新戦略兵器削減条約(New START) ― 2025年01月31日 17:10
【概要】
アンドリュー・コリブコによる2025年1月29日の記事「相互の関心による軍備管理交渉の再開がウクライナ和平プロセスを加速させる可能性」について説明する。
2026年初頭に新戦略兵器削減条約(New START)が更新または代替されない場合、新たな世界的軍拡競争が始まる可能性がある。クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、プーチン大統領がトランプ大統領との会談に応じる用意があることを表明し、その目的としてウクライナ紛争の終結および軍備管理交渉の再開が挙げられた。トランプ大統領は先週、ダボス会議でロシアとの交渉再開に関心を示しており、両者の発言が一致した形となる。特に軍備管理交渉の再開は重要な意味を持つ。なぜなら、New STARTは2026年2月に失効するが、交渉プロセスは2023年以降凍結されているからである。
この問題に関する背景情報として、以下のポイントが挙げられる。
・2023年2月21日:「ロシアがNew START参加を一時停止したのは適切な判断である」
・2024年1月20日:「ロシアはウクライナ紛争が終結するまで米国との軍備管理交渉を再開しない」
・2024年10月18日:「バイデンがロシアとの核交渉に関心を示したのは、トランプの最近の発言を受けた対応である」
米露関係において、戦略的安定性は核戦力およびその運搬手段のバランスに大きく依存している。米露両国は冷戦末期において、過剰な核兵器保有が危険であり、経済的負担も大きいことを認識し、部分的な削減および監視メカニズムの導入に合意した。この取り組みは、いわゆる「安全保障のジレンマ」を緩和する効果があった。「安全保障のジレンマ」とは、一方が防衛目的で行う軍備増強が、相手国にとって攻撃的な意図の表れと受け取られ、軍拡競争を引き起こす現象を指す。
しかし、NATOの東方拡大によってこのジレンマは再び顕在化し、ウクライナ紛争を通じてより深刻な段階に達している。もしNew STARTが失効し、代替協定が締結されない場合、この状況はさらに悪化する可能性がある。
こうした背景から、トランプ大統領は2020年大統領選挙時に掲げていたロシア・中国との非核化交渉の復活を目指しているとみられる。彼はダボスでの演説において、この交渉が2020年時点でほぼ成立しかけていたと主張した。しかし、実際には中国が交渉に消極的であり、ロシアも英国およびフランスの核戦力削減を条件としていたため、トランプの主張には誇張が含まれていると考えられる。
それにもかかわらず、米露双方が軍備管理交渉の再開に関心を持つことは、ウクライナ和平プロセスの加速につながる可能性がある。なぜなら、ロシアはウクライナ紛争が解決するまで軍備管理交渉を再開しない方針を示しているため、米露双方が和平に向けた妥協を模索する動機が生じるからである。
具体的な妥協案については、過去の分析記事に提示された提案が参考になるかもしれないが、両国が政治的意志を持たなければ進展は望めない。
軍備管理交渉の再開が急務である理由は、米露の安全保障のジレンマが深刻化し、New STARTの失効が迫っていることに加え、新たな兵器システムの開発・配備が進んでいる点にある。特にロシアの極超音速兵器「Oreshniks(オレシュニクス)」のような兵器は、放射能汚染を伴わないが核兵器に匹敵する破壊力を持つとされており、これが世界的な軍拡競争を加速させる可能性がある。
冷戦後の技術拡散の進展により、今回の軍拡競争は米露間にとどまらず、他の核保有国や一部の非核保有国(イランなど)にも波及することが予想される。このため、米露の合意を核とした多国間協定が不可欠であり、それによって他の主要な核・ミサイル保有国を交渉の枠組みに引き込み、これらの兵器の拡散を抑制する必要がある。
具体的な対策として、国連安全保障理事会(UNSC)において、非署名国がこれらの兵器を開発・配備した場合や、署名国が合意を超えて兵器を備蓄した場合に制裁を科すことが考えられる。これは、最先端の非核兵器の拡散防止を中心とした新たな国際安全保障体制の構築を意味する。
このような包括的な枠組みを実現するには、詳細な監視メカニズムの整備が必要であり、合意に至るまでには多くの困難が伴う。しかし、責任ある核・ミサイル保有国すべてにとって、このプロセスを成功させることは共通の利益となる。そのためには、まずウクライナ紛争を現実的な相互妥協を通じて迅速に終結させ、米露を核とする戦略的安全保障体制の再構築に向けた交渉を開始する必要がある。
【詳細】
米露の軍備管理交渉再開がウクライナ和平プロセスを加速させる可能性について
背景:軍備管理とウクライナ紛争の関係
現在、ロシアと米国の軍備管理交渉は2023年から停止しており、新戦略兵器削減条約(New START)は2026年2月に失効する予定である。この条約は両国の戦略核兵器の数を制限し、相互の監視メカニズムを提供することで核軍拡競争を抑制する役割を果たしてきた。しかし、ウクライナ紛争の激化により、ロシアは2023年2月にNew STARTの履行を停止し、米国との軍備管理交渉を凍結した。
ロシア政府の報道官ドミトリー・ペスコフは、ウラジーミル・プーチン大統領がドナルド・トランプ前大統領との会談に前向きであり、ウクライナ紛争の終結と軍備管理交渉の再開を議論する用意があると発言した。一方、トランプ氏もスイスのダボス会議でのビデオ演説において、プーチン大統領との直接交渉を通じてウクライナ戦争を終結させ、軍備管理協議を再開させる意向を表明した。
核抑止と安全保障ジレンマ
核軍備管理の重要性は、米露間の戦略的安定を維持し、安全保障ジレンマを抑制する点にある。安全保障ジレンマとは、一方が防衛目的で軍事力を増強しても、相手側がそれを攻撃的意図と誤認し、軍拡競争が加速する現象を指す。
米露は冷戦末期に核兵器の過剰生産が軍事的・経済的に負担であることを認識し、1991年の第一次戦略兵器削減条約(START I)以来、段階的な削減と管理メカニズムを構築してきた。しかし、NATOの東方拡大がロシアの脅威認識を高めた結果、米露間の安全保障ジレンマが再燃し、ウクライナ紛争の激化によってさらに悪化した。
New STARTが更新されずに失効すると、米露間の戦略的安定がさらに揺らぎ、新たな核軍拡競争が始まる可能性がある。これはウクライナ紛争の長期化とともに、世界的な安全保障環境をさらに不安定にする要因となる。
トランプの戦略とロシアの対応
トランプ氏は2020年の大統領選挙時に、ロシアと中国を含む新たな軍備管理協定の締結を目指していたと主張している。しかし、中国は当時の交渉に消極的であり、ロシアも英国・フランスの核兵器削減を求めていたため、実現には至らなかった。今回、トランプ氏は再び軍備管理交渉の重要性を強調し、ロシア側も交渉の可能性を示唆しているが、その実現には依然として高いハードルが存在する。
ロシア側の立場としては、ウクライナ紛争の解決が軍備管理交渉再開の前提条件となっている。つまり、米国がウクライナ戦争の終結に向けた妥協を受け入れるならば、ロシアも軍備管理交渉に応じる可能性がある。この相互の利害関係が、和平プロセスを加速させる要因となる。
新たな軍拡競争の脅威
New STARTの失効は、単なる米露間の問題にとどまらず、世界的な軍拡競争の再燃を引き起こす可能性がある。特に、ロシアは超音速ミサイル「Oreshniks(オレシュニクス)」の配備を進めており、米国や他の国々も同様の兵器開発を加速させている。
このような新兵器の登場により、核兵器を用いない高威力の戦略兵器が各国に普及し、既存の軍備管理条約では対応が困難になる。また、核保有国だけでなく、イランなどの非核保有国が新型ミサイル技術を取得することで、国際安全保障の枠組みがさらに複雑化する。
新たな国際安全保障体制の必要性
こうした状況を踏まえ、米露を中心とした新たな国際軍備管理体制の構築が求められる。理想的には、以下のような枠組みが考えられる。
1.米露間の軍備管理協定を基盤とした多国間協定の形成
・米露の合意を起点に、中国・英国・フランス・インド・パキスタンなどの核保有国を交渉に参加させる。
2.国連安全保障理事会(UNSC)の制裁措置の活用
・合意に参加しない国や、秘密裏に兵器を開発する国に対して国連制裁を発動するメカニズムを構築する。
3.監視・検証メカニズムの強化
・新型ミサイルの開発・配備を監視し、軍備管理違反を防ぐ国際的な査察制度を設ける。
現時点では、このような包括的な枠組みを実現するには多くの課題が残っている。しかし、軍備管理の再開を通じてウクライナ紛争の解決を促し、国際安全保障の新たな枠組みを構築することが、各国にとって戦略的利益に合致する。
結論
米露の軍備管理交渉の再開は、ウクライナ和平プロセスの加速につながる可能性がある。ロシアは交渉再開の条件としてウクライナ戦争の終結を求めており、米国がそれに応じる形で和平交渉が進めば、軍備管理の枠組みも復活する可能性がある。
また、新型ミサイル技術の発展によって、核軍拡だけでなく、非核兵器の軍拡競争が激化するリスクが高まっており、これを抑制するためには米露を中心とした新たな国際安全保障体制の構築が必要となる。
トランプ氏が今後どのように交渉を進めるか、またロシア側がどのような条件を提示するかが、ウクライナ和平と軍備管理の未来を左右する鍵となる。
【要点】
米露の軍備管理交渉再開とウクライナ和平プロセス
1. 背景
・New START(新戦略兵器削減条約)は2026年に失効予定。
・ロシアは2023年2月にNew STARTの履行を停止し、米露の軍備管理交渉は凍結状態。
・ウクライナ紛争の激化により、軍備管理の再開が困難になっている。
・トランプ氏とプーチン大統領は交渉再開に前向きな姿勢を示している。
2. 核抑止と安全保障ジレンマ
・米露間の軍備管理は**安全保障ジレンマ(防衛強化が逆に脅威を増大させる現象)を抑制する役割を果たしてきた。
・NATOの東方拡大がロシアの脅威認識を高め、ウクライナ戦争の長期化につながった。
・New STARTが失効すれば、新たな核軍拡競争が加速する可能性が高い。
3. トランプの戦略とロシアの対応
・トランプ氏は軍備管理交渉の再開を通じたウクライナ戦争の終結を主張。
・ロシアは軍備管理交渉の前提としてウクライナ戦争の終結を要求。
・米国がウクライナ和平に妥協すれば、軍備管理の交渉が進展する可能性がある。
4. 軍拡競争の脅威
・New STARTが失効すると、米露間の戦略的安定が崩れ、新兵器開発が加速。
・ロシアは超音速ミサイル「Oreshniks」を配備、米国も次世代兵器開発を推進。
・中国・イランなども新型ミサイル技術を獲得し、世界的な軍拡競争が進行。
5. 新たな国際安全保障体制の必要性
・米露間の軍備管理協定を基盤に多国間協定を形成(中国・英国・フランス・インド・パキスタンを含める)。
・国連安全保障理事会(UNSC)の制裁措置を活用し、違反国を抑制。
・新型ミサイルの監視・検証メカニズムを強化し、違反防止を図る。
6. 結論
・米露の軍備管理交渉の再開は、ウクライナ和平プロセスの加速につながる可能性がある。
・ロシアはウクライナ戦争終結を交渉条件としており、米国の対応次第で和平が進む可能性。
・新型兵器の開発競争を抑えるため、国際的な軍備管理体制の再構築が不可欠。
トランプ氏の交渉方針とロシアの要求が今後の安全保障環境を左右する。
【引用・参照・底本】
Mutual Interest In Resuming Arms Control Talks Can Speed Up The Ukrainian Peace Process Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.29
https://korybko.substack.com/p/mutual-interest-in-resuming-arms?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=155987709&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
アンドリュー・コリブコによる2025年1月29日の記事「相互の関心による軍備管理交渉の再開がウクライナ和平プロセスを加速させる可能性」について説明する。
2026年初頭に新戦略兵器削減条約(New START)が更新または代替されない場合、新たな世界的軍拡競争が始まる可能性がある。クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、プーチン大統領がトランプ大統領との会談に応じる用意があることを表明し、その目的としてウクライナ紛争の終結および軍備管理交渉の再開が挙げられた。トランプ大統領は先週、ダボス会議でロシアとの交渉再開に関心を示しており、両者の発言が一致した形となる。特に軍備管理交渉の再開は重要な意味を持つ。なぜなら、New STARTは2026年2月に失効するが、交渉プロセスは2023年以降凍結されているからである。
この問題に関する背景情報として、以下のポイントが挙げられる。
・2023年2月21日:「ロシアがNew START参加を一時停止したのは適切な判断である」
・2024年1月20日:「ロシアはウクライナ紛争が終結するまで米国との軍備管理交渉を再開しない」
・2024年10月18日:「バイデンがロシアとの核交渉に関心を示したのは、トランプの最近の発言を受けた対応である」
米露関係において、戦略的安定性は核戦力およびその運搬手段のバランスに大きく依存している。米露両国は冷戦末期において、過剰な核兵器保有が危険であり、経済的負担も大きいことを認識し、部分的な削減および監視メカニズムの導入に合意した。この取り組みは、いわゆる「安全保障のジレンマ」を緩和する効果があった。「安全保障のジレンマ」とは、一方が防衛目的で行う軍備増強が、相手国にとって攻撃的な意図の表れと受け取られ、軍拡競争を引き起こす現象を指す。
しかし、NATOの東方拡大によってこのジレンマは再び顕在化し、ウクライナ紛争を通じてより深刻な段階に達している。もしNew STARTが失効し、代替協定が締結されない場合、この状況はさらに悪化する可能性がある。
こうした背景から、トランプ大統領は2020年大統領選挙時に掲げていたロシア・中国との非核化交渉の復活を目指しているとみられる。彼はダボスでの演説において、この交渉が2020年時点でほぼ成立しかけていたと主張した。しかし、実際には中国が交渉に消極的であり、ロシアも英国およびフランスの核戦力削減を条件としていたため、トランプの主張には誇張が含まれていると考えられる。
それにもかかわらず、米露双方が軍備管理交渉の再開に関心を持つことは、ウクライナ和平プロセスの加速につながる可能性がある。なぜなら、ロシアはウクライナ紛争が解決するまで軍備管理交渉を再開しない方針を示しているため、米露双方が和平に向けた妥協を模索する動機が生じるからである。
具体的な妥協案については、過去の分析記事に提示された提案が参考になるかもしれないが、両国が政治的意志を持たなければ進展は望めない。
軍備管理交渉の再開が急務である理由は、米露の安全保障のジレンマが深刻化し、New STARTの失効が迫っていることに加え、新たな兵器システムの開発・配備が進んでいる点にある。特にロシアの極超音速兵器「Oreshniks(オレシュニクス)」のような兵器は、放射能汚染を伴わないが核兵器に匹敵する破壊力を持つとされており、これが世界的な軍拡競争を加速させる可能性がある。
冷戦後の技術拡散の進展により、今回の軍拡競争は米露間にとどまらず、他の核保有国や一部の非核保有国(イランなど)にも波及することが予想される。このため、米露の合意を核とした多国間協定が不可欠であり、それによって他の主要な核・ミサイル保有国を交渉の枠組みに引き込み、これらの兵器の拡散を抑制する必要がある。
具体的な対策として、国連安全保障理事会(UNSC)において、非署名国がこれらの兵器を開発・配備した場合や、署名国が合意を超えて兵器を備蓄した場合に制裁を科すことが考えられる。これは、最先端の非核兵器の拡散防止を中心とした新たな国際安全保障体制の構築を意味する。
このような包括的な枠組みを実現するには、詳細な監視メカニズムの整備が必要であり、合意に至るまでには多くの困難が伴う。しかし、責任ある核・ミサイル保有国すべてにとって、このプロセスを成功させることは共通の利益となる。そのためには、まずウクライナ紛争を現実的な相互妥協を通じて迅速に終結させ、米露を核とする戦略的安全保障体制の再構築に向けた交渉を開始する必要がある。
【詳細】
米露の軍備管理交渉再開がウクライナ和平プロセスを加速させる可能性について
背景:軍備管理とウクライナ紛争の関係
現在、ロシアと米国の軍備管理交渉は2023年から停止しており、新戦略兵器削減条約(New START)は2026年2月に失効する予定である。この条約は両国の戦略核兵器の数を制限し、相互の監視メカニズムを提供することで核軍拡競争を抑制する役割を果たしてきた。しかし、ウクライナ紛争の激化により、ロシアは2023年2月にNew STARTの履行を停止し、米国との軍備管理交渉を凍結した。
ロシア政府の報道官ドミトリー・ペスコフは、ウラジーミル・プーチン大統領がドナルド・トランプ前大統領との会談に前向きであり、ウクライナ紛争の終結と軍備管理交渉の再開を議論する用意があると発言した。一方、トランプ氏もスイスのダボス会議でのビデオ演説において、プーチン大統領との直接交渉を通じてウクライナ戦争を終結させ、軍備管理協議を再開させる意向を表明した。
核抑止と安全保障ジレンマ
核軍備管理の重要性は、米露間の戦略的安定を維持し、安全保障ジレンマを抑制する点にある。安全保障ジレンマとは、一方が防衛目的で軍事力を増強しても、相手側がそれを攻撃的意図と誤認し、軍拡競争が加速する現象を指す。
米露は冷戦末期に核兵器の過剰生産が軍事的・経済的に負担であることを認識し、1991年の第一次戦略兵器削減条約(START I)以来、段階的な削減と管理メカニズムを構築してきた。しかし、NATOの東方拡大がロシアの脅威認識を高めた結果、米露間の安全保障ジレンマが再燃し、ウクライナ紛争の激化によってさらに悪化した。
New STARTが更新されずに失効すると、米露間の戦略的安定がさらに揺らぎ、新たな核軍拡競争が始まる可能性がある。これはウクライナ紛争の長期化とともに、世界的な安全保障環境をさらに不安定にする要因となる。
トランプの戦略とロシアの対応
トランプ氏は2020年の大統領選挙時に、ロシアと中国を含む新たな軍備管理協定の締結を目指していたと主張している。しかし、中国は当時の交渉に消極的であり、ロシアも英国・フランスの核兵器削減を求めていたため、実現には至らなかった。今回、トランプ氏は再び軍備管理交渉の重要性を強調し、ロシア側も交渉の可能性を示唆しているが、その実現には依然として高いハードルが存在する。
ロシア側の立場としては、ウクライナ紛争の解決が軍備管理交渉再開の前提条件となっている。つまり、米国がウクライナ戦争の終結に向けた妥協を受け入れるならば、ロシアも軍備管理交渉に応じる可能性がある。この相互の利害関係が、和平プロセスを加速させる要因となる。
新たな軍拡競争の脅威
New STARTの失効は、単なる米露間の問題にとどまらず、世界的な軍拡競争の再燃を引き起こす可能性がある。特に、ロシアは超音速ミサイル「Oreshniks(オレシュニクス)」の配備を進めており、米国や他の国々も同様の兵器開発を加速させている。
このような新兵器の登場により、核兵器を用いない高威力の戦略兵器が各国に普及し、既存の軍備管理条約では対応が困難になる。また、核保有国だけでなく、イランなどの非核保有国が新型ミサイル技術を取得することで、国際安全保障の枠組みがさらに複雑化する。
新たな国際安全保障体制の必要性
こうした状況を踏まえ、米露を中心とした新たな国際軍備管理体制の構築が求められる。理想的には、以下のような枠組みが考えられる。
1.米露間の軍備管理協定を基盤とした多国間協定の形成
・米露の合意を起点に、中国・英国・フランス・インド・パキスタンなどの核保有国を交渉に参加させる。
2.国連安全保障理事会(UNSC)の制裁措置の活用
・合意に参加しない国や、秘密裏に兵器を開発する国に対して国連制裁を発動するメカニズムを構築する。
3.監視・検証メカニズムの強化
・新型ミサイルの開発・配備を監視し、軍備管理違反を防ぐ国際的な査察制度を設ける。
現時点では、このような包括的な枠組みを実現するには多くの課題が残っている。しかし、軍備管理の再開を通じてウクライナ紛争の解決を促し、国際安全保障の新たな枠組みを構築することが、各国にとって戦略的利益に合致する。
結論
米露の軍備管理交渉の再開は、ウクライナ和平プロセスの加速につながる可能性がある。ロシアは交渉再開の条件としてウクライナ戦争の終結を求めており、米国がそれに応じる形で和平交渉が進めば、軍備管理の枠組みも復活する可能性がある。
また、新型ミサイル技術の発展によって、核軍拡だけでなく、非核兵器の軍拡競争が激化するリスクが高まっており、これを抑制するためには米露を中心とした新たな国際安全保障体制の構築が必要となる。
トランプ氏が今後どのように交渉を進めるか、またロシア側がどのような条件を提示するかが、ウクライナ和平と軍備管理の未来を左右する鍵となる。
【要点】
米露の軍備管理交渉再開とウクライナ和平プロセス
1. 背景
・New START(新戦略兵器削減条約)は2026年に失効予定。
・ロシアは2023年2月にNew STARTの履行を停止し、米露の軍備管理交渉は凍結状態。
・ウクライナ紛争の激化により、軍備管理の再開が困難になっている。
・トランプ氏とプーチン大統領は交渉再開に前向きな姿勢を示している。
2. 核抑止と安全保障ジレンマ
・米露間の軍備管理は**安全保障ジレンマ(防衛強化が逆に脅威を増大させる現象)を抑制する役割を果たしてきた。
・NATOの東方拡大がロシアの脅威認識を高め、ウクライナ戦争の長期化につながった。
・New STARTが失効すれば、新たな核軍拡競争が加速する可能性が高い。
3. トランプの戦略とロシアの対応
・トランプ氏は軍備管理交渉の再開を通じたウクライナ戦争の終結を主張。
・ロシアは軍備管理交渉の前提としてウクライナ戦争の終結を要求。
・米国がウクライナ和平に妥協すれば、軍備管理の交渉が進展する可能性がある。
4. 軍拡競争の脅威
・New STARTが失効すると、米露間の戦略的安定が崩れ、新兵器開発が加速。
・ロシアは超音速ミサイル「Oreshniks」を配備、米国も次世代兵器開発を推進。
・中国・イランなども新型ミサイル技術を獲得し、世界的な軍拡競争が進行。
5. 新たな国際安全保障体制の必要性
・米露間の軍備管理協定を基盤に多国間協定を形成(中国・英国・フランス・インド・パキスタンを含める)。
・国連安全保障理事会(UNSC)の制裁措置を活用し、違反国を抑制。
・新型ミサイルの監視・検証メカニズムを強化し、違反防止を図る。
6. 結論
・米露の軍備管理交渉の再開は、ウクライナ和平プロセスの加速につながる可能性がある。
・ロシアはウクライナ戦争終結を交渉条件としており、米国の対応次第で和平が進む可能性。
・新型兵器の開発競争を抑えるため、国際的な軍備管理体制の再構築が不可欠。
トランプ氏の交渉方針とロシアの要求が今後の安全保障環境を左右する。
【引用・参照・底本】
Mutual Interest In Resuming Arms Control Talks Can Speed Up The Ukrainian Peace Process Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.29
https://korybko.substack.com/p/mutual-interest-in-resuming-arms?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=155987709&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
M23反政府勢力に対するロシアの立場 ― 2025年01月31日 17:58
【概要】
ロシアの国連常駐代表であるワシリー・ネベンジャは、安全保障理事会の緊急会合において、コンゴ民主共和国(DRC)東部の都市ゴマを掌握したとされるM23反政府勢力に対するロシアの立場を示した。M23はルワンダの支援を受けていると報じられている。この紛争の背景には、安全保障上のジレンマ、資源問題、民族間対立といった複雑な要因が絡んでいる。
ネベンジャは、M23の攻勢を非難し、40万人の避難民の発生と高度な兵器システムの使用に懸念を表明した。さらに、「民間インフラ付近での重砲の使用」や「電子戦手段の継続的な使用」についても警告し、これは1994年のルワンダ大統領機撃墜事件を想起させる可能性がある。
ロシアは、国連および南部アフリカ開発共同体(SADC)の平和維持活動を支持すると表明し、昨年決裂したアンゴラ主導のルワンダ・DRC間の対話の再開を求めた。また、「国家が違法武装勢力との関係を断ち切らない限り、外交的進展は困難である」と指摘し、M23とフツ人主体の民主解放勢力(FDLR)の双方を名指しで問題視した。
さらに、ネベンジャは資源問題にも言及し、「この危機の中心にはコンゴの資源の違法搾取がある」と指摘し、「この犯罪行為には他の勢力や外部の『関係者』が関与している」と述べた。これは、西側諸国が紛争を悪化させている可能性を示唆している。また、M23が西側の代理勢力としてDRCの資源を掌握しようとしている可能性も排除しないが、ロシア外務省が翌日即時停戦を求めたことから、モスクワがこの見解を完全に支持しているわけではないことがうかがえる。
ロシアの報道機関RTが、元DRC駐在ルワンダ大使であり現在はアフリカ大湖地域担当大使のヴァンサン・カレガにインタビューし、それを広く報じた点も注目に値する。カレガは、DRC政府がツチ族を疎外し、M23の統合合意を履行しなかったことが危機の原因であると主張し、ルワンダ軍のDRC侵攻を否定した。このインタビューの公開は、ロシアが中立的な立場を維持しようとしていることを示している。
また、コンゴ紛争とウクライナ紛争の類似点にも言及できる。M23とルワンダは、それぞれドンバスの親ロシア派武装勢力とロシアの役割に似た立場を取っているように見える。しかし、ルワンダは過去に米国と緊密な関係を持っていたが、近年は中国やロシアとの関係を強化しており、西側の戦略的パートナーとは言えなくなっている。また、DRCの鉱物資源は既に採掘されているが、ドンバスのリチウム資源は未開発である点も異なる。さらに、ロシアの特別軍事作戦は民間人への被害を最小限に抑えようとしているが、ルワンダの関与が疑われる作戦は民間人に深刻な影響を及ぼしている。
このような要因を踏まえると、ロシアがM23やルワンダを全面的に非難しないのは、ウクライナ紛争との比較を避ける意図がある可能性がある。さらに、ロシアは昨年3月にDRCと軍事協定の草案を交わしている一方で、中央アフリカ共和国においてルワンダと密接な安全保障協力を展開しており、両者の間で仲介役を果たす可能性もある。今後の紛争の展開次第ではロシアの立場が変化する可能性もあるが、現時点ではバランスの取れた姿勢を維持している。
【詳細】
ロシアの国連常駐代表であるヴァシリー・ネベンジャは、国連安全保障理事会(UNSC)の緊急会合において、最新のコンゴ危機に対するロシアの立場を説明した。これは、ルワンダが支援しているとされる「3月23日運動」(M23)反政府勢力がコンゴ民主共和国(DRC)の東部都市ゴマを占拠したことを受けて開催されたものである。ロシアはM23の攻勢を非難し、40万人の避難民の発生に懸念を表明した。また、M23が高度な兵器を使用していることを指摘し、「重火器の民間インフラ近接使用」や「電子戦装備の継続的な使用」による脅威を強調した。これは、1994年のルワンダ虐殺の引き金となったルワンダ・ブルンジ両大統領搭乗機の撃墜事件を想起させる発言である可能性がある。
背景:コンゴ危機の根本要因
コンゴ東部の紛争は、長年にわたる安全保障上のジレンマ、資源争奪、そして民族問題が絡み合った結果である。ルワンダ政府は、DRCがフツ系武装勢力「ルワンダ解放民主軍」(FDLR)を支援していると非難し、一方でDRC側は、ルワンダがツチ系主体のM23を支援し、コンゴ東部の鉱物資源を巡る勢力争いを行っていると主張している。特に、コンゴ東部における鉱物資源の違法採掘と密輸は、紛争の大きな要因となっており、外部勢力の関与が指摘されている。
ロシアの対応と立場
ネベンジャは、M23の攻勢を非難しただけでなく、国連および南部アフリカ開発共同体(SADC)の平和維持活動への支持を表明した。また、昨年末に決裂したアンゴラ仲介のルワンダ・DRC間の和平交渉の再開を呼びかけた。ただし、「国家が違法武装勢力との関係を断つまでは、外交的進展は難しい」と指摘し、M23とFDLRの両方に言及した。この発言から、ロシアは今回の危機の根本にある安全保障上のジレンマと民族的要因を認識していることがわかる。
資源問題についても、ネベンジャは「危機の中心にはコンゴの天然資源の違法搾取がある」とし、「この犯罪行為には他の武装勢力や外部勢力も関与している」と述べた。この発言は、西側諸国が紛争を煽っている可能性を示唆するものでもある。また、M23が西側の代理勢力としてDRCの鉱物資源を掌握しようとしている可能性も示唆されたが、翌日にロシア外務省が停戦を呼びかけたことから、ロシアはM23の一方的撤退を求めるほどの確信には至っていないことがわかる。
ルワンダとの関係とロシアのバランス外交
ロシア国営メディア「RT」は、ルワンダのヴィンセント・カレガ元駐コンゴ大使(現在は大湖地域担当の大使)にインタビューし、その内容を大々的に報じた。カレガは、M23の蜂起の要因として「コンゴ政府によるツチ系住民の排斥」と「M23の国家統合に関する合意不履行」を挙げ、ルワンダ軍がコンゴ領内に侵入したという報道を否定した。RTがこのような報道を行ったことは、ロシアがこの問題において中立的な立場を維持しようとしていることを示している。
一方で、ネベンジャの発言からは、ロシアがM23に対して一定の批判的な立場を持ちつつも、西側諸国が紛争を悪化させている可能性にも注目していることが読み取れる。したがって、ロシアが現時点でルワンダに敵対的な立場を取っているとは言えない。これは、ウクライナ危機との比較を考慮する必要があるためである。
ウクライナ危機との比較
表面的に見れば、M23とルワンダが果たしている役割は、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力(ドンバス民兵)とロシアの関係に類似しているように思われる。さらに、コンゴ東部の豊富な鉱物資源は、ウクライナ東部のリチウム鉱床と同様に戦略的価値が高い。ただし、重要な相違点も存在する。
1.地政学的な立場
ルワンダはコンゴ戦争時に米国の重要な同盟国であったが、近年は中国やロシアとの関係を深めたことで米国と距離を置くようになった。一方、ロシアはウクライナ危機以前から米国主導の西側諸国と対立関係にあった。
2.資源の利用状況
コンゴ東部の鉱物資源はすでに採掘され、国際市場に流通しているが、ウクライナ東部のリチウム鉱床はまだ開発が進んでいない。
3.軍事作戦の性質
ロシアはウクライナに対する「特別軍事作戦」を公式に認めており、民間人被害を最小限に抑える努力をしていると主張している。一方、ルワンダ政府はコンゴ東部での軍事作戦を公式には認めていないが、M23の攻勢はすでに多くの民間人に被害を及ぼしている。
4.軍事行動の正当性
ロシアは、ウクライナ政府がドンバスに対して攻勢を準備していたと主張し、その阻止を目的とした軍事行動を行った。一方、ルワンダがM23を支援する明確な「先制的脅威」の存在は確認されていない。
今後の展望
ロシアは2024年3月にDRCと軍事協定を締結したが、同時に中央アフリカ共和国(CAR)におけるルワンダとの安全保障協力を維持しており、両国とのバランスを取る姿勢を示している。今後の状況次第では、ロシアがDRCとルワンダの間で仲介役を果たす可能性もある。特に、戦闘が拡大し、国際社会がより積極的に関与する事態になれば、ロシアの立場も変化する可能性がある。
現在のロシアの対応は、紛争の本質を理解しつつ、一方に偏らずに関与を続ける「バランスの取れた」政策であると評価できる。
【要点】
ロシアの国連での発言
1.ネベンジャの発言
・M23の攻勢を非難し、40万人の避難民発生に懸念を表明。
・M23の高度な兵器使用を指摘(重火器や電子戦装備)。
・民間インフラ近接での武器使用を問題視。
・1994年のルワンダ虐殺を想起させる事態を警戒。
コンゴ危機の背景
1.民族対立
・ルワンダ政府:コンゴがフツ系武装勢力(FDLR)を支援していると主張。
・コンゴ政府:ルワンダがツチ系主体のM23を支援していると非難。
2.資源争奪
・コンゴ東部の鉱物資源(コバルト・金など)の違法採掘・密輸が紛争要因。
ロシアの対応と立場
1.平和的解決の支持
・国連・SADCの平和維持活動を支持。
・ルワンダとコンゴの和平交渉の再開を呼びかけ。
2.資源問題への言及
・紛争の中心はコンゴの天然資源の違法搾取。
・他の武装勢力や外部勢力も関与と指摘。
3.西側諸国への警戒
・M23が西側の代理勢力として資源を掌握しようとしている可能性を示唆。
ただし、M23の完全撤退要求はせず。
ルワンダとの関係
1.RTの報道
・ルワンダ大使の発言を報道し、M23の蜂起原因は「ツチ系住民の排斥」との見解を紹介。
・ルワンダ軍の関与を否定。
2.中立姿勢の維持
・M23を非難しつつ、西側諸国の関与を指摘するバランス外交。
ウクライナ危機との比較
1.類似点
・M23とルワンダの関係 ≒ ドンバス民兵とロシアの関係。
・コンゴ東部の鉱物資源 ≒ ウクライナ東部のリチウム鉱床。
2.相違点
・ルワンダは米国と距離を置きつつ中国・ロシアに接近。
・ウクライナ東部は未開発資源、コンゴ東部はすでに採掘中。
・ルワンダは関与を公式に認めず、ロシアは「特別軍事作戦」として承認。
今後の展望
1.軍事協定とバランス外交
・ロシアは2024年3月にコンゴと軍事協定を締結。
・ルワンダとも中央アフリカで安全保障協力を維持。
2.仲介役の可能性
・戦闘拡大すれば、ロシアが仲介に関与する可能性。
3.現状のロシアの立場
・一方に偏らず、慎重な外交姿勢を継続。
【引用・参照・底本】
Analyzing Russia’s Response To The Latest Congolese Crisis Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.28
https://korybko.substack.com/p/analyzing-russias-response-to-the?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=155915541&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ロシアの国連常駐代表であるワシリー・ネベンジャは、安全保障理事会の緊急会合において、コンゴ民主共和国(DRC)東部の都市ゴマを掌握したとされるM23反政府勢力に対するロシアの立場を示した。M23はルワンダの支援を受けていると報じられている。この紛争の背景には、安全保障上のジレンマ、資源問題、民族間対立といった複雑な要因が絡んでいる。
ネベンジャは、M23の攻勢を非難し、40万人の避難民の発生と高度な兵器システムの使用に懸念を表明した。さらに、「民間インフラ付近での重砲の使用」や「電子戦手段の継続的な使用」についても警告し、これは1994年のルワンダ大統領機撃墜事件を想起させる可能性がある。
ロシアは、国連および南部アフリカ開発共同体(SADC)の平和維持活動を支持すると表明し、昨年決裂したアンゴラ主導のルワンダ・DRC間の対話の再開を求めた。また、「国家が違法武装勢力との関係を断ち切らない限り、外交的進展は困難である」と指摘し、M23とフツ人主体の民主解放勢力(FDLR)の双方を名指しで問題視した。
さらに、ネベンジャは資源問題にも言及し、「この危機の中心にはコンゴの資源の違法搾取がある」と指摘し、「この犯罪行為には他の勢力や外部の『関係者』が関与している」と述べた。これは、西側諸国が紛争を悪化させている可能性を示唆している。また、M23が西側の代理勢力としてDRCの資源を掌握しようとしている可能性も排除しないが、ロシア外務省が翌日即時停戦を求めたことから、モスクワがこの見解を完全に支持しているわけではないことがうかがえる。
ロシアの報道機関RTが、元DRC駐在ルワンダ大使であり現在はアフリカ大湖地域担当大使のヴァンサン・カレガにインタビューし、それを広く報じた点も注目に値する。カレガは、DRC政府がツチ族を疎外し、M23の統合合意を履行しなかったことが危機の原因であると主張し、ルワンダ軍のDRC侵攻を否定した。このインタビューの公開は、ロシアが中立的な立場を維持しようとしていることを示している。
また、コンゴ紛争とウクライナ紛争の類似点にも言及できる。M23とルワンダは、それぞれドンバスの親ロシア派武装勢力とロシアの役割に似た立場を取っているように見える。しかし、ルワンダは過去に米国と緊密な関係を持っていたが、近年は中国やロシアとの関係を強化しており、西側の戦略的パートナーとは言えなくなっている。また、DRCの鉱物資源は既に採掘されているが、ドンバスのリチウム資源は未開発である点も異なる。さらに、ロシアの特別軍事作戦は民間人への被害を最小限に抑えようとしているが、ルワンダの関与が疑われる作戦は民間人に深刻な影響を及ぼしている。
このような要因を踏まえると、ロシアがM23やルワンダを全面的に非難しないのは、ウクライナ紛争との比較を避ける意図がある可能性がある。さらに、ロシアは昨年3月にDRCと軍事協定の草案を交わしている一方で、中央アフリカ共和国においてルワンダと密接な安全保障協力を展開しており、両者の間で仲介役を果たす可能性もある。今後の紛争の展開次第ではロシアの立場が変化する可能性もあるが、現時点ではバランスの取れた姿勢を維持している。
【詳細】
ロシアの国連常駐代表であるヴァシリー・ネベンジャは、国連安全保障理事会(UNSC)の緊急会合において、最新のコンゴ危機に対するロシアの立場を説明した。これは、ルワンダが支援しているとされる「3月23日運動」(M23)反政府勢力がコンゴ民主共和国(DRC)の東部都市ゴマを占拠したことを受けて開催されたものである。ロシアはM23の攻勢を非難し、40万人の避難民の発生に懸念を表明した。また、M23が高度な兵器を使用していることを指摘し、「重火器の民間インフラ近接使用」や「電子戦装備の継続的な使用」による脅威を強調した。これは、1994年のルワンダ虐殺の引き金となったルワンダ・ブルンジ両大統領搭乗機の撃墜事件を想起させる発言である可能性がある。
背景:コンゴ危機の根本要因
コンゴ東部の紛争は、長年にわたる安全保障上のジレンマ、資源争奪、そして民族問題が絡み合った結果である。ルワンダ政府は、DRCがフツ系武装勢力「ルワンダ解放民主軍」(FDLR)を支援していると非難し、一方でDRC側は、ルワンダがツチ系主体のM23を支援し、コンゴ東部の鉱物資源を巡る勢力争いを行っていると主張している。特に、コンゴ東部における鉱物資源の違法採掘と密輸は、紛争の大きな要因となっており、外部勢力の関与が指摘されている。
ロシアの対応と立場
ネベンジャは、M23の攻勢を非難しただけでなく、国連および南部アフリカ開発共同体(SADC)の平和維持活動への支持を表明した。また、昨年末に決裂したアンゴラ仲介のルワンダ・DRC間の和平交渉の再開を呼びかけた。ただし、「国家が違法武装勢力との関係を断つまでは、外交的進展は難しい」と指摘し、M23とFDLRの両方に言及した。この発言から、ロシアは今回の危機の根本にある安全保障上のジレンマと民族的要因を認識していることがわかる。
資源問題についても、ネベンジャは「危機の中心にはコンゴの天然資源の違法搾取がある」とし、「この犯罪行為には他の武装勢力や外部勢力も関与している」と述べた。この発言は、西側諸国が紛争を煽っている可能性を示唆するものでもある。また、M23が西側の代理勢力としてDRCの鉱物資源を掌握しようとしている可能性も示唆されたが、翌日にロシア外務省が停戦を呼びかけたことから、ロシアはM23の一方的撤退を求めるほどの確信には至っていないことがわかる。
ルワンダとの関係とロシアのバランス外交
ロシア国営メディア「RT」は、ルワンダのヴィンセント・カレガ元駐コンゴ大使(現在は大湖地域担当の大使)にインタビューし、その内容を大々的に報じた。カレガは、M23の蜂起の要因として「コンゴ政府によるツチ系住民の排斥」と「M23の国家統合に関する合意不履行」を挙げ、ルワンダ軍がコンゴ領内に侵入したという報道を否定した。RTがこのような報道を行ったことは、ロシアがこの問題において中立的な立場を維持しようとしていることを示している。
一方で、ネベンジャの発言からは、ロシアがM23に対して一定の批判的な立場を持ちつつも、西側諸国が紛争を悪化させている可能性にも注目していることが読み取れる。したがって、ロシアが現時点でルワンダに敵対的な立場を取っているとは言えない。これは、ウクライナ危機との比較を考慮する必要があるためである。
ウクライナ危機との比較
表面的に見れば、M23とルワンダが果たしている役割は、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力(ドンバス民兵)とロシアの関係に類似しているように思われる。さらに、コンゴ東部の豊富な鉱物資源は、ウクライナ東部のリチウム鉱床と同様に戦略的価値が高い。ただし、重要な相違点も存在する。
1.地政学的な立場
ルワンダはコンゴ戦争時に米国の重要な同盟国であったが、近年は中国やロシアとの関係を深めたことで米国と距離を置くようになった。一方、ロシアはウクライナ危機以前から米国主導の西側諸国と対立関係にあった。
2.資源の利用状況
コンゴ東部の鉱物資源はすでに採掘され、国際市場に流通しているが、ウクライナ東部のリチウム鉱床はまだ開発が進んでいない。
3.軍事作戦の性質
ロシアはウクライナに対する「特別軍事作戦」を公式に認めており、民間人被害を最小限に抑える努力をしていると主張している。一方、ルワンダ政府はコンゴ東部での軍事作戦を公式には認めていないが、M23の攻勢はすでに多くの民間人に被害を及ぼしている。
4.軍事行動の正当性
ロシアは、ウクライナ政府がドンバスに対して攻勢を準備していたと主張し、その阻止を目的とした軍事行動を行った。一方、ルワンダがM23を支援する明確な「先制的脅威」の存在は確認されていない。
今後の展望
ロシアは2024年3月にDRCと軍事協定を締結したが、同時に中央アフリカ共和国(CAR)におけるルワンダとの安全保障協力を維持しており、両国とのバランスを取る姿勢を示している。今後の状況次第では、ロシアがDRCとルワンダの間で仲介役を果たす可能性もある。特に、戦闘が拡大し、国際社会がより積極的に関与する事態になれば、ロシアの立場も変化する可能性がある。
現在のロシアの対応は、紛争の本質を理解しつつ、一方に偏らずに関与を続ける「バランスの取れた」政策であると評価できる。
【要点】
ロシアの国連での発言
1.ネベンジャの発言
・M23の攻勢を非難し、40万人の避難民発生に懸念を表明。
・M23の高度な兵器使用を指摘(重火器や電子戦装備)。
・民間インフラ近接での武器使用を問題視。
・1994年のルワンダ虐殺を想起させる事態を警戒。
コンゴ危機の背景
1.民族対立
・ルワンダ政府:コンゴがフツ系武装勢力(FDLR)を支援していると主張。
・コンゴ政府:ルワンダがツチ系主体のM23を支援していると非難。
2.資源争奪
・コンゴ東部の鉱物資源(コバルト・金など)の違法採掘・密輸が紛争要因。
ロシアの対応と立場
1.平和的解決の支持
・国連・SADCの平和維持活動を支持。
・ルワンダとコンゴの和平交渉の再開を呼びかけ。
2.資源問題への言及
・紛争の中心はコンゴの天然資源の違法搾取。
・他の武装勢力や外部勢力も関与と指摘。
3.西側諸国への警戒
・M23が西側の代理勢力として資源を掌握しようとしている可能性を示唆。
ただし、M23の完全撤退要求はせず。
ルワンダとの関係
1.RTの報道
・ルワンダ大使の発言を報道し、M23の蜂起原因は「ツチ系住民の排斥」との見解を紹介。
・ルワンダ軍の関与を否定。
2.中立姿勢の維持
・M23を非難しつつ、西側諸国の関与を指摘するバランス外交。
ウクライナ危機との比較
1.類似点
・M23とルワンダの関係 ≒ ドンバス民兵とロシアの関係。
・コンゴ東部の鉱物資源 ≒ ウクライナ東部のリチウム鉱床。
2.相違点
・ルワンダは米国と距離を置きつつ中国・ロシアに接近。
・ウクライナ東部は未開発資源、コンゴ東部はすでに採掘中。
・ルワンダは関与を公式に認めず、ロシアは「特別軍事作戦」として承認。
今後の展望
1.軍事協定とバランス外交
・ロシアは2024年3月にコンゴと軍事協定を締結。
・ルワンダとも中央アフリカで安全保障協力を維持。
2.仲介役の可能性
・戦闘拡大すれば、ロシアが仲介に関与する可能性。
3.現状のロシアの立場
・一方に偏らず、慎重な外交姿勢を継続。
【引用・参照・底本】
Analyzing Russia’s Response To The Latest Congolese Crisis Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.28
https://korybko.substack.com/p/analyzing-russias-response-to-the?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=155915541&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ポーランドの軍事介入の可能性 ― 2025年01月31日 18:47
【概要】
記事の要点は、ポーランドがベラルーシやウクライナに軍を派遣する可能性について論じている。ポーランドの軍事行動はトランプ米大統領の承認なしには行われず、トランプがNATOの集団的防衛義務(NATO条約第5条)を適用しない可能性が高いため、その実現性は低いとされる。
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、自国やウクライナに対するポーランドの領土的野心について警戒を示しており、「西ベラルーシからミンスクまで、さらには西ウクライナを狙っている」と述べた。しかし、ポーランドが実際に軍事介入する可能性は低い。ウクライナのゼレンスキー大統領も、ダボス会議で欧州諸国に平和維持軍の派遣を求めたが、米国の承認がない限り実現しないと嘆いていた。ロシアは以前から、外国軍がウクライナに無許可で入ることを攻撃の対象とすると警告しており、その立場は最近も再確認された。
一部のポーランド民族主義者は、ポーランド・リトアニア共和国時代の影響圏を回復し、ベラルーシやウクライナ、リトアニアの一部を支配下に置くことを望んでいるが、それは少数派の意見であり、ポーランド政府は長年にわたり政治・経済的影響力の拡大を優先してきた。1991年以降、ポーランドは東方パートナーシップ、三海イニシアティブ、ルブリン・トライアングルなどを通じて影響力を行使し、直接的な領土拡張ではなく、勢力圏の確立を目指している。
歴史的な背景として、第二次世界大戦後にポーランド系住民の大規模な移動が行われたことがある。ポーランドはかつてピウスツキの「ミエンドモジェ」構想に基づき、ロシアとの間に緩衝地帯を築くことを目指したが、ポーランド・ソビエト戦争の終結による領土妥協やゼリゴフスキのヴィリニュス占領工作により、その計画は頓挫した。現在、ポーランド政府がベラルーシやウクライナの領土を併合しようとすれば、外交政策が破綻するだけでなく、新たな民族問題やテロのリスクが高まる。
特に、西ウクライナはポーランド文化の発展に貢献した地域ではあるが、現在のポーランド人にとってはウクライナとのビザなし渡航が可能であり、歴史的な遺産を訪れることは自由にできる。そのため、文化的・社会的な観点からも領土拡張の動機は低い。ベラルーシやリトアニアに対しても同様の状況にあり、ポーランドがこれらの地域に軍事的に関与する理由は乏しい。
軍事的観点からも、ポーランドが単独でウクライナやベラルーシに軍を派遣すれば、ロシアによる攻撃を受ける可能性が高く、米国の安全保障保証がない限り、現実的な選択肢とはならない。トランプはNATO同盟国の軍が第三国に派遣されることに慎重であり、その防衛義務を拡大しないと考えられるため、ポーランドが独自に軍事介入することは考えにくい。
したがって、ルカシェンコ大統領の発言は、ポーランドがベラルーシに対して非対称的な手段で影響力を行使する可能性があることを警告するものではあるが、実際に軍を派遣して領土を併合する可能性は低い。
【詳細】
ポーランドの軍事介入の可能性と現実的な制約
ポーランドがベラルーシやウクライナに軍を派遣する可能性について、政治的・軍事的・歴史的背景を考慮しながら詳述する。
1. ルカシェンコの主張とその背景
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、2025年1月28日に7選を果たした直後、ポーランドの領土的野心について警戒を表明した。彼は「ポーランドは西ベラルーシからミンスク、さらには西ウクライナにまで野心を抱いている」と述べ、ポーランドによる直接的な軍事介入の可能性を示唆した。この発言の背景には、ポーランドがウクライナを支援し、ベラルーシに対して反政権勢力を支援している事実がある。
ポーランド政府は公式には領土的野心を否定しているが、過去に東方拡張政策を推進してきた経緯があり、ルカシェンコの懸念が完全に根拠のないものとは言えない。ただし、現実的な制約を考えると、ポーランドが軍を派遣する可能性は極めて低い。
2. ポーランドが軍事介入を控える理由
(1) NATOの防衛義務と米国の承認
ポーランドがウクライナやベラルーシに軍を派遣した場合、ロシアからの攻撃を受ける可能性が高い。しかし、ポーランド軍がこれらの地域で戦闘を行った場合でも、NATOの集団的防衛義務(NATO条約第5条)は適用されない。なぜなら、NATO条約は加盟国の領土が攻撃された場合に発動されるものであり、第三国での軍事行動には適用されないからである。
特に、トランプ前大統領はNATOの防衛義務の範囲を厳密に解釈する傾向があり、ポーランドが独自に軍事介入することを許可する可能性は低い。トランプ政権下では、NATO加盟国が米国の承認なしに外国で軍事行動を取ることを制限する方針が強まる可能性がある。したがって、ポーランドがウクライナやベラルーシに軍を派遣するには、米国の明確な承認が必要となるが、その可能性は低い。
(2) ロシアの報復リスク
ロシア政府は、外国軍がウクライナやベラルーシに侵入した場合、直ちに攻撃対象とすると警告している。最近もロシアの高官がこの方針を再確認しており、ポーランドが単独で軍事行動を取れば、ロシアの大規模な報復を招く可能性がある。
ウクライナでの戦況は依然として不安定であり、ポーランドが軍事介入すれば、ロシアとの全面戦争に発展する可能性がある。このリスクを考慮すると、ポーランドが単独で軍事行動を取ることは現実的ではない。
(3) ポーランドの歴史的政策と戦略
ポーランドは1991年以降、東方に対して影響力を行使する戦略を取ってきたが、それは軍事的占領ではなく、経済・外交的な手法を重視してきた。
東方パートナーシップ(Eastern Partnership): ポーランドはEUを通じてウクライナ、ベラルーシ、ジョージア、モルドバなどの旧ソ連圏諸国との関係を強化し、ロシアの影響力を削ぐ政策を推進してきた。
三海イニシアティブ(Three Seas Initiative): 中東欧諸国との経済協力を強化し、ロシア依存を減らすための枠組みを構築している。
ルブリン・トライアングル(Lublin Triangle): ポーランド、リトアニア、ウクライナの三国協力を強化し、ロシアの影響力を封じ込めるための政治的枠組み。
このように、ポーランドは長年にわたり、軍事介入ではなく経済・外交を通じた影響力拡大を重視してきた。この方針を覆し、直接的な軍事介入に踏み切る可能性は低い。
3. 歴史的背景とポーランドの領土戦略
(1) 第二次世界大戦後の国境確定
ポーランドは第二次世界大戦後のヤルタ会談およびポツダム会談を経て、現在の東部国境を確定させた。この際、旧ポーランド領の一部がソ連(現ベラルーシ、ウクライナ、リトアニア)に編入され、多くのポーランド人が強制移住させられた。結果として、現在のベラルーシやウクライナにはポーランド系住民の数が激減しており、領土回復の支持基盤はほとんど存在しない。
(2) 「ミエンドモジェ(Intermarium)」構想
ポーランドの元指導者ユゼフ・ピウスツキは、ロシアとドイツの間に複数の国を配置する「ミエンドモジェ(Intermarium)」構想を提唱した。この戦略は、ポーランドが中東欧の主導権を握るためのものだったが、当時の国際情勢では実現しなかった。現在のポーランド政府も同様の影響圏拡大を目指しているが、軍事的手段ではなく、外交・経済的手法を採用している。
(3) ポーランドと西ウクライナ
西ウクライナ(特にリヴィウなど)は、かつてポーランド文化の中心地の一つであった。しかし、現在ポーランドとウクライナはビザなし渡航を可能にしており、歴史的遺産へのアクセスが自由である。そのため、ポーランドが軍事的に占領する必要性は低く、文化的な側面からの動機付けも希薄である。
4. 結論
ポーランドがベラルーシやウクライナに軍を派遣する可能性は極めて低い。その理由は以下の通りである。
NATO条約第5条の適用外 - ポーランド軍が第三国に派遣された場合、NATOの集団防衛義務は適用されず、トランプ政権下での承認も期待できない。
ロシアの報復リスク - ポーランドが軍事介入すれば、ロシアの大規模な反撃を受ける可能性が高い。
経済・外交を重視した戦略 - ポーランドは軍事介入よりも影響圏の拡大を外交・経済を通じて進めてきた。
歴史的要因の影響 - 第二次世界大戦後の国境確定や民族移動により、ポーランドの領土拡張の動機は減少している。
以上の要因から、ルカシェンコの警告はポーランドの非対称的な影響力行使を警戒する意味では有効だが、実際に軍事介入する可能性は低いと考えられる。
【要点】
ポーランドの軍事介入の可能性について、以下の理由から低いと考えられる。
・NATO条約第5条の適用外
ポーランドが第三国に軍を派遣しても、NATOの集団防衛義務(第5条)は適用されないため、米国の承認が必要だがその可能性は低い。
・ロシアの報復リスク
ポーランドが軍事介入すれば、ロシアから大規模な報復を受けるリスクが高い。
・経済・外交を重視した戦略
ポーランドは軍事介入よりも、経済や外交を通じて影響力を拡大してきた。
・歴史的背景
第二次世界大戦後の国境確定や民族移動により、ポーランドの領土拡張の動機が減少している。
・ポーランドとウクライナの関係
ポーランドとウクライナは文化的・経済的な関係が強く、軍事的介入の必要性が低い。
・ロシアの軍事的脅威への対応
ポーランドが単独で軍事介入を行えば、ロシアとの全面戦争に発展する可能性があるため、現実的には避けられる。
以上から、ポーランドの軍事介入は現実的ではないと考えられる。
【引用・参照・底本】
Poland Won’t Send Troops To Belarus Or Ukraine Without Trump’s Approval Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.30
https://korybko.substack.com/p/poland-wont-send-troops-to-belarus?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=156077756&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
記事の要点は、ポーランドがベラルーシやウクライナに軍を派遣する可能性について論じている。ポーランドの軍事行動はトランプ米大統領の承認なしには行われず、トランプがNATOの集団的防衛義務(NATO条約第5条)を適用しない可能性が高いため、その実現性は低いとされる。
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、自国やウクライナに対するポーランドの領土的野心について警戒を示しており、「西ベラルーシからミンスクまで、さらには西ウクライナを狙っている」と述べた。しかし、ポーランドが実際に軍事介入する可能性は低い。ウクライナのゼレンスキー大統領も、ダボス会議で欧州諸国に平和維持軍の派遣を求めたが、米国の承認がない限り実現しないと嘆いていた。ロシアは以前から、外国軍がウクライナに無許可で入ることを攻撃の対象とすると警告しており、その立場は最近も再確認された。
一部のポーランド民族主義者は、ポーランド・リトアニア共和国時代の影響圏を回復し、ベラルーシやウクライナ、リトアニアの一部を支配下に置くことを望んでいるが、それは少数派の意見であり、ポーランド政府は長年にわたり政治・経済的影響力の拡大を優先してきた。1991年以降、ポーランドは東方パートナーシップ、三海イニシアティブ、ルブリン・トライアングルなどを通じて影響力を行使し、直接的な領土拡張ではなく、勢力圏の確立を目指している。
歴史的な背景として、第二次世界大戦後にポーランド系住民の大規模な移動が行われたことがある。ポーランドはかつてピウスツキの「ミエンドモジェ」構想に基づき、ロシアとの間に緩衝地帯を築くことを目指したが、ポーランド・ソビエト戦争の終結による領土妥協やゼリゴフスキのヴィリニュス占領工作により、その計画は頓挫した。現在、ポーランド政府がベラルーシやウクライナの領土を併合しようとすれば、外交政策が破綻するだけでなく、新たな民族問題やテロのリスクが高まる。
特に、西ウクライナはポーランド文化の発展に貢献した地域ではあるが、現在のポーランド人にとってはウクライナとのビザなし渡航が可能であり、歴史的な遺産を訪れることは自由にできる。そのため、文化的・社会的な観点からも領土拡張の動機は低い。ベラルーシやリトアニアに対しても同様の状況にあり、ポーランドがこれらの地域に軍事的に関与する理由は乏しい。
軍事的観点からも、ポーランドが単独でウクライナやベラルーシに軍を派遣すれば、ロシアによる攻撃を受ける可能性が高く、米国の安全保障保証がない限り、現実的な選択肢とはならない。トランプはNATO同盟国の軍が第三国に派遣されることに慎重であり、その防衛義務を拡大しないと考えられるため、ポーランドが独自に軍事介入することは考えにくい。
したがって、ルカシェンコ大統領の発言は、ポーランドがベラルーシに対して非対称的な手段で影響力を行使する可能性があることを警告するものではあるが、実際に軍を派遣して領土を併合する可能性は低い。
【詳細】
ポーランドの軍事介入の可能性と現実的な制約
ポーランドがベラルーシやウクライナに軍を派遣する可能性について、政治的・軍事的・歴史的背景を考慮しながら詳述する。
1. ルカシェンコの主張とその背景
ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は、2025年1月28日に7選を果たした直後、ポーランドの領土的野心について警戒を表明した。彼は「ポーランドは西ベラルーシからミンスク、さらには西ウクライナにまで野心を抱いている」と述べ、ポーランドによる直接的な軍事介入の可能性を示唆した。この発言の背景には、ポーランドがウクライナを支援し、ベラルーシに対して反政権勢力を支援している事実がある。
ポーランド政府は公式には領土的野心を否定しているが、過去に東方拡張政策を推進してきた経緯があり、ルカシェンコの懸念が完全に根拠のないものとは言えない。ただし、現実的な制約を考えると、ポーランドが軍を派遣する可能性は極めて低い。
2. ポーランドが軍事介入を控える理由
(1) NATOの防衛義務と米国の承認
ポーランドがウクライナやベラルーシに軍を派遣した場合、ロシアからの攻撃を受ける可能性が高い。しかし、ポーランド軍がこれらの地域で戦闘を行った場合でも、NATOの集団的防衛義務(NATO条約第5条)は適用されない。なぜなら、NATO条約は加盟国の領土が攻撃された場合に発動されるものであり、第三国での軍事行動には適用されないからである。
特に、トランプ前大統領はNATOの防衛義務の範囲を厳密に解釈する傾向があり、ポーランドが独自に軍事介入することを許可する可能性は低い。トランプ政権下では、NATO加盟国が米国の承認なしに外国で軍事行動を取ることを制限する方針が強まる可能性がある。したがって、ポーランドがウクライナやベラルーシに軍を派遣するには、米国の明確な承認が必要となるが、その可能性は低い。
(2) ロシアの報復リスク
ロシア政府は、外国軍がウクライナやベラルーシに侵入した場合、直ちに攻撃対象とすると警告している。最近もロシアの高官がこの方針を再確認しており、ポーランドが単独で軍事行動を取れば、ロシアの大規模な報復を招く可能性がある。
ウクライナでの戦況は依然として不安定であり、ポーランドが軍事介入すれば、ロシアとの全面戦争に発展する可能性がある。このリスクを考慮すると、ポーランドが単独で軍事行動を取ることは現実的ではない。
(3) ポーランドの歴史的政策と戦略
ポーランドは1991年以降、東方に対して影響力を行使する戦略を取ってきたが、それは軍事的占領ではなく、経済・外交的な手法を重視してきた。
東方パートナーシップ(Eastern Partnership): ポーランドはEUを通じてウクライナ、ベラルーシ、ジョージア、モルドバなどの旧ソ連圏諸国との関係を強化し、ロシアの影響力を削ぐ政策を推進してきた。
三海イニシアティブ(Three Seas Initiative): 中東欧諸国との経済協力を強化し、ロシア依存を減らすための枠組みを構築している。
ルブリン・トライアングル(Lublin Triangle): ポーランド、リトアニア、ウクライナの三国協力を強化し、ロシアの影響力を封じ込めるための政治的枠組み。
このように、ポーランドは長年にわたり、軍事介入ではなく経済・外交を通じた影響力拡大を重視してきた。この方針を覆し、直接的な軍事介入に踏み切る可能性は低い。
3. 歴史的背景とポーランドの領土戦略
(1) 第二次世界大戦後の国境確定
ポーランドは第二次世界大戦後のヤルタ会談およびポツダム会談を経て、現在の東部国境を確定させた。この際、旧ポーランド領の一部がソ連(現ベラルーシ、ウクライナ、リトアニア)に編入され、多くのポーランド人が強制移住させられた。結果として、現在のベラルーシやウクライナにはポーランド系住民の数が激減しており、領土回復の支持基盤はほとんど存在しない。
(2) 「ミエンドモジェ(Intermarium)」構想
ポーランドの元指導者ユゼフ・ピウスツキは、ロシアとドイツの間に複数の国を配置する「ミエンドモジェ(Intermarium)」構想を提唱した。この戦略は、ポーランドが中東欧の主導権を握るためのものだったが、当時の国際情勢では実現しなかった。現在のポーランド政府も同様の影響圏拡大を目指しているが、軍事的手段ではなく、外交・経済的手法を採用している。
(3) ポーランドと西ウクライナ
西ウクライナ(特にリヴィウなど)は、かつてポーランド文化の中心地の一つであった。しかし、現在ポーランドとウクライナはビザなし渡航を可能にしており、歴史的遺産へのアクセスが自由である。そのため、ポーランドが軍事的に占領する必要性は低く、文化的な側面からの動機付けも希薄である。
4. 結論
ポーランドがベラルーシやウクライナに軍を派遣する可能性は極めて低い。その理由は以下の通りである。
NATO条約第5条の適用外 - ポーランド軍が第三国に派遣された場合、NATOの集団防衛義務は適用されず、トランプ政権下での承認も期待できない。
ロシアの報復リスク - ポーランドが軍事介入すれば、ロシアの大規模な反撃を受ける可能性が高い。
経済・外交を重視した戦略 - ポーランドは軍事介入よりも影響圏の拡大を外交・経済を通じて進めてきた。
歴史的要因の影響 - 第二次世界大戦後の国境確定や民族移動により、ポーランドの領土拡張の動機は減少している。
以上の要因から、ルカシェンコの警告はポーランドの非対称的な影響力行使を警戒する意味では有効だが、実際に軍事介入する可能性は低いと考えられる。
【要点】
ポーランドの軍事介入の可能性について、以下の理由から低いと考えられる。
・NATO条約第5条の適用外
ポーランドが第三国に軍を派遣しても、NATOの集団防衛義務(第5条)は適用されないため、米国の承認が必要だがその可能性は低い。
・ロシアの報復リスク
ポーランドが軍事介入すれば、ロシアから大規模な報復を受けるリスクが高い。
・経済・外交を重視した戦略
ポーランドは軍事介入よりも、経済や外交を通じて影響力を拡大してきた。
・歴史的背景
第二次世界大戦後の国境確定や民族移動により、ポーランドの領土拡張の動機が減少している。
・ポーランドとウクライナの関係
ポーランドとウクライナは文化的・経済的な関係が強く、軍事的介入の必要性が低い。
・ロシアの軍事的脅威への対応
ポーランドが単独で軍事介入を行えば、ロシアとの全面戦争に発展する可能性があるため、現実的には避けられる。
以上から、ポーランドの軍事介入は現実的ではないと考えられる。
【引用・参照・底本】
Poland Won’t Send Troops To Belarus Or Ukraine Without Trump’s Approval Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.30
https://korybko.substack.com/p/poland-wont-send-troops-to-belarus?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=156077756&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
中国とパキスタンは「鉄の兄弟」 ― 2025年01月31日 18:54
【概要】
ロシアとパキスタンの防衛協力が拡大する可能性は限られているとする主張は、ロシアの戦略的利益とインドとの関係を重視した分析に基づいている。パキスタンとの防衛協力の強化について、ロシアのアルバート・P・ホレフ大使は最近の発言の中で、両国の軍事指導者間の定期的な接触や「友情2024」演習、さらには2025年2月にカラチで行われるアマン2025海軍演習への参加などを挙げている。しかし、これは大規模な武器販売などの新たな防衛協力の拡大を示唆するものではなく、むしろ既存の協力が続くことを意味している。
パキスタンは現在、中国からの武器供給に依存しており、2019年から2023年にかけて、同国の武器輸入の82%が中国から供給された。中国とパキスタンは「鉄の兄弟」として、インドという共通の安全保障上の脅威に対抗するために協力しており、パキスタンがロシアの武器にシフトすることは、中国との信頼関係を損なうリスクがある。また、インドにとっては、パキスタンに対するロシアの高技術武器の供給は極めて敵対的な行動と見なされ、ロシアのインディアとの関係にも深刻な影響を及ぼす可能性がある。
過去にロシアはパキスタンに対してMi-35攻撃ヘリコプターを数機供給したが、これはインドにとって重大な脅威とはならず、ロシアはこの取引がパキスタンの対テロ能力を強化するためであると説明した。しかし、現在のロシアの戦略はインドとの協力を重視しており、インドとの関係が悪化するような武器供給はロシアの利益に反するため、ロシアがパキスタンに高技術兵器を提供することは極めてあり得ない。
仮にそのような武器供給が行われると、ロシアはインドとの関係悪化を招き、インドはロシアとの距離を置く可能性がある。その結果、ロシアは中国への過度な依存を回避するためのインドとの協力を失い、インドは米国との依存を強めることになる。このような展開は、ロシアとインドの戦略的目標に反する。
結論として、ロシアがパキスタンに高技術兵器を供給する可能性は極めて低く、今後も両国間の防衛協力は限られた範囲で続くと予測される。ただし、パキスタンの対テロ能力強化を目的とした小型武器やドローンの販売は行われる可能性があり、また、定期的な反テロ演習や多国籍海軍演習には参加し続けるだろう。
【詳細】
ロシアとパキスタンの防衛協力が拡大する可能性は低いとされる背景には、ロシアの戦略的利益、特にインドとの関係が深く関わっている。ロシアは、インドを重要な戦略的パートナーとして位置付けており、インドとの関係を損なうような動きは避けなければならないため、パキスタンへの武器供給を大規模に行うことは極めて難しいと考えられている。
1. ロシアとパキスタンの防衛協力の現状
ロシアとパキスタンの防衛協力は、近年発展しており、特に共同の反テロ演習や海軍演習において協力が進んでいる。2024年には「友情2024」と呼ばれる共同演習が行われ、2025年2月にはカラチでのアマン2025海軍演習にもロシアが参加する予定である。しかし、これらの活動はインドを意識したものではなく、主に反テロ活動を強化することを目的としており、インドとの直接的な軍事的対立を引き起こすような規模の協力ではない。
2. パキスタンの武器供給先と中国との関係
パキスタンは長年にわたり、中国からの武器供給に依存しており、特に2019年から2023年にかけての期間、パキスタンの武器輸入の約82%は中国から供給されていた。これは、両国が共通の戦略的利益を共有し、インドに対抗するために協力しているためである。特に、中国はパキスタンに対して多くの兵器を供給しており、その多くがインドへの対抗を意識したものである。
ロシアが仮にパキスタンに高技術の武器を提供すると、中国との信頼関係に亀裂が入る可能性がある。中国とパキスタンは「鉄の兄弟」と称されるほど強固な関係を持っており、ロシアがその関係を壊すような行動を取ることは、ロシア自身にとってもリスクが高い。
3. インドとの関係とロシアの戦略
インドはロシアにとって非常に重要な戦略的パートナーであり、両国は長年にわたり防衛分野で協力してきた。インドはロシアの武器を多く導入しており、特にミサイル防衛システムや戦闘機、潜水艦などの重要な軍事装備品をロシアから購入している。また、インドはアメリカとの関係を強化しつつも、ロシアとの防衛協力を維持している。
もしロシアがパキスタンに対して高性能な兵器を供給した場合、インドにとっては非常に敏感な問題となり、ロシアとの関係に悪影響を与える可能性が高い。インドは、パキスタンとの対立においてロシアの立場を非常に重要視しており、ロシアがパキスタンに対して武器供給を行うことは、インドの信頼を損なうだけでなく、インドにおける親ロシア派を弱め、米国との関係を強化する動きにつながりかねない。
4. 小規模な武器供給とその影響
ロシアが過去にパキスタンに対して供給した武器の中で最も注目すべきは、2015年に契約され、2018年に引き渡されたMi-35攻撃ヘリコプターである。この供給はインディアにとって一定の懸念を引き起こしたが、ロシアはこれがパキスタンの対テロ能力を強化する目的であると説明した。この取引はインディアにとって直接的な脅威ではなく、実際には大きな軍事的変化をもたらすものではなかった。
現在の状況において、ロシアがパキスタンに対して大規模な高性能武器を供給する可能性はほとんどないと見られている。仮にそのような事態が起こった場合、ロシアはインディアとの関係を著しく損ね、インディアがロシアから距離を置くことになり、最終的にはロシアと中国の過度な依存関係が進む可能性がある。これはロシアの戦略的目標にも逆行するため、非常にリスクが高いとされる。
5. 心理戦と情報戦
パキスタンとインディアは、しばしば情報戦や心理戦を展開している。パキスタンの一部メディアは、ロシアとパキスタンの防衛協力が今後大きく拡大するかのように報じることで、インディアに対して圧力をかけることを意図している可能性がある。しかし、インディアの政策決定者がこうした報道に過剰に反応することはなく、実際にはロシアとの関係に重大な影響を与えることはないと考えられている。
6. 結論
ロシアとパキスタンの防衛協力は引き続き小規模であり、主に反テロ活動や限定的な軍事演習に焦点を当てている。インドとの戦略的な関係を維持するため、ロシアがパキスタンに対して高技術兵器を供給する可能性は極めて低い。仮に小規模な武器やドローンが供給される場合でも、それは主にパキスタンの対テロ能力強化を目的とするものであり、インドとの関係を悪化させるような大規模な兵器供給は行われないだろう。
【要点】
1.ロシアとパキスタンの防衛協力
・ロシアとパキスタンは共同演習を行っているが、インドを意識した軍事的協力はない。
・2024年には「友情2024」演習、2025年2月には海軍演習「アマン2025」にロシアが参加予定。
2.パキスタンの武器供給先と中国との関係
・パキスタンは主に中国から武器を供給されており、ロシアとの協力が拡大すると中国との関係が損なわれるリスクがある。
・中国はパキスタンへの武器供給を多く行い、その大部分がインドに対抗するためのもの。
3.インドとの関係とロシアの戦略
・ロシアはインドの重要な防衛パートナーであり、インドへの兵器供給は長年続いている。
・ロシアがパキスタンに武器供給を行うと、インドとの信頼関係が崩れる可能性が高い。
4.小規模な武器供給とその影響
・ロシアは2015年にパキスタンにMi-35攻撃ヘリを供給したが、これはインドにとって大きな脅威ではなかった。
・現在、ロシアがパキスタンに大規模な高性能兵器を供給する可能性は低い。
5.心理戦と情報戦
・パキスタンメディアはロシアとの防衛協力が拡大するとの報道を行い、インディアに対して圧力をかけることを意図している。
・インディアはこのような報道に過剰に反応することはなく、実際の協力拡大には影響しない。
6.結論
・ロシアとパキスタンの防衛協力は小規模であり、主に反テロ活動や限定的な軍事演習に焦点を当てている。
・ロシアはインドとの関係を維持するため、パキスタンに対して大規模な兵器供給を行う可能性は極めて低い。
【引用・参照・底本】
Fact Check: Russian-Pakistani Defense Cooperation Will Likely Remain Limited Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.30
https://korybko.substack.com/p/fact-check-russian-pakistani-defense?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=156085279&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
ロシアとパキスタンの防衛協力が拡大する可能性は限られているとする主張は、ロシアの戦略的利益とインドとの関係を重視した分析に基づいている。パキスタンとの防衛協力の強化について、ロシアのアルバート・P・ホレフ大使は最近の発言の中で、両国の軍事指導者間の定期的な接触や「友情2024」演習、さらには2025年2月にカラチで行われるアマン2025海軍演習への参加などを挙げている。しかし、これは大規模な武器販売などの新たな防衛協力の拡大を示唆するものではなく、むしろ既存の協力が続くことを意味している。
パキスタンは現在、中国からの武器供給に依存しており、2019年から2023年にかけて、同国の武器輸入の82%が中国から供給された。中国とパキスタンは「鉄の兄弟」として、インドという共通の安全保障上の脅威に対抗するために協力しており、パキスタンがロシアの武器にシフトすることは、中国との信頼関係を損なうリスクがある。また、インドにとっては、パキスタンに対するロシアの高技術武器の供給は極めて敵対的な行動と見なされ、ロシアのインディアとの関係にも深刻な影響を及ぼす可能性がある。
過去にロシアはパキスタンに対してMi-35攻撃ヘリコプターを数機供給したが、これはインドにとって重大な脅威とはならず、ロシアはこの取引がパキスタンの対テロ能力を強化するためであると説明した。しかし、現在のロシアの戦略はインドとの協力を重視しており、インドとの関係が悪化するような武器供給はロシアの利益に反するため、ロシアがパキスタンに高技術兵器を提供することは極めてあり得ない。
仮にそのような武器供給が行われると、ロシアはインドとの関係悪化を招き、インドはロシアとの距離を置く可能性がある。その結果、ロシアは中国への過度な依存を回避するためのインドとの協力を失い、インドは米国との依存を強めることになる。このような展開は、ロシアとインドの戦略的目標に反する。
結論として、ロシアがパキスタンに高技術兵器を供給する可能性は極めて低く、今後も両国間の防衛協力は限られた範囲で続くと予測される。ただし、パキスタンの対テロ能力強化を目的とした小型武器やドローンの販売は行われる可能性があり、また、定期的な反テロ演習や多国籍海軍演習には参加し続けるだろう。
【詳細】
ロシアとパキスタンの防衛協力が拡大する可能性は低いとされる背景には、ロシアの戦略的利益、特にインドとの関係が深く関わっている。ロシアは、インドを重要な戦略的パートナーとして位置付けており、インドとの関係を損なうような動きは避けなければならないため、パキスタンへの武器供給を大規模に行うことは極めて難しいと考えられている。
1. ロシアとパキスタンの防衛協力の現状
ロシアとパキスタンの防衛協力は、近年発展しており、特に共同の反テロ演習や海軍演習において協力が進んでいる。2024年には「友情2024」と呼ばれる共同演習が行われ、2025年2月にはカラチでのアマン2025海軍演習にもロシアが参加する予定である。しかし、これらの活動はインドを意識したものではなく、主に反テロ活動を強化することを目的としており、インドとの直接的な軍事的対立を引き起こすような規模の協力ではない。
2. パキスタンの武器供給先と中国との関係
パキスタンは長年にわたり、中国からの武器供給に依存しており、特に2019年から2023年にかけての期間、パキスタンの武器輸入の約82%は中国から供給されていた。これは、両国が共通の戦略的利益を共有し、インドに対抗するために協力しているためである。特に、中国はパキスタンに対して多くの兵器を供給しており、その多くがインドへの対抗を意識したものである。
ロシアが仮にパキスタンに高技術の武器を提供すると、中国との信頼関係に亀裂が入る可能性がある。中国とパキスタンは「鉄の兄弟」と称されるほど強固な関係を持っており、ロシアがその関係を壊すような行動を取ることは、ロシア自身にとってもリスクが高い。
3. インドとの関係とロシアの戦略
インドはロシアにとって非常に重要な戦略的パートナーであり、両国は長年にわたり防衛分野で協力してきた。インドはロシアの武器を多く導入しており、特にミサイル防衛システムや戦闘機、潜水艦などの重要な軍事装備品をロシアから購入している。また、インドはアメリカとの関係を強化しつつも、ロシアとの防衛協力を維持している。
もしロシアがパキスタンに対して高性能な兵器を供給した場合、インドにとっては非常に敏感な問題となり、ロシアとの関係に悪影響を与える可能性が高い。インドは、パキスタンとの対立においてロシアの立場を非常に重要視しており、ロシアがパキスタンに対して武器供給を行うことは、インドの信頼を損なうだけでなく、インドにおける親ロシア派を弱め、米国との関係を強化する動きにつながりかねない。
4. 小規模な武器供給とその影響
ロシアが過去にパキスタンに対して供給した武器の中で最も注目すべきは、2015年に契約され、2018年に引き渡されたMi-35攻撃ヘリコプターである。この供給はインディアにとって一定の懸念を引き起こしたが、ロシアはこれがパキスタンの対テロ能力を強化する目的であると説明した。この取引はインディアにとって直接的な脅威ではなく、実際には大きな軍事的変化をもたらすものではなかった。
現在の状況において、ロシアがパキスタンに対して大規模な高性能武器を供給する可能性はほとんどないと見られている。仮にそのような事態が起こった場合、ロシアはインディアとの関係を著しく損ね、インディアがロシアから距離を置くことになり、最終的にはロシアと中国の過度な依存関係が進む可能性がある。これはロシアの戦略的目標にも逆行するため、非常にリスクが高いとされる。
5. 心理戦と情報戦
パキスタンとインディアは、しばしば情報戦や心理戦を展開している。パキスタンの一部メディアは、ロシアとパキスタンの防衛協力が今後大きく拡大するかのように報じることで、インディアに対して圧力をかけることを意図している可能性がある。しかし、インディアの政策決定者がこうした報道に過剰に反応することはなく、実際にはロシアとの関係に重大な影響を与えることはないと考えられている。
6. 結論
ロシアとパキスタンの防衛協力は引き続き小規模であり、主に反テロ活動や限定的な軍事演習に焦点を当てている。インドとの戦略的な関係を維持するため、ロシアがパキスタンに対して高技術兵器を供給する可能性は極めて低い。仮に小規模な武器やドローンが供給される場合でも、それは主にパキスタンの対テロ能力強化を目的とするものであり、インドとの関係を悪化させるような大規模な兵器供給は行われないだろう。
【要点】
1.ロシアとパキスタンの防衛協力
・ロシアとパキスタンは共同演習を行っているが、インドを意識した軍事的協力はない。
・2024年には「友情2024」演習、2025年2月には海軍演習「アマン2025」にロシアが参加予定。
2.パキスタンの武器供給先と中国との関係
・パキスタンは主に中国から武器を供給されており、ロシアとの協力が拡大すると中国との関係が損なわれるリスクがある。
・中国はパキスタンへの武器供給を多く行い、その大部分がインドに対抗するためのもの。
3.インドとの関係とロシアの戦略
・ロシアはインドの重要な防衛パートナーであり、インドへの兵器供給は長年続いている。
・ロシアがパキスタンに武器供給を行うと、インドとの信頼関係が崩れる可能性が高い。
4.小規模な武器供給とその影響
・ロシアは2015年にパキスタンにMi-35攻撃ヘリを供給したが、これはインドにとって大きな脅威ではなかった。
・現在、ロシアがパキスタンに大規模な高性能兵器を供給する可能性は低い。
5.心理戦と情報戦
・パキスタンメディアはロシアとの防衛協力が拡大するとの報道を行い、インディアに対して圧力をかけることを意図している。
・インディアはこのような報道に過剰に反応することはなく、実際の協力拡大には影響しない。
6.結論
・ロシアとパキスタンの防衛協力は小規模であり、主に反テロ活動や限定的な軍事演習に焦点を当てている。
・ロシアはインドとの関係を維持するため、パキスタンに対して大規模な兵器供給を行う可能性は極めて低い。
【引用・参照・底本】
Fact Check: Russian-Pakistani Defense Cooperation Will Likely Remain Limited Andrew Korybko's Newsletter 2025.01.30
https://korybko.substack.com/p/fact-check-russian-pakistani-defense?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=156085279&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
M23反乱軍の勢力拡大 ― 2025年01月31日 19:33
【概要】
2025年1月29日、コンゴ民主共和国(DRC)のゴマ市におけるM23反乱軍の勢力拡大が報じられた。M23はルワンダ政府による支援を受けており、ゴマの空港を制圧したとされている。ゴマでは数日間にわたる激しい戦闘が行われ、100人以上が死亡し、1000人近くが負傷した。多くの負傷者はゴマの病院に収容され、病院はその収容能力を超えているという。戦闘が緩和される中で、ゴマの街ではM23の戦闘員とルワンダの兵士が目撃されており、コンゴ軍の姿は確認されていない。
この状況を受けて、コンゴの大統領フェリックス・チセケディは、ケニアで予定されていたルワンダのパウル・カガメ大統領との緊急会談には出席しないと報じられている。この戦闘は1994年のルワンダ虐殺の影響を色濃く受けたコンゴ東部での新たな激化を示しており、地域内の武装集団と周辺国の利害が絡み合う複雑な情勢が背景にある。
UN(国連)の報告によると、戦闘により数十万人が避難を余儀なくされ、食糧不足、医療機関の圧迫、疾病の蔓延など、深刻な人道的危機が発生している。また、ゴマの病院は負傷者の急増によりひっ迫しており、ICRC(国際赤十字)は支援活動を行っているが、患者が床に横たわる事態が発生しているという。
ゴマでは、戦闘の影響を受けた市民の一部が、隣国ルワンダに避難している。デスティン・ジャマイカ・ケラ氏は、爆弾の爆発音が響き渡り、多くの死傷者が発生したと証言している。
一方、コンゴの首都キンシャサでは、政府の対応に対する不満が爆発し、フランス、ベルギー、アメリカ、ケニア、ウガンダ、南アフリカの各国大使館が襲撃される事態が発生。抗議者はルワンダ大使館にも攻撃を加えた。
UNは、民族間の対立が再燃するリスクがあることを警告しており、戦闘の影響で少なくとも1件の民族的動機によるリンチが記録されているという。また、アフリカ連合はM23に対して武器を捨てるよう呼びかけているが、ルワンダを名指しで非難することは避けている。
DRC政府は、ルワンダが金、コルタン、銅、コバルトなど豊富な鉱物資源を求めて介入していると非難しており、国連に対して強力な対応を求めている。ルワンダは、この介入が1994年の虐殺の加害者である元フツ・ルワンダ民族解放軍(FDLR)の掃討を目的としていると主張している。
戦闘はM23の短期的な成功を収めており、ゴマの制圧は2012年に続く二度目の占拠となる。UNの報告によると、最大で4000人のルワンダ兵士がM23と共に戦っており、実質的にM23の作戦をコントロールしているとされている。しかし、2025年1月の時点で、8月に合意された停戦は守られておらず、アンゴラ仲介の会談も直前で中止された。
【詳細】
2025年1月29日、コンゴ民主共和国(DRC)のゴマ市における戦闘が激化し、M23反乱軍がゴマの主要な施設、特に空港を制圧したと報じられた。M23はルワンダ政府の支援を受けた反政府勢力であり、ゴマの占拠は同グループの勢力拡大を象徴する出来事である。
戦闘は数日間にわたって続き、100人以上が死亡し、1000人以上が負傷した。負傷者はゴマの病院に搬送されているが、病院はその収容能力を超え、患者が床に横たわるという事態に陥っている。また、病院が十分な医療設備を整えていないため、患者に対する医療支援が極めて困難となっており、感染症の蔓延のリスクも高まっている。特に、エボラウイルスやその他の病原体のサンプルがゴマの研究施設に保管されていることが懸念されており、これらが戦闘の影響で拡散する可能性があると指摘されている。
ゴマの状況は非常に不安定であり、M23とそれに支援するルワンダ軍の兵士が街を占拠し、コンゴ軍の兵士の姿はほとんど見られないという。報告によると、1,200人以上のコンゴ軍兵士が降伏し、国連の平和維持軍基地に収容されたという。M23は、1月28日にはゴマの空港を制圧したことを確認しており、その後もゴマ全体を掌握したと主張しているが、実際にどれほどの地域が完全に制圧されたかは依然として不明である。
ゴマの状況は、コンゴ東部における長年にわたる暴力と不安定さの延長線上にある。コンゴ東部は1994年のルワンダ虐殺の影響を受けた地域であり、戦後もルワンダからの避難民や元兵士が多く住む場所である。このため、コンゴ東部の紛争はしばしば、ルワンダとの地域的な対立や武装集団の活動と絡み合うことが多い。
ゴマの占拠とその後の暴力の激化は、広範な人道的危機を引き起こしており、国連は数十万人が避難を余儀なくされ、食糧不足や医療不足、病気の蔓延が深刻な問題であると警告している。特に、ゴマ市周辺では、避難民が集中し、避難所の過密状態が問題となっている。また、コンゴ政府の管理が行き届いていない地域では、民間人が武装集団に巻き込まれる危険が高まっており、暴力の連鎖が続いている。
コンゴ政府のフェリックス・チセケディ大統領は、ルワンダのパウル・カガメ大統領との緊急会談に出席しないと報じられており、両国間の緊張がさらに高まっている。ケニアが主催する東アフリカ共同体(EAC)による会議が予定されていたが、チセケディ大統領はこの会談を欠席する意向を示している。コンゴ政府は、ルワンダがM23を支援し、コンゴ東部の鉱物資源を狙っていると非難しており、国連に対して強い対応を求めている。しかし、ルワンダは、M23の活動の背後には1994年のルワンダ虐殺の加害者である元フツ反乱軍(FDLR)がいるとし、自国の安全保障上の問題としてM23への支援を正当化している。
国際社会の反応も注目されており、アフリカ連合(AU)はM23に対して武装を解くよう呼びかけ、国際的な調停を試みているが、ルワンダを直接名指しで非難することは避けている。また、国連安全保障理事会は、コンゴ東部での民族間の対立が再燃し、1994年のルワンダ虐殺の記憶が影響を与えていることに懸念を表明している。
さらに、ゴマでの暴力の影響を受けて、コンゴの首都キンシャサでは抗議活動が発生した。市民たちは、国際社会がコンゴ東部の混乱に介入しないことに対して不満を募らせ、フランス、ベルギー、アメリカ、ケニア、ウガンダ、南アフリカの大使館を襲撃した。抗議者たちは、ルワンダ大使館にも攻撃を加え、外交施設の安全が脅かされている。これにより、アメリカ大使館は自国民に退避を促し、EU外交政策責任者は抗議行動を「受け入れ難い」と非難した。
このような情勢の中で、M23の進攻が続く限り、ゴマやその周辺地域の人道的危機はさらに深刻化する可能性が高い。国際社会がどのように介入し、和平プロセスを進めるかが、今後の状況を大きく左右する。
【要点】
・ゴマ市の戦闘: 2025年1月28日、M23反乱軍がコンゴ民主共和国(DRC)のゴマ市の空港を制圧し、その後、同市のほとんどを掌握したとされる。
・戦闘の影響: 戦闘により100人以上が死亡し、1000人以上が負傷。病院は過密状態で、患者は床に横たわる事態に。戦闘でエボラウイルスや病原体の拡散が懸念されている。
・避難民の増加: 戦闘により50万人以上が避難を強いられ、食糧不足や医療の欠如、病気の蔓延が深刻化。
・M23の勢力拡大: M23はゴマ市を制圧したと主張し、コンゴ軍の兵士1,200人以上が降伏、国連の平和維持軍基地に収容された。
・コンゴとルワンダの対立: コンゴ政府はM23へのルワンダの支援を非難し、ルワンダは自国の安全保障上、M23支援を正当化している。
・国際的な反応: アフリカ連合(AU)はM23に武装解除を求め、国連は民族間対立の再燃を懸念。国際社会は介入を求められている。
・キンシャサでの抗議活動: コンゴの首都キンシャサで市民が国際社会の無関心に抗議し、フランス、ベルギー、アメリカ、ルワンダの大使館を襲撃。
・人道的危機: ゴマ市周辺での暴力が続き、人道的状況は深刻化しており、感染症の拡大や避難民の過密が問題となっている。
【参考】
☞ 1994年のルワンダ虐殺は、ルワンダで起こった集団殺害であり、主にフツ族によるツチ族と穏健派フツ族の大規模な殺害を指す。この虐殺は約100日間続き、推定で80万人以上が命を落としたとされる。以下にその詳細を示す。
1.背景
・ルワンダは、フツ族(多数派)とツチ族(少数派)の間に長年の対立があった。植民地時代には、ベルギーの統治がツチ族を支配層にしたため、フツ族とツチ族の対立が深まった。
・1960年代以降、独立後のルワンダでは、フツ族によるツチ族への差別と迫害が続いていた。
2.虐殺の発端
・1994年4月6日、ハビャリマナ大統領(フツ族)が乗った航空機が撃墜され、これがきっかけとなり、フツ族過激派によるツチ族やツチ族支持者の殺害が始まった。
撃墜の犯人については未解明であり、その後の戦争と虐殺の原因とされることが多い。
3.虐殺の進行
・フツ族過激派は、ルワンダ愛国戦線(RPF)との戦争を理由に、ツチ族を敵視し、組織的な殺害を行った。武器を持った民兵や政府軍が人々を殺し、家々に火をつけ、強姦や拷問も行われた。
・多くの人々が隣国であるウガンダやコンゴに避難したが、虐殺を逃れられなかった人々は、学校、教会、病院などで殺害された。
4.国際社会の対応
・国際社会は迅速に対応できず、国連は効果的な介入を行わなかった。国連平和維持軍はルワンダに駐留していたが、虐殺を防ぐための介入は限られていた。
・フランスやベルギーなどの国々は、当初はフツ族政府を支持していたが、後にこの立場を見直すこととなった。
5.結果と影響
・RPFがルワンダの支配権を握り、虐殺は終了した。約80万人の命が奪われ、社会は深く傷ついた。
・その後、国際社会はルワンダ虐殺を「人道に対する罪」と認識し、国際刑事裁判所(ICTR)を設立して加害者を裁くこととなった。
・ルワンダ虐殺は、近代的な集団殺害の象徴的な事件となり、国際的な人道法や予防措置の必要性を訴えるきっかけとなった。
6.長期的な影響
・虐殺の影響で、ルワンダ国内には多くの遺族や精神的な傷を負った人々がいる。社会復興には長い時間がかかり、政府は和解と経済発展を目指して改革を進めてきた。
・近年、ルワンダは経済成長を遂げ、政治的安定も見られるが、虐殺の記憶は依然として国民に強く影響を与えている。
この虐殺は、国際社会に対して重大な教訓を与え、人道的介入の必要性や責任が問われる出来事となった。
☞ ツチ族はルワンダとコンゴ民主共和国(DRC)のような地域では少数派にあたる。ルワンダにおけるツチ族は、かつてフツ族と並ぶ主要な民族グループの1つであったが、人口比率としてはフツ族が多数派であった。しかし、ツチ族は歴史的に支配的な役割を果たしていた時期もあり、その影響力が長年にわたって強かった。
ツチ族が少数派であったにもかかわらず、ルワンダ愛国戦線(RPF)は主にツチ族を中心に結成された。その背景として、以下の要素がある。
1.ツチ族の歴史的な背景: ルワンダでは、ツチ族はかつて王族や上層階級として支配的な立場にあり、フツ族は農民層として位置付けられていた。この歴史的な支配構造が、後の民族的対立の要因となったことがある
2.RPFの形成と目的: 1980年代にルワンダで発生した内戦や政権交代の影響で、多くのツチ族が隣国ウガンダや他国に亡命していた。RPFはこのツチ族亡命者を中心に組織され、彼らの故郷であるルワンダにおける政治的・民族的権利を回復することを目指していた。ツチ族が少数派であったため、RPFの目標はツチ族だけでなく、全体の平和的共存を目指していたと言える。
3.RPFの民族構成: RPF自体はツチ族中心の集団ではありますが、フツ族や他の民族も参加しており、特にフツ族の穏健派や、RPFが提唱する新しい社会を支持する人々も活動していた。RPFが掲げる「平和的な民族間共存」の理念には、民族を超えて賛同した人々が集まっていた。
4.RPFとフツ族過激派との対立: ルワンダ内戦中、RPFの進攻によりフツ族過激派と激しい対立が生まれ、最終的に1994年のルワンダ虐殺へとつながった。フツ族過激派はRPFのツチ族中心の構成を脅威とみなし、ツチ族への虐殺を行った。この時期、RPFはツチ族だけでなく、広くフツ族と協力しながら戦うことを目指していた。
結論として、ツチ族は確かに少数派であったが、RPFはツチ族を中心に結成され、彼らの民族的利益や政治的権利を守るために戦ったことが大きな特徴である。RPFはツチ族だけでなく、他の民族とも協力して、最終的にはルワンダを統一するために活動していた。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
M23 rebels appear to seize most of Goma in eastern DR Congo FRANCE24 2025.01.29
https://www.france24.com/en/africa/20250129-dr-congo-and-rwanda-leaders-in-crisis-talks-as-m23-rebels-on-brink-of-seizing-goma?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-quot-en&utm_email_send_date=%2020250129&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D
2025年1月29日、コンゴ民主共和国(DRC)のゴマ市におけるM23反乱軍の勢力拡大が報じられた。M23はルワンダ政府による支援を受けており、ゴマの空港を制圧したとされている。ゴマでは数日間にわたる激しい戦闘が行われ、100人以上が死亡し、1000人近くが負傷した。多くの負傷者はゴマの病院に収容され、病院はその収容能力を超えているという。戦闘が緩和される中で、ゴマの街ではM23の戦闘員とルワンダの兵士が目撃されており、コンゴ軍の姿は確認されていない。
この状況を受けて、コンゴの大統領フェリックス・チセケディは、ケニアで予定されていたルワンダのパウル・カガメ大統領との緊急会談には出席しないと報じられている。この戦闘は1994年のルワンダ虐殺の影響を色濃く受けたコンゴ東部での新たな激化を示しており、地域内の武装集団と周辺国の利害が絡み合う複雑な情勢が背景にある。
UN(国連)の報告によると、戦闘により数十万人が避難を余儀なくされ、食糧不足、医療機関の圧迫、疾病の蔓延など、深刻な人道的危機が発生している。また、ゴマの病院は負傷者の急増によりひっ迫しており、ICRC(国際赤十字)は支援活動を行っているが、患者が床に横たわる事態が発生しているという。
ゴマでは、戦闘の影響を受けた市民の一部が、隣国ルワンダに避難している。デスティン・ジャマイカ・ケラ氏は、爆弾の爆発音が響き渡り、多くの死傷者が発生したと証言している。
一方、コンゴの首都キンシャサでは、政府の対応に対する不満が爆発し、フランス、ベルギー、アメリカ、ケニア、ウガンダ、南アフリカの各国大使館が襲撃される事態が発生。抗議者はルワンダ大使館にも攻撃を加えた。
UNは、民族間の対立が再燃するリスクがあることを警告しており、戦闘の影響で少なくとも1件の民族的動機によるリンチが記録されているという。また、アフリカ連合はM23に対して武器を捨てるよう呼びかけているが、ルワンダを名指しで非難することは避けている。
DRC政府は、ルワンダが金、コルタン、銅、コバルトなど豊富な鉱物資源を求めて介入していると非難しており、国連に対して強力な対応を求めている。ルワンダは、この介入が1994年の虐殺の加害者である元フツ・ルワンダ民族解放軍(FDLR)の掃討を目的としていると主張している。
戦闘はM23の短期的な成功を収めており、ゴマの制圧は2012年に続く二度目の占拠となる。UNの報告によると、最大で4000人のルワンダ兵士がM23と共に戦っており、実質的にM23の作戦をコントロールしているとされている。しかし、2025年1月の時点で、8月に合意された停戦は守られておらず、アンゴラ仲介の会談も直前で中止された。
【詳細】
2025年1月29日、コンゴ民主共和国(DRC)のゴマ市における戦闘が激化し、M23反乱軍がゴマの主要な施設、特に空港を制圧したと報じられた。M23はルワンダ政府の支援を受けた反政府勢力であり、ゴマの占拠は同グループの勢力拡大を象徴する出来事である。
戦闘は数日間にわたって続き、100人以上が死亡し、1000人以上が負傷した。負傷者はゴマの病院に搬送されているが、病院はその収容能力を超え、患者が床に横たわるという事態に陥っている。また、病院が十分な医療設備を整えていないため、患者に対する医療支援が極めて困難となっており、感染症の蔓延のリスクも高まっている。特に、エボラウイルスやその他の病原体のサンプルがゴマの研究施設に保管されていることが懸念されており、これらが戦闘の影響で拡散する可能性があると指摘されている。
ゴマの状況は非常に不安定であり、M23とそれに支援するルワンダ軍の兵士が街を占拠し、コンゴ軍の兵士の姿はほとんど見られないという。報告によると、1,200人以上のコンゴ軍兵士が降伏し、国連の平和維持軍基地に収容されたという。M23は、1月28日にはゴマの空港を制圧したことを確認しており、その後もゴマ全体を掌握したと主張しているが、実際にどれほどの地域が完全に制圧されたかは依然として不明である。
ゴマの状況は、コンゴ東部における長年にわたる暴力と不安定さの延長線上にある。コンゴ東部は1994年のルワンダ虐殺の影響を受けた地域であり、戦後もルワンダからの避難民や元兵士が多く住む場所である。このため、コンゴ東部の紛争はしばしば、ルワンダとの地域的な対立や武装集団の活動と絡み合うことが多い。
ゴマの占拠とその後の暴力の激化は、広範な人道的危機を引き起こしており、国連は数十万人が避難を余儀なくされ、食糧不足や医療不足、病気の蔓延が深刻な問題であると警告している。特に、ゴマ市周辺では、避難民が集中し、避難所の過密状態が問題となっている。また、コンゴ政府の管理が行き届いていない地域では、民間人が武装集団に巻き込まれる危険が高まっており、暴力の連鎖が続いている。
コンゴ政府のフェリックス・チセケディ大統領は、ルワンダのパウル・カガメ大統領との緊急会談に出席しないと報じられており、両国間の緊張がさらに高まっている。ケニアが主催する東アフリカ共同体(EAC)による会議が予定されていたが、チセケディ大統領はこの会談を欠席する意向を示している。コンゴ政府は、ルワンダがM23を支援し、コンゴ東部の鉱物資源を狙っていると非難しており、国連に対して強い対応を求めている。しかし、ルワンダは、M23の活動の背後には1994年のルワンダ虐殺の加害者である元フツ反乱軍(FDLR)がいるとし、自国の安全保障上の問題としてM23への支援を正当化している。
国際社会の反応も注目されており、アフリカ連合(AU)はM23に対して武装を解くよう呼びかけ、国際的な調停を試みているが、ルワンダを直接名指しで非難することは避けている。また、国連安全保障理事会は、コンゴ東部での民族間の対立が再燃し、1994年のルワンダ虐殺の記憶が影響を与えていることに懸念を表明している。
さらに、ゴマでの暴力の影響を受けて、コンゴの首都キンシャサでは抗議活動が発生した。市民たちは、国際社会がコンゴ東部の混乱に介入しないことに対して不満を募らせ、フランス、ベルギー、アメリカ、ケニア、ウガンダ、南アフリカの大使館を襲撃した。抗議者たちは、ルワンダ大使館にも攻撃を加え、外交施設の安全が脅かされている。これにより、アメリカ大使館は自国民に退避を促し、EU外交政策責任者は抗議行動を「受け入れ難い」と非難した。
このような情勢の中で、M23の進攻が続く限り、ゴマやその周辺地域の人道的危機はさらに深刻化する可能性が高い。国際社会がどのように介入し、和平プロセスを進めるかが、今後の状況を大きく左右する。
【要点】
・ゴマ市の戦闘: 2025年1月28日、M23反乱軍がコンゴ民主共和国(DRC)のゴマ市の空港を制圧し、その後、同市のほとんどを掌握したとされる。
・戦闘の影響: 戦闘により100人以上が死亡し、1000人以上が負傷。病院は過密状態で、患者は床に横たわる事態に。戦闘でエボラウイルスや病原体の拡散が懸念されている。
・避難民の増加: 戦闘により50万人以上が避難を強いられ、食糧不足や医療の欠如、病気の蔓延が深刻化。
・M23の勢力拡大: M23はゴマ市を制圧したと主張し、コンゴ軍の兵士1,200人以上が降伏、国連の平和維持軍基地に収容された。
・コンゴとルワンダの対立: コンゴ政府はM23へのルワンダの支援を非難し、ルワンダは自国の安全保障上、M23支援を正当化している。
・国際的な反応: アフリカ連合(AU)はM23に武装解除を求め、国連は民族間対立の再燃を懸念。国際社会は介入を求められている。
・キンシャサでの抗議活動: コンゴの首都キンシャサで市民が国際社会の無関心に抗議し、フランス、ベルギー、アメリカ、ルワンダの大使館を襲撃。
・人道的危機: ゴマ市周辺での暴力が続き、人道的状況は深刻化しており、感染症の拡大や避難民の過密が問題となっている。
【参考】
☞ 1994年のルワンダ虐殺は、ルワンダで起こった集団殺害であり、主にフツ族によるツチ族と穏健派フツ族の大規模な殺害を指す。この虐殺は約100日間続き、推定で80万人以上が命を落としたとされる。以下にその詳細を示す。
1.背景
・ルワンダは、フツ族(多数派)とツチ族(少数派)の間に長年の対立があった。植民地時代には、ベルギーの統治がツチ族を支配層にしたため、フツ族とツチ族の対立が深まった。
・1960年代以降、独立後のルワンダでは、フツ族によるツチ族への差別と迫害が続いていた。
2.虐殺の発端
・1994年4月6日、ハビャリマナ大統領(フツ族)が乗った航空機が撃墜され、これがきっかけとなり、フツ族過激派によるツチ族やツチ族支持者の殺害が始まった。
撃墜の犯人については未解明であり、その後の戦争と虐殺の原因とされることが多い。
3.虐殺の進行
・フツ族過激派は、ルワンダ愛国戦線(RPF)との戦争を理由に、ツチ族を敵視し、組織的な殺害を行った。武器を持った民兵や政府軍が人々を殺し、家々に火をつけ、強姦や拷問も行われた。
・多くの人々が隣国であるウガンダやコンゴに避難したが、虐殺を逃れられなかった人々は、学校、教会、病院などで殺害された。
4.国際社会の対応
・国際社会は迅速に対応できず、国連は効果的な介入を行わなかった。国連平和維持軍はルワンダに駐留していたが、虐殺を防ぐための介入は限られていた。
・フランスやベルギーなどの国々は、当初はフツ族政府を支持していたが、後にこの立場を見直すこととなった。
5.結果と影響
・RPFがルワンダの支配権を握り、虐殺は終了した。約80万人の命が奪われ、社会は深く傷ついた。
・その後、国際社会はルワンダ虐殺を「人道に対する罪」と認識し、国際刑事裁判所(ICTR)を設立して加害者を裁くこととなった。
・ルワンダ虐殺は、近代的な集団殺害の象徴的な事件となり、国際的な人道法や予防措置の必要性を訴えるきっかけとなった。
6.長期的な影響
・虐殺の影響で、ルワンダ国内には多くの遺族や精神的な傷を負った人々がいる。社会復興には長い時間がかかり、政府は和解と経済発展を目指して改革を進めてきた。
・近年、ルワンダは経済成長を遂げ、政治的安定も見られるが、虐殺の記憶は依然として国民に強く影響を与えている。
この虐殺は、国際社会に対して重大な教訓を与え、人道的介入の必要性や責任が問われる出来事となった。
☞ ツチ族はルワンダとコンゴ民主共和国(DRC)のような地域では少数派にあたる。ルワンダにおけるツチ族は、かつてフツ族と並ぶ主要な民族グループの1つであったが、人口比率としてはフツ族が多数派であった。しかし、ツチ族は歴史的に支配的な役割を果たしていた時期もあり、その影響力が長年にわたって強かった。
ツチ族が少数派であったにもかかわらず、ルワンダ愛国戦線(RPF)は主にツチ族を中心に結成された。その背景として、以下の要素がある。
1.ツチ族の歴史的な背景: ルワンダでは、ツチ族はかつて王族や上層階級として支配的な立場にあり、フツ族は農民層として位置付けられていた。この歴史的な支配構造が、後の民族的対立の要因となったことがある
2.RPFの形成と目的: 1980年代にルワンダで発生した内戦や政権交代の影響で、多くのツチ族が隣国ウガンダや他国に亡命していた。RPFはこのツチ族亡命者を中心に組織され、彼らの故郷であるルワンダにおける政治的・民族的権利を回復することを目指していた。ツチ族が少数派であったため、RPFの目標はツチ族だけでなく、全体の平和的共存を目指していたと言える。
3.RPFの民族構成: RPF自体はツチ族中心の集団ではありますが、フツ族や他の民族も参加しており、特にフツ族の穏健派や、RPFが提唱する新しい社会を支持する人々も活動していた。RPFが掲げる「平和的な民族間共存」の理念には、民族を超えて賛同した人々が集まっていた。
4.RPFとフツ族過激派との対立: ルワンダ内戦中、RPFの進攻によりフツ族過激派と激しい対立が生まれ、最終的に1994年のルワンダ虐殺へとつながった。フツ族過激派はRPFのツチ族中心の構成を脅威とみなし、ツチ族への虐殺を行った。この時期、RPFはツチ族だけでなく、広くフツ族と協力しながら戦うことを目指していた。
結論として、ツチ族は確かに少数派であったが、RPFはツチ族を中心に結成され、彼らの民族的利益や政治的権利を守るために戦ったことが大きな特徴である。RPFはツチ族だけでなく、他の民族とも協力して、最終的にはルワンダを統一するために活動していた。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
M23 rebels appear to seize most of Goma in eastern DR Congo FRANCE24 2025.01.29
https://www.france24.com/en/africa/20250129-dr-congo-and-rwanda-leaders-in-crisis-talks-as-m23-rebels-on-brink-of-seizing-goma?utm_medium=email&utm_campaign=newsletter&utm_source=f24-nl-quot-en&utm_email_send_date=%2020250129&utm_email_recipient=263407&utm_email_link=contenus&_ope=eyJndWlkIjoiYWU3N2I1MjkzZWQ3MzhmMjFlZjM2YzdkNjFmNTNiNWEifQ%3D%3D