戦争が長期化することで、イスラエルの国家的疲弊が進行中2025年05月22日 21:16

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【概要】

 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が現在進めているガザ地区に対する軍事行動と、その政治的・戦略的帰結について論じたものである。筆者は、この戦争継続によってイスラエル自体が内部から崩壊しつつあると分析している。

 ネタニヤフ首相は「ハマースの粉砕と壊滅」を戦争の目標として掲げているが、自国の情報機関の見解によれば、その達成は現実的ではないとされている。それにもかかわらず、新たな軍事作戦「ギデオンの戦車作戦(Gideon’s Chariots)」を発動し、ガザ地区の全面再占領を目指す姿勢を見せている。

 この直前には、アメリカの仲介により、2023年10月7日にハマースに拘束されたイスラエル系アメリカ人兵士イダン・アレクサンダーの解放が実現していた。ハマース側によれば、その見返りとして米国はイスラエルに対してガザへの人道支援物資搬入を認めるよう圧力をかけると約束したとされている。

 しかし、イスラエルは人道支援を認めるどころか空爆を強化し、48時間で30万人以上のパレスチナ人を避難させ、約300人を殺害した。この後、ネタニヤフ首相は「全ての捕虜が解放されても戦争は終わらない」と明言した。

 一方で、アメリカ国内ではネタニヤフとトランプ大統領との関係に不協和音があるとの報道が相次いだ。トランプがイスラエル訪問を見送り、パレスチナ国家承認を検討しているという話も出たが、トランプ本人はこれを否定している。

 米国のマルコ・ルビオ国務長官もCBSニュースのインタビューで「ハマース壊滅を支持する」と述べた一方で、捕虜解放の交渉も継続中とし、米国が戦争の主目的を捕虜問題とは見なしていない姿勢を示した。

 過去には、バイデン前大統領もイスラエルに対して怒りの言葉を発したとされる報道があるが、イスラエルへの実質的圧力が行使された証拠はない。むしろ、米国はイスラエルの戦争遂行を事実上支援し続けており、表向きの声明と現実の政策には乖離が見られる。

 イスラエル軍は現在、ガザの緩衝地帯に駐留し、ガザ全域を制圧せずに民間人への圧力を強める手法を取っている。ネタニヤフ首相は食料・水・燃料・医療物資の搬入を全面的に禁止することを誓っており、これは戦争犯罪に該当する可能性があるとして国際社会の批判を招いている。

 しかし、ネタニヤフ首相の政権を支える宗教シオニズム政党の圧力により、人道支援の許可は政権崩壊の引き金となりかねないため、限定的な支援搬入を演出しつつ、軍事作戦を継続するという政治的芝居が行われている。

 さらにネタニヤフ首相は、ガザに留まらずイランへの攻撃も視野に入れている。これには、イランの核施設への限定的攻撃が含まれており、米国は支援的役割にとどまると見られている。イスラエルが空爆能力を失った場合、ヒズボラが南レバノンを「解放」する動きを強める可能性もある。

 ガザには十数の武装組織が依然として存在しており、イスラエル軍がこれら全てを殲滅した形跡はない。ネタニヤフ政権は、ガザの内部占領や人道支援の軍事的管理・民営化を試みているが、国際機関やエジプトなど周辺国からの強い反発を受けている。

 結論として、筆者は「トータル・ビクトリー(全面的勝利)」は実現不可能であり、戦争継続がイスラエルにとって致命的な結果を招く可能性が高いとする。ガザ、西岸、シリア、東エルサレム、さらにはイスラエル国内の不満が臨界点に達すれば、突然の崩壊が起きても不思議ではないと警告している。

 米国はイスラエルの「公式な応援団」と化しており、軍事支援を続ける一方で戦略的な見直しを行っていないと批判されている。筆者は、2023年10月7日のような予期せぬ事態が再発する危険性が高まっていると結んでいる。

 
【詳細】 

 ネタニヤフ首相の戦略的袋小路

 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ガザ地区における軍事行動を通じて「ハマースの壊滅」という目標を掲げているが、この戦争の継続はイスラエル国家そのものを傷つける結果となっている。記事によれば、18か月以上に及ぶ軍事作戦において、イスラエルはいかなる敵対勢力も決定的に打ち負かすことができておらず、むしろ戦線拡大の道を進んでいる。

 ネタニヤフは新たに「ギデオンの戦車作戦(Operation Gideon’s Chariots)」を発動し、ガザ地区全域の再占領を目指すと発表したが、自国の情報機関による分析でも「勝利は見通せない」とされている。

 米国との複雑な関係と人道支援の駆け引き

 2023年10月7日にハマースに捕らえられたイスラエル・アメリカの二重国籍兵士イダン・アレクサンダーの釈放は、アメリカの仲介によって実現した。その見返りとして、ハマース側は米国から「イスラエルに対し人道支援物資の搬入を認めるよう圧力をかける」と伝えられたという。

 しかし、イスラエルは人道支援の許可を出すどころか、空爆を激化させ、48時間で約30万人のパレスチナ人を避難させ、300人を殺害した。その後、ネタニヤフは「捕虜が全員戻ってきても戦争は終わらない」と発言し、戦争継続の意思を明確にした。

 この背景には、ネタニヤフ政権の極右連立パートナーである「宗教シオニズム派(Religious Zionism Bloc)」の存在がある。彼らはパレスチナ人への食料供給に強硬に反対しており、ネタニヤフが人道支援に応じれば、連立離脱の可能性すらあると警告している。

 米国との「演出された対立」

 一部報道では、トランプ大統領がネタニヤフとの連絡を断ち、イスラエルを訪問しなかったことが「両国間の亀裂」の表れであると伝えられた。さらには、トランプがパレスチナ国家を承認するという可能性も報道された。しかし、トランプはその後、Fox Newsのインタビューでそれらを否定し、「2023年10月7日は歴史上最も暴力的な日だった」と述べた。

 米国務長官マルコ・ルビオは、CBSニュースのインタビューで「ハマース壊滅を支持する」とし、捕虜の解放交渉も進めていると語ったが、実際には捕虜問題が戦争の主目的ではないと示唆した。

 トランプ政権の幹部は皆、イスラエル支援に前向きであり、政治資金もイスラエル寄りの大富豪から提供を受けている。そのため、「米国がイスラエルに圧力をかけている」という報道は過去から繰り返されているが、実際にはそうした圧力は行使されていない。

 戦争の人的・戦略的限界

 イスラエル軍はガザ地区の緩衝地帯にとどまり、内部への本格的侵攻は行っていない。これは、部隊の士気の低下、訓練不足、人的資源の限界が原因とされており、大規模な地上作戦を実施すれば他の戦線(レバノン、イランなど)に対する防衛が手薄になるためである。

 結果として、イスラエルはガザの市民約200万人に対する集団的懲罰を選択し、食料、水、医薬品、燃料の供給を遮断している。この行為は国際法上、戦争犯罪に該当する可能性がある。

 他戦線との連動:レバノン・イエメン・イラン

 ガザ問題は単独では語れず、他の戦線とも密接に関連している。レバノンにおいては、イスラエルがヒズボラの拠点を空爆しているが、ヒズボラ側の実質的戦力は温存されており、紛争は終結していない。

 イエメンでは、アンサールッラー(フーシ派)がアメリカの介入を撃退し、イスラエル支援を理由に戦線を維持している。米国は地上戦を避けざるを得ない状況である。

 イランとの全面戦争は現実的ではないとされるが、イスラエルが限定的に核関連施設を空爆する可能性はある。その際、米国が支援に回る形で、イスラエルが主導権を取る構図が想定される。

 この場合、イラン革命防衛隊(IRGC)は、報復としてイスラエル国内の軍事基地やインフラ(電力網・港湾など)を攻撃する可能性がある。これにより、イスラエル空軍の行動が制限されれば、ヒズボラが南レバノンの占領地を奪還する可能性も生まれる。

 ガザの地上再占領とその非現実性

 イスラエル政府は、ガザ内部の再占領や人道支援の民営化を検討しているが、国連や人権団体はこれに強く反対している。周辺国(特にエジプト)も、パレスチナ人の強制移住につながる行為に同意していない。

 また、イスラエルは十数にのぼるパレスチナ武装組織と全面戦闘を避けており、兵士の死傷者を最小限にとどめている。結果として、サラーフッディーン旅団、ムジャヒディーン旅団、アル=アクサ殉教者旅団などの小規模組織もなお健在である。

 「トータル・ビクトリー」の幻想と崩壊のリスク

 ネタニヤフ首相が掲げる「全面的勝利(Total Victory)」は、筆者によれば達成不可能である。戦争を続ければ続けるほど、イスラエルは新たな戦線を生む危険性が増し、いずれ制御不能な状態に陥る。

 特に、ガザ、西岸地区、シリア、東エルサレム、そしてイスラエル国内の政治的・社会的分断は、いずれ一斉に噴出し、崩壊の引き金となる可能性がある。

 米国は現在、イスラエルの「公式な応援団」と化しており、弾薬や爆弾を供給し続けることで戦争の長期化を助長している。筆者は、2023年10月7日に起きたような「予期せぬ事態」が再び発生する危険性は、今や一層高まっていると警告して記事を締めくくっている。

【要点】
 
 ネタニヤフの戦争戦略とその限界

 ・ネタニヤフは「ハマース壊滅」を掲げてガザ戦争を継続している。

 ・「ギデオンの戦車作戦」によりガザ全域の再占領を目指すと発表。

 ・しかし、イスラエルの情報機関自身が「勝利は見通せない」と分析。

 ・戦争が長期化することで、イスラエルの国家的疲弊が進行中。

 アメリカとの取引と人道支援の矛盾

 ・アメリカは二重国籍捕虜イダン・アレクサンダー解放の仲介を行った。

 ・その見返りとして、アメリカはイスラエルに人道支援を要求。

 ・ネタニヤフ政権は逆に空爆を激化させ、多数の死者・避難民を出した。

 ・ネタニヤフは「全捕虜が戻ってきても戦争は終わらない」と発言。

 極右連立政権の圧力

 ・宗教シオニズム派などの極右政党が連立に参加。

 ・彼らは人道支援を強く拒否し、ネタニヤフが応じれば政権崩壊もありうる。

 ・政治的生き残りのため、ネタニヤフは極右に譲歩している。

 アメリカとの「演出された対立」

 ・米国内でイスラエルへの距離を示唆する報道(トランプ訪問拒否など)が出る。

 ・だが、米高官は「ハマース壊滅」を支持し、対立は見せかけに過ぎない。

 ・米国からの資金提供者は親イスラエル派が多数。

 ・歴史的に「米がイスラエルに圧力をかける」との報道は繰り返されてきたが、実際には行動に移されたことはない。

 戦争継続の軍事的リスクと人的資源の限界

 ・イスラエル軍はガザへの本格的再侵攻をためらっている。

 ・その理由は士気の低下・人的資源の枯渇・多方面作戦の負担。

 ・ガザ住民200万人に対して、水・食料・医療物資・燃料の供給を遮断。

 ・これは集団懲罰であり、戦争犯罪の可能性もある。

 複数戦線への拡大リスク(レバノン・イエメン・イラン)

 ・ヒズボラとの交戦継続も決着がついていない(戦力は温存されている)。

 ・イエメンのフーシ派(アンサールッラー)は紅海を封鎖し、アメリカ軍の介入にも耐えている。

 ・イランとの直接戦争は現実的ではないが、イスラエルが核施設空爆を行えば紛争が激化。

 ・イランの報復により、イスラエル国内インフラ・軍事基地が標的となりうる。

 ガザの再占領案とその不可能性

 ・イスラエルはガザの完全再占領や民間業者による支配を検討。

 ・だが国連やエジプトなど近隣国は強く反対。

 ・パレスチナ武装勢力は依然として多数残存(例:サラーフッディーン旅団など)。

 「全面勝利」幻想の崩壊

 ・ネタニヤフの掲げる「Total Victory(全面勝利)」は実現不可能。

 ・戦争継続により新たな戦線・敵が生まれ、事態は収拾困難に向かう。

 ・ガザ、西岸地区、シリア、東エルサレム、国内の政治・社会的危機が同時噴出する可能性。

 ・米国は兵器供給を通じてイスラエルの戦争継続を後押ししている。

 ・筆者は、「10月7日のような予測不能な出来事」が再び起こるリスクを警告している。

【桃源寸評】💚

  ネタニヤフの戦争政策が外交的・軍事的・政治的に破綻しつつあり、その影響がイスラエル国家全体に深刻なダメージを与えていると論じている。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

Netanyahu’s forever war is killing Israel faster than its enemies RT 2025.05.21
https://www.rt.com/news/617971-trump-israel-netanyahu-victory/

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