米国:医薬品供給を海外に依存しているという現状2025年06月04日 19:17

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【概要】

 中国が世界の医薬品産業、特にアモキシシリンなどのジェネリック医薬品の原材料において支配的な地位を占めていることが、ドナルド・トランプ米大統領の関税脅威によって浮き彫りになった。

 アモキシシリンと中国の支配

 アモキシシリンは米国で最も多く処方される抗生物質であり、その原材料の80%を中国が供給している。米国のアモキシシリン製造工場は現在1社のみである。  

 貿易摩擦と米国の依存

 トランプ大統領による医薬品輸入への関税賦課の脅威は、米国が医薬品供給を海外に依存しているという現状に光を当てた。昨年、米国が輸入したヒドロコルチゾン、イブプロフェン、アセトアミノフェンの90%以上が中国からのものであった。専門家は、貿易戦争が激化した場合、中国がこの依存関係を交渉の材料として利用する可能性があると警鐘を鳴らしている。

 国家安全保障上の懸念

 米中経済安全保障審査委員会(USCC)のリーランド・ミラー委員は、中国が米国の医薬品供給において「チョークポイント」を握っていることは「米国の安全保障にとって有害」だと指摘している。中国は今のところ、医薬品産業における支配的地位を武器にすると公に脅迫してはいないが、関税が課されれば既存の医薬品不足を悪化させ、米国人の価格上昇を招く可能性がある。

 ジェネリック医薬品とサプライチェーンの現状

 米国で処方される医薬品の90%を占めるジェネリック医薬品の多くはインドで生産されているが、その原材料は中国から輸入されている場合が多い。製薬会社は情報の開示に積極的でないため、米国が中国の医薬品にどの程度依存しているかについての包括的なデータは不足している。

 中国の台頭の背景

 中国が世界の医薬品サプライチェーンにおいて支配的な役割を果たすようになったのは、数十年にわたる低コスト生産の追求が原因である。医薬品メーカーは生産拠点を欧米諸国から中国やインドに移した。特に中国は、医薬品の有効成分(API)の製造に必要な重要化学物質である「キー・スターティング・マテリアルズ(KSM)」の生産において大きな役割を担っている。米国食品医薬品局(FDA)へのAPI製造業者申請の82%は中国とインドが占めている。

 また、2000年代初頭からの中国政府による医薬品セクターへの政策的インセンティブや補助金も、中国の医薬品産業の発展を後押しした。さらに、米国やEUで環境規制が厳しくなる中、医薬品生産に伴う環境負荷の低さも中国の台頭に貢献した。世界最大のジェネリック医薬品供給国であるインドでさえ、APIやその他の主要成分の70%を中国から輸入している。

 中国政府の戦略

 2015年には、習近平国家主席が「中国製造2025」産業戦略を発表し、バイオ医薬品と先端医療製品を主要な開発セクターと位置づけた。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、世界の医薬品供給が中国に依存していることを浮き彫りにし、中国政府にその支配的地位が持つ戦略的利点を再認識させることとなった。2020年には習近平国家主席が、中国は「世界的な産業チェーンの中国への依存を強化し、意図的な外部からの供給遮断に対する強力な対抗措置と抑止能力を構築する」必要があると述べた。

 関税の有効性への疑問

 トランプ大統領は医薬品生産の国内回帰(オンショアリング)を目指しているが、専門家は関税がその目標達成に貢献する可能性は低いと見ている。ジェネリック医薬品は価格競争が激しいため、関税は医療費を押し上げ、既存の医薬品不足を悪化させ、ジェネリック医薬品メーカーを米国市場から撤退させる可能性がある。国内に生産施設を建設するにしても、数年かかる見込みである。

 製薬ロビー団体「米国製薬研究者・製造者協会(PhRMA)」が委託した調査によると、25%の関税が課されると、輸入医薬品のコストは年間508億ドル増加し、消費者に転嫁された場合、価格は12.9%上昇する可能性がある。INGの調査では、一般的なジェネリックがん治療薬に25%の関税が課された場合、24週間分の処方で最大1万ドル価格が上昇する可能性があるという。

 専門家は、医薬品の国内回帰には関税以外のインセンティブが必要であると提言している。他の産業とは異なり、医薬品の供給中断や不足は人命に関わる結果をもたらす可能性があると指摘されている。
トランプ米大統領が医薬品輸入に対する関税をちらつかせていることで、世界の製薬産業における中国の強い支配力が浮き彫りになった。

 以下は記事の主な要点である。

 ・アモキシシリンの事例: 米国で最も処方されている抗生物質であるアモキシシリンは、米国に製造元が1社しかなく、その生産に必要な原材料の80%を中国が支配している。

 ・米国の中国への依存: 昨年、米国が輸入したヒドロコルチゾン(かゆみ止めクリームの有効成分)の96%、イブプロフェン(市販の鎮痛剤)の90%、アセトアミノフェン(他の種類の鎮痛剤)の73%が中国からのものだった。

 ・潜在的な脆弱性: 専門家は、貿易戦争がエスカレートした場合、中国がこの医薬品供給への依存を交渉の切り札として利用する可能性があると警告している。

 ・サプライチェーンのチョークポイント: 米中経済安全保障審査委員会のリーランド・ミラー委員は、中国が米国の医薬品サプライチェーンにおいて握る「チョークポイント」が「米国の安全保障にとって有害である」と指摘する。

 ・関税の影響: トランプ氏が医薬品関税を課した場合、既存の医薬品不足を悪化させ、米国人の薬価を高騰させる可能性がある。これは、トランプ氏が掲げる医療費削減の公約と矛盾する。

 ・ジェネリック医薬品: 米国の処方箋の90%を占めるジェネリック医薬品の多くはインドで生産されているが、その原材料は中国から輸入されることが多い。

 ・データ不足: 業界関係者や専門家は、米国が中国の医薬品に大きく依存していることを広く認識しているものの、製薬業界全体の依存度に関する包括的なデータは不足している。これは、大手製薬会社がそのような情報を開示するインセンティブが少ないためである。

 ・国家安全保障上の懸念: トランプ政権は、国家安全保障上の理由から製薬輸入に関税を課すための調査を開始した。アモキシシリンの事例は、世界が中国の「政治的または経済的気まぐれ」に対してどれほど脆弱であるかを明確に示している。

 ・国内生産の困難さ: 関税は、ジェネリック医薬品の国内生産(オンショアリング)という目標達成には繋がりにくいと専門家は指摘する。ジェネリック医薬品は価格が主な差別化要因であり、利益率が低いため、国内に施設を建設するには何年もかかる可能性がある。

 ・中国の優位性: 中国が世界の医薬品サプライチェーンで優位に立つのは、世界的な工場としての地位の一部である。低コストを追求した結果、製薬会社は生産拠点を西側諸国から中国やインドに移してきた。

 ・API(原薬)生産の支配: 中国は、医薬品の有効成分であるAPI(原薬)の生産に必要な重要な化学化合物(KSM:キー・スターティング・マテリアル)の生産において大きな役割を担っている。米国食品医薬品局(FDA)へのAPI製造業者申請の82%は中国とインドが占めており、近年は中国の割合が上昇している。

 ・中国政府の支援: 中国政府は2000年代初頭から製薬部門に対する政策的インセンティブや補助金を提供し、国内に産業クラスターを形成させた。これにより、中国はジェネリック医薬品とAPIの生産にとって理想的な場所となった。

 ・環境規制の影響: 米国や欧州連合では環境規制が厳しいため、医薬品生産の環境への影響も中国の台頭に貢献した。

 ・インドの中国依存: 世界最大のジェネリック医薬品供給国であるインドも、APIやその他の主要成分を中国に依存しており、API輸入の70%が中国からのものである。

 ・中国の国家戦略: 2015年に習近平国家主席が発表した「中国製造2025」産業戦略では、バイオ医薬品と先端医療製品が主要な開発分野として挙げられた。新型コロナウイルスのパンデミックは、中国の医薬品供給における支配力がもたらす戦略的優位性を再認識させた。

 ・関税以外のインセンティブの必要性: 専門家は、関税ではなく、より強靭な医薬品サプライチェーンを構築するためには、関税以外のインセンティブが必要であると主張する。医薬品の供給途絶や不足は、人命に関わる深刻な結果を招く可能性があるためである。

【詳細】 
 
 トランプ米大統領が医薬品輸入に対する関税の可能性を示唆したことで、世界の製薬産業における中国の圧倒的な影響力が改めてクローズアップされている。この問題は、単なる貿易紛争の枠を超え、国家安全保障、公衆衛生、そして医療費にまで及ぶ複雑な様相を呈している。

 中国の支配力の詳細

 記事が指摘するように、中国の医薬品産業における支配力は多岐にわたる。

 ・原材料の寡占: 最も顕著な例は、米国で最も処方される抗生物質であるアモキシシリンである。この薬の生産に必要な原材料の80%を中国が供給している。これは、米国の唯一のアモキシシリン製造業者であるUSAntibioticsのCEO、リック・ジャクソン氏が「中国がサプライチェーン支配力を武器化すれば、壊滅的な影響をもたらす可能性がある」と警鐘を鳴らしていることからも明らかだ。他にも、ヒドロコルチゾン(かゆみ止め)、イブプロフェン(鎮痛剤)、アセトアミノフェン(鎮痛剤)などの主要な医薬品の有効成分(API)やその前駆体(KSM:キー・スターティング・マテリアル)の多くも中国からの輸入に大きく依存している。

 ・低コスト生産: 中国は、数十年にわたる低コスト生産戦略により、「世界の工場」としての地位を確立してきた。医薬品メーカーは、生産コスト削減を追求する中で、製造拠点を欧米から中国やインドに移してきた。特に、中国は労働コストが安く、大規模な産業クラスターが形成されているため、効率的な生産が可能となり、ジェネリック医薬品やAPIの製造において価格競争力を獲得した。

 ・政府の政策的支援: 中国政府は、2000年代初頭から製薬部門に対する手厚い政策的インセンティブや補助金を提供してきた。2015年に発表された「中国製造2025」産業戦略では、バイオ医薬品や先端医療製品が重点開発分野に指定され、外国技術への依存度を減らし、自国の産業力を強化する明確な目標が掲げられた。これは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、医薬品供給における中国の優位性が戦略的な強みとなることが浮き彫りになったことで、さらに加速している。中国は、世界の産業チェーンを中国への依存度を高めることで、外部からの供給遮断に対する強力な対抗策を構築しようとしている。

 ・環境規制の違い: 米国や欧州連合に比べて中国の環境規制が緩やかであることも、医薬品生産、特に化学物質を多用するAPI製造におけるコスト優位性に繋がっている。

 米国および国際社会への影響

 中国の支配力は、米国および国際社会に複数の脆弱性をもたらしている。

 ・サプライチェーンの脆弱性: 中国が医薬品供給を政治的・経済的な「武器」として利用した場合、医薬品不足が深刻化し、公衆衛生上の危機を招く可能性がある。特に、アモキシシリンのような必須医薬品の供給が途絶えれば、細菌感染症の蔓延に十分に対応できなくなる恐れがある。

 ・交渉力への影響: 米国は、中国の医薬品供給における支配力により、貿易交渉や地政学的な問題において、中国に対する交渉力が制約される可能性がある。

 ・ジェネリック医薬品市場への影響: ジェネリック医薬品は、ブランド医薬品に比べて価格がはるかに安く、米国で処方される医薬品の90%を占めている。インドは多くのジェネリック医薬品を生産しているが、その原材料の70%は中国から輸入しているため、中国の供給網に大きな影響を受ける。トランプ氏が提案する関税が課せられた場合、ジェネリック

 ・医薬品のコストが上昇し、すでに逼迫している医薬品不足がさらに悪化する可能性がある。利益率の低いジェネリック医薬品メーカーは、関税によるコスト増を吸収できず、米国市場から撤退する可能性も指摘されている。
医療費の高騰: 関税が導入されれば、輸入医薬品のコストが増加し、最終的には保険会社、雇用主、そして患者自身がその費用を負担することになる。試算では、25%の関税が課されると、輸入医薬品のコストが年間508億ドル増加し、価格が12.9%上昇する可能性があるとされている。これは、特に低所得者や医療保険に加入していない患者にとって大きな負担となる。

 米国の対応と課題

 米国は、医薬品生産の国内回帰(オンショアリング)を目指しているが、その道のりは容易ではない。

 ・国内回帰の難しさ: ジェネリック医薬品の生産を米国に回帰させることは、コストの面で非常に難しい。ブランド医薬品とは異なり、ジェネリック医薬品は価格競争が激しく、利益率が低いため、高コストの米国で生産することは現実的ではない。また、医薬品製造施設の建設には数年を要し、多額の投資が必要となる。

 ・関税の限界: 関税は、国内生産を促すというよりも、むしろ既存のサプライチェーンを混乱させ、医薬品不足を悪化させる可能性が高い。専門家は、関税以外の、より戦略的なインセンティブ(例えば、国内生産に対する補助金や税制優遇措置など)が必要であると提言している。

 医薬品は人命に関わる重要な製品であり、その供給は安定していなければならない。中国の医薬品産業における支配力は、世界的な公衆衛生の安全保障にとって無視できない課題であり、各国はサプライチェーンの多様化と国内生産能力の強化に向けた、より包括的な戦略を模索する必要がある。

【要点】 

 トランプ米大統領が医薬品輸入に対する関税を示唆したことで、世界の製薬産業における中国の圧倒的な支配力が浮き彫りになり、いくつかの重要な問題が提起されている。

 中国の医薬品産業における支配力

 (1)原材料の寡占

 ・米国で最も処方される抗生物質であるアモキシシリンの生産に必要な原材料の**80%**を中国が供給しています。

 ・米国が輸入するヒドロコルチゾン(かゆみ止め)、イブプロフェン(鎮痛剤)、アセトアミノフェン(鎮痛剤)などの主要な有効成分(API)も、大半が中国からのものである。

 (2)低コスト生産と効率性

 ・中国は、労働コストの安さと大規模な産業クラスターの形成により、低コストで効率的な生産を実現し、世界的な工場としての地位を確立した。

 ・これにより、ジェネリック医薬品やAPIの製造において圧倒的な価格競争力を獲得している。

 (3)政府の政策的支援

 ・中国政府は、2000年代初頭から製薬部門に対し手厚い補助金やインセンティブを提供してきた。

 ・「中国製造2025」産業戦略では、バイオ医薬品や先端医療製品を重点開発分野に指定し、国内産業の強化と外国技術への依存度低減を明確に掲げている。

 ・新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、医薬品供給における中国の優位性が戦略的な強みであることを再認識させた。

 米国および国際社会への影響

 (1)サプライチェーンの脆弱性

 ・中国が医薬品供給を政治的・経済的な武器として利用した場合、医薬品不足が深刻化し、公衆衛生上の危機を招く可能性がある。

 ・アモキシシリンのような必須医薬品の供給途絶は、細菌感染症の蔓延に十分に対応できない事態を引き起こしかねない。

 (3)交渉力への影響

 ・米国は、中国の医薬品供給における支配力により、貿易交渉や地政学的な問題において、中国に対する交渉力が制約される可能性がある。

 (2)ジェネリック医薬品市場への影響

 ・ジェネリック医薬品は米国の処方箋の90%を占めますが、その多くはインドで生産され、さらにその原材料の70%は中国から輸入されている。

 ・トランプ氏が提案する関税が課せられた場合、ジェネリック医薬品のコストが上昇し、すでに逼迫している医薬品不足がさらに悪化する可能性がある。

 ・利益率の低いジェネリック医薬品メーカーは、関税によるコスト増を吸収できず、米国市場から撤退する可能性も指摘されている。

 (3)医療費の高騰

 ・関税が導入されれば、輸入医薬品のコストが増加し、最終的に患者自身の医療費負担が増大することになる。

 米国の対応と課題

 (1)国内生産(オンショアリング)の難しさ

 ・ジェネリック医薬品の生産を米国に回帰させることは、コストの面で非常に困難である。低価格が強みのジェネリック医薬品は、高コストの米国で生産すると競争力を失う。

 ・医薬品製造施設の建設には多額の投資と数年単位の時間が必要である。

 (2)関税の限界

 ・関税は、国内生産を促すというよりも、サプライチェーンを混乱させ、医薬品不足を悪化させる可能性が高いと専門家は指摘している。

 ・より強靭な医薬品サプライチェーンを構築するためには、関税ではなく、国内生産に対する補助金や税制優遇措置など、戦略的なインセンティブが必要であると提言されている。

 医薬品は人命に関わる製品であり、その安定供給はグローバルな公衆衛生の安全保障にとって極めて重要である。各国は、サプライチェーンの多様化と国内生産能力の強化に向けた、より包括的な戦略を模索する必要があるだろう。

【桃源寸評】💚
 
 無謀な関税戦争:米国の場当たり的な政策決定

 米国の医薬品輸入に対する関税政策は、まるで詳細な分析や練られた戦略がないかのように見える。現状がここまで中国への深い依存を示しているにもかかわらず、なぜこのような無謀な関税戦争を仕掛けるのだろうか。その発想は、あまりにも場当たり的で、長期的な視点に欠けていると言わざるを得ない。

 アモキシシリンのような基本的な抗生物質でさえ、その原材料の8割を中国に依存している現実がある。さらに、一般的な鎮痛剤の主成分であるイブプロフェンやアセトアミノフェン、かゆみ止めのヒドロコルチゾンといった、日常生活に不可欠な医薬品のほとんども中国からの輸入に頼っている。このような状況で関税を課すことは、単に国内の医薬品価格を釣り上げ、すでに存在する薬不足をさらに悪化させるだけである。

 ジェネリック医薬品は、多くの米国人にとって医療費を抑えるための生命線である。これらの薬は、ブランド薬よりもはるかに安価であり、処方箋の大部分を占めている。しかし、その多くが中国製の原材料に依存しているため、関税が導入されれば、貧しい人々や保険に加入していない人々が薬を手に入れられなくなる可能性がある。利益率の低いジェネリック医薬品メーカーは、コスト増を吸収できず、米国市場から撤退することすら考えられる。

 国内での医薬品生産を促すという目標は理解できる。しかし、関税という手段が、この目標達成にどれほど有効なのかは疑問です。医薬品工場の建設には莫大な費用と長い年月がかかり、現在のサプライチェーンを簡単に変えられるものではありません。中国の低コスト生産と政府の手厚い支援に対抗するには、関税よりも、例えば国内生産への補助金や税制優遇といった、より賢明で長期的なインセンティブが必要です。

 医薬品の供給は、単なる経済活動ではなく、人々の命に関わる問題である。それにもかかわらず、米国が現状を十分に把握せず、場当たり的な「関税の壁」で全てを解決しようとする発想は、あまりにも短絡的である。これは、自国民の健康と安全を危険に晒す、無責任な政策と言えるだろう。

 米国は、医薬品供給のような地球規模の課題において、協力よりも対立の道を選んでいるように見える。これは、世界平和と繁栄の基盤であるはずの協調関係を蝕み、かえって世界情勢を悪化させる元凶となっているのである。

 中国が医薬品の原材料供給において大きな役割を担っているのは、単なる敵対的な戦略ではなく、長年の国際協力と分業の結果として発展してきた側面がある。世界中の企業が効率性とコスト削減を追求した結果、中国がその一端を担うことになったのである。しかし、米国はこうした背景にある「善意」とも言える協力関係を逆手に取り、自国の安全保障上の懸念を一方的に主張し、中国を不当に非難しているように映る。

 医薬品は、人々の命を支える不可欠なものである。その供給網を政治的な駆け引きの道具とすることは、あまりにも短絡的で危険な行為である。米国が関税という攻撃的な手段に訴えることは、既存のサプライチェーンを混乱させ、薬の価格を高騰させ、結果として世界中の病に苦しむ人々にさらなる負担を強いることになる。

 平和な世界を築くためには、互いに協力し、共通の課題に取り組む姿勢が不可欠である。しかし、米国はまるで冷戦時代の思考から抜け出せないかのように、あらゆる分野で「敵対者」を作り出し、対立を煽っている。この姿勢は、単に医薬品の問題にとどまらず、気候変動や貧困といった地球規模の危機に対する国際社会の協調的な取り組みを阻害するものである。

 米国が真に世界のリーダーシップを担うのであれば、他国との協力を基本とし、平和的な解決策を模索すべきです。しかし、現状の政策は、残念ながらその逆を行っており、世界をより不安定で危険な場所へと押しやっていると言わざるを得ない。

【寸評 完】

【引用・参照・底本】

Trump’s tariff threat exposes China’s tight grip on the global pharmaceuticals industry CNN 2025.06.03
https://edition.cnn.com/2025/06/03/business/trump-tariffs-china-pharmaceuticals-intl-hnk?utm_term=17490299091652ca1b55e3c6a&utm_source=cnn_Meanwhile+in+China+2025-06-04&utm_medium=email&bt_ee=7kwAyycrz1NyUf82ptuO0RxVtnw035ERI7saREK6dTTlGKbkIHQl56%2B3%2Ff43aume&bt_ts=1749029909167

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