中国の国際的な好感度上昇 ― 2025年06月04日 18:43
【概要】
モーニング・コンサルトによる分析によれば、アメリカの国際的な好感度が低下する一方で、中国の好感度が上昇している。これは、アメリカの通商政策が中国の国際的な立場を強化する結果となっており、その影響はすでに経済面において現れている。
特に、ホワイトハウスの政策に否定的な外国人観光客の減少や、ドルの信頼性低下などが挙げられる。加えて、アメリカ企業の海外市場での貿易や投資の機会も、現地消費者による米国製品の忌避により損なわれつつあるという。
モーニング・コンサルトの政治インテリジェンス責任者であるジェイソン・マクマン氏は、「アメリカに対する評価が悪化する中で、米国企業の海外ビジネスチャンスも減少する可能性がある」と述べている。
さらに、共和党の税制改革法案に含まれる特定の条項が、米国資産への需要を減退させる懸念もあり、また外国人留学生の受け入れ制限による経済的損失も指摘されている。
2025年5月には、中国のネット好感度は8.8ポイントであるのに対し、アメリカはマイナス1.5ポイントであった。これは、同月にモーニング・コンサルトが実施した調査に基づいており、アクシオスに独占的に提供されたデータである。
2024年1月時点では、アメリカの好感度は20ポイントを超えており、中国はマイナスであった。この変化は、両国に対する国際的な見方が大きく転換していることを示している。
モーニング・コンサルトの調査は、カナダ、フランス、日本、ロシア、イギリスなど41か国の成人を対象に行われた。調査は、各国の「ネット好感度」、すなわち肯定的評価から否定的評価を引いた数値をもとにしている。
アメリカの国際的な評価は昨年までは概ね良好であったが、2025年1月にトランプ大統領が再び就任して以降、急激に低下した。マクマン氏によれば、「2025年1月以降、大多数の国でアメリカに対する見方が悪化し、中国に対する見方が改善している。アメリカに対して有意な好感度上昇が見られるのはロシアのみである」と述べている。
一方で、中国の好感度は2020年10月以降、継続的にマイナス圏にあったが、昨年の選挙日以降に改善し始め、2025年3月以降は急速に上昇傾向を示している。特に、トランプ大統領による「解放の日(Liberation Day)」関税発表以降に顕著な上昇がみられた。
報告書によれば、「『解放の日』に発表された関税政策は、アメリカの評判に対する決定的なダメージとなった」と結論づけている。
【詳細】
本報告は、米国の調査会社モーニング・コンサルト(Morning Consult)が行った国際的な世論調査の分析結果に基づいている。この調査は、2025年5月時点における41か国における中国およびアメリカ合衆国に対する「ネット好感度(Net Favorability)」の変化を追跡したものである。ネット好感度とは、ある国に対して「好意的」と回答した割合から「否定的」と回答した割合を差し引いた数値である。
今回の調査では、中国のネット好感度はプラス8.8ポイント、アメリカはマイナス1.5ポイントであった。この数値は、米中両国の国民を除いた対象国(オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、メキシコ、ロシア、韓国、スペイン、英国など)において計測されたものである。つまり、第三国の視点から見た両国の相対的な評価である。
重要なのは、2024年1月にはアメリカのネット好感度はプラス20ポイント以上、中国はマイナス圏にあったという点である。これは、わずか1年半程度の間に国際社会の米中両国に対するイメージが逆転したことを意味する。
このような変化の背景には、アメリカの外交および通商政策の影響があると指摘されている。特に、2025年1月にドナルド・トランプ前大統領が政権に復帰して以降、アメリカの国際的な評価が急落した。モーニング・コンサルトの政治インテリジェンス責任者であるジェイソン・マクマン氏は、「2025年1月以降、大多数の国々において、アメリカへの評価が一貫して悪化し、中国への評価が一貫して改善している」と分析している。
一例として、トランプ政権が掲げた「解放の日(Liberation Day)」政策、すなわち大規模な対中関税政策が挙げられる。これにより、アメリカは貿易戦争の再燃を世界に印象づけた一方で、中国は冷静かつ協調的な姿勢を演出することに成功し、国際社会からの評価を高めた。この「解放の日」政策以降、中国の好感度は顕著に上昇しており、モーニング・コンサルトはこれを「決定的な reputational damage(評判への損害)」と評している。
また、アメリカのイメージ悪化は経済的にも影響を及ぼしている。具体的には、ホワイトハウスの排他的・反移民的な政策が外国人観光客の米国訪問を敬遠させており、また外国人留学生の受け入れ制限も、米国内の大学や経済界にとっての損失となっている。さらに、共和党の税制改革法案に含まれる特定の規定が、国際的な投資家にとってアメリカ資産の魅力を減じる懸念もある。こうした複数の要素が重なり、米国経済への長期的悪影響が懸念されている。
一方で、中国の好感度は2020年10月以来ずっとマイナスであったが、2024年の選挙日を契機として回復に転じ、2025年3月以降は急速にプラス圏に入った。この傾向は、特に欧州諸国やアジア新興国において顕著であり、中国が積極的に推進している一帯一路構想(Belt and Road Initiative)や外交的な柔軟性が奏功している可能性がある。
注目すべきは、41か国のうちロシアだけがアメリカに対する好感度を改善させている点である。これは、米ロ関係の一部改善や、他国とは異なる政治的文脈が影響しているものと考えられる。
総じて、現在の国際情勢においては、アメリカの国際的リーダーシップと「ソフトパワー」が著しく毀損されつつあり、その空白を中国が着実に埋めようとしている構図が浮かび上がる。これは今後のグローバルな経済・安全保障環境に対しても重大な意味を持つ可能性が高い。
【要点】
概要
・モーニング・コンサルトの最新調査によれば、中国の国際的好感度が上昇し、アメリカは低下している。
・調査対象は41か国(米中両国の自国民を除く)であり、ネット好感度(肯定的評価-否定的評価)を測定している。
数値的推移
(1)2024年1月時点
・アメリカ:ネット好感度プラス20ポイント以上
・中国:ネット好感度マイナス圏
(2)2025年5月時点
・中国:プラス8.8ポイント
・アメリカ:マイナス1.5ポイント
要因分析
(1)トランプ大統領の再登場(2025年1月)以降、アメリカの評価が急落
・就任と同時に、複数の国で同時にアメリカへの好感度が悪化。
・唯一、ロシアのみがアメリカに対して好意的な評価を示す。
(2)「解放の日(Liberation Day)」関税発表
・トランプ大統領による対中関税の大規模発表が国際社会に悪印象を与える。
・その結果、中国の評価は一気に改善。
(3)中国の対外姿勢が国際社会に好意的に映る
・対米関係で冷静かつ協調的な態度を取っていると受け取られている。
・一帯一路構想や国際協調姿勢が影響している可能性がある。
経済的影響
(1)アメリカの評価低下が経済損失に直結
・外国人観光客の減少。
・米国内への外国人留学生数の減少。
・投資家によるアメリカ資産離れの懸念(税制改正の影響)。
(2)海外市場でのアメリカ製品やサービスへの忌避
・米国企業の貿易・投資機会の減少。
・「アメリカ離れ」が消費者行動に影響。
総括
(1)アメリカの「ソフトパワー」が大きく損なわれている
・かつての国際的リーダーシップが後退。
・その空白を中国が埋めつつあり、グローバルバランスに変化の兆し。
(2)今後の国際秩序や経済構造にも影響を及ぼす可能性
・国際的な影響力の主導権が米中間で再編される局面にある。
【桃源寸評】💚
中国が清朝末期の「百年国恥」と呼ばれる植民地的屈辱の時代を除けば、数千年にわたって軍事・経済・文化の全てにおいて世界的な強国であったことは歴史的事実である。
現在、その力を「遺憾なく発揮できる実力十分の国家」として再興した中国は、単なる経済的な躍進や軍事力の増強だけでは語れない、独自の「世界に処する考え方」に基づいた戦略的行動をとっている。以下、その特質を歴史的・思想的・地政学的観点から論ずる。
1. 歴史的連続性と文明国家としての自己認識
・中国は「中華文明」という断絶なき文明国家として自他共に認識しており、王朝交代を経ても「天下」「華夷秩序」「大一統」などの世界観が継承されてきた。
・この長期的視座により、国家目標は「数十年」ではなく「百年・千年」単位で設計される。
・一時的な後退(例:アヘン戦争や文化大革命)すら、歴史的循環の一局面として再解釈される。
2. 「俯瞰力」としての大局観
・中国の政策決定は、短期的な成果よりも長期的安定と秩序形成を重視する傾向がある。
・例えば、「一帯一路」構想は単なる経済回廊ではなく、ユーラシアの新秩序構築を念頭に置いた地政学的プロジェクトである。
・中国の外交政策は「韜光養晦(とうこうようかい)」― 力を蓄えつつ目立たず機をうかがう ― という戦略的忍耐の哲学を踏まえている。
3. 西洋近代国家との構造的差異
・欧米の近代国家が「主権国家」「自由と権利」「契約的社会秩序」を基盤とするのに対し、中国の統治観は「徳治」「家国同構」「和而不同」といった儒教的・実利的枠組みに基づいている。
・すなわち、中国は世界における自国の役割を「覇者」ではなく、「調和の中心」あるいは「文明の源」として位置づける。
・このため、中国の外交方針は、国家の大小にかかわらず相手国の主権と尊厳を尊重し、対等な立場での関係構築を重視している。こうした立場は、「主権平等」「内政不干渉」を原則とする国際秩序のあり方と整合的であり、また中国の伝統的な天下観や「和而不同(和して同ぜず)」といった思想とも響き合うものである。
4. 再興の基盤としての国家統合力と技術的実行力
・経済発展は政府主導で行われており、計画経済の経験を応用した「国家資本主義」が功を奏している。
・国家目標の実行において、中央集権体制の統率力とテクノクラート的官僚機構が優れた調整能力を発揮している。
・例:AI開発・量子通信・電気自動車・5G通信インフラ等の分野で、国家戦略に基づき民間と公的部門が連携して飛躍的進展を遂げている。
5. 世界秩序の再構築に向けた主体性
・中国は既存の国際秩序(アメリカ主導のリベラル秩序)に「挑戦」するというよりも、自らにふさわしいとする「多極秩序」または「文明の共存的秩序」の形成を志向している。
・例:BRICS拡大、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、デジタル人民元の国際化、グローバルセキュリティ・イニシアティブ(GSI)など。
・これらは、単に西側からの自立を図るのではなく、中国主導の秩序観を提示する試みである。
6. 総括:文明的ロジックによる戦略国家
中国は、近代ヨーロッパ的な「国益と勢力均衡」による国際関係観とは異なる、文明単位の視点と俯瞰的歴史観をもって世界を見ている国家である。その長期的視座と全体俯瞰的判断力は、短期利益や情勢変動に左右されにくく、かつ実行力と統合力を伴っている。これは単なる「大国」ではなく、「文明国家」としての中国の再登場を意味している。
したがって、今日の国際社会が中国の動きを理解するには、従来の西洋的な分析枠組みに頼るだけでは不十分であり、中国特有の思考体系と文明的背景をもって理解しなければならないであろう。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
https://www.axios.com/2025/06/02/china-us-global-opinions AXIOS 2025.06.02
https://www.axios.com/2025/06/02/china-us-global-opinions
モーニング・コンサルトによる分析によれば、アメリカの国際的な好感度が低下する一方で、中国の好感度が上昇している。これは、アメリカの通商政策が中国の国際的な立場を強化する結果となっており、その影響はすでに経済面において現れている。
特に、ホワイトハウスの政策に否定的な外国人観光客の減少や、ドルの信頼性低下などが挙げられる。加えて、アメリカ企業の海外市場での貿易や投資の機会も、現地消費者による米国製品の忌避により損なわれつつあるという。
モーニング・コンサルトの政治インテリジェンス責任者であるジェイソン・マクマン氏は、「アメリカに対する評価が悪化する中で、米国企業の海外ビジネスチャンスも減少する可能性がある」と述べている。
さらに、共和党の税制改革法案に含まれる特定の条項が、米国資産への需要を減退させる懸念もあり、また外国人留学生の受け入れ制限による経済的損失も指摘されている。
2025年5月には、中国のネット好感度は8.8ポイントであるのに対し、アメリカはマイナス1.5ポイントであった。これは、同月にモーニング・コンサルトが実施した調査に基づいており、アクシオスに独占的に提供されたデータである。
2024年1月時点では、アメリカの好感度は20ポイントを超えており、中国はマイナスであった。この変化は、両国に対する国際的な見方が大きく転換していることを示している。
モーニング・コンサルトの調査は、カナダ、フランス、日本、ロシア、イギリスなど41か国の成人を対象に行われた。調査は、各国の「ネット好感度」、すなわち肯定的評価から否定的評価を引いた数値をもとにしている。
アメリカの国際的な評価は昨年までは概ね良好であったが、2025年1月にトランプ大統領が再び就任して以降、急激に低下した。マクマン氏によれば、「2025年1月以降、大多数の国でアメリカに対する見方が悪化し、中国に対する見方が改善している。アメリカに対して有意な好感度上昇が見られるのはロシアのみである」と述べている。
一方で、中国の好感度は2020年10月以降、継続的にマイナス圏にあったが、昨年の選挙日以降に改善し始め、2025年3月以降は急速に上昇傾向を示している。特に、トランプ大統領による「解放の日(Liberation Day)」関税発表以降に顕著な上昇がみられた。
報告書によれば、「『解放の日』に発表された関税政策は、アメリカの評判に対する決定的なダメージとなった」と結論づけている。
【詳細】
本報告は、米国の調査会社モーニング・コンサルト(Morning Consult)が行った国際的な世論調査の分析結果に基づいている。この調査は、2025年5月時点における41か国における中国およびアメリカ合衆国に対する「ネット好感度(Net Favorability)」の変化を追跡したものである。ネット好感度とは、ある国に対して「好意的」と回答した割合から「否定的」と回答した割合を差し引いた数値である。
今回の調査では、中国のネット好感度はプラス8.8ポイント、アメリカはマイナス1.5ポイントであった。この数値は、米中両国の国民を除いた対象国(オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、メキシコ、ロシア、韓国、スペイン、英国など)において計測されたものである。つまり、第三国の視点から見た両国の相対的な評価である。
重要なのは、2024年1月にはアメリカのネット好感度はプラス20ポイント以上、中国はマイナス圏にあったという点である。これは、わずか1年半程度の間に国際社会の米中両国に対するイメージが逆転したことを意味する。
このような変化の背景には、アメリカの外交および通商政策の影響があると指摘されている。特に、2025年1月にドナルド・トランプ前大統領が政権に復帰して以降、アメリカの国際的な評価が急落した。モーニング・コンサルトの政治インテリジェンス責任者であるジェイソン・マクマン氏は、「2025年1月以降、大多数の国々において、アメリカへの評価が一貫して悪化し、中国への評価が一貫して改善している」と分析している。
一例として、トランプ政権が掲げた「解放の日(Liberation Day)」政策、すなわち大規模な対中関税政策が挙げられる。これにより、アメリカは貿易戦争の再燃を世界に印象づけた一方で、中国は冷静かつ協調的な姿勢を演出することに成功し、国際社会からの評価を高めた。この「解放の日」政策以降、中国の好感度は顕著に上昇しており、モーニング・コンサルトはこれを「決定的な reputational damage(評判への損害)」と評している。
また、アメリカのイメージ悪化は経済的にも影響を及ぼしている。具体的には、ホワイトハウスの排他的・反移民的な政策が外国人観光客の米国訪問を敬遠させており、また外国人留学生の受け入れ制限も、米国内の大学や経済界にとっての損失となっている。さらに、共和党の税制改革法案に含まれる特定の規定が、国際的な投資家にとってアメリカ資産の魅力を減じる懸念もある。こうした複数の要素が重なり、米国経済への長期的悪影響が懸念されている。
一方で、中国の好感度は2020年10月以来ずっとマイナスであったが、2024年の選挙日を契機として回復に転じ、2025年3月以降は急速にプラス圏に入った。この傾向は、特に欧州諸国やアジア新興国において顕著であり、中国が積極的に推進している一帯一路構想(Belt and Road Initiative)や外交的な柔軟性が奏功している可能性がある。
注目すべきは、41か国のうちロシアだけがアメリカに対する好感度を改善させている点である。これは、米ロ関係の一部改善や、他国とは異なる政治的文脈が影響しているものと考えられる。
総じて、現在の国際情勢においては、アメリカの国際的リーダーシップと「ソフトパワー」が著しく毀損されつつあり、その空白を中国が着実に埋めようとしている構図が浮かび上がる。これは今後のグローバルな経済・安全保障環境に対しても重大な意味を持つ可能性が高い。
【要点】
概要
・モーニング・コンサルトの最新調査によれば、中国の国際的好感度が上昇し、アメリカは低下している。
・調査対象は41か国(米中両国の自国民を除く)であり、ネット好感度(肯定的評価-否定的評価)を測定している。
数値的推移
(1)2024年1月時点
・アメリカ:ネット好感度プラス20ポイント以上
・中国:ネット好感度マイナス圏
(2)2025年5月時点
・中国:プラス8.8ポイント
・アメリカ:マイナス1.5ポイント
要因分析
(1)トランプ大統領の再登場(2025年1月)以降、アメリカの評価が急落
・就任と同時に、複数の国で同時にアメリカへの好感度が悪化。
・唯一、ロシアのみがアメリカに対して好意的な評価を示す。
(2)「解放の日(Liberation Day)」関税発表
・トランプ大統領による対中関税の大規模発表が国際社会に悪印象を与える。
・その結果、中国の評価は一気に改善。
(3)中国の対外姿勢が国際社会に好意的に映る
・対米関係で冷静かつ協調的な態度を取っていると受け取られている。
・一帯一路構想や国際協調姿勢が影響している可能性がある。
経済的影響
(1)アメリカの評価低下が経済損失に直結
・外国人観光客の減少。
・米国内への外国人留学生数の減少。
・投資家によるアメリカ資産離れの懸念(税制改正の影響)。
(2)海外市場でのアメリカ製品やサービスへの忌避
・米国企業の貿易・投資機会の減少。
・「アメリカ離れ」が消費者行動に影響。
総括
(1)アメリカの「ソフトパワー」が大きく損なわれている
・かつての国際的リーダーシップが後退。
・その空白を中国が埋めつつあり、グローバルバランスに変化の兆し。
(2)今後の国際秩序や経済構造にも影響を及ぼす可能性
・国際的な影響力の主導権が米中間で再編される局面にある。
【桃源寸評】💚
中国が清朝末期の「百年国恥」と呼ばれる植民地的屈辱の時代を除けば、数千年にわたって軍事・経済・文化の全てにおいて世界的な強国であったことは歴史的事実である。
現在、その力を「遺憾なく発揮できる実力十分の国家」として再興した中国は、単なる経済的な躍進や軍事力の増強だけでは語れない、独自の「世界に処する考え方」に基づいた戦略的行動をとっている。以下、その特質を歴史的・思想的・地政学的観点から論ずる。
1. 歴史的連続性と文明国家としての自己認識
・中国は「中華文明」という断絶なき文明国家として自他共に認識しており、王朝交代を経ても「天下」「華夷秩序」「大一統」などの世界観が継承されてきた。
・この長期的視座により、国家目標は「数十年」ではなく「百年・千年」単位で設計される。
・一時的な後退(例:アヘン戦争や文化大革命)すら、歴史的循環の一局面として再解釈される。
2. 「俯瞰力」としての大局観
・中国の政策決定は、短期的な成果よりも長期的安定と秩序形成を重視する傾向がある。
・例えば、「一帯一路」構想は単なる経済回廊ではなく、ユーラシアの新秩序構築を念頭に置いた地政学的プロジェクトである。
・中国の外交政策は「韜光養晦(とうこうようかい)」― 力を蓄えつつ目立たず機をうかがう ― という戦略的忍耐の哲学を踏まえている。
3. 西洋近代国家との構造的差異
・欧米の近代国家が「主権国家」「自由と権利」「契約的社会秩序」を基盤とするのに対し、中国の統治観は「徳治」「家国同構」「和而不同」といった儒教的・実利的枠組みに基づいている。
・すなわち、中国は世界における自国の役割を「覇者」ではなく、「調和の中心」あるいは「文明の源」として位置づける。
・このため、中国の外交方針は、国家の大小にかかわらず相手国の主権と尊厳を尊重し、対等な立場での関係構築を重視している。こうした立場は、「主権平等」「内政不干渉」を原則とする国際秩序のあり方と整合的であり、また中国の伝統的な天下観や「和而不同(和して同ぜず)」といった思想とも響き合うものである。
4. 再興の基盤としての国家統合力と技術的実行力
・経済発展は政府主導で行われており、計画経済の経験を応用した「国家資本主義」が功を奏している。
・国家目標の実行において、中央集権体制の統率力とテクノクラート的官僚機構が優れた調整能力を発揮している。
・例:AI開発・量子通信・電気自動車・5G通信インフラ等の分野で、国家戦略に基づき民間と公的部門が連携して飛躍的進展を遂げている。
5. 世界秩序の再構築に向けた主体性
・中国は既存の国際秩序(アメリカ主導のリベラル秩序)に「挑戦」するというよりも、自らにふさわしいとする「多極秩序」または「文明の共存的秩序」の形成を志向している。
・例:BRICS拡大、アジアインフラ投資銀行(AIIB)、デジタル人民元の国際化、グローバルセキュリティ・イニシアティブ(GSI)など。
・これらは、単に西側からの自立を図るのではなく、中国主導の秩序観を提示する試みである。
6. 総括:文明的ロジックによる戦略国家
中国は、近代ヨーロッパ的な「国益と勢力均衡」による国際関係観とは異なる、文明単位の視点と俯瞰的歴史観をもって世界を見ている国家である。その長期的視座と全体俯瞰的判断力は、短期利益や情勢変動に左右されにくく、かつ実行力と統合力を伴っている。これは単なる「大国」ではなく、「文明国家」としての中国の再登場を意味している。
したがって、今日の国際社会が中国の動きを理解するには、従来の西洋的な分析枠組みに頼るだけでは不十分であり、中国特有の思考体系と文明的背景をもって理解しなければならないであろう。
【寸評 完】
【引用・参照・底本】
https://www.axios.com/2025/06/02/china-us-global-opinions AXIOS 2025.06.02
https://www.axios.com/2025/06/02/china-us-global-opinions