【桃源閑話】NATO拡大:ゴルバチョフが聞いたこと ― 2024年09月12日 15:58
【桃源閑話】
【概要】
国家安全保障アーカイブが掲載した機密解除された文書は、1990年のドイツ統一過程で、アメリカの国務長官ジェームズ・ベーカー、ドイツのヘルムート・コール首相、イギリスのマーガレット・サッチャー首相を含む複数の西側指導者が、ソビエトの指導者ミハイル・ゴルバチョフに、NATOは東方に拡大しないと保証したことを示している。1990年2月9日になされたベイカーの「東方には1インチも拡大しない("not one inch eastward" )」という約束は、西側の指導者たちがソビエトの安全保障上の利益に対する懸念を表明し、NATOはソビエトの国境に向かって拡大しないことを示唆した、より広範な一連の議論の一環だった。これらの保証は、1990年から1991年にかけて、さまざまな覚書や外交通信に反映され、ベイカー、コールなどの指導者たちは、NATOの管轄権がソ連に近づかないことを示唆した。
しかし、これらの保証は条約で正式には行われず、NATOの東方拡大がこれらの約束に違反しているかどうかについて、後に論争につながった。この文書は、ゴルバチョフと他のソビエト当局者がNATOが拡大しないと「信じ込まされた」という考えを補強しているが、1990年後半までに、特に国防総省のアメリカ当局者は、東ヨーロッパ諸国の将来のNATO加盟の扉を開いたままにしておくことを提案し始めた。この保証の曖昧さは、の保証の曖昧さは、NATOの拡大に関して誤解させられたという後のロシアの苦情の重要な問題となった。
要するに、この時期の議論は、ソビエト連邦に自国の安全保障を確保することと、将来のNATO拡大への扉を完全に閉ざすこととの間の微妙なバランスを反映していた。一体何が、そして誰に約束されたのかをめぐる議論は、NATOとロシアの関係の歴史において、依然として論争の的となっている。
【詳細】
このドキュメントでは、1990年から1991年にかけて、ドイツ統一とNATO拡大に関する交渉の中で、ソ連の指導者ミハイル・ゴルバチョフに対して西側の指導者たちが与えた「NATOは東に拡大しない」という複数の保証が詳述されている。以下がその主要な内容である。
1.背景とゴルバチョフへの保証
・1990年2月9日、アメリカの国務長官ジェームズ・ベイカーは、ソ連のゴルバチョフに対して「NATOが1インチも東に拡大しない(“not one inch eastward”)」という有名な言葉で、NATOの東方拡大を否定する保証を与えた。
・この発言は、ドイツ統一に関連する交渉の一環で、ゴルバチョフや他のソ連高官に対して西側諸国がソ連の安全保障を尊重することを示す数々の保証の一部として行われた。
2.ドイツ統一とNATOに関する議論
・1990年から1991年の間、西側諸国の指導者たちはドイツ統一のプロセスの中で、ソ連に対してNATOが東に拡大しないという考えを繰り返し表明していた。
・例えば、西ドイツの外務大臣ハンス=ディートリッヒ・ゲンシャーは1990年1月31日にバイエルン州のトゥッツィングで行った演説で、NATOはソ連の安全保障に影響を与えないよう、東への拡大を避けるべきだと述べた。この見解は、西側諸国間の交渉における基盤となった。
・同様の保証は、ベイカーやドイツの首相ヘルムート・コール、フランスの大統領フランソワ・ミッテラン、イギリスの首相マーガレット・サッチャー、NATO事務総長マンフレッド・ヴェルナーらによっても繰り返し表明された。
3.「1インチも東へ」発言の詳細
・1990年2月9日のゴルバチョフとの会談で、ベイカーは「NATOの現在の軍事的管轄が東へ1インチも広がることはない」と再三にわたり強調し、NATOの拡大がソ連にとって受け入れられないものであることを理解していると述べた。この保証により、ソ連はドイツのNATO加盟を容認する方向に進んだ。
4.西側諸国の立場と内部議論
・ただし、米国や他の西側諸国の中では、NATOと東ヨーロッパ諸国の関係について異なる意見があった。特にアメリカ国防総省は、NATOの東方拡大に対して「扉をわずかに開けておく」べきだと提案していたが、米国務省は、NATO拡大は米国の利益に合致せず、ソ連との関係を悪化させる可能性があるとしてこれに反対した。
5.1991年の保証とその後の経過
・1991年3月、イギリスの首相ジョン・メージャーはゴルバチョフに対して「NATOの強化については話していない」と個人的に保証した。
・また、NATO事務総長のマンフレッド・ヴェルナーは、NATO理事会のほとんどのメンバーがNATOの拡大に反対しているとロシア側に伝えた。
結論として、ゴルバチョフはソ連の安全保障が脅かされることはないという保証を西側諸国から受け、ドイツのNATO加盟を容認したが、その後、NATOの東方拡大が実際に行われることでロシア側との緊張が高まることとなった。
【要点】
・1990年2月9日、米国務長官ジェームズ・ベイカーがソ連指導者ゴルバチョフに「NATOは1インチも東に拡大しない」と保証。
・ドイツ統一に関する交渉で、NATO拡大がソ連の安全保障を脅かさないと約束。
・西ドイツ外務大臣ハンス=ディートリッヒ・ゲンシャーは、NATOが東に拡大しないべきだと1月31日に発表。
・ドイツ首相ヘルムート・コールやフランス大統領フランソワ・ミッテラン、英国首相マーガレット・サッチャーも類似の保証を提供。
・1990年2月9日、ベイカーはゴルバチョフに「NATOは東へ1インチも広がらない」と繰り返し述べた。
・米国防総省はNATO拡大に対して一部柔軟な姿勢を取るべきと提案したが、米国務省は反対。
・1991年3月、英国首相ジョン・メージャーもゴルバチョフにNATOの拡大に関して保証。
・NATO事務総長マンフレッド・ヴェルナーも拡大反対の立場を示したが、後にNATOは東方拡大を実施。
【閑話 完】
【引用・参照・底本】
NATO Expansion: What Gorbachev Heard NATIONAL SECURITY ARCHIVE
https://nsarchive.gwu.edu/briefing-book/russia-programs/2017-12-12/nato-expansion-what-gorbachev-heard-western-leaders-early#_ednref1
【概要】
国家安全保障アーカイブが掲載した機密解除された文書は、1990年のドイツ統一過程で、アメリカの国務長官ジェームズ・ベーカー、ドイツのヘルムート・コール首相、イギリスのマーガレット・サッチャー首相を含む複数の西側指導者が、ソビエトの指導者ミハイル・ゴルバチョフに、NATOは東方に拡大しないと保証したことを示している。1990年2月9日になされたベイカーの「東方には1インチも拡大しない("not one inch eastward" )」という約束は、西側の指導者たちがソビエトの安全保障上の利益に対する懸念を表明し、NATOはソビエトの国境に向かって拡大しないことを示唆した、より広範な一連の議論の一環だった。これらの保証は、1990年から1991年にかけて、さまざまな覚書や外交通信に反映され、ベイカー、コールなどの指導者たちは、NATOの管轄権がソ連に近づかないことを示唆した。
しかし、これらの保証は条約で正式には行われず、NATOの東方拡大がこれらの約束に違反しているかどうかについて、後に論争につながった。この文書は、ゴルバチョフと他のソビエト当局者がNATOが拡大しないと「信じ込まされた」という考えを補強しているが、1990年後半までに、特に国防総省のアメリカ当局者は、東ヨーロッパ諸国の将来のNATO加盟の扉を開いたままにしておくことを提案し始めた。この保証の曖昧さは、の保証の曖昧さは、NATOの拡大に関して誤解させられたという後のロシアの苦情の重要な問題となった。
要するに、この時期の議論は、ソビエト連邦に自国の安全保障を確保することと、将来のNATO拡大への扉を完全に閉ざすこととの間の微妙なバランスを反映していた。一体何が、そして誰に約束されたのかをめぐる議論は、NATOとロシアの関係の歴史において、依然として論争の的となっている。
【詳細】
このドキュメントでは、1990年から1991年にかけて、ドイツ統一とNATO拡大に関する交渉の中で、ソ連の指導者ミハイル・ゴルバチョフに対して西側の指導者たちが与えた「NATOは東に拡大しない」という複数の保証が詳述されている。以下がその主要な内容である。
1.背景とゴルバチョフへの保証
・1990年2月9日、アメリカの国務長官ジェームズ・ベイカーは、ソ連のゴルバチョフに対して「NATOが1インチも東に拡大しない(“not one inch eastward”)」という有名な言葉で、NATOの東方拡大を否定する保証を与えた。
・この発言は、ドイツ統一に関連する交渉の一環で、ゴルバチョフや他のソ連高官に対して西側諸国がソ連の安全保障を尊重することを示す数々の保証の一部として行われた。
2.ドイツ統一とNATOに関する議論
・1990年から1991年の間、西側諸国の指導者たちはドイツ統一のプロセスの中で、ソ連に対してNATOが東に拡大しないという考えを繰り返し表明していた。
・例えば、西ドイツの外務大臣ハンス=ディートリッヒ・ゲンシャーは1990年1月31日にバイエルン州のトゥッツィングで行った演説で、NATOはソ連の安全保障に影響を与えないよう、東への拡大を避けるべきだと述べた。この見解は、西側諸国間の交渉における基盤となった。
・同様の保証は、ベイカーやドイツの首相ヘルムート・コール、フランスの大統領フランソワ・ミッテラン、イギリスの首相マーガレット・サッチャー、NATO事務総長マンフレッド・ヴェルナーらによっても繰り返し表明された。
3.「1インチも東へ」発言の詳細
・1990年2月9日のゴルバチョフとの会談で、ベイカーは「NATOの現在の軍事的管轄が東へ1インチも広がることはない」と再三にわたり強調し、NATOの拡大がソ連にとって受け入れられないものであることを理解していると述べた。この保証により、ソ連はドイツのNATO加盟を容認する方向に進んだ。
4.西側諸国の立場と内部議論
・ただし、米国や他の西側諸国の中では、NATOと東ヨーロッパ諸国の関係について異なる意見があった。特にアメリカ国防総省は、NATOの東方拡大に対して「扉をわずかに開けておく」べきだと提案していたが、米国務省は、NATO拡大は米国の利益に合致せず、ソ連との関係を悪化させる可能性があるとしてこれに反対した。
5.1991年の保証とその後の経過
・1991年3月、イギリスの首相ジョン・メージャーはゴルバチョフに対して「NATOの強化については話していない」と個人的に保証した。
・また、NATO事務総長のマンフレッド・ヴェルナーは、NATO理事会のほとんどのメンバーがNATOの拡大に反対しているとロシア側に伝えた。
結論として、ゴルバチョフはソ連の安全保障が脅かされることはないという保証を西側諸国から受け、ドイツのNATO加盟を容認したが、その後、NATOの東方拡大が実際に行われることでロシア側との緊張が高まることとなった。
【要点】
・1990年2月9日、米国務長官ジェームズ・ベイカーがソ連指導者ゴルバチョフに「NATOは1インチも東に拡大しない」と保証。
・ドイツ統一に関する交渉で、NATO拡大がソ連の安全保障を脅かさないと約束。
・西ドイツ外務大臣ハンス=ディートリッヒ・ゲンシャーは、NATOが東に拡大しないべきだと1月31日に発表。
・ドイツ首相ヘルムート・コールやフランス大統領フランソワ・ミッテラン、英国首相マーガレット・サッチャーも類似の保証を提供。
・1990年2月9日、ベイカーはゴルバチョフに「NATOは東へ1インチも広がらない」と繰り返し述べた。
・米国防総省はNATO拡大に対して一部柔軟な姿勢を取るべきと提案したが、米国務省は反対。
・1991年3月、英国首相ジョン・メージャーもゴルバチョフにNATOの拡大に関して保証。
・NATO事務総長マンフレッド・ヴェルナーも拡大反対の立場を示したが、後にNATOは東方拡大を実施。
【閑話 完】
【引用・参照・底本】
NATO Expansion: What Gorbachev Heard NATIONAL SECURITY ARCHIVE
https://nsarchive.gwu.edu/briefing-book/russia-programs/2017-12-12/nato-expansion-what-gorbachev-heard-western-leaders-early#_ednref1