」では、アントニー・ブリンケン米国務長官(退任予定)が「ニューヨーク・タイムズ」のポッドキャストで発言した内容を分析している。記事は、ブリンケン氏がウクライナ紛争に関して述べたポイントや、その発言が持つ意味について詳しく検討している。

 ブリンケン氏の発言内容

 ブリンケン氏はポッドキャストで以下のような主張を行った。

 1.核兵器使用のリスクに関する懸念

 ブリンケン氏はロシアによる核兵器使用の可能性を警戒する一方で、米国とロシア間で直接的な戦争が起こるリスクを軽視する発言を行った。また、ロシアが欧州に対してハイブリッド攻撃を行い、サボタージュや暗殺を実施していると非難した。

 2.ウクライナへの武器供与

 米国が2022年の「特別軍事作戦」の開始前に、2021年9月および12月にスティンガーミサイルやジャベリンなどの武器を「静かに」ウクライナに供与していたことを明らかにした。この発言は、ロシアが主張していた「ドンバスへの新たな攻撃に備えて米国がウクライナを武装化させている」という見解を裏付けるものとなっている。

 3.武器使用の制約について

 ブリンケン氏は、米国がウクライナに供与した武器の一部について、ウクライナ軍がその使用方法を訓練されていなかった点や、これらの武器の維持が難しいことを指摘した。また、供与された武器が統一的な計画に基づいて使用されるべきだと主張した。

 4.外交努力の欠如への批判への対応

 米国がウクライナ紛争において並行する外交的解決策を模索しなかったという批判に対し、ブリンケン氏は50カ国以上の「反ロシア連合」の構築を外交的成果として強調した。また、ロシアの「帝国主義的野望」が紛争の原因であると主張した。

 5.紛争の結果に対する主張

 ブリンケン氏は、ウクライナが存続していること自体がロシアに対する「大きな敗北」を意味すると述べた。しかし、この発言は自身の政策を正当化しようとする試みと解釈される。

 6.領土問題に関する示唆

 ブリンケン氏は、ウクライナが失った領土を取り戻すことは難しいと示唆しつつ、外交的手段で領土を回復する可能性について述べた。また、ウクライナが西側諸国の制度に統合されるだろうと予測したが、これが現実となるかどうかは不明である。

 7.米国の支援の将来

 ブリンケン氏は、米国が引き続きウクライナへの「重要な支援者」として関与することを望むと述べたが、トランプ次期政権が米国の役割を縮小し、欧州がその責任を引き継ぐことを期待している可能性を示唆した。

 コリブコ氏の分析

 1.武器供与の影響

 ブリンケン氏の「静かな」武器供与の認識は、ロシアがウクライナ紛争を正当化する根拠として挙げた「安全保障上のジレンマ」を強化するものである。この供与は、紛争前から米国がウクライナを武装化させていたことを示唆している。

 2.紛争終結への影響

 コリブコ氏は、ブリンケン氏の「ロシアが敗北した」との主張が、将来的にトランプ政権がロシアと交渉する際の正当化材料となり得ると述べている。これには、ロシアの支配下にある領土の暗黙の承認や非軍事化などが含まれる可能性がある。

 3.外交的解決の可能性

 コリブコ氏は、ブリンケン氏の発言が、紛争を外交的に解決しようとするトランプ政権の努力を正当化するための基盤を提供していると指摘している。

 結論

 コリブコ氏は、ブリンケン氏のポッドキャストでの発言が、ウクライナ紛争の過去と将来の展望に関して重要な意味を持つと結論付けている。特に、米国がウクライナを武装化させた事実が、ロシアの行動を一定程度正当化する可能性があり、またトランプ政権が外交的解決を模索するための材料となることを強調している。

【詳細】

 アンドリュー・コリブコ氏による分析では、アントニー・ブリンケン米国務長官が最近のポッドキャストで語った内容が、米国がウクライナ紛争を巡るNATOとロシアの安全保障ジレンマを悪化させたことを事実上認めたと指摘している。このポッドキャストの詳細な内容は以下の通りである。

 核兵器の使用リスクと米露の直接戦争について

 ブリンケン氏は、まず米国がロシアによる核兵器使用のリスクを懸念していたことを述べたが、米国とロシアの間で直接的な戦争が起こるリスクは低いと考えているとした。また、ロシアがヨーロッパに対してハイブリッド攻撃(サボタージュや暗殺など)を行っていると非難した。

 米国によるウクライナへの武器供与

 特に注目すべきは、ブリンケン氏が2021年9月および12月に米国が「静かに」スティンガーやジャベリンといった武器をウクライナに供与していたことを明かした点である。この供与は、ロシアが主張していた「米国がウクライナを武装させ、ドンバスに対する攻撃を準備している」という説を裏付けるものである。ブリンケン氏はこれをウクライナ防衛のためと説明したが、この発言により米国の責任が改めて問われる形となった。

 米国の武器供与の計画性と訓練

 ブリンケン氏は、2022年以降に供与された一部の武器について、ウクライナ軍がこれらを使用する訓練を受けていなかった点や、維持が難しい装備があったことを認めた。また、これらの供与は一貫した計画の一部として行われたと述べた。この発言は、2023年夏のウクライナによる反攻作戦の失敗後に浮上した「米国が十分な支援を行わなかった」というウクライナからの批判をかわす意図があるとみられる。

 外交的努力の欠如

 米国がウクライナへの武器供与を進める一方で、紛争終結に向けた外交的取り組みが不足している点について問われた際、ブリンケン氏は最初に話をそらし、50か国以上がロシアに反対する連合を形成したことを外交的成功と位置づけた。また、紛争を回避しようとセルゲイ・ラブロフ外相と会談を行ったと主張したが、プーチン大統領の「帝国的野望」が紛争を引き起こしたと責任を転嫁した。

 紛争における勝利宣言と今後の見通し

 ブリンケン氏は、ウクライナが国家として存続していることがロシアに対する大きな敗北であると主張した。しかし、この発言は彼自身の業績を正当化する意図が強いと考えられる。また、これを次期トランプ政権がロシアとの和平交渉や譲歩を正当化するための論拠として利用する可能性があると指摘されている。

 ウクライナの領土問題と西側との関係

 ウクライナが失った領土を取り戻すのは現実的ではないとの認識を示しつつも、外交手段を通じてその主張を維持できると述べた。また、ウクライナが西側諸国、とりわけNATOとの統合を深めると予測したが、これが実現する保証はないとも述べた。さらに、次期米国政権がウクライナへの支援を縮小し、欧州にその負担を引き継がせる可能性を示唆した。

 米国の役割と責任

 ブリンケン氏は「静かに」ウクライナを武装化させたことを認めた点で、ロシアの特別軍事作戦の正当性を裏付ける形になりかねない。一方で、プーチン大統領がロシアの大きな敗北を経験したとの主張は、紛争終結に向けたロシアとの譲歩を正当化する可能性がある。この譲歩には、ロシアのウクライナ領土支配の事実上の承認や、非武装化のための合意が含まれる可能性がある。

 結論として、ブリンケン氏の発言は次期トランプ政権が紛争解決のために外交的な妥協を行う際の基盤となる可能性が高い。米国がこの紛争に与えた影響を認める一方で、今後の和平プロセスを進めるための新たな物語を構築しているように見える。
  
【要点】
 
 1.核兵器使用リスクと米露の直接戦争

 ・ブリンケン氏はロシアによる核兵器使用のリスクを懸念しつつ、米露の直接戦争の可能性は低いと述べた。
 ・ロシアがヨーロッパに対してハイブリッド攻撃を行っていると非難。

 2.ウクライナへの武器供与

 ・米国は2021年に「静かに」スティンガーやジャベリンをウクライナに供与。
 ・ロシアの主張する「米国がウクライナを武装させている」という説を裏付ける内容となる。

 3.供与された武器の計画性と訓練不足

 ・供与された一部の武器について、ウクライナ軍の訓練不足を認める。
 ・供与は一貫した計画の一環であったが、維持や運用が難しい装備も含まれていた。

 4.外交的努力の欠如

 ・ブリンケン氏は紛争を避けるための外交努力を行ったと主張。
 ・一方で、プーチン大統領の「帝国的野望」に紛争の責任を転嫁した。

 5.勝利宣言と紛争の評価

 ・ウクライナの国家存続をロシアに対する大きな敗北と見なす。
 ・次期トランプ政権がこれを和平交渉の正当化に利用する可能性を示唆。

 6.領土問題と西側との統合

 ・ウクライナが失った領土を外交的に取り戻すことを模索すべきと述べる。
 ・NATOとの統合が進む可能性に言及しつつ、実現の保証はないとした。

 7.次期政権の可能性と負担移行

 ・次期米国政権がウクライナ支援を縮小し、欧州に負担を移す可能性を示唆。

 8.米国の役割と責任

 ・武器供与により、ロシア側の主張を間接的に裏付ける形となる。
 ・一方で、和平プロセスに向けた譲歩や新たな物語の基盤を形成している可能性がある。

 ブリンケン氏の発言は、米国がウクライナ紛争に与えた影響を認めつつ、次期政権が和平を進めるための準備として機能していると分析される。

【参考】

 ☞ ブリンケン氏の「ロシアが敗北した」との主張が、将来的にトランプ政権がロシアと交渉する際の正当化材料となり得ると述べている。これには、ロシアの支配下にある領土の暗黙の承認や非軍事化などが含まれる可能性がある。」について

 ・「ロシアが敗北した」という主張と、「ロシアの支配下にある領土の暗黙の承認や非軍事化」という内容が文脈上矛盾している。この矛盾を解消するため、以下のように整理できる。

 ・ブリンケン氏が述べた「ロシアの敗北」とは、ロシアがウクライナ全土を占領し国家として消滅させるという仮定の計画が失敗した、という意味である。
 ・この解釈を基にすれば、「ロシアが敗北した」との主張は、トランプ政権が和平交渉を進める際、これ以上ロシアを追い詰める必要はないとの論拠になる可能性がある。
 ・その結果、和平条件として「ロシアの支配下にある領土の現状を黙認する」「ウクライナ側の非軍事化を含む妥協」が提案される可能性が示唆される。
 
 このように考えると、「ロシアが敗北した」との主張は完全な敗北ではなく、限定的な意味を持つと解釈でき、それがトランプ政権の交渉方針と矛盾しない形となる。

 ☞ では「ブリンケン氏は、ウクライナが国家として存続していることがロシアに対する大きな敗北であると主張した」も同様であるのか。

 ・「ウクライナが国家として存続していることがロシアに対する大きな敗北である」という主張に関しては、完全に矛盾しているとは言えないが、文脈に注意する必要がある。以下に詳述する。

 矛盾が生じない理由

 ・ブリンケン氏の意図

 ブリンケン氏が「ウクライナの存続」を「ロシアの敗北」と位置づける場合、これはロシアの「完全勝利」を阻止できたという限定的な意味での「敗北」を指すと解釈できる。ロシアがウクライナを完全に占領し、国家として消滅させることができなかった、という視点に立てば、ブリンケン氏の主張は理論的に成立する。

 文脈上の問題点

 ・「敗北」と「妥協」の整合性

 ブリンケン氏の主張をトランプ政権の「妥協」と組み合わせる際、違和感が生じる可能性がある。仮にウクライナの存続がロシアの敗北を意味するなら、ロシアに有利な妥協(例えば、ロシア占領地の承認)は論理的に矛盾するように見える。

 解釈を補完するためのポイント

 1.限定的な敗北の認識

 「ロシアが敗北した」というのは「戦争目的の一部を達成できなかった」という限定的な意味であり、ロシアが戦争全体において完全に敗北したわけではない。

 2.和平交渉の文脈

 戦争が長期化し、ロシアもウクライナも完全な勝利を達成できない状況において、「限定的な敗北」と「現実的な妥協」が共存し得るという視点が和平交渉の正当化に使われる可能性がある。

 結論

 「ウクライナが国家として存続していることがロシアに対する大きな敗北である」という主張は、ブリンケン氏の限定的な意味での敗北認識に基づいており、文脈次第では矛盾しない。ただし、トランプ政権が和平交渉でロシアに有利な条件を提示する場合、この主張の使用方法には注意が必要であり、論理的な整合性が欠けるリスクがある。

 ☞ ブリンケンの言辞は、「引かれ者の小唄」である。ロシアの敗北ではなく、西側全体が寄って集ってウクライナに援助するという総力戦で、ロシアに領土迄取られて、米国主導の戦いが敗れたのである。

ブリンケン氏の発言が「引かれ者の小唄」と見なされる背景について、以下に整理する:

 1.ロシアの「敗北」という主張の実態

 ・ウクライナの存続を「ロシアの敗北」とする主張は、西側の援助と結束がなければ成立しなかった現実を無視している。
 ・実際には、ロシアは領土を占領し、ウクライナの経済・インフラに甚大な損害を与え続けている。西側の支援を受けたウクライナが苦戦を強いられている以上、「敗北」とするには根拠が希薄である。

 2.西側の総力戦の結果

 ・西側諸国は大量の資金、武器、人材、情報支援をウクライナに投入してきたが、戦局は依然として膠着状態にある。
 ・その一方で、ロシアは占領地を維持し、西側の経済制裁にも耐えている。これを踏まえると、戦争全体の「勝利」を論じるには時期尚早である。

 3.米国主導の戦略の失敗

 ・米国が主導した「ウクライナを通じたロシアへの圧力」が、期待された成果を上げられていない。
 ・ブリンケン氏の発言は、戦略の失敗を認めず、成果を強調することで、国内外の批判をかわそうとしているように見える。

 4.「引かれ者の小唄」としての性質

 ・実際の戦局が理想からかけ離れているにもかかわらず、ブリンケン氏が「ロシアの敗北」を強調する発言は、自身やバイデン政権の正当性を保つための苦しい言い訳に映る。
 ・このような発言は、敗北の現実を受け入れるよりも、政治的な体裁を保つことを優先していると解釈される。

 5.西側の全体像

 ・「西側全体が寄って集ってウクライナに援助したにもかかわらず、ロシアに領土を奪われ続けている」という事実は、米国主導の対ロ戦略の限界を露呈している。
 ・戦争が長引くほど、西側諸国の結束や世論が疲弊し、米国の影響力が問われる結果にもなり得る。

 結論

 ブリンケン氏の言辞は、現実的な戦果から目を背けるための政治的な「ポジショントーク」(*1)として捉えられるべきである。ロシアを「敗北」と断じることは事実に基づかないどころか、西側全体が投入した資源と犠牲を軽視するものであり、むしろ米国主導の戦略が限界に達している現状を浮き彫りにしている。

(*1) 「ポジショントーク」とは、自分や所属する組織・陣営の立場(ポジション)を守るため、あるいは有利にするために発する発言や主張を指す。この種の発言は必ずしも事実に基づくものではなく、特定の意図や目的に基づいて情報を取捨選択して行われる傾向がある。
 
 ポジショントークの特徴

 1.立場の正当化

 自身や所属する勢力の正当性を主張し、批判や責任追及をかわすための発言。

 例:戦略的に不利な状況でも「勝利」や「成果」を強調する。

 2.不都合な事実の隠蔽・歪曲

 不利な情報を意図的に避けたり、それを矮小化することで自陣営を有利に見せる。

 例:敵対勢力の成果を過小評価し、自陣営の努力や影響を過大に評価する。

 3.内部結束の維持

 支持基盤の士気を維持し、離反や不満を抑える目的で行われる。

 例:「戦いは順調に進んでいる」「我々の努力は成功している」というメッセージ。

 4.外交・戦略的駆け引き

 外部勢力に対して特定のメッセージを送るために利用される。

 例:敵対国に対する圧力や交渉カードとしての発言。

 ブリンケン氏の発言をポジショントークとする理由

 ・現実と矛盾

 ロシアが占領地を維持しているにもかかわらず、「敗北」と断定することは現実を直視していない。

 ・責任回避の意図

 米国主導の戦略が期待通りの成果を上げられていない中で、自身の政策を正当化しようとしている。

 ・内外向けのメッセージ

  ⇨ 国内向け:米国民や支持基盤に対して、「米国の支援は有意義だった」という印象を与え、批判を回避する。
  ⇨ 国外向け:同盟国に対して、西側の結束を維持するための安心材料を提供する。

 結論

 「ポジショントーク」は、特定の意図を持って発言内容を調整する戦略的手法であり、事実の忠実な反映ではない。ブリンケン氏の「ロシアの敗北」という主張も、その背景を考慮すれば、自身の立場を守るための政治的発言と解釈するのが妥当である。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

Reviewing The Russian-Ukrainian Part Of Blinken’s Latest Podcast Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.08
https://korybko.substack.com/p/reviewing-the-russian-ukrainian-part?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=154382999&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

コメント

トラックバック