WHO:「パンデミック条約」 ― 2025年04月16日 21:23
【概要】
世界保健機関(WHO)は2025年4月、感染症の世界的大流行(パンデミック)に備えるための新たな国際的な法的枠組みである「パンデミック条約」の制定に関して、加盟国間の交渉が妥結したと発表した。本条約は、2025年5月に開催予定のWHO総会において正式に採択される見通しである。
この条約は、将来的なパンデミックの予防、準備、対応能力の強化を目的としており、以下の主な要素が盛り込まれている。
・パンデミックの予防措置の推進
・医療製品の製造のための技術・知識・スキルの移転促進
・医療関連物資の世界的な供給網および物流ネットワークの整備
条約は、各国がパンデミック対応において主権を保持することを明記しており、条文には「いかなる条項も、WHOに対して締約国の国内法または政策を指示、命令、変更、あるいは規定する権限を与えるものとは解釈されない」と明記されている。これにより、WHOがワクチン接種の義務化やロックダウンの実施といった措置を加盟国に対して強制することはできない。
また、本会合にはWHOからの脱退を表明しているアメリカ合衆国の代表は出席しておらず、同国はこの条約にも参加しないとみられている。
【詳細】
今回、世界保健機関(WHO)が交渉妥結を発表した「パンデミック条約(Pandemic Agreement)」は、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による世界的危機を踏まえ、将来のパンデミックに備えるための国際的な対応強化を目的としているものである。条約の制定は、2021年以降、WHO主導のもとで複数回にわたり政府間交渉を重ねて進められてきたものであり、今回の合意はその過程における重要な進展である。
条約の目的と内容
この条約は、感染症が国境を越えて拡大する事態に備え、各国の協力体制を強化し、迅速かつ公平な対応を実現するための包括的な枠組みを定めるものである。主な条項の内容は以下の通りである。
1. パンデミックの予防措置
各国が日常的に行うべき公衆衛生体制の整備、監視体制の強化、動物由来感染症(ゾーノーシス)への監視、病原体の早期検出体制などが含まれる。また、病原体のゲノム配列や感染状況に関する情報を迅速に共有するための国際的枠組みも提案されている。
2. 医療製品の技術移転と能力強化
ワクチン、治療薬、検査キットなどの医療製品に関して、特許や製造ノウハウなどの技術・知識・スキルの移転を促進する条項が盛り込まれている。これは、パンデミック時に先進国と途上国の間で生じる医療資源の格差を是正し、すべての国が必要な対応をとれるようにすることを目的としている。
3. サプライチェーンと物流体制の強化
パンデミック時には国境封鎖や輸出規制などによって医療物資の流通が停滞することがあるため、これを避けるための国際的な物流ネットワークの整備と、緊急時の優先的な供給体制の構築が提案されている。
主権の尊重とWHOの権限の限定
本条約において特に重要なのは、各国の主権を明確に尊重する姿勢が条文に明記されている点である。すなわち、
「この協定案のいかなる条項も、WHOに加盟国の国内法または政策を指示、命令、変更、あるいは規定する権限を与えるものとは解釈されない」
とされており、WHOには各国に対して法的拘束力をもって特定の政策(たとえば、ワクチン接種の義務化、移動制限、ロックダウンなど)を強制する権限が一切与えられない。これにより、各国の憲法、法律、社会制度、政治体制に基づいた対応が妨げられないようになっている。
米国の不参加
条約交渉の最終段階において、米国政府は代表団を派遣せず、実質的に条約に関与しない立場をとっている。バイデン政権はかつてパンデミック条約の協議に積極的であったが、国内の政治的事情、とくに「WHOが米国の主権を侵害する」との批判を受け、議会や一部世論の反発を背景に方針を転換したとみられる。そのため、米国はこの条約の署名国には含まれない見通しである。
総会での採択
正式な条約採択は、2025年5月に予定されているWHO総会(World Health Assembly)において行われる。この場で加盟国の多数の支持を得て採択された場合、発効に向けた各国での批准手続きが進むこととなる。
評価
この条約は、パンデミック時の世界的な混乱と格差の是正を試みる初の本格的な国際的法的枠組みであると評価される一方で、その拘束力の弱さ、特にWHOの強制力の欠如や米国など主要国の不参加という制限も抱えている。それでも、今回の合意は国際社会が今後の健康危機に対し、一定の協調体制を築こうとしている重要な一歩であることに変わりはない。
【要点】
1.条約の背景と目的
・2020年の新型コロナウイルス感染拡大を契機に、将来のパンデミックへの備えを強化するために構想された。
・国境を越えた感染症に対する国際的な協調と対応体制の強化が目的。
2.主な条項内容
(1)パンデミックの予防措置
・感染症の早期探知・警戒体制の構築。
・動物由来感染症(ゾーノーシス)への監視強化。
・病原体の情報(例:ゲノム配列)の迅速な国際共有の促進。
(2)医療製品の技術移転と能力強化
・ワクチン、治療薬、検査キット等の技術・知識・スキルの移転を促進。
・途上国への生産能力支援を通じて医療資源の公平な分配を目指す。
(3)サプライチェーン・物流網の整備
・医療製品の安定供給のために、国際的な供給網を構築。
・輸出規制や流通停止を避けるための緊急時対応ルールを設定。
3.主権尊重とWHOの権限制限
・各国の主権を明確に尊重。
・条約文により、以下の点が明記された。
✅「いかなる条項も、WHOに国内法や政策を指示・命令・変更・規定する権限を与えない」
✅ワクチン接種の義務化、ロックダウンの実施などをWHOが各国に強制することはできない。
4.米国の不参加
・WHOからの脱退を表明している米国は本会合に代表を派遣せず。
・条約にも参加しない見通し。
・米国内の政治的事情(主権侵害への懸念や反WHO世論)が背景とされる。
5.今後の手続き
・2025年5月のWHO総会にて正式採択の予定。
・採択後、各国が国内手続を経て批准。
・発効には一定数の国による批准が必要とされる見込み。
5.総評
・国際保健体制の強化に向けた前進と評価される。
・一方、拘束力の弱さや主要国(米国)の不参加により、実効性には課題も残る。
【引用・参照・底本】
WHO加盟国、パンデミック条約締結交渉が妥結 ワクチン、ロックダウンは義務付けず sputnik 日本 2024.04.16
https://sputniknews.jp/20250416/who-19778591.html?rcmd_alg=collaboration2
世界保健機関(WHO)は2025年4月、感染症の世界的大流行(パンデミック)に備えるための新たな国際的な法的枠組みである「パンデミック条約」の制定に関して、加盟国間の交渉が妥結したと発表した。本条約は、2025年5月に開催予定のWHO総会において正式に採択される見通しである。
この条約は、将来的なパンデミックの予防、準備、対応能力の強化を目的としており、以下の主な要素が盛り込まれている。
・パンデミックの予防措置の推進
・医療製品の製造のための技術・知識・スキルの移転促進
・医療関連物資の世界的な供給網および物流ネットワークの整備
条約は、各国がパンデミック対応において主権を保持することを明記しており、条文には「いかなる条項も、WHOに対して締約国の国内法または政策を指示、命令、変更、あるいは規定する権限を与えるものとは解釈されない」と明記されている。これにより、WHOがワクチン接種の義務化やロックダウンの実施といった措置を加盟国に対して強制することはできない。
また、本会合にはWHOからの脱退を表明しているアメリカ合衆国の代表は出席しておらず、同国はこの条約にも参加しないとみられている。
【詳細】
今回、世界保健機関(WHO)が交渉妥結を発表した「パンデミック条約(Pandemic Agreement)」は、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による世界的危機を踏まえ、将来のパンデミックに備えるための国際的な対応強化を目的としているものである。条約の制定は、2021年以降、WHO主導のもとで複数回にわたり政府間交渉を重ねて進められてきたものであり、今回の合意はその過程における重要な進展である。
条約の目的と内容
この条約は、感染症が国境を越えて拡大する事態に備え、各国の協力体制を強化し、迅速かつ公平な対応を実現するための包括的な枠組みを定めるものである。主な条項の内容は以下の通りである。
1. パンデミックの予防措置
各国が日常的に行うべき公衆衛生体制の整備、監視体制の強化、動物由来感染症(ゾーノーシス)への監視、病原体の早期検出体制などが含まれる。また、病原体のゲノム配列や感染状況に関する情報を迅速に共有するための国際的枠組みも提案されている。
2. 医療製品の技術移転と能力強化
ワクチン、治療薬、検査キットなどの医療製品に関して、特許や製造ノウハウなどの技術・知識・スキルの移転を促進する条項が盛り込まれている。これは、パンデミック時に先進国と途上国の間で生じる医療資源の格差を是正し、すべての国が必要な対応をとれるようにすることを目的としている。
3. サプライチェーンと物流体制の強化
パンデミック時には国境封鎖や輸出規制などによって医療物資の流通が停滞することがあるため、これを避けるための国際的な物流ネットワークの整備と、緊急時の優先的な供給体制の構築が提案されている。
主権の尊重とWHOの権限の限定
本条約において特に重要なのは、各国の主権を明確に尊重する姿勢が条文に明記されている点である。すなわち、
「この協定案のいかなる条項も、WHOに加盟国の国内法または政策を指示、命令、変更、あるいは規定する権限を与えるものとは解釈されない」
とされており、WHOには各国に対して法的拘束力をもって特定の政策(たとえば、ワクチン接種の義務化、移動制限、ロックダウンなど)を強制する権限が一切与えられない。これにより、各国の憲法、法律、社会制度、政治体制に基づいた対応が妨げられないようになっている。
米国の不参加
条約交渉の最終段階において、米国政府は代表団を派遣せず、実質的に条約に関与しない立場をとっている。バイデン政権はかつてパンデミック条約の協議に積極的であったが、国内の政治的事情、とくに「WHOが米国の主権を侵害する」との批判を受け、議会や一部世論の反発を背景に方針を転換したとみられる。そのため、米国はこの条約の署名国には含まれない見通しである。
総会での採択
正式な条約採択は、2025年5月に予定されているWHO総会(World Health Assembly)において行われる。この場で加盟国の多数の支持を得て採択された場合、発効に向けた各国での批准手続きが進むこととなる。
評価
この条約は、パンデミック時の世界的な混乱と格差の是正を試みる初の本格的な国際的法的枠組みであると評価される一方で、その拘束力の弱さ、特にWHOの強制力の欠如や米国など主要国の不参加という制限も抱えている。それでも、今回の合意は国際社会が今後の健康危機に対し、一定の協調体制を築こうとしている重要な一歩であることに変わりはない。
【要点】
1.条約の背景と目的
・2020年の新型コロナウイルス感染拡大を契機に、将来のパンデミックへの備えを強化するために構想された。
・国境を越えた感染症に対する国際的な協調と対応体制の強化が目的。
2.主な条項内容
(1)パンデミックの予防措置
・感染症の早期探知・警戒体制の構築。
・動物由来感染症(ゾーノーシス)への監視強化。
・病原体の情報(例:ゲノム配列)の迅速な国際共有の促進。
(2)医療製品の技術移転と能力強化
・ワクチン、治療薬、検査キット等の技術・知識・スキルの移転を促進。
・途上国への生産能力支援を通じて医療資源の公平な分配を目指す。
(3)サプライチェーン・物流網の整備
・医療製品の安定供給のために、国際的な供給網を構築。
・輸出規制や流通停止を避けるための緊急時対応ルールを設定。
3.主権尊重とWHOの権限制限
・各国の主権を明確に尊重。
・条約文により、以下の点が明記された。
✅「いかなる条項も、WHOに国内法や政策を指示・命令・変更・規定する権限を与えない」
✅ワクチン接種の義務化、ロックダウンの実施などをWHOが各国に強制することはできない。
4.米国の不参加
・WHOからの脱退を表明している米国は本会合に代表を派遣せず。
・条約にも参加しない見通し。
・米国内の政治的事情(主権侵害への懸念や反WHO世論)が背景とされる。
5.今後の手続き
・2025年5月のWHO総会にて正式採択の予定。
・採択後、各国が国内手続を経て批准。
・発効には一定数の国による批准が必要とされる見込み。
5.総評
・国際保健体制の強化に向けた前進と評価される。
・一方、拘束力の弱さや主要国(米国)の不参加により、実効性には課題も残る。
【引用・参照・底本】
WHO加盟国、パンデミック条約締結交渉が妥結 ワクチン、ロックダウンは義務付けず sputnik 日本 2024.04.16
https://sputniknews.jp/20250416/who-19778591.html?rcmd_alg=collaboration2