2019年当時の米中貿易協議 ― 2025年05月01日 11:32
【概要】
2019年6月2日、中国政府は、米中貿易協議の中断に関して責任は全て米国にあるとする見解を示し、今後の交渉は誠実さ、相互尊重、平等を基礎とすべきであると強調した。また、同日には中国政府が貿易協議に関する白書を発表した。
王受文商務次官は北京で記者会見を開き、中国は問題解決に向けて米国と協力する意向を示しつつも、米国が最大限の圧力をかけて譲歩を引き出そうとする戦略には応じないと明言した。同次官は貿易協議において実務レベルの代表団の責任者を務めている。
また、同次官は「全てが合意されるまでは、何も合意はない」と述べ、米国が主張する「中国による既存合意の撤回」という見方を否定した。発表された白書においても、中国は米国との貿易戦争を望んでいないが、それを恐れることもないとした上で、中国の発展の権利と国家主権を強調している。
ホワイトハウスに対するコメント要請に対しては、即時の応答はなかった。王次官は、いかなる協議においても双方の妥協が必要であり、米中の立場は対等でなければならず、その結果は相互に利益をもたらすものであるべきと述べた。
白書は、通商合意の前提条件として以下の三点を挙げている。
① 米国による全ての追加関税の撤廃
② 中国による米国製品の購入を現実的な内容とすること
③ 合意文書におけるバランスの取れた内容の確保
これらは、劉鶴副首相をはじめとする中国側代表のこれまでの発言を踏襲したものである。
さらに、王次官は、中国政府が先週発表した「信頼できない」企業リストに関する国際的な懸念に対し、必要以上の解釈がなされている可能性を指摘し、中国は法に基づいて事業を行う外国企業を歓迎する方針であると述べた。加えて、米運送会社フェデックスによる華為技術(ファーウェイ)の荷物の誤配送問題について、中国が調査を開始したことに対して非難すべき理由は存在しないと表明した。
白書は、5月に行われた直近の協議において、米国が「脅しと強制」を用い、「法外な要求」に固執し、貿易摩擦開始以降に課した追加関税の維持や、中国の主権に関する強制的な義務を通商合意に盛り込もうとしたことを批判的に指摘している。
【詳細】
1. 協議中断に関する立場と責任の所在
中国政府は、米中貿易協議の進展が途絶えた責任について、「全て米国にある」とする立場を明確にした。すなわち、中国側は誠意を持って協議に臨んでいたが、米国側が一方的かつ強圧的な態度を取り続けたことにより、交渉が頓挫したと主張している。今後のいかなる協議も、**「誠実さ」「相互尊重」「平等性」**の三原則に基づかなければならないと強調した。
2. 王受文商務次官の発言の詳細
王受文次官は、米中協議において実務レベルの交渉団の責任者であり、今回の発言は中国政府の公式見解としての重みを持つ。
・王次官は「中国は米国と協力して問題を解決したい」という前向きな姿勢を示す一方、米国が取っている「最大限の圧力戦略(maximum pressure strategy)」には応じないと明言した。
・米国側が主張する「中国がすでに合意していた内容の一部を撤回した」という点については、「全てが合意されるまでは、何も合意されたとは言えない」という立場を取り、交渉中の文書や内容は暫定的であるとの論理を展開した。
この発言は、交渉過程で文案の修正が行われることを当然の過程と捉え、それを一方的な非難の材料とする米国の姿勢に反論するものである。
3. 白書の内容と論理構成
中国国務院新聞弁公室が発表した白書では、米中貿易摩擦における中国側の立場、交渉経緯、米国の対応に対する批判、および今後の方針が整理されている。
主な主張は以下の通りである。
・中国は貿易戦争を望まないが、恐れてもいない。 → 「戦わずして屈する」ことはないという強い主権意識が示されている。
・中国の発展権および国家主権は譲れない。 → 通商合意であっても、国内制度の変更や主権に関わる義務の受容は不可能と明言。
・合意の前提条件の明示: 白書では、貿易協議が成立するためには以下の3点が不可欠であるとされる。
① 米国がすべての追加関税を撤廃すること。
② 中国による米国製品の輸入拡大が現実的かつ合理的な規模であること。
③ 合意文書の内容が相互のバランスを取れていること(つまり、中国側の義務ばかりを強調しないこと)。
4. 「信頼できない企業リスト」に関する釈明
王次官は、中国が新たに導入した「信頼できない企業リスト」制度が、「外国企業に対する報復措置」だという一部報道について、「過度な解釈がなされた可能性がある」と指摘した。
・このリスト制度は、法令を遵守し、商業的に正当な活動を行う外国企業には影響を及ぼさないことを強調。
・フェデックス(FedEx)がHuawei宛の荷物を誤って他国に送付した件に関し、中国が調査を行うのは妥当であり、これをもって「報復的行為」と見るのは適切でないと述べた。
5. 米国の交渉態度に対する批判
白書は、5月の協議において米国側が取った態度を次のように記述している。
・米国は「脅し(threat)と強制(coercion)」を用いた。
・米国は「法外な要求(unreasonable demands)」に固執し、中国に対して一方的な義務の履行を迫った。
・交渉の過程で、中国の国家主権にかかわる内容を強制的に合意文書に盛り込もうとした。
このような姿勢は、協議の根本精神に反するとして、中国側は明確に拒絶している。
総括
本件は、2018年から激化した米中貿易摩擦における重要な節目であり、中国が初めて包括的な白書を通じて自国の立場と要求を体系的に国際社会に説明した点に意義がある。特に「交渉は対等な立場でなければならない」「主権には一切譲歩しない」という姿勢は、今後の交渉再開の鍵を握る論点である。
【要点】
米中貿易協議に関する中国側の主張(2019年6月)
1.協議中断に関する立場
・米中貿易協議の中断の責任は全て米国側にあると主張。
・今後の協議には**「誠実さ」「相互尊重」「平等性」**が不可欠であると強調。
2.王受文商務次官の発言
・中国は問題解決のために協力的な姿勢を保つ意志を表明。
・米国の「最大限の圧力」戦略に対しては、譲歩を強いられることはないと断言。
・「全てが合意されるまでは、何も合意されていない」との原則を提示し、合意撤回の指摘を否定。
3.白書における基本的立場
・中国は貿易戦争を望まないが、恐れもしないとの姿勢を明確に表明。
・中国の発展権および国家主権の尊重を強く主張。
4.合意成立のための中国側の前提条件(3点)
・米国がすべての追加関税を撤廃すること。
・中国による米国製品の購入は現実的かつ実行可能な範囲であること。
・通商合意の文書内容が相互の利益とバランスを保つものであること。
5.「信頼できない企業リスト」に関する釈明
・同制度は合法的な外国企業を標的にしないと明言。
・「過大な解釈」があった可能性に言及。
・FedExによるHuawei荷物誤配送については、調査に正当性があると主張。
6.米国の交渉態度に対する批判
・米国は交渉において「脅しと強制」を使用した。
・米国は「法外な要求」を一方的に押し付けた。
・米国は合意文書に中国の主権に関する強制的義務を盛り込もうとした。
【桃源寸評】❤️
I.第1次トランプ政権
第1次トランプ政権(2017年1月〜2021年1月)における米中関係は、歴史的に見ても最も緊張が高まった時期の一つであり、以下の分野で特に対立が深まった。以下、分野別に説明する。
1. 貿易戦争(米中通商摩擦)
背景と展開
・トランプ政権は「アメリカ第一主義(America First)」を掲げ、対中貿易赤字の是正を主要政策目標とした。
・2018年3月、米国は「通商拡大法232条」および「通商法301条」に基づき、中国製品に対する高関税措置を開始した。
・2018年7月以降、数千億ドル規模の追加関税が段階的に発動された。
・中国もこれに報復し、米国製品に対して同様の関税を課したため、「米中貿易戦争」と称される全面的対立に発展した。
第一段階合意(Phase One Deal)
・2020年1月、第一段階の通商合意が署名された。
⇨中国は今後2年間で米国製品(農産品、エネルギー、製造業品など)を2,000億ドル相当追加購入することに同意。
⇨米国は一部関税の引き下げや追加措置の見送りを表明。
・しかし、新型コロナウイルスの世界的流行により、中国側の輸入拡大が滞り、合意履行は限定的にとどまった。
2. 技術・安全保障分野での対立
ファーウェイ・ZTEへの制裁
・米国は、中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」や「中興通訊(ZTE)」が安全保障上の脅威であると主張。
・2019年5月、トランプ政権はファーウェイを「エンティティ・リスト」に追加し、米国企業との取引を事実上禁止した。
・5G技術やインフラ整備をめぐり、西側同盟国にもファーウェイ排除を要請した。
TikTok・WeChatへの制限
・2020年、米国政府は中国発のアプリ「TikTok」と「WeChat」が米国人の個人情報を中国政府に提供する恐れがあると指摘。
・トランプ大統領は大統領令により、これらアプリの米国内での取引を禁止しようと試みたが、司法の差し止めにより実現しなかった。
3. 地政学・安全保障面の緊張
台湾問題
・トランプ政権は台湾との関係を強化し、台湾への兵器売却を加速させた。
・2020年には米国政府高官が数十年ぶりに公的に台湾を訪問し、中国の強い反発を招いた。
南シナ海・インド太平洋戦略
・米国は中国の南シナ海における人工島建設・軍事拠点化を「国際法違反」と批判。
・トランプ政権下で「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)戦略」が明示され、日米豪印(クアッド)の連携が強化された。
香港・新疆ウイグル問題
・香港の「国家安全維持法」施行に対し、米国は香港への優遇措置を撤廃。
・新疆ウイグル自治区における人権問題(強制労働、収容施設など)に関連して、中国高官に対する制裁措置を発動。
4.「デカップリング(脱中国)」政策
・トランプ政権はサプライチェーンの「中国依存脱却」を奨励し、米国内回帰(reshoring)を推進。
・これは半導体、医薬品、レアアースなど戦略物資に関して特に顕著であった。
まとめ
第一次トランプ政権における米中関係は、単なる貿易摩擦にとどまらず、技術・安全保障・人権問題など広範な分野に及ぶ構造的対立へと進化した。トランプ政権下で築かれた対中強硬路線は、その後のバイデン政権にも多く引き継がれている。
II.第2次トランプ政権
現米政権のトランプ大統領(2025年5月現在)は、2019年当時から対中政策の本質的な反省を欠き、依然として紋切り型の「脅しと強制」に依拠する旧態依然の手法をもって中国に対応している。一方、中国はその間に経済構造の転換を進め、対米依存率を意図的に引き下げるとともに、「内循環」を中核とした自立型経済戦略を強化してきた。
具体的には、以下のような動きが挙げられる。
・輸出主導から国内需要主導への転換:製造業の高度化(中国製造2025)や中間層の拡大を通じて、消費内需の拡大を促進。
・サプライチェーンの多角化:米国依存の高かったハイテク分野において、自国開発と第三国(ASEAN、中央アジア、アフリカなど)との連携を強化。
・「一帯一路」構想の深化:ユーラシア経済圏やグローバル・サウスとの経済関係を拡充し、対米圧力の相殺を図る。
・人民元の国際化とデジタル人民元の展開:ドル依存のリスク軽減を意図し、通貨主権の強化を推進。
このように、中国は米国の強硬姿勢に反発するだけでなく、それを長期的な経済自立への契機として捉え、制度的・構造的対応を重ねてきた。
この対比において、トランプ政権の対中アプローチは、旧来の制裁一辺倒の思考から脱却できず、相手の対応や戦略転換を軽視している点が批判される。交渉における実利追求と威圧的姿勢の繰り返しは、むしろ中国の戦略的忍耐と自己強化を助長してきた可能性が高い。
III.展望と可能性
・主導権は単一国家には集中せず、多極化・分野別支配へと移行する。
・競争と協調が並存する「選別的ブロック経済+冷却された安全保障競争」が支配的となる可能性が高い。
・中小国(ASEAN・アフリカ諸国など)「戦略的曖昧さ」を保ちつつ、複数の大国と関係を築く姿勢を強める。
・米国の一極支配体制(unipolarity)はすでに終焉しており、以下のような現象が進行していると位置づけられる。
米国の相対的衰退の具体相
(1)同盟国との距離
⇨トランプ政権下では伝統的同盟国(NATO・日韓など)との摩擦が増大し、米国主導の国際秩序の正統性が揺らいだ。
⇨現政権も「米国第一」の枠組みを変えておらず、国際的信認の回復は限定的である。
(2)国内分断と制度疲労
⇨移民、選挙制度、教育、治安、社会保障などをめぐる分断が深刻化し、長期的な国家戦略遂行力に支障。
⇨産業政策や対外政策も政権交代ごとに大きく変化し、一貫性を欠く。
(3)経済・技術の追い上げ
⇨中国はAI・5G・EV・宇宙・金融領域で米国に次ぐ技術圏を形成しつつあり、「米国の技術独占時代」は終わりつつある。
中国のさらなる台頭の基盤
(1)制度の継続性と計画性
⇨中国共産党の一党支配体制により、長期計画(「中国製造2025」や「2035年ビジョン」)が一貫して実施可能。
⇨政策決定の即応性と資源動員能力において、民主主義国家と異なる優位性を保持。
(2)対米依存からの離脱
・貿易、金融、サプライチェーンの米国依存を年々低下させており、「自主的経済圏(ex. BRICS+)」の形成が進む。
(3)グローバル・サウスの支持
⇨アフリカ・中東・中南米において、インフラ投資と非干渉外交を通じた影響力拡大が著しい。
結論
このような国際情勢の潮流においては、「米国の覇権復活」よりも、「中国を含む複数の大国が分野別に主導権を競い合う多極的秩序」への移行が現実的である。
さらに、中国は米国式の同盟ネットワーク構築には消極的であるが、「非同盟圏における支配力拡大」においては、地政学的優位を着実に強めている。
IV. 米中関係をめぐる主要年表(2018年~2025年5月)
・2018年
米国:トランプ政権対中関税第1弾を発動(知財侵害を理由)、 米中「貿易戦争」本格化
中国:報復関税を発動、米中交渉開始、経済工作会議で「内需拡大」重視を打ち出す
・2019年
米国:5月、米国が制裁関税を再強化(中国の合意撤回と非難)、ファーウェイへの禁輸措置
中国:6月、白書「中米経済貿易協議に関する中国の立場」を公表、「不確実企業リスト制度」の導入発表
・2020年
米国:1月、「第一段階通商合意」に署名(関税の一部維持)、コロナ禍により対中批判再燃、
中国:通商合意履行(農産物購入など)、デジタル人民元実証開始
・2021年
米国:バイデン政権発足:関税は維持、戦略的競争に軸足
中国:「双循環戦略(内外循環)」を正式採用
・2022年
米国:米国、半導体分野で中国への輸出規制を強化
中国: 技術自立政策を加速(半導体国産化)、一帯一路拡張に資金投入
・2023年
米国:米議会、対中警戒を強め敵対的法案相次ぐ
中国:RCEP(地域的な包括的経済連携)などを活用し脱米多角化を進展
・2024年
米国:トランプ氏再登場、強硬路線復活、関税・制裁の再発動
中国:中東・ASEANとの経済連携強化、デジタル人民元の国際取引拡大
・2025年(現時点)
米国:トランプ政権再び中国に「圧力外交」、台湾問題などでも強硬姿勢 - 対
中国:米輸出比率が低下傾向、「中華式現代化」に基づく制度的自立を強調
この年表は、米国の一貫した「圧力と制裁」に対し、中国が段階的かつ戦略的に経済的自立・制度的対応を強化してきた過程を示している。
V.中米経済貿易協議、中国側の基本的立場を示す7つの言葉
以下は、「中米経済貿易協議、中国側の基本的立場を示す7つの言葉」人民網日本語版 2019年06月03日15:42 記事の全引用である。
中国国務院新聞弁公室は2日、「中米経済貿易協議に関する中国側の立場」白書を発表した。白書には中米経済貿易協議に対する中国の基本的姿勢を明らかにする7つの言葉がある。中国新聞社が伝えた。
■「中国は貿易戦争を望まないが、恐れてもおらず、必要時には戦わざるを得ない。この姿勢に変更はない」
経済貿易問題をめぐる両国間の溝や摩擦について、中国は協力の方法で解決し、互恵・ウィンウィンの合意形成を推し進めることを望んでいる。だが協力には原則があり、協議には譲れぬ一線がある。重大な原則問題において中国は決して譲歩しない。
■「中傷、土台崩し、最大限の圧力といった手段で合意に達することを企てては、双方間の協力関係を破壊し、歴史的チャンスを逸することになるだけだ」
協議で「後退した」との米国の対中非難は全くナンセンスだ。米政府は過去10数回の交渉で要求を変え続けており、「後退した」との恣意的な対中非難は無責任だ。
■「双方が合意するうえでの前提条件は米国が全ての追加関税を撤廃することであり、購入は実際の状況に合致する必要がある。同時に、均衡ある、双方の共通利益にかなう合意文書を確保する必要がある」
経済貿易合意は平等で互恵的なものでなければならない。中国の核心的利益に関わる重大な原則問題では決して譲歩しない。
■「一方がもう一方に無理強いして交渉を行う、または交渉結果が一方のみを利するものであるなら、そのような交渉が成功することはない」
協議は互いに尊重し合う、平等で互恵的なものである必要がある。平等互恵とは協議における双方の地位が平等であり、協議の成果が互恵的であり、最終的な合意がウィンウィンであるということだ。
■「協議には双方の相互理解と共同努力が必要だ」
双方が協議の過程に共に善意をもって臨み、相手国の立場を十分に理解して初めて、協議の成功に向けた良好な環境づくりができる。さもなくば長期的に有効な合意の基礎を形成することはできず、持続可能な合意、実行可能な合意に達するのは困難だ。
■「重大な原則問題において、中国は決して譲歩しない」
どの国にも自らの原則がある。協議において一国の主権と尊厳は尊重されなければならず、双方間の合意は平等で互恵的なものであるべきだ。重大な原則問題において、中国は決して譲歩しない。
■「交渉の扉は開けているが、争いを望むのであれば、戦うことも辞さない覚悟だ」
中国は関税措置ではなく対話による問題解決を望んでいる。中国国民の利益のため、米国民の利益のため、全世界の人々の利益のため、中国は理性的に対処するが、いかなる圧力も恐れることはなく、いかなる挑戦も迎え撃つ準備が整っている。
中米経済貿易協議、中国側の基本的立場を示す7つの言葉 人民網日本語版 2019.06.03
https://j.people.com.cn/n3/2019/0603/c94474-9584137.html
https://j.people.com.cn/n3/2019/0603/c94474-9584137-2.html
VI.白書「中米経済貿易協議に関する中国の立場」全文
以下は、白書「中米経済貿易協議に関する中国の立場」全文である。中国の考え方を示す、そして知る非常に重要な内容なので、Vと共に、原文のまま引用する。
白書「中米経済貿易協議に関する中国の立場」全文
2019-06-17 21:00
北京6月2日発新華社電によると、中国国務院新聞〈報道〉弁公室は同日、白書「中米経済貿易協議に関する中国の立場」を発表した。全文次の通り。
目次
前文
一、米国が起こした対中経済貿易摩擦は両国と世界の利益を損なっている
二、米国は中米経済貿易協議でくるくる変わり、信義を重んじない
三、中国はつねに平等・互恵・信義に基づく協議の立場を堅持している
結語
前文
中米の経済・貿易関係は両国の「バラスト」と「ブースター」であり、両国人民の根本的利益に関わり、世界の繁栄と安定に関わるものだ。国交樹立後、両国の経済・貿易関係は発展を続け、協力分野がたえず広がり、協力水準がたえず上がった。そして高度に相互補完し、利益が融合した互恵・ウィンウィン関係を形成し、両国が利益を受けるだけでなく、全世界に恩恵が及んでいる。
発展段階、経済制度が違うことから、経済・貿易協力において両国間に意見の食い違いや摩擦が生じるのは避けがたい。中米経済貿易関係発展の歩みでは、何度も曲折が生じ、困難な局面にも臨んだ。両国は理性、協力の態度にのっとり、対話と話し合いを通じて問題を解決し、矛盾を解消し、意見の食い違いを縮小した。こうして両国の経済貿易関係は一層成熟した。
2017年の新政権登場後、米国は追加関税などの手段で脅し、主要な貿易相手との間で頻々と経済貿易摩擦を起こした。2018年3月以降、米国政府が一方的に中米経済貿易摩擦を起こす中で、中国はやむなく強力な対応措置をとり、国家と人民の利益を断固守った。同時に、つねに対話・話し合いによる係争解決の基本的立場を堅持し、米国と複数回の経済貿易協議を進め、経済貿易関係の安定に努めた。中国の姿勢は一貫し、明確だ。中米が協力すれば共に利し、闘えば共に傷つくことになり、協力こそ双方の唯一の正しい選択だ。両国の経済・貿易分野の意見の食い違いと摩擦については、中国は協力の方法でこれを解決し、互恵・ウィンウィンの合意を図ることを願っている。しかし協力には原則があり、協議にはボトムライン〈譲れない一線〉があり、重大な原則問題で中国は決して譲歩しない。貿易戦争については、それを望まず、恐れず、必要な時はやらざるをえない――この姿勢はずっと変わっていない。
中米経済貿易協議の基本的状況を全面的に紹介し、中米経済貿易協議に対する中国の政策・立場を説明するため、中国政府は特にこの白書を発表する。
一、米国が起こした対中経済貿易摩擦は両国と世界の利益を損なっている
現米政権は「米国第一」政策をとり、対外的に一連の一国主義と保護主義の措置をとり、なにかというとすぐに関税の「棍棒」を振り回し、自身の利益要求を他国に押しつけている。米国は長年封印していた「201調査」「232調査」などの手段を使って、主要な貿易相手に頻々と手を出し、世界の経済・貿易の枠組みをかく乱している。米国はまた矛先を中国に定め、2017年8月に一方的色彩の強い「301調査」を発動し、中国が長年来、知的財産権保護の強化と外資のビジネス環境改善などの面でたゆまず努力し大きな成果を収めてきたことを無視して、中国に対し諸々の客観的でないマイナスの評価を下し、追加関税、投資制限などの経済・貿易制限措置をとって中米経済貿易摩擦を起こした。
米国は中米の経済構造、発展段階の特色と国際分業の現実を無視し、かたくなに中国が不公平、不平等な貿易政策をとって、米国が対中貿易で赤字となり、二国間経済貿易取引で「損をする」結果を招いたと考え、中国に対して一方的な追加関税措置をとった。実際には、経済グローバル化時代に、中米両国の経済は高度に融合し、共同で完全な産業チェーンを構成して、両国経済は身も心も一つ、互恵・ウィンウィンであって、貿易赤字を「損」と考えるのは見当違いである。米国の中国に対する貿易制限措置は中国にマイナスで、米国にもマイナスで、世界にはもっとマイナスである。
(一)米国の追加関税措置は他人を損ない自らをも利さない
米国政府による中国製品への追加関税は、二国間の貿易・投資協力を阻害し、両国ひいては世界の市場の自信と経済の安定に影響を及ぼしている。米国の関税措置は中国の対米輸出額の落ち込みを招き、2019年1~4月は前年同期比9・7%減で、5カ月連続の減少となった。同時に、中国が米国の関税上乗せに対してやむなく追加関税の対応をとったことから、米国の対中輸出は8カ月続けて減少した。中米経済貿易摩擦が不確実性をもたらしたことから、両国企業は投資に対して模様眺めの態度をとり、中国の対米投資が落ち込みを続け、米国の対中投資の伸び率もあきらかに低下した。中国の関係方面のまとめによると、2018年の中国企業の対米直接投資は前年比10%減の57・9億ドルだった。2018年の米国の対中投資実績は26・9億ドルで、伸び率が2017年の11%から1・5%へと大幅に下がった。中米経済貿易摩擦の見通しがはっきりしないことから、WTOは2019年の世界の貿易の伸び率を3・7%から2・6%に引き下げた。
(二)貿易戦争は米国に「グレート・アゲイン」をもたらしていない
追加関税措置は米国の経済成長を後押ししないだけでなく、逆に著しく傷つけた。
第一に米国企業の生産コストを引き上げた。中米両国の製造業は相互依存度が高く、多くの米製造業者が中国の原材料と中間品に依存しており、短期間に適当な代替供給業者を探すのが難しく、追加関税のコストを引き受けるほかない。
第二に米国の国内物価をつり上げた。物がよくて安い中国消費財の輸入は米国のインフレ率が長い間低く保たれた重要な要因の一つだった。追加関税後、中国製品の最終販売価格が高騰し、実際には米国の消費者も関税コストを引き受けている。全米小売業協会の研究によると、中国家具の25%関税だけで、米国の消費者は毎年46億ドルの余計な支出をすることになる。
第三に米国の経済成長と市民生活に影響した。全米商工会議所とロジウムグループが2019年3月共同で発表した報告書によると、中米経済貿易摩擦の影響を受けて、2019年と今後4年間に米国内総生産(GDP)は毎年全体の0・3%から0・5%にあたる640億ないし910億ドル減る可能性がある。米国がすべての中国製品に25%の関税をかけた場合、今後10年間で米国のGDPは合計1兆ドル減少する。米シンクタンク「トレード・パートナーシップ」が2019年2月に発表した研究報告書によると、米国がすべての中国製品に対する関税を25%に引き上げた場合、GDPは1・01%減少、雇用は216万減少し、四人家族の年間の支出は2294ドル増加するという。
第四に米国の対中輸出を阻害した。米中貿易全国委員会が2019年5月1日発表した「各州対中輸出報告―2019」は、2009年から18年までの10年間、米国の対中輸出は110万を超える米国の雇用を支えており、中国市場は米国経済にとって極めて重要である。この10年間に、米国の48州の対中モノ輸出が伸びており、うち44州は二桁成長だった。しかし中米経済貿易摩擦が激化した2018年、対中モノ輸出が伸びたのは16州にすぎず、34州の対中輸出が減少し、うち24州は二桁の減少で、中西部の農業州の損害がもっともひどかった。関税措置の影響を受ける米農産物の対中輸出は前年より33・1%減少し、うち大豆の減少幅は50%に近く、米国の業界では40年近くかけて育ててきた中国市場がこれによって失われることを心配している。
(三)米国の貿易いじめ行為は世界の災い
経済グローバル化は阻むことのできない時代の潮流で、自らの利益のために災いを人に押し付ける一国主義、保護主義は人心を得ない。米国の一連の保護貿易措置は世界貿易機関(WTO)のルールに違反し、多角的貿易体制を損ない、グローバル産業チェーンと供給チェーンを重大に阻害し、市場の自信を損ない、世界経済の回復に厳しい挑戦〈試練〉をもたらし、経済グローバル化のすう勢に重大な脅威となっている。
1、多角的貿易体制の権威を損なう。米国は国内法に基づき「201条」、「232条」、「301条」など一連の一方的調査を発動し、また追加関税措置を取り、WTOの最も基本の、最も核心の最恵国待遇や関税拘束などのルールに重大に違反している。こうした一国主義、保護主義行為は中国と他のメンバーの利益を損なうだけでなく、WTOとその紛争解決メカニズムの権威性を損なうもので、多角的貿易体制と国際貿易秩序は危険な状態に直面している。
2、世界経済の成長を脅かす。世界経済はまだ国際金融危機の暗い影から完全には抜け出しておらず、米政府が経済貿易摩擦をエスカレートさせ、関税水準を引き上げているため、関係国は相応の措置を取らざるを得ず、世界の経済貿易秩序が乱れ、世界経済の回復が阻害され、各国の企業の発展と人民の幸福に災いがもたらされ、世界経済を「衰退のわな」に陥らせている。2019年1月、世界銀行は「世界経済見通し」レポートを発表し、2019年の世界経済成長予測を2・9%まで一段と引き下げ、貿易関係の持続的緊張が主要な下振れリスクの一つとした。国際通貨基金(IMF)が2019年4月に発表した「世界経済見通し」レポートは2019年の世界経済成長予測を2018年に予想した3・6%から3・3%に下方修正し、経済貿易摩擦が世界経済の成長を一段と抑制し、すでに弱い投資をさらに弱くする可能性があるとした。
3、グローバル産業チェーン、供給チェーンを乱す。中米は共にグローバル産業チェーン、供給チェーンの重要な部分を占めている。中国が米国に輸出する最終製品には他国から輸入した中間製品と部品が大量に含まれている。米国の中国から輸入した製品に対する追加関税の被害者は米企業を含め、中国企業と協力する多くの多国籍企業である。追加関税措置は供給チェーンのコストを人為的に増やすもので、供給チェーンの安定と安全に影響を与える。一部企業は供給チェーンのグローバル配置を見直さざるを得ず、グローバル資源の最適配置が実現できない。
米国の最新の対中関税引き上げ措置は問題を解決できないだけでなく、各国の利益を一段と損なうことは予見可能で、中国は断固反対する。最近、米政府はいわゆる国家安全保障という「でっち上げ」の名義で華為(ファーウェイ)など中国の多くの企業に対し「ロングアーム管轄」制裁を行っており、中国は同様に断固反対する。
二、米国は中米経済貿易協議でくるくる変わり、信義を重んじない
米国が経済貿易摩擦を起こしたことで中国は対応措置を取らざるを得ず、両国の貿易・投資関係が影響を受けている。双方は両国人民の幸福のニーズ、それぞれの経済発展のニーズから出発し、交渉のテーブルに着き、協議を通じ問題を解決する必要があると考えた。2018年2月、経済貿易協議が始まって以来、すでに非常に大きく進展し、両国は大部分の内容について合意したが、協議は数回紆余曲折があり、それはいつも米国の合意違反、くるくる変わる、信義を重んじないのが原因である。
(一)1回目のくるくる変わる
中国は当初から中米経済貿易摩擦は交渉・協議を通じ解決することを主張している。2018年2月初め、米政府は中国がハイレベル代表団を米国に派遣し、経済貿易協議を行うことを希望した。中国は最大限の誠意を示し、積極的に努力し、米国と数回のハイレベル経済貿易協議を行った。貿易不均衡などの問題について重点的に踏み込んだ意見交換を行い、米国からの農産物、エネルギー製品などの輸入拡大で初歩的合意に達し、重要な進展を収めた。しかし、2018年3月22日、米政府はいわゆる対中「301条調査」レポートを発表し、中国が「知的財産権を盗んでいる」、「技術移転を強制している」など事実に基づかない非難を行い、それを基に中国から輸入する総額500億ドルの商品に25%の追加関税を課すと発表した。
(二)2回目のくるくる変わる
中国政府は両国関係の大局を重んじ、作業チームを再度派遣し、米国と真剣な協議を行った。2018年5月19日、中米は共同声明を発表し、「貿易戦争をしない」ことで共通認識に達し、ハイレベルの意思疎通を続け、それぞれの関心を寄せる経済貿易問題の解決を積極的探ることで合意したとした。米国は対中追加関税計画の実施を一時停止すると公に発表した。2018年5月29日、米政府は国内商工業界と広範な国民の反対を顧みず、双方が共同声明を発表してからわずか10日後、協議の合意を覆し、中国の経済体制、貿易政策を乱暴に非難し、追加関税計画を引き続き推進すると宣言した。2018年7月初めから米国は3回に分け、中国が米国に輸出する500億ドルの商品に25%の追加関税を課し、2000億ドルの商品に10%の追加関税を課し、2019年1月1日から税率を25%に引き上げるとし、残りの商品についてもすべて追加関税を課すと脅し、両国間の経済貿易摩擦を急速にエスカレートさせた。中国は国の尊厳と人民の利益を守るため、必要な反応を取らざるを得ず、米国から中国に輸出される累計1100億ドルの商品に追加関税を課した。
3回目のくるくる変わる
2018年11月1日、トランプ大統領は習近平主席と電話会談を行い、首脳会談を提案した。12月1日、中米両国元首はアルゼンチンでの20カ国・地域グループ(G20)首脳サミットの合間に会談し、二国間の経済貿易問題について重要な共通認識に達し、新たな追加関税を互いにやめることで合意し、90日内に集中的に協議し、すべての追加関税を取りやめる方向で努力することで合意した。その後90日間、双方の作業チームは北京とワシントンで3回のハイレベル協議を行い、中米経済貿易合意の原則的内容について多くの初歩的共通認識に達した。2019年2月25日、米国はすでに決めていた3月1日からの中国から輸入する総額2000億ドルの商品に対する関税引き上げの期限を延長すると発表した。3月末から4月末まで両国の作業チームはまた3回のハイレベル協議を行い、実質的進展を収めた。数多くの協議を経て、両国は大部分の問題で一致した。残っていた問題について中国政府は双方が互いに理解、譲歩し、意見の相違を解決する方法を共同で探すことを提案した。
しかし、米政府は欲に限りがなく、いじめ主義の態度と極限の圧力の手段で、不合理な要求つり上げを行い、経済貿易摩擦以来上乗せした関税をすべて撤廃しないとし、合意文書の中に中国の主権に関わる無理な要求を明記することを主張し、残っている意見の相違を埋めることが遅々として進まなくなった。2019年5月6日、米国は中国の立場が「後退」と無責任に非難し、交渉が終わらない責任を中国になすりつけようとし、また中国の断固とした反対も顧みず、中国から輸入する2000億ドルの商品に対する追加関税の税率を5月10日からそれまでの10%から25%に引き上げ、協議の重大な挫折をもたらした。5月13日、米政府は中国から輸入する残りの約3000億ドルの商品に対する追加関税上乗せの手続きを始めると発表した。こうした行為は協議を通じて摩擦を解消するという両国元首の共通認識に背き、両国と世界各国人民の期待に背くもので、二国間の経済貿易協議と世界経済の成長見通しに暗い影をもたらすものである。中国は自らの利益を守るため、追加関税の措置で対応せざるを得ない。
(四)中米経済貿易協議が重大な挫折を被った責任は完全に米国政府にある
米国政府は中国が協議の中で「後退した」と責めたが、それはまったく根も葉もないことだ。双方の協議がまだ行われている過程で、文書の内容および関連の表現について修正意見を出し、調整するのは貿易交渉の通常のやり方である。米国政府はこれまでの10回余りにわたる交渉の中で関連の要求を何度も見直しており、中国が「後退した」と責めるのは無責任である。歴史の経験が証明しているように、汚水を浴びせ〈デマを飛ばして中傷する意〉、足をすくい、極限の圧力をかけるなどの手段を通じて合意を得ようと試みるのは、双方の協力関係をぶち壊し、歴史的チャンスを失うだけである。
君子の国、先ず礼を尽くしておき、然る後に兵を用いる〈まずは礼を尽くして交渉し、うまくいかなければ力に訴えること〉。米国が新たな〈追加〉関税による脅しをかけたあと、国際社会は一様に中国が訪米協議計画を取り消すかもしれないと心配し、中米経済貿易協議がどうなるのかに関心を寄せていた。中国は中米経済貿易の大局を守ることから出発し、理性的・自制的な姿勢を保ち、双方が以前に交わした約束に基づき、2019年5月9日から10日までハイレベル代表団を米国に派遣して第11回経済貿易協議を行い、米国と対話を通して経済貿易の不一致を解決するという最大の誠意および責任ある姿勢をはっきりと示した。中米双方は率直かつ誠実で、建設的な交流を行い、努力して意見の相違をコントロールし、引き続き協議を推進していくことで合意した。中国は一方的に関税を上乗せする米国のやり方に強く反対し、厳正な立場を明らかにし、必要な措置をとって反撃せざるを得なくなるだろうと表明した。中国は、経済貿易協議は必ず平等、互恵なものでなければならず、中国の核心の利益に関わる重大な原則問題では絶対に譲歩しないと再度強調した。双方が合意を得る前提は米国がすべての追加関税を撤廃し、調達〈の数字〉を実際に見合うものにすべきと同時に、合意文書のバランスを確保し、双方の共通の利益に合致させることである。
三、中国はつねに平等・互恵・信義に基づく協議の立場を堅持している
中国政府は終始、貿易戦で脅し合い、絶えず関税を上乗せするやり方は経済貿易問題の解決に役立たないと考えている。中米は相互尊重、平等互恵の精神を堅持し、善意と信義にのっとり、協議を通じて問題を解決し、意見の相違を狭め、共通の利益を拡大し、グローバル経済の安定と発展を共に守るべきである。
(一)協議は相互尊重、平等互恵でなければならない
世界で最も大きい二つの経済体〈エコノミー〉並びに貿易大国として、中米の経済貿易協力の中に幾つかの意見の相違が存在するのは正常なことであり、カギはどのようにして相互信頼を増進し、協力を促進し、意見の相違をコントロールするかにある。中国は両国の共通の利益と世界の貿易秩序の大局を守ることから出発し、対話と協議を通じた問題の解決を堅持し、最大の忍耐強さと誠意で米国が持ち出した関心事に応え、小異を残して大同に就く姿勢で意見の相違を適切に処理し、さまざまな困難を乗り越え、実務的な解決案を示し、二国間の経済貿易協議推進のために大変な努力を払ってきた。協議の過程で、中国は相互尊重、平等互恵の原則を終始堅持し、双方がどちらも受け入れることのできる合意を得るために尽力してきた。
相互尊重とは、相手方の社会制度、経済体制、発展の道と権利を尊重し、互いの核心の利益と重大な関心を尊重しなければならず、「ボトムライン」に挑まず、「レッドライン」を越えず、一方の発展の権利を犠牲にすることを代価としてはならず、ましては一国の主権を損なってはならないということである。平等互恵とは、双方の協議の地位は平等なもの、協議の成果は互恵なもので、最終的に得られる合意はウィンウィンなものであるということだ。もし一方が他方に強い圧力をかけて交渉を行い、または交渉の結果が一方だけに利益を得させるものであるなら、こうした交渉はうまくいくはずがない。
(二)協議は互いに歩み寄り、信義を基礎としなければならない
協議は双方の相互理解と共同の努力が必要である。協議は関係する当事者が討議を通じ、直面する問題について共通認識を求め、または互いに妥協するプロセスである。協議期間は変数〈変化要因〉が多い。各国が自身の利益から出発し、それぞれの段階において各種の変化に対しそれぞれの反応を示すのは、協議の常態である。中国政府は、経済貿易協議は問題の解決を求める有効なやり方だと考えている。双方が協議の過程で善意の姿勢をみせ、相手方の立場を十分に理解してはじめて、協議を成功させるための良好な条件を作り出すことができる。さもなければ、長期にわたる有効な合意を得るための基礎を形成することはできず、持続可能、実行可能な合意を得ることは難しい。
信義は協議の基礎である。中国政府は終始、信義を根本とし、きわめて大きな誠意をもって米国政府と協議を進めてきた。中国は米国の関心事を高度に重視しており、双方の食い違いを解消する有効な道筋と方法を探ることに努めてきた。双方がこれまでに行った11回のハイレベル経済貿易協議は重大な進展が得られ、これらの協議成果は中国の利益に合致するだけでなく、米国の利益にも合致しており、双方が共に努力し、互いに歩み寄った結果である。中国は協議の中で信用を重んじ約束を重んじるとともに、もし双方の合意が得られたなら、中国は自身の約束を必ず真剣かつ確実に履行すると何度も強調した。
(三)中国は原則問題で決して譲歩しない
いかなる国にも自らの原則がある。協議の中で、一国の主権と尊厳は必ず尊重されなければならず、双方が得る合意は平等互恵のものであるべきだ。重大な原則問題において、中国は決して譲歩しない。中米双方は国の発展の差異性、段階性を見て取り、認め、相手方の発展の道と基本制度を尊重すべきである。一つの合意を通して全ての問題を解決することを期待してはならず、それだけでなく、合意が双方のニーズを同時に満たし、合意のバランス性が実現されるのを確実にする必要がある。
米国は最近、対中追加関税の引き上げを発表したが、これは二国間の経済貿易問題の解決に不利であり、中国はこれに強く反対し、自身の合法的権益を守るために反応を示さざるを得なくなった。中国の立場と姿勢は一貫し、明確なものであり、中国は関税措置ではなく対話を通して問題を解決することを希望する。中国人民の利益のため、米国人民の利益のため、全世界人民の利益のため、中国は理性的に向き合う。しかし、中国はいかなる圧力も恐れることがなく、また、いかなる挑戦も迎える準備が整っている。話し合うなら、扉が大きく開かれている。戦いを挑むなら、徹底的に受けて立つ。
(四)いかなる挑戦も中国の前進の歩みを阻むことができない
中国の発展は順風満帆なものではなく、必然的に困難や挫折があり、さらには非常に危険なことさえある。さまざまなリスクと試練を前に、中国には困難に立ち向かい、危機をチャンスに変え、広々とした新たな天地〈世界〉を開拓する自信がある。
情勢がどのように発展、変化しようとも、中国は必ず自身のことをしっかりやっていく。改革開放を通じて自身を発展させ、強大にすることは経済貿易摩擦に対応する根本的道である。中国は国内市場の需要が非常に大きく、供給サイド構造改革の推進は製品と企業の競争力の全面的向上をもたらすだろう。財政政策と金融政策には十分な余地があり、中国は経済が持続的かつ健全に発展する良好な状態を保つことができ、経済の見通しについては非常に楽観している。
中国は引き続き改革開放を深化させ、中国の扉が閉じることはなく、ますます大きく開かれるだけである。習近平主席は第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムの開幕式で基調講演を行った際、中国は一連の重大な改革開放措置を講じ、制度的、構造的な段取りを強化して、より幅広い分野での外資の市場参入拡大、より大きな度合いでの知的財産権保護の国際協力強化、より大きな規模での商品とサービスの輸入増加、国際的なマクロ経済政策協調のより効果的な実施、対外開放政策の貫徹実行のさらなる重視を含め、より高い水準の対外開放を促進すると宣言した。一層開放的な中国は、世界と一層好ましいインタラクションを形成し、一段と進歩、繁栄する中国と世界をもたらすだろう。
結語
協力は中米両国の唯一の正しい選択であり、ウィンウィンこそがより良い未来に向かうことができる。中米経済貿易協議の全般的な方向において、中国は後ろ向きではなく、前向きに考えている。双方の経済貿易分野での意見の相違と摩擦は、最終的に対話と協議を通じて解決する必要がある。中米が互恵ウィンウィンの合意を得ることは中米両国の利益に合致し、世界各国の期待に適うものである。米国が中国と互いに歩み寄り、相互尊重、平等互恵の精神にのっとり、経済貿易をめぐる意見の相違をコントロールし、経済貿易協力を強化し、協調、協力、安定を基調とする中米関係を共に推進し、両国と世界の人民の幸福を増進することを望んでいる。
白書「中米経済貿易協議に関する中国の立場」全文 中華人民共和国駐日日本国大使館 2019.06.17
https://jp.china-embassy.gov.cn/jpn/jzzg/201906/t20190617_2063147.htm?utm_source=chatgpt.com
米中摩擦の中国白書、原則で譲歩せずを強調 JETRO 2019.08.22
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/dd960ab92cf7e7d5.html?utm_source=chatgpt.com
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
中国、今後の貿易協議で敬意求める-中断の責任は全て米国に Bloomberg 2019.06.02
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-06-02/PSGAN86KLVR401
2019年6月2日、中国政府は、米中貿易協議の中断に関して責任は全て米国にあるとする見解を示し、今後の交渉は誠実さ、相互尊重、平等を基礎とすべきであると強調した。また、同日には中国政府が貿易協議に関する白書を発表した。
王受文商務次官は北京で記者会見を開き、中国は問題解決に向けて米国と協力する意向を示しつつも、米国が最大限の圧力をかけて譲歩を引き出そうとする戦略には応じないと明言した。同次官は貿易協議において実務レベルの代表団の責任者を務めている。
また、同次官は「全てが合意されるまでは、何も合意はない」と述べ、米国が主張する「中国による既存合意の撤回」という見方を否定した。発表された白書においても、中国は米国との貿易戦争を望んでいないが、それを恐れることもないとした上で、中国の発展の権利と国家主権を強調している。
ホワイトハウスに対するコメント要請に対しては、即時の応答はなかった。王次官は、いかなる協議においても双方の妥協が必要であり、米中の立場は対等でなければならず、その結果は相互に利益をもたらすものであるべきと述べた。
白書は、通商合意の前提条件として以下の三点を挙げている。
① 米国による全ての追加関税の撤廃
② 中国による米国製品の購入を現実的な内容とすること
③ 合意文書におけるバランスの取れた内容の確保
これらは、劉鶴副首相をはじめとする中国側代表のこれまでの発言を踏襲したものである。
さらに、王次官は、中国政府が先週発表した「信頼できない」企業リストに関する国際的な懸念に対し、必要以上の解釈がなされている可能性を指摘し、中国は法に基づいて事業を行う外国企業を歓迎する方針であると述べた。加えて、米運送会社フェデックスによる華為技術(ファーウェイ)の荷物の誤配送問題について、中国が調査を開始したことに対して非難すべき理由は存在しないと表明した。
白書は、5月に行われた直近の協議において、米国が「脅しと強制」を用い、「法外な要求」に固執し、貿易摩擦開始以降に課した追加関税の維持や、中国の主権に関する強制的な義務を通商合意に盛り込もうとしたことを批判的に指摘している。
【詳細】
1. 協議中断に関する立場と責任の所在
中国政府は、米中貿易協議の進展が途絶えた責任について、「全て米国にある」とする立場を明確にした。すなわち、中国側は誠意を持って協議に臨んでいたが、米国側が一方的かつ強圧的な態度を取り続けたことにより、交渉が頓挫したと主張している。今後のいかなる協議も、**「誠実さ」「相互尊重」「平等性」**の三原則に基づかなければならないと強調した。
2. 王受文商務次官の発言の詳細
王受文次官は、米中協議において実務レベルの交渉団の責任者であり、今回の発言は中国政府の公式見解としての重みを持つ。
・王次官は「中国は米国と協力して問題を解決したい」という前向きな姿勢を示す一方、米国が取っている「最大限の圧力戦略(maximum pressure strategy)」には応じないと明言した。
・米国側が主張する「中国がすでに合意していた内容の一部を撤回した」という点については、「全てが合意されるまでは、何も合意されたとは言えない」という立場を取り、交渉中の文書や内容は暫定的であるとの論理を展開した。
この発言は、交渉過程で文案の修正が行われることを当然の過程と捉え、それを一方的な非難の材料とする米国の姿勢に反論するものである。
3. 白書の内容と論理構成
中国国務院新聞弁公室が発表した白書では、米中貿易摩擦における中国側の立場、交渉経緯、米国の対応に対する批判、および今後の方針が整理されている。
主な主張は以下の通りである。
・中国は貿易戦争を望まないが、恐れてもいない。 → 「戦わずして屈する」ことはないという強い主権意識が示されている。
・中国の発展権および国家主権は譲れない。 → 通商合意であっても、国内制度の変更や主権に関わる義務の受容は不可能と明言。
・合意の前提条件の明示: 白書では、貿易協議が成立するためには以下の3点が不可欠であるとされる。
① 米国がすべての追加関税を撤廃すること。
② 中国による米国製品の輸入拡大が現実的かつ合理的な規模であること。
③ 合意文書の内容が相互のバランスを取れていること(つまり、中国側の義務ばかりを強調しないこと)。
4. 「信頼できない企業リスト」に関する釈明
王次官は、中国が新たに導入した「信頼できない企業リスト」制度が、「外国企業に対する報復措置」だという一部報道について、「過度な解釈がなされた可能性がある」と指摘した。
・このリスト制度は、法令を遵守し、商業的に正当な活動を行う外国企業には影響を及ぼさないことを強調。
・フェデックス(FedEx)がHuawei宛の荷物を誤って他国に送付した件に関し、中国が調査を行うのは妥当であり、これをもって「報復的行為」と見るのは適切でないと述べた。
5. 米国の交渉態度に対する批判
白書は、5月の協議において米国側が取った態度を次のように記述している。
・米国は「脅し(threat)と強制(coercion)」を用いた。
・米国は「法外な要求(unreasonable demands)」に固執し、中国に対して一方的な義務の履行を迫った。
・交渉の過程で、中国の国家主権にかかわる内容を強制的に合意文書に盛り込もうとした。
このような姿勢は、協議の根本精神に反するとして、中国側は明確に拒絶している。
総括
本件は、2018年から激化した米中貿易摩擦における重要な節目であり、中国が初めて包括的な白書を通じて自国の立場と要求を体系的に国際社会に説明した点に意義がある。特に「交渉は対等な立場でなければならない」「主権には一切譲歩しない」という姿勢は、今後の交渉再開の鍵を握る論点である。
【要点】
米中貿易協議に関する中国側の主張(2019年6月)
1.協議中断に関する立場
・米中貿易協議の中断の責任は全て米国側にあると主張。
・今後の協議には**「誠実さ」「相互尊重」「平等性」**が不可欠であると強調。
2.王受文商務次官の発言
・中国は問題解決のために協力的な姿勢を保つ意志を表明。
・米国の「最大限の圧力」戦略に対しては、譲歩を強いられることはないと断言。
・「全てが合意されるまでは、何も合意されていない」との原則を提示し、合意撤回の指摘を否定。
3.白書における基本的立場
・中国は貿易戦争を望まないが、恐れもしないとの姿勢を明確に表明。
・中国の発展権および国家主権の尊重を強く主張。
4.合意成立のための中国側の前提条件(3点)
・米国がすべての追加関税を撤廃すること。
・中国による米国製品の購入は現実的かつ実行可能な範囲であること。
・通商合意の文書内容が相互の利益とバランスを保つものであること。
5.「信頼できない企業リスト」に関する釈明
・同制度は合法的な外国企業を標的にしないと明言。
・「過大な解釈」があった可能性に言及。
・FedExによるHuawei荷物誤配送については、調査に正当性があると主張。
6.米国の交渉態度に対する批判
・米国は交渉において「脅しと強制」を使用した。
・米国は「法外な要求」を一方的に押し付けた。
・米国は合意文書に中国の主権に関する強制的義務を盛り込もうとした。
【桃源寸評】❤️
I.第1次トランプ政権
第1次トランプ政権(2017年1月〜2021年1月)における米中関係は、歴史的に見ても最も緊張が高まった時期の一つであり、以下の分野で特に対立が深まった。以下、分野別に説明する。
1. 貿易戦争(米中通商摩擦)
背景と展開
・トランプ政権は「アメリカ第一主義(America First)」を掲げ、対中貿易赤字の是正を主要政策目標とした。
・2018年3月、米国は「通商拡大法232条」および「通商法301条」に基づき、中国製品に対する高関税措置を開始した。
・2018年7月以降、数千億ドル規模の追加関税が段階的に発動された。
・中国もこれに報復し、米国製品に対して同様の関税を課したため、「米中貿易戦争」と称される全面的対立に発展した。
第一段階合意(Phase One Deal)
・2020年1月、第一段階の通商合意が署名された。
⇨中国は今後2年間で米国製品(農産品、エネルギー、製造業品など)を2,000億ドル相当追加購入することに同意。
⇨米国は一部関税の引き下げや追加措置の見送りを表明。
・しかし、新型コロナウイルスの世界的流行により、中国側の輸入拡大が滞り、合意履行は限定的にとどまった。
2. 技術・安全保障分野での対立
ファーウェイ・ZTEへの制裁
・米国は、中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」や「中興通訊(ZTE)」が安全保障上の脅威であると主張。
・2019年5月、トランプ政権はファーウェイを「エンティティ・リスト」に追加し、米国企業との取引を事実上禁止した。
・5G技術やインフラ整備をめぐり、西側同盟国にもファーウェイ排除を要請した。
TikTok・WeChatへの制限
・2020年、米国政府は中国発のアプリ「TikTok」と「WeChat」が米国人の個人情報を中国政府に提供する恐れがあると指摘。
・トランプ大統領は大統領令により、これらアプリの米国内での取引を禁止しようと試みたが、司法の差し止めにより実現しなかった。
3. 地政学・安全保障面の緊張
台湾問題
・トランプ政権は台湾との関係を強化し、台湾への兵器売却を加速させた。
・2020年には米国政府高官が数十年ぶりに公的に台湾を訪問し、中国の強い反発を招いた。
南シナ海・インド太平洋戦略
・米国は中国の南シナ海における人工島建設・軍事拠点化を「国際法違反」と批判。
・トランプ政権下で「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)戦略」が明示され、日米豪印(クアッド)の連携が強化された。
香港・新疆ウイグル問題
・香港の「国家安全維持法」施行に対し、米国は香港への優遇措置を撤廃。
・新疆ウイグル自治区における人権問題(強制労働、収容施設など)に関連して、中国高官に対する制裁措置を発動。
4.「デカップリング(脱中国)」政策
・トランプ政権はサプライチェーンの「中国依存脱却」を奨励し、米国内回帰(reshoring)を推進。
・これは半導体、医薬品、レアアースなど戦略物資に関して特に顕著であった。
まとめ
第一次トランプ政権における米中関係は、単なる貿易摩擦にとどまらず、技術・安全保障・人権問題など広範な分野に及ぶ構造的対立へと進化した。トランプ政権下で築かれた対中強硬路線は、その後のバイデン政権にも多く引き継がれている。
II.第2次トランプ政権
現米政権のトランプ大統領(2025年5月現在)は、2019年当時から対中政策の本質的な反省を欠き、依然として紋切り型の「脅しと強制」に依拠する旧態依然の手法をもって中国に対応している。一方、中国はその間に経済構造の転換を進め、対米依存率を意図的に引き下げるとともに、「内循環」を中核とした自立型経済戦略を強化してきた。
具体的には、以下のような動きが挙げられる。
・輸出主導から国内需要主導への転換:製造業の高度化(中国製造2025)や中間層の拡大を通じて、消費内需の拡大を促進。
・サプライチェーンの多角化:米国依存の高かったハイテク分野において、自国開発と第三国(ASEAN、中央アジア、アフリカなど)との連携を強化。
・「一帯一路」構想の深化:ユーラシア経済圏やグローバル・サウスとの経済関係を拡充し、対米圧力の相殺を図る。
・人民元の国際化とデジタル人民元の展開:ドル依存のリスク軽減を意図し、通貨主権の強化を推進。
このように、中国は米国の強硬姿勢に反発するだけでなく、それを長期的な経済自立への契機として捉え、制度的・構造的対応を重ねてきた。
この対比において、トランプ政権の対中アプローチは、旧来の制裁一辺倒の思考から脱却できず、相手の対応や戦略転換を軽視している点が批判される。交渉における実利追求と威圧的姿勢の繰り返しは、むしろ中国の戦略的忍耐と自己強化を助長してきた可能性が高い。
III.展望と可能性
・主導権は単一国家には集中せず、多極化・分野別支配へと移行する。
・競争と協調が並存する「選別的ブロック経済+冷却された安全保障競争」が支配的となる可能性が高い。
・中小国(ASEAN・アフリカ諸国など)「戦略的曖昧さ」を保ちつつ、複数の大国と関係を築く姿勢を強める。
・米国の一極支配体制(unipolarity)はすでに終焉しており、以下のような現象が進行していると位置づけられる。
米国の相対的衰退の具体相
(1)同盟国との距離
⇨トランプ政権下では伝統的同盟国(NATO・日韓など)との摩擦が増大し、米国主導の国際秩序の正統性が揺らいだ。
⇨現政権も「米国第一」の枠組みを変えておらず、国際的信認の回復は限定的である。
(2)国内分断と制度疲労
⇨移民、選挙制度、教育、治安、社会保障などをめぐる分断が深刻化し、長期的な国家戦略遂行力に支障。
⇨産業政策や対外政策も政権交代ごとに大きく変化し、一貫性を欠く。
(3)経済・技術の追い上げ
⇨中国はAI・5G・EV・宇宙・金融領域で米国に次ぐ技術圏を形成しつつあり、「米国の技術独占時代」は終わりつつある。
中国のさらなる台頭の基盤
(1)制度の継続性と計画性
⇨中国共産党の一党支配体制により、長期計画(「中国製造2025」や「2035年ビジョン」)が一貫して実施可能。
⇨政策決定の即応性と資源動員能力において、民主主義国家と異なる優位性を保持。
(2)対米依存からの離脱
・貿易、金融、サプライチェーンの米国依存を年々低下させており、「自主的経済圏(ex. BRICS+)」の形成が進む。
(3)グローバル・サウスの支持
⇨アフリカ・中東・中南米において、インフラ投資と非干渉外交を通じた影響力拡大が著しい。
結論
このような国際情勢の潮流においては、「米国の覇権復活」よりも、「中国を含む複数の大国が分野別に主導権を競い合う多極的秩序」への移行が現実的である。
さらに、中国は米国式の同盟ネットワーク構築には消極的であるが、「非同盟圏における支配力拡大」においては、地政学的優位を着実に強めている。
IV. 米中関係をめぐる主要年表(2018年~2025年5月)
・2018年
米国:トランプ政権対中関税第1弾を発動(知財侵害を理由)、 米中「貿易戦争」本格化
中国:報復関税を発動、米中交渉開始、経済工作会議で「内需拡大」重視を打ち出す
・2019年
米国:5月、米国が制裁関税を再強化(中国の合意撤回と非難)、ファーウェイへの禁輸措置
中国:6月、白書「中米経済貿易協議に関する中国の立場」を公表、「不確実企業リスト制度」の導入発表
・2020年
米国:1月、「第一段階通商合意」に署名(関税の一部維持)、コロナ禍により対中批判再燃、
中国:通商合意履行(農産物購入など)、デジタル人民元実証開始
・2021年
米国:バイデン政権発足:関税は維持、戦略的競争に軸足
中国:「双循環戦略(内外循環)」を正式採用
・2022年
米国:米国、半導体分野で中国への輸出規制を強化
中国: 技術自立政策を加速(半導体国産化)、一帯一路拡張に資金投入
・2023年
米国:米議会、対中警戒を強め敵対的法案相次ぐ
中国:RCEP(地域的な包括的経済連携)などを活用し脱米多角化を進展
・2024年
米国:トランプ氏再登場、強硬路線復活、関税・制裁の再発動
中国:中東・ASEANとの経済連携強化、デジタル人民元の国際取引拡大
・2025年(現時点)
米国:トランプ政権再び中国に「圧力外交」、台湾問題などでも強硬姿勢 - 対
中国:米輸出比率が低下傾向、「中華式現代化」に基づく制度的自立を強調
この年表は、米国の一貫した「圧力と制裁」に対し、中国が段階的かつ戦略的に経済的自立・制度的対応を強化してきた過程を示している。
V.中米経済貿易協議、中国側の基本的立場を示す7つの言葉
以下は、「中米経済貿易協議、中国側の基本的立場を示す7つの言葉」人民網日本語版 2019年06月03日15:42 記事の全引用である。
中国国務院新聞弁公室は2日、「中米経済貿易協議に関する中国側の立場」白書を発表した。白書には中米経済貿易協議に対する中国の基本的姿勢を明らかにする7つの言葉がある。中国新聞社が伝えた。
■「中国は貿易戦争を望まないが、恐れてもおらず、必要時には戦わざるを得ない。この姿勢に変更はない」
経済貿易問題をめぐる両国間の溝や摩擦について、中国は協力の方法で解決し、互恵・ウィンウィンの合意形成を推し進めることを望んでいる。だが協力には原則があり、協議には譲れぬ一線がある。重大な原則問題において中国は決して譲歩しない。
■「中傷、土台崩し、最大限の圧力といった手段で合意に達することを企てては、双方間の協力関係を破壊し、歴史的チャンスを逸することになるだけだ」
協議で「後退した」との米国の対中非難は全くナンセンスだ。米政府は過去10数回の交渉で要求を変え続けており、「後退した」との恣意的な対中非難は無責任だ。
■「双方が合意するうえでの前提条件は米国が全ての追加関税を撤廃することであり、購入は実際の状況に合致する必要がある。同時に、均衡ある、双方の共通利益にかなう合意文書を確保する必要がある」
経済貿易合意は平等で互恵的なものでなければならない。中国の核心的利益に関わる重大な原則問題では決して譲歩しない。
■「一方がもう一方に無理強いして交渉を行う、または交渉結果が一方のみを利するものであるなら、そのような交渉が成功することはない」
協議は互いに尊重し合う、平等で互恵的なものである必要がある。平等互恵とは協議における双方の地位が平等であり、協議の成果が互恵的であり、最終的な合意がウィンウィンであるということだ。
■「協議には双方の相互理解と共同努力が必要だ」
双方が協議の過程に共に善意をもって臨み、相手国の立場を十分に理解して初めて、協議の成功に向けた良好な環境づくりができる。さもなくば長期的に有効な合意の基礎を形成することはできず、持続可能な合意、実行可能な合意に達するのは困難だ。
■「重大な原則問題において、中国は決して譲歩しない」
どの国にも自らの原則がある。協議において一国の主権と尊厳は尊重されなければならず、双方間の合意は平等で互恵的なものであるべきだ。重大な原則問題において、中国は決して譲歩しない。
■「交渉の扉は開けているが、争いを望むのであれば、戦うことも辞さない覚悟だ」
中国は関税措置ではなく対話による問題解決を望んでいる。中国国民の利益のため、米国民の利益のため、全世界の人々の利益のため、中国は理性的に対処するが、いかなる圧力も恐れることはなく、いかなる挑戦も迎え撃つ準備が整っている。
中米経済貿易協議、中国側の基本的立場を示す7つの言葉 人民網日本語版 2019.06.03
https://j.people.com.cn/n3/2019/0603/c94474-9584137.html
https://j.people.com.cn/n3/2019/0603/c94474-9584137-2.html
VI.白書「中米経済貿易協議に関する中国の立場」全文
以下は、白書「中米経済貿易協議に関する中国の立場」全文である。中国の考え方を示す、そして知る非常に重要な内容なので、Vと共に、原文のまま引用する。
白書「中米経済貿易協議に関する中国の立場」全文
2019-06-17 21:00
北京6月2日発新華社電によると、中国国務院新聞〈報道〉弁公室は同日、白書「中米経済貿易協議に関する中国の立場」を発表した。全文次の通り。
目次
前文
一、米国が起こした対中経済貿易摩擦は両国と世界の利益を損なっている
二、米国は中米経済貿易協議でくるくる変わり、信義を重んじない
三、中国はつねに平等・互恵・信義に基づく協議の立場を堅持している
結語
前文
中米の経済・貿易関係は両国の「バラスト」と「ブースター」であり、両国人民の根本的利益に関わり、世界の繁栄と安定に関わるものだ。国交樹立後、両国の経済・貿易関係は発展を続け、協力分野がたえず広がり、協力水準がたえず上がった。そして高度に相互補完し、利益が融合した互恵・ウィンウィン関係を形成し、両国が利益を受けるだけでなく、全世界に恩恵が及んでいる。
発展段階、経済制度が違うことから、経済・貿易協力において両国間に意見の食い違いや摩擦が生じるのは避けがたい。中米経済貿易関係発展の歩みでは、何度も曲折が生じ、困難な局面にも臨んだ。両国は理性、協力の態度にのっとり、対話と話し合いを通じて問題を解決し、矛盾を解消し、意見の食い違いを縮小した。こうして両国の経済貿易関係は一層成熟した。
2017年の新政権登場後、米国は追加関税などの手段で脅し、主要な貿易相手との間で頻々と経済貿易摩擦を起こした。2018年3月以降、米国政府が一方的に中米経済貿易摩擦を起こす中で、中国はやむなく強力な対応措置をとり、国家と人民の利益を断固守った。同時に、つねに対話・話し合いによる係争解決の基本的立場を堅持し、米国と複数回の経済貿易協議を進め、経済貿易関係の安定に努めた。中国の姿勢は一貫し、明確だ。中米が協力すれば共に利し、闘えば共に傷つくことになり、協力こそ双方の唯一の正しい選択だ。両国の経済・貿易分野の意見の食い違いと摩擦については、中国は協力の方法でこれを解決し、互恵・ウィンウィンの合意を図ることを願っている。しかし協力には原則があり、協議にはボトムライン〈譲れない一線〉があり、重大な原則問題で中国は決して譲歩しない。貿易戦争については、それを望まず、恐れず、必要な時はやらざるをえない――この姿勢はずっと変わっていない。
中米経済貿易協議の基本的状況を全面的に紹介し、中米経済貿易協議に対する中国の政策・立場を説明するため、中国政府は特にこの白書を発表する。
一、米国が起こした対中経済貿易摩擦は両国と世界の利益を損なっている
現米政権は「米国第一」政策をとり、対外的に一連の一国主義と保護主義の措置をとり、なにかというとすぐに関税の「棍棒」を振り回し、自身の利益要求を他国に押しつけている。米国は長年封印していた「201調査」「232調査」などの手段を使って、主要な貿易相手に頻々と手を出し、世界の経済・貿易の枠組みをかく乱している。米国はまた矛先を中国に定め、2017年8月に一方的色彩の強い「301調査」を発動し、中国が長年来、知的財産権保護の強化と外資のビジネス環境改善などの面でたゆまず努力し大きな成果を収めてきたことを無視して、中国に対し諸々の客観的でないマイナスの評価を下し、追加関税、投資制限などの経済・貿易制限措置をとって中米経済貿易摩擦を起こした。
米国は中米の経済構造、発展段階の特色と国際分業の現実を無視し、かたくなに中国が不公平、不平等な貿易政策をとって、米国が対中貿易で赤字となり、二国間経済貿易取引で「損をする」結果を招いたと考え、中国に対して一方的な追加関税措置をとった。実際には、経済グローバル化時代に、中米両国の経済は高度に融合し、共同で完全な産業チェーンを構成して、両国経済は身も心も一つ、互恵・ウィンウィンであって、貿易赤字を「損」と考えるのは見当違いである。米国の中国に対する貿易制限措置は中国にマイナスで、米国にもマイナスで、世界にはもっとマイナスである。
(一)米国の追加関税措置は他人を損ない自らをも利さない
米国政府による中国製品への追加関税は、二国間の貿易・投資協力を阻害し、両国ひいては世界の市場の自信と経済の安定に影響を及ぼしている。米国の関税措置は中国の対米輸出額の落ち込みを招き、2019年1~4月は前年同期比9・7%減で、5カ月連続の減少となった。同時に、中国が米国の関税上乗せに対してやむなく追加関税の対応をとったことから、米国の対中輸出は8カ月続けて減少した。中米経済貿易摩擦が不確実性をもたらしたことから、両国企業は投資に対して模様眺めの態度をとり、中国の対米投資が落ち込みを続け、米国の対中投資の伸び率もあきらかに低下した。中国の関係方面のまとめによると、2018年の中国企業の対米直接投資は前年比10%減の57・9億ドルだった。2018年の米国の対中投資実績は26・9億ドルで、伸び率が2017年の11%から1・5%へと大幅に下がった。中米経済貿易摩擦の見通しがはっきりしないことから、WTOは2019年の世界の貿易の伸び率を3・7%から2・6%に引き下げた。
(二)貿易戦争は米国に「グレート・アゲイン」をもたらしていない
追加関税措置は米国の経済成長を後押ししないだけでなく、逆に著しく傷つけた。
第一に米国企業の生産コストを引き上げた。中米両国の製造業は相互依存度が高く、多くの米製造業者が中国の原材料と中間品に依存しており、短期間に適当な代替供給業者を探すのが難しく、追加関税のコストを引き受けるほかない。
第二に米国の国内物価をつり上げた。物がよくて安い中国消費財の輸入は米国のインフレ率が長い間低く保たれた重要な要因の一つだった。追加関税後、中国製品の最終販売価格が高騰し、実際には米国の消費者も関税コストを引き受けている。全米小売業協会の研究によると、中国家具の25%関税だけで、米国の消費者は毎年46億ドルの余計な支出をすることになる。
第三に米国の経済成長と市民生活に影響した。全米商工会議所とロジウムグループが2019年3月共同で発表した報告書によると、中米経済貿易摩擦の影響を受けて、2019年と今後4年間に米国内総生産(GDP)は毎年全体の0・3%から0・5%にあたる640億ないし910億ドル減る可能性がある。米国がすべての中国製品に25%の関税をかけた場合、今後10年間で米国のGDPは合計1兆ドル減少する。米シンクタンク「トレード・パートナーシップ」が2019年2月に発表した研究報告書によると、米国がすべての中国製品に対する関税を25%に引き上げた場合、GDPは1・01%減少、雇用は216万減少し、四人家族の年間の支出は2294ドル増加するという。
第四に米国の対中輸出を阻害した。米中貿易全国委員会が2019年5月1日発表した「各州対中輸出報告―2019」は、2009年から18年までの10年間、米国の対中輸出は110万を超える米国の雇用を支えており、中国市場は米国経済にとって極めて重要である。この10年間に、米国の48州の対中モノ輸出が伸びており、うち44州は二桁成長だった。しかし中米経済貿易摩擦が激化した2018年、対中モノ輸出が伸びたのは16州にすぎず、34州の対中輸出が減少し、うち24州は二桁の減少で、中西部の農業州の損害がもっともひどかった。関税措置の影響を受ける米農産物の対中輸出は前年より33・1%減少し、うち大豆の減少幅は50%に近く、米国の業界では40年近くかけて育ててきた中国市場がこれによって失われることを心配している。
(三)米国の貿易いじめ行為は世界の災い
経済グローバル化は阻むことのできない時代の潮流で、自らの利益のために災いを人に押し付ける一国主義、保護主義は人心を得ない。米国の一連の保護貿易措置は世界貿易機関(WTO)のルールに違反し、多角的貿易体制を損ない、グローバル産業チェーンと供給チェーンを重大に阻害し、市場の自信を損ない、世界経済の回復に厳しい挑戦〈試練〉をもたらし、経済グローバル化のすう勢に重大な脅威となっている。
1、多角的貿易体制の権威を損なう。米国は国内法に基づき「201条」、「232条」、「301条」など一連の一方的調査を発動し、また追加関税措置を取り、WTOの最も基本の、最も核心の最恵国待遇や関税拘束などのルールに重大に違反している。こうした一国主義、保護主義行為は中国と他のメンバーの利益を損なうだけでなく、WTOとその紛争解決メカニズムの権威性を損なうもので、多角的貿易体制と国際貿易秩序は危険な状態に直面している。
2、世界経済の成長を脅かす。世界経済はまだ国際金融危機の暗い影から完全には抜け出しておらず、米政府が経済貿易摩擦をエスカレートさせ、関税水準を引き上げているため、関係国は相応の措置を取らざるを得ず、世界の経済貿易秩序が乱れ、世界経済の回復が阻害され、各国の企業の発展と人民の幸福に災いがもたらされ、世界経済を「衰退のわな」に陥らせている。2019年1月、世界銀行は「世界経済見通し」レポートを発表し、2019年の世界経済成長予測を2・9%まで一段と引き下げ、貿易関係の持続的緊張が主要な下振れリスクの一つとした。国際通貨基金(IMF)が2019年4月に発表した「世界経済見通し」レポートは2019年の世界経済成長予測を2018年に予想した3・6%から3・3%に下方修正し、経済貿易摩擦が世界経済の成長を一段と抑制し、すでに弱い投資をさらに弱くする可能性があるとした。
3、グローバル産業チェーン、供給チェーンを乱す。中米は共にグローバル産業チェーン、供給チェーンの重要な部分を占めている。中国が米国に輸出する最終製品には他国から輸入した中間製品と部品が大量に含まれている。米国の中国から輸入した製品に対する追加関税の被害者は米企業を含め、中国企業と協力する多くの多国籍企業である。追加関税措置は供給チェーンのコストを人為的に増やすもので、供給チェーンの安定と安全に影響を与える。一部企業は供給チェーンのグローバル配置を見直さざるを得ず、グローバル資源の最適配置が実現できない。
米国の最新の対中関税引き上げ措置は問題を解決できないだけでなく、各国の利益を一段と損なうことは予見可能で、中国は断固反対する。最近、米政府はいわゆる国家安全保障という「でっち上げ」の名義で華為(ファーウェイ)など中国の多くの企業に対し「ロングアーム管轄」制裁を行っており、中国は同様に断固反対する。
二、米国は中米経済貿易協議でくるくる変わり、信義を重んじない
米国が経済貿易摩擦を起こしたことで中国は対応措置を取らざるを得ず、両国の貿易・投資関係が影響を受けている。双方は両国人民の幸福のニーズ、それぞれの経済発展のニーズから出発し、交渉のテーブルに着き、協議を通じ問題を解決する必要があると考えた。2018年2月、経済貿易協議が始まって以来、すでに非常に大きく進展し、両国は大部分の内容について合意したが、協議は数回紆余曲折があり、それはいつも米国の合意違反、くるくる変わる、信義を重んじないのが原因である。
(一)1回目のくるくる変わる
中国は当初から中米経済貿易摩擦は交渉・協議を通じ解決することを主張している。2018年2月初め、米政府は中国がハイレベル代表団を米国に派遣し、経済貿易協議を行うことを希望した。中国は最大限の誠意を示し、積極的に努力し、米国と数回のハイレベル経済貿易協議を行った。貿易不均衡などの問題について重点的に踏み込んだ意見交換を行い、米国からの農産物、エネルギー製品などの輸入拡大で初歩的合意に達し、重要な進展を収めた。しかし、2018年3月22日、米政府はいわゆる対中「301条調査」レポートを発表し、中国が「知的財産権を盗んでいる」、「技術移転を強制している」など事実に基づかない非難を行い、それを基に中国から輸入する総額500億ドルの商品に25%の追加関税を課すと発表した。
(二)2回目のくるくる変わる
中国政府は両国関係の大局を重んじ、作業チームを再度派遣し、米国と真剣な協議を行った。2018年5月19日、中米は共同声明を発表し、「貿易戦争をしない」ことで共通認識に達し、ハイレベルの意思疎通を続け、それぞれの関心を寄せる経済貿易問題の解決を積極的探ることで合意したとした。米国は対中追加関税計画の実施を一時停止すると公に発表した。2018年5月29日、米政府は国内商工業界と広範な国民の反対を顧みず、双方が共同声明を発表してからわずか10日後、協議の合意を覆し、中国の経済体制、貿易政策を乱暴に非難し、追加関税計画を引き続き推進すると宣言した。2018年7月初めから米国は3回に分け、中国が米国に輸出する500億ドルの商品に25%の追加関税を課し、2000億ドルの商品に10%の追加関税を課し、2019年1月1日から税率を25%に引き上げるとし、残りの商品についてもすべて追加関税を課すと脅し、両国間の経済貿易摩擦を急速にエスカレートさせた。中国は国の尊厳と人民の利益を守るため、必要な反応を取らざるを得ず、米国から中国に輸出される累計1100億ドルの商品に追加関税を課した。
3回目のくるくる変わる
2018年11月1日、トランプ大統領は習近平主席と電話会談を行い、首脳会談を提案した。12月1日、中米両国元首はアルゼンチンでの20カ国・地域グループ(G20)首脳サミットの合間に会談し、二国間の経済貿易問題について重要な共通認識に達し、新たな追加関税を互いにやめることで合意し、90日内に集中的に協議し、すべての追加関税を取りやめる方向で努力することで合意した。その後90日間、双方の作業チームは北京とワシントンで3回のハイレベル協議を行い、中米経済貿易合意の原則的内容について多くの初歩的共通認識に達した。2019年2月25日、米国はすでに決めていた3月1日からの中国から輸入する総額2000億ドルの商品に対する関税引き上げの期限を延長すると発表した。3月末から4月末まで両国の作業チームはまた3回のハイレベル協議を行い、実質的進展を収めた。数多くの協議を経て、両国は大部分の問題で一致した。残っていた問題について中国政府は双方が互いに理解、譲歩し、意見の相違を解決する方法を共同で探すことを提案した。
しかし、米政府は欲に限りがなく、いじめ主義の態度と極限の圧力の手段で、不合理な要求つり上げを行い、経済貿易摩擦以来上乗せした関税をすべて撤廃しないとし、合意文書の中に中国の主権に関わる無理な要求を明記することを主張し、残っている意見の相違を埋めることが遅々として進まなくなった。2019年5月6日、米国は中国の立場が「後退」と無責任に非難し、交渉が終わらない責任を中国になすりつけようとし、また中国の断固とした反対も顧みず、中国から輸入する2000億ドルの商品に対する追加関税の税率を5月10日からそれまでの10%から25%に引き上げ、協議の重大な挫折をもたらした。5月13日、米政府は中国から輸入する残りの約3000億ドルの商品に対する追加関税上乗せの手続きを始めると発表した。こうした行為は協議を通じて摩擦を解消するという両国元首の共通認識に背き、両国と世界各国人民の期待に背くもので、二国間の経済貿易協議と世界経済の成長見通しに暗い影をもたらすものである。中国は自らの利益を守るため、追加関税の措置で対応せざるを得ない。
(四)中米経済貿易協議が重大な挫折を被った責任は完全に米国政府にある
米国政府は中国が協議の中で「後退した」と責めたが、それはまったく根も葉もないことだ。双方の協議がまだ行われている過程で、文書の内容および関連の表現について修正意見を出し、調整するのは貿易交渉の通常のやり方である。米国政府はこれまでの10回余りにわたる交渉の中で関連の要求を何度も見直しており、中国が「後退した」と責めるのは無責任である。歴史の経験が証明しているように、汚水を浴びせ〈デマを飛ばして中傷する意〉、足をすくい、極限の圧力をかけるなどの手段を通じて合意を得ようと試みるのは、双方の協力関係をぶち壊し、歴史的チャンスを失うだけである。
君子の国、先ず礼を尽くしておき、然る後に兵を用いる〈まずは礼を尽くして交渉し、うまくいかなければ力に訴えること〉。米国が新たな〈追加〉関税による脅しをかけたあと、国際社会は一様に中国が訪米協議計画を取り消すかもしれないと心配し、中米経済貿易協議がどうなるのかに関心を寄せていた。中国は中米経済貿易の大局を守ることから出発し、理性的・自制的な姿勢を保ち、双方が以前に交わした約束に基づき、2019年5月9日から10日までハイレベル代表団を米国に派遣して第11回経済貿易協議を行い、米国と対話を通して経済貿易の不一致を解決するという最大の誠意および責任ある姿勢をはっきりと示した。中米双方は率直かつ誠実で、建設的な交流を行い、努力して意見の相違をコントロールし、引き続き協議を推進していくことで合意した。中国は一方的に関税を上乗せする米国のやり方に強く反対し、厳正な立場を明らかにし、必要な措置をとって反撃せざるを得なくなるだろうと表明した。中国は、経済貿易協議は必ず平等、互恵なものでなければならず、中国の核心の利益に関わる重大な原則問題では絶対に譲歩しないと再度強調した。双方が合意を得る前提は米国がすべての追加関税を撤廃し、調達〈の数字〉を実際に見合うものにすべきと同時に、合意文書のバランスを確保し、双方の共通の利益に合致させることである。
三、中国はつねに平等・互恵・信義に基づく協議の立場を堅持している
中国政府は終始、貿易戦で脅し合い、絶えず関税を上乗せするやり方は経済貿易問題の解決に役立たないと考えている。中米は相互尊重、平等互恵の精神を堅持し、善意と信義にのっとり、協議を通じて問題を解決し、意見の相違を狭め、共通の利益を拡大し、グローバル経済の安定と発展を共に守るべきである。
(一)協議は相互尊重、平等互恵でなければならない
世界で最も大きい二つの経済体〈エコノミー〉並びに貿易大国として、中米の経済貿易協力の中に幾つかの意見の相違が存在するのは正常なことであり、カギはどのようにして相互信頼を増進し、協力を促進し、意見の相違をコントロールするかにある。中国は両国の共通の利益と世界の貿易秩序の大局を守ることから出発し、対話と協議を通じた問題の解決を堅持し、最大の忍耐強さと誠意で米国が持ち出した関心事に応え、小異を残して大同に就く姿勢で意見の相違を適切に処理し、さまざまな困難を乗り越え、実務的な解決案を示し、二国間の経済貿易協議推進のために大変な努力を払ってきた。協議の過程で、中国は相互尊重、平等互恵の原則を終始堅持し、双方がどちらも受け入れることのできる合意を得るために尽力してきた。
相互尊重とは、相手方の社会制度、経済体制、発展の道と権利を尊重し、互いの核心の利益と重大な関心を尊重しなければならず、「ボトムライン」に挑まず、「レッドライン」を越えず、一方の発展の権利を犠牲にすることを代価としてはならず、ましては一国の主権を損なってはならないということである。平等互恵とは、双方の協議の地位は平等なもの、協議の成果は互恵なもので、最終的に得られる合意はウィンウィンなものであるということだ。もし一方が他方に強い圧力をかけて交渉を行い、または交渉の結果が一方だけに利益を得させるものであるなら、こうした交渉はうまくいくはずがない。
(二)協議は互いに歩み寄り、信義を基礎としなければならない
協議は双方の相互理解と共同の努力が必要である。協議は関係する当事者が討議を通じ、直面する問題について共通認識を求め、または互いに妥協するプロセスである。協議期間は変数〈変化要因〉が多い。各国が自身の利益から出発し、それぞれの段階において各種の変化に対しそれぞれの反応を示すのは、協議の常態である。中国政府は、経済貿易協議は問題の解決を求める有効なやり方だと考えている。双方が協議の過程で善意の姿勢をみせ、相手方の立場を十分に理解してはじめて、協議を成功させるための良好な条件を作り出すことができる。さもなければ、長期にわたる有効な合意を得るための基礎を形成することはできず、持続可能、実行可能な合意を得ることは難しい。
信義は協議の基礎である。中国政府は終始、信義を根本とし、きわめて大きな誠意をもって米国政府と協議を進めてきた。中国は米国の関心事を高度に重視しており、双方の食い違いを解消する有効な道筋と方法を探ることに努めてきた。双方がこれまでに行った11回のハイレベル経済貿易協議は重大な進展が得られ、これらの協議成果は中国の利益に合致するだけでなく、米国の利益にも合致しており、双方が共に努力し、互いに歩み寄った結果である。中国は協議の中で信用を重んじ約束を重んじるとともに、もし双方の合意が得られたなら、中国は自身の約束を必ず真剣かつ確実に履行すると何度も強調した。
(三)中国は原則問題で決して譲歩しない
いかなる国にも自らの原則がある。協議の中で、一国の主権と尊厳は必ず尊重されなければならず、双方が得る合意は平等互恵のものであるべきだ。重大な原則問題において、中国は決して譲歩しない。中米双方は国の発展の差異性、段階性を見て取り、認め、相手方の発展の道と基本制度を尊重すべきである。一つの合意を通して全ての問題を解決することを期待してはならず、それだけでなく、合意が双方のニーズを同時に満たし、合意のバランス性が実現されるのを確実にする必要がある。
米国は最近、対中追加関税の引き上げを発表したが、これは二国間の経済貿易問題の解決に不利であり、中国はこれに強く反対し、自身の合法的権益を守るために反応を示さざるを得なくなった。中国の立場と姿勢は一貫し、明確なものであり、中国は関税措置ではなく対話を通して問題を解決することを希望する。中国人民の利益のため、米国人民の利益のため、全世界人民の利益のため、中国は理性的に向き合う。しかし、中国はいかなる圧力も恐れることがなく、また、いかなる挑戦も迎える準備が整っている。話し合うなら、扉が大きく開かれている。戦いを挑むなら、徹底的に受けて立つ。
(四)いかなる挑戦も中国の前進の歩みを阻むことができない
中国の発展は順風満帆なものではなく、必然的に困難や挫折があり、さらには非常に危険なことさえある。さまざまなリスクと試練を前に、中国には困難に立ち向かい、危機をチャンスに変え、広々とした新たな天地〈世界〉を開拓する自信がある。
情勢がどのように発展、変化しようとも、中国は必ず自身のことをしっかりやっていく。改革開放を通じて自身を発展させ、強大にすることは経済貿易摩擦に対応する根本的道である。中国は国内市場の需要が非常に大きく、供給サイド構造改革の推進は製品と企業の競争力の全面的向上をもたらすだろう。財政政策と金融政策には十分な余地があり、中国は経済が持続的かつ健全に発展する良好な状態を保つことができ、経済の見通しについては非常に楽観している。
中国は引き続き改革開放を深化させ、中国の扉が閉じることはなく、ますます大きく開かれるだけである。習近平主席は第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムの開幕式で基調講演を行った際、中国は一連の重大な改革開放措置を講じ、制度的、構造的な段取りを強化して、より幅広い分野での外資の市場参入拡大、より大きな度合いでの知的財産権保護の国際協力強化、より大きな規模での商品とサービスの輸入増加、国際的なマクロ経済政策協調のより効果的な実施、対外開放政策の貫徹実行のさらなる重視を含め、より高い水準の対外開放を促進すると宣言した。一層開放的な中国は、世界と一層好ましいインタラクションを形成し、一段と進歩、繁栄する中国と世界をもたらすだろう。
結語
協力は中米両国の唯一の正しい選択であり、ウィンウィンこそがより良い未来に向かうことができる。中米経済貿易協議の全般的な方向において、中国は後ろ向きではなく、前向きに考えている。双方の経済貿易分野での意見の相違と摩擦は、最終的に対話と協議を通じて解決する必要がある。中米が互恵ウィンウィンの合意を得ることは中米両国の利益に合致し、世界各国の期待に適うものである。米国が中国と互いに歩み寄り、相互尊重、平等互恵の精神にのっとり、経済貿易をめぐる意見の相違をコントロールし、経済貿易協力を強化し、協調、協力、安定を基調とする中米関係を共に推進し、両国と世界の人民の幸福を増進することを望んでいる。
白書「中米経済貿易協議に関する中国の立場」全文 中華人民共和国駐日日本国大使館 2019.06.17
https://jp.china-embassy.gov.cn/jpn/jzzg/201906/t20190617_2063147.htm?utm_source=chatgpt.com
米中摩擦の中国白書、原則で譲歩せずを強調 JETRO 2019.08.22
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2019/dd960ab92cf7e7d5.html?utm_source=chatgpt.com
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
中国、今後の貿易協議で敬意求める-中断の責任は全て米国に Bloomberg 2019.06.02
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-06-02/PSGAN86KLVR401