地に墜ちる米国 ― 2025年06月02日 19:24
【概要】
2025年6月2日(月)、中国商務省(MOFCOM)の報道官は、最近の米国による「中国がジュネーブでの中米経済貿易協議において達成されたコンセンサスに違反した」との主張に対し、中国側の立場を明らかにした。商務省が同日に発表した声明によれば、中国は、5月12日に発表された「中米経済貿易会合(ジュネーブ)に関する共同声明」の発表後、合意されたコンセンサスに従い、米国に対する「報復関税」等の関税および非関税措置を撤廃または停止したとされる。
中国側は、責任ある姿勢のもと、当該コンセンサスの履行に真摯に取り組み、厳格に実施し、その実行を積極的に支持してきた。これは、中国が国際的な合意を誠実に守り、自国の権益を守る強い意志を有していることの表れである。
これに対し、米国側は、ジュネーブでの会合後に、複数の差別的な制限措置を中国に対して立て続けに導入した。これには、AI(人工知能)関連の半導体輸出管理に関する指針の発出、EDA(電子設計自動化)ソフトウェアの対中販売の停止、および中国人留学生に対するビザの取り消しが含まれる。
中国商務省の報道官によれば、これらの米国の行動は、2025年1月17日に両国首脳間で行われた電話会談において確認されたコンセンサスにも明確に反しており、ジュネーブでの経済貿易協議のコンセンサスを深刻に損ない、中国の正当な権益を著しく侵害するものであると指摘された。米国は、自国の行動を省みることなく、不当にも中国に責任を転嫁し、事実に基づかない非難を行っているとし、中国はこれらの根拠のない非難を断固として拒否するとした。
報道官は、ジュネーブでの中米経済貿易会合における共同声明が、相互尊重および平等な協議に基づいて両国が得た重要なコンセンサスであり、その成果は容易に得られたものではないと強調した。その上で、米国に対して、中国と歩み寄り、誤った行動を直ちに是正し、ジュネーブ協議のコンセンサスを共に守り、中米貿易関係の健全、安定、持続可能な発展を促進するよう求めた。
また、報道官は、米国が一方的な行動を続け、中国の利益を損なうならば、中国は自国の正当な権利と利益を守るために断固たる措置を講じると強調した。
【詳細】
2025年6月2日午前、中国商務省(Ministry of Commerce of the People's Republic of China, 略称:MOFCOM)は、最近の米国による対中批判に関して公式にコメントを発表した。背景としては、米国側が「中国が、スイス・ジュネーブにおいて実施された中米経済貿易協議で形成された合意事項(コンセンサス)を遵守していない」と主張したことがある。これに対し、中国商務省の報道官は、「中国側はこの事態を十分に認識しており、既に対応措置を講じている」と述べた。
声明によると、2025年5月12日に発表された「中米経済貿易会合(ジュネーブ)に関する共同声明(Joint Statement on the China-US Economic and Trade Meeting in Geneva)」の内容に基づき、中国側は合意内容の履行に積極的に取り組んできた。具体的には、中国は米国に対して発動していた関税および非関税措置、すなわち「報復関税(reciprocal tariffs)」に関連する制裁を、合意に従って取り消し、あるいは一時停止する措置を講じた。
さらに報道官は、「中国は誠意をもって協議に臨み、合意事項を厳格に実行している。これは中国が国際的な責任を果たす姿勢を示すものであり、また中国の一貫した信義を体現するものである」と述べた。
しかしながら、これに反して米国は、協議後に複数の一方的かつ差別的な対中措置を導入した。具体例として、以下の3点が挙げられている:
・AI(人工知能)関連半導体の対中輸出管理指針の発出
米国は、AI技術に関連する高性能半導体について、中国向けの輸出を制限する新たな指針を導入した。
・EDA(Electronic Design Automation:電子設計自動化)ソフトウェアの対中販売の中止
EDAは半導体チップ設計に不可欠なソフトウェアであり、その提供を停止することは中国の先端技術開発に直接的な影響を及ぼすものである。
・中国人学生に対するビザの無効化
これにより、米国内で学業や研究活動を行っていた、または行おうとしていた中国人学生の学術的・職業的機会が妨げられる結果となった。
報道官は、これらの米国の措置が、2025年1月17日に両国首脳間で実施された電話会談で合意された方針、ならびにジュネーブで達成された経済・貿易分野のコンセンサスを著しく逸脱し、中国の正当な経済的・技術的利益を深刻に損なうものであると指摘した。
中国側は、米国がこのような摩擦を一方的にエスカレートさせていることに対し深い遺憾の意を示し、「米国は自身の行動に対する反省を欠いたまま、中国に責任転嫁を試みている。これは事実と著しくかけ離れており、不当な非難である」と強く反論した。
さらに、中国商務省の報道官は、ジュネーブ会合において作成された共同声明について、「これは中米双方が、相互尊重および平等な立場からの協議を通じて、困難を乗り越えながら獲得した重要な成果である」とし、米国側に対して、以下の3点を強く求めた。
・合意されたコンセンサスを誠実に履行すること
・一方的な誤った措置を即時に撤回すること
・中米貿易関係の健全、安定、かつ持続可能な発展を共に推進するため、建設的な立場に立って協力すること
最後に、報道官は、「仮に米国が今後も一方的な対応を継続し、中国の利益を損なうような行為を繰り返すのであれば、中国は国家の正当な権益を守るため、断固たる強硬な措置を講じる用意がある」と明言した。
【要点】
・2025年5月12日に発表された「中米経済貿易会合(ジュネーブ)に関する共同声明」に基づき、中国は米国に対する関税・非関税措置を撤廃または停止した。
・中国は誠意をもってコンセンサスを実行し、厳格に履行している。これにより、中国は国際的責任を果たし、誠実に対応しているとされる。
➢対照的に、米国はジュネーブ会合後に以下の差別的措置を次々に実施した。
➢AI関連半導体の対中輸出管理指針の発出
➢EDAソフトウェアの対中販売停止
➢中国人学生に対するビザ取り消し
・これらの米国の措置は、2025年1月17日の両国首脳間電話会談で確認されたコンセンサスに反し、ジュネーブでの経済貿易協議の合意を著しく損ねている。
・米国の措置は中国の正当な権益を深刻に侵害し、双方の経済貿易関係に不確実性と不安定さを増大させている。
・米国は自身の行動を省みず、不当にも中国に責任転嫁をし、事実に反する非難を行っている。中国はこれを強く拒否している。
・ジュネーブでの共同声明は両国が相互尊重と平等な協議の下で得た重要な成果であり、そ の実現は容易ではなかった。
・中国は米国に対し、コンセンサスを尊重し、誤った措置を即時に改め、双方の貿易関係の安定的かつ持続的な発展を共に推進するよう強く求めている。
・もし米国が一方的な対応を続け、中国の利益を損なうならば、中国は正当な権益を守るために強硬な措置を断固として講じる構えである。
【桃源寸評】💚
地に墜ちる米国
米国の一連の対中措置を強く非難し、ジュネーブ協議において両国が合意した経済・貿易に関する共通認識を米国が踏みにじっているとする立場を明確にしたものである。
米国政府は、国際社会において信用を失墜させる行動を繰り返してきた。まず、外交や経済交渉の場において、明確な合意や約束を交わしながらも、それを一方的に破棄するケースが数多く存在する。例えば、多国間協定からの突然の離脱や、締結済み条約の条件を無視する行為は、他国に「約束を守らない不誠実な相手」という印象を与え、国際的な信頼関係を著しく損なっている。
次に、米国は自身の国益を最優先するあまり、事実を捻じ曲げたり、意図的な誤情報を流布したりすることで他国を攻撃し、世論を操作する手法を常用している。これにより、対立相手国に対して根拠の薄い非難を繰り返し、国際的なイメージ戦略においても誠実さを欠いている。こうした「嘘の捏造」は外交の信頼性を根底から揺るがすものであり、平和的な協議や協力を困難にしている。
さらに、米国は経済力および軍事力を背景に、相手国に対して強硬な圧力や威嚇を加えることをためらわない。制裁や輸出規制、ビザ停止などの措置を乱用し、交渉相手の自由な意思決定を妨げ、不当な譲歩を強要する。このような「脅迫的手法」は、国際法の精神や相互尊重の原則を軽視し、国際社会の秩序を乱すものである。
また、国内外の政治的事情に左右されやすい政策の不安定さも問題である。政権交代に伴う急激な外交方針の転換や、一貫性を欠く対応は、他国に対する予測可能性を損ない、長期的な信頼構築を阻害している。
これらの要素が複合的に絡み合い、米国は「国際社会のごろつき」と揶揄されるに至った。こうした行動は、単に一国の問題にとどまらず、国際的な平和と安定、協調の精神を破壊する深刻な脅威である。ゆえに、米国政府の現状の外交姿勢は強く批判されるべきであり、世界が共に歩むべき信頼と尊重の原則に真摯に立ち返ることが求められている。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
US seriously undermines consensus reached during talks in Geneva: China's commerce ministry GT 2025.06.02
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335233.shtml
2025年6月2日(月)、中国商務省(MOFCOM)の報道官は、最近の米国による「中国がジュネーブでの中米経済貿易協議において達成されたコンセンサスに違反した」との主張に対し、中国側の立場を明らかにした。商務省が同日に発表した声明によれば、中国は、5月12日に発表された「中米経済貿易会合(ジュネーブ)に関する共同声明」の発表後、合意されたコンセンサスに従い、米国に対する「報復関税」等の関税および非関税措置を撤廃または停止したとされる。
中国側は、責任ある姿勢のもと、当該コンセンサスの履行に真摯に取り組み、厳格に実施し、その実行を積極的に支持してきた。これは、中国が国際的な合意を誠実に守り、自国の権益を守る強い意志を有していることの表れである。
これに対し、米国側は、ジュネーブでの会合後に、複数の差別的な制限措置を中国に対して立て続けに導入した。これには、AI(人工知能)関連の半導体輸出管理に関する指針の発出、EDA(電子設計自動化)ソフトウェアの対中販売の停止、および中国人留学生に対するビザの取り消しが含まれる。
中国商務省の報道官によれば、これらの米国の行動は、2025年1月17日に両国首脳間で行われた電話会談において確認されたコンセンサスにも明確に反しており、ジュネーブでの経済貿易協議のコンセンサスを深刻に損ない、中国の正当な権益を著しく侵害するものであると指摘された。米国は、自国の行動を省みることなく、不当にも中国に責任を転嫁し、事実に基づかない非難を行っているとし、中国はこれらの根拠のない非難を断固として拒否するとした。
報道官は、ジュネーブでの中米経済貿易会合における共同声明が、相互尊重および平等な協議に基づいて両国が得た重要なコンセンサスであり、その成果は容易に得られたものではないと強調した。その上で、米国に対して、中国と歩み寄り、誤った行動を直ちに是正し、ジュネーブ協議のコンセンサスを共に守り、中米貿易関係の健全、安定、持続可能な発展を促進するよう求めた。
また、報道官は、米国が一方的な行動を続け、中国の利益を損なうならば、中国は自国の正当な権利と利益を守るために断固たる措置を講じると強調した。
【詳細】
2025年6月2日午前、中国商務省(Ministry of Commerce of the People's Republic of China, 略称:MOFCOM)は、最近の米国による対中批判に関して公式にコメントを発表した。背景としては、米国側が「中国が、スイス・ジュネーブにおいて実施された中米経済貿易協議で形成された合意事項(コンセンサス)を遵守していない」と主張したことがある。これに対し、中国商務省の報道官は、「中国側はこの事態を十分に認識しており、既に対応措置を講じている」と述べた。
声明によると、2025年5月12日に発表された「中米経済貿易会合(ジュネーブ)に関する共同声明(Joint Statement on the China-US Economic and Trade Meeting in Geneva)」の内容に基づき、中国側は合意内容の履行に積極的に取り組んできた。具体的には、中国は米国に対して発動していた関税および非関税措置、すなわち「報復関税(reciprocal tariffs)」に関連する制裁を、合意に従って取り消し、あるいは一時停止する措置を講じた。
さらに報道官は、「中国は誠意をもって協議に臨み、合意事項を厳格に実行している。これは中国が国際的な責任を果たす姿勢を示すものであり、また中国の一貫した信義を体現するものである」と述べた。
しかしながら、これに反して米国は、協議後に複数の一方的かつ差別的な対中措置を導入した。具体例として、以下の3点が挙げられている:
・AI(人工知能)関連半導体の対中輸出管理指針の発出
米国は、AI技術に関連する高性能半導体について、中国向けの輸出を制限する新たな指針を導入した。
・EDA(Electronic Design Automation:電子設計自動化)ソフトウェアの対中販売の中止
EDAは半導体チップ設計に不可欠なソフトウェアであり、その提供を停止することは中国の先端技術開発に直接的な影響を及ぼすものである。
・中国人学生に対するビザの無効化
これにより、米国内で学業や研究活動を行っていた、または行おうとしていた中国人学生の学術的・職業的機会が妨げられる結果となった。
報道官は、これらの米国の措置が、2025年1月17日に両国首脳間で実施された電話会談で合意された方針、ならびにジュネーブで達成された経済・貿易分野のコンセンサスを著しく逸脱し、中国の正当な経済的・技術的利益を深刻に損なうものであると指摘した。
中国側は、米国がこのような摩擦を一方的にエスカレートさせていることに対し深い遺憾の意を示し、「米国は自身の行動に対する反省を欠いたまま、中国に責任転嫁を試みている。これは事実と著しくかけ離れており、不当な非難である」と強く反論した。
さらに、中国商務省の報道官は、ジュネーブ会合において作成された共同声明について、「これは中米双方が、相互尊重および平等な立場からの協議を通じて、困難を乗り越えながら獲得した重要な成果である」とし、米国側に対して、以下の3点を強く求めた。
・合意されたコンセンサスを誠実に履行すること
・一方的な誤った措置を即時に撤回すること
・中米貿易関係の健全、安定、かつ持続可能な発展を共に推進するため、建設的な立場に立って協力すること
最後に、報道官は、「仮に米国が今後も一方的な対応を継続し、中国の利益を損なうような行為を繰り返すのであれば、中国は国家の正当な権益を守るため、断固たる強硬な措置を講じる用意がある」と明言した。
【要点】
・2025年5月12日に発表された「中米経済貿易会合(ジュネーブ)に関する共同声明」に基づき、中国は米国に対する関税・非関税措置を撤廃または停止した。
・中国は誠意をもってコンセンサスを実行し、厳格に履行している。これにより、中国は国際的責任を果たし、誠実に対応しているとされる。
➢対照的に、米国はジュネーブ会合後に以下の差別的措置を次々に実施した。
➢AI関連半導体の対中輸出管理指針の発出
➢EDAソフトウェアの対中販売停止
➢中国人学生に対するビザ取り消し
・これらの米国の措置は、2025年1月17日の両国首脳間電話会談で確認されたコンセンサスに反し、ジュネーブでの経済貿易協議の合意を著しく損ねている。
・米国の措置は中国の正当な権益を深刻に侵害し、双方の経済貿易関係に不確実性と不安定さを増大させている。
・米国は自身の行動を省みず、不当にも中国に責任転嫁をし、事実に反する非難を行っている。中国はこれを強く拒否している。
・ジュネーブでの共同声明は両国が相互尊重と平等な協議の下で得た重要な成果であり、そ の実現は容易ではなかった。
・中国は米国に対し、コンセンサスを尊重し、誤った措置を即時に改め、双方の貿易関係の安定的かつ持続的な発展を共に推進するよう強く求めている。
・もし米国が一方的な対応を続け、中国の利益を損なうならば、中国は正当な権益を守るために強硬な措置を断固として講じる構えである。
【桃源寸評】💚
地に墜ちる米国
米国の一連の対中措置を強く非難し、ジュネーブ協議において両国が合意した経済・貿易に関する共通認識を米国が踏みにじっているとする立場を明確にしたものである。
米国政府は、国際社会において信用を失墜させる行動を繰り返してきた。まず、外交や経済交渉の場において、明確な合意や約束を交わしながらも、それを一方的に破棄するケースが数多く存在する。例えば、多国間協定からの突然の離脱や、締結済み条約の条件を無視する行為は、他国に「約束を守らない不誠実な相手」という印象を与え、国際的な信頼関係を著しく損なっている。
次に、米国は自身の国益を最優先するあまり、事実を捻じ曲げたり、意図的な誤情報を流布したりすることで他国を攻撃し、世論を操作する手法を常用している。これにより、対立相手国に対して根拠の薄い非難を繰り返し、国際的なイメージ戦略においても誠実さを欠いている。こうした「嘘の捏造」は外交の信頼性を根底から揺るがすものであり、平和的な協議や協力を困難にしている。
さらに、米国は経済力および軍事力を背景に、相手国に対して強硬な圧力や威嚇を加えることをためらわない。制裁や輸出規制、ビザ停止などの措置を乱用し、交渉相手の自由な意思決定を妨げ、不当な譲歩を強要する。このような「脅迫的手法」は、国際法の精神や相互尊重の原則を軽視し、国際社会の秩序を乱すものである。
また、国内外の政治的事情に左右されやすい政策の不安定さも問題である。政権交代に伴う急激な外交方針の転換や、一貫性を欠く対応は、他国に対する予測可能性を損ない、長期的な信頼構築を阻害している。
これらの要素が複合的に絡み合い、米国は「国際社会のごろつき」と揶揄されるに至った。こうした行動は、単に一国の問題にとどまらず、国際的な平和と安定、協調の精神を破壊する深刻な脅威である。ゆえに、米国政府の現状の外交姿勢は強く批判されるべきであり、世界が共に歩むべき信頼と尊重の原則に真摯に立ち返ることが求められている。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
US seriously undermines consensus reached during talks in Geneva: China's commerce ministry GT 2025.06.02
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335233.shtml
イルケシュタム港 ― 2025年06月02日 20:12
【概要】
中国新疆ウイグル自治区西部に位置するイルケシュタム港は、2025年6月1日より、24時間体制の貨物通関モデルを試験的に導入した。同港は新疆で二番目、南疆では初めての終日運営の陸路港となる。これは中国と中央アジア諸国間の貿易および物流の効率化を目的とした措置であり、中国国営新華社通信が翌2日に報じた。
イルケシュタム港は、中国とキルギスを結ぶ重要な陸路港であり、中央アジアおよび西アジアをつなぐ物流拠点としての役割を担っている。近年、同港の国際物流機能は強化されており、交通量も安定的に増加している。2025年5月7日および8日には、1日あたり1,000件を超える通行が記録され、越境輸送への需要の高さが示された。
24時間体制の円滑な運用を支えるため、同港の出入境検査所では人員体制の最適化が図られ、交代制勤務が導入された。また、貨物車両に対しては「到着時検査」方式が採用され、厳格な国境管理と交通の円滑化との両立が図られている。
上海・同済大学の鉄道専門家であるSun Zhang氏は、イルケシュタム港の終日運営は南疆地域の経済発展および対外開放の進展にとって重要な一歩であると述べた。これにより貨物輸送量と越境貿易が一層拡大し、南疆地域が中国の対外貿易の重要拠点としての地位を確立することになるという。また、同港の24時間通関体制は、南疆と中央アジアとの接続性を強化し、カシュガル地域を経済の中核拠点として位置付ける役割を果たすと指摘した。
公式データによれば、イルケシュタム港では2025年初め以降、10万5,800人以上の旅行者と9万8,500台超の車両が通過し、それぞれ前年同期比で80%および79%増加した。さらに、24時間通関運用開始直後の6月1日10時から翌2日8時までの間に、966台の貨物車両が処理されたと報告されている。
Sun氏はまた、新疆は中国と中央アジアとの貿易における要衝であり、世界的な貿易情勢が不透明さを増す中で、イルケシュタム港の取り組みは中国が西方および南方への開放を加速させるという明確な意思表示であると述べた。
2024年の中国と中央アジア諸国との貿易額は過去最高の948億ドルに達し、越境電子商取引の発展がこの成長を後押しした。また、中国による中央アジア地域への累計投資額は300億ドルを超えており、接続性の向上と貿易円滑化の進展が背景にあると、商務部が6月1日に公表したデータで明らかにされた。
【詳細】
1. イルケシュタム港の地理的・戦略的意義
イルケシュタム港は、中国とキルギス共和国との国境に位置し、新疆ウイグル自治区カシュガル地区キジルス・キルギス自治州ウチャ県に所在する。中国の陸路国境港のうち最も西に位置するこの港は、中国から中央アジア、さらには西アジア、ヨーロッパへ至る陸上輸送の重要な起点である。とりわけ「一帯一路」構想の下で、同港は南新疆における国際物流拠点としてその地位を強めている。
2. 24時間通関体制の導入
2025年6月1日、イルケシュタム港では貨物に限定した24時間通関(通関業務の終日運営)モデルが試験的に開始された。これは、すでに同様の体制が導入されている新疆北部の霍尔果斯(ホルゴス)港に続くものであり、南新疆としては初の事例である。この施策により、物流効率の大幅な改善、通関待機時間の短縮、ならびに中継地としての競争力の強化が期待されている。
3. 体制強化と通関プロセスの改革
24時間通関体制の実施に伴い、現場の出入境管理局(国境検査所)は人的資源の最適化を実施し、シフト制による勤務体制を整備した。さらに、貨物車両に対する「到着即時検査(到着即検査)」方式が導入され、検査待機による混雑や停滞を避けつつ、安全かつ迅速な国境管理の実現が図られている。この改革は、厳格な治安維持と物流円滑化という二重の課題に対処するためのものである。
4. 交通量と貿易量の顕著な増加
2025年に入ってからの累計データによれば、イルケシュタム港では延べ10万5,800人の旅客と9万8,500台の車両が処理され、前年同期比でそれぞれ80%および79%の増加が確認された。また、24時間体制導入初日の6月1日午前10時から翌2日午前8時までの22時間の間に、966台の貨物車両が通関手続きを完了した。これは24時間運営による即時的な効果を裏付ける数字である。
5. 専門家の見解:南新疆の経済的地位向上
鉄道および国際物流に詳しい上海・同済大学のSun Zhang教授は、イルケシュタム港の24時間運営開始を、「南新疆の経済発展と開放戦略における転換点」と位置付けた。具体的には以下の3点を指摘している:
・物流量・貿易量の拡大:貨物処理能力の強化により、両国間の貿易額がさらに増加する可能性が高い。
・カシュガルの地政学的地位の強化:南新疆最大の都市であるカシュガルは、今後、対中央アジア貿易の「経済中核」としての機能を担う。
・「双循環」戦略への寄与:国内経済循環と国際経済循環を結びつけるという中国の国家戦略において、南新疆は西向け・南向け開放の前線基地となる。
6. 中国・中央アジア間の貿易の現状
2024年、中国と中央アジア諸国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)との貿易額は過去最高の948億ドルに達した。その背景には、以下の要因が挙げられる:
・越境EC(電子商取引)の活性化
・通関・物流制度の近代化
・中国企業による積極的な対外投資(総額300億ドル超)
これらの要素により、中国と中央アジア間の貿易は地政学的な影響を受けにくくなり、より安定的かつ持続可能な成長が可能となっている。
総括
イルケシュタム港の24時間通関体制は、単なる港湾運営の時間延長にとどまらず、中国西部地域の対外開放戦略の具体的な推進手段である。特に、南新疆という地理的ハンディキャップを持つ地域において、同港の発展は雇用創出、インフラ整備、地域振興にもつながる可能性が高い。今後、実験的な運用を経て制度が恒常化すれば、中央アジアとの双方向的な経済関係は一層深化すると考えられる。
【要点】
基本情報
・港名:イルケシュタム港
・所在地:新疆ウイグル自治区キジルス・キルギス自治州ウチャ県
・国境相手国:キルギス共和国
・中国最西端の陸路港であり、「一帯一路」構想の西方拠点
24時間通関体制の導入内容
・開始日:2025年6月1日
・対象:貨物通関(旅客は含まず)
・南新疆で初、自治区内では霍尔果斯港に続く2例目
・目的
➢通関業務の効率化
➢待機時間の短縮
➢中央アジアとの貿易促進
運用体制の改善措置
・出入境検査所の人員配置最適化
・シフト制勤務の導入(24時間連続稼働)
・「到着即検査」制度の導入
➢到着と同時に貨物検査を実施
➢混雑回避とスムーズな通関を実現
運用初日の実績
・期間:2025年6月1日10時~翌2日8時(22時間)
・処理車両数:966台の貨物車両
年初からの累計実績(前年同期比)
・通過旅客数:10万5,800人(+80%)
・通過車両数:9万8,500台(+79%)
経済的・地政学的意義(専門家の分析)
Sun Zhang(同済大学 鉄道・物流専門家)による見解
・南新疆における国際貿易のゲートウェイ機能を強化
・カシュガルを中心とした経済ハブ化が進展
・中国の「双循環戦略(国内・国際経済の融合)」の推進に貢献
・中央アジアとのインフラ・物流接続性が強化
中国・中央アジア間の経済関係(2024年データ)
・貿易総額:948億ドル(過去最高)
・主因:越境電子商取引(EC)の拡大
・中国からの累計投資額:300億ドル超
・背景要素
➢経済的相互依存の深化
➢国際情勢の不確実性への対応
➢地政学的リスクの回避と分散
今後の展望
・同港の24時間体制が恒常化されれば、他の南疆国境港への波及も期待
・西向け・南向けの貿易拡大の起点として、国家戦略の中での役割が拡大する見込み
・地域経済、雇用、交通インフラ整備などへの波及効果も顕著となる可能性
【桃源寸評】💚
イルケシュタム港とは
イルケシュタム港とは、中国新疆ウイグル自治区のキジルス・キルギス自治州ウチャ県に位置する、中国の最西端にある陸路国境通関港である。主に中国とキルギス共和国を結ぶ国際的な物流・貿易ルートの拠点として機能しており、中央アジア・西アジア方面への陸上輸送の重要なハブとなっている。
主要な特徴
(1)地理的条件
・新疆南部、天山山脈西端に位置
・中国最西端の国境港であり、標高も高い(約3,000m前後)
・キルギスのサリタシュ(Sary-Tash)に接続
(2)接続国
・キルギス(共和国)との国境を接する
・中央アジア・西アジア・南アジアへの陸上ルート上にある
(3)道路インフラ
・中国側:国道G3013号線(喀什—伊尔克什坦)
・キルギス側:M41号線(通称パミール・ハイウェイ)
・この経路は「新シルクロード」および「一帯一路(Belt and Road Initiative)」の主要ルートの一部
経済的・戦略的重要性
・一帯一路構想の要衝:中国から中央アジア、ロシア、西アジア、ヨーロッパへと向かう物流動脈上にあり、中国西部の対外開放の最前線に位置する。
・貿易・物流拠点
➢輸出入貨物(主に建材、機械設備、農産物、日用品など)の通関が行われる
➢中国の内陸地域と中央アジアを結ぶトラック輸送の中継地として機能
・安全保障的役割
➢キルギスを含む中央アジア諸国は地政学的にも重要であり、安定的な国境管理と経済交流は、中国の西部安定政策にも資する
歴史と発展
・2000年代以降:国境貿易の拡大に伴い、通関施設の整備が進められた
・2020年代以降:一帯一路構想の進展とともに、通関能力が増強され、車両や旅客の通行量が年々増加
・2025年6月1日:貨物を対象とした**24時間通関体制(試験運用)**を開始
その他のポイント
・観光・民族文化
➢周辺地域はキルギス族を中心とした少数民族地域であり、牧畜文化が色濃く残る
➢国境観光や民族交流のポテンシャルも有する
・課題
➢高標高ゆえの厳しい自然条件(冬季は積雪・寒冷で通行困難)
➢通関インフラ・物流設備のさらなる近代化が必要
まとめ
イルケシュタム港は、中国の西端に位置する重要な陸上国境貿易港であり、中国と中央アジアを結ぶ経済・物流・外交の交点にある。今後の24時間運営体制の定着と周辺インフラの整備が進めば、中国の西向け開放戦略においてさらに中心的な役割を担うことになると見られる。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
China's westernmost land port in Xinjiang launches 24/7 operations to strengthen trade with Central Asia GT 2025.06.02
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335253.shtml
中国新疆ウイグル自治区西部に位置するイルケシュタム港は、2025年6月1日より、24時間体制の貨物通関モデルを試験的に導入した。同港は新疆で二番目、南疆では初めての終日運営の陸路港となる。これは中国と中央アジア諸国間の貿易および物流の効率化を目的とした措置であり、中国国営新華社通信が翌2日に報じた。
イルケシュタム港は、中国とキルギスを結ぶ重要な陸路港であり、中央アジアおよび西アジアをつなぐ物流拠点としての役割を担っている。近年、同港の国際物流機能は強化されており、交通量も安定的に増加している。2025年5月7日および8日には、1日あたり1,000件を超える通行が記録され、越境輸送への需要の高さが示された。
24時間体制の円滑な運用を支えるため、同港の出入境検査所では人員体制の最適化が図られ、交代制勤務が導入された。また、貨物車両に対しては「到着時検査」方式が採用され、厳格な国境管理と交通の円滑化との両立が図られている。
上海・同済大学の鉄道専門家であるSun Zhang氏は、イルケシュタム港の終日運営は南疆地域の経済発展および対外開放の進展にとって重要な一歩であると述べた。これにより貨物輸送量と越境貿易が一層拡大し、南疆地域が中国の対外貿易の重要拠点としての地位を確立することになるという。また、同港の24時間通関体制は、南疆と中央アジアとの接続性を強化し、カシュガル地域を経済の中核拠点として位置付ける役割を果たすと指摘した。
公式データによれば、イルケシュタム港では2025年初め以降、10万5,800人以上の旅行者と9万8,500台超の車両が通過し、それぞれ前年同期比で80%および79%増加した。さらに、24時間通関運用開始直後の6月1日10時から翌2日8時までの間に、966台の貨物車両が処理されたと報告されている。
Sun氏はまた、新疆は中国と中央アジアとの貿易における要衝であり、世界的な貿易情勢が不透明さを増す中で、イルケシュタム港の取り組みは中国が西方および南方への開放を加速させるという明確な意思表示であると述べた。
2024年の中国と中央アジア諸国との貿易額は過去最高の948億ドルに達し、越境電子商取引の発展がこの成長を後押しした。また、中国による中央アジア地域への累計投資額は300億ドルを超えており、接続性の向上と貿易円滑化の進展が背景にあると、商務部が6月1日に公表したデータで明らかにされた。
【詳細】
1. イルケシュタム港の地理的・戦略的意義
イルケシュタム港は、中国とキルギス共和国との国境に位置し、新疆ウイグル自治区カシュガル地区キジルス・キルギス自治州ウチャ県に所在する。中国の陸路国境港のうち最も西に位置するこの港は、中国から中央アジア、さらには西アジア、ヨーロッパへ至る陸上輸送の重要な起点である。とりわけ「一帯一路」構想の下で、同港は南新疆における国際物流拠点としてその地位を強めている。
2. 24時間通関体制の導入
2025年6月1日、イルケシュタム港では貨物に限定した24時間通関(通関業務の終日運営)モデルが試験的に開始された。これは、すでに同様の体制が導入されている新疆北部の霍尔果斯(ホルゴス)港に続くものであり、南新疆としては初の事例である。この施策により、物流効率の大幅な改善、通関待機時間の短縮、ならびに中継地としての競争力の強化が期待されている。
3. 体制強化と通関プロセスの改革
24時間通関体制の実施に伴い、現場の出入境管理局(国境検査所)は人的資源の最適化を実施し、シフト制による勤務体制を整備した。さらに、貨物車両に対する「到着即時検査(到着即検査)」方式が導入され、検査待機による混雑や停滞を避けつつ、安全かつ迅速な国境管理の実現が図られている。この改革は、厳格な治安維持と物流円滑化という二重の課題に対処するためのものである。
4. 交通量と貿易量の顕著な増加
2025年に入ってからの累計データによれば、イルケシュタム港では延べ10万5,800人の旅客と9万8,500台の車両が処理され、前年同期比でそれぞれ80%および79%の増加が確認された。また、24時間体制導入初日の6月1日午前10時から翌2日午前8時までの22時間の間に、966台の貨物車両が通関手続きを完了した。これは24時間運営による即時的な効果を裏付ける数字である。
5. 専門家の見解:南新疆の経済的地位向上
鉄道および国際物流に詳しい上海・同済大学のSun Zhang教授は、イルケシュタム港の24時間運営開始を、「南新疆の経済発展と開放戦略における転換点」と位置付けた。具体的には以下の3点を指摘している:
・物流量・貿易量の拡大:貨物処理能力の強化により、両国間の貿易額がさらに増加する可能性が高い。
・カシュガルの地政学的地位の強化:南新疆最大の都市であるカシュガルは、今後、対中央アジア貿易の「経済中核」としての機能を担う。
・「双循環」戦略への寄与:国内経済循環と国際経済循環を結びつけるという中国の国家戦略において、南新疆は西向け・南向け開放の前線基地となる。
6. 中国・中央アジア間の貿易の現状
2024年、中国と中央アジア諸国(カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)との貿易額は過去最高の948億ドルに達した。その背景には、以下の要因が挙げられる:
・越境EC(電子商取引)の活性化
・通関・物流制度の近代化
・中国企業による積極的な対外投資(総額300億ドル超)
これらの要素により、中国と中央アジア間の貿易は地政学的な影響を受けにくくなり、より安定的かつ持続可能な成長が可能となっている。
総括
イルケシュタム港の24時間通関体制は、単なる港湾運営の時間延長にとどまらず、中国西部地域の対外開放戦略の具体的な推進手段である。特に、南新疆という地理的ハンディキャップを持つ地域において、同港の発展は雇用創出、インフラ整備、地域振興にもつながる可能性が高い。今後、実験的な運用を経て制度が恒常化すれば、中央アジアとの双方向的な経済関係は一層深化すると考えられる。
【要点】
基本情報
・港名:イルケシュタム港
・所在地:新疆ウイグル自治区キジルス・キルギス自治州ウチャ県
・国境相手国:キルギス共和国
・中国最西端の陸路港であり、「一帯一路」構想の西方拠点
24時間通関体制の導入内容
・開始日:2025年6月1日
・対象:貨物通関(旅客は含まず)
・南新疆で初、自治区内では霍尔果斯港に続く2例目
・目的
➢通関業務の効率化
➢待機時間の短縮
➢中央アジアとの貿易促進
運用体制の改善措置
・出入境検査所の人員配置最適化
・シフト制勤務の導入(24時間連続稼働)
・「到着即検査」制度の導入
➢到着と同時に貨物検査を実施
➢混雑回避とスムーズな通関を実現
運用初日の実績
・期間:2025年6月1日10時~翌2日8時(22時間)
・処理車両数:966台の貨物車両
年初からの累計実績(前年同期比)
・通過旅客数:10万5,800人(+80%)
・通過車両数:9万8,500台(+79%)
経済的・地政学的意義(専門家の分析)
Sun Zhang(同済大学 鉄道・物流専門家)による見解
・南新疆における国際貿易のゲートウェイ機能を強化
・カシュガルを中心とした経済ハブ化が進展
・中国の「双循環戦略(国内・国際経済の融合)」の推進に貢献
・中央アジアとのインフラ・物流接続性が強化
中国・中央アジア間の経済関係(2024年データ)
・貿易総額:948億ドル(過去最高)
・主因:越境電子商取引(EC)の拡大
・中国からの累計投資額:300億ドル超
・背景要素
➢経済的相互依存の深化
➢国際情勢の不確実性への対応
➢地政学的リスクの回避と分散
今後の展望
・同港の24時間体制が恒常化されれば、他の南疆国境港への波及も期待
・西向け・南向けの貿易拡大の起点として、国家戦略の中での役割が拡大する見込み
・地域経済、雇用、交通インフラ整備などへの波及効果も顕著となる可能性
【桃源寸評】💚
イルケシュタム港とは
イルケシュタム港とは、中国新疆ウイグル自治区のキジルス・キルギス自治州ウチャ県に位置する、中国の最西端にある陸路国境通関港である。主に中国とキルギス共和国を結ぶ国際的な物流・貿易ルートの拠点として機能しており、中央アジア・西アジア方面への陸上輸送の重要なハブとなっている。
主要な特徴
(1)地理的条件
・新疆南部、天山山脈西端に位置
・中国最西端の国境港であり、標高も高い(約3,000m前後)
・キルギスのサリタシュ(Sary-Tash)に接続
(2)接続国
・キルギス(共和国)との国境を接する
・中央アジア・西アジア・南アジアへの陸上ルート上にある
(3)道路インフラ
・中国側:国道G3013号線(喀什—伊尔克什坦)
・キルギス側:M41号線(通称パミール・ハイウェイ)
・この経路は「新シルクロード」および「一帯一路(Belt and Road Initiative)」の主要ルートの一部
経済的・戦略的重要性
・一帯一路構想の要衝:中国から中央アジア、ロシア、西アジア、ヨーロッパへと向かう物流動脈上にあり、中国西部の対外開放の最前線に位置する。
・貿易・物流拠点
➢輸出入貨物(主に建材、機械設備、農産物、日用品など)の通関が行われる
➢中国の内陸地域と中央アジアを結ぶトラック輸送の中継地として機能
・安全保障的役割
➢キルギスを含む中央アジア諸国は地政学的にも重要であり、安定的な国境管理と経済交流は、中国の西部安定政策にも資する
歴史と発展
・2000年代以降:国境貿易の拡大に伴い、通関施設の整備が進められた
・2020年代以降:一帯一路構想の進展とともに、通関能力が増強され、車両や旅客の通行量が年々増加
・2025年6月1日:貨物を対象とした**24時間通関体制(試験運用)**を開始
その他のポイント
・観光・民族文化
➢周辺地域はキルギス族を中心とした少数民族地域であり、牧畜文化が色濃く残る
➢国境観光や民族交流のポテンシャルも有する
・課題
➢高標高ゆえの厳しい自然条件(冬季は積雪・寒冷で通行困難)
➢通関インフラ・物流設備のさらなる近代化が必要
まとめ
イルケシュタム港は、中国の西端に位置する重要な陸上国境貿易港であり、中国と中央アジアを結ぶ経済・物流・外交の交点にある。今後の24時間運営体制の定着と周辺インフラの整備が進めば、中国の西向け開放戦略においてさらに中心的な役割を担うことになると見られる。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
China's westernmost land port in Xinjiang launches 24/7 operations to strengthen trade with Central Asia GT 2025.06.02
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335253.shtml
自身を映す鏡を持たぬ国、米国 ― 2025年06月02日 20:41
【概要】
2025年6月1日、シンガポールで開催された第22回シャングリラ・ダイアローグにおいて、アメリカ国防長官が中国に対して否定的な発言を行い、「中国の脅威」論を誇張したことに対し、中国国防部の報道官であるZhang Xiaogang氏は、中国国防部の公式WeChatアカウントを通じてコメントを発表した。
Zhang氏は、アメリカはシャングリラ・ダイアローグの場を利用して争いを作り、対立を煽り、自己の利益を追求することに慣れていると指摘した。アメリカ国防長官の発言は、覇権主義的な論理、いじめのような行動、冷戦的な思考に満ちており、中国の主権と利益を著しく挑発し、中国の政策的立場を歪曲し、地域諸国が繁栄と安定を維持しようとする共同の努力を著しく無視するものであると述べた。こうしたアメリカの姿勢は、世界各国が平和と発展を求める共通の願いとかけ離れており、中国はこれに対し強い不満と断固たる反対を表明するものであるとした。
またZhang氏は、アメリカの行動は国際社会に明らかであると述べ、アメリカは自己中心的な利益に基づいて、関税戦争や貿易戦争を仕掛け、世界中に高額な関税を課していると指摘した。さらに、排他的な同盟を形成し、陣営対立を助長しており、多くの国々に深刻な懸念を引き起こしているとも述べた。アメリカはアジア太平洋地域における軍事展開を強化し、他国の内政に対する干渉を繰り返し、緊張を煽っている。こうした事実は繰り返し証明されており、アメリカが時代の流れに逆行し、単独行動をとっていることは、最終的にアメリカ自身に跳ね返る結果になるとZhang氏は強調した。
さらに、台湾問題については純然たる中国の内政問題であり、アメリカに対して無責任な発言や、台湾問題を中国封じ込めの交渉材料として利用する権利はないと主張した。中国人民解放軍は国家の主権と領土の完全性を断固として守り、「台湾独立」の分裂行為およびいかなる外部勢力の干渉も粉砕する強い決意を持ち、その能力と手段も信頼に足るものであると述べた。
またZhang氏は、南シナ海が国際的に最も繁忙かつ安全な海上輸送ルートの一つであるとした上で、中国は関係国との対話と協議を通じて問題を解決し、法律に基づき領土主権と海洋権益を守り、地域諸国とともに平和、友情、協力の海を築いていくと述べた。これに対し、アメリカは同盟を結成し混乱を引き起こそうとしており、地域の平和と安定に対する最大の脅威となっていると非難した。
最後にZhang氏は、中国はアジア太平洋地域における平和と発展の擁護者かつ推進者であると強調し、中国軍は地域諸国と協力して、アジア太平洋を害する覇権主義に反対し、地政学的対立の持ち込みに反対し、混乱を引き起こすいかなる国や勢力にも抵抗すると表明した。また、中国は「人類運命共同体」の理念および「三大全球イニシアティブ」の積極的な実行を通じて、アジア太平洋地域の長期的な平和、安定、繁栄の維持に努めるとしている。
【詳細】
概要と背景
本声明は、2025年5月31日から6月2日までシンガポールで開催された第22回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)において、アメリカ国防長官が中国に対する批判的発言を行ったことに対する、中国側の公式な反応である。会議は地域安全保障に関するハイレベルな多国間対話の場であり、アメリカと中国の間の戦略的対立の舞台ともなっている。
中国国防部報道官 Zhang Xiaogang氏の発言内容の詳細
1. 米国の「中国脅威論」への批判
Zhang氏は、米国国防長官の発言が「根深い覇権主義的思考」「いじめ的行為」「冷戦的発想」によって貫かれており、中国の主権・安全保障・発展利益を著しく損なうものであると非難した。こうした発言は中国の政策や立場を歪曲し、地域諸国が共同で築こうとしている平和・安定の努力を侮辱するものであり、極めて無責任かつ危険であるとの認識を示した。
注解:ここで言う「覇権主義」とは、米国が国際秩序を自国中心で構築しようとする態度を指し、「冷戦的思考」は敵対する陣営同士の対立構造を現代に持ち込もうとする姿勢を意味する。
また、中国政府としては、このような米国の態度は世界の多数の国々が望む「平和と発展」という時代の潮流と大きく乖離しており、強い不満と断固たる反対を表明するとした。
2. 米国の国際行動と「自己利益優先主義」への批判
Zhang氏は、米国が自己中心的利益に基づき、以下のような国際的行動を取っていると列挙した:
・関税戦争・貿易戦争の主導:特定国に対し高関税を課し、経済的圧力を行使。
・排他的な同盟形成:NATOやAUKUSなどの軍事同盟を通じて他国を囲い込み、敵味方の二分構造を創出。
・アジア太平洋地域への軍事的前方展開:軍艦や戦闘機の展開、合同軍事演習の増加。
・他国の内政干渉:民主主義・人権を理由に他国の内政に介入。
・地域の緊張煽動:南シナ海や台湾海峡などのホットスポットで意図的に対立を激化。
これらは「一国主義」的であり、国際社会の多極化や協調的秩序構築の流れに反するものであると非難している。最終的には、こうした行動が「ブーメランのように」アメリカ自身の不利益となって跳ね返ってくるであろうと強調した。
3. 台湾問題に対する断固たる立場
Zhang氏は、台湾問題が「純粋に中国の内政問題」であり、米国に口出しする資格も権利も一切存在しないと明言した。また、米国が台湾を「交渉のカード」として利用することは決して許容できず、断固反対する姿勢を明らかにした。
軍事的警告の要素も含まれており、「中国人民解放軍は国家の主権と領土の完全性を断固として守る」「いかなる『台湾独立』分裂行為や外部勢力の干渉も粉砕する」としたうえで、「われわれの意志は揺るがず、能力と手段は信頼に足る」と軍事的抑止力の行使を仄めかしている。
4. 南シナ海問題に対する立場と対米批判
Zhang氏は、南シナ海について、国際的に「最も重要かつ安全な海上交通路の一つ」とされた上で、中国は関係諸国との「対話と協議による平和的解決」を堅持し、「国際法に基づく領土主権と海洋権益の維持」を継続すると述べた。
一方、米国は同地域において同盟関係を利用し「混乱を意図的に引き起こしている」と非難し、「地域の平和と安定に対する最大の脅威」だと断じた。
5. 中国のアジア太平洋地域における役割と展望
最後にZhang氏は、中国がアジア太平洋地域において「平和と発展の守護者および推進者」であると強調した。
・覇権主義への反対
・地政学的対立の導入への反対
・混乱を引き起こすいかなる国・勢力への抵抗
を中国軍が地域諸国と連携して実行する方針を示した。
さらに、習近平国家主席が提唱した理念である「人類運命共同体」や、「グローバル発展イニシアティブ」「グローバル安全保障イニシアティブ」「グローバル文明イニシアティブ」という三大イニシアティブを積極的に実行し、アジア太平洋の「長期的かつ安定的な繁栄の構築」に貢献することを表明した。
総括
この声明は、米中対立が深まる中で、中国が国際社会および地域諸国に対し、アメリカに対抗する立場を鮮明に打ち出したものである。軍事的側面、外交的原則、法的主張、そして理念的価値観のすべてにおいて、主導権を握ろうとする中国の姿勢が全面に表れている。声明はまた、中国の内政に対する干渉や地域の不安定化に対し、必要な場合は強硬な対応も辞さないという抑止的メッセージを国際社会に対して発信するものである。
【要点】
米国の「中国脅威論」への批判
・アメリカ国防長官の発言は「覇権主義的論理」「いじめ的行為」「冷戦思考」に基づいていると指摘。
・中国の主権・安全保障・政策立場を歪曲し、地域諸国の平和・安定への努力を無視している。
・世界の国々が望む「平和と発展」という共通の願いと著しく乖離している。
・中国はこのような発言に対して強い不満と断固たる反対を表明する。
米国の一方的行動への非難
・米国は自己の利益を最優先し、国際秩序に混乱をもたらしている。
➢関税戦争・貿易戦争を仕掛け、世界各国に不当な関税を課している。
➢排他的な同盟(例:AUKUS)を形成し、陣営対立を煽っている。
➢アジア太平洋地域への軍事展開を強化している。
➢他国の内政に干渉し、緊張と対立を引き起こしている。
・米国のこうした行為は「時代の潮流に逆行する」ものであり、最終的に米国自身に不利益をもたらす。
台湾問題に対する断固たる立場
・台湾問題は中国の内政問題であり、米国に発言権はない。
・米国が台湾を対中牽制の「交渉材料」に使うことは断じて許されない。
・中国人民解放軍は国家の主権・領土の一体性を守る責任を負っている。
・「台湾独立」勢力や外部からの干渉は断固として粉砕される。
・中国の決意は揺るがず、能力・手段は信頼に値する。
南シナ海問題における立場と米国批判
・南シナ海は国際的に重要かつ安全な海上交通路である。
・中国は関係諸国との対話と協議により問題を解決する方針である。
・中国は国際法に基づき、領土主権と海洋権益を堅持する。
・米国は同盟を組んで対立を煽り、地域の平和と安定に最大の脅威を与えている。
アジア太平洋地域における中国の役割と展望
・中国はアジア太平洋における「平和と発展の守護者・推進者」である。
・中国軍は地域諸国と共に以下の行動を取る:
➢覇権主義に反対。
➢地政学的対立の導入に反対。
➢外部勢力による混乱の創出に抵抗。
・習近平国家主席が提唱する「人類運命共同体」や「三大全球イニシアティブ」(発展・安全保障・文明)を積極的に実行する。
・アジア太平洋地域の「長期的平和・安定・繁栄」の構築に貢献する意志を強調。
【桃源寸評】💚
自身を映す鏡を持たぬ国、米国
歴代および現行の米国政権の行動に見られる「卑しさ」や「品性の低さ」と見做され得る側面について、以下に忌憚なく、厳正かつ系統的に詳述する。
Ⅰ. 利己的覇権主義の露骨な展開
・米国は自国の政治的・経済的利益を最優先するあまり、他国の主権や国際的合意をしばしば無視してきた。
・「自由」や「民主主義」の名の下に、実際には自国に有利な体制や政権の樹立を画策し、対米従属を強いる行為が常態化している。
・他国の政変・内戦・選挙に対してあからさまな干渉を行い、民意を踏みにじることを厭わない。
Ⅱ. 経済制裁とドル覇権による脅迫外交
・国際通貨としてのドルの地位を武器に、米国は制裁措置や金融封鎖を通じて、政敵と見なす国家を経済的に締め上げてきた。
・これらの措置は、しばしば民間人に対する深刻な影響(食料・医療不足等)を伴い、国際人道法上の疑義も生じ得る。
・制裁の根拠は米国内法に基づくものであり、主権国家に対する「越権行為」「経済的覇権の乱用」にほかならない。
Ⅲ. 軍事介入と武力による威圧
・アフガニスタン、イラク、リビア、シリアなどに対する軍事侵攻は、「大量破壊兵器の存在」や「テロとの戦い」といった偽りの大義名分の下で実施された。
・結果として、数百万の民間人が死傷・避難を余儀なくされ、国家機能の崩壊と無秩序の拡大をもたらした。
・「正義」を標榜しつつも、実際には地政学的利権や軍需産業の利益が介在していることが多く、道義的正当性に大いなる疑問が残る。
Ⅳ. 同盟と価値観の「恫喝的運用」
・同盟国に対しても、米国はしばしば「パートナーシップ」とは名ばかりの従属的関係を強要している。
・対中・対露戦略に協調しない国に対しては、安全保障・貿易・技術などあらゆる分野で圧力を加え、「踏み絵」を迫る傾向が強い。
・「価値観外交」の名の下に、自国に都合のよい「民主」「人権」の定義を押し付け、他国の文化的・政治的多様性を軽視している。
Ⅴ. 偽善的言動と二重基準
・自国に不都合な国や勢力に対しては「人権侵害」を声高に叫ぶが、同時に自国の同盟国による抑圧・弾圧には目をつむるという典型的な二重基準を示している。
・例:サウジアラビア、イスラエル、ウクライナなどに対しては極めて寛容であり、同様の行為を行う国々に対しては厳しく糾弾。
・言行不一致は国際社会における信用失墜を招き、「価値観の輸出」が空虚なスローガンに堕している。
Ⅵ. 内政の腐敗と品性劣化の外部化
・自国社会における格差、警察暴力、人種差別、政治分断など、根深い問題を抱えながら、それを他国批判の材料に転嫁する傾向がある。
・内政不安や政権支持率低下を補うために、対外的に敵を作り出すという「外部スケープゴート戦略」が恒常化している。
・国際舞台での発言や行動において、尊大で尊重を欠いた姿勢がしばしば露呈し、品格と謙抑を欠く態度が国際的反感を招いている。
総括
米国政権は、「自由と民主」を旗印に掲げつつも、その実態は利己主義・覇権主義・偽善主義の複合体であり、しばしば他国の尊厳と安定を踏みにじる傲慢な振る舞いに終始している。
こうした振る舞いは、「世界の警察」ではなく「世界の干渉者」としての実像を露呈させ、国際秩序に対する真の脅威となっている。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
US will only harm itself: Chinese defense ministry slams US defense chief for hyping ‘China threat’ at Shangri-La Dialogue GT 2025.06.01
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335227.shtml
2025年6月1日、シンガポールで開催された第22回シャングリラ・ダイアローグにおいて、アメリカ国防長官が中国に対して否定的な発言を行い、「中国の脅威」論を誇張したことに対し、中国国防部の報道官であるZhang Xiaogang氏は、中国国防部の公式WeChatアカウントを通じてコメントを発表した。
Zhang氏は、アメリカはシャングリラ・ダイアローグの場を利用して争いを作り、対立を煽り、自己の利益を追求することに慣れていると指摘した。アメリカ国防長官の発言は、覇権主義的な論理、いじめのような行動、冷戦的な思考に満ちており、中国の主権と利益を著しく挑発し、中国の政策的立場を歪曲し、地域諸国が繁栄と安定を維持しようとする共同の努力を著しく無視するものであると述べた。こうしたアメリカの姿勢は、世界各国が平和と発展を求める共通の願いとかけ離れており、中国はこれに対し強い不満と断固たる反対を表明するものであるとした。
またZhang氏は、アメリカの行動は国際社会に明らかであると述べ、アメリカは自己中心的な利益に基づいて、関税戦争や貿易戦争を仕掛け、世界中に高額な関税を課していると指摘した。さらに、排他的な同盟を形成し、陣営対立を助長しており、多くの国々に深刻な懸念を引き起こしているとも述べた。アメリカはアジア太平洋地域における軍事展開を強化し、他国の内政に対する干渉を繰り返し、緊張を煽っている。こうした事実は繰り返し証明されており、アメリカが時代の流れに逆行し、単独行動をとっていることは、最終的にアメリカ自身に跳ね返る結果になるとZhang氏は強調した。
さらに、台湾問題については純然たる中国の内政問題であり、アメリカに対して無責任な発言や、台湾問題を中国封じ込めの交渉材料として利用する権利はないと主張した。中国人民解放軍は国家の主権と領土の完全性を断固として守り、「台湾独立」の分裂行為およびいかなる外部勢力の干渉も粉砕する強い決意を持ち、その能力と手段も信頼に足るものであると述べた。
またZhang氏は、南シナ海が国際的に最も繁忙かつ安全な海上輸送ルートの一つであるとした上で、中国は関係国との対話と協議を通じて問題を解決し、法律に基づき領土主権と海洋権益を守り、地域諸国とともに平和、友情、協力の海を築いていくと述べた。これに対し、アメリカは同盟を結成し混乱を引き起こそうとしており、地域の平和と安定に対する最大の脅威となっていると非難した。
最後にZhang氏は、中国はアジア太平洋地域における平和と発展の擁護者かつ推進者であると強調し、中国軍は地域諸国と協力して、アジア太平洋を害する覇権主義に反対し、地政学的対立の持ち込みに反対し、混乱を引き起こすいかなる国や勢力にも抵抗すると表明した。また、中国は「人類運命共同体」の理念および「三大全球イニシアティブ」の積極的な実行を通じて、アジア太平洋地域の長期的な平和、安定、繁栄の維持に努めるとしている。
【詳細】
概要と背景
本声明は、2025年5月31日から6月2日までシンガポールで開催された第22回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)において、アメリカ国防長官が中国に対する批判的発言を行ったことに対する、中国側の公式な反応である。会議は地域安全保障に関するハイレベルな多国間対話の場であり、アメリカと中国の間の戦略的対立の舞台ともなっている。
中国国防部報道官 Zhang Xiaogang氏の発言内容の詳細
1. 米国の「中国脅威論」への批判
Zhang氏は、米国国防長官の発言が「根深い覇権主義的思考」「いじめ的行為」「冷戦的発想」によって貫かれており、中国の主権・安全保障・発展利益を著しく損なうものであると非難した。こうした発言は中国の政策や立場を歪曲し、地域諸国が共同で築こうとしている平和・安定の努力を侮辱するものであり、極めて無責任かつ危険であるとの認識を示した。
注解:ここで言う「覇権主義」とは、米国が国際秩序を自国中心で構築しようとする態度を指し、「冷戦的思考」は敵対する陣営同士の対立構造を現代に持ち込もうとする姿勢を意味する。
また、中国政府としては、このような米国の態度は世界の多数の国々が望む「平和と発展」という時代の潮流と大きく乖離しており、強い不満と断固たる反対を表明するとした。
2. 米国の国際行動と「自己利益優先主義」への批判
Zhang氏は、米国が自己中心的利益に基づき、以下のような国際的行動を取っていると列挙した:
・関税戦争・貿易戦争の主導:特定国に対し高関税を課し、経済的圧力を行使。
・排他的な同盟形成:NATOやAUKUSなどの軍事同盟を通じて他国を囲い込み、敵味方の二分構造を創出。
・アジア太平洋地域への軍事的前方展開:軍艦や戦闘機の展開、合同軍事演習の増加。
・他国の内政干渉:民主主義・人権を理由に他国の内政に介入。
・地域の緊張煽動:南シナ海や台湾海峡などのホットスポットで意図的に対立を激化。
これらは「一国主義」的であり、国際社会の多極化や協調的秩序構築の流れに反するものであると非難している。最終的には、こうした行動が「ブーメランのように」アメリカ自身の不利益となって跳ね返ってくるであろうと強調した。
3. 台湾問題に対する断固たる立場
Zhang氏は、台湾問題が「純粋に中国の内政問題」であり、米国に口出しする資格も権利も一切存在しないと明言した。また、米国が台湾を「交渉のカード」として利用することは決して許容できず、断固反対する姿勢を明らかにした。
軍事的警告の要素も含まれており、「中国人民解放軍は国家の主権と領土の完全性を断固として守る」「いかなる『台湾独立』分裂行為や外部勢力の干渉も粉砕する」としたうえで、「われわれの意志は揺るがず、能力と手段は信頼に足る」と軍事的抑止力の行使を仄めかしている。
4. 南シナ海問題に対する立場と対米批判
Zhang氏は、南シナ海について、国際的に「最も重要かつ安全な海上交通路の一つ」とされた上で、中国は関係諸国との「対話と協議による平和的解決」を堅持し、「国際法に基づく領土主権と海洋権益の維持」を継続すると述べた。
一方、米国は同地域において同盟関係を利用し「混乱を意図的に引き起こしている」と非難し、「地域の平和と安定に対する最大の脅威」だと断じた。
5. 中国のアジア太平洋地域における役割と展望
最後にZhang氏は、中国がアジア太平洋地域において「平和と発展の守護者および推進者」であると強調した。
・覇権主義への反対
・地政学的対立の導入への反対
・混乱を引き起こすいかなる国・勢力への抵抗
を中国軍が地域諸国と連携して実行する方針を示した。
さらに、習近平国家主席が提唱した理念である「人類運命共同体」や、「グローバル発展イニシアティブ」「グローバル安全保障イニシアティブ」「グローバル文明イニシアティブ」という三大イニシアティブを積極的に実行し、アジア太平洋の「長期的かつ安定的な繁栄の構築」に貢献することを表明した。
総括
この声明は、米中対立が深まる中で、中国が国際社会および地域諸国に対し、アメリカに対抗する立場を鮮明に打ち出したものである。軍事的側面、外交的原則、法的主張、そして理念的価値観のすべてにおいて、主導権を握ろうとする中国の姿勢が全面に表れている。声明はまた、中国の内政に対する干渉や地域の不安定化に対し、必要な場合は強硬な対応も辞さないという抑止的メッセージを国際社会に対して発信するものである。
【要点】
米国の「中国脅威論」への批判
・アメリカ国防長官の発言は「覇権主義的論理」「いじめ的行為」「冷戦思考」に基づいていると指摘。
・中国の主権・安全保障・政策立場を歪曲し、地域諸国の平和・安定への努力を無視している。
・世界の国々が望む「平和と発展」という共通の願いと著しく乖離している。
・中国はこのような発言に対して強い不満と断固たる反対を表明する。
米国の一方的行動への非難
・米国は自己の利益を最優先し、国際秩序に混乱をもたらしている。
➢関税戦争・貿易戦争を仕掛け、世界各国に不当な関税を課している。
➢排他的な同盟(例:AUKUS)を形成し、陣営対立を煽っている。
➢アジア太平洋地域への軍事展開を強化している。
➢他国の内政に干渉し、緊張と対立を引き起こしている。
・米国のこうした行為は「時代の潮流に逆行する」ものであり、最終的に米国自身に不利益をもたらす。
台湾問題に対する断固たる立場
・台湾問題は中国の内政問題であり、米国に発言権はない。
・米国が台湾を対中牽制の「交渉材料」に使うことは断じて許されない。
・中国人民解放軍は国家の主権・領土の一体性を守る責任を負っている。
・「台湾独立」勢力や外部からの干渉は断固として粉砕される。
・中国の決意は揺るがず、能力・手段は信頼に値する。
南シナ海問題における立場と米国批判
・南シナ海は国際的に重要かつ安全な海上交通路である。
・中国は関係諸国との対話と協議により問題を解決する方針である。
・中国は国際法に基づき、領土主権と海洋権益を堅持する。
・米国は同盟を組んで対立を煽り、地域の平和と安定に最大の脅威を与えている。
アジア太平洋地域における中国の役割と展望
・中国はアジア太平洋における「平和と発展の守護者・推進者」である。
・中国軍は地域諸国と共に以下の行動を取る:
➢覇権主義に反対。
➢地政学的対立の導入に反対。
➢外部勢力による混乱の創出に抵抗。
・習近平国家主席が提唱する「人類運命共同体」や「三大全球イニシアティブ」(発展・安全保障・文明)を積極的に実行する。
・アジア太平洋地域の「長期的平和・安定・繁栄」の構築に貢献する意志を強調。
【桃源寸評】💚
自身を映す鏡を持たぬ国、米国
歴代および現行の米国政権の行動に見られる「卑しさ」や「品性の低さ」と見做され得る側面について、以下に忌憚なく、厳正かつ系統的に詳述する。
Ⅰ. 利己的覇権主義の露骨な展開
・米国は自国の政治的・経済的利益を最優先するあまり、他国の主権や国際的合意をしばしば無視してきた。
・「自由」や「民主主義」の名の下に、実際には自国に有利な体制や政権の樹立を画策し、対米従属を強いる行為が常態化している。
・他国の政変・内戦・選挙に対してあからさまな干渉を行い、民意を踏みにじることを厭わない。
Ⅱ. 経済制裁とドル覇権による脅迫外交
・国際通貨としてのドルの地位を武器に、米国は制裁措置や金融封鎖を通じて、政敵と見なす国家を経済的に締め上げてきた。
・これらの措置は、しばしば民間人に対する深刻な影響(食料・医療不足等)を伴い、国際人道法上の疑義も生じ得る。
・制裁の根拠は米国内法に基づくものであり、主権国家に対する「越権行為」「経済的覇権の乱用」にほかならない。
Ⅲ. 軍事介入と武力による威圧
・アフガニスタン、イラク、リビア、シリアなどに対する軍事侵攻は、「大量破壊兵器の存在」や「テロとの戦い」といった偽りの大義名分の下で実施された。
・結果として、数百万の民間人が死傷・避難を余儀なくされ、国家機能の崩壊と無秩序の拡大をもたらした。
・「正義」を標榜しつつも、実際には地政学的利権や軍需産業の利益が介在していることが多く、道義的正当性に大いなる疑問が残る。
Ⅳ. 同盟と価値観の「恫喝的運用」
・同盟国に対しても、米国はしばしば「パートナーシップ」とは名ばかりの従属的関係を強要している。
・対中・対露戦略に協調しない国に対しては、安全保障・貿易・技術などあらゆる分野で圧力を加え、「踏み絵」を迫る傾向が強い。
・「価値観外交」の名の下に、自国に都合のよい「民主」「人権」の定義を押し付け、他国の文化的・政治的多様性を軽視している。
Ⅴ. 偽善的言動と二重基準
・自国に不都合な国や勢力に対しては「人権侵害」を声高に叫ぶが、同時に自国の同盟国による抑圧・弾圧には目をつむるという典型的な二重基準を示している。
・例:サウジアラビア、イスラエル、ウクライナなどに対しては極めて寛容であり、同様の行為を行う国々に対しては厳しく糾弾。
・言行不一致は国際社会における信用失墜を招き、「価値観の輸出」が空虚なスローガンに堕している。
Ⅵ. 内政の腐敗と品性劣化の外部化
・自国社会における格差、警察暴力、人種差別、政治分断など、根深い問題を抱えながら、それを他国批判の材料に転嫁する傾向がある。
・内政不安や政権支持率低下を補うために、対外的に敵を作り出すという「外部スケープゴート戦略」が恒常化している。
・国際舞台での発言や行動において、尊大で尊重を欠いた姿勢がしばしば露呈し、品格と謙抑を欠く態度が国際的反感を招いている。
総括
米国政権は、「自由と民主」を旗印に掲げつつも、その実態は利己主義・覇権主義・偽善主義の複合体であり、しばしば他国の尊厳と安定を踏みにじる傲慢な振る舞いに終始している。
こうした振る舞いは、「世界の警察」ではなく「世界の干渉者」としての実像を露呈させ、国際秩序に対する真の脅威となっている。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
US will only harm itself: Chinese defense ministry slams US defense chief for hyping ‘China threat’ at Shangri-La Dialogue GT 2025.06.01
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335227.shtml
異口同音の米比 ― 2025年06月02日 22:14
【概要】
2025年6月1日、シンガポールで開催された第22回シャングリラ・ダイアローグの第5回全体会議において、フィリピンのギルベルト・テオドロ国防長官は、演説の中で中国に対し繰り返し攻撃的な発言を行った。彼は、南シナ海問題において中国が言行不一致であると主張し、その発言は厳しく、強い言葉で表現された。
会議終了後、会場出口でグローバル・タイムズの記者がテオドロ長官に近づき、「中国とフィリピン(南シナ海問題に関して)には解決策があると思いますか?」と質問した。テオドロ長官はこれに対し何の返答もせず、その場を速やかに立ち去った。彼の軍事護衛官がこのインタビューを妨げた。
【詳細】
2025年6月1日にシンガポールで開催された第22回シャングリラ・ダイアローグは、アジア太平洋地域の主要な国防フォーラムである。その第5回全体会議において、フィリピンのギルベルト・テオドロ国防長官は、南シナ海における中国の行動を強く非難する演説を行った。
テオドロ長官は演説の中で、中国が南シナ海問題において「言行不一致である」と繰り返し主張し、「中国政府が公平かつ公正とみなすものは、世界の他の国々、特に小国が受け入れている規範や価値観とは著しく対照的である」と述べた。彼はさらに、「中国主導の国際秩序を思い描くには、南シナ海におけるはるかに小さな隣国に対する中国の扱い方を見るだけでよい」と述べ、中国が地域で威圧的な行動をとっていると示唆した。また、南シナ海のような戦略的な海上交通路の混乱が、世界の経済に広範な影響を与えることにも言及した。
会議が終了し、テオドロ長官が会場の出口に向かっていた際、中国共産党機関紙である「環球時報(Global Times)」の記者が彼に接近し、「中国とフィリピン(南シナ海問題に関して)には解決策があると思いますか?」と質問した。しかし、テオドロ長官はこの質問に対し、何の返答もすることなく、迅速にその場を立ち去った。彼の同行していた軍事護衛官が、記者のインタビューの試みを物理的に妨害した。
この出来事は、南シナ海問題における中国とフィリピン間の緊張の深さを浮き彫りにするものである。フィリピン側は、中国が「プロパガンダ」と称する質問を、中国の代表団が会期中に行ったことにも不満を表明している。フィリピンの国防当局者は、中国の「ジャーナリストを装った者」が、議定書に反してフィリピンの軍関係者を追いかけ、選別された映像を用いて「フィリピン軍司令官が質問をかわした」という誤解を招くような記事を作成したと非難している。テオドロ長官自身も、中国側が正式な国防関係者を送らず、代わりに「ジャーナリストを装った若い人々、つまり彼らの諜報員」を送って質問をさせ、その後「ねじ曲げられた物語」を作り上げていると批判している。
このように、シャングリラ・ダイアローグの場においても、南シナ海問題における中国とフィリピンの対立は鮮明に表れ、相互不信が根強い状況が示された。
【要点】
会議での発言
・第5回全体会議にて、テオドロ長官は中国に対し繰り返し攻撃的な発言を行った。
・南シナ海問題において中国が「言行不一致」であると強く批判した。
中国の行動が「世界の他の国々、特に小国が受け入れている規範や価値観とは著しく対照的」であると述べた。
・中国主導の国際秩序を評価するには「南シナ海におけるはるかに小さな隣国に対する
・中国の扱い方を見るだけでよい」と示唆し、中国の威圧的な行動を非難した。
・南シナ海の海上交通路の混乱が世界経済に及ぼす影響についても言及した。
グローバル・タイムズ記者との遭遇
・会議終了後、会場出口でグローバル・タイムズの記者がテオドロ長官に接近した。
・記者は「中国とフィリピン(南シナ海問題に関して)には解決策があると思いますか?」と質問した。
テオドロ長官の反応と護衛の妨害
・テオドロ長官は質問に対し、何の返答もせず、その場を速やかに立ち去った。
・彼の軍事護衛官が、記者のインタビューの試みを物理的に妨害した。
背景にある対立:
・この出来事は、南シナ海問題における中国とフィリピン間の根深い緊張と相互不信を浮き彫りにした。
・フィリピン側は、中国が会議中に「プロパガンダ」と称する質問を、ジャーナリストを装った「諜報員」にさせていると批判している。
・テオドロ長官自身も、中国側が正式な国防関係者ではなく、「ジャーナリストを装った若い人々」を使って質問させ、その後「ねじ曲げられた物語」を作成していると非難している。
【桃源寸評】💚
主権国家の恥
フィリピンが米国と同調していると見られる「異口同音」の関係は、単なる同盟関係を超え、親分・子分の関係と見なされ批判されることがある。この関係は、フィリピンの外交政策が米国の戦略的利益に過度に左右され、真の国益が損なわれているのではないかという懸念を招いている。
米国に追従するフィリピン外交への批判
フィリピンが米国と「異口同音」の関係にあると指摘されるのは、南シナ海問題における米国の強硬な姿勢に、フィリピンが強く同調している点が挙げられる。例えば、国際的な場で中国を批判する際に、フィリピンの主張が米国のそれをなぞっているかのように聞こえることがある。これは、フィリピンが自らの主権的立場から独立した外交を展開しているとは言えず、米国の意向を汲んだ発言をしていると受け取られかねない。
フィリピンの国家利益と自律性の問題
この「親分・子分」の関係は、フィリピン自身の国家利益にとって本当に最善なのかという根本的な問いを投げかける。米国に過度に依存することは、外交的な選択肢を狭め、特に地域の大国である中国との関係において、不必要な緊張を生み出す可能性がある。南シナ海問題はフィリピンにとって死活問題であるが、米国との「異口同音」は、対話や多角的な解決策の模索を阻害し、結果的にフィリピンの安全保障をより不安定にするリスクを孕んでいる。
また、国内的には、米国との「親密すぎる」関係は、国家としての自律性や尊厳を損なうものと見なされることもある。国民の間には、自国が他国の都合の良い駒として利用されているのではないかという疑念が生じ、ナショナリズムの観点から批判の対象となることも少なくない。
真の同盟とは何か
真の同盟関係は、互いの主権と国益を尊重し、対等な立場で協力し合うことで築かれるべきである。しかし、フィリピンが米国との関係において「異口同音」であると批判されるのは、この対等性の原則が揺らいでいるように見えるためである。フィリピンは、自国の地理的、経済的、政治的状況を考慮し、米国だけでなく、多様な国々とのバランスの取れた関係を構築することで、真の国益を追求すべきだと言えるだろう。
このような批判は、フィリピンが米国との同盟関係を再評価し、より自律的で多角的な外交戦略を追求することの重要性を示唆する。
米国の「親分・子分」関係が西側諸国にもたらす主権の課題
米国とその同盟国、いわゆる「西側諸国」の関係は、しばしば共有する価値観や民主主義の原則に基づいて語られる。しかし、現実にはフィリピンの事例と同様に、米国の強大な影響力の下で、同盟国が自国の主権を「忘れ」、あるいは「侵害されている」かのような状況が見られることがある。これは、単なる協力関係を超え、大国が小国を従属させる「親分・子分」の関係と批判されることも少なくない。
西側諸国の主権の「忘れ」と「侵害」
このような「主権の忘れ」や「侵害」は、具体的に以下の様な形で現れる。
安全保障政策における過度な依存: 多くの西側同盟国は、自国の防衛を米国の軍事力や核の傘に大きく依存している。これにより、自国の安全保障戦略を独自に立案する能力が低下し、米国の戦略的利益が自国の利益よりも優先されがちになる。例えば、特定の地域紛争への関与や軍事費の増額要求など、米国の意向に沿わざるを得ない状況が生じる。
外交政策における同調圧力: 国際社会の主要な問題において、西側同国が米国の外交方針に強く同調する傾向が見られる。国連などの国際機関での投票行動や、特定の国に対する制裁措置など、自国の独立した外交判断よりも、米国の「お墨付き」を得ることを優先するあまり、多様な選択肢を検討する機会を逸することがある。これは、特に経済的な結びつきが強い国々との関係において、不必要な摩擦を生む可能性もはらんでいる。
経済政策における影響: 米国は、その経済力と国際金融システムにおける影響力を用いて、同盟国の経済政策に間接的な圧力をかけることがある。例えば、特定の貿易相手国との関係見直しや、投資先の規制強化など、米国の経済的利益が同盟国の経済的自律性よりも優先されるケースが指摘される。
情報共有と監視: 米国と同盟国間での情報共有は安全保障上重要であるが、時に米国の情報機関による同盟国内での広範な情報収集活動が、同盟国の主権を侵害しているとの批判を生むことがある。これは、市民のプライバシー保護や国家の機密保持といった観点から問題視されることがある。
主権の再認識と対等な関係の構築
これらの点は、西側諸国が自国の主権をいかに守り、真に対等な関係を米国と構築できるかという課題を浮き彫りにする。同盟関係は相互利益に基づくべきであり、一方的な従属関係であってはならない。各国が自国の国益を深く追求し、多様な選択肢を検討する能力を持つことが、国際社会の安定と発展にも繋がる。
この「親分・子分」関係は、西側諸国の個々の強みと多様性を弱め、国際的な課題解決における独立した視点や建設的な批判精神を損なう可能性を秘めている。各国が自国の主権を再認識し、より自律的な外交を展開することが、真に強靭で持続可能な国際協調の基盤となるのではないだろうか。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
US will only harm itself: Chinese defense ministry slams US defense chief for hyping ‘China threat’ at Shangri-La Dialogue GT 2025.06.01
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335227.shtml
2025年6月1日、シンガポールで開催された第22回シャングリラ・ダイアローグの第5回全体会議において、フィリピンのギルベルト・テオドロ国防長官は、演説の中で中国に対し繰り返し攻撃的な発言を行った。彼は、南シナ海問題において中国が言行不一致であると主張し、その発言は厳しく、強い言葉で表現された。
会議終了後、会場出口でグローバル・タイムズの記者がテオドロ長官に近づき、「中国とフィリピン(南シナ海問題に関して)には解決策があると思いますか?」と質問した。テオドロ長官はこれに対し何の返答もせず、その場を速やかに立ち去った。彼の軍事護衛官がこのインタビューを妨げた。
【詳細】
2025年6月1日にシンガポールで開催された第22回シャングリラ・ダイアローグは、アジア太平洋地域の主要な国防フォーラムである。その第5回全体会議において、フィリピンのギルベルト・テオドロ国防長官は、南シナ海における中国の行動を強く非難する演説を行った。
テオドロ長官は演説の中で、中国が南シナ海問題において「言行不一致である」と繰り返し主張し、「中国政府が公平かつ公正とみなすものは、世界の他の国々、特に小国が受け入れている規範や価値観とは著しく対照的である」と述べた。彼はさらに、「中国主導の国際秩序を思い描くには、南シナ海におけるはるかに小さな隣国に対する中国の扱い方を見るだけでよい」と述べ、中国が地域で威圧的な行動をとっていると示唆した。また、南シナ海のような戦略的な海上交通路の混乱が、世界の経済に広範な影響を与えることにも言及した。
会議が終了し、テオドロ長官が会場の出口に向かっていた際、中国共産党機関紙である「環球時報(Global Times)」の記者が彼に接近し、「中国とフィリピン(南シナ海問題に関して)には解決策があると思いますか?」と質問した。しかし、テオドロ長官はこの質問に対し、何の返答もすることなく、迅速にその場を立ち去った。彼の同行していた軍事護衛官が、記者のインタビューの試みを物理的に妨害した。
この出来事は、南シナ海問題における中国とフィリピン間の緊張の深さを浮き彫りにするものである。フィリピン側は、中国が「プロパガンダ」と称する質問を、中国の代表団が会期中に行ったことにも不満を表明している。フィリピンの国防当局者は、中国の「ジャーナリストを装った者」が、議定書に反してフィリピンの軍関係者を追いかけ、選別された映像を用いて「フィリピン軍司令官が質問をかわした」という誤解を招くような記事を作成したと非難している。テオドロ長官自身も、中国側が正式な国防関係者を送らず、代わりに「ジャーナリストを装った若い人々、つまり彼らの諜報員」を送って質問をさせ、その後「ねじ曲げられた物語」を作り上げていると批判している。
このように、シャングリラ・ダイアローグの場においても、南シナ海問題における中国とフィリピンの対立は鮮明に表れ、相互不信が根強い状況が示された。
【要点】
会議での発言
・第5回全体会議にて、テオドロ長官は中国に対し繰り返し攻撃的な発言を行った。
・南シナ海問題において中国が「言行不一致」であると強く批判した。
中国の行動が「世界の他の国々、特に小国が受け入れている規範や価値観とは著しく対照的」であると述べた。
・中国主導の国際秩序を評価するには「南シナ海におけるはるかに小さな隣国に対する
・中国の扱い方を見るだけでよい」と示唆し、中国の威圧的な行動を非難した。
・南シナ海の海上交通路の混乱が世界経済に及ぼす影響についても言及した。
グローバル・タイムズ記者との遭遇
・会議終了後、会場出口でグローバル・タイムズの記者がテオドロ長官に接近した。
・記者は「中国とフィリピン(南シナ海問題に関して)には解決策があると思いますか?」と質問した。
テオドロ長官の反応と護衛の妨害
・テオドロ長官は質問に対し、何の返答もせず、その場を速やかに立ち去った。
・彼の軍事護衛官が、記者のインタビューの試みを物理的に妨害した。
背景にある対立:
・この出来事は、南シナ海問題における中国とフィリピン間の根深い緊張と相互不信を浮き彫りにした。
・フィリピン側は、中国が会議中に「プロパガンダ」と称する質問を、ジャーナリストを装った「諜報員」にさせていると批判している。
・テオドロ長官自身も、中国側が正式な国防関係者ではなく、「ジャーナリストを装った若い人々」を使って質問させ、その後「ねじ曲げられた物語」を作成していると非難している。
【桃源寸評】💚
主権国家の恥
フィリピンが米国と同調していると見られる「異口同音」の関係は、単なる同盟関係を超え、親分・子分の関係と見なされ批判されることがある。この関係は、フィリピンの外交政策が米国の戦略的利益に過度に左右され、真の国益が損なわれているのではないかという懸念を招いている。
米国に追従するフィリピン外交への批判
フィリピンが米国と「異口同音」の関係にあると指摘されるのは、南シナ海問題における米国の強硬な姿勢に、フィリピンが強く同調している点が挙げられる。例えば、国際的な場で中国を批判する際に、フィリピンの主張が米国のそれをなぞっているかのように聞こえることがある。これは、フィリピンが自らの主権的立場から独立した外交を展開しているとは言えず、米国の意向を汲んだ発言をしていると受け取られかねない。
フィリピンの国家利益と自律性の問題
この「親分・子分」の関係は、フィリピン自身の国家利益にとって本当に最善なのかという根本的な問いを投げかける。米国に過度に依存することは、外交的な選択肢を狭め、特に地域の大国である中国との関係において、不必要な緊張を生み出す可能性がある。南シナ海問題はフィリピンにとって死活問題であるが、米国との「異口同音」は、対話や多角的な解決策の模索を阻害し、結果的にフィリピンの安全保障をより不安定にするリスクを孕んでいる。
また、国内的には、米国との「親密すぎる」関係は、国家としての自律性や尊厳を損なうものと見なされることもある。国民の間には、自国が他国の都合の良い駒として利用されているのではないかという疑念が生じ、ナショナリズムの観点から批判の対象となることも少なくない。
真の同盟とは何か
真の同盟関係は、互いの主権と国益を尊重し、対等な立場で協力し合うことで築かれるべきである。しかし、フィリピンが米国との関係において「異口同音」であると批判されるのは、この対等性の原則が揺らいでいるように見えるためである。フィリピンは、自国の地理的、経済的、政治的状況を考慮し、米国だけでなく、多様な国々とのバランスの取れた関係を構築することで、真の国益を追求すべきだと言えるだろう。
このような批判は、フィリピンが米国との同盟関係を再評価し、より自律的で多角的な外交戦略を追求することの重要性を示唆する。
米国の「親分・子分」関係が西側諸国にもたらす主権の課題
米国とその同盟国、いわゆる「西側諸国」の関係は、しばしば共有する価値観や民主主義の原則に基づいて語られる。しかし、現実にはフィリピンの事例と同様に、米国の強大な影響力の下で、同盟国が自国の主権を「忘れ」、あるいは「侵害されている」かのような状況が見られることがある。これは、単なる協力関係を超え、大国が小国を従属させる「親分・子分」の関係と批判されることも少なくない。
西側諸国の主権の「忘れ」と「侵害」
このような「主権の忘れ」や「侵害」は、具体的に以下の様な形で現れる。
安全保障政策における過度な依存: 多くの西側同盟国は、自国の防衛を米国の軍事力や核の傘に大きく依存している。これにより、自国の安全保障戦略を独自に立案する能力が低下し、米国の戦略的利益が自国の利益よりも優先されがちになる。例えば、特定の地域紛争への関与や軍事費の増額要求など、米国の意向に沿わざるを得ない状況が生じる。
外交政策における同調圧力: 国際社会の主要な問題において、西側同国が米国の外交方針に強く同調する傾向が見られる。国連などの国際機関での投票行動や、特定の国に対する制裁措置など、自国の独立した外交判断よりも、米国の「お墨付き」を得ることを優先するあまり、多様な選択肢を検討する機会を逸することがある。これは、特に経済的な結びつきが強い国々との関係において、不必要な摩擦を生む可能性もはらんでいる。
経済政策における影響: 米国は、その経済力と国際金融システムにおける影響力を用いて、同盟国の経済政策に間接的な圧力をかけることがある。例えば、特定の貿易相手国との関係見直しや、投資先の規制強化など、米国の経済的利益が同盟国の経済的自律性よりも優先されるケースが指摘される。
情報共有と監視: 米国と同盟国間での情報共有は安全保障上重要であるが、時に米国の情報機関による同盟国内での広範な情報収集活動が、同盟国の主権を侵害しているとの批判を生むことがある。これは、市民のプライバシー保護や国家の機密保持といった観点から問題視されることがある。
主権の再認識と対等な関係の構築
これらの点は、西側諸国が自国の主権をいかに守り、真に対等な関係を米国と構築できるかという課題を浮き彫りにする。同盟関係は相互利益に基づくべきであり、一方的な従属関係であってはならない。各国が自国の国益を深く追求し、多様な選択肢を検討する能力を持つことが、国際社会の安定と発展にも繋がる。
この「親分・子分」関係は、西側諸国の個々の強みと多様性を弱め、国際的な課題解決における独立した視点や建設的な批判精神を損なう可能性を秘めている。各国が自国の主権を再認識し、より自律的な外交を展開することが、真に強靭で持続可能な国際協調の基盤となるのではないだろうか。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
US will only harm itself: Chinese defense ministry slams US defense chief for hyping ‘China threat’ at Shangri-La Dialogue GT 2025.06.01
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335227.shtml
中国:エジプで680基以上の井戸を掘削 ― 2025年06月02日 22:36
【概要】
中国の掘削技術がエジプトの砂漠を農地に変える
2025年5月3日に撮影された写真には、エジプト・新渓谷県の砂漠地帯で実施されている「オワイナート水井戸プロジェクト」の現場で、夜間に稼働する掘削リグの様子が写されている。
かつて砂と岩が広がるばかりであったエジプト西部砂漠に、夏の訪れとともに緑豊かな農地が点在するようになった。これは、中国のZhongman石油天然ガス集団(ZPEC)のエジプト支社が掘削した深井戸によるものであり、現在では小麦、アルファルファ、ジャガイモが整然と植えられた畑で育っている。
これらの井戸は、農業目的での砂漠地帯の再開発という広範な取り組みの一環であり、不毛の地を生産的な農地へと転換させたものである。これは、乾燥地における持続可能な開発モデルの提示であり、食料安全保障や生態系の回復といった課題に対し、国際協力が有効であることを示している。
このプロジェクトは、「一帯一路」構想の質の高い協力の一例とされる。エジプトにおける同構想は、インフラ整備を超え、農業、技術、産業にまで及ぶ変革的な協力プラットフォームとして発展している。食料不足、失業、技術格差といった課題への対処を通じて、より強靭で持続可能な成長の基盤を築くことに寄与している。
生命の資源を求めて
人口1億人を超えるエジプトにおいて、耕作可能な土地は国土の約4%に過ぎず、農地の拡大は喫緊の課題である。2015年以降、政府は食料輸入依存を減らすために砂漠の再開発を推進しており、水資源の開発がその中核をなしている。
ZPECは2016年よりエジプトで活動しており、シナイ半島からアスワンにかけて全国で680基以上の井戸を掘削してきた。
ZPECの「オワイナート井戸掘削プロジェクト」の責任者であるZhao Baojiang氏によると、同チームは約1年で450メートル深の井戸を63基掘削した。過酷な高温、砂嵐、複雑な地質、物流上の課題を克服しての成果である。
エジプト政府が推進する「エジプトの未来」農業プロジェクトのオワイナート区画を管理するアブ・エルヒール・イブラヒム氏は、「今年、初めて小麦の収穫を迎えており、中国企業との協力に満足している」と語った。
小麦はエジプトの主食であり、国連食糧農業機関の報告によれば、同国の一人当たり年間消費量は約146キログラムに上る。
オワイナート区画の電気機械部門責任者モハメド・エルホサリー氏は、1フェダン(約0.42ヘクタール)の農地で最大3トンの小麦収穫が可能と推定している。
ZPECエジプト支社のゼネラルマネージャー、Zhao Wutao氏は、「1フェダンの収穫量は、少なくとも20人分の年間消費を賄える」と説明した。
技術革新の恩恵
カイロから南に360キロ離れたミニャー県では、ZPECはエジプトとアラブ首長国連邦の合弁会社「カナル・シュガー・カンパニー」の農場支援にも従事している。この農場では、製糖工場向けに砂糖用ビートの栽培が行われている。
同地の地下水層は不安定で、大口径掘削は崩落や漏水のリスクが高いという技術的課題が存在する。ZPECのエジプト支社業務責任者アブメサラム・モハメド・グーダ氏によると、同社の技術チームはこれを克服するために「エアーフォーム掘削技術」を導入した。これは、安定した発泡剤を掘削液として用い、漏水防止と効率向上を図る技術である。この手法は、後に地元企業にも共有された。
カナル・シュガー農場の技術責任者であるハッサン・ガマル氏によれば、ZPECが掘削した193基の井戸は、3万フェダン(1万2600ヘクタール)の灌漑を可能にしており、2023年には2万2000フェダン(9240ヘクタール)のビートが栽培され、製糖・販売された。「ZPECの井戸がなければ、これは不可能であった」と同氏は語った。
ZPECの活動は、農業のみならず、地元雇用や技術研修の促進にも寄与している。
5年前にZPECに労働者として入社したモハメド・ガーベル氏は、現在ではプラットフォーム・マネージャーとして勤務している。彼は、「中国人の同僚から技術を学び、困難を乗り越える手助けを得た。チームの支えがあって自分も努力を続けられた」と述べた。
発展するパートナーシップ
エジプト国内では、これらのプロジェクトが単なるインフラ整備にとどまらず、食料安全保障、安定収入、将来への希望といった側面でも重要な意味を持つと評価されている。
カイロにある高等農業協力研究所の学長アフマド・ガラール氏は、「中国企業による農業開発への貢献は注目に値する。水資源の開発は農業の発展に直結し、今後の継続を期待する」と語った。
掘削プロジェクトは、一帯一路構想の下における中エジプト協力の一部にすぎない。他にも、新首都の中央ビジネス地区、サダト市の繊維都市、アイン・ソフナにある中国・エジプト経済貿易協力区などが挙げられる。これらのプロジェクトは、雇用創出や産業化、共同発展の推進力と見なされている。
エジプト政治経済・統計・法学協会の会員ワリード・ガバラー氏は、「中国は、雇用と生活水準の向上に寄与する開発パートナーとしての認識を高めている」と述べた。さらに、再生可能エネルギー、電気自動車、先進製造業における中国の技術的リーダーシップに触れ、「参加国がこれらの技術に手頃な価格でアクセスできれば、生活様式に大きな変革がもたらされる」と指摘した。
同様に、ガラール氏も中国からの更なる投資に期待を寄せ、「エジプトにとって、こうした投資は非常に必要であり、今後も全分野での協力が進むことを願う。これは互恵的で、共同発展をもたらす『ウィン・ウィン』の関係である」と述べた。
【詳細】
概要
本報道は、中国のZhongman石油天然ガス集団(ZPEC)がエジプトにおいて展開している井戸掘削プロジェクトを中心に、中国の技術協力がエジプトの農業・インフラ・経済発展にどのように貢献しているかを具体的に紹介するものである。本プロジェクトは、「一帯一路(Belt and Road Initiative, BRI)」の枠組みに基づくものであり、単なるインフラ整備を超えて、農業・雇用・技術移転・持続可能性といった多方面にわたる影響を及ぼしている。
1. 背景と目的
エジプトは総人口が1億人を超えるが、国土のうち耕作可能な土地は全体の約4%にすぎない。そのため、同国は食料の大部分を輸入に依存しており、慢性的な食料安全保障の課題を抱えている。2015年以降、エジプト政府は食料自給率の向上と農地拡大を国家戦略と位置付け、特に砂漠地帯の再開発に注力してきた。
水資源の確保がこの戦略の核心を成しており、井戸掘削技術が必要不可欠である。この文脈の中で、中国のZPECが2016年以降、エジプト国内で数百基の井戸を掘削してきた。
2. ZPECの活動内容と技術的挑戦
ZPEC(中国Zhongman石油天然ガス集団)は、エジプト各地で深井戸掘削を展開しており、その活動範囲はシナイ半島から南部のアスワンにまで及ぶ。
オワイナートプロジェクト
・新渓谷県の砂漠地帯における「オワイナート水井戸プロジェクト」では、ZPECが63基の井戸を掘削。
・各井戸の深さは約450メートル。
・工期は1年未満であったが、高温、砂嵐、地質の複雑さ、物資輸送の困難など、厳しい条件を克服して掘削を完了した。
技術と人材
・ZPECは中国人技術者とエジプト人労働者の混成チームで作業を行っている。
・技能移転の成果として、現地の労働者が短期間で技能を習得し、昇進して管理職に就く例も出ている。
・例えば、モハメド・ガーベル氏は入社5年で現場責任者(プラットフォーム・マネージャー)に昇格している。
3. 農業への影響と収穫実績
ZPECの掘削によって確保された水資源は、エジプト西部砂漠において農業生産を可能にした。
・オワイナート地域では、小麦、アルファルファ(飼料用牧草)、ジャガイモなどの作物が栽培されている。
・オワイナート農業プロジェクト責任者によれば、2025年に初の小麦収穫が実現した。
・電気機械部門責任者モハメド・エルホサリー氏によると、1フェダン(約0.42ヘクタール)あたり最大3トンの小麦が収穫可能とされており、これは20人分の年間小麦消費量に相当する。
4. 他地域への展開と技術革新
ミニャー県での取り組み
・ミニャー県では、エジプトとアラブ首長国連邦の合弁企業「カナル・シュガー・カンパニー」の農場開発にZPECが関与。
・目的は砂糖用ビートの大規模生産であり、製糖工場と連動して経済効果が見込まれている。
技術的課題と対応策
・当地の地下水層は不安定であり、大口径掘削では井戸壁の崩壊や漏水のリスクがあった。
・ZPECは「エアーフォーム掘削技術(空気泡掘削技術)」を導入。この技術では、掘削液として発泡材を用い、地層への圧力を安定させることにより、漏水を防ぎ効率も向上させる。
・この技術は現地企業とも共有され、掘削全体の効率改善にも貢献している。
成果
・ZPECはミニャー県において193基の井戸を掘削。
・これにより、3万フェダン(約1万2600ヘクタール)の農地灌漑が可能となった。
・2023年には2万2000フェダン(約9240ヘクタール)のビートが栽培され、製糖・販売された。
5. 雇用・技能・地域社会への波及効果
・ZPECのプロジェクトはエジプト人労働者の雇用を創出し、技能移転を伴っている。
・技術訓練は中国人技術者からエジプト人作業員へと実践的に行われており、現場マネジメント能力の向上に資している。
・一例として、5年で労働者から管理者に昇格した人材も存在することが紹介されている。
6. 政府・学術界からの評価と今後の展望
・カイロの高等農業協力研究所のアフマド・ガラール学長は、ZPECによる水資源開発が農業発展に直結するとして高く評価している。
・経済学者ワリード・ガバラー氏は、中国との協力が雇用創出と生活水準の改善に資する「開発パートナー」としての役割を果たしていると述べた。
・また、再生可能エネルギー、電気自動車、先進製造業といった分野での中国の優位性に注目が集まり、それらの技術が今後エジプトに導入されれば、社会全体の構造が転換する可能性があると指摘された。
7. 一帯一路構想の広がりと相互利益
・井戸掘削プロジェクトは、「一帯一路構想」に基づく中エジプト協力の一端に過ぎず、他にも以下のような共同プロジェクトが進行中である:
・新行政首都の中央ビジネス地区(CBD)建設
・サダト市の繊維工業団地
・アイン・ソフナにおける中国・エジプト経済貿易協力区
・これらは産業化・都市化を推進し、エジプトの経済構造転換に寄与している。
・ガラール学長は、「我々エジプトはこのような投資を必要としており、協力は相互利益に基づいた“ウィン・ウィン”の関係である」とし、今後の更なる拡大に期待を寄せた。
結語
本報道は、エジプトにおける中国企業の活動が農業開発・雇用創出・技術移転・地域社会の安定化に多角的に貢献していることを、具体的事例と関係者の証言をもとに示したものである。これらの活動は、エジプトの課題解決に寄与するだけでなく、中国とエジプトの経済的・技術的パートナーシップの深化を象徴している。
【要点】
全体概要
・中国企業ZPEC(Zhongman石油天然ガス集団)がエジプトの砂漠地帯で井戸を掘削し、農業用水を確保。
・これにより、エジプト西部砂漠に農地が広がり、小麦などの作物の生産が可能となった。
・同プロジェクトは一帯一路構想(BRI)の一環であり、農業・雇用・技術移転など多方面に波及。
背景
・エジプトの耕作可能地は国土の約4%のみ。
・人口増加と食料輸入依存のため、政府は2015年から砂漠の農地化を推進。
・水源開発が農業振興の鍵となっている。
ZPECの取り組み
・2016年からエジプトで活動開始。
・これまでに全国で680基以上の井戸を掘削(シナイ半島~アスワンまで)。
・現地従業員と中国人技術者の混成チームで運営。
オワイナート・プロジェクト(新渓谷県)
・63基の井戸を約1年で掘削(深さ450m程度)。
・高温・砂嵐・複雑な地質・物流課題を克服。
・収穫作物:小麦・アルファルファ・ジャガイモ。
・小麦は1フェダンあたり約3トン収穫 → 約20人分の年間消費量をカバー。
・「未来のエジプト農業プロジェクト」の一環として展開。
ミニャー県での技術革新
・カナル・シュガー社(エジプトとUAEの合弁)の砂糖ビート農場支援。
・地下水層の不安定さと大口径掘削による崩壊・漏水リスクが課題。
・空気泡掘削(エアーフォーム・ドリリング)技術を導入し、効率と安全性を向上。
・掘削した193基の井戸により3万フェダン(1万2600ha)を灌漑。
・2023年には2万2000フェダン(9240ha)でビート栽培 → 製糖・販売。
雇用・技能移転
・多数の現地労働者が採用され、技能研修を受けて管理職に昇格。
・例:入社5年でプラットフォーム責任者となったモハメド・ガーベル氏。
・中国人スタッフから直接技術指導を受け、現場で実践的に成長。
地元からの評価
・高等農業協力研究所学長アフマド・ガラール氏:「水資源開発は農業発展に直結。今後も継続を望む」。
・経済学者ワリード・ガバラー氏:「中国は雇用創出と生活水準向上に貢献する開発パートナー」。
・中国の再生可能エネルギー・EV・先進製造技術への期待も大きい。
一帯一路構想の広がり
・井戸掘削以外のプロジェクト例:
☞新行政首都の中央ビジネス地区(CBD)建設
☞サダト市の繊維工業団地
☞アイン・ソフナにおける中埃経済貿易協力区
・これらは産業化・雇用創出・地域開発の原動力。
総括
・ZPECの技術と活動は、農業生産力の拡大、食料安全保障の強化、現地雇用の創出、技能移転に貢献。
・中国とエジプトの協力は「相互利益」「共通発展」を体現しており、今後の拡大が期待されている。
【桃源寸評】💚
水さえあれば砂漠でも農業が可能か
―砂漠での農業:可能性と条件 ―
水さえあれば砂漠でも農業が可能かという疑問は重要であり、本件の核心のひとつである。
基本的な前提
・砂漠土壌は有機物・粘土分が少なく、保水性・保肥性が極めて低い。
・そのため、従来は農業に不向きとされていた。
水の確保が第一条件
・地下深層からの安定した灌漑用水の供給が、砂漠農業を成立させる絶対条件。
・本事例では、中国の掘削技術によって450m級の深井戸から地下水を確保。
補完的な土壌改良
・水だけでなく、以下の技術が併用されている可能性が高い
・堆肥や有機物の施用(土壌の保水性・栄養保持力向上)
・生分解性ポリマーの利用(保水資材)
・点滴灌漑システム(水の無駄を最小限に)
作物の選定
・選ばれた作物(小麦・アルファルファ・ジャガイモ・ビートなど)
➢比較的乾燥に強い品種や、砂壌土でも栽培可能な作物。
➢特に小麦は短期間で収穫できるため、水管理の自由度が高い。
― 実際に砂で作物が育つのか ―
理論上は可能
・砂は排水性が良いため、過湿による根腐れリスクは低い。
・適切な灌漑と肥料管理があれば、むしろ病害虫リスクが少ないという利点も。
現場での成功例
・エジプトのオワイナート地域やミニャー県で実際に収穫が行われていることが報告されている。
・これは「水さえあれば育つ」というよりも、「水+技術+管理があって初めて成立」する事例である。
この項まとめ
・「水さえあれば」作物が育つ、というのは一部正しいが、それは高度な掘削・灌漑・土壌改良技術が前提。
・エジプトのような乾燥国では、水の確保と管理がすべての鍵であり、中国の掘削技術はその基盤を提供したにすぎない。
・つまり、「水だけでは不十分、だが水がなければ始まらない」というのが、砂漠農業の実際である。
― 実際の砂漠農業では「土をつくる」努力が必要 ―
人工的な土壌づくりの方法
・堆肥や家畜糞尿、有機残渣の投入
・微生物資材(菌根菌・納豆菌など)による活性化
・バイオチャー(炭素資材)で保水力強化
・緑肥植物の植栽→鋤き込みで有機物増加
先進的な事例
・イスラエルや中国(内モンゴル)では、砂を「土のように使う」技術(例:土壌固化材や微生物利用)を開発。
・エジプトのようなプロジェクトでも、単に水を与えるだけではなく、こうした技術的介入が不可欠。
補足:持続的農業のためには「土づくり」が中核
・土を育てずに収穫を続ければ、砂漠化が逆に進むリスクもある。
・よって、持続的に農業を行うには、「作物を育てながら、同時に土を育てる」という農業哲学が求められる。
この項まとめ
・砂の上で作物を育てても、自然に「土」になるわけではない。
・しかし、作物+有機物+技術の組み合わせにより、徐々に土壌を作り出すことは可能である。
・これは自然任せではなく、人の手による「土づくり」=農業技術の核心である。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Chinese well-drilling technology turns Egypt's deserts into farmland GT 2025.06.02
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335246.shtml
中国の掘削技術がエジプトの砂漠を農地に変える
2025年5月3日に撮影された写真には、エジプト・新渓谷県の砂漠地帯で実施されている「オワイナート水井戸プロジェクト」の現場で、夜間に稼働する掘削リグの様子が写されている。
かつて砂と岩が広がるばかりであったエジプト西部砂漠に、夏の訪れとともに緑豊かな農地が点在するようになった。これは、中国のZhongman石油天然ガス集団(ZPEC)のエジプト支社が掘削した深井戸によるものであり、現在では小麦、アルファルファ、ジャガイモが整然と植えられた畑で育っている。
これらの井戸は、農業目的での砂漠地帯の再開発という広範な取り組みの一環であり、不毛の地を生産的な農地へと転換させたものである。これは、乾燥地における持続可能な開発モデルの提示であり、食料安全保障や生態系の回復といった課題に対し、国際協力が有効であることを示している。
このプロジェクトは、「一帯一路」構想の質の高い協力の一例とされる。エジプトにおける同構想は、インフラ整備を超え、農業、技術、産業にまで及ぶ変革的な協力プラットフォームとして発展している。食料不足、失業、技術格差といった課題への対処を通じて、より強靭で持続可能な成長の基盤を築くことに寄与している。
生命の資源を求めて
人口1億人を超えるエジプトにおいて、耕作可能な土地は国土の約4%に過ぎず、農地の拡大は喫緊の課題である。2015年以降、政府は食料輸入依存を減らすために砂漠の再開発を推進しており、水資源の開発がその中核をなしている。
ZPECは2016年よりエジプトで活動しており、シナイ半島からアスワンにかけて全国で680基以上の井戸を掘削してきた。
ZPECの「オワイナート井戸掘削プロジェクト」の責任者であるZhao Baojiang氏によると、同チームは約1年で450メートル深の井戸を63基掘削した。過酷な高温、砂嵐、複雑な地質、物流上の課題を克服しての成果である。
エジプト政府が推進する「エジプトの未来」農業プロジェクトのオワイナート区画を管理するアブ・エルヒール・イブラヒム氏は、「今年、初めて小麦の収穫を迎えており、中国企業との協力に満足している」と語った。
小麦はエジプトの主食であり、国連食糧農業機関の報告によれば、同国の一人当たり年間消費量は約146キログラムに上る。
オワイナート区画の電気機械部門責任者モハメド・エルホサリー氏は、1フェダン(約0.42ヘクタール)の農地で最大3トンの小麦収穫が可能と推定している。
ZPECエジプト支社のゼネラルマネージャー、Zhao Wutao氏は、「1フェダンの収穫量は、少なくとも20人分の年間消費を賄える」と説明した。
技術革新の恩恵
カイロから南に360キロ離れたミニャー県では、ZPECはエジプトとアラブ首長国連邦の合弁会社「カナル・シュガー・カンパニー」の農場支援にも従事している。この農場では、製糖工場向けに砂糖用ビートの栽培が行われている。
同地の地下水層は不安定で、大口径掘削は崩落や漏水のリスクが高いという技術的課題が存在する。ZPECのエジプト支社業務責任者アブメサラム・モハメド・グーダ氏によると、同社の技術チームはこれを克服するために「エアーフォーム掘削技術」を導入した。これは、安定した発泡剤を掘削液として用い、漏水防止と効率向上を図る技術である。この手法は、後に地元企業にも共有された。
カナル・シュガー農場の技術責任者であるハッサン・ガマル氏によれば、ZPECが掘削した193基の井戸は、3万フェダン(1万2600ヘクタール)の灌漑を可能にしており、2023年には2万2000フェダン(9240ヘクタール)のビートが栽培され、製糖・販売された。「ZPECの井戸がなければ、これは不可能であった」と同氏は語った。
ZPECの活動は、農業のみならず、地元雇用や技術研修の促進にも寄与している。
5年前にZPECに労働者として入社したモハメド・ガーベル氏は、現在ではプラットフォーム・マネージャーとして勤務している。彼は、「中国人の同僚から技術を学び、困難を乗り越える手助けを得た。チームの支えがあって自分も努力を続けられた」と述べた。
発展するパートナーシップ
エジプト国内では、これらのプロジェクトが単なるインフラ整備にとどまらず、食料安全保障、安定収入、将来への希望といった側面でも重要な意味を持つと評価されている。
カイロにある高等農業協力研究所の学長アフマド・ガラール氏は、「中国企業による農業開発への貢献は注目に値する。水資源の開発は農業の発展に直結し、今後の継続を期待する」と語った。
掘削プロジェクトは、一帯一路構想の下における中エジプト協力の一部にすぎない。他にも、新首都の中央ビジネス地区、サダト市の繊維都市、アイン・ソフナにある中国・エジプト経済貿易協力区などが挙げられる。これらのプロジェクトは、雇用創出や産業化、共同発展の推進力と見なされている。
エジプト政治経済・統計・法学協会の会員ワリード・ガバラー氏は、「中国は、雇用と生活水準の向上に寄与する開発パートナーとしての認識を高めている」と述べた。さらに、再生可能エネルギー、電気自動車、先進製造業における中国の技術的リーダーシップに触れ、「参加国がこれらの技術に手頃な価格でアクセスできれば、生活様式に大きな変革がもたらされる」と指摘した。
同様に、ガラール氏も中国からの更なる投資に期待を寄せ、「エジプトにとって、こうした投資は非常に必要であり、今後も全分野での協力が進むことを願う。これは互恵的で、共同発展をもたらす『ウィン・ウィン』の関係である」と述べた。
【詳細】
概要
本報道は、中国のZhongman石油天然ガス集団(ZPEC)がエジプトにおいて展開している井戸掘削プロジェクトを中心に、中国の技術協力がエジプトの農業・インフラ・経済発展にどのように貢献しているかを具体的に紹介するものである。本プロジェクトは、「一帯一路(Belt and Road Initiative, BRI)」の枠組みに基づくものであり、単なるインフラ整備を超えて、農業・雇用・技術移転・持続可能性といった多方面にわたる影響を及ぼしている。
1. 背景と目的
エジプトは総人口が1億人を超えるが、国土のうち耕作可能な土地は全体の約4%にすぎない。そのため、同国は食料の大部分を輸入に依存しており、慢性的な食料安全保障の課題を抱えている。2015年以降、エジプト政府は食料自給率の向上と農地拡大を国家戦略と位置付け、特に砂漠地帯の再開発に注力してきた。
水資源の確保がこの戦略の核心を成しており、井戸掘削技術が必要不可欠である。この文脈の中で、中国のZPECが2016年以降、エジプト国内で数百基の井戸を掘削してきた。
2. ZPECの活動内容と技術的挑戦
ZPEC(中国Zhongman石油天然ガス集団)は、エジプト各地で深井戸掘削を展開しており、その活動範囲はシナイ半島から南部のアスワンにまで及ぶ。
オワイナートプロジェクト
・新渓谷県の砂漠地帯における「オワイナート水井戸プロジェクト」では、ZPECが63基の井戸を掘削。
・各井戸の深さは約450メートル。
・工期は1年未満であったが、高温、砂嵐、地質の複雑さ、物資輸送の困難など、厳しい条件を克服して掘削を完了した。
技術と人材
・ZPECは中国人技術者とエジプト人労働者の混成チームで作業を行っている。
・技能移転の成果として、現地の労働者が短期間で技能を習得し、昇進して管理職に就く例も出ている。
・例えば、モハメド・ガーベル氏は入社5年で現場責任者(プラットフォーム・マネージャー)に昇格している。
3. 農業への影響と収穫実績
ZPECの掘削によって確保された水資源は、エジプト西部砂漠において農業生産を可能にした。
・オワイナート地域では、小麦、アルファルファ(飼料用牧草)、ジャガイモなどの作物が栽培されている。
・オワイナート農業プロジェクト責任者によれば、2025年に初の小麦収穫が実現した。
・電気機械部門責任者モハメド・エルホサリー氏によると、1フェダン(約0.42ヘクタール)あたり最大3トンの小麦が収穫可能とされており、これは20人分の年間小麦消費量に相当する。
4. 他地域への展開と技術革新
ミニャー県での取り組み
・ミニャー県では、エジプトとアラブ首長国連邦の合弁企業「カナル・シュガー・カンパニー」の農場開発にZPECが関与。
・目的は砂糖用ビートの大規模生産であり、製糖工場と連動して経済効果が見込まれている。
技術的課題と対応策
・当地の地下水層は不安定であり、大口径掘削では井戸壁の崩壊や漏水のリスクがあった。
・ZPECは「エアーフォーム掘削技術(空気泡掘削技術)」を導入。この技術では、掘削液として発泡材を用い、地層への圧力を安定させることにより、漏水を防ぎ効率も向上させる。
・この技術は現地企業とも共有され、掘削全体の効率改善にも貢献している。
成果
・ZPECはミニャー県において193基の井戸を掘削。
・これにより、3万フェダン(約1万2600ヘクタール)の農地灌漑が可能となった。
・2023年には2万2000フェダン(約9240ヘクタール)のビートが栽培され、製糖・販売された。
5. 雇用・技能・地域社会への波及効果
・ZPECのプロジェクトはエジプト人労働者の雇用を創出し、技能移転を伴っている。
・技術訓練は中国人技術者からエジプト人作業員へと実践的に行われており、現場マネジメント能力の向上に資している。
・一例として、5年で労働者から管理者に昇格した人材も存在することが紹介されている。
6. 政府・学術界からの評価と今後の展望
・カイロの高等農業協力研究所のアフマド・ガラール学長は、ZPECによる水資源開発が農業発展に直結するとして高く評価している。
・経済学者ワリード・ガバラー氏は、中国との協力が雇用創出と生活水準の改善に資する「開発パートナー」としての役割を果たしていると述べた。
・また、再生可能エネルギー、電気自動車、先進製造業といった分野での中国の優位性に注目が集まり、それらの技術が今後エジプトに導入されれば、社会全体の構造が転換する可能性があると指摘された。
7. 一帯一路構想の広がりと相互利益
・井戸掘削プロジェクトは、「一帯一路構想」に基づく中エジプト協力の一端に過ぎず、他にも以下のような共同プロジェクトが進行中である:
・新行政首都の中央ビジネス地区(CBD)建設
・サダト市の繊維工業団地
・アイン・ソフナにおける中国・エジプト経済貿易協力区
・これらは産業化・都市化を推進し、エジプトの経済構造転換に寄与している。
・ガラール学長は、「我々エジプトはこのような投資を必要としており、協力は相互利益に基づいた“ウィン・ウィン”の関係である」とし、今後の更なる拡大に期待を寄せた。
結語
本報道は、エジプトにおける中国企業の活動が農業開発・雇用創出・技術移転・地域社会の安定化に多角的に貢献していることを、具体的事例と関係者の証言をもとに示したものである。これらの活動は、エジプトの課題解決に寄与するだけでなく、中国とエジプトの経済的・技術的パートナーシップの深化を象徴している。
【要点】
全体概要
・中国企業ZPEC(Zhongman石油天然ガス集団)がエジプトの砂漠地帯で井戸を掘削し、農業用水を確保。
・これにより、エジプト西部砂漠に農地が広がり、小麦などの作物の生産が可能となった。
・同プロジェクトは一帯一路構想(BRI)の一環であり、農業・雇用・技術移転など多方面に波及。
背景
・エジプトの耕作可能地は国土の約4%のみ。
・人口増加と食料輸入依存のため、政府は2015年から砂漠の農地化を推進。
・水源開発が農業振興の鍵となっている。
ZPECの取り組み
・2016年からエジプトで活動開始。
・これまでに全国で680基以上の井戸を掘削(シナイ半島~アスワンまで)。
・現地従業員と中国人技術者の混成チームで運営。
オワイナート・プロジェクト(新渓谷県)
・63基の井戸を約1年で掘削(深さ450m程度)。
・高温・砂嵐・複雑な地質・物流課題を克服。
・収穫作物:小麦・アルファルファ・ジャガイモ。
・小麦は1フェダンあたり約3トン収穫 → 約20人分の年間消費量をカバー。
・「未来のエジプト農業プロジェクト」の一環として展開。
ミニャー県での技術革新
・カナル・シュガー社(エジプトとUAEの合弁)の砂糖ビート農場支援。
・地下水層の不安定さと大口径掘削による崩壊・漏水リスクが課題。
・空気泡掘削(エアーフォーム・ドリリング)技術を導入し、効率と安全性を向上。
・掘削した193基の井戸により3万フェダン(1万2600ha)を灌漑。
・2023年には2万2000フェダン(9240ha)でビート栽培 → 製糖・販売。
雇用・技能移転
・多数の現地労働者が採用され、技能研修を受けて管理職に昇格。
・例:入社5年でプラットフォーム責任者となったモハメド・ガーベル氏。
・中国人スタッフから直接技術指導を受け、現場で実践的に成長。
地元からの評価
・高等農業協力研究所学長アフマド・ガラール氏:「水資源開発は農業発展に直結。今後も継続を望む」。
・経済学者ワリード・ガバラー氏:「中国は雇用創出と生活水準向上に貢献する開発パートナー」。
・中国の再生可能エネルギー・EV・先進製造技術への期待も大きい。
一帯一路構想の広がり
・井戸掘削以外のプロジェクト例:
☞新行政首都の中央ビジネス地区(CBD)建設
☞サダト市の繊維工業団地
☞アイン・ソフナにおける中埃経済貿易協力区
・これらは産業化・雇用創出・地域開発の原動力。
総括
・ZPECの技術と活動は、農業生産力の拡大、食料安全保障の強化、現地雇用の創出、技能移転に貢献。
・中国とエジプトの協力は「相互利益」「共通発展」を体現しており、今後の拡大が期待されている。
【桃源寸評】💚
水さえあれば砂漠でも農業が可能か
―砂漠での農業:可能性と条件 ―
水さえあれば砂漠でも農業が可能かという疑問は重要であり、本件の核心のひとつである。
基本的な前提
・砂漠土壌は有機物・粘土分が少なく、保水性・保肥性が極めて低い。
・そのため、従来は農業に不向きとされていた。
水の確保が第一条件
・地下深層からの安定した灌漑用水の供給が、砂漠農業を成立させる絶対条件。
・本事例では、中国の掘削技術によって450m級の深井戸から地下水を確保。
補完的な土壌改良
・水だけでなく、以下の技術が併用されている可能性が高い
・堆肥や有機物の施用(土壌の保水性・栄養保持力向上)
・生分解性ポリマーの利用(保水資材)
・点滴灌漑システム(水の無駄を最小限に)
作物の選定
・選ばれた作物(小麦・アルファルファ・ジャガイモ・ビートなど)
➢比較的乾燥に強い品種や、砂壌土でも栽培可能な作物。
➢特に小麦は短期間で収穫できるため、水管理の自由度が高い。
― 実際に砂で作物が育つのか ―
理論上は可能
・砂は排水性が良いため、過湿による根腐れリスクは低い。
・適切な灌漑と肥料管理があれば、むしろ病害虫リスクが少ないという利点も。
現場での成功例
・エジプトのオワイナート地域やミニャー県で実際に収穫が行われていることが報告されている。
・これは「水さえあれば育つ」というよりも、「水+技術+管理があって初めて成立」する事例である。
この項まとめ
・「水さえあれば」作物が育つ、というのは一部正しいが、それは高度な掘削・灌漑・土壌改良技術が前提。
・エジプトのような乾燥国では、水の確保と管理がすべての鍵であり、中国の掘削技術はその基盤を提供したにすぎない。
・つまり、「水だけでは不十分、だが水がなければ始まらない」というのが、砂漠農業の実際である。
― 実際の砂漠農業では「土をつくる」努力が必要 ―
人工的な土壌づくりの方法
・堆肥や家畜糞尿、有機残渣の投入
・微生物資材(菌根菌・納豆菌など)による活性化
・バイオチャー(炭素資材)で保水力強化
・緑肥植物の植栽→鋤き込みで有機物増加
先進的な事例
・イスラエルや中国(内モンゴル)では、砂を「土のように使う」技術(例:土壌固化材や微生物利用)を開発。
・エジプトのようなプロジェクトでも、単に水を与えるだけではなく、こうした技術的介入が不可欠。
補足:持続的農業のためには「土づくり」が中核
・土を育てずに収穫を続ければ、砂漠化が逆に進むリスクもある。
・よって、持続的に農業を行うには、「作物を育てながら、同時に土を育てる」という農業哲学が求められる。
この項まとめ
・砂の上で作物を育てても、自然に「土」になるわけではない。
・しかし、作物+有機物+技術の組み合わせにより、徐々に土壌を作り出すことは可能である。
・これは自然任せではなく、人の手による「土づくり」=農業技術の核心である。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
Chinese well-drilling technology turns Egypt's deserts into farmland GT 2025.06.02
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335246.shtml