台湾島の漁船「Hongcaitou6号」:日本の巡視船に拿捕2025年05月26日 19:43

Microsoft Designerで作成
【概要】

 中国外交部の報道官である毛寧氏は、台湾島の漁船「Hongcaitou6号」が日本の巡視船によって漁業規則違反を理由に拿捕され、高額な保釈金を支払った上で釈放された件について発言した。中国政府は、台湾地域を含む中国漁民の正当な権益を守ることを非常に重視していると述べた。

 この事案に対して、中国はすでに日本側に対して厳重な抗議を行った。毛報道官によれば、中国と日本の間には「中日漁業協定」が存在し、それに基づけば、該当する海域において日本が中国漁船に対して法執行を行う権利はないと主張している。

 毛氏はまた、日本側に対し、今回の誤った行為を直ちに是正し、同様の事案が再発しないよう効果的な措置を講じるよう強く要求した。

【詳細】 

 2025年5月23日、中国国営メディア『環球時報(Global Times)』は、中国外交部の毛寧報道官が、日本による台湾島所属の漁船の拿捕に関して正式に発言したことを報じた。

 問題となったのは、「Hongcaitou6号」という名称の漁船であり、台湾島に所属している。この漁船は、最近、日本の巡視船によって、漁業規則違反を理由に拿捕された。具体的な違反内容については記事中に言及がないが、日本側の主張に基づき、何らかの形で日本が管轄権を主張する海域内での操業が問題視された可能性がある。この漁船は、その後、高額な保釈金を支払った上で釈放された。

 毛寧報道官は、記者からの「今回の件について中国政府は日本側に抗議を行ったか」との質問に対し、中国政府はすでに日本側に対して厳正なる抗議を行ったと明言した。その上で、台湾地域を含むすべての中国国民(漁民)の正当な権利と利益を保護することは中国政府にとって極めて重要な責務であると強調した。

 また、毛報道官は、「中日漁業協定(正式名称:中華人民共和国政府と日本国政府との間の漁業に関する協定)」に言及し、同協定に基づけば、日本側には、いわゆる「関連海域」において中国の漁船に対して法的措置を講じる権利は認められていないとする立場を示した。この「関連海域」がどの海域を指すかについては明確にされていないが、一般に、両国間の係争や共同管理の対象となる海域であると解される。

 中国政府は、日本側の行為を「誤った行動」と断定し、これを速やかに是正するよう強く要求した。また、今後同様の事案が再び発生しないよう、日本政府に対して実効性ある再発防止策の実施を求めた。

 このような外交的抗議は、昨年にも類似の台湾漁船の拿捕案件が発生した際にも行われており、今回が初めてではない。これにより、中国政府としては、日本側の法執行行為に対して一貫して反対する姿勢を示しており、日中間の海洋権益や台湾問題に関連する外交的摩擦の一例となっている。

【要点】 
 
 ・問題の漁船は「Hongcaitou6号」といい、台湾島に所属する中国漁船である。

 ・当該漁船は、日本の巡視船によって「漁業規則違反」を理由に拿捕された。

 ・拿捕後、漁船は高額な保釈金を支払うことで釈放された。

 ・この事案に関し、中国外交部の毛寧報道官が公式に発言した。

 ・毛報道官は、中国政府は台湾地域を含む中国国民(漁民)の正当な権益を重視していると述べた。

 ・中国政府は、この拿捕に対して日本側に厳重な抗議(stern protest)を行った。

 ・中国側の主張によれば、「中日漁業協定」に基づき、日本には関連海域において中国漁船に対して法執行を行う権限は存在しない。

 ・毛報道官は、日本に対して「誤った行動」を直ちに是正するよう要求した。

 ・あわせて、同様の事案が再発しないよう「効果的な措置」を講じることを日本側に求めた。

 ・類似の漁船拿捕事件は昨年にも発生しており、中国はその際にも日本側に抗議を行っている。

 ・この一連の出来事は、台湾問題や中日間の海洋権益に関する外交的緊張の一端を示している。

【桃源寸評】💚

 日中漁業協定は、日本と中華人民共和国の間で、東シナ海および黄海における漁業資源の保存、合理的利用、および海上での操業秩序の維持を目的として結ばれている協定である。

 歴史的経緯

 ・戦後: 中国沿岸や東シナ海、黄海は、戦後も日本の機船底引網漁業にとって重要な漁場であった。しかし、中国との間に領海侵犯や漁場妨害、拿捕事件が多発し、深刻な対立が生じた。

 ・民間協定時代: 国交が断絶していたため、政府間交渉が困難な中、1955年に日本の民間漁業団体と中国の漁業協会との間で初の「日中民間漁業協定」が締結された。その後、一時中断もあったが、1963年に再締結された。

 ・政府間協定へ: 1972年の日中共同声明による国交正常化後、1975年に政府間協定として発効した。この協定では、漁船の馬力制限や休漁区の設定などが取り決められた。

 ・国連海洋法条約への対応(現行協定): 1982年に作成された国連海洋法条約の趣旨に沿った新たな漁業秩序を確立するため、1997年11月に「漁業に関する日本国と中華人民共和国との間の協定」(新日中漁業協定)が署名され、2000年6月1日に発効した。

現行協定の主な内容

現行の日中漁業協定は、国連海洋法条約に基づく200海里排他的経済水域(EEZ)の概念を導入しつつ、両国の漁業実態に配慮した内容となっています。

 ・相互入漁: 両国のEEZ内において、相互利益の原則に基づき、相手国の漁船が許可を得て操業することを認めている。

 ・許可証の発給と操業条件: 相手国EEZ内で操業するには、相手国当局の発行する許可証が必要で、その国の法令や条件に従う必要がある。魚種、漁獲割当量、操業区域などの操業条件は毎年協議して決定される。

 ・暫定措置水域: 東シナ海の一部には、EEZの境界画定交渉を棚上げし、共同で管理する「暫定措置水域」が設けられている。この水域では、両国がそれぞれの国民および漁船に対し、自国の法令に基づき取締りなどの必要な措置を取ることが規定されている。

 ・共同委員会: 協定の実施状況や資源管理について協議するため、「日中漁業共同委員会」が設置されている。

 現状と課題

 ・中国漁船の活動: 近年、東シナ海の暫定措置水域などで非常に多数の中国漁船が操業しており、水産資源に大きな影響を及ぼしていることが課題となっている。

 ・違法操業対策: 水産庁は、EEZ内での違法操業に対する取締りを強化しており、特に日本海大和堆周辺では、中国漁船や北朝鮮漁船による違法操業が確認されている。日中漁業協定に基づき、許可を得た中国漁船への立入検査なども行われている。

 ・尖閣諸島周辺: 尖閣諸島周辺の日本のEEZでは、日中漁業協定等に基づき中国漁船に対して日本の漁業関係法令が適用されないため、領海内での違法操業と、そのすぐ外側での合法的な操業が併存する状況があり、漁業秩序の維持が課題となっている。

 ・日中漁業協定は、複雑な漁業環境と領土問題を抱える日中間の重要な枠組みであり、資源管理と安全操業の確保に向けた継続的な協議が求められている。

 
 ☞中国は「筋を通した」

 根拠

 ・中国は、台湾を自国の不可分の一部と主張しており、その立場を国際場面でも常に貫いている。

 ・その観点から、台湾島の漁船「Hongcaitou6号」が外国(この場合は日本)の公的機関により拿捕されたことに対して、

  ⇨ 外交部報道官が即座に公式な抗議を表明している。

  ⇨ 中国漁民の正当な権益を守る立場を明言している(台湾の漁民も「中国の漁民」と明確に位置づけている)。

 ・これらはすべて、「台湾の問題を中国の主権問題と見なしている」中国の内的論理と整合する対応であり、

  ⇨ 領土主張の一貫性・原則を守る外交的行動として「筋を通した」と評価できる。

 ・放置すれば、対外的にも「台湾を中国の一部とする立場」の実効性が揺らぎかねず、主権国家としての立場が弱体化する可能性がある。

 ・よって、今回のような抗議表明と是正要求は、中国の国家戦略上、必然的な対応である。

 総括

 「筋を通す」とは、「台湾を中国の領土とみなす立場を行動で裏付けること」であるならば、今回、中国は確かに「筋を通した」と言える。

 ☞拿捕が尖閣諸島(釣魚島)近辺であった可能性について

 記事内に海域の具体名は明示されていない。そのため断定はできないが、いくつかの状況証拠から尖閣諸島周辺の可能性は高いと推察される。

 根拠としては以下の通り。

 ・毛報道官が言及した「中日漁業協定における関連海域」は、通常、東シナ海の一部、特に中間線付近や尖閣諸島周辺の重複主張海域を指すことが多い。

 ・台湾籍漁船が拿捕されるケースは、主に尖閣諸島(中国名:釣魚島)近海で発生しているのが通例である。

 ・中国政府が「台湾島の漁船」への対応として公式にコメントを出すのも、尖閣周辺での出来事に対して特に敏感に反応する傾向がある。

 ・さらに、昨年の類似事案も尖閣周辺海域での拿捕事件であったとされている。

 ・よって、明確な海域名の提示はないものの、文脈および過去の事例から判断して、尖閣諸島近辺である可能性が高いと考えられる。

 以上より、

 この件に関しても、中国は、「外交的手順としての筋は通した」と言える。
 
【寸評 完】

【引用・参照・底本】

Sparrow Returns to the Peninsula: Observations on North Korea’s May 15 Air Drills GT 2025.05.22
https://www.38north.org/2025/05/sparrow-returns-to-the-peninsula-observations-on-north-koreas-may-15-air-drills/

コメント

トラックバック