暗殺はウクライナの作戦2024年12月18日 10:33

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【概要】
 
 ウクライナの治安機関(SBU)の関係者によると、モスクワにおいてロシアの放射線・化学・生物防護部隊の指揮官であるイーゴリ・キリロフ将軍が暗殺された。この暗殺は、ロシアによるウクライナ全面侵攻が始まった2022年以降、ロシア国内での最も大胆な攻撃の一つであるとされる。

 キリロフ将軍(54歳)は、同僚とともに12月17日の朝、モスクワ市内の住宅ビルの入口近くで爆発物によって殺害された。この爆弾はスクーターに仕掛けられており、爆発の威力はTNT約1kg以上に相当するものであったとロシアの捜査委員会が発表している。

 SBUの匿名の関係者によれば、この暗殺はウクライナの作戦であり、キリロフ将軍は「正当な標的」であると見なされた。ウクライナは前日、将軍が化学兵器を使用する犯罪行為に関与していると非難しており、彼が戦場で禁止されている化学物質を用いた攻撃を指揮したと主張している。

 キリロフ将軍は、ロシア軍の特殊部隊を率い、核兵器や化学兵器が使用された際の防護や、焼夷兵器を用いた攻撃といった任務を担っていた。また、彼はロシアのプロパガンダ活動においても目立つ存在であり、西側諸国やウクライナを非難する声明を発表することが多かった。

 今回の暗殺については、ロシア国内外で議論が巻き起こっている。ロシア議会では黙祷が捧げられ、同僚や高官が彼を「科学者でもある軍事指導者」として称えた。一方で、アメリカの高官は、このような暗殺行為がプーチン政権の反応を招き、事態をエスカレートさせる可能性があると懸念を示した。

 ウクライナは、戦場での劣勢を補うために、暗殺や破壊工作を含む非対称戦術を多用しているとされる。SBUは以前にもロシアの黒海艦隊司令官の暗殺や、クリミア大橋への攻撃を実行したとされる。

 このような作戦の目的について、元英国防衛駐在官であるジョン・フォアマン氏は、ウクライナが報復と抑止のメッセージを送ることを狙っていると分析している。しかし、これがロシアの戦略や戦場での状況を根本的に変えることはないと見られている。

 ウクライナの主張によれば、キリロフ将軍は化学兵器の使用を含む約4800回の攻撃を指揮しており、これにより国際的な規約に違反しているとして非難されている。これに対し、ロシア側は化学兵器使用の疑惑を否定しており、国際的な機関からも十分な証拠が提示されていないとの指摘がある。

 暗殺の影響については、ウクライナとロシアの双方で今後の動向が注目されている。
 
【詳細】
 
 ウクライナ政府がロシア軍の放射線、化学および生物防衛部隊の責任者であったイーゴリ・キリロフ将軍をモスクワで暗殺したと発表した件について、更に詳述する。

 暗殺の経緯と手法

 2024年12月17日、ロシアのモスクワ市内で爆弾が仕掛けられたスクーターが爆発し、イーゴリ・キリロフ将軍とその補佐官が死亡した。この事件は朝6時12分頃、モスクワの住宅建物付近で発生した。ロシア捜査委員会によると、爆弾は約1キログラムのTNTに相当する威力を持ち、近隣の建物の窓ガラスが三階部分まで破損するほどの爆発だった。

 ロシアのメディアは、将軍が移動する際の監視に使用された隠しカメラが近くのカーシェアリング車両で発見されたと報じている。さらに、爆発直前の様子を捉えた監視映像が公開されており、建物から出た人物が爆発の瞬間に巻き込まれる様子が確認されている。この爆発による将軍の死亡は、ロシア軍の中核に位置する人物が国内で暗殺されるという極めて異例の事態である。

 ウクライナの関与と動機

 ウクライナの国内治安機関(SBU)は、この暗殺に関与したと公式に認めており、キリロフ将軍を「正当な標的」とみなしていたと述べている。SBUは、将軍がウクライナ戦線で禁止された化学兵器を大量に使用した責任者であると主張している。SBUによれば、ロシア軍は将軍の指揮下で化学物質を含む弾薬をウクライナ軍の陣地に投下し、ウクライナ兵を塹壕から退避させるために用いたとされる。

 キリロフ将軍の経歴と役割

 キリロフ将軍はロシア軍の放射線、化学および生物防衛部隊(RCB防衛部隊)の長官であり、この部隊は核兵器や化学兵器が使用される状況でロシア軍を保護する役割を担うと同時に、火炎放射器やサーモバリック兵器(TOS-2ロケットランチャーなど)の開発と運用にも関与していた。

 さらに、将軍はロシアのプロパガンダ活動にも積極的に参加していた人物であり、ウクライナや西側諸国を化学兵器や生物兵器の拠点と非難する主張を繰り返していた。例えば、2023年には米国が「感染した蚊を広めるドローン」を使用する計画があると主張していた。

 国際的な反応

 ウクライナによるこの暗殺は、米国をはじめとする西側諸国に微妙な影響を与えている。米国の高官は、このような暗殺行為がロシア大統領ウラジーミル・プーチンの厳しい報復を招く可能性があるため、状況を注視している。さらに、米国の一部高官は、キリロフ将軍が戦争における重要な司令官ではないことから、この暗殺が戦場の状況に与える影響は限定的であると述べている。

 一方、ロシア国内ではキリロフ将軍の死が重大な事件として報じられており、国家院の議長であるヴィアチェスラフ・ヴォロディンは、将軍を「軍事指導者であると同時に、科学者でもあった」として追悼している。

 ウクライナの特殊作戦とその背景

 今回の暗殺は、ウクライナが戦場外での特殊作戦を通じてロシアへの圧力を強化する戦略の一環である。これにはクリミア大橋への攻撃や、ロシア国内および占領地域での要人暗殺が含まれる。ウクライナはこれらの行動を「報復」として正当化しており、特に化学兵器の使用など国際法違反に対する警告として位置づけている。

 ウクライナのSBUは過去にもロシアの要人に対する暗殺を行った実績がある。例えば、2022年のダリア・ドゥギナ氏の殺害や、ロシア黒海艦隊の高官に対する攻撃が挙げられる。これらの作戦は、ウクライナの軍事的劣勢を補うための「非対称戦争戦略」の一部であるとされる。

 今後の展開

 今回の暗殺は、ロシア軍内部への心理的な打撃を与える一方で、ロシア側の報復を招く可能性が高い。専門家の間では、ロシアが同様の地位にあるウクライナ軍高官を標的とする可能性が指摘されている。また、戦場での戦況そのものに大きな影響を与える可能性は低いとされるが、両国間の緊張がさらに高まることは避けられない。

 ウクライナによるこの作戦は、ロシアの軍事的・政治的エリートに対する明確な警告であると同時に、国際社会に対してロシアの行動に対抗する意思を示すものである。
  
【要点】 
 
 イーゴリ・キリロフ将軍暗殺の詳細

 1.事件概要

 ・2024年12月17日、モスクワで爆弾が仕掛けられたスクーターが爆発し、イーゴリ・キリロフ将軍とその補佐官が死亡。
 ・爆弾の威力は約1キログラムのTNTに相当し、周囲の建物にも被害が発生。

 2.暗殺の手法

 ・爆発現場付近に隠しカメラを設置し、ターゲットを監視。
 ・爆発の瞬間の映像が公開され、精密な作戦が実行されたと推測される。

 3.ウクライナの関与

 ・ウクライナの国内治安機関(SBU)が暗殺を認め、キリロフ将軍を「正当な標的」とみなした。
 ・将軍がウクライナで禁止された化学兵器を使用した責任者と主張。

 4.キリロフ将軍の役割

 ・ロシア軍放射線、化学および生物防衛部隊の長官。
 ・化学兵器、サーモバリック兵器の開発・運用を指揮。
 ・プロパガンダ活動にも関与し、西側を化学・生物兵器の脅威と非難していた。

 5.国際的反応

 ・米国を含む西側諸国は状況を注視しつつ、報復の可能性を懸念。
 ・ロシア国内では事件が重大視され、政府高官が追悼の声明を発表。

 6.背景と戦略

 ・ウクライナの特殊作戦の一環として実施され、ロシアへの圧力を強化。
 ・過去の事例として、クリミア大橋攻撃やロシア要人暗殺が挙げられる。

 7.影響と見通し

 ・ロシア軍内部への心理的打撃を与え、報復の可能性が高まる。
 ・戦況そのものに大きな影響はないが、両国間の緊張がさらに激化する見込み。
 ・国際社会へのウクライナの対抗意思を示す作戦として位置づけられる。

【引用・参照・底本】

Ukraine Says It Killed General Who Led Russia’s Nuclear Defense Force The New York Times 2024.12.17
https://www.nytimes.com/2024/12/17/world/europe/russian-general-bombing-moscow.html

反政府派解散:戦闘員がシリア国防省傘下に統合2024年12月18日 13:33

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【概要】
 
 シリアの反政府勢力である「ハヤート・タハリール・アル=シャーム」(HTS)の指導者アフマド・シャラー(旧名:アブ・モハンマド・アル=ジョラニ)は、2024年12月17日、反体制派の諸派が解散し、全戦闘員がシリア国防省の下に統一されると発表した。この発表は、HTSの公式Telegramアカウントに投稿された声明で公表された。

 シャラーは、シリアの少数派であるドルーズ派との会談において、「シリアは統一されたままでなければならず、国家とすべての宗派との間に社会正義を確保するための社会契約が必要である」と述べた。また、「派閥は解散され、戦闘員は国防省に参加する準備を整え、すべての人が法律の下に置かれる」と強調した。

 HTSは、アサド政権の打倒において複雑な構成の反体制派諸派を結集させたが、これらの派閥は時に異なる敵を目標にして外国勢力から支援を受け、互いに衝突することもあった。シャラーが提案する国家軍への統合は、すべてのシリア人を包含する政府を目指す中で、国際的な正当性を得るための一環として掲げられた公約の一つである。

 一方、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イスラエルが管理するシリア領内の地域を視察し、シリア内の「安全地帯」に位置するヘルモン山頂を訪問した。この訪問は、現職のイスラエル首相によるシリア領内の視察としては異例であり、イスラエル国防軍がこの地域に展開して以来初の高官視察である。ネタニヤフ首相は、「イスラエルの安全を確保する別の体制が見つかるまで、イスラエルはシリアに留まる」と述べた。

 HTSは、かつてアル=カーイダやイスラム国と関係を持っていたが、近年では地方問題に焦点を当てたイスラム主義運動として再編を図っている。アメリカ国務省は依然としてHTSをテロ組織に指定しているが、アメリカ政府は安定した政権移行を推進する中でHTSとの直接接触を行っており、アントニー・ブリンケン国務長官は、将来のシリア政府が女性や少数派の権利を尊重し、テロ組織を容認しないことを条件に認知を検討すると述べている。

 また、以下の動向が報告されている。

 ・アメリカ支援を受けるシリア民主軍(SDF)が、トルコの攻撃を回避するためにクルド独立運動の象徴的な都市であるコバネを非武装地帯として提案した。
 ・アメリカ国務省は、トルコとSDFの間の停戦延長を発表したが、停戦は前夜に崩壊した。
 ・ハマスは、カタールの首都ドーハでの交渉が「前向きかつ真剣」であり、イスラエルが新たな条件を課さない限り停戦合意が「可能」であると述べた。
 ・イスラエルのイスラエル・カッツ国防相は、イスラエルが「完全な行動自由を持ってガザの安全統制を維持する」と発言した。
 ・ガザ保健省によると、イスラエルとガザの戦争でこれまでに45,059人が死亡し、107,041人が負傷したと報告されている。
 ・イスラエル政府は、2023年10月7日のハマスによる攻撃で1,200人以上が死亡し、そのうち300人以上が兵士であったと推定している。また、ガザ作戦開始以降、386人の兵士が死亡したとしている。
 
【詳細】
 
 シリア反政府勢力の指導者アフマド・シャラーが発表した内容は、シリア内戦の進展や反体制派の再編において重大な転換点を示している。彼が率いる「ハヤート・タハリール・アル=シャーム」(HTS)は、かつてアル=カーイダと関係を持ち、国際的にはテロ組織と見なされている。しかし近年、HTSは地方統治に焦点を当て、シリア北部イドリブを事実上支配しつつも、国際的な正当性を得るために再編を進めている。

 アフマド・シャラーの声明の詳細

 アフマド・シャラーは、ドルーズ派の宗教的および社会的リーダーとの会談で、反体制派の統一と国家軍の再編について強調した。彼は、以下の点を明確にした:

 1.反政府派の解散:HTSを含む全派閥が解散され、個々の戦闘員がシリア国防省傘下に統合される。
 2.法の下での平等:すべての戦闘員は法律に従い、国家軍の一員として行動する。
 3.社会正義の強調:国家とあらゆる宗派との間で社会正義を確保し、分裂ではなく統一を目指す。

 この発表は、シリアの戦後統治の枠組みを提示する試みと見られ、彼の目標は、反体制派を軍事的勢力から国家の一部として組み込み、シリア国内外での支持を得ることである。

 背景:HTSと反体制派の構造

 HTSは、シリア内戦の最中に形成された複数の反体制派の連合である。その構成は多様で、アサド政権を打倒するという共通目的のもとに集結したものの、以下のような課題を抱えていた。

 ・派閥間の対立:異なるイデオロギーや支持国による資金援助の違いから、派閥間で衝突が発生した。
 ・国際的支援の不安定性:一部の派閥はトルコやアメリカなどの外国勢力から支援を受けたが、その支援は必ずしも一貫していなかった。
 ・地方統治の課題:HTSが支配するイドリブ地域では、統治と治安維持が課題であり、国際社会からの支援を得るための取り組みが進められている。
 
 ネタニヤフ首相のシリア視察

 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がシリア領内の「安全地帯」を視察したことも注目される。この訪問は、イスラエル国防軍が展開するヘルモン山地域を含む戦略的エリアを視察するものであり、以下の点で重要である:

 1.安全保障の確保:ネタニヤフは、「イスラエルの安全を確保する別の体制が見つかるまで、イスラエルはこの地域に留まる」と述べた。これは、シリア情勢がイスラエルの安全保障政策に直接影響を与えていることを示している。
 2.象徴的な訪問:現職のイスラエル首相によるシリア領内訪問は異例であり、イスラエルがこの地域での影響力を維持しようとしていることを示している。

 アメリカの対応

 アメリカ政府は、シリアの政権移行を安定的に進めるために、HTSとの接触を開始している。国務長官アントニー・ブリンケンは、以下の条件を提示している。

 1.少数派と女性の権利の保護:将来のシリア政府がすべての市民の権利を保障する必要がある。
 2.テロ組織の排除:シリア国内におけるテロ組織の存在を容認しないこと。

 これらの条件が満たされた場合、アメリカは新たなシリア政府を認知する可能性があると述べている。

 その他の関連動向

 1.トルコとシリア民主軍(SDF)の停戦

 ・アメリカは、トルコとSDFの間の停戦を延長することを発表したが、停戦は崩壊しつつある。
 ・SDFは、クルド独立運動の象徴的な都市であるコバネを非武装地帯とすることを提案した。

 2.ガザの戦況

 ・ガザ保健省によると、イスラエルとガザの戦争でこれまでに45,059人が死亡し、107,041人が負傷した。
 ・一方、イスラエルではハマスによる2023年10月7日の攻撃で1,200人以上が死亡し、そのうち300人以上が兵士であったと報告されている。

 全体のまとめ

 アフマド・シャラーの発表は、シリア内戦後の国家再建における重要な一歩であり、国内統一と国際的正当性を目指す試みとして注目されている。同時に、イスラエルやアメリカの動向がシリアの未来にどのように影響を与えるかが鍵となるであろう。
  
【要点】 
 
 アフマド・シャラー(HTS指導者)の発表内容

 ・シリアの反体制派勢力(HTSを含む)を解散し、戦闘員をシリア国防省の指揮下に統合すると表明。
 ・国家と全宗派の間で社会正義を確保し、シリアの統一を維持する方針を強調。
 ・法律の下で平等を実現し、国防省の下で統一された国家軍を形成する計画を示唆。

 HTSの背景

 ・以前はアル=カーイダとのつながりを持つテロ組織として認識されていたが、現在は地方統治を重視し、国際的正当性を得るための再編を進めている。
 ・イドリブ地域を事実上支配しており、地方統治と治安維持に注力。
 ・派閥間の対立や国際的支援の不安定性などの課題を抱えてきた。

 ネタニヤフ首相のシリア視察

 ・ヘルモン山を含むシリア領内の「安全地帯」を視察し、イスラエルの安全保障政策を再確認。
 ・「イスラエルの安全を確保する別の体制が見つかるまで、イスラエルはこの地域に留まる」と明言。
 ・現職イスラエル首相によるシリア領内訪問は異例。

 アメリカの対応

 ・アメリカ政府は、HTSと直接接触を行い、シリアの政権移行を安定的に進めることを模索。

 ・アメリカの条件

 1.少数派と女性の権利を保障すること。
 2.テロ組織の存在を容認しないこと。
条件が満たされれば、アメリカは新たなシリア政府を認知する可能性を示唆。

 トルコとSDFの停戦問題

 ・トルコとアメリカ支援のシリア民主軍(SDF)間の停戦延長をアメリカが発表したが、停戦は崩壊しつつある。
 ・SDFはコバネを非武装地帯とする提案を行い、トルコの攻撃を回避しようとしている。

 ガザ情勢

 ・ガザ保健省:イスラエルの攻撃で45,059人が死亡、107,041人が負傷(民間人・戦闘員の区別なし)。
 ・ハマスによる2023年10月7日の攻撃で、イスラエル側は1,200人以上が死亡、そのうち300人以上が兵士。
 ・現在、ガザの「戦後管理」を巡る議論が進行中。

 まとめ

 ・アフマド・シャラーの発表はシリアの戦後統一と再建を目指す重要な試みである。
 ・国際的な注目が集まる中、イスラエル、アメリカ、トルコといった周辺国の対応がシリアの未来に大きな影響を与える。

【引用・参照・底本】

Syrian rebel leader says rebel factions will be dissolved The New York Times 2024.12.17
https://www.washingtonpost.com/world/2024/12/17/israel-syria-war-news-hamas-gaza-palestine/

ロシアとパキスタン:資源分野での協力を拡大2024年12月18日 13:51

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【概要】
 
 ロシアとパキスタンは、資源分野での協力を包括的に拡大することを合意した。2024年12月17日、アンドリュー・コリブコの報告によると、パキスタンは中国への依存を減らすことを望んでおり、そのためロシアに対して、資源インフラの近代化を中国ではなくロシアに任せることを選んだ。これにより、アメリカの戦略的目標にも合致する形となる。

 パキスタンとロシアは、第9回パキスタン・ロシア政府間貿易・経済・科学技術協力委員会の結果として、資源分野における協力を包括的に拡大する協定に署名した。この協力は、エネルギーや鉱物探査、油田サービス、ガスパイプライン、産業通信、共通の基準、設備、LNG(液化天然ガス)、石炭および化学分野の協力、水力発電および水管理を含む。

 これまで、両国間の協力における主な障害は、財政的な問題と政治的な要因であった。特に、パキスタンの資金不足とアメリカの影響力が問題となっていたが、これらの問題がどのように克服されたかは明確ではない。ただし、パキスタンが現金の代わりにロシアにプロジェクトの優先権を提供し、アメリカがこの状況を許可した可能性もある。この背景には、アメリカの民間企業が巨額の投資を行うことに対する慎重な姿勢があり、その結果、ロシアの国営企業が代わりにこれらのプロジェクトを受けることになった可能性がある。

 アメリカの戦略的な観点から、民間企業が不利な条件に対して投資を避けるのであれば、ロシアの企業がプロジェクトを実施する方が、中国の企業が進出するよりも望ましいとされる。アメリカはパキスタンにおける中国の影響力を削ぐことを優先しており、その結果、ロシアの資源分野での影響力が拡大することで、中国に対するカウンターとなり、アメリカの戦略的立場を強化することにつながる。

 また、これはロシアの「南アジアへのシフト」の一環として位置づけられ、ロシアは中国への過度な依存を避けるために、この地域での影響力拡大を目指している。パキスタンも中国への依存を減らすことを望んでおり、そのためロシアに資源インフラの近代化を任せることが、アメリカの戦略にも合致する形となっている。この傾向が続けば、将来的にはロシア・アメリカ・中国の相互作用がパキスタンにおいて重要な要素となるだろう。
 
【詳細】
 
 2024年12月17日付のアンドリュー・コリブコによる報告によれば、ロシアとパキスタンは資源分野における協力を大幅に拡大することで合意した。具体的には、両国は第9回パキスタン・ロシア政府間貿易・経済・科学技術協力委員会の結果として、エネルギー、鉱物探査、油田サービス、ガスパイプライン、産業通信、共通基準の確立、設備の提供、LNG(液化天然ガス)、石炭、化学分野、そして水力発電および水管理に関する協力を強化する協定に署名した。

 背景と経済的な意図

 パキスタンは、これまで中国に対して依存しすぎている状況に直面しており、その依存度を減らすためにロシアと協力を強化することを選択した。パキスタン政府は、ロシアが資源インフラの近代化を支援することを希望しており、これは中国の影響を減少させ、またロシアとの経済関係を強化することを目指している。さらに、アメリカの戦略的目標にも合致しており、アメリカはロシアの進出を中国によるものと比較して受け入れやすいと見なしている。

 これまでの両国間の協力の障害となっていたのは、主に財政的な問題と政治的な障壁であった。特に、パキスタンは財政的に困難な状況にあり、またアメリカの影響力が強く、これがパキスタンの政策に大きな影響を与えていた。しかし、最近になってこれらの問題がどのように解消されたかは明確にはわかっていない。可能性として、パキスタンが現金を提供する代わりにロシアに優先権を与えるという形で協力が進展した可能性がある。

 アメリカの戦略的観点

 アメリカにとって、ロシアがパキスタンの資源インフラに投資することは、必ずしも否定的なことではない。むしろ、中国の影響力を削ぐための手段として、ロシアの進出を受け入れる可能性がある。アメリカの民間企業は、パキスタンのインフラ整備に関しては長期間にわたる投資の回収を期待することが難しいため、慎重な姿勢を取っている。しかし、ロシアの国営企業はこうしたリスクを取る余裕があり、長期的に高いリターンを得ることを目指して投資を行うことができる。この点で、アメリカは民間企業が参入しないのであれば、ロシアの企業が参入することを許容する可能性が高い。

 アメリカの戦略的目標は、パキスタンにおける中国の影響力を削減することであり、ロシアの進出がその目的を達成する助けになると考えられている。ロシアの影響力が増すことで、中国の影響力が相対的に弱まるため、アメリカにとっては有利に働くと見なされている。また、ロシアがパキスタンに対して行う投資は、アメリカの地政学的利益にかなうものとみなされている。

 ロシアのアジア戦略

 ロシアは「南アジアへのシフト」を進めており、特に中国への依存を避けるために、パキスタンとの経済的な関係を強化しようとしている。この「南アジアへのシフト」は、ロシアが中国とインド以外のアジア諸国との協力を強化する一環であり、パキスタンはその重要なパートナーと位置づけられている。ロシアがこの地域での影響力を高めることで、中国に対する依存を避けることが狙いである。

 パキスタンもまた、中国への依存度を減らすことを望んでおり、これまでの中国との経済関係に対して不安を抱えている。パキスタン政府は、中国の一帯一路(Belt and Road Initiative)における関与が、経済的に不利な面を持っていると認識しているため、ロシアとの協力を選択したと考えられる。ロシアが資源インフラの近代化を支援することにより、パキスタンは中国以外の選択肢を得ることができ、経済的な独立性を強化することができる。

 結論

 このように、ロシアとパキスタンの協力拡大は、両国の経済的利益だけでなく、地政学的な戦略とも深く結びついている。アメリカは、ロシアの進出を受け入れることで、パキスタンにおける中国の影響を削ぐことができるため、結果として自国の戦略的立場を強化することができる。将来的には、ロシア、アメリカ、中国の三者がパキスタンにおいてどのように相互作用するかが、地政学的な重要なポイントとなるだろう。
  
【要点】 
 
 ・ロシアとパキスタンの協力拡大: 両国は第9回パキスタン・ロシア政府間委員会の結果として、資源分野で包括的な協力を拡大する協定に署名した。協力内容には、エネルギー、鉱物探査、油田サービス、ガスパイプライン、産業通信、設備、LNG、石炭、化学、水力発電、水管理が含まれる。

 ・パキスタンの依存度の低減: パキスタンは中国への過度な依存を減らしたいと考え、ロシアによる資源インフラの近代化を希望している。これにより、中国の影響を減少させ、ロシアとの経済関係を強化することが狙い。

 ・アメリカの戦略的観点: アメリカは、ロシアがパキスタンにおいて資源インフラを近代化することを許容する可能性が高い。アメリカは中国の影響力を削減するために、ロシアの進出を受け入れることで有利な立場を保つ。

 ・アメリカの民間企業の慎重さ: アメリカの民間企業は、パキスタンの資源インフラ整備における投資に対して回収まで時間がかかるため、慎重な姿勢を取っている。しかし、ロシアの国営企業は長期的なリターンを見込んで投資することができる。

 ・ロシアの「南アジアへのシフト」: ロシアは、中国への依存を避けるため、南アジアでの影響力を高めようとしており、パキスタンとの経済協力を強化している。

 ・パキスタンの経済的独立: パキスタンは、中国の一帯一路に対して不安を抱えており、ロシアとの協力を選択することで、中国への依存を減らし、経済的な独立を強化する狙いがある。

 ・アメリカの戦略的立場の強化: アメリカはロシアがパキスタンで影響力を拡大することで、中国の影響を弱め、アメリカの戦略的立場を強化できると考えている。

 ・将来の地政学的影響: ロシア、アメリカ、中国の三者がパキスタンでどのように相互作用するかが、今後の地政学的な重要な要素となる。

【引用・参照・底本】

Russia & Pakistan Will Comprehensively Expand Cooperation In The Resource Sector Andrew Korybko's Newsletter 2024.12.17
https://korybko.substack.com/p/russia-and-pakistan-will-comprehensively?utm_source=post-email-title&publication_id=835783&post_id=153249761&utm_campaign=email-post-title&isFreemail=true&r=2gkj&triedRedirect=true&utm_medium=email

ロシア連邦捜査委員会は容疑者を拘束2024年12月18日 17:18

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【概要】
  
 2024年12月17日早朝、ロシアの化学防護部隊司令官であるイゴール・キリロフ大将(54歳)とその補佐官イリヤ・ポリカルポフがモスクワの自宅近くで発生した爆発により死亡した。この事件に関連して、ロシア連邦捜査委員会は容疑者を拘束したことを2024年12月18日に発表した。

 事件の概要

 捜査当局によると、拘束された容疑者は1995年生まれのウズベキスタン国籍の人物であり、ウクライナ情報機関によって勧誘されたとされている。この容疑者は、自作の爆発装置を受け取り、キリロフの自宅付近に駐車してあった電動スクーターにそれを設置したと主張されている。また、容疑者は監視カメラを搭載した車両をレンタルし、現場のライブ映像をウクライナのドニプロ(旧称:ドニプロペトロウシク)にいる実行指揮者たちに送信していた。

 爆発装置は、キリロフ大将とポリカルポフ補佐官が建物を出る映像が送信されてから遠隔操作で起爆された。この襲撃の成功報酬として、容疑者には10万ドルの報酬とヨーロッパの国への移住が約束されていたとされる。

 キリロフ大将の役職と活動

 キリロフ大将は、化学兵器、生物兵器、核攻撃、または「汚い爆弾」による放射線被害からロシア軍および民間人を防護する責任を持つロシア軍の専門部隊を指揮していた。2017年にその職に就任して以降、40回以上のブリーフィングを行い、部隊の専門家による調査結果を報告していた。

 2022年にウクライナ紛争が激化して以降、彼の報告の多くはこの紛争に関連した内容であった。具体的には、ウクライナ軍が化学剤を使用した可能性や、ウクライナによる挑発行為の計画に関する警告を含んでいた。また、アメリカが支援する微生物学研究所の活動に対する懸念も表明しており、この問題はロシアや他国でも注目を集めていた。

 国際的な反応と制裁

 2024年10月、キリロフ大将はウクライナがロシアを非難し、化学兵器禁止機関(OPCW)でのロシアの立場を損なうために化学兵器による偽旗作戦を計画していると非難した。この発言を受け、イギリス政府は彼に対して制裁を課していた。また、NATOがウクライナに過剰な量の化学防護装備を供給していることは、差し迫った脅威を示唆していると主張していた。

 この事件は、ロシア・ウクライナ間の緊張が続く中で発生しており、両国間の対立の新たな局面として注目されている。

【詳細】
 
 事件の詳細

 爆発の発生

 事件は2024年12月17日午前6時頃に発生した。イゴール・キリロフ大将とその補佐官イリヤ・ポリカルポフが、モスクワ市内の集合住宅から外に出た際、駐車中の電動スクーターに仕掛けられていた爆発装置が起爆された。この爆発により、2人は即死したと見られている。

 容疑者の背景

 ロシア連邦保安庁(FSB)の発表によると、拘束された容疑者は1995年生まれのウズベキスタン国籍者であり、ウクライナの情報機関によって勧誘され、暗殺計画に加担したとされている。容疑者はモスクワに移動後、自作の爆発装置を受け取り、それを電動スクーターに設置。さらに、監視カメラを搭載した車両を借り、現場周辺を監視しながら、指示をウクライナ・ドニプロの指揮者に映像で伝えていた。

 捜査によれば、ウクライナ側からは10万ドルの報酬と、任務達成後にヨーロッパの安全な国への移住が約束されていたとされる。この映像を通じて、キリロフとポリカルポフが建物から出てきた瞬間を確認後、遠隔操作で爆弾を起動した。

 イゴール・キリロフ大将の役割と業績

 職務内容

 キリロフ大将はロシア軍の化学・生物・放射線防護部隊(CBRN部隊)を指揮していた。この部隊は、軍および市民を以下のような脅威から保護するための専門技術を提供する。

 ・化学兵器や生物兵器の使用
 ・核兵器による放射線被害
 ・「汚い爆弾」(放射性物質を使用した即席爆弾)

 彼は2017年に司令官に就任し、以後40回以上のブリーフィングを実施し、自身の指揮する部隊の調査結果を公表してきた。

 ウクライナ紛争との関連

 2022年以降のウクライナ紛争の激化に伴い、キリロフ大将は化学兵器使用に関する報告や警告を強調するようになった。彼の報告内容は次のようなものが含まれる:

 ・化学剤の使用疑惑:ウクライナ軍が戦場で化学剤を使用した可能性があると指摘。
 ・挑発行為の計画:ウクライナが化学兵器を用いた挑発行為を計画していると主張。
 ・アメリカ支援の研究所に関する懸念:ウクライナ国内の微生物学研究所に対する疑念を表明。これらの研究所はアメリカ国防総省の支援を受けており、ロシア政府はその活動が「自然発生的な脅威の調査」という名目を超えた不審な目的を持つ可能性があると主張していた。

 国際的な反響

 イギリスの制裁

 2024年10月、イギリスはキリロフ大将に対して制裁を課した。この背景には、キリロフがウクライナ政府とNATOを名指しで非難し、化学兵器の偽旗作戦が計画されていると指摘したことがある。彼は特に、NATOがウクライナ軍に過剰な化学防護装備を供給していることを「差し迫った化学的脅威の兆候」として強調していた。

 キリロフの主張とその影響

 彼の報告はロシア国内外で注目を集めており、特に化学兵器禁止機関(OPCW)でのロシアの立場を守るための重要な役割を果たしていた。キリロフの死亡により、ロシア政府の化学・生物兵器に関する政策の情報発信力が低下する可能性がある。

 捜査の現状と影響

 ロシア政府は今回の事件を「ウクライナ政府による国際テロ」として非難しており、さらにウクライナとの緊張が高まる要因となっている。FSBおよび捜査委員会は、背後に存在するウクライナ情報機関の関与について更なる証拠を集めていると報じられている。今回の事件は、ロシアとウクライナ間の対立の一端を象徴するものであり、双方の対立が新たな局面を迎えている可能性がある。
  
【要点】 
 
 事件の概要

 ・発生日時:2024年12月17日午前6時頃
 ・発生場所:モスクワ市内の集合住宅付近
 ・被害者:ロシア化学防護部隊司令官イゴール・キリロフ大将(54歳)と補佐官イリヤ・ポリカルポフ
 ・手口:駐車中の電動スクーターに設置された爆弾が、遠隔操作で起爆された

 容疑者の詳細

 ・国籍:ウズベキスタン
 ・生年:1995年
 ・行動:ウクライナ情報機関に勧誘され、暗殺計画を実行

  ⇨ 自作爆弾を受け取り設置
  ⇨ 監視カメラ付きの車両を借り、現場の映像をウクライナの指揮者(ドニプロ市)に送信
  ⇨ 映像を確認後、遠隔で爆弾を起動

 動機と報酬

 ・動機:ウクライナ政府の指示に基づく暗殺
 ・報酬:成功報酬として10万ドルとヨーロッパへの移住を約束されていた

 被害者の背景と役割

 ・キリロフの役割:ロシア軍の化学・生物・放射線防護部隊(CBRN部隊)を指揮

  ⇨ 化学兵器・生物兵器・放射性物質からの防護を担当
  ⇨ 2017年就任以来40回以上のブリーフィングを実施

 ・主張

  ⇨ ウクライナ軍の化学兵器使用疑惑
  ⇨ ウクライナによる偽旗作戦の計画を警告
  ⇨ アメリカ支援の微生物学研究所に対する疑念を提起

 国際的な反響

 ・イギリスの制裁:2024年10月、キリロフに対して制裁を課す

  ⇨ ウクライナとNATOを非難したことが背景
  ⇨ 化学兵器禁止機関(OPCW)でのロシアの立場を擁護する活動が注目されていた

 捜査と影響

 ・捜査状況

  ⇨ ロシア政府はウクライナ情報機関の関与を強調
  ⇨ 事件を「国際テロ」と位置づけ、さらなる証拠収集を継続

 ・政治的影響:

  ⇨ ロシアとウクライナ間の対立が一層激化
  ⇨ ロシア国内での反ウクライナ感情がさらに高まる可能性

【引用・参照・底本】

Suspect in Russian chemical defense chief murder recruited by Kiev – officials RT 2024.12.18
https://www.rt.com/russia/609516-suspect-detained-russian-chemical-defense-murder/

軍拡競争や地政学的な覇権争いに発展している2024年12月18日 18:11

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【桃源寸評】

 西側の真の危機は米国が作り出している。それも捏ち上げてである。
 讒誣、である。

 この記事でも、プーチンが述べているが、「我々をレッドラインへ追いやり、我々が対応すると、それを利用して自国の国民を脅かす」のである。

 つまり、執拗な扇動を彼の手此の手と繰り返し、相手を罠に追い込み(大義名分を作り)、自分は正義面し、徒党を組んで(悪者退治のため)攻めのである。

 しかし、若し米ソ核戦争が勃発したら、米国本土も当然無傷では済まない。

 西側諸国は米国の汚い遣り方を非難し諫めるべきである。米国の最も質の悪い習癖である。

 国際社会は米国の二枚舌、リップサービスには用心すべきである。

 米国の言動には必ず(相手を陥れる)裏がある。

【寸評 完】

【概要】
  
 ロシアのプーチン大統領は、ウクライナへの継続的な支援を通じて西側諸国がロシアを「レッドライン」を越える地点まで追い込んでいると述べた。同時に、アメリカに対して中距離ミサイルの配備を警告した。

 プーチン大統領は月曜日に行われたロシア国防省幹部との会合で、アメリカが「ロシアを弱体化させ、戦略的敗北を与える」ことを目的としており、その一環として「キエフの事実上の非合法な政権に武器や資金を供与し、傭兵や軍事顧問を送ることで、紛争のさらなるエスカレーションを助長している」と非難した。

 また、プーチン大統領は、アメリカが「単純な戦術」を用いて自国民を恐怖に陥れていると指摘した。彼は、「我々をレッドラインへ追いやり、我々が対応すると、それを利用して自国の国民を脅かす」という手法は、ソビエト連邦との冷戦時代にアメリカが用いたアプローチと同様であると述べた。

 さらに、プーチン大統領は、西側諸国が自らのルールを世界に押し付けようとし、これに抵抗する国々、特にロシアに対して「ハイブリッド戦争」を仕掛けていると批判した。この文脈で、NATOが防衛支出を増加させ、ロシアの国境付近で「攻撃部隊」を形成していると述べた。彼によれば、ヨーロッパにおけるアメリカ軍の兵力はすでに10万人を超えている。

 また、NATOはヨーロッパのみならず、アジア太平洋地域などこれまで軍事的プレゼンスがなかった地域にも展開を拡大していると指摘した。特に、アメリカが射程5,500キロメートルまでのミサイルシステムを配備する計画について懸念を表明した。この種の武器は冷戦時代の中距離核戦力(INF)全廃条約で禁止されていたが、アメリカは2018年に同条約から一方的に脱退した。アメリカはその理由としてロシアの違反を挙げたが、ロシアはこれを否定している。

 プーチン大統領は、アメリカがINF条約から脱退した後も、ロシアは中距離および短距離ミサイルを配備しないという一方的かつ自主的な誓約を守っていると強調した。しかし、「もしアメリカがそのようなシステムを配備し始めた場合、我々の自主的な制限はすべて解除される」と警告した。

【詳細】
 
 プーチン大統領の発言は、ウクライナ情勢を巡る西側諸国とロシアの緊張がいかに深刻化しているかを示している。以下、各ポイントを更に詳しく説明する。

 1. 西側諸国のウクライナ支援と「レッドライン」について

 プーチン大統領は、西側諸国、とりわけアメリカがウクライナへの武器や資金の提供、傭兵や軍事顧問の派遣を継続していることを批判している。彼はこれを「キエフの事実上の非合法な政権」に対する支援と位置づけ、ロシアへの戦略的敗北を狙う行為と断じている。この支援により紛争がさらにエスカレートしており、ロシアにとって国家の防衛に関わる「レッドライン」を超える状況を作り出していると述べている。

 プーチンは、西側諸国がロシアを挑発し、ロシアが何らかの対応を取るとそれを利用して西側国民をロシアの脅威として恐怖に陥れる戦術をとっていると指摘している。これは、冷戦時代のソビエト連邦に対してアメリカが行った戦略を踏襲しているものであると批判した。

 2. 西側諸国による「ハイブリッド戦争」

 プーチン大統領は、西側諸国が自らのルールを世界に押し付けようとしており、これに反対する国々に対して「ハイブリッド戦争」を仕掛けていると述べた。ここでの「ハイブリッド戦争」とは、軍事的行動だけでなく、経済制裁、情報戦、政治的圧力を含む多方面からの攻撃を指している。ロシアはその主な標的となっており、これが国際社会における不安定化をもたらしていると主張している。

 3. NATOの軍事的拡大

 プーチン大統領によれば、NATOは防衛費の増額や部隊の増強を進めており、特にロシア国境付近で「攻撃部隊」を組織していると述べた。さらに、アメリカ軍のヨーロッパ駐留人数が10万人を超えていることを挙げ、これはロシアを直接的に脅かす軍事行動であると指摘している。

 また、NATOはヨーロッパ以外の地域、特にアジア太平洋地域にまでその軍事的プレゼンスを拡大している。これまで軍事的な影響力が及んでいなかった地域にNATOが進出することは、ロシアのみならず世界的な安全保障バランスを崩すものと見ている。

 4. 中距離ミサイル配備の問題

 プーチン大統領は、アメリカが冷戦時代の中距離核戦力(INF)全廃条約から2018年に脱退したことを強く批判している。この条約は、中距離(500〜5,500キロメートル)の核ミサイルと通常ミサイルの配備を禁止していた。アメリカは条約脱退の理由として、ロシアが条約に違反していると主張したが、ロシアはこれを否定している。

 条約脱退以降、ロシアは自主的に中距離および短距離ミサイルの配備を行わないとする一方的な誓約を守っているとプーチン大統領は主張した。しかし、アメリカがこの種のミサイルを世界のどこかに配備した場合、ロシアも同様にミサイルの配備を進めると警告した。この発言は、アメリカが射程5,500キロメートルまでのミサイルシステムをヨーロッパやアジア太平洋地域に配備する可能性への直接的なけん制である。

 5. アジア太平洋地域への懸念

 プーチン大統領は、アメリカがアジア太平洋地域に軍事的影響力を広げ、ミサイルシステムを配備しようとしていることについても懸念を示した。この動きはロシアのみならず、中国や他のアジア諸国にも安全保障上の課題をもたらすと考えられる。特に、射程5,500キロメートルのミサイルはロシアの広大な領土のほぼ全域を射程に収めることができ、ロシアの国防戦略に重大な影響を与える。

 6. 全体の文脈

 プーチン大統領の発言は、西側諸国とロシアの対立が単なる地域的な争いに留まらず、軍拡競争や地政学的な覇権争いに発展していることを強調している。特にアメリカとNATOが行う軍事的行動や拡大は、ロシアにとって安全保障上の脅威であると見なされている。これに対し、ロシアは独自の対応を行う用意があることを明確に示した。
  
【要点】 
 
 1.西側諸国のウクライナ支援への批判

 ・アメリカや西側諸国がウクライナへの武器供与や資金援助、傭兵や軍事顧問の派遣を行い、紛争をエスカレートさせていると非難。
 ・西側の行動はロシアを「レッドライン」まで追い込むものであると主張。

 2.「レッドライン」への挑発

 ・西側はロシアを挑発し、ロシアが対応するとそれを利用して自国民に「ロシアの脅威」を強調していると批判。
 ・この戦術は冷戦時代のソビエト連邦への対応と同様であると指摘。

 3.「ハイブリッド戦争」への非難

 ・西側諸国が自らのルールを押し付け、それに抵抗する国に対して経済制 裁、情報戦、軍事的圧力を含む「ハイブリッド戦争」を仕掛けていると非難。
 ・ロシアがその主要な標的であると主張。

 4.NATOの軍事拡大への懸念

 ・NATOが防衛費を増額し、ロシア国境付近で「攻撃部隊」を編成していると指摘。
 ・ヨーロッパにおけるアメリカ軍の駐留人数が10万人を超えていると強調。

 5.アジア太平洋地域へのNATO拡大

 ・NATOの軍事的影響力がアジア太平洋地域にまで及んでおり、これまで軍事的プレゼンスがなかった地域にまで拡大していると批判。
 ・この動きは世界的な安全保障バランスを崩すものであると警告。

 6.中距離ミサイル配備問題

 ・アメリカが2018年に中距離核戦力(INF)全廃条約から脱退し、その後ミサイル配備を進める可能性があることを非難。
 ・ロシアは自主的に中距離ミサイルの配備を控えているが、アメリカがミサイルを配備すればロシアも制限を解除すると警告。

 7.射程5,500キロメートルミサイルへの懸念

 ・アメリカが射程5,500キロメートルのミサイルを配備すれば、ロシア領土の大半が射程に入るため、重大な脅威となると指摘。

 8.全体的なメッセージ

 ・西側諸国の行動はロシアの安全保障を脅かしており、ロシアは必要に応じて対抗措置を講じる用意があると警告。
 ・西側の軍拡と覇権拡大を批判し、国際的な緊張を高める行動をやめるよう訴えた。

【引用・参照・底本】

West pushing Russia beyond ‘red line’ – Putin RT 2024.12.16
https://www.rt.com/russia/609425-west-pushing-russia-red-line-putin/