バングラデシュの政治的危機 ― 2024年08月18日 15:29
【概要】
Vijay Prashad氏の記事は、2024年8月5日のシェイク・ハシナ首相の辞任後のバングラデシュの政治的混乱について詳細に分析している。彼女の辞任につながった広範な抗議行動、国民による彼女の辞任の祝賀、そしてその後の暴力と混乱を強調している。
プラシャドは、バングラデシュにおける政治的暴力の歴史的背景を検証し、シェイク・ハシナの父シェイク・ムジブル・ラーマンの遺産と軍事クーデターの歴史が政治情勢をどのように形成してきたかを強調している。彼はまた、抗議行動における学生の役割と、ハシナの辞任後の政治的イスラム教の潜在的な台頭についても論じている。
さらに、ハシナ大統領の追放が地域的に意味する影響、特に米中の対立とそれが南アジアに与える影響という文脈で探究している。プラシャドは、新自由主義的なテクノクラートの危険性と、軍とエリート部隊が単に支配を維持するために「ジャージを変える」だけの可能性を警告し、学生と労働者の運動を脇に追いやる可能性があると警告している。
プラシャド氏の分析は、状況が流動的である一方で、バングラデシュの未来は、学生や労働者が主導する民主化運動によって形作られるか、それとも新しいリーダーシップの下での古い権力構造の継続によって形成される可能性があることを示唆している。
【詳細】
Vijay Prashadの記事では、バングラデシュの政治的危機が、シェイク・ハシナ首相の辞任とその後の混乱に焦点を当てている。以下は、この記事の詳細な説明である。
背景とシェイク・ハシナの辞任
シェイク・ハシナは、バングラデシュの歴史上最も長く政権を担った首相であり、1996年から2001年まで、そして2009年から2024年までの合計20年間、首相を務めた。しかし、2024年8月5日に大規模な抗議デモによって辞任を余儀なくされ、インドのデリー近郊のヒンドン空軍基地に逃れた。
抗議デモと暴力
ハシナの辞任は、バングラデシュ全土で大規模な祝賀と暴力を引き起こした。首都ダッカでは、彼女の公邸であるガナババンがデモ隊に占拠され、家具や個人的な物品が略奪されるという混乱が発生した。また、抗議者は政府関連の建物や政治家の邸宅に放火するなど、広範な破壊行為が行われた。
学生運動と新たなリーダーシップ
抗議の中心には、バングラデシュ学生蜂起中央委員会(Bangladesh Student Uprising Central Committee)があった。委員会のリーダーであるナヒド・イスラムは、新しい民主的なバングラデシュの創設を目指していると述べ、学生たちが政治の重要な担い手となっている。
一方、軍と反対派政治勢力(バングラデシュ国民党(BNP)やイスラム主義政党であるジャマアテ・イスラミ(Jamaat-e-Islami))は、学生運動の影響を軽視しようとしたが、公の反発を受けて学生代表と会談することを余儀なくされた。
ムハマド・ユヌスと暫定政府
軍は、学生たちの要求に応じて、バングラデシュのノーベル賞受賞者であり、マイクロクレジット運動の創始者であるムハマド・ユヌスを暫定政府の指導者に指名した。ユヌスは、かつては新自由主義的なNGOの象徴と見なされていたが、ハシナ政権による彼に対する政治的迫害が続いた結果、学生たちにとって象徴的な存在となった。しかし、ユヌスの新自由主義的な経済政策は、学生たちの主要な要求である雇用問題とは相容れない可能性がある。
バングラデシュの政治的イスラム
バングラデシュにおける政治的イスラムの台頭についても触れている。1971年の独立後、バングラデシュは一時的に世俗主義を掲げたが、その後、イスラムが政治において再び重要な役割を果たすようになった。特に、ジャマアテ・イスラミは、解放戦争中にパキスタンを支持したために一時的に禁止されていたが、その後の軍事政権下で再び政治の舞台に戻ってきた。ハシナ政権は、米国やインドの支持を得るために「政治的イスラム」の脅威を利用したが、その実態はまだ明確ではない。
地域的および国際的な影響
バングラデシュは世界で8番目に人口が多い国であり、南アジア地域においても重要な役割を果たしている。近年、南アジアは、米中対立の新冷戦の影響を強く受けてきた。バングラデシュの政治変動が地域や国際情勢に与える影響についても言及しており、特に中国の一帯一路構想(BRI)に関与していた地域の他国(パキスタン、スリランカ、ネパール)での政府交代に触れている。
結論
最後で、Prashadは、バングラデシュの将来についての不確実性を強調している。学生たちは大規模なデモを通じて正当性を得ているが、彼らには明確な国家のアジェンダがないため、旧来の新自由主義的な技術官僚が再び台頭する可能性がある。学生運動と労働組合が連携して新しい民主的で国民中心のバングラデシュを構築できるかどうかが鍵となるが、そうでなければ、軍やエリートが再び権力を掌握する可能性が高いと警告している。
【要点】
Vijay Prashadの記事の主要ポイントを箇条書きで説明する。
1.シェイク・ハシナの辞任
・2024年8月5日、シェイク・ハシナ首相が大規模な抗議デモにより辞任。
・ハシナはバングラデシュの歴代最長の首相(1996-2001、2009-2024)。
・辞任後、インドのヒンドン空軍基地に逃れる。
2.抗議デモと暴力
・ダッカでの大規模な祝賀と暴力行為。
・デモ隊が首相公邸(ガナババン)を占拠し、物品を略奪。
・政府関連の建物や政治家の邸宅に放火。
3.学生運動
・バングラデシュ学生蜂起中央委員会(Bangladesh Student Uprising Central Committee)が中心。
・学生リーダーは新しい民主的バングラデシュの創設を目指す。
・学生たちは政治の重要な担い手としての役割を果たす。
4.ムハマド・ユヌスと暫定政府
・軍はムハマド・ユヌスを暫定政府の指導者に指名。
・ユヌスは新自由主義的な経済政策で知られるが、学生たちにとっては象徴的な存在。
5.政治的イスラムの台頭
・バングラデシュの政治におけるイスラムの役割の増加。
・ハシナ政権は「政治的イスラム」を脅威として利用し、米国やインドの支持を得るために使用。
6.地域的および国際的な影響
・バングラデシュは南アジアで重要な役割を果たす。
・米中対立の新冷戦と一帯一路構想(BRI)が地域に影響を与える。
・他のBRI関与国(パキスタン、スリランカ、ネパール)での政府交代も関連。
7.将来の展望
・学生運動が新しい民主的で国民中心のバングラデシュを構築できるかがカギ。
・旧来の新自由主義的な技術官僚や軍の再登場の可能性も警告。
【参考】
➢ 一帯一路構想(BRI)に関与していた国々(パキスタン、スリランカ、ネパール)での政府交代が言及されているが、これらの国々での新しい政権が必ずしも中国寄りであるとは限らない。以下のポイントが重要である。
1.パキスタン
・イムラン・カーン首相が追放され、シャバズ・シャリフが権力を握った。
・シャリフ政権が中国寄りかどうかは不明であるが、イムラン・カーン政権は中国との良好な関係を維持していた。
2.スリランカ
・ラニル・ウィクラマシンゲが権力を握った。
・ウィクラマシンゲの政権は一帯一路に関連していたが、大規模な民衆運動とスリランカの経済危機の中で政策が変更される可能性がある。
3.ネパール
・KP・シャルマ・オリが権力を取り戻した。
・オリ政権は中国との関係を重視していたが、新政権の政策がどのように変わるかはまだ不明。
全体として、これらの国々での政府交代が中国寄りの政権の誕生を意味するわけではなく、むしろ地域の政治的変動が中国との関係に影響を与えている可能性があるという点が強調されている。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
Vijay Prashad: Bangladesh on the Spot Consortium News 2024.08.16
https://consortiumnews.com/2024/08/16/vijay-prashad-bangladesh-on-the-spot/?eType=EmailBlastContent&eId=31c42a17-9f25-46e5-846b-3064b28c496c
Vijay Prashad氏の記事は、2024年8月5日のシェイク・ハシナ首相の辞任後のバングラデシュの政治的混乱について詳細に分析している。彼女の辞任につながった広範な抗議行動、国民による彼女の辞任の祝賀、そしてその後の暴力と混乱を強調している。
プラシャドは、バングラデシュにおける政治的暴力の歴史的背景を検証し、シェイク・ハシナの父シェイク・ムジブル・ラーマンの遺産と軍事クーデターの歴史が政治情勢をどのように形成してきたかを強調している。彼はまた、抗議行動における学生の役割と、ハシナの辞任後の政治的イスラム教の潜在的な台頭についても論じている。
さらに、ハシナ大統領の追放が地域的に意味する影響、特に米中の対立とそれが南アジアに与える影響という文脈で探究している。プラシャドは、新自由主義的なテクノクラートの危険性と、軍とエリート部隊が単に支配を維持するために「ジャージを変える」だけの可能性を警告し、学生と労働者の運動を脇に追いやる可能性があると警告している。
プラシャド氏の分析は、状況が流動的である一方で、バングラデシュの未来は、学生や労働者が主導する民主化運動によって形作られるか、それとも新しいリーダーシップの下での古い権力構造の継続によって形成される可能性があることを示唆している。
【詳細】
Vijay Prashadの記事では、バングラデシュの政治的危機が、シェイク・ハシナ首相の辞任とその後の混乱に焦点を当てている。以下は、この記事の詳細な説明である。
背景とシェイク・ハシナの辞任
シェイク・ハシナは、バングラデシュの歴史上最も長く政権を担った首相であり、1996年から2001年まで、そして2009年から2024年までの合計20年間、首相を務めた。しかし、2024年8月5日に大規模な抗議デモによって辞任を余儀なくされ、インドのデリー近郊のヒンドン空軍基地に逃れた。
抗議デモと暴力
ハシナの辞任は、バングラデシュ全土で大規模な祝賀と暴力を引き起こした。首都ダッカでは、彼女の公邸であるガナババンがデモ隊に占拠され、家具や個人的な物品が略奪されるという混乱が発生した。また、抗議者は政府関連の建物や政治家の邸宅に放火するなど、広範な破壊行為が行われた。
学生運動と新たなリーダーシップ
抗議の中心には、バングラデシュ学生蜂起中央委員会(Bangladesh Student Uprising Central Committee)があった。委員会のリーダーであるナヒド・イスラムは、新しい民主的なバングラデシュの創設を目指していると述べ、学生たちが政治の重要な担い手となっている。
一方、軍と反対派政治勢力(バングラデシュ国民党(BNP)やイスラム主義政党であるジャマアテ・イスラミ(Jamaat-e-Islami))は、学生運動の影響を軽視しようとしたが、公の反発を受けて学生代表と会談することを余儀なくされた。
ムハマド・ユヌスと暫定政府
軍は、学生たちの要求に応じて、バングラデシュのノーベル賞受賞者であり、マイクロクレジット運動の創始者であるムハマド・ユヌスを暫定政府の指導者に指名した。ユヌスは、かつては新自由主義的なNGOの象徴と見なされていたが、ハシナ政権による彼に対する政治的迫害が続いた結果、学生たちにとって象徴的な存在となった。しかし、ユヌスの新自由主義的な経済政策は、学生たちの主要な要求である雇用問題とは相容れない可能性がある。
バングラデシュの政治的イスラム
バングラデシュにおける政治的イスラムの台頭についても触れている。1971年の独立後、バングラデシュは一時的に世俗主義を掲げたが、その後、イスラムが政治において再び重要な役割を果たすようになった。特に、ジャマアテ・イスラミは、解放戦争中にパキスタンを支持したために一時的に禁止されていたが、その後の軍事政権下で再び政治の舞台に戻ってきた。ハシナ政権は、米国やインドの支持を得るために「政治的イスラム」の脅威を利用したが、その実態はまだ明確ではない。
地域的および国際的な影響
バングラデシュは世界で8番目に人口が多い国であり、南アジア地域においても重要な役割を果たしている。近年、南アジアは、米中対立の新冷戦の影響を強く受けてきた。バングラデシュの政治変動が地域や国際情勢に与える影響についても言及しており、特に中国の一帯一路構想(BRI)に関与していた地域の他国(パキスタン、スリランカ、ネパール)での政府交代に触れている。
結論
最後で、Prashadは、バングラデシュの将来についての不確実性を強調している。学生たちは大規模なデモを通じて正当性を得ているが、彼らには明確な国家のアジェンダがないため、旧来の新自由主義的な技術官僚が再び台頭する可能性がある。学生運動と労働組合が連携して新しい民主的で国民中心のバングラデシュを構築できるかどうかが鍵となるが、そうでなければ、軍やエリートが再び権力を掌握する可能性が高いと警告している。
【要点】
Vijay Prashadの記事の主要ポイントを箇条書きで説明する。
1.シェイク・ハシナの辞任
・2024年8月5日、シェイク・ハシナ首相が大規模な抗議デモにより辞任。
・ハシナはバングラデシュの歴代最長の首相(1996-2001、2009-2024)。
・辞任後、インドのヒンドン空軍基地に逃れる。
2.抗議デモと暴力
・ダッカでの大規模な祝賀と暴力行為。
・デモ隊が首相公邸(ガナババン)を占拠し、物品を略奪。
・政府関連の建物や政治家の邸宅に放火。
3.学生運動
・バングラデシュ学生蜂起中央委員会(Bangladesh Student Uprising Central Committee)が中心。
・学生リーダーは新しい民主的バングラデシュの創設を目指す。
・学生たちは政治の重要な担い手としての役割を果たす。
4.ムハマド・ユヌスと暫定政府
・軍はムハマド・ユヌスを暫定政府の指導者に指名。
・ユヌスは新自由主義的な経済政策で知られるが、学生たちにとっては象徴的な存在。
5.政治的イスラムの台頭
・バングラデシュの政治におけるイスラムの役割の増加。
・ハシナ政権は「政治的イスラム」を脅威として利用し、米国やインドの支持を得るために使用。
6.地域的および国際的な影響
・バングラデシュは南アジアで重要な役割を果たす。
・米中対立の新冷戦と一帯一路構想(BRI)が地域に影響を与える。
・他のBRI関与国(パキスタン、スリランカ、ネパール)での政府交代も関連。
7.将来の展望
・学生運動が新しい民主的で国民中心のバングラデシュを構築できるかがカギ。
・旧来の新自由主義的な技術官僚や軍の再登場の可能性も警告。
【参考】
➢ 一帯一路構想(BRI)に関与していた国々(パキスタン、スリランカ、ネパール)での政府交代が言及されているが、これらの国々での新しい政権が必ずしも中国寄りであるとは限らない。以下のポイントが重要である。
1.パキスタン
・イムラン・カーン首相が追放され、シャバズ・シャリフが権力を握った。
・シャリフ政権が中国寄りかどうかは不明であるが、イムラン・カーン政権は中国との良好な関係を維持していた。
2.スリランカ
・ラニル・ウィクラマシンゲが権力を握った。
・ウィクラマシンゲの政権は一帯一路に関連していたが、大規模な民衆運動とスリランカの経済危機の中で政策が変更される可能性がある。
3.ネパール
・KP・シャルマ・オリが権力を取り戻した。
・オリ政権は中国との関係を重視していたが、新政権の政策がどのように変わるかはまだ不明。
全体として、これらの国々での政府交代が中国寄りの政権の誕生を意味するわけではなく、むしろ地域の政治的変動が中国との関係に影響を与えている可能性があるという点が強調されている。
【参考はブログ作成者が付記】
【引用・参照・底本】
Vijay Prashad: Bangladesh on the Spot Consortium News 2024.08.16
https://consortiumnews.com/2024/08/16/vijay-prashad-bangladesh-on-the-spot/?eType=EmailBlastContent&eId=31c42a17-9f25-46e5-846b-3064b28c496c