フェンタニル戦争2025年02月01日 20:05

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【概要】

 アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領は、中国がアメリカのオピオイド危機に関与しているとして、10%の追加関税を課すことを脅しとした。これに対し、中国はオピオイドの一種であるフェンタニルを製造するために必要な前駆化学物質の主な供給元であり、両国はこの物質の取引を制限する措置を講じている。しかし、フェンタニルの密輸ルートは直接的な中国からアメリカへの輸送から、メキシコを経由してアメリカに密輸される形に変化している。

 フェンタニルなどの合成オピオイドは比較的新しい薬物であるが、アヘンは19世紀の貿易戦争や戦争において長い歴史を持つ。最初のアヘン戦争(1839-42年)では、イギリスが中国との貿易不均衡を解消するために、中国市場にアヘンを大量に流入させた。この結果、中国では多くの市民がアヘンに依存するようになった。1839年、アヘン依存の拡大に対処するため、中国皇帝は林則徐(リン・ツーシュ)を広州に派遣し、アヘンの流入を阻止し、貯蔵されていたアヘンを破壊した。イギリスのアヘン商人はこれに激怒し、中国側の対応が自由貿易の原則に反するとして、賠償を要求し、イギリス政府に軍事的対応を求めた。

 イギリス軍は一連の軍事的勝利を収め、1842年に南京条約を結び、中国の五つの港を開港させ、破壊されたアヘンの補償金を課し、香港をイギリスの恒久的拠点として占領した。その後、第二次アヘン戦争(1856-58年)では、イギリスとフランスが再度中国に軍事的敗北を与え、更なる貿易上の譲歩を求めた。

 アヘンやアヘン由来の製品は19世紀を通じて曖昧な地位を持ち、ラウダヌム(アヘンとアルコールを混ぜた薬)などは痛みや咳を和らげる薬として広く使用されていたが、同時に依存性があり、大量に摂取すれば致命的であることも認識されていた。

 現代においても、オピオイドは鎮痛薬として有効である一方で依存性のある精神活性物質としての側面も持ち続けており、製薬会社の積極的なマーケティングが依存症問題を引き起こした。アメリカ、カナダをはじめとする地域ではオピオイド依存症が蔓延しており、特に合成オピオイドであるフェンタニルは2016年に過剰摂取による死因としてヘロインを超える原因となった。

 中国は最初、アメリカの依存症問題に対して積極的に協力することに消極的であった。関税を課す脅威は、中国が協力する意欲を高めるものではなく、むしろアヘン戦争における「屈辱の百年」時代を連想させる。この時期、中国は外国勢力によって植民地化され、支配された歴史がある。

 現在、アメリカと中国の関係は大きく変化しており、オピオイド危機においてはその立場が逆転しているとも言える。しかし、過去の戦争の記憶を引き起こすような貿易戦争の脅しよりも、交渉を通じて解決策を見出す方が効果的である。バイデン前大統領の政権下では、交渉によりフェンタニルのアメリカへの流入を減少させる合意が成立しており、この合意は譲歩によってフェンタニルの国際的輸出を抑える手段としてモデルとなるものである。

【詳細】

 アメリカ合衆国と中国の間で繰り広げられている「フェンタニル戦争」は、アメリカ国内でのオピオイド依存症問題を巡る貿易摩擦の一環である。この戦争の引き金となったのは、ドナルド・トランプ大統領が中国に対して10%の追加関税を課すことを示唆したことであり、その理由は中国からアメリカに流入するフェンタニルの前駆化学物質が主な原因とされている。

 フェンタニルの流入とその背景

 フェンタニルは、強力な合成オピオイドであり、鎮痛効果が非常に強いことから医療現場でも使用されているが、その濫用によって多くの死亡者を出している。フェンタニルの過剰摂取による死亡者数は、オピオイド系薬物の中でも特に深刻であり、2016年にはヘロインを上回り、最も多くの死者を出す原因となった。

 フェンタニルの製造に必要な前駆化学物質は主に中国から供給されており、これがアメリカに違法に流入しているため、アメリカ政府は中国に対して取り締まり強化を求めてきた。最初は中国から直接アメリカへフェンタニルが輸送されていたが、現在ではメキシコを経由してアメリカに密輸されるケースが増えている。メキシコの製造業者がこれらの化学物質を使用し、フェンタニルを製造した後、アメリカに流通させるという新たな密輸経路が確立されたのである。

 アヘン戦争との関連

 今回のアメリカと中国の対立は、過去のアヘン戦争と一定の類似性を持つ。アヘン戦争は、19世紀半ばにイギリスと中国の間で発生した戦争であり、その背景には貿易不均衡の解消があった。イギリスは、中国との貿易で紅茶や絹、陶磁器を大量に輸入していたが、その対価として支払う銀が多すぎたため、貿易不均衡が発生していた。この状況を打開するために、イギリスはインドで栽培されたアヘンを中国に輸出することで貿易の均衡を取ろうとした。

 中国政府はこのアヘンの輸入に強い反発を示し、1839年に広州(現・広州)でアヘンを焼却する命令を出した。これに対してイギリスは軍事的な圧力をかけ、最終的に南京条約が結ばれた。この条約は、中国に対してアヘンの取り引きの自由化や、香港の割譲、賠償金の支払いなどを要求する内容だった。

 19世紀のアヘンと20世紀以降のオピオイド

 19世紀のアヘンは、貿易戦争の中で重要な役割を果たしたが、その後の時代においても、オピオイドは依存性のある薬物として使用され続けてきた。オピオイド系薬物であるラウダヌム(アヘンとアルコールを混ぜた薬)は、19世紀の西洋において痛み止めや咳止めとして使用されていたが、依存性が高く、大量に摂取すれば致命的なこともあった。このような薬物は、医療目的で処方されることもあったが、同時にその危険性が広く認識されることとなった。

 現代においては、アメリカを中心に製薬会社の積極的な販売活動が行われ、オピオイド系薬物(特にオキシコドンなどの鎮痛薬)の使用が広がった。しかし、これらの薬物が依存症を引き起こし、さらには違法薬物(ヘロインやフェンタニル)の使用を助長する結果となった。特にフェンタニルは医療用途で使われる一方、密輸される形で流通し、過剰摂取を引き起こす原因となっている。

 中国の立場とアメリカのアプローチ

 アメリカは中国に対してフェンタニルの流入を防ぐための協力を求めてきたが、中国は当初、積極的に協力する姿勢を見せなかった。中国にとって、アメリカからの圧力に対して反発があり、アヘン戦争における屈辱の歴史が影響を与えている。この歴史的な背景により、中国政府はアメリカからの関税脅威に対しても協力的な態度を取ることは難しく、むしろ逆効果となる可能性が高い。

 そのため、フェンタニルの流入問題に対しては、過去の戦争や対立を繰り返すのではなく、国際的な協力を通じて解決を図ることが求められる。実際、バイデン前政権は中国と協力し、フェンタニルの流入を減少させるための合意を結ぶことに成功した。このような交渉を通じて、双方が利益を見出す形での解決策が望ましい。

 結論

 アメリカと中国のフェンタニルを巡る対立は、アヘン戦争に端を発する長い歴史を持つ問題であり、現在も薬物問題という形で双方に影響を与え続けている。貿易戦争や関税を通じて一方的な圧力をかけることは、過去の歴史を繰り返す結果を招くだけであるため、より建設的な交渉と協力による解決策が求められる。
 
【要点】

 ・フェンタニル問題: アメリカ合衆国でのオピオイド依存症問題の一環として、フェンタニルが過剰摂取による死亡原因のトップに。中国はフェンタニルの前駆化学物質の主な供給国。
 ・密輸経路: 初めは中国からアメリカへ直接流入していたが、現在ではメキシコを経由して密輸されるケースが増加。
 ・アヘン戦争との類似性: 19世紀のアヘン戦争も、イギリスが中国にアヘンを輸出して貿易不均衡を解消しようとした背景があり、中国がアヘン取締りを強化するとイギリスが軍事的に反発した。
 ・アメリカと中国の対立: トランプ大統領は中国に10%の追加関税を課すと警告したが、この対応は過去のアヘン戦争における中国の屈辱的な歴史を思い起こさせ、協力を得にくくする可能性が高い。
 ・オピオイドの歴史: 19世紀のラウダヌム(アヘンとアルコールを混ぜた薬)から、現代のオピオイド(オキシコドン、フェンタニル)まで、依存性の問題が続いている。
 ・国際協力の重要性: アメリカは中国に対して協力を求めているが、過去の歴史を踏まえた戦争的アプローチは逆効果となるため、交渉と協力が解決策となる。
 ・バイデン政権の対応: バイデン前政権は中国と協力し、フェンタニルの流入を減少させるための合意に成功しており、協力的な解決策が鍵となる。

【引用・参照・底本】

Opiate War: US-China in a fearsome fentanyl fight 2025.01.31 ASIATIMES
https://asiatimes.com/2025/01/opiate-war-us-china-in-a-fearsome-fentanyl-fight/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=7aca4900b3-DAILY_31_01_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-7aca4900b3-16242795&mc_cid=7aca4900b3&mc_eid=69a7d1ef3c

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