BRICS:新しい金融秩序の構築2024年09月18日 16:07

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【概要】

 BRICSは、近い将来にドルを中心とした国際金融システムに代わるものを発表するかもしれないとの憶測がある。特に、金や商品に裏打ちされた通貨の導入が議論されており、これはドルの支配に対抗するものとなる可能性がある。

 この動きの背景には、1944年のブレトン・ウッズ協定で始まったドル中心の国際金融システムの終焉がある。ブレトン・ウッズ協定により、米ドルは金に固定され、他国の通貨はドルにペッグされていたが、1971年にアメリカが金本位制を離脱し、以降はアメリカの財政規律が緩み、膨大な国債発行が続いた。現在では、アメリカの国債発行額は35兆ドルを超え、その返済が最大の国家予算項目となっている。

 BRICS諸国はすでにG7を経済規模で上回り、世界経済の35%を占める。BRICSの一部では、欧州通貨単位(ECU)やジョン・メイナード・ケインズが提唱したバンコールのようなモデルを参考に、複数通貨による決済システムや、資源に裏打ちされた共通通貨を検討している。

 中国はmBridgeというブロックチェーンを用いた金融プラットフォームを開発しており、これは複数の通貨での即時取引を可能にするもので、BRICS全体の金融取引における効率化を目指している。

 現在、BRICSには9カ国が加盟しており、40カ国以上が加入を希望しているものの、金融システムの複雑さなどから新規加盟を一時停止している。

【詳細】

 BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は、ドルを中心とした国際金融システムに代わる新しい金融秩序の構築を目指しており、特に金や商品に裏打ちされた通貨を導入する可能性が議論されています。この背景には、1944年のブレトン・ウッズ協定によって確立されたアメリカ主導の国際金融体制が崩壊しつつあるという認識がある。

 ブレトン・ウッズ協定とドル支配

 ブレトン・ウッズ協定は、第二次世界大戦後に国際金融システムを安定させるために締結され、米ドルを金に固定し、他の国々の通貨をドルにペッグ(固定)する仕組みが導入された。このシステムにより、世界中で貿易や金融取引が米ドルを基軸通貨として行われ、ドルを持つ国々はアメリカ中央銀行に対してそのドルを金と交換する権利を有していた。しかし、アメリカが貿易赤字を抱えた1971年、リチャード・ニクソン大統領はドルと金の交換を停止し、ドルの金本位制は終了した。これによってアメリカは金の制約から解放され、財政赤字を抱えることになった。

 ドル依存からの脱却

 ブレトン・ウッズ体制の崩壊以降、アメリカは巨額の債務を抱えるようになり、現在ではアメリカの国債は35兆ドルを超えている。この状況に対し、BRICS諸国を含む多くの国々は、ドル依存からの脱却を模索している。BRICS諸国は、世界経済において大きなシェアを占めており、特に中国は世界の工業生産の約30%を担い、アメリカの二倍近い規模を誇っている。BRICSはその経済力を背景に、新しい金融システムを構築することで、ドル中心の国際金融システムに代わる仕組みを提案している。

 BRICS通貨構想と既存のモデル

 BRICSが構築しようとしている新しい金融システムは、いくつかのモデルに基づいている。一つは、欧州通貨単位(ECU)のモデルである。ECUは1979年に設立され、ドルとの金のペッグが終了した後、ヨーロッパの通貨の安定化を図るために使用された。これにより、各国の通貨を共通の計算単位で評価し、安定した取引が可能となった。

 もう一つのモデルは、ジョン・メイナード・ケインズが提案した「バンコール」である。これは、石油や小麦などのコモディティに裏打ちされた国際通貨単位を導入し、各国通貨の変動に影響されない安定した通貨システムを目指すものでしあった。ケインズの提案には、貿易赤字や黒字を抱える国に対して罰則を課すことで、貿易のバランスを維持する仕組みも含まれていたが、当時はアメリカによって拒否された。しかし、今日の世界的な貿易不均衡、特にアメリカと中国の間の巨額の貿易赤字を考えると、ケインズの見解は再び注目されている。

 mBridgeプロジェクトとブロックチェーン技術

 BRICSは、共通通貨の導入がすぐに実現する可能性は低いものの、中国を中心に、ブロックチェーン技術を活用した「mBridge」というプラットフォームを開発している。このシステムは、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を使用して、複数の国の通貨での金融取引を瞬時に行うことを可能にするものである。これにより、国際貿易のコストを削減し、銀行などの仲介者を排除して、直接取引を行うことができる。たとえば、タイの企業がシンガポールの取引先にタイバーツで商品を売ることができ、取引は即座に完了する。このようなシステムは、ドルを介さない取引を促進し、ドル依存の解消に貢献する可能性がある。

 BRICSの今後の展望

 現在、BRICSには9カ国が加盟しており、さらに40以上の国々が加盟を希望している。特にエジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦が新たに加わっている。しかし、BRICSは最近、新規加盟の一時停止を発表しており、その理由としては、新しい金融システムの構築に伴う複雑さや世界的な影響が考えられる。

 BRICSは、金や天然資源(石油、鉱物、金属など)に裏打ちされた通貨単位を導入する可能性を検討しており、このグループは世界の自然資源の大部分を支配しているため、世界の価格を左右する力を持っている。特に、BRICS諸国が過去2年間にわたり金を大量に購入していることは、将来的な通貨システムの再編に向けた準備であると考えられている。

 結論

 BRICSが目指すドルからの脱却は、単なる経済的な動きにとどまらず、1944年に始まったアメリカ主導の国際金融システムに挑戦するものである。新しい金融システムの構築には時間がかかる可能性があるが、その方向性はすでに明確であり、ドル中心の体制から多極的な金融システムへの移行が進む中で、BRICSは重要な役割を果たすことが予想される。
 
【要点】

 ・BRICSの通貨導入の可能性:BRICSは金や商品に裏打ちされた通貨を導入し、ドル中心の国際金融システムに代わる仕組みを構築する可能性がある。

 ・ブレトン・ウッズ協定の崩壊:1944年のブレトン・ウッズ協定により、ドルが基軸通貨となったが、1971年にアメリカが金本位制を離脱し、財政赤字が拡大した。

 ・アメリカの国債問題:現在、アメリカの国債は35兆ドルを超え、返済が国家予算の最大項目になっている。これにより、ドルの支配力が弱まり、他国がドルからの脱却を模索。

 ・BRICSの経済力:BRICS諸国は世界経済の35%を占め、G7を上回る規模となっている。特に中国は世界の工業生産の30%を占め、ドル依存から脱却するための経済基盤が整っている。

 ・ECUとバンコールのモデル:BRICSは欧州通貨単位(ECU)やケインズの提唱したバンコールを参考に、共通通貨や複数通貨の決済システムを検討。

 ・mBridgeプロジェクト:中国が主導するブロックチェーン技術を活用した「mBridge」プラットフォームは、複数の国の通貨での取引を即時に行い、仲介者を排除してコストを削減する。

 ・新規加盟の一時停止:BRICSは現在9カ国が加盟しており、40以上の国が加入を希望しているが、新しい金融システムの複雑さから新規加盟を一時停止している。

 ・金の購入と通貨再編の準備:BRICS諸国は過去2年間にわたり金を大量に購入しており、将来的な通貨システム再編に向けた準備を進めている。

 ・多極的な金融システムへの移行:BRICSはドル中心の体制から、多極的な金融システムへの移行を進めており、その重要性が増している。

【参考】

 ☞ バンコール(Bancor)は、経済学者ジョン・メイナード・ケインズが1944年のブレトン・ウッズ会議で提唱した超国家的な通貨単位である。バンコールは、貿易不均衡を是正し、安定した国際金融システムを構築するために考案されたが、最終的に導入されなかった。

 バンコールの主な特徴

 1.通貨の裏付け:バンコールは金ではなく、一連の主要な商品(石油や小麦など)に裏打ちされる想定であった。これにより、通貨の価値が国際的な実物資産に基づくため、国ごとの通貨価値の変動を減少させようとした。

 2.超国家的な単位:バンコールは各国の通貨とは別のグローバルな単位として使われ、貿易や金融取引で共通の決済手段を提供する予定であった。

 3.貿易不均衡の是正:バンコール制度では、貿易赤字や黒字が続く国に罰則を課すことで、貿易のバランスを取ろうとした。これにより、特定の国が貿易黒字を溜め込むことを防ぎ、世界的な経済の安定を図ることを目指していた。

 4.米国の反対:アメリカはバンコールを「複雑で自由貿易に障害を与える」として拒否し、代わりにドルを基軸通貨とするブレトン・ウッズ体制が採用された。

 バンコールは、現在も国際通貨体制の見直しや、貿易不均衡の解消を目指す議論の中で言及されることがある。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

BRIC by BRIC, de-dollarization only a matter of time ASIA TIMES 2024.09.17
https://asiatimes.com/2024/09/bric-by-bric-de-dollarization-only-a-matter-of-time/

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