米国支持のバングラデシュでの政権交代 ― 2024年08月27日 18:58
【概要】
バングラデシュでのアメリカ支持の政権交代が中国を抑え込むためのものではなく、むしろインドを抑制する目的があると指摘している。主なポイントは次の通り。
バングラデシュの対中関係: 前首相シェイク・ハシナの下でバングラデシュは中国との緊密な経済・軍事関係を築いており、アメリカがこれを簡単に置き換えることは困難である。政権交代による関係の再調整はあるかもしれないが、長期的な影響は限定的だとされている。
アメリカの基地問題: アメリカがバングラデシュのセント・マーティン島に基地を設置したとしても、中国にとっての戦略的影響は限定的である。なぜなら、その基地はマラッカ海峡に十分に近接しておらず、シンガポールに既存のアメリカ基地の方が影響力が大きい。
インドへの影響: 政権交代により、インドに対して友好的な勢力が敵対的な勢力に取って代わる可能性があり、インドの北東部における分離主義運動を助長する恐れがあるとされている。これにより、インドの安全保障が脅かされる可能性が高い。
アメリカのバングラデシュでの行動が主にインドを標的としており、中国への影響は限定的であると主張している。
【詳細】
バングラデシュでのアメリカ支持の政権交代が中国に与える影響について、特に「Alt-Media Community(AMC)」による主張を批判的に検証している。AMCは、この政権交代が中国を封じ込めるためのアメリカの策略であると見ているが、筆者はその見解に異議を唱え、主に次のような論点を提示している。
1. バングラデシュの対中関係
バングラデシュはシェイク・ハシナ前首相の政権下で、中国と非常に緊密な経済的および軍事的関係を築いてきた。バングラデシュはインドよりも中国とより強い関係を持っており、これを断ち切ることはバングラデシュ自身の利益に大きな損害を与える可能性がある。たとえ新政権がアメリカからの圧力で中国との関係を「再調整」しようとしても、それは段階的で表面的なものであり、長期的な政策変更につながる可能性は低いとされている。アメリカがバングラデシュにおける中国の役割を簡単に代替することはできないという点が強調されている。
2. アメリカの基地設置とその戦略的影響
AMCは、アメリカがバングラデシュのセント・マーティン島に基地を設置することで中国に対する戦略的な圧力を強めると主張しているが、筆者はこれに反論している。セント・マーティン島は中国が依存するマラッカ海峡から遠いため、その基地が中国に対する大きな脅威となることはないとされている。さらに、アメリカは既にシンガポールの基地を2035年まで使用できる契約を持っており、これらの基地の方が中国に対する封じ込めにおいて重要性が高いと指摘されている。
3. バングラデシュを通じた中国のプロジェクトへの影響
AMCは、アメリカの影響力がバングラデシュに及ぶことで、中国主導の「バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊(BCIM)」や「中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)」に悪影響を与えると主張しているが、筆者はこれも否定している。BCIMはインドが中国の「一帯一路」構想に参加しなかったため、そもそも進展していない。さらに、CMECに関しては、ミャンマーの一部の地域が反政府勢力の支配下にあり、これらの勢力がアメリカ寄りと見なされることが多いため、CMECの将来は不確実である。中国はこれらの勢力との政治的関係を維持し、停戦交渉にも関与してきたが、その努力は成功していない。
4. インドへの影響
筆者は、バングラデシュでの政権交代が中国よりもインドに対してより大きな脅威をもたらすと論じている。バングラデシュにおける友好勢力が敵対的な勢力に置き換わることで、インドが過去に苦しんできた北東部の分離主義運動が再燃する可能性がある。また、バングラデシュがインドに対して提供していた北東部へのトランジット権を撤回する可能性もあり、これによりインドの戦略的利益が損なわれると考えられる。さらに、アメリカがセント・マーティン島に基地を設置した場合、インドの北東部に対するテロ活動や分離主義活動を密かに支援する拠点となる可能性も示唆されている。
5. 結論
これらの点を総合すると、筆者はAMCの主張とは異なり、バングラデシュでのアメリカ支持の政権交代は中国を封じ込めることが主目的ではなく、むしろインドに対する圧力を高めることが主な狙いであると結論づけている。中国はこの政権交代によって大きな打撃を受けることはないとされているが、インドは深刻な影響を受ける可能性が高いとしている。
【要点】
1.バングラデシュの対中関係
・シェイク・ハシナ政権下でバングラデシュは中国と強固な経済・軍事関係を築いた。
・新政権が中国との関係を再調整する可能性はあるが、それは表面的かつ段階的なもので、長期的な政策変更には至らない可能性が高い。
2.アメリカの基地設置の影響
・アメリカがセント・マーティン島に基地を設置しても、中国に対する戦略的な脅威は限定的。
・既存のシンガポールのアメリカ基地の方が中国封じ込めにおいて重要性が高い。
3.中国のプロジェクトへの影響
バングラデシュの政権交代が「バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊(BCIM)」や「中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)」に大きな影響を与える可能性は低い。
・BCIMはインドが参加しなかったため進展しておらず、CMECの一部はミャンマーの反政府勢力の支配下にある。
4.インドへの影響
・バングラデシュの政権交代は、インドの北東部での分離主義運動を再燃させる可能性がある。
・バングラデシュがインドに対するトランジット権を撤回する可能性があり、インドの戦略的利益が脅かされる。
5.結論
・アメリカ支持のバングラデシュでの政権交代は、中国を封じ込めることが主目的ではなく、インドに対する圧力を高めることが主な狙いである。
・中国への影響は限定的であるが、インドへの影響は深刻である可能性が高い。
【引用・参照・底本】
China Won’t Be Too Adversely Affected By The US-Backed Regime Change In Bangladesh Andrew Korybko's Newsletter 2024.08.27
https://korybko.substack.com/p/china-wont-be-too-adversely-affected?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=148174633&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email
バングラデシュでのアメリカ支持の政権交代が中国を抑え込むためのものではなく、むしろインドを抑制する目的があると指摘している。主なポイントは次の通り。
バングラデシュの対中関係: 前首相シェイク・ハシナの下でバングラデシュは中国との緊密な経済・軍事関係を築いており、アメリカがこれを簡単に置き換えることは困難である。政権交代による関係の再調整はあるかもしれないが、長期的な影響は限定的だとされている。
アメリカの基地問題: アメリカがバングラデシュのセント・マーティン島に基地を設置したとしても、中国にとっての戦略的影響は限定的である。なぜなら、その基地はマラッカ海峡に十分に近接しておらず、シンガポールに既存のアメリカ基地の方が影響力が大きい。
インドへの影響: 政権交代により、インドに対して友好的な勢力が敵対的な勢力に取って代わる可能性があり、インドの北東部における分離主義運動を助長する恐れがあるとされている。これにより、インドの安全保障が脅かされる可能性が高い。
アメリカのバングラデシュでの行動が主にインドを標的としており、中国への影響は限定的であると主張している。
【詳細】
バングラデシュでのアメリカ支持の政権交代が中国に与える影響について、特に「Alt-Media Community(AMC)」による主張を批判的に検証している。AMCは、この政権交代が中国を封じ込めるためのアメリカの策略であると見ているが、筆者はその見解に異議を唱え、主に次のような論点を提示している。
1. バングラデシュの対中関係
バングラデシュはシェイク・ハシナ前首相の政権下で、中国と非常に緊密な経済的および軍事的関係を築いてきた。バングラデシュはインドよりも中国とより強い関係を持っており、これを断ち切ることはバングラデシュ自身の利益に大きな損害を与える可能性がある。たとえ新政権がアメリカからの圧力で中国との関係を「再調整」しようとしても、それは段階的で表面的なものであり、長期的な政策変更につながる可能性は低いとされている。アメリカがバングラデシュにおける中国の役割を簡単に代替することはできないという点が強調されている。
2. アメリカの基地設置とその戦略的影響
AMCは、アメリカがバングラデシュのセント・マーティン島に基地を設置することで中国に対する戦略的な圧力を強めると主張しているが、筆者はこれに反論している。セント・マーティン島は中国が依存するマラッカ海峡から遠いため、その基地が中国に対する大きな脅威となることはないとされている。さらに、アメリカは既にシンガポールの基地を2035年まで使用できる契約を持っており、これらの基地の方が中国に対する封じ込めにおいて重要性が高いと指摘されている。
3. バングラデシュを通じた中国のプロジェクトへの影響
AMCは、アメリカの影響力がバングラデシュに及ぶことで、中国主導の「バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊(BCIM)」や「中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)」に悪影響を与えると主張しているが、筆者はこれも否定している。BCIMはインドが中国の「一帯一路」構想に参加しなかったため、そもそも進展していない。さらに、CMECに関しては、ミャンマーの一部の地域が反政府勢力の支配下にあり、これらの勢力がアメリカ寄りと見なされることが多いため、CMECの将来は不確実である。中国はこれらの勢力との政治的関係を維持し、停戦交渉にも関与してきたが、その努力は成功していない。
4. インドへの影響
筆者は、バングラデシュでの政権交代が中国よりもインドに対してより大きな脅威をもたらすと論じている。バングラデシュにおける友好勢力が敵対的な勢力に置き換わることで、インドが過去に苦しんできた北東部の分離主義運動が再燃する可能性がある。また、バングラデシュがインドに対して提供していた北東部へのトランジット権を撤回する可能性もあり、これによりインドの戦略的利益が損なわれると考えられる。さらに、アメリカがセント・マーティン島に基地を設置した場合、インドの北東部に対するテロ活動や分離主義活動を密かに支援する拠点となる可能性も示唆されている。
5. 結論
これらの点を総合すると、筆者はAMCの主張とは異なり、バングラデシュでのアメリカ支持の政権交代は中国を封じ込めることが主目的ではなく、むしろインドに対する圧力を高めることが主な狙いであると結論づけている。中国はこの政権交代によって大きな打撃を受けることはないとされているが、インドは深刻な影響を受ける可能性が高いとしている。
【要点】
1.バングラデシュの対中関係
・シェイク・ハシナ政権下でバングラデシュは中国と強固な経済・軍事関係を築いた。
・新政権が中国との関係を再調整する可能性はあるが、それは表面的かつ段階的なもので、長期的な政策変更には至らない可能性が高い。
2.アメリカの基地設置の影響
・アメリカがセント・マーティン島に基地を設置しても、中国に対する戦略的な脅威は限定的。
・既存のシンガポールのアメリカ基地の方が中国封じ込めにおいて重要性が高い。
3.中国のプロジェクトへの影響
バングラデシュの政権交代が「バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊(BCIM)」や「中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)」に大きな影響を与える可能性は低い。
・BCIMはインドが参加しなかったため進展しておらず、CMECの一部はミャンマーの反政府勢力の支配下にある。
4.インドへの影響
・バングラデシュの政権交代は、インドの北東部での分離主義運動を再燃させる可能性がある。
・バングラデシュがインドに対するトランジット権を撤回する可能性があり、インドの戦略的利益が脅かされる。
5.結論
・アメリカ支持のバングラデシュでの政権交代は、中国を封じ込めることが主目的ではなく、インドに対する圧力を高めることが主な狙いである。
・中国への影響は限定的であるが、インドへの影響は深刻である可能性が高い。
【引用・参照・底本】
China Won’t Be Too Adversely Affected By The US-Backed Regime Change In Bangladesh Andrew Korybko's Newsletter 2024.08.27
https://korybko.substack.com/p/china-wont-be-too-adversely-affected?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=148174633&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email