中パ関係にとって極めて困難な年になる可能性がある2025年01月27日 18:56

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【概要】

 アンドリュー・コリブコ氏がVOA中国のFMシャキル氏に提供したインタビューは、2025年における中国とパキスタンの関係が直面する可能性のある困難を中心に議論している。このインタビューの抜粋は、1月20日の「安全保障とアフガニスタンが2025年の中国・パキスタン関係を試す」という報告書で公開されている。

 中パ関係は公式には依然として良好とされているが、過去1年間で多くの緊張が生じたと見られている。特に、パキスタンが中国人労働者の安全を十分に守ることができない状況は、中国が主導する「一帯一路(BRI)」構想の旗艦プロジェクトである「中パ経済回廊(CPEC)」に対する信頼を損なう要因となっている。

 CPECの進展は一部の人々にとってBRI全体の成功を示す指標と見なされており、そのため中国はこのプロジェクトの長期的な実現可能性について懸念を抱いている。パキスタン国内での最近のテロ攻撃は、アフガニスタンと関係しているとされており、「パキスタン・ターリバーン運動(TTP)」や「バローチ解放軍(BLA)」がアフガニスタンから活動しているとの報告がある。これらのグループは、ターリバーン政権の暗黙の支持を得ている可能性が指摘されている。

 ターリバーンは、従来の軍事力でパキスタンに対抗する能力が限られているため、テロリスト指定された組織を利用して非対称的な方法でパキスタンとの力の均衡を図ろうとしていると考えられている。また、アフガニスタンとパキスタンの間には、イギリスによって定められた国境「デュランド・ライン」を巡る対立があり、ターリバーンはこの国境を認めていない。

 こうした背景の中、BLAはCPEC関連のプロジェクトや中国人労働者を直接標的にすることがあり、CPECの安全に重大なリスクをもたらしている。中国の視点から見ると問題は二重である。まず、ターリバーンがパキスタンに対抗するためにテロリストを利用しているとされる点、次に、パキスタンがCPECプロジェクトや中国人労働者を十分に保護できていない点である。この状況は、パキスタン政府が元首相イムラン・カーン氏の政党「PTI」に対する弾圧を優先し、対テロ政策を後回しにしていることに起因すると考えられている。

 中国はこれらの問題を直接解決する能力を持たないことが示されている。これまでの外交努力では、ターリバーンがこうした非難される手段を放棄することも、パキスタンが優先事項を転換することも実現していない。さらに、アフガニスタンとパキスタンの関係が悪化し続けていることは、最近の国境での衝突でも証明されている。

 もしアフガニスタンとパキスタンの関係がさらに悪化する場合、中国はCPECへの投資を非公式に抑制したり、場合によっては既存のプロジェクトを凍結する可能性がある。こうした行動が取られた場合、中国はCPECから撤退しているとの印象を避けるために別の口実を設ける可能性がある。

 さらに、2024年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ氏が再選された場合、彼の取る対中政策がパキスタンに影響を及ぼす可能性がある。トランプ氏は前政権で見られた経済重視の取引型スタイルを再び採用し、パキスタンの対テロ戦略を支援する代わりにCPECからの撤退やアメリカ企業への特権的な投資機会の提供を求める可能性がある。しかし、このような取引には、パキスタンの弾道ミサイル計画の制限といった受け入れがたい条件が含まれる可能性もある。

 結論として、アフガニスタンを拠点とするテロリズム(特にBLA)やアメリカの対中政策の影響により、2025年は中国とパキスタンの関係にとって困難な年となる可能性が高い。

【詳細】

 アンドリュー・コリブコ氏のインタビュー内容をさらに詳しく説明する。以下に主な論点を深掘りして解説する。

 中パ関係の現状

 中国とパキスタンの関係は長らく「鉄の兄弟」と称されるほど強固であった。しかし、2024年以降、特に安全保障問題を中心に緊張が高まっている。中国にとって、中パ経済回廊(CPEC)は一帯一路構想(BRI)の旗艦プロジェクトであり、その進捗状況がBRI全体の成功を象徴するものと見なされている。したがって、CPECが停滞することは、中国にとって経済的・政治的なリスクを伴う。

 一方で、パキスタン国内の治安状況の悪化が、中国の対パキスタン政策に大きな影響を及ぼしている。中国人労働者やCPEC関連施設がテロの標的となることで、プロジェクトの実現可能性に対する疑念が高まっている。中国政府としては、こうした問題に対処するために、パキスタン政府に対し安定化策の強化を求めてきたが、成果は限定的である。

 アフガニスタンとの関係悪化の背景

 パキスタンとアフガニスタンの関係は近年さらに悪化している。その要因として、以下の点が挙げられる。

 1.ターリバーンのテロ支援疑惑

 アフガニスタンのターリバーン政権は、「パキスタン・ターリバーン運動(TTP)」や「バローチ解放軍(BLA)」などのテロリストグループがアフガニスタン国内から活動することを黙認しているとの疑いがある。これらのグループは、パキスタン国内でのテロ活動を展開し、CPEC関連施設や中国人労働者を標的としている。特にBLAは、中国資本のプロジェクトに対する攻撃を強化しており、これがCPEC全体にとっての安全保障上のリスクとなっている。

 2.デュランド・ラインを巡る領土問題

 パキスタンとアフガニスタンの国境であるデュランド・ラインは、イギリス植民地時代に定められた国境であり、ターリバーン政権はこれを承認していない。この領土問題が両国間の緊張をさらに悪化させている。ターリバーンがテロリストグループを間接的に利用し、パキスタンへの圧力を強めているとの見方もある。

 3.国境での武力衝突

 両国の国境地帯では、武力衝突が頻発しており、これが両国の対立を一層深刻化させている。この衝突は、中国にとってもCPECの進展に直接的な影響を及ぼすため、重大な懸念事項である。

 パキスタン政府の対応と中国の懸念
パキスタン政府の対応についても問題が指摘されている。

 1.対テロ政策の弱体化

 パキスタン政府は国内の治安状況改善に十分な努力を払っていないと見られている。その一因として、政府が元首相イムラン・カーン氏率いる「正義運動党(PTI)」への弾圧を優先していることが挙げられる。政府のリソースが政敵の排除に集中する一方、対テロ政策は後回しにされている。この結果、CPEC関連施設や中国人労働者に対するテロ攻撃が防ぎきれない状況となっている。

 2.中国の直接的な影響力の限界

 中国はこれまでの外交努力でパキスタンに治安対策の強化を求めてきたが、実質的な成果は得られていない。また、アフガニスタンに対する影響力も限定的であり、ターリバーンの行動を抑制することができていない。これにより、中国は中パ関係の安定化に対して不満を募らせている。

 アメリカの影響

 2024年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ氏が再選された場合、中国の一帯一路構想に対する圧力がさらに強まる可能性がある。トランプ氏の政策は、以下のような形で中パ関係に影響を及ぼす可能性がある。

 1.経済的な取引型外交

 トランプ氏の前政権は経済重視の外交方針を採用しており、パキスタンに対する対テロ支援を条件に、CPECからの撤退やアメリカ企業への特権的な投資機会の提供を求める可能性がある。

 2.軍事・安全保障政策
 
 トランプ政権下でのアメリカは、中国の影響力を抑制するために、パキスタンの長距離弾道ミサイル計画に制約を課すことを含む厳しい条件を提示する可能性がある。これにより、パキスタンがアメリカと中国の間で難しい選択を迫られる状況が生じる可能性が高い。

 結論

 2025年は、中パ関係にとって極めて困難な年になる可能性がある。その要因は以下の通りである。

 1.アフガニスタンからのテロリズムの拡大
特に「バローチ解放軍(BLA)」によるCPEC関連施設への攻撃が、中国にとっての直接的なリスクとなる。

 2.パキスタン国内の政治的不安定
政府が対テロ政策よりも国内の政敵弾圧を優先する姿勢が、治安のさらなる悪化を招いている。

 3.アメリカの対中圧力の強化
ドナルド・トランプ氏の再選が実現すれば、CPECを含む一帯一路構想全体に対する圧力が強まる可能性がある。

 こうした複数の要因が複雑に絡み合い、中国とパキスタンの関係を揺るがすことが予想される。
 
【要点】
 
 中パ関係の現状

 ・中パ経済回廊(CPEC)は中国の一帯一路構想(BRI)の旗艦プロジェクトである。
 ・パキスタン国内の治安悪化により、中国人労働者やCPEC施設がテロの標的となっている。
 ・中国はパキスタンに治安強化を求めているが成果は限定的である。

 アフガニスタンとの関係悪化

 1.テロ支援疑惑

 ・ターリバーン政権がパキスタン国内で活動するテロリストグループを黙認している疑いがある。
 ・「パキスタン・ターリバーン運動(TTP)」や「バローチ解放軍(BLA)」がCPEC関連施設を攻撃している。

 2.デュランド・ライン問題

 ・アフガニスタンはパキスタンとの国境線(デュランド・ライン)を承認しておらず、領土問題が緊張を引き起こしている。

 3.国境での衝突

 ・両国の国境地帯では武力衝突が頻発しており、CPEC進展に悪影響を与えている。

 パキスタン政府の問題

 ・対テロ政策の弱体化

  ⇨ パキスタン政府は政敵弾圧を優先し、治安対策が後回しとなっている。

 ・中国の不満

  ⇨ 中国はパキスタン政府の対応に不満を抱えており、ターリバーンへの影響力も限定的である。

 アメリカの影響

 1.経済的圧力

 ・トランプ氏再選時、アメリカはCPECからの撤退やアメリカ企業への特権的投資を要求する可能性がある。

 2.安全保障政策

 ・アメリカは中国の影響を抑えるため、パキスタンに軍事技術制限を課す可能性がある。

 結論

 ・テロリズムの拡大(特にBLAの活動)がCPECにとっての主要リスクとなる。
 ・パキスタンの治安悪化と政治的不安定が問題を深刻化させている。
 ・トランプ氏再選が中パ関係および一帯一路構想にさらなる圧力を加える可能性がある。

【引用・参照・底本】

Korybko To VOA China: 2025 Might Be A Difficult Year For Sino-Pak Ties Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.26
https://korybko.substack.com/p/korybko-to-voa-china-2025-might-be?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=155754218&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

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