警視庁が雜誌を押収した惡辣手段2023年02月24日 17:43

繪本道化遊 全
 『アメリカ樣 全』宮武外骨 著

 (三五頁)
 警視庁が雜誌を押収した惡辣手段

明治政府が社會主義者を大いに壓迫したのは日露戰爭後であつた、會社や商店を威喝して同主義者を解雇せしめたり、商業取引を止めさせるなど、生活を困難ならしめた外、主義の宣傳に重壓を加へて進退不能の窮状に陥らしめた、暴戻の大逆事件が起つたのも偶然の事由ではない社會主義の新聞雜誌、又は當局者が危険と認めた言論機關などに對する壓迫手段は、其印刷物を頒布以前に押収する事であつた、警察官はあらゆる活版所に犬を潜在せしめており、その犬がこれはと思ふ印刷物は、マダ印刷に取り掛らない前のゲラズリを警察官に内々手渡しする、警察官はそれを秩序紊亂と認めて押収する事に決定すると、活版所または製本屋の近傍に刑事巡査をひそませ置き、出來上りを注文主へ届けんとて、車に積んだ所を差押へるのである、其時注文主が押収と決定ならば、印刷終了を待たず、早く知らせてくれゝば印刷もせず用紙の無駄使ひにもならぬと談判してもダメ、それは印刷料を浪費させ、運動力を弱らせるのが目的であるからの事『大阪平民新聞』なども、右の惡辣手段で十數回押収され、予が出金した約五千圓は何の効もない印刷料の支払いに浪費したのであつた

引用・参照・底本

『アメリカ樣』宮武外骨 著 昭和二十一年五月三日發行 藏六文庫
『繪本道化遊 全』宮武外骨 著 明治四十四年二月十日發行 雅俗文庫

(国立国会図書館デジタルコレクション)