飛び火、北東アジアへ ― 2023年10月06日 17:18
2年前の出来事から始めて、ウクライナとロシアの関連、国際的な状況、およびロシアの戦略について語っている。
ロシアに近いノルウェー北部のトロムソに招かれ、ロシアからの学者も集まった大学で会議に参加した。ノルウェーとアイスランドはNATOの創立メンバーであり、ノルウェーがロシアとウクライナの間に位置していることから、開戦時にどのような影響を受けるかが懸念されていた。
2021年4月にロシア軍がウクライナとの国境に集中し始めた出来事を開始点としている。この集中は緊張を高めた。この時には、ロシア軍の集中は既に10万に達し、集まった学者たちの緊張は半端ではなかった。われわれはこの時、確実にウクライナ戦争の開戦を予測した。この4カ月前の8月に、アフガニスタンにおける20年戦争にアメリカ・NATOは敗北したばかり。「あの男(プーチン)なら、絶対にこの期を逃さない」と。
もし開戦になったら、ウクライナと同じ大国の狭間に位置するノルウェーやアイスランド(ともにNATO創立メンバー)、そしてアジアでは韓国や日本など「緩衝国家」の運命はどうなるのか?これがノルウェーに集まった学者たちの共通の問題意識だった。
すでに、旧ソ連邦構成国だったバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)は、独立後NATOに加入するだけでなく、みずからを「トリップワイヤー化」している。加えてポーランドにも、サード(高高度防衛)ミサイルが配備されている。
トリップワイヤーとは「仕掛け線」という意味だ。抑止戦略論上の専門用語であり、超大国や軍事同盟が、敵国の軍事力に均衡するよりずっと小さい兵力をその敵国の間近の緩衝国家に置くこと。つまり、なるべく安上がりな軍事供与で、挑発する装置を敵国の目の前の緩衝国家に置いておいて、有事になったらその緩衝国家を犠牲にして敵国の進軍を遅らせるという考え方だ。
そして、その会議で共有された「緩衝国家」の定義は、「敵対する大きな国家や軍事同盟の狭間に位置し、武力衝突を防ぐクッションになっている国である。その敵対するいずれの大国も、このクッションを失うと自分たちの本土に危険が及ぶと考えるため、軍事侵攻され実際の被害を受ける可能性が、普通の国より格段に高く、しばしば代理戦争の戦場となる」。
同じくそこで共有された「代理戦争」の定義は、「大国が、その内政に深く関与する分断国家の政権もしくは反政府勢力に、その大国を敵と見なす別の大国が武力を供与し、みずからは血を流さず敵国を弱体化する軍事的な試み」だ。これは歴史上繰り返されてきた。
ノルウェーに集まった学者たちは、今回のウクライナ戦争の開戦前、東部ドンバスにおけるウクライナ内戦がロシアが関与する代理戦争だったように、ロシアがウクライナに侵略すれば、それはアメリカの典型的な全面的代理戦争になるだろうと予測した。そして、それはその通りになった。
ロシアの上位目標:北東アジア、特に朝鮮半島に焦点を移し、2017年にアメリカの陸軍関係者との会議で「米朝開戦」の軍事戦略をシミュレーションしたことを述べている。このシミュレーションを通じて、ロシアがウクライナに侵略する場合、その上位目標はウクライナのレジームチェンジではなく、アメリカの全面的な代理戦争である可能性が示唆されたとされている。
国際的な緊張状態と戦略的な考察に焦点を当て、特にロシアの行動について議論している。
北東アジア、朝鮮半島に話を移す。
日本の安全保障政策や国際関係についての意見を述べており、特に日本の現行の安全保障体制について批判的な立場をとっている。
2017年、韓国・板門店に招かれた。僕が招かれたのはPACC:Pacific Armies Chiefs Conference(太平洋陸軍参謀総長会議)―アメリカ“陸軍”太平洋総司令部が、NATO加盟国、そして日本の自衛隊陸上幕僚長を含む親米32カ国の陸軍のトップだけを呼ぶ会議だ。ちなみに呼ばれるときは、外務省や防衛省などは経由せず個人的に依頼が来る。
ここでは、主要会議のサブ部会として、当時トランプ大統領がツイッターで言及し世界を震撼させていた「米朝開戦」の現実的な軍事戦略をシミュレーションする機会を得た。
現実的な軍事戦略とは、アメリカが「斬首作戦」を決行した後に始まる軍事占領― つまり人口2500万人の北朝鮮を軍事的に平定しレジームチェンジ(体制転換)を完了する ―には、どのくらいの部隊と期間が必要か。それに必要な兵力を、果たして同盟国が(イラク、アフガニスタン戦争が同時進行する中で)拠出できるか。これがシミュレーションの中身だ。
アメリカ陸軍から僕への依頼は、2017年当時すでに失敗が濃厚となっていたアフガン占領政策の負の教訓を語ってくれ、というものだった。
実際、「軍事占領を敷く余力はない」ということが陸軍参謀総長たちのコンセンサスだった。軍事戦略シミュレーションの詳細は、ここでは語らない。ただ、ここで得た知見は、ウクライナ(人口4000万人)の開戦で日本を含む西側社会で喧伝された「プーチンの野望」の実現性、つまり、ロシア陸軍のキャパで実現可能な戦争の上位目標を見極めるのに役に立った。ロシア一国で、ウクライナのレジームチェンジなどできるわけがないということだ。
日本を縛る冷戦の“遺物”本日の主題だ。
朝鮮半島の北緯38度線にある板門店には、北朝鮮と米韓軍が対峙するJSA共同警備地区がある。
共同警備地区の米陸軍コマンダーが、筆者を含む各国の陸軍参謀総長たちにブリーフィングしているところだが、後ろの石碑に注目してもらいたい。もちろん韓国、アメリカ。そして、イギリスやオーストラリアなど22カ国の国旗が見える。これが、韓国に司令部がある「朝鮮国連軍」だ。
朝鮮国連軍は、国連憲章第七章に基づいて安保理が統括するPKOのような「国連軍」ではなく、米軍司令官の指揮下で活動する多国籍軍だ。根拠となる安保理決議は、1950年に北朝鮮が韓国に侵攻した直後に、ソ連欠席の下で採択された。今では考えられないことだ。国連軍が国連常任理事国(中国)と対峙することなどできるわけがない。この混乱期におけるどさくさ紛れの決議により、「国連軍」の名称と国連旗を用いることを認められただけだ。それ以来、これに関する安保理決議は一つもない。
朝鮮戦争は現在も「休戦状態」なので、朝鮮国連軍は実動している。現在は、在韓米軍司令官が朝鮮国連軍司令官を兼務している。
そして、日本にも朝鮮国連軍の後方司令部が横田基地に置かれ、7つの米軍基地(横田基地、神奈川県のキャンプ座間と横須賀基地、長崎県の佐世保基地、沖縄県の嘉手納基地、普天間基地、ホワイトビーチ)が朝鮮国連軍の基地に指定されている。これらの基地には、日米の国旗とともにブルーの国連旗が立てられている。
一方で、これがはたして“現在”の「国連軍」と呼べるのかという問題がある。1997年に当時のブトロス・ガリ国連事務総長が北朝鮮外務相にあてた親書に、その矛盾が現れている。(この書簡は現在も国連のホームページに収録されている)
ガリ書簡とは、「朝鮮国連軍は、安保理の権限が及ぶ国連の下部組織として発動されたものではなく、それがアメリカ合衆国の責任の下に置かれることを条件に、単にその創設を奨励しただけのものである。よって、朝鮮国連軍の解消は、安保理を含む国連のいかなる組織の責任ではなく、すべてはアメリカ合衆国の一存で行われるべきである」。
「国連が解消できない国連軍」とは何か? これは、現在の国連から、ある意味、匙を投げられている前世紀の“遺物”と考えるべきだ。
なぜ、アメリカはこれの維持にこだわるのか。唯一の明確な目的は「北朝鮮と中国に対峙するのは、アメリカではなく“国連”である」という休戦の構図を維持したいというものだ。一つの印象操作だ。
この「国連が解消できない国連軍」と世界で唯一、地位協定を結ぶ、おめでたい国がある。それが日本だ。
日本が朝鮮国連軍の一環として基地を提供していることに触れ、その地位協定について説明している。アメリカがこの構図を維持し、「国連が解消できない国連軍」であるかのような印象操作を行っていると指摘されている。
朝鮮有事の際、アメリカは国連軍として行動しなければならず、すべての参加国の協議と同意が必要である。しかし、日本はこの協議の一部ではなく、日本は朝鮮国連軍地位協定によって自動的に後方支援基地になり、国際法上の交戦国になる可能性があると指摘している。
日本政府は、1953年に結ばれた朝鮮戦争の休戦協定の一環として、アメリカなど12カ国と「朝鮮国連軍地位協定」を締結している。この協定により、朝鮮有事の際、アメリカは国連軍として行動しなければならないため、日本も自動的に後方支援基地として国際法上の交戦国となる。
日本と韓国が他の国とは異なる地位協定を持っており、「従属二兄弟」と呼ぶことができると指摘している。日本は自衛隊の指揮権をアメリカに委任し、特別な地位協定を結んでいる。
日本と韓国が他の国と比較して異常な安全保障体制を持っていると主張している。日本と韓国は米軍駐留に関する地位協定において特殊な取り決めをしており、その影響を受けていると述べている。
「新しい戦前」の危険性: 現在の日本において、戦争への備えを強調し、敵国を悪魔化する文化が台頭していると警告している。また、このような状況では戦争に対するブレーキが失われ、国家は戦争を避けるための外交努力を放棄する可能性があると指摘している。
アイヌ民族の権利保護に関連する議論が取り上げられており、日本弁護士連合会(日弁連)の国際交流委員会がアイヌ民族の権利を支持しない立場を取ったことについて議論している。
現在の日本で「戦争に備えよ!」という言論が広まっており、敵国を悪魔化する文化が戦争の前提条件となっていると指摘している。また、教育現場での自衛隊入隊勧誘や戦争への動員に対する懸念も述べている。
日本の安全保障政策や国際関係についての著者の見解や懸念を反映しており、国内外の政治的な議論に影響を与える可能性があるテーマに関して触れている。
主張の中心は、日本の安全保障政策や国際関係における異常性や課題についての著者の見解である。記事全体を通じて、著者は日本の現行の安全保障体制に対して懸念を表明し、平和と外交努力を重視する立場をとっている。
【要点】
過去の出来事と会議について語り、特にウクライナとロシアの関係、アジアでの地政学的な問題に焦点を当てている。
・ウクライナとロシアの関係
2021年4月にロシア軍がウクライナ国境に集中し始めたことが言及されている。8カ月後にノルウェーのトロムソ大学に招かれ、ロシアからの学者も集まったと述べている。この集まりは、ロシア軍集中によるウクライナ戦争の可能性に関する議論を行ったもので、ノルウェーやアイスランドなどのNATO加盟国やアジアの「緩衝国家」がその影響を受ける可能性について懸念を表明した。
・緩衝国家と代理戦争の概念
バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)やポーランドが「緩衝国家」の役割を果たしており、超大国や軍事同盟が敵国の近くに小規模な兵力を配置し、有事にその国を犠牲にして敵国の進軍を遅らせる抑止戦略を採用している。「代理戦争」とは、大国が分断国家の政権または反政府勢力に武力を供与し、自国の利益を追求する軍事的な試みを指す。これは歴史的に繰り返されてきた現象であり、ウクライナ戦争も代理戦争の一例とされている。
・ウクライナ戦争の開戦予測
集まった学者たちは、ウクライナ内戦がロシアの関与する代理戦争であると見なし、ウクライナ戦争がアメリカの典型的な全面的代理戦争に発展する可能性を予測した。そして、その予測は現実となったと述べている。
・アジアの地政学的な問題
後半では、韓国で開かれた太平洋陸軍参謀総長会議に参加した経験について語っており、北朝鮮における軍事戦略に関するシミュレーションが行われたことを述べている。アフガン占領政策の失敗から、軍事占領を行う余力がないという結論が出されたことを紹介し、同様の議論がウクライナとロシアの関係にも適用される可能性があると指摘している。
ウクライナ戦争がロシア一国だけでは達成不可能な目標であることを示唆し、地政学的な問題に関する洞察を共有している。
・朝鮮国連軍とは
朝鮮国連軍は、朝鮮戦争(1950-1953)の際に、国際連合(国連)憲章に基づいて設立された多国籍軍である。この軍は国連軍と呼ばれているが、実際には米軍司令官の指揮下で活動した。安保理の決議に基づいて設立されたが、その後の安保理決議は存在しないため、事実上、国連軍としての機能を持っていない。
・日本と朝鮮国連軍の関係
日本には朝鮮国連軍の後方司令部があり、いくつかの米軍基地が朝鮮国連軍の基地と指定されている。日本政府は、朝鮮国連軍に参加する12カ国との「朝鮮国連軍地位協定」を締結しており、この協定は現在も有効である。
・安全保障と外交の問題
朝鮮国連軍の存在が日本にとって安全保障上の問題を引き起こす可能性があると主張している。特に、朝鮮有事の際、アメリカは国連軍として行動しなければならず、そのためにはすべての参加国の協議と同意が必要とされる。しかし、日本はこの協議の一部ではないため、日本が自動的に後方支援基地になり、国際法上の交戦国となる可能性があると述べている。
・日本の安全保障政策の異常性
日本と韓国が他の国と異なり、米軍駐留に関する地位協定で特殊な地位を持っていると主張している。日本はアメリカとの関係において強い従属的地位にあるとし、これが日本の外交政策に影響を及ぼしていると指摘している。
・「新しい戦前」への懸念
日本における「新しい戦前」と呼ばれる状況に懸念を表明している。この状況は、国内で敵国を悪魔化し、外交解決を促進する代わりに戦争の回避を優先することを難しくするとしている。また、日本の教育現場で戦争への動員を肯定的に捉える空気が広がりつつあることについても懸念を表明している。
日本の安全保障政策と国際関係に関する見解と懸念を反映している。
引用・参照・底本
北東アジアの“ウクライナ化”を避けるには――朝鮮有事の視点から 東京外国語大学名誉教授・伊勢崎賢治 長周新聞 2023.10.05
ロシアに近いノルウェー北部のトロムソに招かれ、ロシアからの学者も集まった大学で会議に参加した。ノルウェーとアイスランドはNATOの創立メンバーであり、ノルウェーがロシアとウクライナの間に位置していることから、開戦時にどのような影響を受けるかが懸念されていた。
2021年4月にロシア軍がウクライナとの国境に集中し始めた出来事を開始点としている。この集中は緊張を高めた。この時には、ロシア軍の集中は既に10万に達し、集まった学者たちの緊張は半端ではなかった。われわれはこの時、確実にウクライナ戦争の開戦を予測した。この4カ月前の8月に、アフガニスタンにおける20年戦争にアメリカ・NATOは敗北したばかり。「あの男(プーチン)なら、絶対にこの期を逃さない」と。
もし開戦になったら、ウクライナと同じ大国の狭間に位置するノルウェーやアイスランド(ともにNATO創立メンバー)、そしてアジアでは韓国や日本など「緩衝国家」の運命はどうなるのか?これがノルウェーに集まった学者たちの共通の問題意識だった。
すでに、旧ソ連邦構成国だったバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)は、独立後NATOに加入するだけでなく、みずからを「トリップワイヤー化」している。加えてポーランドにも、サード(高高度防衛)ミサイルが配備されている。
トリップワイヤーとは「仕掛け線」という意味だ。抑止戦略論上の専門用語であり、超大国や軍事同盟が、敵国の軍事力に均衡するよりずっと小さい兵力をその敵国の間近の緩衝国家に置くこと。つまり、なるべく安上がりな軍事供与で、挑発する装置を敵国の目の前の緩衝国家に置いておいて、有事になったらその緩衝国家を犠牲にして敵国の進軍を遅らせるという考え方だ。
そして、その会議で共有された「緩衝国家」の定義は、「敵対する大きな国家や軍事同盟の狭間に位置し、武力衝突を防ぐクッションになっている国である。その敵対するいずれの大国も、このクッションを失うと自分たちの本土に危険が及ぶと考えるため、軍事侵攻され実際の被害を受ける可能性が、普通の国より格段に高く、しばしば代理戦争の戦場となる」。
同じくそこで共有された「代理戦争」の定義は、「大国が、その内政に深く関与する分断国家の政権もしくは反政府勢力に、その大国を敵と見なす別の大国が武力を供与し、みずからは血を流さず敵国を弱体化する軍事的な試み」だ。これは歴史上繰り返されてきた。
ノルウェーに集まった学者たちは、今回のウクライナ戦争の開戦前、東部ドンバスにおけるウクライナ内戦がロシアが関与する代理戦争だったように、ロシアがウクライナに侵略すれば、それはアメリカの典型的な全面的代理戦争になるだろうと予測した。そして、それはその通りになった。
ロシアの上位目標:北東アジア、特に朝鮮半島に焦点を移し、2017年にアメリカの陸軍関係者との会議で「米朝開戦」の軍事戦略をシミュレーションしたことを述べている。このシミュレーションを通じて、ロシアがウクライナに侵略する場合、その上位目標はウクライナのレジームチェンジではなく、アメリカの全面的な代理戦争である可能性が示唆されたとされている。
国際的な緊張状態と戦略的な考察に焦点を当て、特にロシアの行動について議論している。
北東アジア、朝鮮半島に話を移す。
日本の安全保障政策や国際関係についての意見を述べており、特に日本の現行の安全保障体制について批判的な立場をとっている。
2017年、韓国・板門店に招かれた。僕が招かれたのはPACC:Pacific Armies Chiefs Conference(太平洋陸軍参謀総長会議)―アメリカ“陸軍”太平洋総司令部が、NATO加盟国、そして日本の自衛隊陸上幕僚長を含む親米32カ国の陸軍のトップだけを呼ぶ会議だ。ちなみに呼ばれるときは、外務省や防衛省などは経由せず個人的に依頼が来る。
ここでは、主要会議のサブ部会として、当時トランプ大統領がツイッターで言及し世界を震撼させていた「米朝開戦」の現実的な軍事戦略をシミュレーションする機会を得た。
現実的な軍事戦略とは、アメリカが「斬首作戦」を決行した後に始まる軍事占領― つまり人口2500万人の北朝鮮を軍事的に平定しレジームチェンジ(体制転換)を完了する ―には、どのくらいの部隊と期間が必要か。それに必要な兵力を、果たして同盟国が(イラク、アフガニスタン戦争が同時進行する中で)拠出できるか。これがシミュレーションの中身だ。
アメリカ陸軍から僕への依頼は、2017年当時すでに失敗が濃厚となっていたアフガン占領政策の負の教訓を語ってくれ、というものだった。
実際、「軍事占領を敷く余力はない」ということが陸軍参謀総長たちのコンセンサスだった。軍事戦略シミュレーションの詳細は、ここでは語らない。ただ、ここで得た知見は、ウクライナ(人口4000万人)の開戦で日本を含む西側社会で喧伝された「プーチンの野望」の実現性、つまり、ロシア陸軍のキャパで実現可能な戦争の上位目標を見極めるのに役に立った。ロシア一国で、ウクライナのレジームチェンジなどできるわけがないということだ。
日本を縛る冷戦の“遺物”本日の主題だ。
朝鮮半島の北緯38度線にある板門店には、北朝鮮と米韓軍が対峙するJSA共同警備地区がある。
共同警備地区の米陸軍コマンダーが、筆者を含む各国の陸軍参謀総長たちにブリーフィングしているところだが、後ろの石碑に注目してもらいたい。もちろん韓国、アメリカ。そして、イギリスやオーストラリアなど22カ国の国旗が見える。これが、韓国に司令部がある「朝鮮国連軍」だ。
朝鮮国連軍は、国連憲章第七章に基づいて安保理が統括するPKOのような「国連軍」ではなく、米軍司令官の指揮下で活動する多国籍軍だ。根拠となる安保理決議は、1950年に北朝鮮が韓国に侵攻した直後に、ソ連欠席の下で採択された。今では考えられないことだ。国連軍が国連常任理事国(中国)と対峙することなどできるわけがない。この混乱期におけるどさくさ紛れの決議により、「国連軍」の名称と国連旗を用いることを認められただけだ。それ以来、これに関する安保理決議は一つもない。
朝鮮戦争は現在も「休戦状態」なので、朝鮮国連軍は実動している。現在は、在韓米軍司令官が朝鮮国連軍司令官を兼務している。
そして、日本にも朝鮮国連軍の後方司令部が横田基地に置かれ、7つの米軍基地(横田基地、神奈川県のキャンプ座間と横須賀基地、長崎県の佐世保基地、沖縄県の嘉手納基地、普天間基地、ホワイトビーチ)が朝鮮国連軍の基地に指定されている。これらの基地には、日米の国旗とともにブルーの国連旗が立てられている。
一方で、これがはたして“現在”の「国連軍」と呼べるのかという問題がある。1997年に当時のブトロス・ガリ国連事務総長が北朝鮮外務相にあてた親書に、その矛盾が現れている。(この書簡は現在も国連のホームページに収録されている)
ガリ書簡とは、「朝鮮国連軍は、安保理の権限が及ぶ国連の下部組織として発動されたものではなく、それがアメリカ合衆国の責任の下に置かれることを条件に、単にその創設を奨励しただけのものである。よって、朝鮮国連軍の解消は、安保理を含む国連のいかなる組織の責任ではなく、すべてはアメリカ合衆国の一存で行われるべきである」。
「国連が解消できない国連軍」とは何か? これは、現在の国連から、ある意味、匙を投げられている前世紀の“遺物”と考えるべきだ。
なぜ、アメリカはこれの維持にこだわるのか。唯一の明確な目的は「北朝鮮と中国に対峙するのは、アメリカではなく“国連”である」という休戦の構図を維持したいというものだ。一つの印象操作だ。
この「国連が解消できない国連軍」と世界で唯一、地位協定を結ぶ、おめでたい国がある。それが日本だ。
日本が朝鮮国連軍の一環として基地を提供していることに触れ、その地位協定について説明している。アメリカがこの構図を維持し、「国連が解消できない国連軍」であるかのような印象操作を行っていると指摘されている。
朝鮮有事の際、アメリカは国連軍として行動しなければならず、すべての参加国の協議と同意が必要である。しかし、日本はこの協議の一部ではなく、日本は朝鮮国連軍地位協定によって自動的に後方支援基地になり、国際法上の交戦国になる可能性があると指摘している。
日本政府は、1953年に結ばれた朝鮮戦争の休戦協定の一環として、アメリカなど12カ国と「朝鮮国連軍地位協定」を締結している。この協定により、朝鮮有事の際、アメリカは国連軍として行動しなければならないため、日本も自動的に後方支援基地として国際法上の交戦国となる。
日本と韓国が他の国とは異なる地位協定を持っており、「従属二兄弟」と呼ぶことができると指摘している。日本は自衛隊の指揮権をアメリカに委任し、特別な地位協定を結んでいる。
日本と韓国が他の国と比較して異常な安全保障体制を持っていると主張している。日本と韓国は米軍駐留に関する地位協定において特殊な取り決めをしており、その影響を受けていると述べている。
「新しい戦前」の危険性: 現在の日本において、戦争への備えを強調し、敵国を悪魔化する文化が台頭していると警告している。また、このような状況では戦争に対するブレーキが失われ、国家は戦争を避けるための外交努力を放棄する可能性があると指摘している。
アイヌ民族の権利保護に関連する議論が取り上げられており、日本弁護士連合会(日弁連)の国際交流委員会がアイヌ民族の権利を支持しない立場を取ったことについて議論している。
現在の日本で「戦争に備えよ!」という言論が広まっており、敵国を悪魔化する文化が戦争の前提条件となっていると指摘している。また、教育現場での自衛隊入隊勧誘や戦争への動員に対する懸念も述べている。
日本の安全保障政策や国際関係についての著者の見解や懸念を反映しており、国内外の政治的な議論に影響を与える可能性があるテーマに関して触れている。
主張の中心は、日本の安全保障政策や国際関係における異常性や課題についての著者の見解である。記事全体を通じて、著者は日本の現行の安全保障体制に対して懸念を表明し、平和と外交努力を重視する立場をとっている。
【要点】
過去の出来事と会議について語り、特にウクライナとロシアの関係、アジアでの地政学的な問題に焦点を当てている。
・ウクライナとロシアの関係
2021年4月にロシア軍がウクライナ国境に集中し始めたことが言及されている。8カ月後にノルウェーのトロムソ大学に招かれ、ロシアからの学者も集まったと述べている。この集まりは、ロシア軍集中によるウクライナ戦争の可能性に関する議論を行ったもので、ノルウェーやアイスランドなどのNATO加盟国やアジアの「緩衝国家」がその影響を受ける可能性について懸念を表明した。
・緩衝国家と代理戦争の概念
バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)やポーランドが「緩衝国家」の役割を果たしており、超大国や軍事同盟が敵国の近くに小規模な兵力を配置し、有事にその国を犠牲にして敵国の進軍を遅らせる抑止戦略を採用している。「代理戦争」とは、大国が分断国家の政権または反政府勢力に武力を供与し、自国の利益を追求する軍事的な試みを指す。これは歴史的に繰り返されてきた現象であり、ウクライナ戦争も代理戦争の一例とされている。
・ウクライナ戦争の開戦予測
集まった学者たちは、ウクライナ内戦がロシアの関与する代理戦争であると見なし、ウクライナ戦争がアメリカの典型的な全面的代理戦争に発展する可能性を予測した。そして、その予測は現実となったと述べている。
・アジアの地政学的な問題
後半では、韓国で開かれた太平洋陸軍参謀総長会議に参加した経験について語っており、北朝鮮における軍事戦略に関するシミュレーションが行われたことを述べている。アフガン占領政策の失敗から、軍事占領を行う余力がないという結論が出されたことを紹介し、同様の議論がウクライナとロシアの関係にも適用される可能性があると指摘している。
ウクライナ戦争がロシア一国だけでは達成不可能な目標であることを示唆し、地政学的な問題に関する洞察を共有している。
・朝鮮国連軍とは
朝鮮国連軍は、朝鮮戦争(1950-1953)の際に、国際連合(国連)憲章に基づいて設立された多国籍軍である。この軍は国連軍と呼ばれているが、実際には米軍司令官の指揮下で活動した。安保理の決議に基づいて設立されたが、その後の安保理決議は存在しないため、事実上、国連軍としての機能を持っていない。
・日本と朝鮮国連軍の関係
日本には朝鮮国連軍の後方司令部があり、いくつかの米軍基地が朝鮮国連軍の基地と指定されている。日本政府は、朝鮮国連軍に参加する12カ国との「朝鮮国連軍地位協定」を締結しており、この協定は現在も有効である。
・安全保障と外交の問題
朝鮮国連軍の存在が日本にとって安全保障上の問題を引き起こす可能性があると主張している。特に、朝鮮有事の際、アメリカは国連軍として行動しなければならず、そのためにはすべての参加国の協議と同意が必要とされる。しかし、日本はこの協議の一部ではないため、日本が自動的に後方支援基地になり、国際法上の交戦国となる可能性があると述べている。
・日本の安全保障政策の異常性
日本と韓国が他の国と異なり、米軍駐留に関する地位協定で特殊な地位を持っていると主張している。日本はアメリカとの関係において強い従属的地位にあるとし、これが日本の外交政策に影響を及ぼしていると指摘している。
・「新しい戦前」への懸念
日本における「新しい戦前」と呼ばれる状況に懸念を表明している。この状況は、国内で敵国を悪魔化し、外交解決を促進する代わりに戦争の回避を優先することを難しくするとしている。また、日本の教育現場で戦争への動員を肯定的に捉える空気が広がりつつあることについても懸念を表明している。
日本の安全保障政策と国際関係に関する見解と懸念を反映している。
引用・参照・底本
北東アジアの“ウクライナ化”を避けるには――朝鮮有事の視点から 東京外国語大学名誉教授・伊勢崎賢治 長周新聞 2023.10.05