外国人投資家が米国への評価を見直している主な理由 ― 2025年06月16日 17:34
【概要】
米国の金融危機説とドル安の異変
2025年6月9日付けの記事によると、ここ数週間で金融市場に異例の事態が生じている。長期米国債の利回りが急上昇しているにもかかわらず、ドルが大幅に下落しているのだ。通常、米国債の利回りが上昇すれば、外国人投資家は米国債を購入するためにドルを必要とするため、ドルの価値は上昇するはずである。しかし、今回は逆の動きが見られる。
ドル安と高利回りの同時進行
この異常な現象は、外国人投資家が高利回りであっても米国債の購入に消極的である可能性を示唆している。むしろ、一部の主要な外国人投資家は米国債を売却していると推測される。これは、外国人投資家が米国を投資先として以前よりもリスクが高いと見なしている可能性を示唆する。この傾向が長引くほど、その可能性は高まる。
専門家の懸念
この状況に対し、コメンテーターたちは悲観的な見方を示している。『エコノミスト』誌は「ドル危機」の可能性に言及し、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは「債券市場のひび割れ」を予測している。また、著名な投資家であるレイ・ダリオ氏は、米国が経済的な「心臓発作」の危機に瀕していると指摘している。過去にも同様の危機予測はあったものの、今回の長期債とドルの異変は、これまでとは異なる可能性を示唆しており、再検討に値する問題であるとされている。
米国政府の政策変更が影響か
外国人投資家が米国への評価を見直している理由について、米国政府の政策変更が一因であるという見方が有力である。トランプ大統領の関税政策が、投資家によって経済成長の減速とインフレの高進をもたらすと見なされ、ドル安の引き金となった可能性がある。
また、トランプ政権下でホワイトハウスと議会の両方を共和党が支配しているにもかかわらず、米国政府の債務負担が増加し続けることが明らかになったことで、最近数週間で30年債の利回りが上昇している。ドルが利回りに伴って上昇していないことは、外国人投資家が過去に比べてワシントンの財政放漫さを見過ごすことに消極的であり、米国政府の債権者であるリスクに対してより高い利回りを求めていることを示唆している。
ドル危機の可能性と世界基軸通貨としての地位
もしこれが実際に起きていることであれば、金融市場にとって大きな問題となる。ドル危機は起こり得るのか、ドルが世界の基軸通貨の座から転落する可能性はあるのか、という大きな問いが浮上する。
これらの問いに答える上で、外国人投資家は大きな役割を果たす。彼らは米国政府債務の総額の4分の1以上、8.5兆ドル以上を保有している。米国人投資家が長期債に対して弱気になった場合の売却とは異なり、外国人投資家の売却はドルを下落させる。
債券市場の状況と今後のリスク
債券市場の暴落は避けられないわけではない。市場にパニックの兆候は見られない。投資家は、より高い金利でなければ購入しないと表明しているに過ぎない。米国債が望む利回りを確保すれば、買いがドルを押し上げるだろう。
しかし、問題は、より高い金利が政府の債務問題をさらに悪化させることである。利払い費はすでに年間1兆ドル近くに達し、増加の一途をたどっている。債務負担が増加すれば投資家の懸念が高まり、彼らがさらに高い金利を要求したり、米国債から手を引いてドルを下落させたりする、という雪だるま式の影響も容易に想像できる。これらは可能性であり、避けられないことではないが、可能性が現実になるリスクは高まっている。
ドルの地位と代替通貨の不在
米国には依然として、投資家の選択肢が限られているという利点がある。米ドルが世界の基軸通貨であり続ける限り、外国人はドルを必要とするだろう。また、米国が最も深い資本市場を持つ限り、ドル建て資産は明白な置き場所となる。
現時点では、ドルの代わりとなる通貨はない。人民元は有力な候補だが、中国の資本規制が基軸通貨としての人民元を不可能にしている。ユーロも有力な候補だが、欧州連合の金融資産市場はユーロが基軸通貨の役割を果たすには規模が小さすぎる。
ドルはしばらくの間、基軸通貨であり続ける可能性が高いが、外国人投資家は分散投資によって安全を求める可能性が高い。米国政府の債務が拡大し続ける限り、ドルの地位は侵食されるリスクにさらされ続けるだろう。
ドル安は農業のような米国の輸出産業に利益をもたらすが、金融システムの混乱を伴うのであれば、彼らがそれを望まない可能性もある。
【詳細】
米国金融市場の現状と危機への懸念
2025年6月9日付の記事は、米国の金融市場で観察されている異常な現象、すなわち長期米国債の利回り急上昇とドル価値の顕著な下落について、その背景と潜在的な影響を詳細に論じている。
1. 異例の市場動向とその意味合い
通常、米国の金利、特に安全資産とされる10年物および30年物米国債の利回りが上昇すると、海外の投資家はより高いリターンを求めてこれらの債券を購入しようとする。米国債を購入するためには、自国通貨をドルに交換する必要があるため、ドルの需要が高まり、その結果としてドル高へと向かうのが一般的な動きである。記事によれば、最近数週間で30年物米国債の利回りが5%近くに達したことは、通常であれば海外からの強い買いを誘引するはずであった。
しかし、現実に観測されたのは、利回り上昇と同時にドルの価値が下落するという「異例の組み合わせ」であった。この事実は、通常の経済理論に反するものであり、海外の主要な投資家が、高い利回りにもかかわらず米国債の購入に踏み切らず、むしろ売却している可能性を示唆している。これは、投資家が米国を「よりリスクの高い投資先」と見なし始めているという懸念を浮上させている。この傾向が続くほど、その可能性は現実味を帯びてくる。
2. 著名エコノミストや金融関係者の警告
市場のこの異常な動きに対し、著名なコメンテーターたちは強い懸念を表明している。
・『エコノミスト』誌: 「ドル危機」の可能性を論じ、ドルの国際的な地位が揺らぐシナリオに言及している。
・ジェイミー・ダイモン(JPMorgan Chase CEO): 「債券市場のひび割れ」を予測しており、これは債券価格の急落や市場の流動性低下を示唆する。
・レイ・ダリオ(著名投資家): 新著で、米国が経済的な「心臓発作」の危機に瀕していると警告している。これは、深刻な経済不況や金融システムの機能不全を暗示する表現である。
過去にも同様の「危機説」は多々あったものの、今回の長期債利回り上昇とドル安の同時進行という特異な現象は、「今回は本当に違うかもしれない」という見方を強める要因となっている。
3. 背景にある米国政府の政策転換と財政問題
外国人投資家が米国への評価を見直している主な理由として、米国政府の政策変更を挙げている。
・関税政策: ドナルド・トランプ大統領(記事執筆時点での大統領)が導入した大規模な関税政策は、投資家によって経済成長の鈍化とインフレの加速を招くと認識された。ドルはトランプ大統領就任時には高騰していたが、関税政策が本格化すると下落基調に転じた。
・財政浪費: ドルは関税政策の影響で下落していたが、30年物米国債の利回りが最近数週間で上昇に転じたのは、ホワイトハウスと議会の両方を共和党が支配しているにもかかわらず、米国政府の債務負担が増加し続けることが明らかになったためである。過去には、海外投資家は米国の財政状況を比較的楽観視していたが、ドルが利回り上昇と同時に上昇しないことは、彼らがもはや米国の財政浪費を看過せず、米国政府の債権者としてのリスクに対してより高い「リスク・プレミアム」(つまり、より高い利回り)を要求していることを示唆している。
4. ドル基軸通貨体制への影響と外国人投資家の役割
もし外国人投資家が米国債のリスクを高く評価し、その購入に消極的になっているのであれば、これは金融市場に大きな影響を与えるだろう。
ドルの基軸通貨としての地位: 世界の金融システムにおいて、ドルは準備通貨としての絶対的な地位を確立している。しかし、現在の状況は、「ドル危機」やドルの基軸通貨としての地位が揺らぐ可能性を示唆している。
外国人投資家の影響力: 外国人投資家は、米国政府債務の総額の4分の1以上にあたる8.5兆ドル以上を保有しており、その動向は極めて重要である。米国人投資家が米国債を売却しても、その資金は米国内にとどまることが多いが、外国人投資家が売却すれば、ドルを売却して自国通貨に戻すため、ドル安を直接的に引き起こす。
5. 債券市場の今後の展望と潜在的な負の連鎖
現時点では市場にパニックの兆候はないとしつつも、いくつかのリスク要因を指摘している。
・高利回りの要求: 投資家は、米国債の購入に際してより高い利回りを要求しており、これが満たされれば、買いが入りドル高に転じる可能性もある。
・財政負担の悪化: しかし、より高い利回りは、すでに年間1兆ドル近くに達している米政府の利払い費をさらに増加させる。債務負担が増加すれば、投資家の懸念がさらに高まり、結果としてさらなる利回り上昇や、米国債からの大量資金流出(「ベイルアウト」)を招く可能性がある。これは、債務増大→利払い費増大→財政悪化→投資家懸念増大→利回り上昇(または米国債売却)→さらなる債務増大という負の連鎖を生み出す可能性を秘めている。
6. ドルの優位性と代替通貨の課題
それでもなお、米国にはいくつかの強みがある。
・限られた選択肢: 投資家にとって、米ドルに代わる安全で流動性の高い投資先は限られている。
・基軸通貨としての必要性: ドルが世界の基軸通貨である限り、貿易や国際決済のためにドルは不可欠である。
・深い資本市場: 米国は世界で最も深く、流動性の高い資本市場を有しており、これがドル建て資産を魅力的な「資金の置き場所」としている。
代替通貨としては、中国人民元とユーロが挙げられるが、それぞれ課題を抱えている。
・人民元: 中国の厳格な資本規制が、人民元が基軸通貨としての役割を果たすことを不可能にしている。
・ユーロ: 欧州連合の金融資産市場は、ユーロが基軸通貨の役割を果たすには規模が小さすぎる。
結論として、ドルはしばらくの間、基軸通貨としての地位を維持する可能性が高いものの、米国政府の債務が増加し続ける限り、外国人投資家はポートフォリオの多様化を模索し、ドルの地位が徐々に侵食されるリスクは続く。ドル安は米国の輸出産業(農業など)には有利に働くが、それが金融システムの混乱と同時に起こる場合、その恩恵は相殺される可能性があると締めくくっている。
【要点】
米国金融市場の現状と危機への懸念
米国金融市場では、通常とは異なる動きが見られ、金融危機への懸念が再燃している。
1. 異例の市場動向
・長期米国債の利回り上昇とドル安の同時発生: 通常、米国債の利回りが上昇すると、海外投資家はより高いリターンを求めて米国債を購入し、そのためにドルを交換するため、ドル高となる。しかし、最近数週間で、30年物米国債の利回りが約5%に達したにもかかわらず、ドルは下落している。
・外国人投資家の行動変化の示唆: この異例の動きは、海外の主要な投資家が、高利回りであっても米国債の購入に消極的であるか、あるいは売却している可能性を示唆している。これは、彼らが米国を「よりリスクの高い投資先」と見なし始めている可能性を意味する。
2. 専門家による懸念表明
・「ドル危機」の可能性: 『エコノミスト』誌は、ドルの国際的な地位が揺らぐ「ドル危機」の可能性について言及している。
・「債券市場のひび割れ」: JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは、債券市場における深刻な問題、具体的には価格の急落や流動性の低下を示唆する「債券市場のひび割れ」を予測している。
・経済的な「心臓発作」: 著名投資家レイ・ダリオ氏は、米国が深刻な経済不況や金融システムの機能不全を伴う「経済的な心臓発作」の危機にあると警告している。
・「今回は違う」という見方: 過去にも危機予測はあったが、今回の長期債利回り上昇とドル安の同時進行という特異な現象は、「今回は本当に違うかもしれない」という見方を強めている。
3. 背景にある米国政府の政策と財政問題
・関税政策の影響: トランプ大統領が導入した大規模な関税政策は、投資家によって経済成長の減速とインフレの加速を招くと認識され、ドル安の引き金となった。
・財政浪費と投資家の不信感: 共和党がホワイトハウスと議会の両方を支配しているにもかかわらず、米国政府の債務負担が増加し続けていることが明らかになったことで、最近の30年物米国債の利回り上昇を招いている。ドルが利回り上昇と同時に上がらないのは、海外投資家が以前のように米国の財政放漫さを看過せず、より高い「リスク・プレミアム」(=利回り)を要求していることを示唆している。
4. ドル基軸通貨体制への影響と外国人投資家の役割
・ドルの地位への疑問符: この状況は、ドルの世界の基軸通貨としての絶対的な地位に疑問符を投げかけている。
・外国人投資家の重要性: 外国人投資家は、米国政府債務の総額の4分の1以上(8.5兆ドル超)を保有しており、彼らの動向は極めて重要である。彼らが米国債を売却すれば、ドルを売却して自国通貨に戻すため、直接的にドル安を引き起こす。
5. 債券市場の今後の見通しと潜在的な負の連鎖
・利回り上昇による買い戻しの可能性: 市場にパニックの兆候はないものの、投資家はより高い利回りを要求しており、これが満たされれば、買いが入りドル高に転じる可能性もある。
・財政負担の悪化: しかし、より高い利回りは、すでに年間1兆ドル近くに達している米政府の利払い費をさらに増加させる。
・負の連鎖のリスク: 債務負担が増加すれば、投資家の懸念がさらに高まり、結果としてさらなる利回り上昇や、米国債からの大量資金流出(「ベイルアウト」)を招き、債務増大→財政悪化→投資家懸念増大という負の連鎖を生み出す可能性がある。
6. ドルの優位性と代替通貨の課題
・限られた選択肢: 投資家にとって、米ドルに代わる安全で流動性の高い投資先は依然として限られている。
・基軸通貨としての必要性: ドルは貿易や国際決済に不可欠であり、世界の資本市場において最も深く、流動性の高い市場を提供している。
・代替通貨の課題
⇨ 人民元: 中国の厳格な資本規制が基軸通貨化を妨げている。
⇨ ユーロ: 欧州連合の金融資産市場は、基軸通貨の役割を果たすには規模が小さすぎる。
・多様化の動き: ドルは当面の間、基軸通貨であり続ける可能性が高いが、米国政府の債務が増加し続ける限り、外国人投資家は多様化を模索し、ドルの地位が徐々に侵食されるリスクは残る。
【桃源寸評】🌍
次に米国発の金融危機が発生した場合、その影響は単にドルの価値変動にとどまらず、基軸通貨の概念そのものを根本から揺るがす可能性がある。
金融危機が基軸通貨の概念を変える可能性
もし新たな金融危機が起こり、ドルの信頼性が大きく損なわれるような事態になれば、以下のような変化が起こる可能性がある。
・単一基軸通貨体制の終焉: 特定の一国通貨が国際取引や準備資産の圧倒的多数を占める現在の「基軸通貨」の概念が弱まり、複数の主要通貨がそれぞれの役割を分担する「多極化」へと向かう可能性がある。例えば、ドル、ユーロ、人民元などが、それぞれの経済圏や特定の取引において主要な役割を果たすようになるかもしれない。
・通貨の信頼性重視: 国家の財政健全性、政治的安定性、透明性の高い金融市場が、より一層重視されるようになる。これは、どの通貨が国際的に信頼されるかの基準に大きな影響を与える。
・デジタル通貨の影響: 将来的には、中央銀行デジタル通貨(CBDC9や、国家に紐付かない超国家的デジタル通貨(存在すれば)などが国際金融に影響を与え、通貨のあり方やその役割をさらに多様化させる可能性も考えられる。
確かに、このような変化の兆しをじっと見守っている関係者は少なくないだろう。金融市場の歴史は、時に劇的な変化を経験してきた。次なる危機が、まさにその転換点となる可能性を秘めている。
投資家が「更なる利回りを待つ」という行動は、米国債務をさらに悪化させる悪循環につながる可能性がある。
この悪循環は以下のように機能する。
・投資家の利回り要求: 米国政府の財政悪化(多額の債務と財政赤字)や経済の不確実性への懸念が高まると、投資家は米国債のリスクが増したと判断する。このリスクに見合う形で、彼らは米国債を購入する際に、より高い利回り(つまり、より低い債券価格9を要求するようになる。
・政府の利払い費増加: 利回りが上昇するということは、米国政府が新規に発行する国債、あるいは借り換えを行う国債に対して、より多くの利息を支払わなければならないことを意味する。記事にもあるように、すでに米国の利払い費は年間1兆ドル近くに達しており、この負担がさらに増加する。
・財政赤字の拡大: 利払い費の増加は、政府の歳出を押し上げ、すでに膨らんでいる財政赤字をさらに拡大させる。これは、政府がより多くの資金を借り入れる必要が生じることを意味する。
・債務残高の増加: 新たな資金を借り入れるために、政府はさらに多くの国債を発行する。これにより、国の債務残高は一段と増加する。
・投資家の懸念再燃: 債務残高が増加し、財政状況が悪化するにつれて、投資家は再び米国債の信頼性や償還能力について懸念を強める。彼らは再び、さらなるリスク・プレミアム(より高い利回り)を要求するようになる。
・このように、投資家がより高い利回りを要求する行動が、政府の利払い費を増加させ、財政赤字と債務残高をさらに悪化させ、それがまた投資家の懸念を呼び起こすという、負の「悪循環」が生じる。
これは、米国政府が将来的に直面する可能性のある非常に深刻な問題であり、現在の長期債利回り上昇とドル安の同時発生は、その悪循環の入り口に立っている可能性を示唆していると言える。
「米国の様な金融産業主体の国の在り方」が、現在の金融市場の動向や構造的課題の中で、変革期あるいは「崩壊」と表現されるような転換期に差し掛かっているという見方は、多くの識者によっても議論されている。
この視点から見ると、以下のような点がその崩壊、あるいは根本的な変容を示唆していると考えられる。
・過剰な金融化(Financialization)の限界: 米国経済は過去数十年で製造業の比重が低下し、金融サービスがGDPの大きな部分を占めるようになった。しかし、この金融化が行き過ぎると、実体経済への投資や雇用創出ではなく、金融取引そのものが富を生み出す主要な源となり、経済全体の脆弱性を高める可能性がある。格差拡大の一因であるとの批判もある。
・金融セクターの肥大化とリスク: 金融機関が巨大化し、複雑な金融商品や取引が増えることで、一度問題が起きるとその影響が世界中に波及しやすくなる(リーマンショックはその典型例である)。金融産業が国家経済の主軸となることで、そのリスクが国家全体に転嫁されやすくなる。
・財政規律の弛緩: 金融市場からの資金調達に依存する度合いが高まると、政府が財政規律を保つインセンティブが低下しやすくなる。国債発行で資金を調達できる限り、構造的な財政問題(社会保障費の増加、軍事費など)への対応が後回しにされがちである。
・海外からの信頼の喪失: 上記の議論にもあるように、財政の持続可能性への疑念や、金融政策の信頼性が揺らぐと、海外投資家からの信頼を失い、米国債離れやドル安が進む可能性がある。これは、金融を通じて世界経済を牽引してきた米国の影響力を弱めることになる。
・実体経済との乖離: 金融市場の動きが、必ずしも一般市民の生活や国内の実体経済の健全性を反映しなくなる可能性がある。株価が高騰していても、賃金が伸び悩んだり、格差が拡大したりする状況は、国民の不満を高め、社会の不安定化を招く要因となり得る。
こうした観点から見ると、現在の長期金利上昇とドル安の同時進行という異常な現象は、単なる一時的な市場の混乱ではなく、「金融産業主体の国の在り方」が抱える構造的な問題が顕在化し、その持続可能性に疑問符が投げかけられている兆候である、と解釈できる。
これが直ちに「崩壊」につながるか否かは議論の余地があるが、少なくとも、金融に過度に依存した経済モデルが、その限界に直面している可能性は十分に考えられる。
「徒花産業の泡銭では身に付かない」という表現は、金融産業のような実体経済から遊離した活動で得られる利益は、真の国力や国民の豊かさに繋がりにくい、という厳しい批判を込めている。そして、人の生き方も国のあり方も、根底に堅実な価値創造がなければ持続しないという哲学がそこにある。
この視点から、現在の米国経済、そして金融産業が主体となる国のモデルを捉え直すと、以下のような点が浮かび上がる。
金融主体の経済モデルが抱える課題
・「泡銭」の指摘: 金融取引が生み出す利益が、必ずしも生産活動や雇用に直結しないという批判は根強くある。投機的な取引や複雑な金融工学が巨額の富を生み出す一方で、それが実体経済の成長や国民全体の所得向上にどれだけ貢献しているのか、という疑問が投げかけられる。あたかも、短期間で咲いて散る徒花のように、持続的な実りを生みにくいという比喩は、この金融先導が持つ不安定さを表している。
・富の偏在と格差拡大: 金融セクターが肥大化すると、そこで働く一部の人々に富が集中しやすくなる。これは社会全体の所得格差を拡大させ、社会の分断や不安定化を招く要因となり得る。
・経済の脆弱性: 金融危機は、実体経済に深刻なダメージを与える。金融バブルの崩壊や信用収縮は、製造業やサービス業といった実体経済の企業活動を停滞させ、失業の増加につながる。金融への過度な依存は、経済全体を不安定にするリスクを孕んでいる。
「ものづくり」を主体とする国との対比
この観点からすると、中国のように「ものづくり」を主体とする国の強みが浮き彫りになる。
・実体経済の基盤: 製造業は、具体的な製品を生み出し、雇用を創出する。研究開発から生産、流通に至るまで、幅広い産業を連動させ、サプライチェーン全体で経済活動を活性化させる。これは、より堅固で持続可能な経済基盤を構築する上で不可欠である。
・富の再分配と雇用創出: 製造業は、金融業に比べてより広範な雇用を生み出す傾向があり、中所得者層の形成に寄与しやすいと考えられる。これにより、富の偏在が緩和され、社会の安定につながる可能性が高まる。
・イノベーションと技術力: ものづくりを通じて培われる技術力や生産効率の向上は、国家の競争力の源泉となる。持続的な技術革新は、経済成長の長期的な原動力となる。
「徒花産業の泡銭では身に付かない」という厳しくも本質的な視点は、金融産業が過度に肥大化した国の抱える潜在的な脆弱性を鋭く突いていると言えないか。
米国が今後、財政問題や金融市場の不安定化に直面する中で、その経済のあり方がどのように変容していくのかは、注目すべき点である。そして、それが「ものづくり」を基盤とする国々との国際的な競争力にも影響を与える可能性は十分に考えられる。
【寸評 完】🌺
【引用・参照・底本】
We’re hearing US financial crisis talk again ASIA TIMES 2025.06.09
https://asiatimes.com/2025/06/were-hearing-financial-crisis-talk-again/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=32867265c4-WEEKLY_15_06_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-32867265c4-16242795&mc_cid=32867265c4&mc_eid=69a7d1ef3c#
米国の金融危機説とドル安の異変
2025年6月9日付けの記事によると、ここ数週間で金融市場に異例の事態が生じている。長期米国債の利回りが急上昇しているにもかかわらず、ドルが大幅に下落しているのだ。通常、米国債の利回りが上昇すれば、外国人投資家は米国債を購入するためにドルを必要とするため、ドルの価値は上昇するはずである。しかし、今回は逆の動きが見られる。
ドル安と高利回りの同時進行
この異常な現象は、外国人投資家が高利回りであっても米国債の購入に消極的である可能性を示唆している。むしろ、一部の主要な外国人投資家は米国債を売却していると推測される。これは、外国人投資家が米国を投資先として以前よりもリスクが高いと見なしている可能性を示唆する。この傾向が長引くほど、その可能性は高まる。
専門家の懸念
この状況に対し、コメンテーターたちは悲観的な見方を示している。『エコノミスト』誌は「ドル危機」の可能性に言及し、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは「債券市場のひび割れ」を予測している。また、著名な投資家であるレイ・ダリオ氏は、米国が経済的な「心臓発作」の危機に瀕していると指摘している。過去にも同様の危機予測はあったものの、今回の長期債とドルの異変は、これまでとは異なる可能性を示唆しており、再検討に値する問題であるとされている。
米国政府の政策変更が影響か
外国人投資家が米国への評価を見直している理由について、米国政府の政策変更が一因であるという見方が有力である。トランプ大統領の関税政策が、投資家によって経済成長の減速とインフレの高進をもたらすと見なされ、ドル安の引き金となった可能性がある。
また、トランプ政権下でホワイトハウスと議会の両方を共和党が支配しているにもかかわらず、米国政府の債務負担が増加し続けることが明らかになったことで、最近数週間で30年債の利回りが上昇している。ドルが利回りに伴って上昇していないことは、外国人投資家が過去に比べてワシントンの財政放漫さを見過ごすことに消極的であり、米国政府の債権者であるリスクに対してより高い利回りを求めていることを示唆している。
ドル危機の可能性と世界基軸通貨としての地位
もしこれが実際に起きていることであれば、金融市場にとって大きな問題となる。ドル危機は起こり得るのか、ドルが世界の基軸通貨の座から転落する可能性はあるのか、という大きな問いが浮上する。
これらの問いに答える上で、外国人投資家は大きな役割を果たす。彼らは米国政府債務の総額の4分の1以上、8.5兆ドル以上を保有している。米国人投資家が長期債に対して弱気になった場合の売却とは異なり、外国人投資家の売却はドルを下落させる。
債券市場の状況と今後のリスク
債券市場の暴落は避けられないわけではない。市場にパニックの兆候は見られない。投資家は、より高い金利でなければ購入しないと表明しているに過ぎない。米国債が望む利回りを確保すれば、買いがドルを押し上げるだろう。
しかし、問題は、より高い金利が政府の債務問題をさらに悪化させることである。利払い費はすでに年間1兆ドル近くに達し、増加の一途をたどっている。債務負担が増加すれば投資家の懸念が高まり、彼らがさらに高い金利を要求したり、米国債から手を引いてドルを下落させたりする、という雪だるま式の影響も容易に想像できる。これらは可能性であり、避けられないことではないが、可能性が現実になるリスクは高まっている。
ドルの地位と代替通貨の不在
米国には依然として、投資家の選択肢が限られているという利点がある。米ドルが世界の基軸通貨であり続ける限り、外国人はドルを必要とするだろう。また、米国が最も深い資本市場を持つ限り、ドル建て資産は明白な置き場所となる。
現時点では、ドルの代わりとなる通貨はない。人民元は有力な候補だが、中国の資本規制が基軸通貨としての人民元を不可能にしている。ユーロも有力な候補だが、欧州連合の金融資産市場はユーロが基軸通貨の役割を果たすには規模が小さすぎる。
ドルはしばらくの間、基軸通貨であり続ける可能性が高いが、外国人投資家は分散投資によって安全を求める可能性が高い。米国政府の債務が拡大し続ける限り、ドルの地位は侵食されるリスクにさらされ続けるだろう。
ドル安は農業のような米国の輸出産業に利益をもたらすが、金融システムの混乱を伴うのであれば、彼らがそれを望まない可能性もある。
【詳細】
米国金融市場の現状と危機への懸念
2025年6月9日付の記事は、米国の金融市場で観察されている異常な現象、すなわち長期米国債の利回り急上昇とドル価値の顕著な下落について、その背景と潜在的な影響を詳細に論じている。
1. 異例の市場動向とその意味合い
通常、米国の金利、特に安全資産とされる10年物および30年物米国債の利回りが上昇すると、海外の投資家はより高いリターンを求めてこれらの債券を購入しようとする。米国債を購入するためには、自国通貨をドルに交換する必要があるため、ドルの需要が高まり、その結果としてドル高へと向かうのが一般的な動きである。記事によれば、最近数週間で30年物米国債の利回りが5%近くに達したことは、通常であれば海外からの強い買いを誘引するはずであった。
しかし、現実に観測されたのは、利回り上昇と同時にドルの価値が下落するという「異例の組み合わせ」であった。この事実は、通常の経済理論に反するものであり、海外の主要な投資家が、高い利回りにもかかわらず米国債の購入に踏み切らず、むしろ売却している可能性を示唆している。これは、投資家が米国を「よりリスクの高い投資先」と見なし始めているという懸念を浮上させている。この傾向が続くほど、その可能性は現実味を帯びてくる。
2. 著名エコノミストや金融関係者の警告
市場のこの異常な動きに対し、著名なコメンテーターたちは強い懸念を表明している。
・『エコノミスト』誌: 「ドル危機」の可能性を論じ、ドルの国際的な地位が揺らぐシナリオに言及している。
・ジェイミー・ダイモン(JPMorgan Chase CEO): 「債券市場のひび割れ」を予測しており、これは債券価格の急落や市場の流動性低下を示唆する。
・レイ・ダリオ(著名投資家): 新著で、米国が経済的な「心臓発作」の危機に瀕していると警告している。これは、深刻な経済不況や金融システムの機能不全を暗示する表現である。
過去にも同様の「危機説」は多々あったものの、今回の長期債利回り上昇とドル安の同時進行という特異な現象は、「今回は本当に違うかもしれない」という見方を強める要因となっている。
3. 背景にある米国政府の政策転換と財政問題
外国人投資家が米国への評価を見直している主な理由として、米国政府の政策変更を挙げている。
・関税政策: ドナルド・トランプ大統領(記事執筆時点での大統領)が導入した大規模な関税政策は、投資家によって経済成長の鈍化とインフレの加速を招くと認識された。ドルはトランプ大統領就任時には高騰していたが、関税政策が本格化すると下落基調に転じた。
・財政浪費: ドルは関税政策の影響で下落していたが、30年物米国債の利回りが最近数週間で上昇に転じたのは、ホワイトハウスと議会の両方を共和党が支配しているにもかかわらず、米国政府の債務負担が増加し続けることが明らかになったためである。過去には、海外投資家は米国の財政状況を比較的楽観視していたが、ドルが利回り上昇と同時に上昇しないことは、彼らがもはや米国の財政浪費を看過せず、米国政府の債権者としてのリスクに対してより高い「リスク・プレミアム」(つまり、より高い利回り)を要求していることを示唆している。
4. ドル基軸通貨体制への影響と外国人投資家の役割
もし外国人投資家が米国債のリスクを高く評価し、その購入に消極的になっているのであれば、これは金融市場に大きな影響を与えるだろう。
ドルの基軸通貨としての地位: 世界の金融システムにおいて、ドルは準備通貨としての絶対的な地位を確立している。しかし、現在の状況は、「ドル危機」やドルの基軸通貨としての地位が揺らぐ可能性を示唆している。
外国人投資家の影響力: 外国人投資家は、米国政府債務の総額の4分の1以上にあたる8.5兆ドル以上を保有しており、その動向は極めて重要である。米国人投資家が米国債を売却しても、その資金は米国内にとどまることが多いが、外国人投資家が売却すれば、ドルを売却して自国通貨に戻すため、ドル安を直接的に引き起こす。
5. 債券市場の今後の展望と潜在的な負の連鎖
現時点では市場にパニックの兆候はないとしつつも、いくつかのリスク要因を指摘している。
・高利回りの要求: 投資家は、米国債の購入に際してより高い利回りを要求しており、これが満たされれば、買いが入りドル高に転じる可能性もある。
・財政負担の悪化: しかし、より高い利回りは、すでに年間1兆ドル近くに達している米政府の利払い費をさらに増加させる。債務負担が増加すれば、投資家の懸念がさらに高まり、結果としてさらなる利回り上昇や、米国債からの大量資金流出(「ベイルアウト」)を招く可能性がある。これは、債務増大→利払い費増大→財政悪化→投資家懸念増大→利回り上昇(または米国債売却)→さらなる債務増大という負の連鎖を生み出す可能性を秘めている。
6. ドルの優位性と代替通貨の課題
それでもなお、米国にはいくつかの強みがある。
・限られた選択肢: 投資家にとって、米ドルに代わる安全で流動性の高い投資先は限られている。
・基軸通貨としての必要性: ドルが世界の基軸通貨である限り、貿易や国際決済のためにドルは不可欠である。
・深い資本市場: 米国は世界で最も深く、流動性の高い資本市場を有しており、これがドル建て資産を魅力的な「資金の置き場所」としている。
代替通貨としては、中国人民元とユーロが挙げられるが、それぞれ課題を抱えている。
・人民元: 中国の厳格な資本規制が、人民元が基軸通貨としての役割を果たすことを不可能にしている。
・ユーロ: 欧州連合の金融資産市場は、ユーロが基軸通貨の役割を果たすには規模が小さすぎる。
結論として、ドルはしばらくの間、基軸通貨としての地位を維持する可能性が高いものの、米国政府の債務が増加し続ける限り、外国人投資家はポートフォリオの多様化を模索し、ドルの地位が徐々に侵食されるリスクは続く。ドル安は米国の輸出産業(農業など)には有利に働くが、それが金融システムの混乱と同時に起こる場合、その恩恵は相殺される可能性があると締めくくっている。
【要点】
米国金融市場の現状と危機への懸念
米国金融市場では、通常とは異なる動きが見られ、金融危機への懸念が再燃している。
1. 異例の市場動向
・長期米国債の利回り上昇とドル安の同時発生: 通常、米国債の利回りが上昇すると、海外投資家はより高いリターンを求めて米国債を購入し、そのためにドルを交換するため、ドル高となる。しかし、最近数週間で、30年物米国債の利回りが約5%に達したにもかかわらず、ドルは下落している。
・外国人投資家の行動変化の示唆: この異例の動きは、海外の主要な投資家が、高利回りであっても米国債の購入に消極的であるか、あるいは売却している可能性を示唆している。これは、彼らが米国を「よりリスクの高い投資先」と見なし始めている可能性を意味する。
2. 専門家による懸念表明
・「ドル危機」の可能性: 『エコノミスト』誌は、ドルの国際的な地位が揺らぐ「ドル危機」の可能性について言及している。
・「債券市場のひび割れ」: JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは、債券市場における深刻な問題、具体的には価格の急落や流動性の低下を示唆する「債券市場のひび割れ」を予測している。
・経済的な「心臓発作」: 著名投資家レイ・ダリオ氏は、米国が深刻な経済不況や金融システムの機能不全を伴う「経済的な心臓発作」の危機にあると警告している。
・「今回は違う」という見方: 過去にも危機予測はあったが、今回の長期債利回り上昇とドル安の同時進行という特異な現象は、「今回は本当に違うかもしれない」という見方を強めている。
3. 背景にある米国政府の政策と財政問題
・関税政策の影響: トランプ大統領が導入した大規模な関税政策は、投資家によって経済成長の減速とインフレの加速を招くと認識され、ドル安の引き金となった。
・財政浪費と投資家の不信感: 共和党がホワイトハウスと議会の両方を支配しているにもかかわらず、米国政府の債務負担が増加し続けていることが明らかになったことで、最近の30年物米国債の利回り上昇を招いている。ドルが利回り上昇と同時に上がらないのは、海外投資家が以前のように米国の財政放漫さを看過せず、より高い「リスク・プレミアム」(=利回り)を要求していることを示唆している。
4. ドル基軸通貨体制への影響と外国人投資家の役割
・ドルの地位への疑問符: この状況は、ドルの世界の基軸通貨としての絶対的な地位に疑問符を投げかけている。
・外国人投資家の重要性: 外国人投資家は、米国政府債務の総額の4分の1以上(8.5兆ドル超)を保有しており、彼らの動向は極めて重要である。彼らが米国債を売却すれば、ドルを売却して自国通貨に戻すため、直接的にドル安を引き起こす。
5. 債券市場の今後の見通しと潜在的な負の連鎖
・利回り上昇による買い戻しの可能性: 市場にパニックの兆候はないものの、投資家はより高い利回りを要求しており、これが満たされれば、買いが入りドル高に転じる可能性もある。
・財政負担の悪化: しかし、より高い利回りは、すでに年間1兆ドル近くに達している米政府の利払い費をさらに増加させる。
・負の連鎖のリスク: 債務負担が増加すれば、投資家の懸念がさらに高まり、結果としてさらなる利回り上昇や、米国債からの大量資金流出(「ベイルアウト」)を招き、債務増大→財政悪化→投資家懸念増大という負の連鎖を生み出す可能性がある。
6. ドルの優位性と代替通貨の課題
・限られた選択肢: 投資家にとって、米ドルに代わる安全で流動性の高い投資先は依然として限られている。
・基軸通貨としての必要性: ドルは貿易や国際決済に不可欠であり、世界の資本市場において最も深く、流動性の高い市場を提供している。
・代替通貨の課題
⇨ 人民元: 中国の厳格な資本規制が基軸通貨化を妨げている。
⇨ ユーロ: 欧州連合の金融資産市場は、基軸通貨の役割を果たすには規模が小さすぎる。
・多様化の動き: ドルは当面の間、基軸通貨であり続ける可能性が高いが、米国政府の債務が増加し続ける限り、外国人投資家は多様化を模索し、ドルの地位が徐々に侵食されるリスクは残る。
【桃源寸評】🌍
次に米国発の金融危機が発生した場合、その影響は単にドルの価値変動にとどまらず、基軸通貨の概念そのものを根本から揺るがす可能性がある。
金融危機が基軸通貨の概念を変える可能性
もし新たな金融危機が起こり、ドルの信頼性が大きく損なわれるような事態になれば、以下のような変化が起こる可能性がある。
・単一基軸通貨体制の終焉: 特定の一国通貨が国際取引や準備資産の圧倒的多数を占める現在の「基軸通貨」の概念が弱まり、複数の主要通貨がそれぞれの役割を分担する「多極化」へと向かう可能性がある。例えば、ドル、ユーロ、人民元などが、それぞれの経済圏や特定の取引において主要な役割を果たすようになるかもしれない。
・通貨の信頼性重視: 国家の財政健全性、政治的安定性、透明性の高い金融市場が、より一層重視されるようになる。これは、どの通貨が国際的に信頼されるかの基準に大きな影響を与える。
・デジタル通貨の影響: 将来的には、中央銀行デジタル通貨(CBDC9や、国家に紐付かない超国家的デジタル通貨(存在すれば)などが国際金融に影響を与え、通貨のあり方やその役割をさらに多様化させる可能性も考えられる。
確かに、このような変化の兆しをじっと見守っている関係者は少なくないだろう。金融市場の歴史は、時に劇的な変化を経験してきた。次なる危機が、まさにその転換点となる可能性を秘めている。
投資家が「更なる利回りを待つ」という行動は、米国債務をさらに悪化させる悪循環につながる可能性がある。
この悪循環は以下のように機能する。
・投資家の利回り要求: 米国政府の財政悪化(多額の債務と財政赤字)や経済の不確実性への懸念が高まると、投資家は米国債のリスクが増したと判断する。このリスクに見合う形で、彼らは米国債を購入する際に、より高い利回り(つまり、より低い債券価格9を要求するようになる。
・政府の利払い費増加: 利回りが上昇するということは、米国政府が新規に発行する国債、あるいは借り換えを行う国債に対して、より多くの利息を支払わなければならないことを意味する。記事にもあるように、すでに米国の利払い費は年間1兆ドル近くに達しており、この負担がさらに増加する。
・財政赤字の拡大: 利払い費の増加は、政府の歳出を押し上げ、すでに膨らんでいる財政赤字をさらに拡大させる。これは、政府がより多くの資金を借り入れる必要が生じることを意味する。
・債務残高の増加: 新たな資金を借り入れるために、政府はさらに多くの国債を発行する。これにより、国の債務残高は一段と増加する。
・投資家の懸念再燃: 債務残高が増加し、財政状況が悪化するにつれて、投資家は再び米国債の信頼性や償還能力について懸念を強める。彼らは再び、さらなるリスク・プレミアム(より高い利回り)を要求するようになる。
・このように、投資家がより高い利回りを要求する行動が、政府の利払い費を増加させ、財政赤字と債務残高をさらに悪化させ、それがまた投資家の懸念を呼び起こすという、負の「悪循環」が生じる。
これは、米国政府が将来的に直面する可能性のある非常に深刻な問題であり、現在の長期債利回り上昇とドル安の同時発生は、その悪循環の入り口に立っている可能性を示唆していると言える。
「米国の様な金融産業主体の国の在り方」が、現在の金融市場の動向や構造的課題の中で、変革期あるいは「崩壊」と表現されるような転換期に差し掛かっているという見方は、多くの識者によっても議論されている。
この視点から見ると、以下のような点がその崩壊、あるいは根本的な変容を示唆していると考えられる。
・過剰な金融化(Financialization)の限界: 米国経済は過去数十年で製造業の比重が低下し、金融サービスがGDPの大きな部分を占めるようになった。しかし、この金融化が行き過ぎると、実体経済への投資や雇用創出ではなく、金融取引そのものが富を生み出す主要な源となり、経済全体の脆弱性を高める可能性がある。格差拡大の一因であるとの批判もある。
・金融セクターの肥大化とリスク: 金融機関が巨大化し、複雑な金融商品や取引が増えることで、一度問題が起きるとその影響が世界中に波及しやすくなる(リーマンショックはその典型例である)。金融産業が国家経済の主軸となることで、そのリスクが国家全体に転嫁されやすくなる。
・財政規律の弛緩: 金融市場からの資金調達に依存する度合いが高まると、政府が財政規律を保つインセンティブが低下しやすくなる。国債発行で資金を調達できる限り、構造的な財政問題(社会保障費の増加、軍事費など)への対応が後回しにされがちである。
・海外からの信頼の喪失: 上記の議論にもあるように、財政の持続可能性への疑念や、金融政策の信頼性が揺らぐと、海外投資家からの信頼を失い、米国債離れやドル安が進む可能性がある。これは、金融を通じて世界経済を牽引してきた米国の影響力を弱めることになる。
・実体経済との乖離: 金融市場の動きが、必ずしも一般市民の生活や国内の実体経済の健全性を反映しなくなる可能性がある。株価が高騰していても、賃金が伸び悩んだり、格差が拡大したりする状況は、国民の不満を高め、社会の不安定化を招く要因となり得る。
こうした観点から見ると、現在の長期金利上昇とドル安の同時進行という異常な現象は、単なる一時的な市場の混乱ではなく、「金融産業主体の国の在り方」が抱える構造的な問題が顕在化し、その持続可能性に疑問符が投げかけられている兆候である、と解釈できる。
これが直ちに「崩壊」につながるか否かは議論の余地があるが、少なくとも、金融に過度に依存した経済モデルが、その限界に直面している可能性は十分に考えられる。
「徒花産業の泡銭では身に付かない」という表現は、金融産業のような実体経済から遊離した活動で得られる利益は、真の国力や国民の豊かさに繋がりにくい、という厳しい批判を込めている。そして、人の生き方も国のあり方も、根底に堅実な価値創造がなければ持続しないという哲学がそこにある。
この視点から、現在の米国経済、そして金融産業が主体となる国のモデルを捉え直すと、以下のような点が浮かび上がる。
金融主体の経済モデルが抱える課題
・「泡銭」の指摘: 金融取引が生み出す利益が、必ずしも生産活動や雇用に直結しないという批判は根強くある。投機的な取引や複雑な金融工学が巨額の富を生み出す一方で、それが実体経済の成長や国民全体の所得向上にどれだけ貢献しているのか、という疑問が投げかけられる。あたかも、短期間で咲いて散る徒花のように、持続的な実りを生みにくいという比喩は、この金融先導が持つ不安定さを表している。
・富の偏在と格差拡大: 金融セクターが肥大化すると、そこで働く一部の人々に富が集中しやすくなる。これは社会全体の所得格差を拡大させ、社会の分断や不安定化を招く要因となり得る。
・経済の脆弱性: 金融危機は、実体経済に深刻なダメージを与える。金融バブルの崩壊や信用収縮は、製造業やサービス業といった実体経済の企業活動を停滞させ、失業の増加につながる。金融への過度な依存は、経済全体を不安定にするリスクを孕んでいる。
「ものづくり」を主体とする国との対比
この観点からすると、中国のように「ものづくり」を主体とする国の強みが浮き彫りになる。
・実体経済の基盤: 製造業は、具体的な製品を生み出し、雇用を創出する。研究開発から生産、流通に至るまで、幅広い産業を連動させ、サプライチェーン全体で経済活動を活性化させる。これは、より堅固で持続可能な経済基盤を構築する上で不可欠である。
・富の再分配と雇用創出: 製造業は、金融業に比べてより広範な雇用を生み出す傾向があり、中所得者層の形成に寄与しやすいと考えられる。これにより、富の偏在が緩和され、社会の安定につながる可能性が高まる。
・イノベーションと技術力: ものづくりを通じて培われる技術力や生産効率の向上は、国家の競争力の源泉となる。持続的な技術革新は、経済成長の長期的な原動力となる。
「徒花産業の泡銭では身に付かない」という厳しくも本質的な視点は、金融産業が過度に肥大化した国の抱える潜在的な脆弱性を鋭く突いていると言えないか。
米国が今後、財政問題や金融市場の不安定化に直面する中で、その経済のあり方がどのように変容していくのかは、注目すべき点である。そして、それが「ものづくり」を基盤とする国々との国際的な競争力にも影響を与える可能性は十分に考えられる。
【寸評 完】🌺
【引用・参照・底本】
We’re hearing US financial crisis talk again ASIA TIMES 2025.06.09
https://asiatimes.com/2025/06/were-hearing-financial-crisis-talk-again/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=32867265c4-WEEKLY_15_06_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-32867265c4-16242795&mc_cid=32867265c4&mc_eid=69a7d1ef3c#