中国が急速にステルス性を備えた艦載無人機の開発と運用に進展 ― 2025年04月12日 20:12
【概要】
アメリカ海軍が無人航空機(UAV)を空母に統合する取り組みに慎重な姿勢を見せている一方で、中国が急速にステルス性を備えた艦載無人機の開発と運用に進展しており、太平洋地域における軍事的優位が中国側に傾く可能性があることを指摘している。
2025年4月、米国ワシントンD.C.で開催された「Sea Air Space」シンポジウムにおいて、アメリカ海軍航空戦部門のマイケル・“バズ”・ドネリー少将は、協調戦闘航空機(Collaborative Combat Aircraft:CCA)に対して慎重な姿勢を示した。海軍は空軍および海兵隊と連携しているが、現段階ではMQ-25 スティングレイ空中給油ドローンの運用統合を優先事項としている。空軍は航空機本体および自律性の開発を、海兵隊はF-35Bによる有人・無人チーミングを重視しているのに対し、海軍はインフラ整備とMQ-25による自律運用の知見蓄積を重視している。
MQ-25の運用実績が鍵を握っており、CCAの設計が本格化するのは2030年代以降になる可能性があるとされた。また、空軍が開発する高性能・高コストのCCAとは異なり、海軍はより安価で使い捨て可能なドローンに関心を寄せている。ただし、海軍の機密扱いの無人機プロジェクトの進展状況については明らかにされていない。
一方で中国は、空母運用に対応したステルス無人機の開発を加速させている。例えば、中国のGJ-11「シャープソード」UCAVは、ステルス設計、大型内部兵装ベイ、ISR(情報・監視・偵察)やEW(電子戦)任務にも対応可能とされ、福建級空母などカタパルト装備の艦艇からの運用が想定されている。
また、2024年8月には、米海軍がジョージ・H・W・ブッシュ空母において初の無人航空戦センター(UAWC)を設置し、MQ-25運用のための基盤を整備した。他の空母(カール・ヴィンソン、セオドア・ルーズベルト、ロナルド・レーガン)にも同様の改装が予定されており、艦載無人機運用に向けた組織的移行が進行中である。
海軍は将来的に、空母航空団における無人機の割合を最大60%にまで引き上げる計画であり、MQ-25はその基盤となる。しかし、MQ-25はステルス性、速度、敏捷性に劣り、精密兵器の搭載は可能でも、本格的な戦闘用UCAVとしての運用には限界があると指摘されている。そのため、対潜水艦戦(ASW)、電子戦(EW)、ISR、囮発射機といった多用途支援機への進化が期待されている。
F/A-18を将来的に代替する第6世代戦闘機F/A-XXとの連携を前提としたCCA構想において、F/A-XX自体の開発が遅延していることは、無人機戦略全体の足かせとなっている。2024年3月、米海軍はF/A-XXの研究開発費として予定されていた約10億ドルの予算を、現有戦力の即応性維持を理由に先送りした。この背景には、過去の大型調達プロジェクト(コロンビア級SSBN、ズムウォルト級駆逐艦、沿海域戦闘艦(LCS)、コンステレーション級フリゲート)が度重なる予算超過や性能未達で問題を抱えていたことに対する警戒心がある。
さらに、航空母艦自体の有効性にも疑問が生じている。ロシア・ウクライナ戦争において、大型艦艇や有人航空機がミサイル脅威に対して脆弱であった事例は、将来の艦載機開発の前提を揺るがせている。
中国人民解放軍(PLA)は、無人機を戦闘アーキテクチャの中核と位置付けており、有人機の弱点を補完しつつ、コスト効率の高い手段として戦力を飽和させる構想を進めている。これに対し、米国防副長官キャスリーン・ヒックスは、米国が無人機の統合作戦や大量生産で中国に後れを取っていることを認めている。
中国海軍は、駆逐艦、空母、強襲揚陸艦(075型、076型)など、広範な艦艇に無人機を展開しつつあり、これは軍全体として無人運用への転換を進めている証左である。
結論として、アメリカ海軍は慎重な戦略と予算上の制約により、かつて主導していた無人艦載機領域で後れを取るリスクがある。中国がこの分野で主導権を握ることで、将来的な空母戦の在り方そのものが変わる可能性がある。
【詳細】
アメリカ海軍が空母艦載型無人機の導入に慎重な姿勢を取る一方、中国は同分野において急速な技術革新を進めており、太平洋における制空優位の主導権が中国側に移りかねない状況となっている。
2025年4月、米国ワシントンD.C.で開催された「Sea Air Space」シンポジウムにおいて、米海軍航空戦部門のマイケル・“バズ”・ドネリー少将は、海軍が「協働戦闘機(Collaborative Combat Aircraft, CCA)」の開発に関して控えめな姿勢を取っていることを明らかにした。
MQ-25重視の姿勢と各軍の役割分担
米海軍は現在、空母艦載型の無人戦闘機よりも、空中給油任務に特化したMQ-25「スティングレイ」の運用統合に注力している。ドネリー少将によれば、空軍は機体および自律システムの開発を主導し、海兵隊はF-35Bを軸にした有人・無人連携に焦点を当てている。これに対し、海軍はMQ-25から得られる艦載運用および自律化の知見に重きを置いている。
MQ-25は2026年に空母運用へ完全統合される予定であり、それに続く「Stingray to the Fight」計画では、機内兵装搭載能力の追加など多目的化が想定されている。
CCA導入の遅れとその影響
ドネリー少将は、海軍型CCAの設計が実現するのは2030年代になるとの見通しを示した。これはMQ-25の成功に依存する部分が大きい。海軍は空軍と異なり、コスト高の高性能型CCAよりも、安価かつ使い捨て可能な機体を志向しているが、これらの機体に関する進展は機密性が高く不透明である。
また、CCAの運用はF/A-XX第6世代戦闘機の進展と密接に関係しているが、同機の開発も遅延しており、無人機との連携による将来の艦載航空団構想の根幹が揺らいでいる。F/A-XXはF/A-18の後継とされており、将来の空母戦力の中核を担うとされるが、2024年度には開発予算の10億ドルが延期され、艦隊の即応体制強化を優先するという決定がなされた。
中国の無人艦載機導入と先行
これに対し、中国人民解放軍(PLA)は無人機を軍事ドクトリンの中心に据えている。2023年にはGJ-11「シャープ・ソード」ステルスUCAVが福建級空母の模擬施設で運用されている様子が確認された。GJ-11はステルス性、大型内部兵装倉、ISR・EW・打撃任務の複合運用能力を持ち、空母搭載前提で設計されている。
中国海軍(PLAN)は、空母のみならず、駆逐艦、075型および076型強襲揚陸艦にも無人機運用を拡大しており、海軍全体として無人戦力の体系的な統合を進めている。
空母運用における無人機導入の技術的課題
空母での無人機運用には、地上基地と異なる複雑な課題が存在する。2022年の査読誌「Drones」において、劉子萱ら研究者は、艦載機、支援装備、発着艦シーケンスの精密な調整が求められることを指摘しており、無人機導入により衝突リスクが高まるとした。そのため、高度に自動化された運用スケジューリングが必要であると結論付けている。
米海軍の組織的対応と展望
米海軍も無人機運用の基盤整備を進めており、2024年8月にはUSSジョージ・H・W・ブッシュに最初の無人航空戦センター(UAWC)が設置された。今後、USSカール・ヴィンソン、USSセオドア・ルーズベルト、USSロナルド・レーガンにも同様の改修が予定されている。これは制度的な変化の一環である。
2021年、グレゴリー・ハリス少将は将来的に艦載航空団の60%を無人機が占めることを想定していると述べており、その達成にはMQ-25の経験が基礎となる。
MQ-25の戦略的価値と限界
MQ-25はF/A-18など有人機の航続距離を延ばす上で不可欠な存在とされており、中国の高度な防空網や長距離ミサイルに対し、従来の空中給油機や前方展開基地が脆弱であることから、MQ-25はより生存性の高い手段となる。
ただし、同機は戦闘用途には不向きであり、速度・ステルス・機動性に欠けることから、前線での打撃任務には適していない。2023年の「Proceedings」にて、ジョシュ・ハノはMQ-25が対潜水艦戦(ASW)、電子戦(EW)、情報・監視・偵察(ISR)、囮ミサイルの発射機として多用途化すべきだと主張している。
戦略的懸念と今後の展望
米海軍は近年、ズムウォルト級駆逐艦、沿海戦闘艦(LCS)、コンステレーション級フリゲート、コロンビア級戦略原潜など複数の兵器開発でコスト超過と性能不満に悩まされており、F/A-XXへの投資にも慎重な姿勢を見せている。
また、空母自体の将来性についても疑問が呈されており、ロシア・ウクライナ戦争で大型艦の脆弱性が露呈したことから、空母艦載戦闘機に多額の資源を投入することの意義が見直されつつある。
米国防副長官キャスリーン・ヒックスも、無人機を部隊間で統合し、大量生産に移行する能力において、米国が中国に後れを取っていることを認めている。
このように、米海軍が無人艦載機導入において慎重かつ段階的な対応を取る中で、中国は戦略的・技術的により積極的な姿勢を示しており、空母戦闘の概念そのものが再定義される可能性がある。
【要点】
米海軍の無人機導入状況と方針
・米海軍は無人戦闘機(CCA)導入に慎重であり、まずMQ-25空中給油機の実用化に注力している。
・MQ-25は2026年までに空母へ統合予定で、その後に多目的化(兵装搭載、ISR、EW等)も構想されている。
・海軍は他軍(空軍・海兵隊)と役割を分担しており、自軍は艦載運用と自律運用の実験的知見を優先している。
・CCAの導入は2030年代にずれ込み、F/A-XX(第6世代戦闘機)と連携する構想だが、両者とも進展が遅れている。
・米議会はF/A-XXの2024年度予算10億ドルを延期し、艦隊の即応体制維持を優先している。
中国の無人艦載機導入と進展
・中国は無人機戦力を積極的に導入しており、GJ-11「シャープ・ソード」UCAVを空母向けに運用している。
・GJ-11はステルス性と大型内部兵装倉を持ち、ISR・EW・打撃の複合任務に対応可能とされる。
・PLAN(中国海軍)は、空母のみならず駆逐艦や揚陸艦にも無人機を導入しており、体系的な統合を進めている。
・中国の無人機導入は、艦載機運用の自動化や機数増加により空母の戦力投射能力を強化する動きと一致している。
技術的課題と米海軍の対応
・空母での無人機運用は、有人機との衝突回避や発着艦スケジューリングなど、高度な統合が必要である。
・そのため、米海軍は各空母に「無人航空戦センター(UAWC)」を設置し、自律化・遠隔運用の基盤を構築中である。
・すでにUSSジョージ・H・W・ブッシュにUAWCが導入されており、今後他の空母にも拡大予定である。
MQ-25の意義と限界
・MQ-25は前線での空中給油を可能とし、有人機の作戦範囲を延長する役割を果たす。
・従来の給油機や基地は中国の長距離ミサイルで脆弱化しており、MQ-25は生存性向上に貢献する。
・一方で、戦闘任務には不向きであり、ステルス性・速度・兵装搭載能力に限界がある。
・多用途化により、対潜水艦戦・電子戦・偵察・囮などへの任務拡張が提案されている。
戦略的懸念と将来展望
・米海軍は過去に複数の新型艦艇や兵器で失敗・コスト超過を経験しており、新型機開発に慎重になっている。
・一部では、ウクライナ戦争により空母の生存性そのものへの疑問が再燃している。
・中国は無人機を大量に導入し、コスト効率と自律化で米国を上回る可能性があると米国防高官も認めている。
・将来の艦載航空団では無人機が60%を占めるとする構想もあるが、その実現には長期的な取り組みが必要である。
【引用・参照・底本】
US Navy’s carrier drone delay handing the domain to China ASIA TIMES 2025.04.10
https://asiatimes.com/2025/04/us-navys-carrier-drone-delay-handing-the-domain-to-china/
アメリカ海軍が無人航空機(UAV)を空母に統合する取り組みに慎重な姿勢を見せている一方で、中国が急速にステルス性を備えた艦載無人機の開発と運用に進展しており、太平洋地域における軍事的優位が中国側に傾く可能性があることを指摘している。
2025年4月、米国ワシントンD.C.で開催された「Sea Air Space」シンポジウムにおいて、アメリカ海軍航空戦部門のマイケル・“バズ”・ドネリー少将は、協調戦闘航空機(Collaborative Combat Aircraft:CCA)に対して慎重な姿勢を示した。海軍は空軍および海兵隊と連携しているが、現段階ではMQ-25 スティングレイ空中給油ドローンの運用統合を優先事項としている。空軍は航空機本体および自律性の開発を、海兵隊はF-35Bによる有人・無人チーミングを重視しているのに対し、海軍はインフラ整備とMQ-25による自律運用の知見蓄積を重視している。
MQ-25の運用実績が鍵を握っており、CCAの設計が本格化するのは2030年代以降になる可能性があるとされた。また、空軍が開発する高性能・高コストのCCAとは異なり、海軍はより安価で使い捨て可能なドローンに関心を寄せている。ただし、海軍の機密扱いの無人機プロジェクトの進展状況については明らかにされていない。
一方で中国は、空母運用に対応したステルス無人機の開発を加速させている。例えば、中国のGJ-11「シャープソード」UCAVは、ステルス設計、大型内部兵装ベイ、ISR(情報・監視・偵察)やEW(電子戦)任務にも対応可能とされ、福建級空母などカタパルト装備の艦艇からの運用が想定されている。
また、2024年8月には、米海軍がジョージ・H・W・ブッシュ空母において初の無人航空戦センター(UAWC)を設置し、MQ-25運用のための基盤を整備した。他の空母(カール・ヴィンソン、セオドア・ルーズベルト、ロナルド・レーガン)にも同様の改装が予定されており、艦載無人機運用に向けた組織的移行が進行中である。
海軍は将来的に、空母航空団における無人機の割合を最大60%にまで引き上げる計画であり、MQ-25はその基盤となる。しかし、MQ-25はステルス性、速度、敏捷性に劣り、精密兵器の搭載は可能でも、本格的な戦闘用UCAVとしての運用には限界があると指摘されている。そのため、対潜水艦戦(ASW)、電子戦(EW)、ISR、囮発射機といった多用途支援機への進化が期待されている。
F/A-18を将来的に代替する第6世代戦闘機F/A-XXとの連携を前提としたCCA構想において、F/A-XX自体の開発が遅延していることは、無人機戦略全体の足かせとなっている。2024年3月、米海軍はF/A-XXの研究開発費として予定されていた約10億ドルの予算を、現有戦力の即応性維持を理由に先送りした。この背景には、過去の大型調達プロジェクト(コロンビア級SSBN、ズムウォルト級駆逐艦、沿海域戦闘艦(LCS)、コンステレーション級フリゲート)が度重なる予算超過や性能未達で問題を抱えていたことに対する警戒心がある。
さらに、航空母艦自体の有効性にも疑問が生じている。ロシア・ウクライナ戦争において、大型艦艇や有人航空機がミサイル脅威に対して脆弱であった事例は、将来の艦載機開発の前提を揺るがせている。
中国人民解放軍(PLA)は、無人機を戦闘アーキテクチャの中核と位置付けており、有人機の弱点を補完しつつ、コスト効率の高い手段として戦力を飽和させる構想を進めている。これに対し、米国防副長官キャスリーン・ヒックスは、米国が無人機の統合作戦や大量生産で中国に後れを取っていることを認めている。
中国海軍は、駆逐艦、空母、強襲揚陸艦(075型、076型)など、広範な艦艇に無人機を展開しつつあり、これは軍全体として無人運用への転換を進めている証左である。
結論として、アメリカ海軍は慎重な戦略と予算上の制約により、かつて主導していた無人艦載機領域で後れを取るリスクがある。中国がこの分野で主導権を握ることで、将来的な空母戦の在り方そのものが変わる可能性がある。
【詳細】
アメリカ海軍が空母艦載型無人機の導入に慎重な姿勢を取る一方、中国は同分野において急速な技術革新を進めており、太平洋における制空優位の主導権が中国側に移りかねない状況となっている。
2025年4月、米国ワシントンD.C.で開催された「Sea Air Space」シンポジウムにおいて、米海軍航空戦部門のマイケル・“バズ”・ドネリー少将は、海軍が「協働戦闘機(Collaborative Combat Aircraft, CCA)」の開発に関して控えめな姿勢を取っていることを明らかにした。
MQ-25重視の姿勢と各軍の役割分担
米海軍は現在、空母艦載型の無人戦闘機よりも、空中給油任務に特化したMQ-25「スティングレイ」の運用統合に注力している。ドネリー少将によれば、空軍は機体および自律システムの開発を主導し、海兵隊はF-35Bを軸にした有人・無人連携に焦点を当てている。これに対し、海軍はMQ-25から得られる艦載運用および自律化の知見に重きを置いている。
MQ-25は2026年に空母運用へ完全統合される予定であり、それに続く「Stingray to the Fight」計画では、機内兵装搭載能力の追加など多目的化が想定されている。
CCA導入の遅れとその影響
ドネリー少将は、海軍型CCAの設計が実現するのは2030年代になるとの見通しを示した。これはMQ-25の成功に依存する部分が大きい。海軍は空軍と異なり、コスト高の高性能型CCAよりも、安価かつ使い捨て可能な機体を志向しているが、これらの機体に関する進展は機密性が高く不透明である。
また、CCAの運用はF/A-XX第6世代戦闘機の進展と密接に関係しているが、同機の開発も遅延しており、無人機との連携による将来の艦載航空団構想の根幹が揺らいでいる。F/A-XXはF/A-18の後継とされており、将来の空母戦力の中核を担うとされるが、2024年度には開発予算の10億ドルが延期され、艦隊の即応体制強化を優先するという決定がなされた。
中国の無人艦載機導入と先行
これに対し、中国人民解放軍(PLA)は無人機を軍事ドクトリンの中心に据えている。2023年にはGJ-11「シャープ・ソード」ステルスUCAVが福建級空母の模擬施設で運用されている様子が確認された。GJ-11はステルス性、大型内部兵装倉、ISR・EW・打撃任務の複合運用能力を持ち、空母搭載前提で設計されている。
中国海軍(PLAN)は、空母のみならず、駆逐艦、075型および076型強襲揚陸艦にも無人機運用を拡大しており、海軍全体として無人戦力の体系的な統合を進めている。
空母運用における無人機導入の技術的課題
空母での無人機運用には、地上基地と異なる複雑な課題が存在する。2022年の査読誌「Drones」において、劉子萱ら研究者は、艦載機、支援装備、発着艦シーケンスの精密な調整が求められることを指摘しており、無人機導入により衝突リスクが高まるとした。そのため、高度に自動化された運用スケジューリングが必要であると結論付けている。
米海軍の組織的対応と展望
米海軍も無人機運用の基盤整備を進めており、2024年8月にはUSSジョージ・H・W・ブッシュに最初の無人航空戦センター(UAWC)が設置された。今後、USSカール・ヴィンソン、USSセオドア・ルーズベルト、USSロナルド・レーガンにも同様の改修が予定されている。これは制度的な変化の一環である。
2021年、グレゴリー・ハリス少将は将来的に艦載航空団の60%を無人機が占めることを想定していると述べており、その達成にはMQ-25の経験が基礎となる。
MQ-25の戦略的価値と限界
MQ-25はF/A-18など有人機の航続距離を延ばす上で不可欠な存在とされており、中国の高度な防空網や長距離ミサイルに対し、従来の空中給油機や前方展開基地が脆弱であることから、MQ-25はより生存性の高い手段となる。
ただし、同機は戦闘用途には不向きであり、速度・ステルス・機動性に欠けることから、前線での打撃任務には適していない。2023年の「Proceedings」にて、ジョシュ・ハノはMQ-25が対潜水艦戦(ASW)、電子戦(EW)、情報・監視・偵察(ISR)、囮ミサイルの発射機として多用途化すべきだと主張している。
戦略的懸念と今後の展望
米海軍は近年、ズムウォルト級駆逐艦、沿海戦闘艦(LCS)、コンステレーション級フリゲート、コロンビア級戦略原潜など複数の兵器開発でコスト超過と性能不満に悩まされており、F/A-XXへの投資にも慎重な姿勢を見せている。
また、空母自体の将来性についても疑問が呈されており、ロシア・ウクライナ戦争で大型艦の脆弱性が露呈したことから、空母艦載戦闘機に多額の資源を投入することの意義が見直されつつある。
米国防副長官キャスリーン・ヒックスも、無人機を部隊間で統合し、大量生産に移行する能力において、米国が中国に後れを取っていることを認めている。
このように、米海軍が無人艦載機導入において慎重かつ段階的な対応を取る中で、中国は戦略的・技術的により積極的な姿勢を示しており、空母戦闘の概念そのものが再定義される可能性がある。
【要点】
米海軍の無人機導入状況と方針
・米海軍は無人戦闘機(CCA)導入に慎重であり、まずMQ-25空中給油機の実用化に注力している。
・MQ-25は2026年までに空母へ統合予定で、その後に多目的化(兵装搭載、ISR、EW等)も構想されている。
・海軍は他軍(空軍・海兵隊)と役割を分担しており、自軍は艦載運用と自律運用の実験的知見を優先している。
・CCAの導入は2030年代にずれ込み、F/A-XX(第6世代戦闘機)と連携する構想だが、両者とも進展が遅れている。
・米議会はF/A-XXの2024年度予算10億ドルを延期し、艦隊の即応体制維持を優先している。
中国の無人艦載機導入と進展
・中国は無人機戦力を積極的に導入しており、GJ-11「シャープ・ソード」UCAVを空母向けに運用している。
・GJ-11はステルス性と大型内部兵装倉を持ち、ISR・EW・打撃の複合任務に対応可能とされる。
・PLAN(中国海軍)は、空母のみならず駆逐艦や揚陸艦にも無人機を導入しており、体系的な統合を進めている。
・中国の無人機導入は、艦載機運用の自動化や機数増加により空母の戦力投射能力を強化する動きと一致している。
技術的課題と米海軍の対応
・空母での無人機運用は、有人機との衝突回避や発着艦スケジューリングなど、高度な統合が必要である。
・そのため、米海軍は各空母に「無人航空戦センター(UAWC)」を設置し、自律化・遠隔運用の基盤を構築中である。
・すでにUSSジョージ・H・W・ブッシュにUAWCが導入されており、今後他の空母にも拡大予定である。
MQ-25の意義と限界
・MQ-25は前線での空中給油を可能とし、有人機の作戦範囲を延長する役割を果たす。
・従来の給油機や基地は中国の長距離ミサイルで脆弱化しており、MQ-25は生存性向上に貢献する。
・一方で、戦闘任務には不向きであり、ステルス性・速度・兵装搭載能力に限界がある。
・多用途化により、対潜水艦戦・電子戦・偵察・囮などへの任務拡張が提案されている。
戦略的懸念と将来展望
・米海軍は過去に複数の新型艦艇や兵器で失敗・コスト超過を経験しており、新型機開発に慎重になっている。
・一部では、ウクライナ戦争により空母の生存性そのものへの疑問が再燃している。
・中国は無人機を大量に導入し、コスト効率と自律化で米国を上回る可能性があると米国防高官も認めている。
・将来の艦載航空団では無人機が60%を占めるとする構想もあるが、その実現には長期的な取り組みが必要である。
【引用・参照・底本】
US Navy’s carrier drone delay handing the domain to China ASIA TIMES 2025.04.10
https://asiatimes.com/2025/04/us-navys-carrier-drone-delay-handing-the-domain-to-china/