足下を見られるトランプ流ディール2025年04月26日 13:43

Ainovaで作成
【概要】

 ウィリアム・ペセックによる「China, Japan, Korea sense Trump trade war weakness」(2025年4月25日付)という論評であり、アジアの主要経済国がトランプ大統領の貿易戦争における弱腰を感じ取り、自国に有利な取引を模索し始めているという分析を展開している。

 ・トランプ氏の関税政策は後退局面にある。彼が課した中国への145%関税などにより、米国市場は大混乱に陥っており、大企業のCEOたちの圧力で譲歩を余儀なくされた。

 ・中国、日本、韓国はこの“弱さ”を認識しつつある。中国の習近平主席は、強硬姿勢を崩さずにアジアや欧州と自由貿易で連携することで、米国の孤立を浮き彫りにしている。

 ・日本の石破茂首相と韓国の Han Duck-soo大統領代行は、トランプ氏が貿易で「勝利」を必要としていることを理解しており、交渉での立場が強化された。

 ・トランプ氏の“翻意”はウォール街依存を意味する。株式市場の急落や利上げを続けるパウエルFRB議長の解任未遂など、国内経済への影響が彼の外交政策を揺るがしている。

 ・米中の認識に食い違いがある。米国は交渉が進行中と主張するが、中国は「協議は行われていない」と否定している。

 ・中国は報復手段として米国債の保有を活用している可能性がある。7,600億ドルの保有高は米国市場への影響力を意味する。

 ・日本との交渉も進展が見られず、アカザワ経済再生担当相は何の成果もなく帰国した。これは2019年の安倍首相の例にならい、日本側が時間を稼いで有利な条件を引き出そうとしている戦略と見られる。

 ・石破首相は7月の選挙を控えており、米国に譲歩する姿勢は致命的な政治的リスクを孕む。

 ・この分析は、トランプ氏が自身の強みと見なしてきた「ディール(取引)」能力が、国際的な現実と金融市場の圧力の中でいかに脆弱であるかを浮き彫りにしている。アジア諸国はこの“隙”を的確に捉えつつある。

【詳細】

 1. トランプの関税政策の後退とその背景

 ・トランプは「Tariff Man(関税男)」として知られるが、ここに来て対中関税(最大145%)を「大幅に引き下げる」と述べ、譲歩の姿勢を見せた。

 ・これは、米国株式市場の暴落(数兆ドル規模)、主要企業CEO(ウォルマート、ターゲット、ホームデポ)からの圧力、そしてドルや米国債からの投資流出といった「市場からの反乱」に直面した結果である。

 ・一方で、トランプは中国に対するSNS上での批判(ボーイング製ジェットのキャンセル、フェンタニル問題)を続けており、その譲歩が本物かどうかには疑問が残る。

 2. アジア側の動き:中国、日本、韓国の戦略的静観

 (1)中国(習近平)

 ・対米関税戦争において「戦うなら最後まで、話すなら扉は開いている」と公式に表明。強硬と柔軟の両面外交を展開。

 ・自国の145%関税に対抗しつつ、一部の米国製医療機器や化学品、航空機リースにかかる関税の一時停止を検討。

 ・中国は約7,600億ドルの米国債を保有しており、それを「脅し」として活用する余地を持つ。

 ・米国が脆弱であることを確認し、譲歩を急がずじっくり交渉する姿勢に切り替えた。

 (2)日本(石破茂首相)

 ・トランプが交渉において「勝ち」が必要なことを理解しており、それを逆手に取り、交渉を先延ばしする姿勢。

 ・経済再生担当相・赤澤亮正との交渉も特段の進展なく終わり、日本側は関税交渉を急がず、過去の安倍晋三元首相の「ゆっくり・したたか戦術」を再現している。

 ・石破内閣の支持率は約26%と低迷しており、「トランプに譲歩した」との印象を避ける必要がある。

 (3)韓国(Han Duck-soo大統領代行)

 ・米国の立場の弱体化を見て、一時的に交渉のペースを緩めている。

 ・日本同様、米側からの譲歩を引き出すために「静観戦略」を採用。

 3. トランプ政権内の混乱と政治的弱点

 ・トランプ政権内部では、ピーター・ナヴァロ(対中強硬派)とスコット・ベセント財務長官(マーケット重視派)の間で意見対立が表面化。

 ・パウエルFRB議長の更迭を示唆したが、市場の反発を受けてトーンダウン。これも「トランプが先にまばたきした(譲歩した)」と見なされている。

 ・ラボバンクのマイケル・エブリー氏の「それを信じるならおとぎ話好きだ」という皮肉は、トランプの政策の一貫性の欠如を象徴。

 4. 米国の経済的ダメージと国際的信用の毀損

 ・トランプの関税政策は、1930年のスムート・ホーリー法に匹敵する「最悪の政策ミス」と一部では評される。

 ・ゴールドマン・サックス、JPモルガンなどがリセッション(景気後退)を警告。米国経済の「信用ブランド」が損なわれており、その回復には「一生かかる」とも。

 ・米国債、ドルの価値が相対的に下がることは、アジアの交渉力を高める。

 5. 今後の交渉と地政学的影響

 ・今後90日間は、米国の「全方位関税」の実施が一時停止中。この期間に、アジア諸国との交渉が本格化する見込み。

 ・特に日本との貿易合意が「勝利」として演出される可能性があり、トランプ陣営はそれを「実績」としてパッケージ化したい。

 ただし、実質的譲歩がない限り、日本や中国が急ぐ理由はない。

 総括

 トランプの関税戦争は、強気なパフォーマンスに比して、実際には市場や政治圧力に屈して後退しており、それがアジア諸国にとっての「好機」となっている。特に日本と中国は、過去の経験から「急がず譲歩せず」が最も効果的であると認識し、トランプの「勝ちたい心理」を逆利用している。トランプの外交は短期的成果志向が強く、相手にとってはそれが最大の交渉材料となる。
 
【要点】 

 1.トランプの関税政策の後退と背景

 ・トランプは最大145%の対中関税を掲げていたが、最近「大幅に引き下げる」と発言。

 ・背景には株式市場の大幅下落、米企業からの圧力、投資家の動揺がある。

 ・フェンタニル問題などで中国批判は継続中だが、実際は譲歩が進んでいる可能性。

 ・政策の一貫性に疑問を持たれており、政権内の混乱も顕著。

 2.中国習近平)の対応

 ・対米強硬姿勢を維持しつつ、交渉の余地も示す「二面戦略」。

 ・米製医療機器などの一部関税を一時停止へ。

 ・保有する米国債を交渉カードとして温存。

 ・米国側の譲歩を受け、急がずじっくり対応。

 3.日本石破内閣)の対応

 ・トランプの「勝ちたい心理」を逆手に取り、交渉を先延ばし。

 ・経済再生担当相・赤澤との会談でも実質的進展なし。

 ・石破内閣の支持率低迷26%)から、譲歩姿勢は取りにくい。

 ・安倍政権時代の「ゆっくり・したたか戦術」を踏襲。

 4.韓国の対応

 ・米国の立場の弱体化を見て、交渉ペースを調整。

 ・中国や日本と同様、静観しながら米国の譲歩を引き出す構え。

 ・対米経済交渉において、独自に有利な条件を模索中。

 5.トランプ政権の内部混乱

 ・対中強硬派ナヴァロと市場重視派ベセント財務長官が対立。

 ・FRB議長の更迭示唆も、反発受けてトーンダウン。

 ・トランプの政策ブレが、市場や同盟国から不信感を招く。

 ・経済政策の信頼性が損なわれ、「信用ブランド」が低下。

 6.国の経済的ダメージ

 ・関税政策が「スムート・ホーリー法以来の愚策」とも評される。

 ・市場はリセッションを警戒。ゴールドマン・サックスも警鐘。

 ・ドル・米国債の信頼性が下がり、アジア側に交渉余地が拡大。

 7.今後の展望

 ・全方位関税の実施は90日間凍結中。交渉猶予期間に突入。

 ・トランプ陣営は「成果演出」に向け、日本との合意を狙う。

 ・ただし日本や中国は譲歩せず、「勝ち」を求める米側の焦りを利用

【桃源寸評】

​ 2025年4月現在、トランプ大統領による一連の関税措置に対し、EU各国は対応を迫られている。​特にドイツとフランスは、対応方針において異なる立場を取っており、EU内での戦略の違いが浮き彫りとなっている。以下に、各国の対応を詳述する。​

 ・フランス:迅速かつ強硬な対応を主張

 即時報復の姿勢:​フランスは、トランプ政権による鉄鋼やアルミニウムへの25%関税に対し、「即座に対応すべき」との立場を取っている。​外相ジャン=ノエル・バロ氏は、「前回(2018年)と同様に、今回も報復措置を講じる」と明言している。 ​

 EUの結束を強調:​フランスは、EU全体での統一した対応を重視し、迅速な報復措置を通じて米国に対抗する姿勢を示している。​

 EU内での主導的役割:​フランスは、EU内での統一的な対応を推進し、報復関税の策定や交渉戦略の調整に積極的に関与している。​

 外交的圧力の強化:​フランス政府は、トランプ政権の関税政策に対し、WTOルールに基づく対応を主張し、国際的な支持を得るための外交努力を展開している。

 ・ドイツ:慎重かつ段階的な対応を模索

 対話重視:​ドイツは、関税戦争が「すべての側に害を及ぼす」と警告し、対話を通じた解決を模索している。​経済副大臣ロベルト・ハーベック氏は、「長期的には、関税紛争には敗者しかいない」と述べ、協力の重要性を強調している。 ​

 EU内の結束を維持:​ドイツは、EU全体での一致した対応を重視しつつも、報復措置に対しては慎重な姿勢を取っている。​

 経済への影響:​ドイツ政府は、トランプ政権の関税政策により、2025年の経済成長が停滞すると予測している。​

 経済刺激策の導入:​新政権は、税制改革、エネルギー価格の引き下げ、官民投資ファンドの創設など、経済刺激策を打ち出している。​

 外交的対応:​ドイツの次期首相フリードリヒ・メルツ氏は、トランプ大統領が関税引き上げを一時停止したことを「欧州の団結の成果」と評価している。​

 ・EU全体の対応:段階的な報復措置と対話の継続

 報復関税の導入:​欧州委員会は、トランプ政権の関税措置に対し、最大260億ユーロ相当の報復関税を導入することを発表した。​これは、バーボンやジーンズ、ハーレーダビッドソンのバイクなど、米国の象徴的な製品を対象としている。 ​

 報復関税の導入と一時停止:​EUは、トランプ政権による鉄鋼・アルミニウム製品への25%関税に対抗し、約180億ユーロ相当の米国製品に対する報復関税を承認した。​

 交渉のための一時停止:​2025年4月10日、EUは報復関税の発動を90日間一時停止し、米国との交渉の余地を確保した。​

 戦略的ターゲティング:​EUは、トランプ大統領の支持基盤である「レッドステート」を狙い、米国産のトラック、タバコ、アイスクリームなどに関税を課すことで、政治的圧力を強めている。

 対話の継続:​欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、「関税はビジネスにとって悪く、消費者にとってはさらに悪い」と述べ、対話を通じた解決を目指す姿勢を示している。 ​

 このように、トランプ政権の関税措置に対し、フランスは迅速な報復を主張し、ドイツは対話を重視するなど、EU内での対応方針に違いが見られる。​しかし、EU全体としては、報復措置と対話の両面から対応を進めており、米国との関係維持と自国経済の保護のバランスを取ることが求められている。

 ・イギリス

 関税の影響:​トランプ政権は、英国からの輸入品に対し、10%の基本関税と、車両や鉄鋼製品に対する25%の関税を課している。​

 交渉の進展:​英国の財務大臣レイチェル・リーブス氏は、米国の財務長官スコット・ベッセント氏と会談し、関税の緩和を求める交渉を行った。​

 EUとの関係重視:​リーブス氏は、EUとの貿易関係が「米国よりも重要である」と述べ、EUとの関係改善を優先している。​

 ・カナダ

 米国の関税措置:​2025年3月、トランプ政権は、カナダ産の鉄鋼・アルミニウム製品に25%の関税を課し、エネルギーや自動車部品にも関税を拡大した。​

 報復関税の導入:​カナダ政府は、米国からの輸入品約300億ドル相当に対し、25%の報復関税を導入した。​

 追加措置の検討:​カナダは、さらなる報復関税の可能性について、国民からの意見募集を開始し、追加措置を検討している。​

 これらの対応から、各国はトランプ政権の関税政策に対し、自国の経済的利益を守るため、戦略的かつ多角的な対応を取っていることが明らかである。

【寸評 完】

​【参考】

 ☞ 1930年のスムート・ホーリー

・スムート・ホーリー法(Smoot-Hawley Tariff Act)は、1930年にアメリカ合衆国で成立した高関税法であり、アメリカ経済史において非常に重要な転機となった出来事である。以下の点で特徴的であるる
 
 ・成立の背景: 1930年6月17日にアメリカ合衆国の大統領ハーバート・フーヴァーの署名により施行されたこの法案は、アメリカ経済が大恐慌(Great Depression)に見舞われていた時期に、国内産業の保護を目的として制定された。特に、農産物や製造業の保護を強化するために、輸入品に高い関税を課す内容であった。

 ・法案の内容: スムート・ホーリー法は、約20,000種類の輸入品に高い関税を課す内容であった。関税率は平均で約59%に達し、一部の商品にはそれを超える高率が設定された。例えば、鉄鋼や農産物(小麦、大豆など)に対しては特に高い関税が設定された。

 ・国際的な影響: この法案の制定は、アメリカ国内の産業を保護する一方で、世界中の貿易関係に深刻な影響を与えた。多くの貿易相手国が報復関税を導入し、世界的な貿易戦争に発展した。特に、アメリカと貿易関係が深い国々、例えばカナダ、イギリス、ドイツなどが強い反発を示し、報復措置を取ることで、世界的な貿易量が急激に減少した。

 ・経済的影響: スムート・ホーリー法は、世界的な貿易量の減少を引き起こし、世界恐慌の長期化を助長したとされている。この法案が直接的に恐慌を引き起こしたわけではないが、貿易の縮小が経済の回復を遅らせる要因となり、各国の経済状況を悪化させた。

 ・評価: 歴史的に見て、スムート・ホーリー法はアメリカおよび世界経済に悪影響を与えたと広く評価されている。多くの経済学者や歴史家は、この法案を「世界経済を悪化させた最も誤った政策」として批判している。今日でも、保護主義的な貿易政策がもたらす長期的な経済的損失の教訓として、この法案は引用されることが多い。

 ・スムート・ホーリー法は、アメリカが貿易において独自の利益を追求したものの、結果的には逆効果となり、国際的な協力を妨げる要因となった事例として、貿易政策の重要性とその影響を考える上での警鐘となっている。

【参考はブログ作成者が付記】

【引用・参照・底本】

China, Japan, Korea sense Trump trade war weakness ASIA TIMES 2025.04.25
https://asiatimes.com/2025/04/china-japan-korea-sense-trump-trade-war-weakness/?utm_source=The+Daily+Report&utm_campaign=5a8545fd58-DAILY_25_04_2025&utm_medium=email&utm_term=0_1f8bca137f-5a8545fd58-16242795&mc_cid=5a8545fd58&mc_eid=69a7d1ef3c#

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