米國外交上の諸主義 概 説2023年01月19日 16:21

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 『米國外交上の諸主義』 法學博士 立作太郎 著

 (一-二頁)
 第一章 概 説       2023.01.19

 米國人は、外交に關係して、其國の主義として種々の主義を唱へるの國癖を有するのであつて(註)、是等の主義は時代に應じて隆替があり、其内容も亦外部の事態に應じて變更を受けるのであるが、是等の主義は又は其適用に關しては仔細なる考慮が行はれること無くして、是等の主義の名に魅せられる多數の米邦國人に依り追随さるることが屡々である。例へばモンロー主義の名に依り主張さるる所は、其内容に關して充分なる考慮を爲さずして、之を支持せんとするの態度を執らんとすることが屡々起こるのである。是等の主義中、國際法に直接に關係するものがあるも(例へば海洋自由主義、中立主義)、元來國際法に直接關係なき外交上の主張たりしものが後に至り國際法の原則として主張されるに至つたものもある(例へばモンロー主義、スティムソン主義)。筆者は本篇に於て米國人が外交關係に關して屡々唱へる所の孤立主義(又は離隔)、モンロー主義、中立主義、海洋自由主義、門戸開放主義、領土保全主義及スティムソン主義等に關して説かんと欲する。
 註 他國に於ても、例へば英國の曾て標榜した光輝的孤立主義(splendid isolation)又は佛國の第一次世界大戰後主張した安全保障(sécurité)の如き外交關係上の主義が主張されることがないではないが、米国國の如くに主義、原則を唱へる癖の著しい國民は稀であると言はねばならぬ。
 本篇は米國人の外交上の主義として主張する所を説くことを要旨と爲すのであるが、モンロー主義の場合の如く、米國の主義を亞米利加大陸の諸國間に特有なる共通の主義として唱へられる所が、同時に米國に依り自己の主義として主張さるることも有り得べきであるから、本篇中に於て別章を設けて、亞米利加大陸諸國の共通の主義と唱へられる所につき若干の考慮を行はんと欲するのである。

引用・参照・底本

『米國外交上の諸主義』立作太郎 著 昭和十七年七月五日第一冊發行 日本評論社

(国立国会図書館デジタルコレクション)