『大東亞戰爭と時局』

戰ひは寧ろ今後にあります。我等國民は個々の戰勝に醉ふことなく、又個々の現象を憂ふることなく、愈々正氣を擴充して互に相倚り相扶け、内は荒怠を戒め、外は邪惡思想の滲透を防ぎ、必勝の確信の下に飽くまで獻身殉國を念とし、誓つて征戰の目的を貫徹せねばなりません。

　(1頁)
　序

　昭和十六年十二月八日、この日こそ日本國民が永久に忘れ得ない日である。アジア十億の民がアジアの運命決定の日として、また新しい歴史創生の日として、永遠に記憶する日である。
　暴慢、飽くなき米英に、斷然起つて戰を宣するや陸海空のわが精鋭は息もつかせず、廣茫果てしなき太平洋の萬波蹴つて敵軍基地を雪崩の如く襲ひ、僅かに二カ月餘にして、既に敵を壓し、その壯絶、その果敢なること、銃後にある一億國民誰一人として奮ひ起たないものはないのだ。
　畏くも宣戰の御詔勅を渙発せられたるは、上一人の大御心のほど拝察し奉るだにわれら渾心の勇をふるつて聖慮に應ひ奉る念を禁じ得ないのである。
　もとよりわれらはこの僻陬の地にあつても既に心は翕然として毫も揺ぎないものである。熾んなる哉、一大決戰の秋、今天地をどよもして打倒敵性諸國の多難なる道を決然驀進してゐるのである。此のときに當り猛撃奮迅のわが將兵戰闘記錄を永久不變の金字塔とし、更に現時の社會狀勢を克明に収錄し、これを刊行江湖に頒ち、もつて大東亞戰爭の永久記念の書としたいのである。
　　　　昭和十七年三月廿五日
　　　　　　　　　　　　　　　東北通信社長
　　　　　　　　　　　　　　　　　　移川　壽一

　(2-3頁)
　詔　　書　(昭和十六年十二月八日渙發) 2022.12.24

天佑ヲ保有シ萬世一系ノ皇祚ヲ踐メル大日本帝國天皇ハ昭ニ忠誠勇武ナル汝有衆ニ示ス
朕茲ニ米國及英國ニ對シテ戰ヲ宣ス朕カ陸海將兵ハ全力ヲ奮テ交戰ニ從事シ朕カ百僚有司ハ勵精職務ヲ奉行シ朕カ眾庶ハ各々其ノ本分ヲ盡シ億兆一心國家ノ總力ヲ擧ケテ征戰ノ目的ヲ達成スルニ遺算ナカラムコトヲ期セヨ
抑々東亞ノ安定ヲ確保シ以テ世界ノ平和ニ寄與スルハ丕顯ナル皇祖考丕承ナル皇考ノ作述セル遠猷ニシテ朕カ拳々措カサル所而ニシテ列國トノ交誼ヲ篤クシ萬邦共榮ヲ偕ニスルハ之亦帝國カ常ニ國交ノ要義ト爲ス所ナリ今ヤ不幸ニシテ米英兩國ト釁端ヲ開クニ至ル洵ニ已ムヲ得サルモノアリ豈朕カ志ナラムヤ中華民國政府曩ニ帝國ノ眞意ヲ解セス濫ニ事ヲ構ヘテ東亞ノ平和ヲ攪亂シ遂ニ帝國ヲシテ干戈ヲ執ルニ至ラシメ茲ニ四年有餘ヲ經タリ幸ニ國民政府更新スルアリ帝國ハ之ト善隣ノ誼ヲ結ヒ相提攜スルニ至レルモ重慶ニ殘存スル政權ハ米英ノ庇蔭ヲ恃ミテ兄弟尚未タ牆ニ相鬩クヲ悛メス米英兩國ハ殘存政權ヲ支援シテ東亞ノ禍亂ヲ助長シ平和ノ美名ニ匿レテ東洋制覇ノ非望ヲ逞ウセムトス剩ヘ興國ヲ誘ヒ帝國ノ周邊ニ於テ武備ヲ増強シテ我ニ挑戰シ更ニ帝國ノ平和的通商ニ有ラユル妨害ヲ與ヘ遂ニ經濟斷交ヲ敢テシ帝國ノ生存ニ重大ナル脅威ヲ加フ
朕ハ政府ヲシテ事態ヲ平和ノ裡ニ囘復セシメムトシ隠忍久シキニ彌リタルモ彼ハ毫モ交譲ノ精神ナク徒ニ時局ノ解決ヲ遷延セシメテ此ノ間却ツテ益々經濟上軍事上ノ脅威ヲ増大シ以テ我ヲ屈從セシメムトス斯ノ如クニシテ推移セムカ東亞安定ニ關スル帝國積年ノ努力ハ悉ク水泡ニ歸シ帝國ノ存立亦正ニ危殆ニ瀕セリ事既ニ此ニ至ル帝國ハ今ヤ自存自衛ノ爲蹶然起ツテ一切ノ障礙ヲ破砕スルノ外ナキナリ
皇祖皇宗ノ神靈上ニ在リ朕ハ汝有衆ノ忠誠勇武ニ信倚シ祖宗ノ恢弘シ速ニ禍根ヲ芟除シテ東亞永遠ノ平和ヲ確立シ以テ帝國ノ光榮ヲ保全センコトヲ期ス
　　
　　御名御璽
　　　　　　　　　　　　　昭和十六年十二月八日

　　　　　　　　　　　　　　内閣總理大臣兼内務大臣
　　　　　　　　　　　　　　陸軍大臣　　　　　　　　東條　英機
　　　　　　　　　　　　　　文部大臣　　　　　　　　橋田　邦彦
　　　　　　　　　　　　　　國務大臣　　　　　　　　鈴木　貞一
　　　　　　　　　　　　　　農林大臣兼拓務大臣　　　井野　碩哉
　　　　　　　　　　　　　　厚生大臣　　　　　　　　小泉　親彦
　　　　　　　　　　　　　　司法大臣　　　　　　　　岩村　通世
　　　　　　　　　　　　　　海軍大臣　　　　　　　　嶋田繁太郎
　　　　　　　　　　　　　　外務大臣　　　　　　　　東郷　茂徳
　　　　　　　　　　　　　　逓信大臣　　　　　　　　寺　島　健
　　　　　　　　　　　　　　大藏大臣　　　　　　　　賀屋　興宣
　　　　　　　　　　　　　　商工大臣　　　　　　　　岸　　信介
　　　　　　　　　　　　　　鐵道大臣　　　　　　　　八田　嘉明

　 (4－5頁)
　帝國政府聲明

　恭シク宣戰ノ大詔ヲ奉戴シ茲二中外ニ宣明ス。抑々東亞ノ安定ヲ確保シ、世界平和ニ貢献スルハ、帝國不動ノ國是ニシテ、列國トノ友諠ヲ敦クシ、此ノ國是ノ完遂ヲ圖ルハ、帝國ガ以テ國交ノ要義ト爲ス所ナリ。
　然ルニ、曩ニ中華民國ハ、我眞意ヲ解セズ、徒ラニ外力ヲ恃ンデ、帝國ニ挑戰シ來リ、支那事變ノ發生ヲ見ルニ至リタルガ、御稜威ノ下、皇軍ノ向フ所敵ナク、既ニ支那ハ、重要地點悉ク我手ニ歸シ、同憂具眼ノ士國民政府ヲ更新シテ帝國ハ之ト善隣ノ誼ヲ結ビ、友好列國ノ國民政府ヲ承認スルモノ已ニ十一ケ國ノ多キニ及ビ、今ヤ重慶政權ハ、奥地ニ殘存シテ無益ノ抗戰ヲ續クルニ過ギズ、然レドモ英米兩國ハ東亞ヲ永久ニ隷属的地位ニ置カントスル頑迷ナル態度ヲ改ムルヲ欲セズ、百方支那事變ノ収結ヲ妨碍シ、更ニ蘭印ヲ使嗾シ、佛印ヲ脅威シ、帝國ト泰國トノ親交ヲ裂カムガ爲、策動至ラザルナシ。仍チ帝國ト之等南方諸邦トノ間ニ共榮ノ關係ヲ増進セムトスル自然的要求ヲ阻害スルニ寧日ナシ。其ノ狀恰モ帝國ヲ敵視シ帝國ニ對スル計畫的攻撃ヲ實施シツツアルモノノ如ク、遂ニ無道ニモ經濟斷交ノ擧ニ出ヅルニ至レリ。凡ソ交戰關係ニ在ラザル國家間ニ於ケル經濟斷交ハ、武力ニ依ル挑戰ニ比スベキ敵對行爲ニシテ、ソレ自體默過シ得ザル所トス。然モ兩國ニ更ニ與國ヲ誘因シテ帝國ノ四邊ニ武力ヲ増強シ、帝國ノ存立ニ重大ナル脅威ヲ加フルニ至レリ。
　帝國政府ハ、太平洋ノ平和ヲ維持シ、以テ全人類ニ戰禍ノ波及スルヲ防止セムコトヲ顧念シ、叙上ノ如ク帝國ノ存立ト東亞ノ安定トニ對スル脅威ノ激甚ナルモノアルニ拘ラズ、隠忍自重八ケ月ノ久シキニ亙リ、米國トノ間ニ外交々渉ヲ重ネ、米國ト其ノ背後ニ在ル英國並ニ此等兩國ニ附和スル諸邦ノ反省ヲ求メ、帝國ノ生存ト權威トノ許ス限リ、互譲ノ精神ヲ以テ事態ノ平和的解決ニ努メ、盡ス可キヲ盡シ、爲ス可キヲ爲シタリ。然ルニ米國ハ、徒ラニ架空ノ原則ヲ弄シテ東亞ノ明々白々タル現實ヲ認メズ、其ノ物的勢力ヲ恃ミテ帝國ノ眞ノ國力ヲ悟ラズ、與國ト共ニ露ハニ武力ノ脅威ヲ増大シ、以テ帝國ヲ屈從シ得ベシトナス。斯クテ平和的手段ニ依リ、米國並ニ其ノ與國ニ對スル關係ヲ調整シ、相携ヘテ太平洋ノ平和ヲ維持セムトスル希望ト方途トハ全ク失ハレ、東亞ノ安定ト帝國ノ存立トハ方ニ危殆ニ瀕セリ。事茲ニ至ル。遂ニ米國及英國ニ對シ宣戰ノ大詔ハ渙發セラレタリ。聖旨ヲ奉體シテ洵ニ恐懼感激ニ堪ヘズ。我等臣民一億鐵石ノ團結ヲ以テ蹶起勇躍シ、國家ノ總力ヲ擧ゲテ征戰ノ事ニ從ヒ、以テ東亞ノ禍根ヲ永久ニ芟除シ聖旨ニ應ヘ奉ルベキノ秋ナリ。
　惟フニ世界萬邦ヲシテ各々其ノ處ヲ得シムルノ大詔ハ、炳トシテ日星ノ如シ。帝國ガ日満華三國ノ提携ニ依リ。共榮ノ實ヲ擧ゲ、進ンデ東亞興隆ノ基礎ヲ築カムトスル方針ハ、固ヨリ渝ル所ナク、又帝國ト志向ヲ同ジウスル獨伊兩國ト盟約シテ、世界平和ノ基調ヲ劃シ、新秩序ノ建設ニ邁進スルノ決意ハ、益々牢固タルモノアリ。而シテ、今次帝國ガ南方諸地域ニ對シ、新ニ行動ヲ起スノ已ムヲ得ザルニ至ル、何等其ノ住民ニ對シ敵意ヲ有スルモノニアラズ。只英米ノ暴政ヲ排除シテ東亞ヲ明朗本然ノ姿に復シ、相携ヘテ共榮ノ樂ヲ頒タント冀念スルニ外ナラズ。帝國ハ之等住民ガ、我ガ眞意ヲ諒解シ、帝國ト共ニ、東亞ノ新天地ニ新ナル發足ヲ期スヘキヲ信ジテ疑ハザルモノナリ。
　今ヤ皇国ノ隆替、東亞ノ興廢ハ此ノ一擧ニ懸レリ。全國民ハ今次征戰ノ淵源トニ深ク思ヲ致シ、苟モ驕ルコトナク、又怠タル事ナク、克ク竭シ克ク耐ヘ、以テ我等祖先ノ遺風ヲ顕彰シ、難關ニ逢フヤ必ズ國家興隆ノ基ヲ啓キシ我等祖先ノ赫々タル史積ヲ仰ギ、雄渾深遠ナル皇謨ノ翼賛ニ萬遺憾ナキヲ誓ヒ、進ンデ征戰ノ目的ヲ完遂シ、以テ聖慮ヲ永遠ニ安ンジ奉ラムコトヲ期セザルベカラズ。

引用・参照・底本

『大東亞戰爭と時局』 今田清藏 編纂兼發行人 昭和十七年三月二十七日發行 東北通信社

(国立国会図書館デジタルコレクション)