ギロチン興あり 他2023年01月26日 22:05

新鋳小判  3巻
 『雪嶺漫筆』 三宅雪嶺 著    

 (二-三頁より抜粋)

 ギロチン興あり           2023.01.26

 ▲曾てニューカレドニアの監獄を觀る、其の死刑の具は純乎たるギロチン的斷頭乃ち想ふべし我が移民幾百の中或は死刑に處せらるゝあらば、此れ即ち斷頭臺に登る者なり。等しく死刑に處せらる、斷頭臺に登る、稍〻興あらんか

 絞刑のシミツタレ
 
 ▲斬は首の離るゝ者、絞は首の離れざる者、首の離るゝは其の離れざるより惨なるが如し、而も踏臺一脱、ぶらりんこ下がり、鼻たらし、尿する所、随分シミツたれなり、覆面緊束して醜輙ち視られずと雖も、國亊に斃るゝ者の斯の若きザマなるは、寧ろ苦々しからずや。體形を全くするが爲には、絞よりも良方あり、絞は難有き刑に非ず。

 死刑の覺悟

 ▲豫め死を覺悟するも、死刑を言渡さるゝ時、大抵は胸どきつき、或は退かんとして歩を運ぶ能はざるに至ると云ふ、斯くして獄室に入り、明旦の刑塲を想うふ、必ずや悲痛に堪へざるあらん、覺悟の足らずして愧づべきをなりと雖、又普通の人情として看過すべからざるに非ず、此の若く悲痛に堪へざらんには、一層の事泣て泣て泣き明かすべし、強て縱容とたらんとして泣を抑ゆるよりも心
氣爽然、刑に隔て却て悠然として安ずるを得べし。然れども能く泣くを得ば、又能く笑ふを得べしとするか、且つ又眞に縱容たるを得べしとするか。

引用・参照・底本

『雪嶺漫筆』 三宅雪嶺 著 明治三十六年一月九日發行 吉川弘文館

(国立国会図書館デジタルコレクション)