【概要】
　
　本政策概要は、ロシアのウクライナ侵攻が2年目に突入する中で、アメリカ合衆国がヨーロッパからアジア太平洋地域へと戦略的焦点を移すべきであると主張する。具体的には、北大西洋条約機構(NATO)を「休眠状態」とし、ヨーロッパの安全保障をヨーロッパ自身に委ねるべきであると提言する。以下に、本政策概要の主要な論点を詳細に説明する。

　1. 背景と現状認識

　・ロシアのウクライナ侵攻：ロシアはヨーロッパにおけるヘゲモニックな脅威ではなくなった。
　・中国の台頭：中国は2035年までにアメリカと核兵器保有量で肩を並べることを目指しており、アジア太平洋地域におけるアメリカの安全保障上の最大の脅威となっている。
　・ヨーロッパの負担：ヨーロッパはアメリカによる防衛費の補助を求めつつ、アメリカがウクライナ戦争で利益を得ていると批判している。
　・アメリカの財政負担：アメリカはウクライナ戦争に多額の予算を投入しており、財政的な負担が継続している。

　2. NATOへの過剰な関与

　・歴史的経緯：第二次世界大戦後、ソ連の脅威に対抗するためにNATOが設立された。冷戦終結後、ロシアの脅威が減少したにもかかわらず、アメリカはヨーロッパへの関与を継続した。
　・NATO拡大：NATOの拡大は、ヨーロッパ諸国、特にドイツからの強い要望によって推進された。クリントン政権は、民主主義の拡大という理念に基づいてNATO拡大を支持した。
　・批判：ジョージ・ケナンなどの現実主義者は、NATO拡大がロシアを刺激し、アメリカの国益を損なうと警告した。
　・現状のNATO：NATOは中国を戦略的脅威と認識しつつ、ロシアの脅威を過大評価し、テロや気候変動など、本来の任務とは関係のない問題にも関与している。
　・ヨーロッパの能力：ヨーロッパはロシアの軍事力を圧倒する能力を有しているが、アメリカの存在に依存し、防衛費の負担を回避している。

　3. 「休眠NATO」の提唱

　・戦略的転換：アメリカはヨーロッパからの大幅な撤退と負担の移転を行い、アジア太平洋地域への戦略的焦点を移すべきである。
　・オフショア・バランサー：アメリカはヨーロッパにおける「オフショア・バランサー」として、最後の手段としての兵站提供と海上貿易路の安全保障に限定して関与すべきである。
　・ヨーロッパの自立：ヨーロッパは自らの防衛を担うべきであり、アメリカはイギリスやフランスなどの核保有国との関係を強化すべきである。
　・NATO改革：NATOの官僚機構を大幅に縮小し、軍事的な任務に限定すべきである。NATOの拡大を停止し、加盟国が防衛費の負担を増やすよう促すべきである。
　・アメリカの選択肢：NATOからの完全撤退も選択肢として検討すべきである。

　4. ヨーロッパの能力

　・ヨーロッパの防衛力：ヨーロッパ諸国は自らの防衛を担う能力を有している。
　・地域協力：スカンジナビア諸国は北極圏の安全保障を、フランスとギリシャは地中海の安全保障を、ポーランドとドイツは東ヨーロッパの安全保障を担うべきである。
　・アメリカの役割：アメリカはヨーロッパの軍事力を支援し、最後の手段としての兵站提供を行うべきである。

　5. 結論

　・中国の脅威：中国の軍事的台頭は、アメリカにとって最大の戦略的脅威である。
　・戦略的優先順位：アメリカはアジア太平洋地域への戦略的焦点を移し、ヨーロッパの安全保障をヨーロッパ自身に委ねるべきである。
　・「休眠NATO」：アメリカは「休眠NATO」戦略を採用し、ヨーロッパにおける負担の移転を迅速に進めるべきである。

　具体的な数値情報

　・ウクライナ支援トラッカー(IFW-Kiel)のデータによると、ウクライナへの支援におけるアメリカの貢献はヨーロッパを圧倒している。
　・NATO加盟国数は現在約30であり、冷戦時代のピーク時の16加盟国と比較して増加している。
　・NATOの予算は、民事予算、軍事予算、投資に分けられる。NATOには現在1000人以上の国際民間職員がいる。
　・ロシアのウクライナ侵攻の失敗に関する詳細な調査は、王立連合防衛安全保障研究所(RUSI)で確認できる。
　・中国の核兵器保有量の増加に関する情報は、ウォールストリートジャーナルや国防総省の報告書を参照。

　本政策概要は、アメリカの国益を最大化するために、ヨーロッパからの戦略的撤退とアジア太平洋地域への戦略的転換を提唱するものである。

【詳細】

　この政策概要は、アメリカの国益を最大化するために、ヨーロッパにおける戦略的撤退とアジア太平洋地域への戦略的転換を提唱するものである。

　1. なぜヨーロッパから撤退すべきなのか？

　(1)変化した脅威の性質

　・冷戦時代、ソ連はヨーロッパにおける最大の脅威であり、アメリカの関与は不可欠であった。しかし、ロシアの軍事力は低下し、ヨーロッパに対する脅威は減少している。
　・一方、中国は急速に軍事力を増強し、特に海軍力と核戦力を強化している。アメリカは、アジア太平洋地域における中国の台頭に対処するために、より多くの資源を投入する必要がある。

　(2)ヨーロッパの防衛能力

　・ヨーロッパ諸国は、ロシアの脅威に対処できる十分な軍事力を有している。しかし、アメリカの存在に依存することで、自らの防衛努力を怠っている。
　・アメリカがヨーロッパから撤退することで、ヨーロッパ諸国は自らの防衛責任を自覚し、より積極的に防衛努力を行うようになる。

　(3)アメリカの財政負担

　・アメリカは、NATOを通じてヨーロッパの防衛に多額の費用を負担している。この財政負担は、アメリカの国内問題やアジア太平洋地域における戦略的優先事項に資源を振り向けることを妨げている。
　・アメリカがヨーロッパからの負担を軽減することで、より多くの資源を他の重要な分野に投入できる。

　2. 「休眠NATO」とは何か？

　(1)戦略的転換

　・「休眠NATO」とは、アメリカがヨーロッパにおける軍事的プレゼンスを大幅に縮小し、NATOの活動を最小限に抑える戦略である。
　・アメリカは、ヨーロッパにおける「オフショア・バランサー」として、最後の手段としての兵站提供と海上貿易路の安全保障に限定して関与する。

　(2)ヨーロッパの自立

　・ヨーロッパ諸国は、自らの防衛を担う主要な責任を負う。
　・アメリカは、イギリスやフランスなどの核保有国との二国間関係を強化し、ヨーロッパの防衛能力を支援する。

　(3)NATOの改革

　・NATOの官僚機構を大幅に縮小し、軍事的な任務に限定する。
　・NATOの拡大を停止し、加盟国が防衛費の負担を増やすよう促す。
　・NATOの目的を明確にし、ヨーロッパの防衛に特化する。

　3. アジア太平洋地域への戦略的転換

　(1)中国への対応

　・アメリカは、アジア太平洋地域における中国の軍事的台頭に対処するために、同盟国との連携を強化し、軍事力を増強する。
　・アメリカは、中国の海洋進出を阻止し、台湾海峡の安定を維持するために、より積極的な役割を果たす必要がある。

　(2)同盟国との連携

　・アメリカは、日本、韓国、オーストラリアなどの同盟国との連携を強化し、地域における安全保障協力を推進する。
　・アメリカは、同盟国との情報共有、共同訓練、軍事技術協力などを通じて、地域における抑止力を強化する。

　4. 政策の実現可能性

　(1)政治的課題

　・ヨーロッパ諸国やアメリカ国内の政治的抵抗が予想される。
　・アメリカ政府は、政策の必要性を国民や同盟国に丁寧に説明し、理解を得る必要がある。

　(2)段階的実施

　・政策は、段階的に実施する必要がある。
　・まず、NATOの活動を縮小し、ヨーロッパ諸国の防衛努力を促す。
　・次に、アメリカの軍事的プレゼンスを段階的に縮小し、アジア太平洋地域への戦略的転換を進める。

　この政策概要は、アメリカの国益を長期的に守るための戦略的提言である。アメリカは、変化する国際情勢に対応し、より効果的な戦略を採用する必要がある。
　
【要点】
　
　政策概要の主要な論点

　1.戦略的転換の必要性

　・アメリカはヨーロッパからアジア太平洋地域へと戦略的焦点を移すべきである。
　・ロシアの脅威は減少し、中国の脅威が増大している。

　2.「休眠NATO」の提唱

　・NATOを「休眠状態」とし、ヨーロッパの安全保障をヨーロッパ自身に委ねる。
　・アメリカは「オフショア・バランサー」として、限定的に関与する。

　3.ヨーロッパの自立

　・ヨーロッパ諸国は自らの防衛を担うべきである。
　・アメリカはイギリスやフランスなどの核保有国との関係を強化する。

　4.NATO改革

　・NATOの官僚機構を縮小し、軍事任務に限定する。
　・NATOの拡大を停止し、加盟国の負担を増やす。

　5.アジア太平洋地域への注力

　・中国の軍事的台頭に対処するため、同盟国との連携を強化する。
　・地域における抑止力を高める。

　6.アメリカの財政負担軽減

　・ヨーロッパの防衛費負担を軽減する。
　・より多くの資源を他の重要な分野に投入する。

　7.政策の実現可能性:

　・段階的に政策を実施する。
　・関係各国への丁寧な説明と理解を得る。

　補足情報

　・ヨーロッパはロシアの軍事力を圧倒する能力を持つ。
　・NATOは本来の任務から逸脱し、過剰な活動を行っている。
　・アメリカはNATOへの過剰な関与により、財政的、戦略的負担を抱えている。
　・中国の軍事的脅威はアメリカにとって、最大の脅威である。

【引用・参照・底本】

Policy Brief: Pivoting the US Away from Europe to a Dormant NATO CENTERＦOR RENEWINGAMERICA 2023.02.16
https://americarenewing.com/policy-brief-pivoting-the-us-away-from-europe-to-a-dormant-nato/