「正しいことを地道に実行すること」2025年06月04日 10:18

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【概要】

 米国の政治系ニュースメディア「Axios」が米調査会社「Morning Consult」の調査を引用して報じたところによると、41か国を対象とした世論調査において、中国の世界的好感度は過去1年間にわたり着実に上昇し、とりわけ2025年3月以降に顕著な伸びを示しているという。2025年5月末時点で、中国のネット好感度は8.8ポイントに達し、米国の-1.5ポイントを上回った。これは調査開始以来初めて中国が米国を上回ったことを意味する。これは孤立した事例ではなく、近年の複数の国際調査においても同様の傾向が確認されている。すなわち、世界は中国に対してますます好意的かつ温かい眼差しを向けている。

 この好感度の上昇は、中国が世界平和の構築者、世界発展の貢献者、国際秩序の擁護者としての役割を果たしていることに起因するものである。中国の発展は自国民の利益にとどまらず、世界の平和と発展にも大きく寄与してきた。中国は世界経済成長への貢献率が約30%に及び、主要経済国の中でも高い成長率を維持している。「一帯一路」構想は10年以上を経て、多くの人々の生活に目に見える変化をもたらしている。アフリカでは中国企業が建設に携わった水力発電所が数多くの家庭に電力を供給し、東南アジアでは中国の技術と投資による工業団地が急速に建設されている。これらのプロジェクトには政治的な条件や説教は伴わず、真摯に各国の経済発展と生活向上の要請に応えたものである。中国の包容力と善意、共に発展するという理念が世界に伝わっている。

 また、中国はサウジアラビアとイランの和解促進やパリ協定の実施推進、RCEP(地域的包括的経済連携)への貢献、BRICS協力メカニズムの拡大などを通じ、責任ある大国の姿を示してきた。その背後には先進的な理念と実践的な行動がある。中国が提唱した「グローバル発展イニシアティブ」「グローバル安全保障イニシアティブ」「グローバル文明イニシアティブ」は、100以上の国・国際組織から支持を受け、世界の不安定さの中で貴重な安定と積極的なエネルギーをもたらしている。中国は開発支援、政治的解決の推進、文明間対話の活性化を通じて、人類の共通利益に焦点を当て、平和と発展を求める世界の共通の願いに応えている。

 さらに、中国の国際的な好感度の上昇は、自信に満ち、自立した、公正を重んじる大国としての姿勢に対する国際的な認識と尊重の広がりを反映している。単独主義や保護主義が台頭する中でも、中国は開放的な世界経済の発展を支持し、覇権主義や強権政治に直面しても国際法に基づいた国際秩序の擁護に努めている。そしてその秩序をより公正かつ平等なものにすることを目指している。同時に、国家の肯定的なイメージはソフトパワーの持続的な成長にも現れている。たとえば『原神』や『Black Myth: Wukong』、TikTok、Xiaohongshu(小紅書)などのコンテンツは、海外で人気を集めており、西側メディアによる情報の偏りを打破し、技術革新、歴史的深み、温かく開かれた人々という「真の中国」を世界に伝えている。

 また、中国は未来への開放性と自信を有し、「開放は進歩をもたらし、閉鎖は後退を招く」という認識のもと、ビザ免除国の拡大、外資受け入れのネガティブリストの短縮、ビジネス環境の最適化を推進している。HSBCが13市場・5700社超の国際企業を対象に行った調査では、中国が最もビジネス依存度を高めたい市場として選ばれている。高級製造業、グリーンエネルギー、人工知能などの分野における中国の革新は、自国の質の高い発展を牽引するだけでなく、人類共通の課題解決に向けて「中国の解決策」を提供している。

 このような世界的な好感度の上昇は、長年にわたる中国の努力と平和的発展の当然の成果であり、幅広い協議・共同建設・共通利益という多国間主義の堅持に対する自然な反応でもある。これはまた、数多くの中国企業、文化人、そして一般市民が誠意ある協力、革新的な製品、そして温かい笑顔を通じて描き出した時代の集合的な肖像でもある。中国の道への認識とその貢献への評価、そして「人類運命共同体」という理念の浸透と実践が示されている。大国のイメージ形成は、攻撃的な言葉ではなく、静かで一貫した実践によって、また、作られたイメージではなく、「正しいことを着実に行う」という姿勢によって成されるということを物語っている。今後も共存共栄と包摂的な開放の道を歩み続けることにより、「信頼され、好かれ、尊敬される中国」のイメージは世界の人々の心にますます鮮明に、そして温かく刻まれていくであろう。

【詳細】 
 
 1.調査結果の概要とその意義

 米国の政治系ニュースサイト「Axios」が米世論調査会社「Morning Consult」による最新調査を引用して報じたところによれば、世界41か国を対象とした継続的世論調査において、中国の「ネット好感度」(肯定的評価から否定的評価を差し引いた値)が2025年5月末時点で +8.8 を記録し、米国の -1.5 を初めて上回ったとされる。これは調査開始以来初の逆転であり、単発的な現象ではなく、過去数年にわたる複数の国際的な世論調査にも共通して現れるトレンドである。すなわち、中国に対する世界の見方が構造的に好転していることを示している。

 2.中国が好感を集める理由:国際的貢献の実績

 世界からの好感度上昇が偶然の結果ではなく、中国の 国際的責任の遂行と具体的な行動 によるものであると論じている。

 (1)世界経済への貢献

中国は、世界経済成長に対する貢献率が常に 約30% に達しており、主要経済国の中でも屈指の経済成長率を維持している。とくに「一帯一路」構想(BRI)は10年以上の歴史を有し、インフラ整備を通じて各国の民生向上に直結している。例えば:

 ・アフリカでは、中国企業による水力発電所建設が実現し、多くの家庭が初めて電力を得た。

 ・東南アジアでは、中国の技術と資金によって工業団地が建設され、雇用と産業基盤が整備されつつある。

 これらのプロジェクトには、西側諸国がしばしば課すような政治的条件や内政干渉的姿勢は見られず、対等かつ実利重視の協力という形で推進されている。

 (2)地政学的な安定への貢献

 中国は、次のような 地域の和解や制度的安定化 にも積極的な役割を果たしている。

 ・サウジアラビアとイランの国交回復を調整・支援し、中東の緊張緩和に貢献。

 ・パリ協定の履行を積極的に推進し、気候変動対策の国際枠組みを支援。

 ・RCEP(地域的包括的経済連携協定)の発効推進、ならびにBRICSの拡大により、グローバル・サウスにおける制度的枠組みを強化。

 これらの取り組みは、「大国」としての責任と行動が一致していることの証左である。

 (3)新しい国際イニシアティブの展開

 中国が提唱した以下の三つの国際イニシアティブは、100か国以上の国・国際組織から支持を得ている。

 ・グローバル発展イニシアティブ(GDI)

 ・グローバル安全保障イニシアティブ(GSI)

 ・グローバル文明イニシアティブ(GCI)

 これらは、世界の不安定要因に対して建設的・包括的な解決策を提示し、世界全体に安定性と正のエネルギーをもたらすものとして評価されている。

 3.中国の国際的イメージ向上の要素:文化とソフトパワー

 中国の好感度上昇は、単に外交や経済政策の成果にとどまらず、文化的影響力(ソフトパワー)の拡大とも密接に関係している。

 (1)エンターテインメントとデジタル技術

 ・ゲーム『原神』『Black Myth: Wukong』はグローバル市場で高評価。

 ・TikTokやXiaohongshu(小紅書)は、若者文化の主流として浸透。

 ・中国発の短編ドラマ(マイクロドラマ)は海外でも注目されている。

 これらは「中国=硬直した国家」という旧来的なイメージを打破し、活力・創造性・親しみやすさを伝える新たな象徴となっている。

 (2)情報の壁の突破

 中国のコンテンツやSNSの影響力が高まることにより、西側メディアが形成してきた一面的な中国像(情報バブル)を打ち破り、多元的で実像に近い中国像が世界に伝わっている。

 4.制度と開放政策:国際社会との連携

 中国は経済政策面でも「開放性と共栄」を軸に改革を進めており、その姿勢が評価されている。

 ・ビザ免除国の拡大により人的交流を促進。

 ・外資参入の「ネガティブリスト」を縮小し、参入障壁を低下。

 ・ビジネス環境を整備し、外資企業にとって魅力的な市場を形成。

 HSBCの調査によれば、世界13市場における5,700社以上の多国籍企業のうち、中国を最も信頼できる事業展開先として選ぶ傾向が顕著である。

 また、中国は高端製造業、グリーンエネルギー、人工知能分野において革新を続けており、これらの成果は自国発展のみならず、**地球規模の課題に対する「中国ソリューション」**として国際的に貢献している。

 5.総論:中国が示す新しい大国像

 中国の国際的な好感度上昇は、単なる偶然ではなく、平和・開放・共栄・文化的自信に基づいた国家戦略の結果である。

 ・中国は「共に発展する世界」というビジョンのもとで、覇権や押し付けとは異なる形の「大国のあり方」を提示している。

 ・それは「攻撃的なレトリック」ではなく、「一貫した実践」によって裏付けられている。

 ・作られたイメージではなく、「正しいことを地道に実行すること」により、国際社会との信頼を築いている。

 このような方向性を継続する限りにおいて、「信頼され、好かれ、尊敬される中国」という国家像は、今後さらに国際社会の中で明確に、そして温かく認識されるようになるであろう。

【要点】 

 国際世論調査の結果

 ・米Axiosと米世論調査会社Morning Consultによると、2025年5月時点で中国のネット好感度は+8.8、米国は**-1.5**。

 ・調査開始以来初めて、中国の好感度が米国を上回った。

 ・複数の国際調査でも、近年中国に対する好感が上昇傾向にある。

 好感度上昇の理由①:中国の国際的貢献

(1)世界経済への貢献

 ・世界経済成長への中国の寄与率は約30%。

 ・一帯一路(BRI)構想を通じて各国インフラを整備:

  ⇨ アフリカ:水力発電所が生活改善に寄与。

  ⇨ 東南アジア:工業団地が雇用と成長を創出。

 ・政治的条件を課さない「実利重視」の協力。

 (2)地域の平和・安定への貢献

 ・サウジアラビアとイランの和解に貢献。

 ・パリ協定の実行に積極的に関与。

 ・RCEPの推進・BRICSの拡大を通じて多国間連携を強化。

 (3)国際イニシアティブの展開

 ・「グローバル発展イニシアティブ(GDI)」

 ・「グローバル安全保障イニシアティブ(GSI)」

 ・「グローバル文明イニシアティブ(GCI)」

 ・上記は100以上の国・機関から支持され、国際秩序に安定をもたらしている。

 好感度上昇の理由②:文化的ソフトパワーの拡大

 (1)デジタル・文化コンテンツの世界的成功

 ・ゲーム『原神』『Black Myth: Wukong』の成功。

 ・TikTok、Xiaohongshu(小紅書)などのSNSの世界的人気。

 ・マイクロドラマ、インフルエンサー(例:IShowSpeed)による文化発信。

 (2)情報バブルの打破

 ・西側メディアによる固定観念を崩し、「多面的な中国像」を世界に伝達。

 ・技術・文化・人々の温かさを実体験として国際社会が認識。

 好感度上昇の理由③:開放政策と制度的信頼

 ・ビザ免除対象国の拡大により交流促進。

 ・外資参入の「ネガティブリスト」短縮など規制緩和。

 ・ビジネス環境の改善で多国籍企業からの信頼向上。

 ・HSBCの調査:13市場の企業の中で最も信頼される市場が中国。

 好感度上昇の理由④:中国の「責任ある大国像」

 ・単なるパワーではなく、「共生と正義」に基づく外交姿勢。

 ・一貫して国際法を重視し、公正な国際秩序を主張。

 ・ヘゲモニーではなく、「協議・共建・共有」を重視した多国間主義の実践。

 総括:中国のイメージ向上の本質

 ・平和・開放・共栄・文化的自信の積み重ねによる成果。

 ・強調されるのは「攻撃的な姿勢」ではなく、「静かで継続的な実践」。

 ・国家イメージは演出でなく、現実の協力と行動によって形づくられる。

 ・「信頼され、好かれ、尊敬される中国像」が今後さらに強化される。

【桃源寸評】💚
 
 米国の影響力とその副作用

 1. 西側諸国における「米国中心主義」の影響

 ・米国は第二次世界大戦後、軍事力、経済力、情報発信力を通じて西側世界の「価値観の中心」として振る舞ってきた。

 ・その結果、自由・民主・人権といった理念が時に自国の利益に沿う形で選択的に運用され、他国への干渉や制裁を正当化する道具となっている。

 ・このような影響下にある西側諸国では、自立した国際的思考が損なわれ、「朱に交われば赤くなる」状態に陥っているという批判も存在する。

 2. 覇権的外交政策と二重基準

 ・米国は国際秩序を主導すると主張する一方で、自国に都合のよいルール改変(例:WTO・国際刑事裁判所への対応)や軍事介入(例:イラク戦争9を繰り返してきた。

 ・このような「ルールに基づく秩序」の名の下の選択的正義は、国際社会における信頼を損ないつつある。

 3. 軍事力偏重のリスク:米海軍の役割

 ・米国の軍事戦略、特に海洋覇権(海軍中心の展開)は、「自由で開かれたインド太平洋」という表現の下で展開されているが、実際には対中封じ込めや勢力均衡維持を目的とした軍事的圧力に近い。

 ・米海軍のプレゼンスは、緊張を高める要因ともなっており、紛争抑止よりもむしろ偶発的衝突のリスクを増加させているという国際的批判もある。

 世界と自国のために必要な方向性

 1.主権と多様性の尊重

 ・各国は、歴史・文化・発展段階の違いを尊重し合い、他国の価値観を一方的に押し付けるべきではない。

 ・米国的リベラル・グローバリズムが唯一の普遍的価値観として振る舞うことは、文化的多様性に対する抑圧とも言える。

 (2)軍事ではなく協調と開発による国際貢献

 ・真の国際信頼は、軍艦や空母の影ではなく、発展支援・医療・教育・インフラ協力といった、目に見える利益によって得られる。

 ・中国が提唱する「共に発展する世界」という構想は、多国間主義の一つのモデルとして注目されつつある。

 総括

 米国の影響力が長らく西側諸国を「同調圧力」の下に置いてきたことは否めず、その結果として独立した思考や真の多国間主義が抑圧されてきた側面も存在する。こうした構造は、世界全体にとっての損失であり、国際社会はより公平で対等な関係の構築に向けて再編を模索する必要がある。

 したがって、今後の国際秩序においては、米国一極による支配的思考ではなく、「共に生きる文明」への尊重と多極的バランス」が不可欠である。米海軍のプレゼンスに象徴される力の政治から脱却し、協調と尊重による秩序構築が求められている。

 リアリズム(現実主義)からの視点

 (1)概要

 ・国際政治は無政府状態(anarchy)にあり、国家は自己の安全と利益を最優先する。

 ・力(特に軍事力)こそが秩序と安全を保証すると考える。

 ・道徳や国際法は、力に従属する手段にすぎないとする傾向。

 (2)米国への批判的適用

 ・米国はパワー(軍事力・経済力)による支配を正当化し、「自由」「人権」といった理念を地政学的利益に従属させている。

 ・例:イラク戦争や南シナ海への軍事展開は、国際公共財の提供ではなく覇権維持が主目的である。

 ・「ルールに基づく国際秩序」も、実際には米国が定めたルールに基づく秩序であるという指摘が可能。

 リベラリズム(自由主義)からの視点

 (1)概要

 ・国際社会においても協力は可能であり、国際機関・国際法・民主主義が重要な役割を果たす。

 ・相互依存や経済連携、文化交流を通じて戦争を回避できると考える。

(2)米国への批判的適用

 ・米国は表面的にはリベラルな秩序(WTO、国連、パリ協定など)を支援してきたが、自国に不利になると一方的に離脱・無視する傾向がある。

 ・例:国際刑事裁判所(ICC)への非協力、WTO判決の無視、TPPからの離脱。

 ・真のリベラル主義は多国間の対等な協議を尊重すべきであり、米国の「選択的協調」はリベラリズムの原則に反する。

 構造主義(コンストラクティビズム)からの視点

(1)概要

 ・国際政治は固定された構造でなく、アイデンティティ・価値観・言説(ディスコース)によって構築されると考える。

 ・国家の行動は「何を正義と定義するか」「敵とは誰か」などの意味づけによって規定される。

 (2)米国への批判的適用

 ・米国は「自由主義世界の守護者」「民主と独裁の対立」といった自己正当化的言説によって、他国の制度や文化を敵視・介入の対象とする傾向がある。

 ・例:米中対立では、「中国=独裁・脅威」とする言説を通じて世論形成を先導。

 ・実際には、異なる発展モデルや政治体制も、正当な選択肢として存在し得るという認識が不足している。

 国際法の観点からの検証

 (1)基本原則

 ・主権平等・内政不干渉・武力不行使は国際法の根幹原則。

 ・国連憲章第2条:加盟国は他国の主権・政治的独立を尊重する義務を持つ。

 ・国際刑事法:戦争犯罪・人道に対する罪・侵略行為は禁止される。

 (2)米国への批判的適用

 ・多くの軍事介入(例:セルビア空爆、イラク侵攻)は国連安保理の承認なしに実施され、国際法上疑義がある。

 ・国際刑事裁判所(ICC)には加盟せず、米軍関係者の訴追には強硬に反対。

 ・国際条約の自国中心的な解釈・運用(例:南シナ海航行の自由作戦)は、法の支配よりも実力行使に近い。

 総括

 米国の国際的影響力と行動を政治哲学や国際法の枠組みで分析すると:

 ・リアリズム的には「覇権維持のための当然の行動」。

 ・リベラリズム的には「理念と実践の乖離」。

 ・構造主義的には「価値観による支配的言説の再生産」。

 ・国際法的には「法の選択的遵守と不均衡な制度利用」。

 これらはすべて、米国が国際社会において「善の指導者」たり得ないとする批判的主張を支える理論的基盤となる。

 一般的な自由主義(Liberalism)との峻別を明確にしたうえで、米国が掲げる「自由主義」(American Liberalism)なるものの本質と欺瞞性を断罪的に分析する。これは単なる思想ではなく、世界秩序を正当化するための政治的道具としての自由主義の濫用に対する厳正な批判である。

 米国型「自由主義」の欺瞞と実態的批判

 1.理念と実践の決定的な乖離

 米国は「自由」「民主」「人権」といった普遍的価値を標榜する。しかし、以下のように、これらは自国の国益・覇権維持の道具に過ぎず、理念と実践は根本的に乖離している・

 ・民主を口実にしたイラク・アフガン・リビアへの軍事侵攻(多数の民間人犠牲)

 ・「人権外交」と称した対中国・対ロシア制裁は、実際には地政学的排除と封じ込め戦略

 ・同盟国に対しては深刻な人権侵害があっても黙認(サウジ・イスラエルなど)

  ☞米国の自由主義は理念にあらず、覇権のための装飾である。

 2.自由の内実を独占・定義する傲慢

 米国は「自由」を自国の政治的・経済的モデルにのみ帰属する特権的概念として扱う。

 ・米国型資本主義と政党政治こそ唯一の自由社会であるという前提

 ・これに反する社会主義、国家資本主義、集権型モデルはすべて「非自由」と断罪

 ・多様な価値観や文明の共存を否定し、自由の意味そのものを独占・私物化している

  ☞米国の自由主義とは、異なる文明を排除し、自己のモデルを世界に強制するイデオロギー的装置である。

 3.「自由市場」は米国の利益を保証する制度的装置

 米国型自由主義の中心には「自由市場経済」があるが、実態は、

 ・WTOやIMFなどの国際経済機構は米国主導のルール形成機関であり、途上国は不平等な条件を強いられてきた

 ・貿易自由化は米国多国籍企業による市場独占と技術支配を促進

 ・逆に米国自身は、自国産業を守るためには保護主義や関税障壁を即時発動(対中関税、半導体輸出規制など)

  ☞「自由経済」は、米国の覇権を制度的に支える詐術に他ならない。

 4.言論とメディアの自由も二重基準

 ・米国内では「表現の自由」を重視する姿勢を見せるが、体制批判や反米的言論には徹底的に排除的(例:TikTok・RT・Huaweiの排除)

 ・自国のメディアは「自由」を掲げながら、国家安全保障を口実に検閲や情報操作を行う

 ・国際世論空間においても、西側メディアの一極的支配を通じて、他文明・他国の言説を周縁化している

  ☞米国の「言論の自由」は、支配的言説の保持と敵対的意見の封殺のための道具である。

 5.道徳の仮面を被った暴力と破壊

 ・「自由主義的秩序の守護者」という顔をしながら、冷戦後の30年間で最も多くの戦争を開始した国家が米国である(ユーゴ・イラク・アフガン・リビア・シリアなど)

 ・軍需産業との癒着と「民主の輸出」を名目にした国家規模の殺戮装置の正当化

 ・「正義の介入」の名の下、主権国家を崩壊させた後の責任放棄

  ☞米国の自由主義は、戦争を合法化するための道徳的マスクである。

 総括:「自由主義」の名のもとに行われる支配を断罪する

 米国が掲げる「自由主義」は、普遍的理念ではない。それは:

 ・自国の経済覇権と軍事支配を正当化するための政治イデオロギー

 ・世界の多様な政治制度や文明の正統性を否定し、単一モデルを強制する装置

 ・道徳の名を借りて暴力を行使し、制度とメディアを用いて他国の主権を操る構造

 よって、米国の「自由主義」は真の自由主義に非ず。自由主義の皮を被った覇権主義、道徳を装った暴力、協調を偽装した排他の構図である。これを「自由の普遍性」と誤認することは、思想的服従と精神的植民地化に他ならず、断固として拒否されねばならない。

 米国の「自由」の本質:自己本位の自由=放縦

 1.自由の二種類:「自由(freedom)」と「放縦(license)」

 哲学的には、「自由」には以下の二種がある。

 ・真の自由(reedom):他者の自由や秩序と両立する、責任ある行動の空間

 ・放縦(license):他者への配慮や制約を一切無視し、自己の欲望や権益のみを絶対視する行動

  ☞米国の「自由」は明確に後者、すなわち「自分の好き勝手を貫く力による自由」である。

 2.「自己だけの自由」=他者の自由を否定する自由

 米国が唱える自由は、以下のように他者の自由を犠牲にする形で成立している。

 ・他国の経済制度や文化に対して、「非自由的」とレッテルを貼り、介入・排除・制裁を加える

 ・国際社会で自国に有利なルールを強制し、それに従わぬ国は「悪」とする

 ・情報空間において、自国メディアの自由は守るが、他国のメディアは「プロパガンダ」として排除

  ☞これは「他者の自由を排除することによって成り立つ自由」=放縦に他ならない。

 3.自由という名の暴力:力による自己利益の最大化

 米国は「自由」を掲げながら、以下のような覇権的行為を行ってきた。

 ・「自由の敵」という名目での先制攻撃(イラク戦争)

 ・「自由市場」の強制により途上国産業の壊滅と経済従属

 ・「自由な価値観」を口実にした他国政府・文化への干渉(中国・ロシア・中東諸国)

  ☞これは倫理や公共性を欠いた「力ある者の自由」、すなわち「放縦(横暴)」である。

 4.文明の多様性を認めぬ「自由の独占権」

 米国は「自由」という概念を西洋文明の専売特許のように振る舞う。

 ・「自由・民主」=米国型の政体や価値観のみを正統とする

 ・他文明的な自由(例:中国の秩序重視型自由、イスラムの共同体的自由)は一切認めず

それどころか、「非自由国家」として周縁化・敵視する

  ☞「自由の独占」はすでに自由ではなく、思想的覇権・精神的帝国主義である。

 総括:米国の「自由」は、公共性なき私利的放縦である

 ゆえに、米国が世界に輸出している「自由」の実態とは、

 ・他者の自由を否定する自己中心的自由

 ・国際秩序を歪め、力を正義とする「ライセンスの自由」

 ・文明の多様性を排除し、西側の規範を唯一の正義とする自由の独裁

 すなわちこれは、「自由(liberty)」ではなく、「放縦(license)」そのものである。

 この「放縦の自由」は、自由という名を借りた支配、強者による世界秩序の再編装置であり、真に平和と共生を望む国際社会にとって、最大の障害である。したがって、米国の「自由主義」を無批判に受け入れることは、他国の主権と自律性を自ら放棄することに等しい。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

What has China done right to attract rising global favorability?: Global Times editorial GT 2025.06.04
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335364.shtml

中国の国際的な好感度上昇2025年06月04日 18:43

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【概要】

 モーニング・コンサルトによる分析によれば、アメリカの国際的な好感度が低下する一方で、中国の好感度が上昇している。これは、アメリカの通商政策が中国の国際的な立場を強化する結果となっており、その影響はすでに経済面において現れている。

 特に、ホワイトハウスの政策に否定的な外国人観光客の減少や、ドルの信頼性低下などが挙げられる。加えて、アメリカ企業の海外市場での貿易や投資の機会も、現地消費者による米国製品の忌避により損なわれつつあるという。

 モーニング・コンサルトの政治インテリジェンス責任者であるジェイソン・マクマン氏は、「アメリカに対する評価が悪化する中で、米国企業の海外ビジネスチャンスも減少する可能性がある」と述べている。

 さらに、共和党の税制改革法案に含まれる特定の条項が、米国資産への需要を減退させる懸念もあり、また外国人留学生の受け入れ制限による経済的損失も指摘されている。

 2025年5月には、中国のネット好感度は8.8ポイントであるのに対し、アメリカはマイナス1.5ポイントであった。これは、同月にモーニング・コンサルトが実施した調査に基づいており、アクシオスに独占的に提供されたデータである。

 2024年1月時点では、アメリカの好感度は20ポイントを超えており、中国はマイナスであった。この変化は、両国に対する国際的な見方が大きく転換していることを示している。

 モーニング・コンサルトの調査は、カナダ、フランス、日本、ロシア、イギリスなど41か国の成人を対象に行われた。調査は、各国の「ネット好感度」、すなわち肯定的評価から否定的評価を引いた数値をもとにしている。

 アメリカの国際的な評価は昨年までは概ね良好であったが、2025年1月にトランプ大統領が再び就任して以降、急激に低下した。マクマン氏によれば、「2025年1月以降、大多数の国でアメリカに対する見方が悪化し、中国に対する見方が改善している。アメリカに対して有意な好感度上昇が見られるのはロシアのみである」と述べている。

 一方で、中国の好感度は2020年10月以降、継続的にマイナス圏にあったが、昨年の選挙日以降に改善し始め、2025年3月以降は急速に上昇傾向を示している。特に、トランプ大統領による「解放の日(Liberation Day)」関税発表以降に顕著な上昇がみられた。

 報告書によれば、「『解放の日』に発表された関税政策は、アメリカの評判に対する決定的なダメージとなった」と結論づけている。

【詳細】 
 
 本報告は、米国の調査会社モーニング・コンサルト(Morning Consult)が行った国際的な世論調査の分析結果に基づいている。この調査は、2025年5月時点における41か国における中国およびアメリカ合衆国に対する「ネット好感度(Net Favorability)」の変化を追跡したものである。ネット好感度とは、ある国に対して「好意的」と回答した割合から「否定的」と回答した割合を差し引いた数値である。

 今回の調査では、中国のネット好感度はプラス8.8ポイント、アメリカはマイナス1.5ポイントであった。この数値は、米中両国の国民を除いた対象国(オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、メキシコ、ロシア、韓国、スペイン、英国など)において計測されたものである。つまり、第三国の視点から見た両国の相対的な評価である。

 重要なのは、2024年1月にはアメリカのネット好感度はプラス20ポイント以上、中国はマイナス圏にあったという点である。これは、わずか1年半程度の間に国際社会の米中両国に対するイメージが逆転したことを意味する。

 このような変化の背景には、アメリカの外交および通商政策の影響があると指摘されている。特に、2025年1月にドナルド・トランプ前大統領が政権に復帰して以降、アメリカの国際的な評価が急落した。モーニング・コンサルトの政治インテリジェンス責任者であるジェイソン・マクマン氏は、「2025年1月以降、大多数の国々において、アメリカへの評価が一貫して悪化し、中国への評価が一貫して改善している」と分析している。

 一例として、トランプ政権が掲げた「解放の日(Liberation Day)」政策、すなわち大規模な対中関税政策が挙げられる。これにより、アメリカは貿易戦争の再燃を世界に印象づけた一方で、中国は冷静かつ協調的な姿勢を演出することに成功し、国際社会からの評価を高めた。この「解放の日」政策以降、中国の好感度は顕著に上昇しており、モーニング・コンサルトはこれを「決定的な reputational damage(評判への損害)」と評している。

 また、アメリカのイメージ悪化は経済的にも影響を及ぼしている。具体的には、ホワイトハウスの排他的・反移民的な政策が外国人観光客の米国訪問を敬遠させており、また外国人留学生の受け入れ制限も、米国内の大学や経済界にとっての損失となっている。さらに、共和党の税制改革法案に含まれる特定の規定が、国際的な投資家にとってアメリカ資産の魅力を減じる懸念もある。こうした複数の要素が重なり、米国経済への長期的悪影響が懸念されている。

 一方で、中国の好感度は2020年10月以来ずっとマイナスであったが、2024年の選挙日を契機として回復に転じ、2025年3月以降は急速にプラス圏に入った。この傾向は、特に欧州諸国やアジア新興国において顕著であり、中国が積極的に推進している一帯一路構想(Belt and Road Initiative)や外交的な柔軟性が奏功している可能性がある。

 注目すべきは、41か国のうちロシアだけがアメリカに対する好感度を改善させている点である。これは、米ロ関係の一部改善や、他国とは異なる政治的文脈が影響しているものと考えられる。

 総じて、現在の国際情勢においては、アメリカの国際的リーダーシップと「ソフトパワー」が著しく毀損されつつあり、その空白を中国が着実に埋めようとしている構図が浮かび上がる。これは今後のグローバルな経済・安全保障環境に対しても重大な意味を持つ可能性が高い。

【要点】 

 概要

 ・モーニング・コンサルトの最新調査によれば、中国の国際的好感度が上昇し、アメリカは低下している。

 ・調査対象は41か国(米中両国の自国民を除く)であり、ネット好感度(肯定的評価-否定的評価)を測定している。

 数値的推移

 (1)2024年1月時点

 ・アメリカ:ネット好感度プラス20ポイント以上

 ・中国:ネット好感度マイナス圏

 (2)2025年5月時点

 ・中国:プラス8.8ポイント

 ・アメリカ:マイナス1.5ポイント

 要因分析

 (1)トランプ大統領の再登場(2025年1月)以降、アメリカの評価が急落

 ・就任と同時に、複数の国で同時にアメリカへの好感度が悪化。

 ・唯一、ロシアのみがアメリカに対して好意的な評価を示す。

 (2)「解放の日(Liberation Day)」関税発表

 ・トランプ大統領による対中関税の大規模発表が国際社会に悪印象を与える。

 ・その結果、中国の評価は一気に改善。

 (3)中国の対外姿勢が国際社会に好意的に映る

 ・対米関係で冷静かつ協調的な態度を取っていると受け取られている。

 ・一帯一路構想や国際協調姿勢が影響している可能性がある。

 経済的影響

 (1)アメリカの評価低下が経済損失に直結

 ・外国人観光客の減少。

 ・米国内への外国人留学生数の減少。

 ・投資家によるアメリカ資産離れの懸念(税制改正の影響)。

 (2)海外市場でのアメリカ製品やサービスへの忌避

 ・米国企業の貿易・投資機会の減少。

 ・「アメリカ離れ」が消費者行動に影響。

 総括

 (1)アメリカの「ソフトパワー」が大きく損なわれている

 ・かつての国際的リーダーシップが後退。

 ・その空白を中国が埋めつつあり、グローバルバランスに変化の兆し。

 (2)今後の国際秩序や経済構造にも影響を及ぼす可能性

 ・国際的な影響力の主導権が米中間で再編される局面にある。

【桃源寸評】💚
 
 中国が清朝末期の「百年国恥」と呼ばれる植民地的屈辱の時代を除けば、数千年にわたって軍事・経済・文化の全てにおいて世界的な強国であったことは歴史的事実である。

 現在、その力を「遺憾なく発揮できる実力十分の国家」として再興した中国は、単なる経済的な躍進や軍事力の増強だけでは語れない、独自の「世界に処する考え方」に基づいた戦略的行動をとっている。以下、その特質を歴史的・思想的・地政学的観点から論ずる。

 1. 歴史的連続性と文明国家としての自己認識

 ・中国は「中華文明」という断絶なき文明国家として自他共に認識しており、王朝交代を経ても「天下」「華夷秩序」「大一統」などの世界観が継承されてきた。

 ・この長期的視座により、国家目標は「数十年」ではなく「百年・千年」単位で設計される。

 ・一時的な後退(例:アヘン戦争や文化大革命)すら、歴史的循環の一局面として再解釈される。

 2. 「俯瞰力」としての大局観

 ・中国の政策決定は、短期的な成果よりも長期的安定と秩序形成を重視する傾向がある。

 ・例えば、「一帯一路」構想は単なる経済回廊ではなく、ユーラシアの新秩序構築を念頭に置いた地政学的プロジェクトである。

 ・中国の外交政策は「韜光養晦(とうこうようかい)」― 力を蓄えつつ目立たず機をうかがう ― という戦略的忍耐の哲学を踏まえている。

 3. 西洋近代国家との構造的差異

 ・欧米の近代国家が「主権国家」「自由と権利」「契約的社会秩序」を基盤とするのに対し、中国の統治観は「徳治」「家国同構」「和而不同」といった儒教的・実利的枠組みに基づいている。

 ・すなわち、中国は世界における自国の役割を「覇者」ではなく、「調和の中心」あるいは「文明の源」として位置づける。

 ・このため、中国の外交方針は、国家の大小にかかわらず相手国の主権と尊厳を尊重し、対等な立場での関係構築を重視している。こうした立場は、「主権平等」「内政不干渉」を原則とする国際秩序のあり方と整合的であり、また中国の伝統的な天下観や「和而不同(和して同ぜず)」といった思想とも響き合うものである。

 4. 再興の基盤としての国家統合力と技術的実行力

 ・経済発展は政府主導で行われており、計画経済の経験を応用した「国家資本主義」が功を奏している。

 ・国家目標の実行において、中央集権体制の統率力とテクノクラート的官僚機構が優れた調整能力を発揮している。

 ・例:AI開発・量子通信・電気自動車・5G通信インフラ等の分野で、国家戦略に基づき民間と公的部門が連携して飛躍的進展を遂げている。

 5. 世界秩序の再構築に向けた主体性

 ・中国は既存の国際秩序(アメリカ主導のリベラル秩序)に「挑戦」するというよりも、自らにふさわしいとする「多極秩序」または「文明の共存的秩序」の形成を志向している。

 ・例:BRICS拡大、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、デジタル人民元の国際化、グローバルセキュリティ・イニシアティブ(GSI)など。

 ・これらは、単に西側からの自立を図るのではなく、中国主導の秩序観を提示する試みである。

 6. 総括:文明的ロジックによる戦略国家

 中国は、近代ヨーロッパ的な「国益と勢力均衡」による国際関係観とは異なる、文明単位の視点と俯瞰的歴史観をもって世界を見ている国家である。その長期的視座と全体俯瞰的判断力は、短期利益や情勢変動に左右されにくく、かつ実行力と統合力を伴っている。これは単なる「大国」ではなく、「文明国家」としての中国の再登場を意味している。

 したがって、今日の国際社会が中国の動きを理解するには、従来の西洋的な分析枠組みに頼るだけでは不十分であり、中国特有の思考体系と文明的背景をもって理解しなければならないであろう。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

https://www.axios.com/2025/06/02/china-us-global-opinions AXIOS 2025.06.02
https://www.axios.com/2025/06/02/china-us-global-opinions

米国:医薬品供給を海外に依存しているという現状2025年06月04日 19:17

Microsoft Designerで作成
【概要】

 中国が世界の医薬品産業、特にアモキシシリンなどのジェネリック医薬品の原材料において支配的な地位を占めていることが、ドナルド・トランプ米大統領の関税脅威によって浮き彫りになった。

 アモキシシリンと中国の支配

 アモキシシリンは米国で最も多く処方される抗生物質であり、その原材料の80%を中国が供給している。米国のアモキシシリン製造工場は現在1社のみである。  

 貿易摩擦と米国の依存

 トランプ大統領による医薬品輸入への関税賦課の脅威は、米国が医薬品供給を海外に依存しているという現状に光を当てた。昨年、米国が輸入したヒドロコルチゾン、イブプロフェン、アセトアミノフェンの90%以上が中国からのものであった。専門家は、貿易戦争が激化した場合、中国がこの依存関係を交渉の材料として利用する可能性があると警鐘を鳴らしている。

 国家安全保障上の懸念

 米中経済安全保障審査委員会(USCC)のリーランド・ミラー委員は、中国が米国の医薬品供給において「チョークポイント」を握っていることは「米国の安全保障にとって有害」だと指摘している。中国は今のところ、医薬品産業における支配的地位を武器にすると公に脅迫してはいないが、関税が課されれば既存の医薬品不足を悪化させ、米国人の価格上昇を招く可能性がある。

 ジェネリック医薬品とサプライチェーンの現状

 米国で処方される医薬品の90%を占めるジェネリック医薬品の多くはインドで生産されているが、その原材料は中国から輸入されている場合が多い。製薬会社は情報の開示に積極的でないため、米国が中国の医薬品にどの程度依存しているかについての包括的なデータは不足している。

 中国の台頭の背景

 中国が世界の医薬品サプライチェーンにおいて支配的な役割を果たすようになったのは、数十年にわたる低コスト生産の追求が原因である。医薬品メーカーは生産拠点を欧米諸国から中国やインドに移した。特に中国は、医薬品の有効成分(API)の製造に必要な重要化学物質である「キー・スターティング・マテリアルズ(KSM)」の生産において大きな役割を担っている。米国食品医薬品局(FDA)へのAPI製造業者申請の82%は中国とインドが占めている。

 また、2000年代初頭からの中国政府による医薬品セクターへの政策的インセンティブや補助金も、中国の医薬品産業の発展を後押しした。さらに、米国やEUで環境規制が厳しくなる中、医薬品生産に伴う環境負荷の低さも中国の台頭に貢献した。世界最大のジェネリック医薬品供給国であるインドでさえ、APIやその他の主要成分の70%を中国から輸入している。

 中国政府の戦略

 2015年には、習近平国家主席が「中国製造2025」産業戦略を発表し、バイオ医薬品と先端医療製品を主要な開発セクターと位置づけた。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、世界の医薬品供給が中国に依存していることを浮き彫りにし、中国政府にその支配的地位が持つ戦略的利点を再認識させることとなった。2020年には習近平国家主席が、中国は「世界的な産業チェーンの中国への依存を強化し、意図的な外部からの供給遮断に対する強力な対抗措置と抑止能力を構築する」必要があると述べた。

 関税の有効性への疑問

 トランプ大統領は医薬品生産の国内回帰(オンショアリング)を目指しているが、専門家は関税がその目標達成に貢献する可能性は低いと見ている。ジェネリック医薬品は価格競争が激しいため、関税は医療費を押し上げ、既存の医薬品不足を悪化させ、ジェネリック医薬品メーカーを米国市場から撤退させる可能性がある。国内に生産施設を建設するにしても、数年かかる見込みである。

 製薬ロビー団体「米国製薬研究者・製造者協会(PhRMA)」が委託した調査によると、25%の関税が課されると、輸入医薬品のコストは年間508億ドル増加し、消費者に転嫁された場合、価格は12.9%上昇する可能性がある。INGの調査では、一般的なジェネリックがん治療薬に25%の関税が課された場合、24週間分の処方で最大1万ドル価格が上昇する可能性があるという。

 専門家は、医薬品の国内回帰には関税以外のインセンティブが必要であると提言している。他の産業とは異なり、医薬品の供給中断や不足は人命に関わる結果をもたらす可能性があると指摘されている。
トランプ米大統領が医薬品輸入に対する関税をちらつかせていることで、世界の製薬産業における中国の強い支配力が浮き彫りになった。

 以下は記事の主な要点である。

 ・アモキシシリンの事例: 米国で最も処方されている抗生物質であるアモキシシリンは、米国に製造元が1社しかなく、その生産に必要な原材料の80%を中国が支配している。

 ・米国の中国への依存: 昨年、米国が輸入したヒドロコルチゾン(かゆみ止めクリームの有効成分)の96%、イブプロフェン(市販の鎮痛剤)の90%、アセトアミノフェン(他の種類の鎮痛剤)の73%が中国からのものだった。

 ・潜在的な脆弱性: 専門家は、貿易戦争がエスカレートした場合、中国がこの医薬品供給への依存を交渉の切り札として利用する可能性があると警告している。

 ・サプライチェーンのチョークポイント: 米中経済安全保障審査委員会のリーランド・ミラー委員は、中国が米国の医薬品サプライチェーンにおいて握る「チョークポイント」が「米国の安全保障にとって有害である」と指摘する。

 ・関税の影響: トランプ氏が医薬品関税を課した場合、既存の医薬品不足を悪化させ、米国人の薬価を高騰させる可能性がある。これは、トランプ氏が掲げる医療費削減の公約と矛盾する。

 ・ジェネリック医薬品: 米国の処方箋の90%を占めるジェネリック医薬品の多くはインドで生産されているが、その原材料は中国から輸入されることが多い。

 ・データ不足: 業界関係者や専門家は、米国が中国の医薬品に大きく依存していることを広く認識しているものの、製薬業界全体の依存度に関する包括的なデータは不足している。これは、大手製薬会社がそのような情報を開示するインセンティブが少ないためである。

 ・国家安全保障上の懸念: トランプ政権は、国家安全保障上の理由から製薬輸入に関税を課すための調査を開始した。アモキシシリンの事例は、世界が中国の「政治的または経済的気まぐれ」に対してどれほど脆弱であるかを明確に示している。

 ・国内生産の困難さ: 関税は、ジェネリック医薬品の国内生産(オンショアリング)という目標達成には繋がりにくいと専門家は指摘する。ジェネリック医薬品は価格が主な差別化要因であり、利益率が低いため、国内に施設を建設するには何年もかかる可能性がある。

 ・中国の優位性: 中国が世界の医薬品サプライチェーンで優位に立つのは、世界的な工場としての地位の一部である。低コストを追求した結果、製薬会社は生産拠点を西側諸国から中国やインドに移してきた。

 ・API(原薬)生産の支配: 中国は、医薬品の有効成分であるAPI(原薬)の生産に必要な重要な化学化合物(KSM:キー・スターティング・マテリアル)の生産において大きな役割を担っている。米国食品医薬品局(FDA)へのAPI製造業者申請の82%は中国とインドが占めており、近年は中国の割合が上昇している。

 ・中国政府の支援: 中国政府は2000年代初頭から製薬部門に対する政策的インセンティブや補助金を提供し、国内に産業クラスターを形成させた。これにより、中国はジェネリック医薬品とAPIの生産にとって理想的な場所となった。

 ・環境規制の影響: 米国や欧州連合では環境規制が厳しいため、医薬品生産の環境への影響も中国の台頭に貢献した。

 ・インドの中国依存: 世界最大のジェネリック医薬品供給国であるインドも、APIやその他の主要成分を中国に依存しており、API輸入の70%が中国からのものである。

 ・中国の国家戦略: 2015年に習近平国家主席が発表した「中国製造2025」産業戦略では、バイオ医薬品と先端医療製品が主要な開発分野として挙げられた。新型コロナウイルスのパンデミックは、中国の医薬品供給における支配力がもたらす戦略的優位性を再認識させた。

 ・関税以外のインセンティブの必要性: 専門家は、関税ではなく、より強靭な医薬品サプライチェーンを構築するためには、関税以外のインセンティブが必要であると主張する。医薬品の供給途絶や不足は、人命に関わる深刻な結果を招く可能性があるためである。

【詳細】 
 
 トランプ米大統領が医薬品輸入に対する関税の可能性を示唆したことで、世界の製薬産業における中国の圧倒的な影響力が改めてクローズアップされている。この問題は、単なる貿易紛争の枠を超え、国家安全保障、公衆衛生、そして医療費にまで及ぶ複雑な様相を呈している。

 中国の支配力の詳細

 記事が指摘するように、中国の医薬品産業における支配力は多岐にわたる。

 ・原材料の寡占: 最も顕著な例は、米国で最も処方される抗生物質であるアモキシシリンである。この薬の生産に必要な原材料の80%を中国が供給している。これは、米国の唯一のアモキシシリン製造業者であるUSAntibioticsのCEO、リック・ジャクソン氏が「中国がサプライチェーン支配力を武器化すれば、壊滅的な影響をもたらす可能性がある」と警鐘を鳴らしていることからも明らかだ。他にも、ヒドロコルチゾン(かゆみ止め)、イブプロフェン(鎮痛剤)、アセトアミノフェン(鎮痛剤)などの主要な医薬品の有効成分(API)やその前駆体(KSM:キー・スターティング・マテリアル)の多くも中国からの輸入に大きく依存している。

 ・低コスト生産: 中国は、数十年にわたる低コスト生産戦略により、「世界の工場」としての地位を確立してきた。医薬品メーカーは、生産コスト削減を追求する中で、製造拠点を欧米から中国やインドに移してきた。特に、中国は労働コストが安く、大規模な産業クラスターが形成されているため、効率的な生産が可能となり、ジェネリック医薬品やAPIの製造において価格競争力を獲得した。

 ・政府の政策的支援: 中国政府は、2000年代初頭から製薬部門に対する手厚い政策的インセンティブや補助金を提供してきた。2015年に発表された「中国製造2025」産業戦略では、バイオ医薬品や先端医療製品が重点開発分野に指定され、外国技術への依存度を減らし、自国の産業力を強化する明確な目標が掲げられた。これは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、医薬品供給における中国の優位性が戦略的な強みとなることが浮き彫りになったことで、さらに加速している。中国は、世界の産業チェーンを中国への依存度を高めることで、外部からの供給遮断に対する強力な対抗策を構築しようとしている。

 ・環境規制の違い: 米国や欧州連合に比べて中国の環境規制が緩やかであることも、医薬品生産、特に化学物質を多用するAPI製造におけるコスト優位性に繋がっている。

 米国および国際社会への影響

 中国の支配力は、米国および国際社会に複数の脆弱性をもたらしている。

 ・サプライチェーンの脆弱性: 中国が医薬品供給を政治的・経済的な「武器」として利用した場合、医薬品不足が深刻化し、公衆衛生上の危機を招く可能性がある。特に、アモキシシリンのような必須医薬品の供給が途絶えれば、細菌感染症の蔓延に十分に対応できなくなる恐れがある。

 ・交渉力への影響: 米国は、中国の医薬品供給における支配力により、貿易交渉や地政学的な問題において、中国に対する交渉力が制約される可能性がある。

 ・ジェネリック医薬品市場への影響: ジェネリック医薬品は、ブランド医薬品に比べて価格がはるかに安く、米国で処方される医薬品の90%を占めている。インドは多くのジェネリック医薬品を生産しているが、その原材料の70%は中国から輸入しているため、中国の供給網に大きな影響を受ける。トランプ氏が提案する関税が課せられた場合、ジェネリック

 ・医薬品のコストが上昇し、すでに逼迫している医薬品不足がさらに悪化する可能性がある。利益率の低いジェネリック医薬品メーカーは、関税によるコスト増を吸収できず、米国市場から撤退する可能性も指摘されている。
医療費の高騰: 関税が導入されれば、輸入医薬品のコストが増加し、最終的には保険会社、雇用主、そして患者自身がその費用を負担することになる。試算では、25%の関税が課されると、輸入医薬品のコストが年間508億ドル増加し、価格が12.9%上昇する可能性があるとされている。これは、特に低所得者や医療保険に加入していない患者にとって大きな負担となる。

 米国の対応と課題

 米国は、医薬品生産の国内回帰(オンショアリング)を目指しているが、その道のりは容易ではない。

 ・国内回帰の難しさ: ジェネリック医薬品の生産を米国に回帰させることは、コストの面で非常に難しい。ブランド医薬品とは異なり、ジェネリック医薬品は価格競争が激しく、利益率が低いため、高コストの米国で生産することは現実的ではない。また、医薬品製造施設の建設には数年を要し、多額の投資が必要となる。

 ・関税の限界: 関税は、国内生産を促すというよりも、むしろ既存のサプライチェーンを混乱させ、医薬品不足を悪化させる可能性が高い。専門家は、関税以外の、より戦略的なインセンティブ(例えば、国内生産に対する補助金や税制優遇措置など)が必要であると提言している。

 医薬品は人命に関わる重要な製品であり、その供給は安定していなければならない。中国の医薬品産業における支配力は、世界的な公衆衛生の安全保障にとって無視できない課題であり、各国はサプライチェーンの多様化と国内生産能力の強化に向けた、より包括的な戦略を模索する必要がある。

【要点】 

 トランプ米大統領が医薬品輸入に対する関税を示唆したことで、世界の製薬産業における中国の圧倒的な支配力が浮き彫りになり、いくつかの重要な問題が提起されている。

 中国の医薬品産業における支配力

 (1)原材料の寡占

 ・米国で最も処方される抗生物質であるアモキシシリンの生産に必要な原材料の**80%**を中国が供給しています。

 ・米国が輸入するヒドロコルチゾン(かゆみ止め)、イブプロフェン(鎮痛剤)、アセトアミノフェン(鎮痛剤)などの主要な有効成分(API)も、大半が中国からのものである。

 (2)低コスト生産と効率性

 ・中国は、労働コストの安さと大規模な産業クラスターの形成により、低コストで効率的な生産を実現し、世界的な工場としての地位を確立した。

 ・これにより、ジェネリック医薬品やAPIの製造において圧倒的な価格競争力を獲得している。

 (3)政府の政策的支援

 ・中国政府は、2000年代初頭から製薬部門に対し手厚い補助金やインセンティブを提供してきた。

 ・「中国製造2025」産業戦略では、バイオ医薬品や先端医療製品を重点開発分野に指定し、国内産業の強化と外国技術への依存度低減を明確に掲げている。

 ・新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、医薬品供給における中国の優位性が戦略的な強みであることを再認識させた。

 米国および国際社会への影響

 (1)サプライチェーンの脆弱性

 ・中国が医薬品供給を政治的・経済的な武器として利用した場合、医薬品不足が深刻化し、公衆衛生上の危機を招く可能性がある。

 ・アモキシシリンのような必須医薬品の供給途絶は、細菌感染症の蔓延に十分に対応できない事態を引き起こしかねない。

 (3)交渉力への影響

 ・米国は、中国の医薬品供給における支配力により、貿易交渉や地政学的な問題において、中国に対する交渉力が制約される可能性がある。

 (2)ジェネリック医薬品市場への影響

 ・ジェネリック医薬品は米国の処方箋の90%を占めますが、その多くはインドで生産され、さらにその原材料の70%は中国から輸入されている。

 ・トランプ氏が提案する関税が課せられた場合、ジェネリック医薬品のコストが上昇し、すでに逼迫している医薬品不足がさらに悪化する可能性がある。

 ・利益率の低いジェネリック医薬品メーカーは、関税によるコスト増を吸収できず、米国市場から撤退する可能性も指摘されている。

 (3)医療費の高騰

 ・関税が導入されれば、輸入医薬品のコストが増加し、最終的に患者自身の医療費負担が増大することになる。

 米国の対応と課題

 (1)国内生産(オンショアリング)の難しさ

 ・ジェネリック医薬品の生産を米国に回帰させることは、コストの面で非常に困難である。低価格が強みのジェネリック医薬品は、高コストの米国で生産すると競争力を失う。

 ・医薬品製造施設の建設には多額の投資と数年単位の時間が必要である。

 (2)関税の限界

 ・関税は、国内生産を促すというよりも、サプライチェーンを混乱させ、医薬品不足を悪化させる可能性が高いと専門家は指摘している。

 ・より強靭な医薬品サプライチェーンを構築するためには、関税ではなく、国内生産に対する補助金や税制優遇措置など、戦略的なインセンティブが必要であると提言されている。

 医薬品は人命に関わる製品であり、その安定供給はグローバルな公衆衛生の安全保障にとって極めて重要である。各国は、サプライチェーンの多様化と国内生産能力の強化に向けた、より包括的な戦略を模索する必要があるだろう。

【桃源寸評】💚
 
 無謀な関税戦争:米国の場当たり的な政策決定

 米国の医薬品輸入に対する関税政策は、まるで詳細な分析や練られた戦略がないかのように見える。現状がここまで中国への深い依存を示しているにもかかわらず、なぜこのような無謀な関税戦争を仕掛けるのだろうか。その発想は、あまりにも場当たり的で、長期的な視点に欠けていると言わざるを得ない。

 アモキシシリンのような基本的な抗生物質でさえ、その原材料の8割を中国に依存している現実がある。さらに、一般的な鎮痛剤の主成分であるイブプロフェンやアセトアミノフェン、かゆみ止めのヒドロコルチゾンといった、日常生活に不可欠な医薬品のほとんども中国からの輸入に頼っている。このような状況で関税を課すことは、単に国内の医薬品価格を釣り上げ、すでに存在する薬不足をさらに悪化させるだけである。

 ジェネリック医薬品は、多くの米国人にとって医療費を抑えるための生命線である。これらの薬は、ブランド薬よりもはるかに安価であり、処方箋の大部分を占めている。しかし、その多くが中国製の原材料に依存しているため、関税が導入されれば、貧しい人々や保険に加入していない人々が薬を手に入れられなくなる可能性がある。利益率の低いジェネリック医薬品メーカーは、コスト増を吸収できず、米国市場から撤退することすら考えられる。

 国内での医薬品生産を促すという目標は理解できる。しかし、関税という手段が、この目標達成にどれほど有効なのかは疑問です。医薬品工場の建設には莫大な費用と長い年月がかかり、現在のサプライチェーンを簡単に変えられるものではありません。中国の低コスト生産と政府の手厚い支援に対抗するには、関税よりも、例えば国内生産への補助金や税制優遇といった、より賢明で長期的なインセンティブが必要です。

 医薬品の供給は、単なる経済活動ではなく、人々の命に関わる問題である。それにもかかわらず、米国が現状を十分に把握せず、場当たり的な「関税の壁」で全てを解決しようとする発想は、あまりにも短絡的である。これは、自国民の健康と安全を危険に晒す、無責任な政策と言えるだろう。

 米国は、医薬品供給のような地球規模の課題において、協力よりも対立の道を選んでいるように見える。これは、世界平和と繁栄の基盤であるはずの協調関係を蝕み、かえって世界情勢を悪化させる元凶となっているのである。

 中国が医薬品の原材料供給において大きな役割を担っているのは、単なる敵対的な戦略ではなく、長年の国際協力と分業の結果として発展してきた側面がある。世界中の企業が効率性とコスト削減を追求した結果、中国がその一端を担うことになったのである。しかし、米国はこうした背景にある「善意」とも言える協力関係を逆手に取り、自国の安全保障上の懸念を一方的に主張し、中国を不当に非難しているように映る。

 医薬品は、人々の命を支える不可欠なものである。その供給網を政治的な駆け引きの道具とすることは、あまりにも短絡的で危険な行為である。米国が関税という攻撃的な手段に訴えることは、既存のサプライチェーンを混乱させ、薬の価格を高騰させ、結果として世界中の病に苦しむ人々にさらなる負担を強いることになる。

 平和な世界を築くためには、互いに協力し、共通の課題に取り組む姿勢が不可欠である。しかし、米国はまるで冷戦時代の思考から抜け出せないかのように、あらゆる分野で「敵対者」を作り出し、対立を煽っている。この姿勢は、単に医薬品の問題にとどまらず、気候変動や貧困といった地球規模の危機に対する国際社会の協調的な取り組みを阻害するものである。

 米国が真に世界のリーダーシップを担うのであれば、他国との協力を基本とし、平和的な解決策を模索すべきです。しかし、現状の政策は、残念ながらその逆を行っており、世界をより不安定で危険な場所へと押しやっていると言わざるを得ない。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

Trump’s tariff threat exposes China’s tight grip on the global pharmaceuticals industry CNN 2025.06.03
https://edition.cnn.com/2025/06/03/business/trump-tariffs-china-pharmaceuticals-intl-hnk?utm_term=17490299091652ca1b55e3c6a&utm_source=cnn_Meanwhile+in+China+2025-06-04&utm_medium=email&bt_ee=7kwAyycrz1NyUf82ptuO0RxVtnw035ERI7saREK6dTTlGKbkIHQl56%2B3%2Ff43aume&bt_ts=1749029909167

<貧すれば鈍する>か、EU2025年06月04日 20:30

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【概要】

 2025年6月2日(月)、ロイター通信の報道によれば、欧州連合(EU)加盟国は、中国の医療機器企業の公共調達への参加を制限する欧州委員会の提案を支持した。この措置は「国際調達手段(IPI)」と呼ばれる新たな枠組みのもとで初めて発動されるものであり、5年間にわたり、中国企業が500万ユーロ(約5.2百万ドル)を超えるEU域内の入札に参加することを禁止する内容である。

 EUは「世界で最も開かれた市場の一つ」であると主張しているが、実際には近年、保護主義的な方向へと傾きつつある。EUはしばしば一方的な通商措置に頼り、「公正な競争」を掲げつつも実際には不公正な慣行を行っており、二重基準の典型であると指摘されている。

 IPIは「市場の相互主義」を標榜しているが、中国とEUの医療機器分野における深い協力関係という基本的事実を無視している。中国EU商会によれば、欧州の医療機器企業は長年にわたり中国市場に広く参入しており、中国の医療現代化に貢献するとともに、自らも大きな利益を上げてきた。

 一方、米国は最近、EUからの輸入鉄鋼およびアルミニウムに対する関税を50%に引き上げる方針を発表した。これに対しEUは「強い遺憾」を表明し、米国との今後の通商協議において「強い主張を行う」としている。EU自身が米国の通商的強硬姿勢の被害を受けているにもかかわらず、中国企業に対してIPIを用いて制裁的措置をとることは、公平な市場と競争を掲げるEUの主張と矛盾している。

 近年、EU域内では「中国がEU産業に脅威を与えている」との新たな言説が広まっている。北京外国語大学・地域とグローバルガバナンス研究院のCui Hongjian教授は、米国との通商交渉を控えた現在、EUが中国との一部協力を犠牲にして米国から譲歩を引き出そうとする政策を取っていると分析する。教授は、こうした路線は重大な戦略的誤算であり、実質的な成果は得られず、中国とEU間でこれまで築いてきた関係を損ない、結果としてEUが米国の対中戦略の補助的存在にとどまる危険があると警告している。

 医療、技術、グリーン移行といった重要分野において、中国とEUは大きな協力の可能性を有している。米国による国際通商秩序の混乱が進む中、中国とEUの経済協力はむしろ強靱性を保ち、発展を続けてきた。欧州の権威ある報告によれば、2025年第1四半期の中EU間の貿易額は1.3兆元を超え、2024年における中国のEUおよび英国への直接投資額は前年比47%増の100億ユーロとなり、7年ぶりに増加に転じた。

 これらのデータは、中国が欧州に「脅威」ではなく「機会」をもたらしていることを示している。中国は一貫して欧州を対等なパートナーとして見ている。真の協力関係は相互尊重の上に成り立つ。不当に中国を標的とすることで対米交渉における立場を強化しようとする試みは、結果的に逆効果となる可能性が高い。欧州企業の利益や国際通商秩序の維持を考慮するならば、中国との協力を深化させることこそがEUにとって合理的な選択である。

【詳細】 
 
 1. 記事の概要と背景

 2025年6月初旬、欧州連合(EU)の加盟国は、中国の医療機器企業によるEU域内の公共調達市場へのアクセスを制限する提案を支持した。この措置は、EUが導入したばかりの「国際調達手段(International Procurement Instrument, IPI)」に基づくものであり、今後5年間、中国企業は5百万ユーロ(約7.5億円)を超える公共入札に参加することが事実上不可能となる。対象となるのは、医療機器を中心とした分野である。

 この政策の表向きの理由は「市場の相互主義(reciprocity)」の確保である。すなわち、EU企業が中国市場において制限を受けているという前提のもと、中国企業に対しても同様の制限を課すことで「対等な市場アクセス」を目指すとしている。

 しかし、Global Timesはこの主張に対し、実態は逆であると批判している。すなわち、欧州企業は長年にわたり中国の医療市場に大きく進出し、利益を上げており、「相互主義」を理由に中国企業を締め出すのは根拠を欠くとの主張である。

 2. 国際調達手段(IPI)とは何か

 IPIは、EUが2022年に導入した貿易防衛措置の一環である。目的は、EU加盟国が公共調達において、第三国の企業がEU企業に対して不公正な扱いをしていると判断した場合、相手国の企業に対して制限を課す権限を欧州委員会に与える点にある。すなわち、対外的には「報復措置」として機能し得る制度である。

 この制度の初適用が、今回の中国企業の医療機器調達への制限である。つまり、この措置はEUにとって象徴的かつ試験的な適用例であり、その政治的意味合いも大きい。

 3. EUのダブルスタンダードと批判

 Global Timesは、EUがしばしば「開かれた市場」「公正な競争」を掲げている一方で、現実には自国産業を保護するために非関税障壁や制度的措置を導入しており、これは典型的なダブルスタンダード(二重基準)であると批判している。

 特に、医療機器分野においては、欧州の企業――たとえば独シーメンス・ヘルシニアーズや仏ソフィバ――は長年にわたり中国市場で活動し、現地の医療制度の近代化に大きく貢献してきたとされる。こうした協力関係を棚上げにし、中国企業に対して「閉鎖的措置」を取ることは矛盾しているというのが同紙の主張である。

 4. 米国との通商関係との関連

 直近の動きとして、米国はEUから輸入する鉄鋼およびアルミニウムに対して関税を50%へと引き上げる措置を発表した。これに対しEUは反発しており、今後の米EU通商交渉で「強く主張する」と表明している。

 この文脈において、Global Timesは、EUが米国からの圧力に屈して対中政策を変更していると見ている。すなわち、EUが中国をスケープゴートにすることで、対米交渉における「交渉カード」として利用しようとしている可能性を指摘している。

 このような姿勢は、EUが自主的な戦略を持たず、むしろ米国の「対中封じ込め戦略(containment strategy)」に従属する形となり、自らの戦略的利益を損なうものであると分析されている。

 5. Cui Hongjian教授の見解

 北京外国語大学のCui Hongjian教授は、EUの対中政策が「戦略的誤算」であると明言している。教授によれば、EUが中国との経済協力を犠牲にしてまで米国から譲歩を引き出そうとする動きは、実利をもたらすどころか、長期的には中国とEUとの信頼関係を損ね、EUの国際的自立性を弱める結果を招く。

 6. 中国とEUの経済関係の実態

 2025年第1四半期における中国とEU間の貿易総額は1.3兆人民元(約1800億米ドル)を超え、依然として堅調である。さらに、2024年における中国からEUおよび英国への直接投資は100億ユーロに達し、前年比47%増と大幅に伸長した。これは2017年以来、初めての増加である。

 このような実績は、中国とEUの経済的結びつきが依然として強固であり、中国がEUにとって経済的な「脅威」ではなく「機会」であることを示しているとされる。

 7. 総括:真の協力には相互尊重が必要

 Global Timesは、こうした分析を踏まえ、EUが「中国を不当に標的とする」ことによって米国との交渉で優位に立とうとする試みは、結果的には裏目に出ると警告している。欧州の企業利益や国際経済秩序を重視するならば、中国との建設的な協力関係を深化させることが、より合理的な戦略選択であると結論付けている。

【要点】 

 1. 欧州委員会による対中措置

 ・EU加盟国は、中国の医療機器企業を公共調達市場から排除する提案を支持。

 ・対象は「国際調達手段(International Procurement Instrument:IPI)」に基づく初の措置。

 ・5年間にわたり、500万ユーロ(約7.5億円)超の入札案件から中国企業を排除。

 2. EUの建前と実態の乖離

 ・EUは「世界で最も開かれた市場」と自称している。

 ・実際には、近年保護主義的傾向を強め、一方的措置を講じる傾向がある。

 ・「公正な競争」を掲げながら、恣意的な排除政策を取る点で二重基準を行使している。

 3. 医療機器分野における実情

 ・中国EU商会によれば、欧州企業は長年にわたり中国の医療市場で活動。

 ・欧州製医療機器は中国の医療近代化に貢献し、欧州企業も大きな利益を得てきた。

 ・IPIによる制限は、この協力関係の実績を無視したものである。

 4. 米国との貿易摩擦とEUの姿勢

 ・米国はEU産の鉄鋼・アルミに50%の関税を課すと発表。

 ・EUはこれに「強い遺憾」を表明し、対米交渉で強い姿勢を取ると表明。

 ・にもかかわらず、EUは中国に対して制裁的措置を取っており、矛盾がある。

 5. 中国を「交渉カード」とするEUの動き

 ・Cui Hongjian教授は、EUが米国との取引のために中国との協力を犠牲にしていると指摘。

 ・米国からの譲歩を引き出すことは困難であり、EUは戦略的誤算に陥っている。

 ・結果的にEUは米国の対中包囲政策の補助的存在に成り下がる恐れがある。

 6. 経済協力の実態とデータ

 ・2025年Q1における中EU貿易総額は1.3兆元(約1800億ドル)を超過。

 ・2024年の中国からEU・英国への直接投資は前年比47%増の100億ユーロ。

 ・上記は7年ぶりの投資増加であり、中国が「脅威」ではなく「機会」である証左。

 7. 協力の重要性と結論

 ・医療、技術、グリーン移行分野において中EUは協力の余地が広い。

 ・相互尊重に基づく真の協力が必要であり、不当な標的化は関係を損なう。

 ・欧州の利益や国際秩序維持の観点からも、中国との協力深化が合理的選択である。

【桃源寸評】💚
 
 EUによる対中措置が不当であり、戦略的にも自滅的であるとの論調で一貫しており、欧州と中国との経済的・制度的相互依存を踏まえた上で、協力関係の維持・発展こそが両者にとって利益であると主張している。

 EUの政策転換を強く批判しつつ、中国との経済関係の実利を再評価し、協力の継続こそが両者の利益に資するとの立場をとっている。

「貧すれば鈍する」とEUの対中政策に見る構造的問題

 欧州連合(EU)は、地政学的・経済的圧力のなかで、その政策判断において本来の理念や合理性を損ないつつあるように見受けられる。いわゆる「貧すれば鈍する」の成句が暗示するように、経済的・戦略的な余裕を失った主体が短絡的・受動的判断を下しやすくなる傾向が、EUの対外政策に現れていると評せざるを得ない。

 現在のEUは、米国の戦略的影響下に置かれつつ、自律的な政策立案能力を部分的に喪失しているように見える。特に、米国が対中対立をエスカレートさせる中、EUは本来の「多極的世界秩序の構築者」としての立場よりも、米国の通商政策の補完者・従属者として振る舞う場面が増えている。

 中国排除による「代償」と合理性の欠如

 中国企業の公共調達からの排除、さらには中国の「経済的脅威」といったナラティブの急速な拡散は、EU内部における経済不安や産業競争力の低下と密接に結びついている。産業構造改革が遅れ、グリーン移行にも多額の財政支援が必要とされる現在のEUにとって、域外国からの競争圧力は、容易に「脅威」として解釈されやすい。これはまさに「余裕なき選択」が引き起こす認識の歪みである。

 しかしながら、冷静な分析に基づけば、中国とEUの経済関係は「脅威―被害者」構造ではなく、「相互依存―相互利益」構造である。中国市場に深く依存する欧州企業は少なくなく、中国からの投資は地域の雇用創出や技術連携にも貢献している。こうした協力の現実を無視し、短期的な政治的計算のために中国企業を排除することは、自己矛盾的かつ自己損壊的な政策と言える。

 米国依存の限界と戦略的自律の必要性

 EUは、長らく「戦略的自律性(strategic autonomy)」を外交・防衛・経済政策の基本方針として掲げてきた。にもかかわらず、現下の米中対立において、EUが米国の通商政策や地政学的価値観に同調する傾向を強めているのは、理念と実践の乖離を示している。

 米国は自国のインフレ抑制法(IRA)により、欧州のグリーン産業を直接的に圧迫している。また、鉄鋼・アルミニウム関税の引き上げといった一方的措置を取る米国に対し、EUは依然として対抗的行動を控え、「交渉に期待する」という受動的姿勢を維持している。これは、自らのパートナーを選ぶという能動的外交から逸脱していると見るべきである。

 建設的批判と提言

 EUは、経済的な不安定さや内政的圧力によって、自らの原則を犠牲にする方向へと傾斜している。しかし、本来あるべき姿とは、利害の調整と多角的関係の中で最適解を模索し、国際社会におけるバランサーとして機能することである。

 中国を一方的に排除し、米国に過度に依存する現在の政策は、EUの多極主義的原則と矛盾し、長期的には国際的信頼と競争力の低下を招く可能性がある。今こそ、EUは「選択肢を持つ大陸」として、米中双方とのバランスを保ちつつ、自律的にパートナーシップを築く戦略的胆力を示すべきである。

 総括

 「貧すれば鈍する」とは、単なる経済状況の悪化ではなく、思考と判断の劣化をも示唆する警句である。EUがこの状態に陥ることなく、自らの理念と長期的利益に基づいた政策選択を回復し、構造的な米国依存から脱却することが、ヨーロッパの未来にとって最も建設的な道であると考える。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

Unfairly targeting China won’t enhance EU leverage in trade talks with US GT 2025.06.03
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335361.shtml

米国は世界と協調できるのか2025年06月04日 20:52

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【概要】

 米国の関税に直面する韓国自動車産業の回復力

 2025年6月3日のGlobal Timesが報じたところによると、米国の自動車輸入関税にもかかわらず、韓国の自動車メーカーの最新販売実績は、アジアの自動車産業チェーンの顕著な回復力を示している。

 韓国の主要5社の自動車メーカーの2025年5月の世界販売台数は、前年同期比0.3%増の689,311台となり、2ヶ月連続の成長を記録した。国内販売は2.9%減の113,261台であったが、海外販売は0.9%増の576,050台となり、海外販売が韓国自動車部門の成長を支える要となっている。

 米国が2025年4月2日付で自動車輸入に25%の関税を課したという困難な状況下でのこの成果は特に注目に値する。米国市場が韓国の自動車輸出総額の49%を占めることから、韓国の自動車販売は深刻な打撃を受け、急激な減少を経験するのではないかという懸念が広まっていた。しかし、関税実施後のデータは、韓国の自動車販売が予想外の安定性を示し、業界の回復力の強力な証拠となった。

 アジアの自動車サプライチェーンとの深い統合

 韓国自動車産業の中核には、アジアの自動車サプライチェーンとの深い統合がある。このサプライチェーンは、部品調達、精密な車両製造、最先端の技術研究開発(R&D)を効率的に調整することで世界的に評価されている。この地域ネットワークに深く組み込まれることで、韓国の自動車メーカーは近隣諸国や地域との緊密な産業協力を確立し、外部リスクに対する重要な緩衝材を作り出している。

 例えば、現代自動車グループは2022年にインドネシアで新たな自動車工場を稼働させ、2024年には現代とLG Energy Solutionがインドネシアで初の電気自動車用バッテリーセル生産工場を立ち上げた。

 中国企業との協力関係

 特に注目すべきは、韓国の自動車メーカーと中国の自動車メーカーとの間の協力関係であり、これは競争と協力という複雑な新たな力学を特徴としている。一方では、韓国の自動車ブランドは、国内外で中国の自動車メーカーとの間で激しい競争に直面している。他方では、韓国の自動車メーカーの海外販売の一部は、中国の工場によって支えられている。例えば、現代の中国山東省煙台にある工場や起亜の中国江蘇省塩城にある拠点は、両ブランドのグローバル展開の重要な柱となっている。

 この過程において、韓国の自動車メーカーは中国の製造規模、コスト効率、そしてますます高度化するR&D能力を活用してグローバル競争力を最適化し、一方で中国のサプライヤーとパートナーは協力関係を通じて経験を積み、国際市場に拡大している。

 さらに、外部からの圧力は、この絆を破壊するどころか、協力を加速させている。2025年4月には、KGモビリティが中国の自動車メーカーである奇瑞とスポーツ用多目的車(SUV)の共同開発に関する合意を締結した。この協力は、技術R&Dと市場拡大における双方の共通のニーズに対応するだけでなく、アジアの自動車産業チェーン内の企業間の相互依存と相互成長の関係を強調している。

 米国による関税圧力の激化とグローバル自動車市場競争の激化に直面し、アジアの自動車メーカーは新たな成長機会を求めてより広範な国際市場に目を向けている。この状況において、地域プレーヤー間の協力の実践的な必要性と戦略的価値は、縮小するどころか、実際に拡大している。

【詳細】 
 
 米国の関税に直面する韓国自動車産業の回復力

 2025年6月3日のGlobal Timesの報道によれば、米国が自動車輸入に関税を課しているにもかかわらず、韓国の自動車メーカーの最近の販売実績は、アジアの自動車産業チェーンが非常に強い回復力を持っていることを示している。

 韓国の主要5社の自動車メーカーの2025年5月の世界販売台数は、前年同月比で0.3%増加し、689,311台に達した。これは2ヶ月連続の成長である。内訳を見ると、国内販売は2.9%減の113,261台だったが、海外販売は0.9%増の576,050台となり、韓国自動車部門の成長を支える主要な柱となっている。

 この成果は、特に困難な状況下で達成されたため、注目に値する。米国は2025年4月2日から自動車輸入に25%の関税を課している。米国市場は韓国の自動車輸出総額の49%を占めるため、韓国の自動車販売は深刻な打撃を受け、急激な減少に見舞われるのではないかという懸念が広く存在した。しかし、関税導入後のデータは、韓国の自動車販売が予想外の安定性を示し、業界の回復力を強く裏付ける結果となった。

 アジアの自動車サプライチェーンとの深い統合が鍵

 韓国自動車産業の中核にあるのは、アジアの自動車サプライチェーンとの深い統合である。このサプライチェーンは、効率的な部品調達、精密な車両製造、そして最先端の技術研究開発(R&D)を調整する能力で世界的に高い評価を得ている。韓国の自動車メーカーは、この地域ネットワークに深く組み込まれることで、近隣諸国や地域との緊密な産業協力を確立し、外部リスクに対する重要な緩衝材を作り上げている。

 例えば、現代自動車グループは2022年にインドネシアに新しい自動車工場を建設した。さらに、2024年には現代とLG Energy Solutionが、インドネシアで初となる電気自動車用バッテリーセル生産工場を立ち上げている。

 中国企業との複雑な協力関係

 特に注目すべきは、韓国の自動車メーカーと中国の自動車メーカーとの間の協力関係だ。これは競争と協力という複雑で新しい力学を特徴としている。一方で、韓国の自動車ブランドは、国内外で中国の自動車メーカーとの間でますます激しい競争に直面している。しかし、他方では、韓国の自動車メーカーの海外販売の一部は、中国にある工場によって支えられている。例えば、現代の中国山東省煙台にある工場や、起亜の中国江蘇省塩城にある拠点は、両ブランドのグローバル展開において重要な柱となっている。

 この過程で、韓国の自動車メーカーは中国の製造規模、コスト効率、そしてますます高度化するR&D能力を活用してグローバルな競争力を最適化している。同時に、中国のサプライヤーやパートナーも、この協力関係を通じて経験を積み、国際市場へと事業を拡大している。

 さらに、外部からの圧力は、この関係を分断するどころか、協力を加速させている。2025年4月には、KGモビリティが中国の自動車メーカーである奇瑞と、スポーツ用多目的車(SUV)の共同開発に関する合意を締結した。この協力は、技術R&Dと市場拡大における双方の共通のニーズに対応するだけでなく、アジアの自動車産業チェーン内の企業間の相互依存と相互成長の関係を明確に示している。

 米国による関税圧力の激化とグローバル自動車市場競争の激化に直面し、アジアの自動車メーカーは新たな成長機会を求めて、より広範な国際市場に目を向けている。このような状況下で、地域内の企業間協力の必要性と戦略的価値は、減少するどころか、実際に拡大していると言えるだろう。

【要点】 

 米国関税下での韓国自動車販売の現状と回復力

 (1)世界販売の成長

 ・2025年5月の韓国主要5社の自動車メーカーの世界販売台数は689,311台で、前年同月比0.3%増加した。

 ・これは2ヶ月連続の成長である。

 (2)海外販売が成長を牽引:

 ・国内販売は2.9%減の113,261台だったが、海外販売は0.9%増の576,050台となり、全体の成長を支えた。

 (3)関税の影響を乗り越える

 ・米国は2025年4月2日から自動車輸入に25%の関税を課している。

 ・米国市場は韓国の自動車輸出の49%を占めるため、販売への懸念が広まっていたが、データは予想外の安定性を示し、業界の回復力を証明した。

 アジアの自動車サプライチェーンとの統合の重要性

 (1)サプライチェーンの中核

 ・韓国自動車産業は、アジアの自動車サプライチェーンに深く統合されている。

 ・このサプライチェーンは、効率的な部品調達、精密な車両製造、最先端のR&Dで世界的に評価されている。

 (3)外部リスクへの緩衝材

 ・地域ネットワークに深く組み込まれることで、韓国メーカーは近隣諸国や地域との緊密な協力を確立し、外部リスクに対する重要な緩衝材を構築している。

 (4)具体的な投資事例

 ・現代自動車グループは2022年にインドネシアで新工場を稼働させた。

 ・2024年には、現代とLG Energy Solutionがインドネシアで初のEV用バッテリーセル生産工場を立ち上げた。

 中国企業との協力関係の深化

 (1)競争と協力の共存

 ・韓国と中国の自動車メーカーの間には、競争と協力が混在する複雑な関係がある。

 ・韓国ブランドは中国メーカーとの競争に直面しつつも、海外販売の一部は中国にある工場(例: 現代の煙台工場、起亜の塩城拠点)に支えられている。

 (2)中国の強みを活用

 ・韓国メーカーは中国の製造規模、コスト効率、R&D能力を活用してグローバル競争力を最適化している。

 ・中国のサプライヤーやパートナーも、この協力を通じて経験を積み、国際市場へと拡大している。

 (3)外部圧力による協力加速

 ・外部からの圧力は、関係を分断するどころか、協力を加速させている。

 ・2025年4月には、KGモビリティが中国の奇瑞とSUVの共同開発で合意した。

 (4)地域協力の価値

 ・この協力は、技術R&Dと市場拡大における双方のニーズに応えるだけでなく、アジアの自動車産業チェーン内の相互依存と相互成長を示している。

 ・米国関税やグローバル競争激化の中、アジア域内での協力は戦略的な価値を増している。

【桃源寸評】💚
 
 米国は世界の現状を再認識し、非建設的な政策を見直すべき

 現在の国際情勢において、米国がこれまで採用してきた一部の非建設的な政策は、グローバルな安定と協力関係に逆行する影響を及ぼしている。世界の現状をより深く理解し、それに基づいた政策転換を行うことは、米国自身の利益にとっても、また国際社会全体の利益にとっても不可欠である。

 一国主義的保護主義の限界と影響

 米国が近年強めている保護主義的な政策、特に高関税や貿易障壁の導入は、グローバル経済の分断を招きかねない。例えば、特定の国からの自動車輸入に対する高関税は、関税を課された国の産業に打撃を与えるだけでなく、世界のサプライチェーン全体に不確実性をもたらす。この問題は、本日(2025年6月4日)も言及されている韓国自動車産業の事例に見られるように、意図せずともアジアの自動車産業チェーンをかえって強化するような形で、米国の政策が当初の目的とは異なる結果を生む可能性を示唆している。

 こうした政策は、米国国内の特定の産業を保護する意図があるとしても、その代償として消費者の選択肢を狭め、価格を上昇させ、長期的には国際的な競争力を損なうリスクを伴う。また、報復関税の連鎖を引き起こし、世界貿易全体の縮小を招くことで、どの国にとっても好ましくない結果をもたらしかねない。

 同盟関係の再構築と多国間主義への回帰

 米国はこれまで、多国間主義と国際協調の枠組みの中で世界をリードしてきた歴史がある。しかし、近年の一国主義的な傾向は、長年にわたって培ってきた同盟関係に緊張をもたらしている。同盟国に対する一方的な要求や、安全保障上の負担転嫁は、相互の信頼を損ない、共通の課題に対する協力体制を弱体化させる。

 気候変動、パンデミック、サイバーセキュリティといった今日のグローバルな課題は、いかなる一国も単独で解決できるものではない。これらの問題に対処するためには、米国が再び多国間主義の旗手となり、同盟国やパートナー国との対話を強化し、共通の解決策を模索する姿勢を示すことが求められる。具体的な行動として、既存の国際機関や枠組みへの積極的な関与を再強化し、各国の立場を尊重した上での合意形成に尽力すべきである。

 分断ではなく協調を促すリーダーシップへ

 現在の世界は、地政学的緊張、経済格差、そして地球規模の危機が複雑に絡み合っている。このような状況下で、米国が取るべきは、分断を深める政策ではなく、協調と安定を促すリーダーシップである。

 過去の成功体験に固執せず、変化する世界の現実を冷静に評価し、非建設的な政策を大胆に見直すこと。それが、国際社会からの信頼を回復し、真の意味でのグローバルリーダーとしての役割を再構築するために、米国が取り組むべき喫緊の課題である。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

GT Voice: SK auto sales highlight resilience of Asia’s vehicle industrial chain GT 2025.06.03
https://www.globaltimes.cn/page/202506/1335357.shtml