北朝鮮の核兵器によって変わった朝鮮半島の安全保障状況 ― 2024年10月22日 16:39
【桃源寸評】
例えば、「対象国に対して『何をすべきでないか』を明確に示すことである」言う。が、其の対象国に対しては、北朝鮮は明快な態度を取ってきている。つまり、米国は朝鮮半島から出て行け、そして余計な嘴を挟むな、であろう。
しかし、核兵器を使用した場合、金正恩政権の終焉を招くと脅かすが、中立論的に述べれば、両体制の終焉を招くことになる、というべきか。
どちらかと言えば、繫栄する街の方が、相対的に哀れを誘うことになろう。
故に今やこの議論も無駄の中であるうえに、手詰り論である。
【寸評 完】
【概要】
このレポート「Deterring a Nuclear North Korea: What Does the Theory Tell Us?」は、北朝鮮の核兵器によって変わった朝鮮半島の安全保障状況を分析し、抑止理論が今も有効かどうかについて検討している。著者のテレンス・ローリグとデイビッド・ローガンは、朝鮮半島での抑止が依然として機能すると主張しているが、低レベルの北朝鮮の攻撃や誤算、事故、偶発的なエスカレーションのリスクに対処する必要があると指摘している。
レポートは、効果的な抑止には以下の3つの要素が必要であると説明している。
1.明確な要求:抑止を成功させるためには、対象国がどの行動を取らないべきかを明確にする必要がある。韓国・米国の同盟は、北朝鮮に対して大規模な通常攻撃や核兵器の使用を抑止することが主な要求である。
2.信頼性のある脅威:対象国が望ましくない行動を取った場合に、その行動が失敗に終わるか、重大なコストを支払わなければならないと信じさせるための信頼性のある脅威が必要である。北朝鮮が韓国や米国の強力な軍事力に挑戦することは、成功の可能性が低く、核使用に頼ることになると予想される。しかし、これは金正恩体制の終焉をもたらす可能性が高いと見られている。
3.信頼性のある保証:抑止の成功には、対象国に対して「もし望ましくない行動を取らなければ、罰は科さない」という信頼性のある保証が必要である。しかし、朝鮮半島における信頼構築は困難であり、互いに不信感を抱いているため、保証の提供が難しいと指摘されている。
レポートでは、これらの要素が北朝鮮の視点から評価される必要があると強調されている。つまり、米韓同盟が明確な要求や信頼性のある脅威を提示しても、北朝鮮がそれらを信じなければ抑止は成功しない。
また、レポートは次のような抑止のジレンマについても議論している。
・抑止と保証の間の緊張:米国の韓国に対する防衛コミットメント(拡大抑止)は、同盟国の安心感を高めるために設けられているが、北朝鮮に対しては、過剰な軍事力の増強がかえって不安を煽り、軍拡競争を招く可能性があるとしている。
・リスクとエスカレーションの管理:抑止が失敗した場合の反応にはリスクが伴い、紛争や暴力の拡大を招く可能性がある。特に、核兵器が関与する場合、そのコストは非常に高くなる。朝鮮半島では、北朝鮮の挑発行為がエスカレートし、広範な紛争に発展するリスクが高いとされている。北朝鮮の核能力の成熟により、低レベルの攻撃に対する抑止がより困難になる可能性がある。
全体として、抑止は朝鮮半島の平和と安定を維持するために中心的な役割を果たしているが、低レベルの攻撃やエスカレーションのリスクを減らすための対策が必要であると結論付けている。また、米韓同盟は定期的な防衛態勢の見直しを行い、リスク削減と緊張緩和に重点を置くべきだとしている。
【詳細】
このレポートは、朝鮮半島における安全保障の変化と、それに伴う抑止理論の有効性を再評価するものである。特に北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国, DPRK)が核兵器とそれを運搬するための弾道ミサイルを持つようになったことが、従来の抑止戦略にどのような影響を与えたかを分析している。著者のテレンス・ローリグとデイビッド・ローガンは、抑止理論は依然として有効な政策指針であり、北朝鮮に対する抑止は一部の専門家が懸念するほど脆弱ではないと主張している。彼らはまた、韓国に対する米国の防衛コミットメントと同盟の強化が抑止の中心にあると述べている。
背景と問題提起
まず、このレポートは、朝鮮半島での安全保障状況が大きく変化していることを指摘する。北朝鮮は核兵器を開発し、それを使用できる弾道ミサイルも保有している。この状況下で、従来の「抑止戦略」が依然として有効か、あるいは調整が必要かが問われている。多くの専門家が、北朝鮮の核能力が米国の拡大抑止(extended deterrence)に疑問を投げかけ、朝鮮半島での通常の抑止力を弱め、核戦争と通常戦争の境界を曖昧にし、大規模な北朝鮮の軍事侵攻の可能性を高めると懸念している。
レポートの主張
著者たちは、これらの懸念は重要であるが、抑止理論は依然として朝鮮半島の安全保障課題に対応するために有用であると主張する。彼らの評価によると、韓国と米国の防衛態勢は定期的に見直しと調整が必要であるものの、戦略的抑止はそれほど脆弱ではないという見解を示している。むしろ、低レベルの北朝鮮の挑発行為や、誤算、事故、偶発的なエスカレーションがより深刻な課題であり、これに対しては韓国に対する米国の防衛コミットメントを再確認し、同盟を強化する必要があるとしている。
抑止の三要素
レポートは、抑止が成功するためには以下の3つの要素が必要であると述べている。
1.明確な要求(Clear Demands)
抑止の基本は、対象国に対して「何をすべきでないか」を明確に示すことである。この要求は、抑止を行う側と対象となる側の双方にとって理解可能であり、実行可能でなければならない。韓国と米国の同盟にとって、北朝鮮に対する主な要求は、大規模な通常攻撃や核兵器の使用を抑止することである。しかし、北朝鮮の様々な行動を「挑発」という曖昧な表現でまとめることがしばしば抑止目標の設定を困難にしていると指摘されている。一部の行動は合理的なコストで抑止できない場合もあり、最も高いコストを伴う大規模な紛争を防ぐことが最優先であるとされている。
2.信頼性のある脅威(Credible Threats)
もし対象国が要求を無視した場合、その行動が失敗に終わるか、重大な代償を払うという脅威が信頼できるものでなければならない。北朝鮮が韓国や米国の軍事力に挑戦すれば、米国の核の傘を含む強力な軍事力に直面することになる。北朝鮮が韓国と米国の連合軍に対して戦争を挑めば、戦争がすぐに悪化し、最終的には北朝鮮が核兵器に頼る可能性が高いとされている。しかし、核兵器の使用は、ほぼ確実に金正恩政権の終焉を招くため、北朝鮮にとっての成功の可能性は極めて低いと考えられている。
3.信頼性のある保証(Credible Assurances)
抑止において、対象国が望ましい行動を取った場合には、報復しないという保証が必要である。つまり、脅威が条件付きであり、対象国が従えば罰を免れるという信頼性がなければならない。この保証がない場合、対象国は「どうせ罰を受けるなら行動を起こした方が良い」と考える可能性がある。しかし、朝鮮半島における信頼構築は特に難しく、韓国と米国、そして北朝鮮の間での信頼の欠如が課題となっています。北朝鮮と米韓同盟はお互いを抑止しようとしており、双方が相手方の保証を信用していない状況が続いている。
抑止におけるジレンマ
1.抑止と保証の緊張関係
米国が韓国に対して提供している防衛コミットメントは「拡大抑止」の一例であり、これは同盟国への攻撃を抑止するための安全保障保証である。しかし、拡大抑止は自己防衛のための抑止よりも難しくなる。平時には同盟国への支持を表明するのは容易であるが、核兵器を持った敵対国に対する抑止は、危機に陥った際にはリスクが非常に高くなる。米国は、韓国への安全保障の保証を強化するために軍事演習を拡大し、戦略的資産を朝鮮半島に派遣しているが、これらは北朝鮮を抑止するよりも韓国を安心させるための措置として行われている。
しかし、同盟国への保証を強化する措置が、必ずしも敵国に対する抑止力を強化するわけではない。過剰な保証が北朝鮮の不安感を煽り、軍事能力をさらに増強させることによって、危機がより不安定になり、エスカレーションの可能性が高まる恐れがある。さらに、韓国は米国の防衛措置が十分ではないと感じることがあり、その結果、韓国自身が通常戦力を増強することで軍拡競争が進み、安定性が損なわれる可能性も指摘されている。
リスクとエスカレーションの管理
抑止が失敗した場合の報復にはリスクが伴い、それが紛争や暴力のエスカレーションを引き起こす可能性がある。特に核兵器が関与する場合、報復のコストは非常に高くなる。韓国は、北朝鮮の行動に対して反応する際に、広範な紛争に発展するリスクを考慮しなければならない。北朝鮮がミサイルや長距離砲を使用すれば、ソウルが壊滅的な打撃を受ける可能性がある。過去には、韓国が北朝鮮の挑発に対して直接的な打撃を与えた一方で、米国は大規模な戦争を避けるために慎重な姿勢を示してきた。現在、朝鮮半島で大規模な戦争に発展する可能性は、北朝鮮の意図的な攻撃というよりも、危機のエスカレーションによるものである。低レベルの攻撃を抑止することが、より難しい課題となっている。
結論と提言
北朝鮮の核兵器およびミサイル能力の発展は、朝鮮半島の安全保障に重大な変化をもたらし、抑止の失敗がもたらす結果について深刻な懸念が広がっている。抑止の失敗は、地域的な戦争の勃発やエスカレーションを引き起こし、さらに核兵器の使用にまで至る可能性があるため、韓国および米国はこれを防ぐための戦略を慎重に構築する必要がある。また、北朝鮮の核戦力が増大する中で、通常兵力に基づく抑止力も再評価し、危機的な状況において誤算や偶発的な紛争を回避するためのコミュニケーション手段を強化することが求められている。
【要点】
・北朝鮮の核・ミサイル能力の発展により、朝鮮半島の安全保障環境が大きく変化した。
・抑止の失敗がもたらす結果として、地域的な戦争やエスカレーション、核兵器の使用に至る可能性がある。
・韓国および米国は、こうしたシナリオを防ぐために慎重な抑止戦略を構築する必要がある。
・北朝鮮の核戦力の増大に伴い、通常兵力に基づく抑止力の再評価が必要である。
・危機時の誤算や偶発的な紛争を回避するために、より効果的なコミュニケーション手段の強化が求められている。
【引用・参照・底本】
Deterring a Nuclear North Korea: What Does the Theory Tell Us? 38NORTH 2024.10.17
https://www.38north.org/reports/2024/10/deterring-a-nuclear-north-korea-what-does-the-theory-tell-us/
例えば、「対象国に対して『何をすべきでないか』を明確に示すことである」言う。が、其の対象国に対しては、北朝鮮は明快な態度を取ってきている。つまり、米国は朝鮮半島から出て行け、そして余計な嘴を挟むな、であろう。
しかし、核兵器を使用した場合、金正恩政権の終焉を招くと脅かすが、中立論的に述べれば、両体制の終焉を招くことになる、というべきか。
どちらかと言えば、繫栄する街の方が、相対的に哀れを誘うことになろう。
故に今やこの議論も無駄の中であるうえに、手詰り論である。
【寸評 完】
【概要】
このレポート「Deterring a Nuclear North Korea: What Does the Theory Tell Us?」は、北朝鮮の核兵器によって変わった朝鮮半島の安全保障状況を分析し、抑止理論が今も有効かどうかについて検討している。著者のテレンス・ローリグとデイビッド・ローガンは、朝鮮半島での抑止が依然として機能すると主張しているが、低レベルの北朝鮮の攻撃や誤算、事故、偶発的なエスカレーションのリスクに対処する必要があると指摘している。
レポートは、効果的な抑止には以下の3つの要素が必要であると説明している。
1.明確な要求:抑止を成功させるためには、対象国がどの行動を取らないべきかを明確にする必要がある。韓国・米国の同盟は、北朝鮮に対して大規模な通常攻撃や核兵器の使用を抑止することが主な要求である。
2.信頼性のある脅威:対象国が望ましくない行動を取った場合に、その行動が失敗に終わるか、重大なコストを支払わなければならないと信じさせるための信頼性のある脅威が必要である。北朝鮮が韓国や米国の強力な軍事力に挑戦することは、成功の可能性が低く、核使用に頼ることになると予想される。しかし、これは金正恩体制の終焉をもたらす可能性が高いと見られている。
3.信頼性のある保証:抑止の成功には、対象国に対して「もし望ましくない行動を取らなければ、罰は科さない」という信頼性のある保証が必要である。しかし、朝鮮半島における信頼構築は困難であり、互いに不信感を抱いているため、保証の提供が難しいと指摘されている。
レポートでは、これらの要素が北朝鮮の視点から評価される必要があると強調されている。つまり、米韓同盟が明確な要求や信頼性のある脅威を提示しても、北朝鮮がそれらを信じなければ抑止は成功しない。
また、レポートは次のような抑止のジレンマについても議論している。
・抑止と保証の間の緊張:米国の韓国に対する防衛コミットメント(拡大抑止)は、同盟国の安心感を高めるために設けられているが、北朝鮮に対しては、過剰な軍事力の増強がかえって不安を煽り、軍拡競争を招く可能性があるとしている。
・リスクとエスカレーションの管理:抑止が失敗した場合の反応にはリスクが伴い、紛争や暴力の拡大を招く可能性がある。特に、核兵器が関与する場合、そのコストは非常に高くなる。朝鮮半島では、北朝鮮の挑発行為がエスカレートし、広範な紛争に発展するリスクが高いとされている。北朝鮮の核能力の成熟により、低レベルの攻撃に対する抑止がより困難になる可能性がある。
全体として、抑止は朝鮮半島の平和と安定を維持するために中心的な役割を果たしているが、低レベルの攻撃やエスカレーションのリスクを減らすための対策が必要であると結論付けている。また、米韓同盟は定期的な防衛態勢の見直しを行い、リスク削減と緊張緩和に重点を置くべきだとしている。
【詳細】
このレポートは、朝鮮半島における安全保障の変化と、それに伴う抑止理論の有効性を再評価するものである。特に北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国, DPRK)が核兵器とそれを運搬するための弾道ミサイルを持つようになったことが、従来の抑止戦略にどのような影響を与えたかを分析している。著者のテレンス・ローリグとデイビッド・ローガンは、抑止理論は依然として有効な政策指針であり、北朝鮮に対する抑止は一部の専門家が懸念するほど脆弱ではないと主張している。彼らはまた、韓国に対する米国の防衛コミットメントと同盟の強化が抑止の中心にあると述べている。
背景と問題提起
まず、このレポートは、朝鮮半島での安全保障状況が大きく変化していることを指摘する。北朝鮮は核兵器を開発し、それを使用できる弾道ミサイルも保有している。この状況下で、従来の「抑止戦略」が依然として有効か、あるいは調整が必要かが問われている。多くの専門家が、北朝鮮の核能力が米国の拡大抑止(extended deterrence)に疑問を投げかけ、朝鮮半島での通常の抑止力を弱め、核戦争と通常戦争の境界を曖昧にし、大規模な北朝鮮の軍事侵攻の可能性を高めると懸念している。
レポートの主張
著者たちは、これらの懸念は重要であるが、抑止理論は依然として朝鮮半島の安全保障課題に対応するために有用であると主張する。彼らの評価によると、韓国と米国の防衛態勢は定期的に見直しと調整が必要であるものの、戦略的抑止はそれほど脆弱ではないという見解を示している。むしろ、低レベルの北朝鮮の挑発行為や、誤算、事故、偶発的なエスカレーションがより深刻な課題であり、これに対しては韓国に対する米国の防衛コミットメントを再確認し、同盟を強化する必要があるとしている。
抑止の三要素
レポートは、抑止が成功するためには以下の3つの要素が必要であると述べている。
1.明確な要求(Clear Demands)
抑止の基本は、対象国に対して「何をすべきでないか」を明確に示すことである。この要求は、抑止を行う側と対象となる側の双方にとって理解可能であり、実行可能でなければならない。韓国と米国の同盟にとって、北朝鮮に対する主な要求は、大規模な通常攻撃や核兵器の使用を抑止することである。しかし、北朝鮮の様々な行動を「挑発」という曖昧な表現でまとめることがしばしば抑止目標の設定を困難にしていると指摘されている。一部の行動は合理的なコストで抑止できない場合もあり、最も高いコストを伴う大規模な紛争を防ぐことが最優先であるとされている。
2.信頼性のある脅威(Credible Threats)
もし対象国が要求を無視した場合、その行動が失敗に終わるか、重大な代償を払うという脅威が信頼できるものでなければならない。北朝鮮が韓国や米国の軍事力に挑戦すれば、米国の核の傘を含む強力な軍事力に直面することになる。北朝鮮が韓国と米国の連合軍に対して戦争を挑めば、戦争がすぐに悪化し、最終的には北朝鮮が核兵器に頼る可能性が高いとされている。しかし、核兵器の使用は、ほぼ確実に金正恩政権の終焉を招くため、北朝鮮にとっての成功の可能性は極めて低いと考えられている。
3.信頼性のある保証(Credible Assurances)
抑止において、対象国が望ましい行動を取った場合には、報復しないという保証が必要である。つまり、脅威が条件付きであり、対象国が従えば罰を免れるという信頼性がなければならない。この保証がない場合、対象国は「どうせ罰を受けるなら行動を起こした方が良い」と考える可能性がある。しかし、朝鮮半島における信頼構築は特に難しく、韓国と米国、そして北朝鮮の間での信頼の欠如が課題となっています。北朝鮮と米韓同盟はお互いを抑止しようとしており、双方が相手方の保証を信用していない状況が続いている。
抑止におけるジレンマ
1.抑止と保証の緊張関係
米国が韓国に対して提供している防衛コミットメントは「拡大抑止」の一例であり、これは同盟国への攻撃を抑止するための安全保障保証である。しかし、拡大抑止は自己防衛のための抑止よりも難しくなる。平時には同盟国への支持を表明するのは容易であるが、核兵器を持った敵対国に対する抑止は、危機に陥った際にはリスクが非常に高くなる。米国は、韓国への安全保障の保証を強化するために軍事演習を拡大し、戦略的資産を朝鮮半島に派遣しているが、これらは北朝鮮を抑止するよりも韓国を安心させるための措置として行われている。
しかし、同盟国への保証を強化する措置が、必ずしも敵国に対する抑止力を強化するわけではない。過剰な保証が北朝鮮の不安感を煽り、軍事能力をさらに増強させることによって、危機がより不安定になり、エスカレーションの可能性が高まる恐れがある。さらに、韓国は米国の防衛措置が十分ではないと感じることがあり、その結果、韓国自身が通常戦力を増強することで軍拡競争が進み、安定性が損なわれる可能性も指摘されている。
リスクとエスカレーションの管理
抑止が失敗した場合の報復にはリスクが伴い、それが紛争や暴力のエスカレーションを引き起こす可能性がある。特に核兵器が関与する場合、報復のコストは非常に高くなる。韓国は、北朝鮮の行動に対して反応する際に、広範な紛争に発展するリスクを考慮しなければならない。北朝鮮がミサイルや長距離砲を使用すれば、ソウルが壊滅的な打撃を受ける可能性がある。過去には、韓国が北朝鮮の挑発に対して直接的な打撃を与えた一方で、米国は大規模な戦争を避けるために慎重な姿勢を示してきた。現在、朝鮮半島で大規模な戦争に発展する可能性は、北朝鮮の意図的な攻撃というよりも、危機のエスカレーションによるものである。低レベルの攻撃を抑止することが、より難しい課題となっている。
結論と提言
北朝鮮の核兵器およびミサイル能力の発展は、朝鮮半島の安全保障に重大な変化をもたらし、抑止の失敗がもたらす結果について深刻な懸念が広がっている。抑止の失敗は、地域的な戦争の勃発やエスカレーションを引き起こし、さらに核兵器の使用にまで至る可能性があるため、韓国および米国はこれを防ぐための戦略を慎重に構築する必要がある。また、北朝鮮の核戦力が増大する中で、通常兵力に基づく抑止力も再評価し、危機的な状況において誤算や偶発的な紛争を回避するためのコミュニケーション手段を強化することが求められている。
【要点】
・北朝鮮の核・ミサイル能力の発展により、朝鮮半島の安全保障環境が大きく変化した。
・抑止の失敗がもたらす結果として、地域的な戦争やエスカレーション、核兵器の使用に至る可能性がある。
・韓国および米国は、こうしたシナリオを防ぐために慎重な抑止戦略を構築する必要がある。
・北朝鮮の核戦力の増大に伴い、通常兵力に基づく抑止力の再評価が必要である。
・危機時の誤算や偶発的な紛争を回避するために、より効果的なコミュニケーション手段の強化が求められている。
【引用・参照・底本】
Deterring a Nuclear North Korea: What Does the Theory Tell Us? 38NORTH 2024.10.17
https://www.38north.org/reports/2024/10/deterring-a-nuclear-north-korea-what-does-the-theory-tell-us/